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以下は,科学者であるポール・アハーン博士の録音を書き起こしたものである.

私はこの録音を2012/2/8の朝にしている.ジェスはまだ寝ている,私はこれから朝食でもって,ジェスにサプライズをしようと思う.サプライズのために私は今この時間に録音を撮っている.

そう,私はこの録音の適当なところをゴーストライターやらシナリオライターにそれなりの金で売り渡して,ジェスのために金儲けをしようと思っている.そのために,今朝の内に話すべきことを全て言って,この経験談の最終章を終わらせるのだ.

報道の問題は,比較的簡単に解決した.実際,私達はあの工場で記者会見をした.それから,記者会見後に一斉に工場から出て行った大型トラックと同じタイプのトラックの後ろに,私達は乗り込んだ.マスコミたちは,発送センターの方を見ることはしなかったらしい.私達は,頭痛の種を作ることなく,この状況から逃れることができた.

ジェスと私はそれから,結婚したあの小屋で数日の間,身を隠した.結婚式を執り行ってくれた牧師さんは私達について色々と知っているわけだが,彼は非常に優しく,私達が身を潜めるにあたって支障はなかった.

それから予約していた,天井の高さ600cm以上の倉庫に移った.マスコミとは未だつながっており,CPRラボを退職した後もそこからお金は入ってきていた.

事のところ,CPRラボで働いている人はもういない.あそこはもう閉鎖したのだ.ペン,リチャードソン両博士はジェスと私にかなりの額の和解金を送り,またジェスの知名度も収入を生んでいる.彼女のビキニ姿のポスターや壁紙はすでに札束に変わっていた.

私達はこれから,新しい薬品関係のラボを開こうと思っている・・・・・・叶うことなら,発育や減量に関係しないものにしたいが.技術をジェスに応用するようなマネはもうしたくない.ジェスに限らず,他の人になにか悪影響を及ぼさないと保証できないことには手を染めたくない.

ジェスの手は研究をするには大きすぎる.しかし頭のキレは良い.彼女はラボの財産だ,科学者としても,経営者としても.そして私は研究をする.

また,私達は家族計画も念頭にいれている.しかしそれは,今朝,私がジェスに報告する,あることに依存するのだ.言い換えると,これは決して不確かなものではもはやないのだ.

(電子音が鳴り響く)

時間だ,朝ごはんを食べよう.私はこれからジェスの方に戻る.そして録音をしなおして,後世のために,ジェスの反応も記録することにする.

(レコーダーが停止し,再起動した.足音と,ベッドの布がカサカサと擦れる音がする)

おはよう,ねぼすけさん.

ジェス:ポール,おはよう.ベッドで朝食を取るの?

ポール:ああ.チーズとホウレンソウを絡めたスクランブルエッグ2ダース分と,トースト1ダース.キミにとっては,軽い朝食だけど,十分だろう.

ジェス:あら,素敵.いい匂いだわ.でも,どうしてこんなに豪華なの?

ポール:単純さ.昨夜は,あることが起こらなかったからさ.

ジェス:ん?

ポール:昨夜,キミは成長しなかったんだよ!

ジェス:え?

ポール:昨夜は成長していなかったんだ.覚えているかい? 僕は毎夜,キミがうとうとし始める頃にも起きてキミを見ている.キミが成長していく様子をこれまで何度見てきたか.でも昨夜は,君は成長していなかった.ジェス,君の成長は止まったんだよ!

ジェス:それ,本当なの?

ポール:ああ.でもキミは,科学者として自分自身で確かめないと信じられないだろう.さあ,確かめておいで.それから,朝ごはんを食べよう.

(駆け足する音が聞こえる.それに続いて,嬉しげな叫びと,戻ってくる音が聞こえた.)

ジェス:本当だったわ! ポール,本当に止まっていたわ! 私の成長がついに止まったのね!

ポール:ああ.それと,僕はキミに腕ですくわれるのが好きなんだ.

ジェス:私も,あなたに首に抱きつかれるのが好きだわ.ポール,これが何を意味するのか,わかる? ぴったりの洋服を買ってもしばらくの間着ることができるのよ.私は普通の生活が送れるようになったのよ.

(キスする音が聞こえた)

ポール:それで,身長はいくつだったんだい?

ジェス:479.9cmだったわ.

ポール:480cmでいいよ.大半の人は1ミリまで気にしないもの.

ジェス:(クスクスと笑っている)うん,そうね.

ポール:他にも,できることがあるんじゃない?

ジェス:(別の悲鳴をあげた)あなたと子どもを作るには,また十分小さいわね!

ポール:ああ.

ジェス:まずは,朝ごはんを食べるわ.今日やるお仕事のために,エネルギーを摂取しておかないと・・・・・・ラボのお仕事じゃ,ないわよ.

(録音が終了した)