品川駅東口に広がる超高層オフィスビル街。そこのとある企業の休憩コーナーで、若手女性社員のユカとアカリが何やら口論を繰り広げていた。

「アカリ!あなたこの間ヨシト君と食事に行ったんだって!?人の彼氏と食事に行くってどういうこと!?」
「どうってヨシト君と話してたら私と食事に行きたいって言うから一緒に行っただけだよ。もうユカの事なんて見てないんじゃないの?」
「なんでそんなこと言えるのよ!どうせあなたがヨシト君に変なこと言ったんでしょ!」

社内での女性同士の言い争いに、段々と周囲に居た社員達が不安そうな顔つきになるが止めに入ったりする者は誰もおらず、二人の言い合いはどんどん激しさを増していく。

「何と言おうとヨシト君の意思で私と一緒に行ったのに何が悪いのよ。ユカったら変な言いがかりは止めてよね!」
「うるさいこの泥棒猫!」
「なんですって!!許さない!」

ついにほとんど怒鳴り合いにまで発展したかと思ったのも束の間、突然2人の身体が爆発的に膨張し、会社が入居していた超高層ビルが内部からはじけ飛ぶようにして崩壊してしまった。周囲に飛び散った大小様々なビルのガレキがビルの谷間を歩いていた人々に襲い掛かり、大きなガレキに圧し潰されたり打ち所が悪かった多くの者達が犠牲になってしまう。なんとか死なずに済んだ者もみな大ケガを負い、超高層ビルの谷間の遊歩道は至る所に死者と重傷者が転がる惨劇の場に変貌してしまっていた。
周辺に居て生き残っていた人々や、もう少し離れた場所にいて難を逃れた人々が突然の轟音がした方向に向き直ると、周囲の超高層ビルよりも少し背の高いくらいの2人の巨大な女性が怒った顔で向かい合っていた。

「アカリ!あんたとは長い付き合いだけど彼氏にちょっかい出されて許したりはしないんだから!」

ユカはそう叫ぶと同時に背後にあった自分の背丈を少し下回る、と言っても140メートルはありそうな超高層ビルを両腕でしっかり抱きかかえたかと思うと、そのまま勢いよく頭上高く持ち上げてしまった。
一瞬にして上下逆さまにされた超高層ビルの内部にいた人々は、オフィス内のロッカーやら天井やらに体を強く打ち付けられてしまい、即死しなかった者も五体満足な者は誰一人としていない状態であった。

「ふざけんな!この!」

頭上高く逆さまに掲げた超高層ビルをアカリに向かって振り下ろすユカ。超高層ビルはアカリの身体に叩き付けられた瞬間勢いよく爆散してしまい、中でまだ辛うじて生き残っていた人々は全員絶命し、周囲で生存していた人々もガレキの激しいシャワーに耐えられるはずが無くことごとく命を落としていた。
だが、ユカの渾身の一撃を受けたアカリはケガ一つすることなくその場に堂々と立ち続けており、それどころか隣に建っていた別の超高層ビルをユカと同様に抱え上げてしまう。

「痛ったいわね!何すんのよ!」

超高層ビルを横倒しになるように抱え上げたアカリはぐるんと身体ごと回転することで、勢いを付けてユカへ超高層ビルを横から叩き付けた。ユカの身体と衝突した中層部分が爆砕され、切り離された下層階は勢いそのまま近くの高層ビル街と衝突して何棟ものビルを破壊してしまった。残った高層階はまだアカリが抱えていたが、最早武器として使えなくなった以上不要物と判断され地面に投げ捨てられたことで、やはりこの超高層ビルの中にいた人々も誰一人助かることはなかった。

「やったわね!」
「そっちこそ!」

お互いに手を出したことでいよいよ収まりが付かなくなった2人は、まだ周囲にあった超高層ビルを同じように次々と抱え上げては相手の身体に投げ付け合っていく。1回の攻撃ごとに超高層ビル1棟が犠牲になり、5千人規模の死者がとめどなく出続けていた。

「私が彼と付き合うまでにどんだけかかったと思ってんのよ!」
「ノロマなユカがいけないんでしょ!」
「アカリなんてどうせ色仕掛けでもしたんでしょ!」
「してないわよ!」

すぐ近くに手ごろな超高層ビルがなくなった2人は、今度は品川駅の駅ビルを踏み潰すとホームにいた電車を1編成まるごと掴み上げ乱暴に投げ付け合った。
山手線から新幹線まで目に付いた車両を鷲掴みにして相手に向かって投げ付け合うユカとアカリ。あっと言う間に電車を全て使い尽くしてしまい、品川駅にいた利用客のほぼ全てを犠牲にしてもなお興奮の収まらない2人は、今度は取っ組み合いの状態になってまだ争いを続けていた。

「アカリのバカ!」
「ユカだって人の事言えないでしょ!」

もみくちゃになった2人によってまだ生き残っていた品川駅東口の高層ビルが1棟また1棟と破壊され続け、ビルの中にいた人々と通りを逃げ惑う人々の犠牲が収まることはなかった。しまいにはお互いに相手を投げ飛ばそうとした結果、2人同時に横方向に倒れ込んでしまい、その時ちょうどすぐそばにあった品川のオフィスビル街の中でも新し目の超高層ビルと、戦闘ロボットのフォルムを思わせる特徴的な見た目の超高層ビルが巻き込まれて崩壊してしまった。
またも超高層ビルを含めてビル街が一気に破壊されたことで、1万人、2万人と一気に死亡者が増えていた。

「いったた…」
「ゲホゲホ!もう!なんなのよ!」

倒れ込んだ2人がふと周囲を見渡すと、先ほどまで立派な超高層ビルが建ち並んでいた品川駅東口のオフィスビル街は完全に壊滅しており、美しかった景観は一面見るも無残なガレキの山へと変わり果てていた。

「ねえ、はずみで巨大化しちゃったけどさ、会社の中で巨大化したからヨシト君も…」
「えっと…死んじゃったよね…」

ここに至ってようやく取り返しの付かない事態を引き起こしていたことに気付いた2人から、先ほどまでの興奮が急激に冷めていく。

「まあ、やっちゃったものはしょうがないよね。」
「そうだね。私達以外の人間なんていくらでもいるし、またいい人探せばいっか。」
「てか会社も潰しちゃったし、先に就職活動じゃない?私もアカリも無職で恋人探しは流石にね…」
「あはは、そうだよね。」

都心有数のオフィスビル街を1つ壊滅させ10万人単位の犠牲者を出しながら、実にあっさりと気持ちを切り替えた2人は新しい就職先についての相談を始めながら都心を練り歩き始めていた。

「次はどういう会社がいいかな?アパレルとかどう?」
「ユカったら自分の会社の最新作のモデルにでもなるの?まあ私達が巨大化したら映えるよね!」
「でもやっぱいい彼氏作りたいからそういうチャンスのあるとこがいいかな。」
「んー、テレビ局とか?なんなら女子アナになってタレントとの出会いのチャンスとかさ!」
「あーそれいいかも!てかニュース番組ってスタジオのでっかいモニターによく都心のビル街映すでしょ?あれ私達が外で巨大化して、それを直接撮った方が良くない?」
「いいねそれ!巨大美人女子アナ!」

自分達の次の就職先についてユカとアカリは話に花を咲かせ続けていたが、それを聞かされていた東京中のあらゆる企業の会社員と経営者達は、今も二人の会社探しで蹴散らされ、踏み潰されているビル街の惨状を見せ付けられながら、どうか自分の会社だけは選ばないでくれと必死で祈るばかりであった。

「でも都心の一等地にあるキレイなオフィスビル勤め。これは譲れないよねー。」
「そうそう。ボロいビルにあるような会社なんて絶対あり得ないし。」
「まあ、どこの企業だろうとまたいつもみたいに、そのビル踏み付けながら頼めば入社させてくれるよね。」
「てかユカと私の2人を落とすような会社なんて、その場で潰れればいいよ。」
「言えてる。」

そうして東京の街並みを蹴散らしながら歩き続けた2人は自分達の背丈を上回る、とある超高層ビルの前まで来るとさらに今の4倍程の大きさまで巨大化し、膝丈程の高さになった超高層ビルを上から見下ろしながら元気よく挨拶をするのであった。

「すみませーん!私達御社に入社希望なのですが、採用の責任者の方をお願いしまーす。」