小学五年の担任をしている彼はここ数日間おかしな出来事を体験していた。
男が毎日縮んでいくのだ。
おかしいのは、皆それに気づいていないというより昔からそうだったかのように振る舞っていること。
そして、小さくなるたびに男の立場も少しずつ情けないものに変わっていく。
彼もその影響を受けているのだった。
175cmある彼は小さくなるにつれて惨めな存在になっていくのだった

・160cm台
このくらいの時は大きな違和感はないが、大きな女性が多く少し不思議だと感じていた。
クラスの女子が今年は大きいなと思っていた

・150cm台
身長が150cm台になると自分と同じ背丈の女子が増えてきた。それに背を越している女子もいる。
なにより、クラスの女子と男子の差が如実に出てくる
男子は120cmしかないのに女子は140〜160cmくらいあるのだから

・140cm台
背の順で一番小さい女子と同じくらいの背丈
この頃から、女子に威圧感を感じるようになってくる。
男子も平均105cmしかなく、この頃から体格差を使った女子による男子いじめが急増していた。


・120cm台
このぐらいまで縮んだとき、まず明らかに男性教師が少ないのに気がついた。
というより自分しかいない。
男は一般職やアシスタントをやっていた。
教師は、女性と変わらない仕事をできている数少ない例外だった。
子育てはまだ男性ができていたが、背を越されるくらい大きくなると女性が育てるしかなかった


縮小が始まったのは突然だった。授業中、めまいがしてあたりが暗くなった。
しばらくすると、めまいが取れてあたりを見回す。
みんな机に座ってノートをとっている。

今は算数の授業だった。
体調が悪いのだろうか。チョークを取ろうとしたその時だった。
おかしい。自分の腰辺りにあったはずのチョークおきが、胸のあたりまで移動していた。
周りを見渡す。教室全体が大きくなったみたいだ。
そして、座っている女子生徒をみると違和感を覚えた。
彼女たちは座って、自分は立っているのに
頭一つ分しか自分のほうが大きくないのだ。
どういうことだ...?
その時チャイムがなった。
「起立」
女子たちがみんな立ち上がった。
その時に衝撃を受けた。
みんな自分より大きかったのだ。
しかもそのことをみんな何もおかしいと思っていない。
よく見ると顔自体は見覚えがある。みんな確かに教えていた女子生徒だ。
周りを見る。こころなしか教室が全体的に大きくなっていることに気がついた。

何も言わず教室を出てすぐさま職員室でパソコンを開く。
女性の数が、明らかに多くなっている。
しかし気にしてられず、ある予感を胸にキーボードを打つ
「男性 平均身長」その時に衝撃をうけた。
118cmとかいてある。


このくらいの身長になると、先生を続けていけるのか?
どうなってしまうのだろうか
そんな不安を抱えながら次の時間の体育の準備をした。
次は体力テストだ。

体力テストでは、最初に握力を測ることから始めた。
整列させた女子たちが全員自分より遥かに大きい。
まるで自分が下級生になった気分だった。
握力計の説明をしてから、各自がやる時間になった。

大きくなった女子たちを見ながら、いま自分はどのくらいの力があるのか気になった。
ふと、握力計を取り全力で握ってみた。
出てきた数値に唖然とした。
「先生どうしたの?」
その時、ふと上から声をかけられた。
135cmと、クラスで一番背の小さなさやかだった。クラスメイトからは親しみを込めて「ミニさや」と呼ばれていた。

「あっ、先生もやってたんだ。握力どのくらい?」
持っていた握力計をとられた。
液晶には8kgと表示されていた。
彼女は勝ち誇った顔で彼を見下ろしていた。
「あたし14kgだよ」
他の女子は最低20kgあり、彼女は劣等感を募らせていたので大人を超えられることはうれしかった。
「ねぇみて!あたし先生より強いんだよ!」
その声を聞いた女子たちがさやかの周りに集まってきた。
「えー!見せて見せて!」
「え、さやより弱いの?」 
眼の前にいる彼女たちは大きかった。
120cmの自分の目線は、150cm程度ある女子たちの膨らみかけている胸とちょうど同じで目のやり場に困った。
135cmと一番小さいさやかでも鎖骨にやっと届くくらいだ。
女子全員から見下され、威圧感を感じた。
このクラスの女子は差があるが最低でも135cm、一番大きい緑は165cm。
もう明らかに女子全員に体格で負けていた。

「ほら、見て!あ、せんせちょっとごめんね」
皆が見ている前で、彼女にグイッと手首を掴まれ、握力計を持っている腕を女子たちに見えるように高く挙げさせられた。

その横に彼女は自分の握力計を並べた。
さやかは自分の腕を腰あたりに置いているのに、
自分は胸のあたりまで高く挙げなければいけなかった。
女は大きすぎる。

女子の人だかりの中で、緑が前に出てきた。
自分の目線にはもう服の上からでもはっきりわかるくらい膨らんでいる胸が突き出されていた。
緑は、クラスの中で165cmと一番身長が高く
グループの中でもリーダー格の女子だった。
彼女はそのつもりがないだろうが、45cmという身長差から大きな威圧感を感じた。
逆に僕のことはどう見えてるのだろう。

彼女は差し出された握力計を交互に見渡した
「さやかが14kgで、先生は...うそでしょ8kgって」
彼女は嬉しそうに声を大きくしていた。
「よわー!!」
周りにいた女子もそれにつられる
「あたしの半分もないじゃない」
「小学1年生よりも弱いんじゃない?」
「8kgって可愛すぎでしょ(笑)」
周りの女子たちの笑い声に包まれた。
彼女たちが彼に向ける目の表情が変わっていた。
自分より小さいとはいえ、先生として尊敬する目から
まるで可愛い弟を見ているかのような目になっていた。
実際、この出来事で一気に女子は彼を「先生」ではやく「ちっちゃくて可愛い先生」として見るようになっていた。

さやかに手首を捕まれ、逃げようにも動けない。
みどりは僕のことをニヤニヤしながら見つめていた。
「先生本当にそれしか力ないの?」
その大きな体に威圧感を覚える。怖かった。
「そんなはずないよね、だって先生だもん
十歳以上も年下の生徒より弱いなんてあるわけないよね」
不意に彼女は僕の目の前までかがんできた
「今ここでもっかい測ってみてよ」
女子に囲まれていて逃げ出すことはできない。
やるしかなかった。本気を出せばさやかには勝てるかもしれない。
「さやかも、もう一回やってみて」
「うん!」
渡された握力計を力いっぱい握った。
年下の、しかも生徒に負けるなんてあっちゃいけない。
頭が少し赤くなるくらい力を入れた。
一方さやかも本気を出していた。「ふんっ」
力を入れる掛け声が漏れていた。

しかし、数字は残酷だった
「さやかは16kg!すごいじゃない。先生は?」
変わらず8kgと表示されていた
みどりはその数値を見て満足そうだった。
「ふふ、先生も男の人だからこのぐらいが限界?
もうあたし達も弱っちいんだねー♡」
突然、あやされるような口調になっていた。
もう、先生を見る目ではない。小さな子をからかうときの目をしていた。

「先生ってあたしの半分しか力なかったんだね」
勝負に完膚なきまでに負けてから彼女の体はさっきよりも大きく見えた。

「負けちゃったのは仕方ないよ、センセ!
ほら、こっちきて?つぎは50m走だよ?」
みどりは僕の手首をガシッとつかみ無理やりグラウンドへ連れて行った。

もうここからは学年で一番小さなさやかと僕をとことん比べられることになった。
みんな先生がさやかよりどれくらい劣っているのかを見たがっていた。

残酷にも体力テストは続き、結果は完敗だった。
50m走 さやか9秒35 先生10秒36
シャトルラン さやか29回 先生18回
立ち幅跳び さやか138cm 先生124cm
ソフトボール投げ さやか14m 先生10m

一番小さな女子よりも弱い。みんなの見ている前で
完膚なきまでに負かされてしまった。
全力でソフトボールを投げた彼は息を切らして休んでいた。
「せんせ、おつかれさま」
その時、後ろから手が伸びて急に脇の下から体が持ち上げられていた。
さやかだった。一番小さなはずの女子に持ち上げられている。
「ちょっとみて!先生がさやかに持ち上げられてるー!」
「なっさけなーい」
「え、先生って何キロあるの?」
「あたしも、おとなの男の人ってどのぐらいの重さなのか気になるんだよね」
みどりはそういうと、僕を体重計へ乗るよう促した。
大きな彼女が怖くて、年下なのに従うしかなかった。
嫌なのに体重計に乗ってしまう
「はい、動かないでねー...うっそ!22kg?軽ーい!」
「ほら、さやかも乗って」
彼女が乗ったとき、体重計は明らかに深く沈んでいた。
33kgだった。


最後はみんなの見ている前で身長を測らされた。
屈辱的なことに目盛りに男女の学年ごとの平均身長まで書いてある。
一年生、男は85cm女子は115cm
ニ年生、男は89cm女子は122cm
三年生、男は93 cm女子は129m
四年生、男は97cm女子は137cm
五年生、男は101cm 女子は145cm
六年生、男は105cm女子は153cm

これを見ているだけでこの世界でいかに男が惨めな存在なのかを思い知らされる。
121cmと数字が出た途端、周りからはクスクスと可愛いものを見るかのようなくすぐったい笑い声が聞こえた。
ニ年生になる頃から抜かされ始め四年生になる頃には全員に抜かされてしまう。
「小学二年生の女の子よりもちっちゃいんだねー」
「そういえば、2年1組の玲香ちゃん
先生より大きかった!」
「えー!先生ちっちゃすぎ(笑)」

前にはさやかが堂々と立っている。
121cmと145cm。圧倒的な体格差だ。
その時、目眩がした。
また小さくなろうとしているのだ。