画期的なダイエット法
原作:macromega/翻訳:tinky44

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以下は、ポール・アハーン博士がボイスレコーダーに吹き込んだ研究日誌を書き起こしたものである。

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2011/10/5(水)
我々の開発した新種のウィルスの人体実験の許可が降りた。このウィルスは、人々の健康維持に非常に役に立つことが期待されている。
肥満のいわば特効薬であり、同時に世紀の大発明である。

このウィルス、識別番号R-4572-B、は数多くの動物実験において素晴らしい成果を上げている。
太りすぎた動物に感染すると、ウィルスは脂肪を骨や筋肉に変換する。
結果その動物は成長し、最初の体重が、体長相当の体重になるまで体が大きくなる。
また、普通の体重の動物に感染した場合は全くの無害無益に終わることが実験で明らかとなっている。

このウィルスは通称、「アンダートール・ウィルス(Undertall Virus)」と呼ばれている。これは、研究所の同僚ジェシカ・エゴルフによって命名された。
由来は、90年代に流行ったジョークだ。"I'm not over weight; I'm undertall."
「僕はデブなんかじゃない、体重の割に身長が低すぎるだけなんだ」、というやつだ。

皮肉にも、命名者のジェシカ自身がそういう人であった。身長151.1cmにして、体重は90kgオーバー。
ウィルスをよく知らない人にとっては、エゴルフ博士は理想的な被験体のように思えるだろう。
しかし、彼女の場合はあまりに極端なのだ。人体実験において、極端すぎる被験体は対象にはならない。
女性に限って言えば、身長は157cm以上、体重は90kg未満が理想だ。身長に対する適正体重の、最低でもプラス10%くらいは太っていてほしいが。
これ以上の肥満体の実験は、後日行うことにする。
明日、被験体の選別に入る。

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2011/10/6(木)
被験体が決定した。男女ともに50名が被験体として選ばれた。
驚いたことに、はじめエゴルフ博士も被験体として選ばれたのだ。しかし博士自身、自分は不適切であるとして辞退を申し出た。
その後の健康診断でも不適切であることが判明し、彼女は被験体から正式に外された。

ウィルスを植え付けるのは明日だ。別の哺乳類で実験した時は、6日間の潜伏を経て効果が出てきた。
私は、この実験が成功に終わることを信じている。

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2011/10/8
今日、ウィルスの植え付け最中に事故が起こった・・・・・・まあ、私は大した事故ではないと思っているが。
3人の被験体の待機する部屋で、ウィルスの入った瓶が割れた。
ウィルスは空気中に広がり、被験体及びその部屋の管理者に感染したと思われる。
その管理者は、エゴルフ博士であった。

この部屋にいた3人の被験者のうち2人は女性で、もう1人は男性だった。
3人のデータは普通に実験データとして管理されている。
しかしエゴルフ博士のは、彼女が被験体でないという理由からそのようには管理していない。
この事故で、ジェシカはそこまでショックを受けていないように思えるが、経過を見守る必要がある。

私は責任者として、今回の事件が、ジェシカを幸せに導くことを望んでいる。
彼女は非常に魅力的で、可愛らしく、美しい女性だ。しかし男性からの人気は低いらしい。
本心を吐露すれば、私はジェシカと仲良くしたい。しかし、研究所の同僚をデートに誘ってよいのかと、ずっと悩んでいる。

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2011/10/14(金曜日)
今日は、この実験の効果が現れ始める時である。驚くべき結果が見られた。
ウィルスの効果が見られたのは、あの事故によってウィルスに空気感染した女性のみであった。
さらに驚くことに、その女性の中で最も効果が表れたのはジェシカであった。
他の2人が2、3mm程度の成長に対して、ジェシカが身長の1%ほどの成長率を見せたのだ。
1晩でおよそ1.5cm程度成長し、ジェシカは今、152cmを超えた。
彼女はその知らせに微笑んでいた。非常に可愛らしく笑っていた。

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2011/10/17(月曜日)
我々のこの人体実験は失敗に終わってしまったようである。
例の2人の女性も、あの後2、3cmだけ伸びて成長はストップした。動物実験とは全く異なる結果だ。
ウィルスの効果が今も出ている女性は、ジェシカだけである。
彼女は現在、157.5cm、しかも未だに身長の1%程度の成長率を保っている。

私は責任者として、ジェシカに現在の状態について尋ね、手を撫でた。
彼女は笑顔で私に言ってくれた「ありがとう!」

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2011/10/24(月曜日)
ジェシカの成長は依然として続いている。168.9cm、彼女は研究所の女性スタッフの中でほぼ最長身となった。

一方、ジェシカは私に対して妙に馴れ馴れしくしてくるということに私は気がついた。
私はそれに気が付かないフリをしているが、彼女は日々、益々魅力的になっていくのだ。
それゆえ私も彼女に、無意識に自分の好意を伝えているかもしれないと思った。しかし、それは私にはできないことだろう――

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2011/10/26(水曜日)
ジェシカは172.2cmに達した。今日のお昼に、私は彼女からデートの誘いを受けた。
「ポール、金曜日にデートしない? ディナーと映画、どっちが好み?」
ジェシカのような長身美人の誘いを断ることは、私にはできなかった。
たとえ、身長の割に多少ふくよかであっても、それは同じだ。私は誘いを受けた。金曜日に何が起こるのだろうか。

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2011/10/28(金曜日)
デートの当日、待ち合わせからジェシカは私を驚かせた。ピンヒールを履いてきて、180cmとなって現れてきたのだ。
ジェシカ自身も、自分のあまりの背の高さに驚いていたようだった。
私がジェシカの美しさを賛嘆すると(お世辞ではなく本心だ)、ジェシカはニコリと微笑んだ・・・・・・彼女の微笑みは、私の理性を外してしまう

ジェシカは非常によく食べる人らしいことを、このデートで知った。彼女と同じくらいの体重の女性の中でも、ジェシカはよく食べる方だと思う。
レストランで食事をした後映画館に行ったのだが、そこでも彼女は旺盛な食欲でポップコーンを食べていた。

・・・・・・全てを科学的に理解することなんてできない。
ジェシカは最高に美しい。そんな女性が私に恋してくれて、私も同じくらい、彼女に恋しているんだ。

2人で一緒の帰り道、私の家に着いた時、彼女はとても曖昧な表情をしていた。
「今夜は楽しかったわ」彼女は言った。
「僕もだよ」と私は答えた。そして続いてこう言った。
「また、ラボの外で会えるかい?」

その途端、ジェシカの瞳は大きく開き、微笑んだ。
「ええ、もちろん!」彼女はそう言った。そして続けてこう言った。
「実は、月曜日のハロウィンに仮装パーティがあって、私はそれに招待されてるの
今度のデートはその日にしない?
仮装パーティなんて大層な行事じゃないと思うけど・・・・・・どう?」
「うん、いいよ」、私はそう答えた。その後、ジェシカは別の話題に移った。

「・・・・・・ねえポール、ちょっと問題があるのよ。私の成長は未だ終わっていないの。
つまりね、仮装用のヒールを履くと、ポールよりも大きくなっちゃうの。
それでも・・・・・・大丈夫?」
私は彼女に微笑み、首を横に振った。
「こんなに美しい女性と一緒に部屋にいる僕を見たら、たいていの男は僕に嫉妬するさ。
それに、僕が君と付き合う限り、その問題は常につきまとう。
でも、たとえ君を見上げて首が痛くなってもいい。僕は君と一緒にいたいんだ」

その時ジェシカの目がキラキラ輝いた。
「私がキレイですって?」
「ああ、そう思うよ」
私がそう言ったその瞬間、彼女は私に強烈なキスをした。私は抵抗することなく、流れに身を任せた。
慣れないことで、お互いぎこちなく事が済んだ。

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2011/10/31(月曜日)
ジェシカはラボの大半の男よりも背が高くなった、180cmの大台をついに超えた。
そうはいっても、ジェシカは私よりもまだ低い。しかし明日には私と肩を並べ、水曜日には私を追い越すことだろう。

私は服をいくらか加工し、帽子とジャケットで道端の売り子の仮装をした。それでジェシカの家まで行き、ベルを鳴らした。
ジェシカを目にした時、私は頭から眼球が飛び出てしまうのではと思った。
ジェシカの、ワンダーウーマンの仮装をしたドレス姿はそれほどまでに美しかった。
そして、ジェシカはその時ヒールを履いていたので、私よりも幾分か背が高くなっていた。

「どうかしら?」
ジェシカは私にそう尋ねた。しかしどうも、うまい言葉が見つからない。
私はただ、ニコリと微笑むしかできなかった。

「良いと思う?」
私はコクリと頷いた。
「あなたのは、道端の怪しいペテン師?」
私はまた頷いた。そしてこう言った。
「逮捕されても、僕は君を想い続けるよ」
そしたらジェシカは、僕の唇に指を置いて、こう言った。
「今言ったこと、忘れないでね」
「ああ、忘れない」
私はそう言った。