「そ、それでは次は品川のオフィスビル街壊滅関連のニュースです。現場のアカリアナお願い致します。」
「こちら現場のアカリです。見て下さい!一面ガレキの山と化しています!」

先日ちょっとしたはずみで巨大化し品川のオフィスビル街を壊滅させ、勤務していた会社も文字通り潰してしまったユカとアカリ。2人はその後汐留に本社屋を構えるテレビ局に就職し、本人達の希望でアカリは報道番組の女子アナ、ユカはその番組のプロデューサーになっていた。

「現場はこの様にガレキが散乱し未だ危険な状態のため救助関係者以外は立ち入り禁止の状態となっております。私はこのように巨大化することで安全を確保しているため、特別に中に入ることを許されております。」

全国のお茶の間には立ち入り禁止区域外から撮影されている品川の元オフィスビル街の惨状と、それを踏みしめてリポートを行う超高層ビル並みの大きさの巨大女子アナと化しているアカリの姿が映し出されていた。

「何棟もの超高層ビルが破壊し尽くされ品川駅も居合わせていた車両毎壊滅してしまったことから、犠牲になられた方の数は10万名を超えるとみられておりますが、遺体の発見と確認は困難を極めているとのことで、被害の全貌は未だ判明しておりません。一日も早い復興を祈るばかりです。では現場からお伝え致しました。」
「ア、アカリアナの中継でした。アカリアナありがとうございました…」

現場での中継を終えたアカリが汐留の本社屋に戻って休憩をしていると、プロデューサー会議を終えたばかりのユカが声をかけて来た。

「アカリお疲れ!さっきのリポートもすっごく良かったよ!」
「まあね!巨大美人女子アナのリポートだもん!注目度抜群でしょ!」
「でも聞いてよアカリ!やっぱテレビ局って数字数字うるさいみたいだねー。さっきの会議でもそういう話ばっかでさ!」
「あらら、プロデューサーさんも大変だねー。どんな話だったの?」
「それがさー。」


・・・


「えー、という訳でこちらが最新の報道番組枠の各局の視聴率です。当局も善戦しておりますが、1位は依然奪還出来ておりません。」

2人が勤めるテレビ局のお偉方が出席する会議では視聴率を基にした報告が行われていたが、その場に出席する唯一の20代社員のユカは退屈そうに話を聞いていた。

「そ、それでは今後の施策ですが皆さんの案をお聞かせ頂けますでしょうか。」

進行役の社員が非常に緊張した面持ちで出席者に意見を求めたところ、何やら閃いたという顔をしているユカが、いの一番に口を開いた。

「思ったんですけど報道番組って言ったらやっぱりスクープを抑えることですよね!でしたら私の番組にお任せいただけませんか!?」
「え、えーと、確かにそれは非常に大切なことですが、急に視聴率1位を取るのも大変ですし、何よりユカさんはまだ番組を持ったばかりでしょう。我々も責めている訳ではありませんので、他の報道番組のプロデューサー達とも協力してですね。」
「大丈夫ですよ。私、秘策を思い付きましたので!どうぞ皆さん大船に乗ったつもりでいて下さい!」
「そ、そうですか。くれぐれも無理はされないで下さいね。」
プロデューサー達を統括する役員がユカをなだめるが、ユカは自信満々といった顔つきで会議室を去って行った。


・・・


「という訳で、アカリ。あなたにはとっておきのスクープをお願いするわ。」
「ちょっとユカ、何無責任なこと言ってるのよ。スクープをお願いって言われて撮れるもんじゃないでしょ。」
「大丈夫よ、ちょっと耳貸して。」
「ふんふん、あーなるほどね!それなら良さそう!」
「でしょ!?後で企画送っとくから!じゃあ明日は私、有休取るからよろしく!」


翌日、東京ビッグサイトでは半年に一度、1日で20万人近くの人が来場する世界最大規模の同人誌即売会であるコミックマーケットが開催されていた。アニメ・マンガ文化の祭典である会場にはコスプレイヤーも大勢集まっており、屋上のコスプレ広場は様々な作品のレイヤー達とそれを取り囲む大勢の人達で溢れ返っていた。

「ん、おいあれ!スッゲー美人だよ!」
「おおー!完成度ヤバい子だなぁ。」

多くのレイヤー達の中で、とある艦船擬人化ゲームのキャラのコスプレをしたレイヤーが、ひと際来場者達の目を釘付けにしていた。

「なんて子かなー。お前知ってる?」
「いや、昨日SNSでチェックした中では見かけてないな。」
「お前でも知らない子なのかよ。でも何か見たことあるような子の気もするんだよな。」

銀髪のウィッグを被り、赤い金属パーツを頭に付けてすっかりキャラになりきったその子の周りには囲みが出来ており、会場でも注目の的となっていた。カメコ達のリクエストに応えてポーズを取るその子の際どい衣装からは横乳がチラリと見えており、綺麗な太ももの上を走るガーターベルトは何とも言えない色っぽさを演出していた。

「Twitter見たけど、誰なのか情報出て来ないな。」
「右胸の付けぼくろと言い、完璧だなぁ。」

周囲にいる誰もがその子に目を奪われていたが、その子は突如衣装の袖をまくると、身に付けていたコスプレをしているキャラモデルの腕時計の時間を確認して何やら頷くと、周囲のカメコ達へとびきりの笑顔を振りまいてみせた。周囲から思わず歓声が上がったかと思いきや、その直後何の前触れもなくその子の身体が一瞬で巨大化したことで、周囲に居た人々は何が起こったのか認識する間もなく吹き飛ばされ、建物の崩落に巻き込まれていった。


「皆さんご覧下さい。私は今、国際展示場駅近くの広場に来ております。東京ビッグサイトへ向かう人でいっぱいです!」

前日ユカから送られた今日のリポート企画として、コミケ会場周辺の人だかりを撮影していたアカリと撮影班達。昨日の様に撮影場所が危険区域でもないため、アカリは巨大化したりはせずに普通に中継を行っていた。

「それにしても凄い人の波です。みなさんのお目当てはアニメ作品などの同人誌といったグッズなのですが、きゃあ!」

普通にリポートを行っていたアカリであるが、突如ビッグサイトの方から凄まじい轟音がしたため驚きの声を上げた。

「た、大変です。突然ビッグサイトに巨大な、あれはアニメのキャラクターでしょうか?コスプレをしたと思しき巨大な女性が現れました!」

アカリが指を指す方向には、ビッグサイトの特徴的な逆三角形の会議棟が膝を隠すくらいの大きさの、つい先ほどまでコミケ会場のコスプレ広場で注目の的であったレイヤーが会場の建物を踏みしめて立っていた。

「これは大変なことになりました。会場には多くの人が詰めかけているはずですが、ああっ、巨大な女性によってビッグサイトの逆三角形の建物が踏み潰されましたっ。」

突如出現した巨大レイヤーによってビッグサイトが破壊されていく様子をアカリが実況しているが、周囲で発生している大パニックに対して、なぜか落ち着いた様子でリポートを続けていた。

「巨大な女性はこちらの方向ではなく私の左手の方向へ進んでいます。あっ、あの場所は確か展示棟があるはずですっ。ああっ、女性が展示棟のある辺りで足を高く掲げては何度も踏み潰していますっ。」

展示棟内はサークル参加者と一般参加者ですれ違うのも一苦労するほど埋め尽くされていたが、突如轟音がして会場内にざわめきが走ったのも束の間、展示棟の屋根を突き破って巨大な黒い脚が押し入って来た。人で埋め尽くされていたことが災いし、一瞬で何百人もの犠牲者が出てしまう。それを皮切りに会場内は大パニックが発生し誰もが我先にと出口へ押し寄せようとするが、出口付近でもすぐに将棋倒しが発生し、倒れた人でいっぱいとなった出口からの脱出はとても出来そうになくなってしまった。

「ひいいい!」
「助けてー!!」
「どけよ!どけって!!」

会場内の誰もが突如襲ってきた命の危機に対して、死にたくない思いで叫び、悲鳴を上げるが巨大な脚は一度高く上がったかと思うと再度別の場所から屋根を突き破り、またも会場内を埋め尽くす大勢の人達をまとめて踏み潰してしまった。
それが何度も何度も繰り返されることで、元々赤を基調とした金属で出来たように見える靴が踏み潰された人々の血でさらに真っ赤に染め上げられていった。
巨大レイヤーの踏み潰しによる破壊と殺戮は止むことがなかったが、広い会場を全て踏み潰すのは面倒に思ったのか、踏み潰した後に脚を横に薙ぎ払うように移動させ始めたことで、犠牲者の増える速度が更に増していった。

「あっ、巨大な女性が脚を横薙ぎに動かしていますっ。会場内に居る方々の安否が気遣われます。あっ、今度は脚を掻き回すように動かし始めましたっ。会場の人々が何とか避難できることを祈ります。」

先程までの普通のリポートが一変、世紀の大破壊と殺戮の生中継となってしまったが、アカリはどこかズレたようなことを言いながらリポートを続けていた。

「東京ビッグサイトの建物は最早完全に破壊されてしまったようですっ。これは映画ではありません。生中継の映像です。」

それこそパニックムービーの登場人物がよく言いそうな台詞を述べながら中継を続けるアカリ。一方コミケ会場を蹂躙し尽くした巨大レイヤーは別の方角へ向き直るとニヤリとしながら移動を始めた。

「巨大な女性は有明駅の方向へ向かっている様です。あっ、大変です。女性の向かう先に病院があります。このままでは病院が破壊され大惨事にっ、あー、女性の脚が病院の建物を蹴飛ばしてしまいましたっ。病院は真ん中の部分が蹴り壊されて無残な姿になっていますっ。患者さん達は無事でしょうかっ。」

どう考えても蹴り壊された病棟の患者の生存は絶望的であるが、またもズレたようなリポートを続けるアカリ。そうしている間にも巨大レイヤーは移動を続けていた。

「見て下さい。巨大な女性の目の前にタワーマンションが見えて来ました。女性の大きさはタワーマンションと同じくらいあります。なんと巨大なのでしょう。」

タワーマンションの前にあった高速道路を通行中の車ごと蹴散らして破壊した巨大レイヤー。さらに破壊活動を続けるのかと思われたが、周囲には自分の背丈と同じくらいの巨大建築物が林立しており、何やら破壊するのが面倒そうな顔つきになっていた。すると巨大レイヤーは何かを思い付いたようで、何やら不敵な笑みを浮かべたかと思うと、さらにグンと巨大化してしまった。

「わー大変です。女性がさらに大きくなってしまいました。タワーマンションが女性の膝の高さくらいにしか届いていませんっ。」

女性レイヤーは更に巨大化すると、随分と貧相に見えるようになったタワーマンション群に向けて脚を振りかぶり、黒ニーソに覆われたそれを叩き付け蹴り飛ばしてしまった。

「うわーうわー。タワーマンションが一瞬で破壊されましたっ。あー、周りのタワーマンションも次々蹴散らされていますー。住民の方は逃げられたのでしょうかっ。それにしてもあのガーターベルトと言い、大きく露出したふとももと言い、とてもセクシーな女性ですね〜。」

女性レイヤーが更に巨大化したことで破壊力が更に増していたが、それとは反比例するかのようにアカリのリポートは気が抜けた様なものになっていた。

「タワーマンションを破壊した巨大な女性はまた移動を始めましたっ。あー、有明コロシアムが踏み潰されています。たった一踏みでぺしゃんこですっ。すごい破壊力ですねー。」

リポートを見ている視聴者達には、巨大レイヤーが引き起こしている街の大破壊による地獄絵図の映像と、アカリの緊張感の無いリポート音声と言うおかしなギャップのある生中継が届けられていたが、ほとんどの視聴者達は今も繰り広げられている大惨事の映像に釘付けであった。

「巨大な女性が今度はお台場の方向に向かっていますっ。お台場のみなさん、今すぐ逃げて下さいっ。命を守る行動をっ。」

もっともらしい事を言うアカリであるが、スカイツリー並みの大きさになって向かって来る巨大レイヤーから逃げろと言われても、到底無理な話であった。

「お台場の美しい街並みがどんどん破壊されていますっ。いったい何万人の方が犠牲になっていくのでしょうか。それにしても美しい女性です。脚だけでも超高層ビルの様に巨大で神々しささえ感じます。そんな女性の美脚が建ち並んでいる超高層ビルを次々と蹴散らしてしまいました。あっ、あそこにあるのはテレビ局の社屋ですっ。あ、女性が脚を大きく上げてっ。あ~、テレビ局までもが踏み潰されました〜。しかも何度も踏み躙って徹底的に破壊していますっ。同じ報道に携わるものとして胸の痛い光景ですっ。」

キレイな銀髪をなびかせながら、何故かテレビ局社屋は跡形も残らないほど執拗に踏み躙った巨大レイヤーは、レインボーブリッジの方角に向き直ると今度は東京湾を横断し始めた。

「お台場を破壊した巨大な女性は東京湾を渡っています。あ、レインボーブリッジが蹴り飛ばされましたっ。ゆりかもめの車両が空を舞っていますっ。今の見えましたか?」

レインボーブリッジを破壊して進み続ける巨大レイヤー、その目の前には都心の超高層ビル群が広がっていた。

「巨大な女性が東京湾を渡り切ってしまいました。東京の街はどうなってしまうのでしょうかっ。今日で東京は壊滅してしまうのでしょうかっ。まさかアニメのキャラクターによって東京が蹂躙される日が来るなんて誰が想像したでしょう。」

ついに東京湾を横断した巨大レイヤーは、足元にあった竹芝地区の高層ビルを蹴散らすと、緑地となっている浜離宮庭園を踏みしめながら汐留の超高層ビル群を腰を大きく屈めた体制で見下ろした。テレビを見ていた人達も、先ほどから東京の街を襲っている轟音と振動で巨大レイヤーの存在に気付いた東京にいるほぼ全ての人達も、誰もがこのまま東京中がめちゃめちゃにされると思い大パニックが発生していたが、巨大レイヤーはニコっと笑顔を浮かべたかと思うと突然姿を消してしまったのであった。

「あれっ、巨大な女性の姿が突然見えなくなりました。一体どこへ行ってしまったのでしょう。なんだかよく分かりませんが、東京は救われたようですっ。生き残れた都民の皆さん、良かったですね!」

最後まで緊張感の無いアカリのリポートが続いたが、とにかく東京が壊滅する危機は去ったようであった。もっとも、巨大レイヤーの破壊活動によって、ユカとアカリが品川を壊滅させた際に出した死者数を上回る数の人々が犠牲になっていたが。


・・・


「えー、という訳でこちらが最新の報道番組枠の各局の視聴率です。皆さんご存じの通り、先週発生した有明・お台場を中心とした地域が巨大なコスプレイヤーと思われる女性によって壊滅した一件を当局のカメラクルーが生中継できたこともあり、1位を奪還しております…」
「どうですか皆さん!私の番組がぶっちぎりで数字を叩き出しましたよ!」
「え、えー。素晴らしい成果ですね。皆さんユカプロデューサーを称えましょう…」

ユカに対して出席者全員から盛大な拍手が送られたが、おめでたい場であるにも関わらず拍手をする出席者達の顔は引きつっていた。そんな中ユカ一人だけがドヤ顔を決めて満足そうにしていた。
会議が終わり休憩室へそそくさと向かうユカ。会議室にある大型スクリーンには、各局の視聴率の推移を示す折れ線グラフが表示されており自社の数値が1位になったことが示されていた。そして先週まで1位だった他局の数値は、今週分からは表示されなくなっていた。


・・・


「アカリ、先週の大スクープ、さっきの会議で大絶賛だったよ!」
「やったね!ユカの企画通りコミケの取材してたらどういう訳か大スクープの場に出くわしちゃうなんて、ユカも私も何か持ってるのかな!?スマホゲームの人気キャラが巨大化して、人でいっぱいのコミケ会場や周りの街をめちゃくちゃに破壊しちゃうなんて、超映える映像だよねー。あ、そう言えばあの日ユカは有休取ってコミケ行ってたのに、よく無事だったよねー。」
「全部私達の日頃の行いがいいからよ。」
「やっぱそうだよねー。今回だって局に大貢献だもんね!」
「そう言えば、有明・お台場を破壊してた巨大美人レイヤーさんだけど、あの時アカリが巨大化して止めてたら被害はもう少し小さくて済んだんじゃないの?私達がつい巨大化して品川を壊滅させちゃった時よりも凄い被害になったみたいだし。」
「いくら巨大化できても私は女子アナなのよ。報道機関は事件や災害を伝えることはできても、救助したりはできないものじゃないの。」
「そう言えばそうだった。私も報道に携わる前までは見てないで助けなさいよね!とか思ってたけど事実をお伝えするのが私達の今の仕事だもんね!」

談笑を終えた2人はそれぞれの仕事場へ戻っていく。アカリは破壊されたビッグサイト跡地の現地リポートへ向かい、それを企画したユカは明日以降のアカリがリポート中継する場所決めを、左腕の赤がベースの変わったデザインをした文字盤の腕時計をチラリと見ながら上機嫌で行っていた。


「そ、それでは次は有明・お台場壊滅関連のニュースです。現場のアカリアナお願い致します。」
「こちら現場のアカリです。私の足元を見て下さい!一面真っ赤に染まったガレキで埋め尽くされています!」