この物語には、日本では見慣れない表現などもあるため、先に予備知識に目を通すことをおすすめいたします。

Paradise Crushed

原作:whahuh7
翻訳:Slaughterer

第一章「序章」

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ピンポーン

「もう!」
ケイトはため息をついた。
ジルはいつも早かった。
宿題を出すのもそうだし、待ち合わせ場所に着くもそうだった。
そして今、ジルはケイトの家の前に立っていた。
それは約束の15分前だった。

ケイトは階段を降り、鏡の前で身だしなみをチェックした。
そしてドアを開けると、ジルが立っていた。

「やぁ、ジル!まったく、少しは待たせなさいよね。」
ケイトは笑顔を取り繕った。
「分かってるわ。でも少しでも早く会いたかったの。待てなかったのよ。」
「あのね、まだちゃんとした服も着てないの。ちょっと待ってもらえる?」
「えぇ、もちろんよ。」
ケイトが部屋に戻ろうとすると、ジルが訊いた。
「ねぇ、私も行っていい?まだケイトの部屋見たことないの。」
「仕方ないなぁ。でも着替えるまで部屋の外でちょっと待ってなさいよ。」
ジルはケイトの後を追いながら、彼女と友達になって本当に良かったと感じた。
ジルはこの町に越してきたばかりで友達が少なく、
友達の作り方もよく分かっていなかった。
彼女は大学に通うために一人暮らしをしており、その上今は夏休みである。
この町の人は他に誰も知らないし、大学での講義もないので、
人と接する機会が本当になかった。
そのためジルは、初めての場所に「帰宅する」感覚を覚えた。

ケイトが社交的な女の子であることはジルにとって幸運で、
これまでにこんな人と出会ったことはなかった。
数週間前のとある朝。ジルは特に行く宛てもなかったので、
近所の喫茶店で本を読んで過ごしていた。
そうして読書に没頭しているうちに二時間が過ぎていた。
そのうちランチタイムで店内が混み始めたことにも気付いていなかった。
そして、目の前に一人の少女が立っていることにも気付かなかった。

「こんにちは、隣座ってもいい?」
突然のことにジルはビックリした。
見上げた先に立っていたのは、ケイトだった。
「ごめんなさい、驚かすつもりはなかったの。ちょっと混んでて、ほら、ここ隣空いてたから…」
「も、もちろん!どうぞ、ここ座ってください。あの、あなたのお名前は?」
それから二人は一時間以上おしゃべりをし、お互い色々なことを知った。
ケイトも今はちょうど夏休みで、退屈していたらしい。
それからというもの、二人は夏休みの間本当によく遊んだ。
二人は馬が合い、そしてお互いの違う点も理解していた。
ジルはいわゆるシャイであるのに対し、ケイトはとてもおもしろく、そして社交的だった。
大はしゃぎするケイトと、にっこり楽しむジルは、とても対照的だった。

これから映画に出かけるため、ケイトは部屋に着替えに戻った。
ケイトは何を着ようかと色々頭に思い描いていた。
ケイトは先ほどまで家の周りをぶらぶらしていたため、ピンクのタンクトップに短パン、
そしてピンクのビーチサンダルという格好だった。
この格好は健康的な感じがして彼女は好きだったが、
出かける時は他のものを着ていくことにしていた。
短パンを履くと彼女の豊満な尻とムッチリした脚が強調され、
Cカップの胸は薄いタンクトップの下に存在を主張した。
彼女の肌は健康的な黄金色に日焼けしており、
肩に掛かるダークブラウンの髪の下にはオリーブ色の日焼け跡が露出していた。

一方ジルは、ケイトとは対照的に白い肌をしていた。
海に行ったり肌を焼いたりするのは似合わず、その肌は白く透き通っていた。
グレーのシャツにジーンズ、そしてスニーカーという格好をしていた。
下半身はケイトほどではなかったが、上半身には目を見張るものがあった。
スレンダーであるだけでなく、その驚異的なEカップの胸はグレーのTシャツを上に押し上げていた。
シャツの襟ぐりは深く、その谷間を強調し、長く伸ばした金髪がその胸にかかっていた。
彼女自身は特に気にしていなかったが、男性たちの目には魅力的に映っていた。

二人は階段を上がり、ケイトの部屋に入ろうとした。
女の子らしく飾られていたが、少しだけ散らかっていた。
「ううん、まぁ気にしないで」
ケイトは一言添えた。

ケイトに続いてジルが部屋に入ろうとしたとき、廊下の向こうに不思議なものがあるのに気付いた。
ドアの下に赤く光っているものがあったのだ。

「あれ、なに?」
「んー?」
部屋から頭を出して答えた。
「あぁ、パパの実験部屋よ。なーんかいつも変なことしてるみたいなのよね。」
「実験部屋?お父さん、化学者か何かなの?」
「一言で言うとね、マッドサイエンティストなのよ!」
ケイトはやれやれと腕を上げながら呆れて笑った。
「実際のところ、何やってるのか私もよく分からないのよね。でもいつも鍵かかってるの。」

それを聞くと、ジルは好奇心をそそられた。
ゆっくりとその部屋に近付いた。
マッドサイエンティストの部屋に入るのに一種の恐怖心は確かにあった。
しかしジルは意を決すると、ドアノブに手をかけた。

ガタッ ギイィィィ…
ドアは開いた。
ゆっくりと開けると、部屋には様々な機械が置かれていた。
大小様々な機械があり、それらにはたくさんのボタンが付いていた。
それは、マッドサイエンティストの部屋と聞いて想像した通りだった。
後ろから入ってきたケイトは一瞬言葉を失った。
「なに…これ……」
そして辺りを見渡して言った。
「こんなの、初めて見た…」

ある一つの機械が目を引いた。
それは埃を被っていない数少ない機械だった。
「これってどう動くの?」
ジルが尋ねた。

「えぇと、私もここに入ったのは初めてだから何も分からないの。」
ケイトはその機械に近付くと、操作パネルの横に開けたコーラの缶が置いてあることに気付いた。
「これね、パパのお気に入りなの。ついさっきまでここにいたみたいね。」
ケイトはさらに近付いて観察すると、コーラの缶のそばに小さな点がかすかに動いているのを見つけた。
「あら、虫がいるわ。」

「どこ?」
ジルはそう聞くと、ケイトの視線の先を注視した。

「ここよ、ここ。」
ケイトはその小さな点を指差した。

「どこよ?」
ジルは前かがみになり、さらに目を凝らした。
その際、ジルはうっかり右の胸で小さな点を潰してしまい、
さらに左の胸で機械のボタンを押してしまった。

「あぁもう、そこよ。」
ケイトはジルの胸を指差しながら言った。
「…あんた、やっちゃったみたいね!」
ケイトは笑いながらそう言った。

「え、ご、ごめん!」
ジルは顔を赤らめながら胸を払い始めた。
しかしこの時、彼女は元々不器用なのが災いし、コーラの缶を倒してしまった。
その中身は操作パネルの上にこぼれ、瞬く間に広がって機械の中へと染み込んでいってしまった。

その瞬間、機械がめちゃくちゃな動きを始めた。
ガタガタと震えだし、ギシギシと音を上げ始め、そしてダイヤルの周りに火花が飛び始めた。

「ど、どうする!?」
ジルは混乱してうろたえながら言った。
きっとケイトがいい解決策を出してくれるはずだと信じた。

「とにかく逃げよう!」
二人はドアに向かって走り始めるや否や、部屋に煙が充満してしまった。
そして、部屋から逃げ切る前に背後で爆発が起こった。

しばらくの間、まばゆい光に包まれて何も見えなかった。
少しして目を開けると、そこは何ひとつ存在しない空間に、ただ二人は立っていた。