skebで描いていただいたメレアーデのイラストを元に作成したSSとなります。
ドラクエ10オンラインのver6.5後編までのネタバレを若干含みます。
またスラッポちゃんが登場するため「目覚めし一つの古代呪文」を読んでおくことをお勧めします。

 「…あれ? 私 ネコちゃんたちと一緒に寝ていたはず…。っ!?」新エテーネの村にある別宅で寝ていた、旅人の服を着て紫髪を赤いリボンで束ねた少女,メレアーデは、起きあがろうとすると左手に何か違和感を感じた。起きあがり目を開けてみると、左にはいくつかの倒れた木、右には見覚えのある小さな住宅街が、ということはまさか…。
 「私 大きくなってるの!?」はっと彼女は息を飲んだ。もし右手を無意識に動かしていたら王都が…、考えるだけで恐ろしかった。
 「うーん ここってディプローネ高地よね。でもどうして私がこんな所で大きくなっちゃったのかしら? もしかしたら夢って可能性もあるわよね…?」そう思い頬をつねってみたが、何も起こらない。どうやら夢ではないらしい。不用意に身体を動かしてしまうと周りが崩れて地形が変わってしまうので、座りながらこれからどうしようかなとメレアーデは考えていた。


 しばらく元に戻ることはなさそうなので、普段,いや今後経験しないであろうこの状況を少し楽しんでみようと思い、メレアーデはさっき倒してしまった木をつまんでみた。
 「普段見上げている木々をこうやってつまんでいるのも なんだか変な感じね。根っことか 木の上とか あんまり見たことなかったけど こうなってるのね〜。…あっ 折れちゃった…。」巨大化したことで、力は普段よりも強くなっている。ちょっと強く指に力を入れただけで折れてしまった木を見て、メレアーデは人や物を触るときには少し力に気をつけた方がいいなと思うのであった。一応回復呪文は使えるとはいえ、人を傷つけるわけにはいかない。
 ふと右側を見てみると、王都キィンベルから兵士たちが心配して駆けつけてくれていた。
 「あら? どうしたの? えっ? スラッポが今 飛竜でこっちに向かってるの? こんな大きくなった姿を見られたら ちょっと恥ずかしいわ…。でも スラッポなら古代呪文について詳しいし 元の大きさに戻れる方法を知ってるかもしれないわね! ありがとう 私 スラッポのこと待ってみるわ!」スラッポがこちらに向かっているとのことだった。スラッポはエルフが研究している古の時代に使われていたという呪文に詳しい。もしかするとこの状態を治してくれるかもしれないと、メレアーデは期待して待つことにした。
 「キィンベルのここの家って 今空き家なのよね。ちょっとくらい つまんでみてもいいかしら。ごめんなさい 失礼するわね。」彼女を待っている間 メレアーデは右手をそっと伸ばして空き家をつまんでみた。
 「屋根とかって こんな造りになっていたのね。あら? 意外と力を入れても崩れないわ。錬金で作った素材なら こんなに頑丈な建物を作れるの!? これは他の国にも宣伝してもいいかもしれないわ!」普段あまり見ることも考えることもない家の造りを、不思議そうな顔をしながら見つめていた。つまむときに少し崩れてしまってはいたが、軽く力を入れてもそんなに崩れるといったことはなく、エテーネ王国の技術に少し感動するのだった。
 「…ずっと見ていると なんだかお菓子みたいに見えてきちゃったわ。誰も住んでないんだし 食べてみても… いいかしら…?」最近コンテスト用にチョコを作ったせいか、じっと眺めていると家がクッキーのように見えてきたメレアーデは、いたずらっぽく笑みを浮かべながらペロリと舌なめずりをしていた。よく見るとつまんだ時に少し家の形が歪んでしまったらしい。もしかしたら、戻してもすぐに崩れてしまうかもしれない。それなら…、
「はむっ」と思い切って家を口に入れてみた。よく噛んでから飲み込んだが、少し苦い顔をしていた。
 「わかってはいたけど あんまり美味しくはないわね…。お腹壊さないといいんだけど…。」と、彼女は家の残骸を溶かしているであろうお腹を心配そうに撫でていた。そんな時、どこからか聞き覚えのある快活な声が聞こえてきた。


 「おーい! メレアーデ〜!」声の主は、メレアーデの従姉妹であり冒険者である少女、スラッポのものだった。飛竜から飛び降りたスラッポを、メレアーデは手のひらで優しく受け止めた。
 「ずいぶん大きくなっちゃったんだね。近くで見るとすっごく大迫力だよ! 私が大きくなって戦ってた時もちょっと周りとか気にしなきゃいけなかったから大変だったけど メレアーデも大変だったんじゃない?」
 「ええ…。あんまり動きすぎるといけないから ずっとこの姿勢でいるのよ。ちょっと足が疲れてきちゃったわ。ねえ。スラッポなら私がどうして大きくなったのかわかるかしら? 今は別に動きにくいこと以外は困ってはいないんだけど ずっとこのままってわけには…。」
 「うーん。身体を巨大化させる呪文なんて聞いたことがないなぁ。ここに来る途中で考えてたんだけど もしかしたら私が巨大化した時の創生のチカラが残っていた って思ってるんだよね。大きさは私たちほどではないけど。多分1日くらいでチカラが抜けて元に戻ると思うよ。もし戻らなかったら何か考えてみるね。」それを聞いて、メレアーデはホッとした様子だった。そして、それならもう少しこの状況を楽しんでみよう,と思うのだった。
 「いつものスラッポもかわいいけど 小さなスラッポも小人さんみたいでか〜わいい〜♡」そう言いながらスラッポをつまみ上げ、ペロリと舌なめずりすると、ゆっくりと手を口元へ近づけていった。その意味を察したスラッポは慌ててメレアーデを止めようとしていた。
 「えっ!? ちょっ ちょっと待ってよメレアーデ! やめてっ やめてぇーっ!! むぐっ!?」手はスラッポの顔がメレアーデの唇に触れるところで止まった。大きな舌でスラッポの顔を一舐めしてから、
「な〜んてねっ びっくりした? 私が人を食べたりなんかするわけないわよ♪」と、スラッポを手のひらに乗せてからいつも2人で遊ぶ時に見せるような笑みを浮かべながら言うのであった。
 「うう…っ 怖かったぁ…。今日のはちょっと本気なのかと思っちゃったよぉ…。だってさっきメレアーデが家を食べてるとこ見ちゃったし…。」そう言うスラッポは、少し涙目になっていた。それを見たメレアーデは、ちょっと慌てた様子だった。
 「ごめんなさい…。怖がらせちゃって…って ええっ!? あ あれ スラッポに見られてたの!? は 恥ずかしいっ…。」1人遊びを従姉妹に見られて、顔を真っ赤にしていた。
 「まあまあ そんなことよりもさ ほら 王都を見てよメレアーデ♪」そうスラッポに言われて王都を見てみると、そこにはたくさんの人々が珍しい光景を見に集まっていた。
 「せっかくなんだし みんなとも遊んであげなよ。」
 こうして、メレアーデとスラッポは王都の人々とも楽しい時間を過ごした。手のひらの上で楽しそうにはしゃいでいる子供たち、物珍しそうに映写機で写真を撮る観光客に、創生のチカラがあるなら錬金で使えるかもしれない!と髪の毛を欲しがる人もいた。ひょんなことから巨大化してしまったメレアーデは1日限りの大エテーネ島の観光名所となったのだった…。あっという間に1日は過ぎ…。
 そして、夜が明けた!


 「おはよう メレアーデ。」
 「う〜ん…? スラッポ? それにネコちゃんも…。じゃあ私…。」
 「そうだよ! 元の大きさに戻ったんだよ!」遊び疲れて眠ってしまったメレアーデは、夜のうちに身体が元の大きさに戻った。それをスラッポが別宅まで運んでベッドに寝かせたのだった。
 「良かったわ〜。元に戻らなかったらどうしようと思っていたの。昨日は休んじゃったから 今日は王都に戻ってやるべきことをやらなきゃ。あ そうそう 今度また遊びにいってもいいかしら? 昨日小さな人々を見てたら なんか小人さんが食べたくなってきちゃった。」
 「おっけー。じゃあまた休暇日にでも遊びに来てよ。お食事会用の小人さん 用意しとくよ〜。」
 昨日に起こった1日限りの不思議な体験は、メレアーデの思い出にしっかりと刻まれていた。
 叔父様も帰ってきて、今は平和な日常を過ごしているが、いつかまたスラッポと共に冒険ができる時が来るだろう。そんな時が来るのを心待ちにしているのだった。
 その後、メレアーデがずっと座っていた場所には跡がくっきりと残っており、新たな観光名所になったと知って彼女はまた顔を赤くしたのであった。

時をかける王女、大きくなる 了