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街を歩けば、誰しもがハンナの方を振り向き、そして驚愕する。
ハンナは頬を赤くし背中を丸め、俯きながら足早に去ろうとする。
なぜ、人々は彼女をそんなに凝視するのだろうか。
その理由は、ハンナ自身が誰よりも良く知っていた。
そして、それがどうしようもないということを再確認し、ハンナはため息をついた。
叶うことなら、一日中部屋にいたい、外に出たくない。
ハンナはそれをただひたすら願った。
毎日毎日学校へ通う必要はなかった。
何日かに1回くらい休んでも良かった。
しかしハンナの両親は、娘が人と触れ合うことは良いことだと思い、ハンナを毎日学校に行かせた。
ハンナは、それに強く反対した。しかし結局、ハンナは毎日学校に通い、
教室に行くため、大勢の生徒の波に大股で割り入り、廊下を通り抜けるのだ。
唯一の救いは、ロッカーが一番上にあることである。
教科書を交換するために、体を低く低くかがませる必要がない。
しかし、救いは本当にそれだけであった。
そんなハンナも、現在は最上級生である。
あと、たったの2週間でこの学校を卒業し、日々の地獄から解放されるのだ。
ハンナを知っている人であれば、ハンナのような子がいじめられているとは信じられないだろう。
しかし、ハンナは非常に『特殊』なのである。
学校に1人はいるような、浮いた変わった人と比較しても、ハンナは、非常に非常に変な子なのである。
生まれた時から変であったわけではない。身長48cm、体重4000gの、普通の赤ちゃんであった。
しかし将来、このハンナは世界一の大巨人にまで成長するのだ。
しかしこの時点では、誰もこのような未来を予測できなかった――
***
1歳の時の身長は107cm。他の子よりも少しだけ大きい程度であった。
しかし3歳で身長は150cmを超え、体重は40kgとなった。
6歳の時には両親の身長(170cmと178cm)を追い越して187cmとなった。
心配になった両親はハンナを病院に連れていったが、何も悪いところは見つからなかった。
ただ、非常に背が高く、非常に成長が速いだけだった。
当時の医者は、このハンナの凄まじい成長に対して、もうすぐ止まるだろうと診断を下した。
しかし結局、それは全くの間違いであった。
10歳、普通の子は公園で遊んだり、自転車に乗ったりする頃、
ハンナは208cm、79kgにまで成長していた。
ハンナは1年に5cm程度の割合で成長し続けた。
この身長を活かしてバスケットボールをしようとも思ったが同学年とのチームプライは禁じられてしまった。
理由は言わずもがな、ハンナが大きすぎて、危険だからである。
そして順調に大台の7フィートを突破。
さらに13歳の時には、1年に13cmも伸びて231cm、132kgに達した。
そしてこの頃、胸も体の成長と同様の凄まじき成長を始めたのだ。
そんなハンナを、男はあの手この手でさり気なく触れようとし、両親はそれに胸を痛めた。
教師はできる限りハンナを助けようと思った。
しかし、8フィート近くあり、しかも思春期で毎晩毎晩成長しているような子を、どうやって人目から遠ざけることができるだろうか。
かつて仲がよく、優しかった友人の女の子も、成長するにつれ、嫉妬深く、意地悪になった。
そして同時に、大半の男の子は、ハンナに対して、特別な感情を抱き始めていた。
15歳の時、ハンナはついに同学年の少女たちと共にバスケットボールをすることが許可された。
しかし彼女の巨大な身長と体重は、動きを遅くし、激しい痛みをも与えたのだ。
そのためハンナはバスケットボールを満喫することはできなかった。
そしてハンナはさらにさらに成長を続け、夏には8フィートをついに突破。
そして現在、ハンナは18歳である。
学校の全てのドアは屈まなくては入れず、一番下にあるロッカーを使うときは一種の試練である。
そして、あと数週間で卒業する。
その時ハンナは、260cmの巨体でもって、ステージの上を歩くのだ。
ハンナにとっての一番の問題は、ハンナの持ち前の可愛らしさであった。
異常に高い身長にも関わらず、ハンナの体は均整が取れ、ただの、背の高い普通の少女であった。
自分より60cm以上背の高いハンナに脅されればたいていの男子はおとなしくなった。
しかし女子は相変わらず、ハンナを差別的に扱った。
ハンナの容姿は非常に恵まれており、実際に言い寄る者はいなかったが、
男子たちはハンナのことを魅力的に見ていたためであった。
以前、ハンナは色々な医者に、この特殊な体を診察してもらったことがある。
自分の体がどうなっているのか、いつ成長が止まるのかを知りたかった。
しかし医者は、ハンナの期待に応えることはできなかった。
腫瘍といったものは見つからない、
しかしなぜか成長ホルモンが異常に大量に分泌されており、成長が終わる気配が全くしない。
医者は、ハンナが今までのように成長を続けるということを、非常に心配していた。
もし成長を続ければ、ハンナの健康に致命的な打撃を与えることは必至である。
実際、今の彼女の身長では、まともに言葉を話すことは、普通できないのだ。
***
ハンナは重い足取りで教室に入り、教師用の机の上に座り、最後の授業を受ける。
ハンナにとって、普通の生徒用の、一体型の机はあまりに窮屈であった。
よってこの、セパレート型の机に普段から座っていた。
今受けているのは、理科の授業である。
ハンナは数年前に、科学というものに深い感動を受けてからは理科の授業が好きであった。
しかし今日はそうではなかった。早く終わってほしかった。
終わったらすぐに教室を出て、トラックで家に帰りたかった。
ハンナは非常に大きいので、大型トラックの前席を取っ払い足の入るスペースを確保して運転していた。
理由が何であれ、ハンナは毎日、他人からの視線を感じて生活している。
ハンナはそれを不快に思っていた。
彼女は、卒業記念パーティに行かないということを少しだけ悔やんでいた。
しかし、誰も彼女を誘わないだろう、そして彼女は決して1人では行かないだろう。
ハンナは以前に一度だけ、学校のダンスパーティに行ったことがある。
それは、彼女の成長がとても安定していた、14歳のことである。
当時、ハンナは身長が1インチしか伸びず、体重は変わらず、まだ233cm、131kgであった。
ハンナは1人でダンスパーティに行った。
当時は、クラスメートはまだ優しく、ハンナは友人たちとダンスを楽しもうと思っていた。
ハンナはダンスを楽しんだ。
しかしパーティの大半の時間を、かろうじて胸に届くくらいの背丈の男子と共に過ごすことになった。
男子は脚や尻のあたりをいやらしく触ってきた。
そこに、マーティン・クレストという、よく気が利き、思いやりにあふれた完璧なジェントルマンが、
ハンナを1人で外に連れ出した。
ハンナとマーティは、2人きりで机を囲み、
マーティンは机の上に立ってハンナと顔を合わせ、
ハンナに甘い言葉をかけた。
ハンナはうっとりと、それに聞き入った。そして2人はキスをした。
素敵な男の子だ。ハンナはマーティンに対し、そう思った。
しかし、マーティンは単に、ハンナの胸を揉みたいだけだったのだ。
ハンナとキスをしたマーティンは興奮を抑えきれず、ハンナの服を脱がせ、セックスをしようとした。
最終的には、ハンナはマーティンを付き放し、逃亡し、両親が迎えに来るまで隠れていた。
ハンナは大きく、そして強い。
しかし人を疑うことを知らず、傷つきやすかった。
自分に言い寄る人が嫌だった。
ハンナは、自分が高校卒業後にどういう人生を歩むのかは分からない。
ただ、できるだけ早く成長が止まり、多少なりとも普通の生活を送りたかった。
今は2ヶ月ほどで小さくなってしまう衣服や靴を、長く使い続けることができることを切実に願っていた――
***
長い長い授業が終わり、ハンナは足早に学校を去る。
意地悪なクラスメートに囲まれた日々もこれでおさらば。
ハンナは足早に教室を出ていき、駐車場に行き、
リュックを大型トラックの運転席に投げ入れ、運転席まで登り、エンジンをかけ、足早に駐車場から去った。
トラックを運転し、15分程度でハンナは家に着く。
両親はまだ帰ってきていない。いつものことである。
普段から、両親は彼女の後に帰ってくる。
ハンナは持ち物を、彼女専用の巨大な自室まで運び、床に置き、
部屋と同様に巨大なベッドの上に寝転んだ。
膝が痛い。ハンナはそう、感じた。
ハンナは日々、生まれてから今まで成長痛を感じている。
脚、腕、背中に成長痛のない気分をというものを、ハンナは知らない。
しかしこの時は、何かが違っていた。
ハンナの成長は、今まで以上に激しくなっていたのだ。
成長ホルモンがさらに大量に分泌され、医者もそれを不審に思っていた。
プチン、プチプチ。
ズボンのボタンがはじけ飛び、ブラジャーのホックが取れた。
それを皮切りに、脚がグングンと伸び、ハンナはうめき声をあげた。
どんどん、体が大きくなっていった。
脚は伸び、尻と腰は広くなり、胴体は長く成長した。
ただでさえ長かった腕と指は一層長くなった。
胸は風船のように膨らみ、Tシャツを引き裂いた。
肩幅は広く、首は長くなった。
体重も、成長に比例してどんどん増えていった。
この急成長が止まった時、ハンナは305cm、204kgに達していた。
ハンナは、あまりに急なことに、不安で不安でパニックを起こしそうになった。
ベッドはすでに、ハンナの重さでペシャンコに潰れていた。
成長が収まると、ハンナはすぐに、脚を起こして立ち上がろうとした。
しかし天井に頭をぶつけ、まっすぐ立つことはできなかった。
そして外に出ようと、ドアをくぐろうとしたが、ドアの幅はハンナの肩よりも狭く、
またドアノブが小さすぎてつかむことができなかった。
ハンナは焦り、ドアを手で叩いてぶち開けた。
ハンナの力はそれほどまでに強大なものになっており、自分でもそれに驚いた。
ハンナは無理やり部屋を出てリビングへ向かい、
母に電話をしようと携帯電話を手に取った。
しかし手が大きすぎて、ダイヤルのボタンがうまく押せない。
辺りを見渡し、そばにあったペンを手に取り、それでボタンを押して母に電話をかける。
ルルルルルル。仕事中の母を呼び出すのは気が進まなかった。しかし緊急事態であった。