ズシン、ズシン。

 学校に足音が響き渡る。ビルのように巨大な女学生が歩く音だ。それは1つではなく、幾つも鳴り響いている。しかし周りの建物どころか校舎にすら一切被害は無い。
 理由は単純だ。この学校は巨大な女学生に合わせたサイズで作られている。とは言ったものの、この世界全体で見れば女学生たちは普通の大きさだ。
 巨大な学校に巨大な女学生。そんな感想を抱くのは、彼らが人間の足元にも及ばない小人だからである。



 とある学校では、ヒト族と小人族が同じ敷地内に存在していた。これは小人族が望んだ結果である。

 古来より小人族は知恵を使って数多の異種族と戦ってきたが、無駄な血が流れるのを避ける為に長い歴史を経て異種族との共存を選ぶことになった。その際、ヒト族はお互い不可侵であればいいと提案したが、小人族は学校を1つにしようと提案した。
 『生まれてからずっと一族の中だけで暮らしていては、他の大きな種族と出会ったときに萎縮してしまう恐れがある。そのため若い頃から大きな存在に慣れ、度胸をつけてもらおう』という考えの元、子どもの頃から大きな人間と共に生活させようと考えたのだ。

 とはいえ、小人族と人間で男同士の喧嘩が起こってしまっては圧倒的に小人族の方が不利だ。戦さを知った熟練の大人ならまだしも、喧嘩のけの字も知らない子どものうちから圧倒的体格差をひっくり返すのは不可能である。
 そのため小人族の学校は、ヒト族の中でも力の弱い、女子だけを集めた学校の中に含まれているのだ。

 小人族の大人は基本的にスパルタだ。頑強な体を持つ自分たちを勇敢な部族だと誇っているので、子どもが襲われたとしても自分で解決させる。ヒト族の教師もその頑固な精神に押され、基本的に生徒同士のいざこざには関わらないようにしている。
 おかげで一部の女学生たちはやりたい放題だ。いつもどこかで小人族が遊ばれている。



ーーーーーーーーーー



 小人族の登校は朝早い。ヒト族と共用の廊下で、うっかり出会わないようにするためだ。
 しかしそれを見越して、わざわざ早めに投稿してくる女学生もいる。

ズシンズシン

「おっ! 小人みーっけ!」

 女に気づいた小人は一目散に走り出す。近づいてくる足音は小人のそれよりも明らかにテンポが遅いが、どんどん大きくなって近づいている。何も隠れる物が無いまっさらな廊下で始まった追いかけっこは、あっという間に決着がついてしまう。

グオオオオ

 ただのか弱い女学生の手も、小人にとっては大型トラックすら可愛いと思えるほどの圧力だ。朝から息が切れそうなほど全力で走った彼の努力虚しく、少女の手は小人を掴み上げた。少女が手を閉じてしまうと、小人はすっぽりと中に収まってしまった。

「くそっ! 放せ!」

 指の檻をこじ開けようと両腕を突っ張ると、ゆっくりと指が開いていく。しかし少女がちょっと力を入れただけで簡単に押し返され、むしろ檻の中を狭くするだけだった。檻は熱を持って小人を閉じ込める。
 小人の小さな抵抗は少女を喜ばせるだけだった。

「そんなに小さいのに頑張るね〜。さっすが小人族。いじりがいがあるよ〜♪」

 手をにぎにぎと動かしながら少女は教室へと向かう。まだ誰もいない教室で、彼女は自分の机に小人を下ろした。
 家よりも広い机に戸惑っている小人を少女は覗き込む。その体は机に遮られ、小人からは首から上しか見えない。それでも鼻にすら背が届かないほど小人は小さかった。

「うわ〜。近くで見てもやっぱりちっちゃ〜い」

 顎を机に乗せ、顔だけで小人を見下ろす。
 プライドの高い小人はその態度が気に入らなかった。

「この……! でかいってだけで調子に乗るな!」

 小人は声を張り上げ、女の子を相手にしてるとは思えないほど本気の力で拳を突き出す。
 しかしその衝撃は、少女の柔らかい唇に吸収されてしまった。水々しくぷるんとした感触を拳に感じながら、小人は唖然とする。
 少女もまた、キョトンとした顔で小人を見下ろした。

「今、何かした?」

 拳を突き出したままの小人を見た少女は、少し考えて自分が何をされたのかを理解した。途端に少女は笑い出す。

「あははっ! それで全力なんだ。かわいい〜♪」

 小人は視界に広がる唇から出る爆音に耳を塞ぐ。怯んでいると、いたずらに吹きかけられた息で尻餅をつかされた。
 睨みつける小人に笑いかけると、大きな顔は上へと遠ざかっていく。意図が分からず不思議に思うと同時に、巨大なものが遠ざかることに安心感を覚えた。
 しかし安心するのも束の間、今度は机の下から、顔よりも更に大きな二つの胸がまるでモンスターのように大迫力で現れた。

ズムン

 机に乗せられたそれはまるでスライムのように柔らかく形を変える。しかしその重量感はスライムの比ではなかった。

「本当に私が嫌いなら心臓を狙ってみなよ。ほ〜ら、今なら手が届くよ〜?」

 安い挑発に小人は乗らなかった。いや、本当は乗れなかったという方が正しい。
 同じサイズの相手だったら挑発に乗って攻撃していたが、今目の前にあるのは巨大な乳房。奥に心臓があるのは分かりきっているが、この脂肪の塊を潜り抜けてダメージを与えるというイメージが湧かなかったのだ。

「どうしたの? もしかして服が邪魔? しょうがないな〜」

 大きな手が小人を掴み、胸の上へと運ばれる。パッと手を離せば、小人は開いた胸元に落とされてしまった。

「ほら、そこから中に入れば弱点はすぐだよ?」

 しっかりと弾力のある足場に小人は戸惑う。からかわれていると分かっていても、そこは確かに女の子の胸の上だ。小人族の体の作りは大きさ以外ヒト族と大差ない。初めて触る胸のあまりの大きさと弾力、そして周りから漂う女の子の甘い香りが判断を鈍らせた。

「何もしないなら落としちゃうよ?」

 少女がゆっくりと体を前へ傾けると、小人は傾く地面に耐えられず胸を滑り落ちていく。なんとか襟にぶら下がることが出来たが、少女は傾けるのをやめない。このままでは落ちてしまうだろう。

「中に入っちゃえば助かるでしょ?」

 背に腹は変えられない。小人は襟を上り、谷間への体をねじ込んだ。
 それをみた少女は背筋を伸ばし、谷間を見下ろす。小人はモゾモゾと谷間の中で向きを変える。入ったはいいものの、乳圧の高さで出ることが出来なくなっていた。

「満足したならここから出せ!」
「え〜? 自分から入ったんだから、自分で出ればいいじゃん」

 ニヤニヤと見下ろす顔に腹が立ったが、その高さまで拳は届かない。代わりに、今自分を挟んでいる胸を思い切り叩いた。それでも少女は笑っている。やはり全く効いていない。

「そんなところ攻撃したって意味ないって〜。もっと奥だよ」

 大木のように巨大な指が小人を押し込むと、小人の姿は他の誰からも見えなくなってしまった。

 胸の中で小人はもがく。
 むにゅん、もにゅん、と柔らかい弾力の壁を何度も足でも手でも押しまくれば、体はわずかに広がった空間を重力に沿って少しずつ落ちていった。谷間に滲み出る汗も、脱出の手助けとなっている。しかし汗が出ているということは当然、この空間が蒸れているということだ。小人は脱出を急ぐ。トクントクンと肉壁を通じて響く心音から心臓がそばにあることを感じても、見向きもしなかった。そうやって地道に時間をかけて下へと進んでいると、たまに胸全体が上下に揺れ、小人の脱出は早まった。

 そしてようやくその時が来る。
 何十分たったかも分からないほど疲れながらも這いずっていると、突然ぽっかりと穴が開いて宙に放り出されてしまった。
 これで自由だと喜んだ小人は、白い布によって受け止められる。どうやらここはシャツの中のようだ。目の前には引き締まったお腹が見える。見上げると、放り込まれる前は上から見ていた谷間が鎮座していた。

 出口を探そうと歩き回るが、シャツの裾はスカートに押さえつけられていてどこも空いていない。ジャンプして裾を引っ張り出そうとするけれど、出られる気配はしなかった。

 そうやってシャツの中で暴れていると、突然シャツが形を変えて小人にまとわりついた。ぐいっと持ち上げられたかと思うと裾が外に出され、下に手が置かれている。パッとシャツが離れると、小人は手のひらへと落とされた。

「お疲れ〜♪ もう授業始まっちゃってるから静かにしててね」

 少女はそういうと極細のヘアゴムを取り出し、猿ぐつわのように小人の顔に巻きつけた。少女が指で広げられる程度のゴムでも、小人にとっては両手で外せないほどの強さだ。
 声を出すことは出来ないが手足は自由。早く逃げ出そうと思った小人が次に置かれたのは椅子の上だった。

 両脇に広がるのはむっちりと肉付きの良い太ももの壁。その合流点にあるのはスカートの屋根に覆われたパンツ。反対側には、飛び降りるのを躊躇うほどの崖。それらが並ぶここは、少女の下半身で作られた監獄だった。

 ふとももは肌がきめ細やかで登れそうにない。パンツなら登れるかもしれないが、報復が恐ろしい。どうしたものかと悩んでいる間も、太ももからは甘い香りが漂っていた。
 これじゃあ集中できないと太ももを睨みつけていると、どんどんそれが近づいていることに気づいた。見上げると突き出た胸と机の間から、ニヤニヤしながら少女が見下ろしている。

(ほらほら、つぶれちゃうよ〜?)

 小さな声も小人にははっきりと聞こえる。オタオタしていると、なぜか太ももは近づいてくるのをやめた。
 今度はゆっくりと離れていき、小人との距離が広がる。
 そう思ったのも束の間、今度は勢いよく太ももと太ももの距離が狭まった!
 小人は「ひっ!」と情けない声をあげ、両手を顔の前に構えて目を瞑る。
 しかし潰されるどころか、何かに当たった感触すらない。恐る恐る目を開けると、また太ももは遠ざかっていた。

 少女は小人が潰れないように、しかし恐怖を与える程度に何度も太ももを閉じたり開いたりした。

(足動かしてるだけじゃ〜ん。こんなのが怖いの?)

 小人は何度も恐怖し、縮こまっていた。しかし繰り返されるうちに、恐怖は怒りへと変わり始めた。潰す気もなくただ遊ばれていることにプライドが傷つけられたのだ。
 どうせ潰す気はないだろうとたかを括って仁王立ちをする。

(おっ? ふ〜ん……)

 それに気づいた少女は、目を細めてニヤリと微笑んだ。

(えいっ!)

ぱぁんっっっ!

 容赦無く打ち付けられた太ももが小人の体を包み込む。何かが破裂したような音は、クラスの誰も気づかないような小さな音だった。胸と比べるとしっかりとした強さのある弾力が小人を襲う。奥に筋肉を感じる程度には硬い肌が全身に押し付けられる。

(どう? 気持ちいい?)

ずりゅっ、ずりゅっ!

 ずりずりと太もも同士が擦り付けられ、小人の体が転げ回る。優しさなんて感じない雑な動作でも、頑強な小人の体を潰すことは出来ない。しかし小人も潰されないというだけで、抵抗することは一切出来なかった。

キーンコーンカーンコーン♩

 学校のチャイムが鳴り響く。

(はい、お終い)

 それは太もも地獄の終わりも意味し、開いた太ももから小人はぽろりとこぼれ落ちた。

「きりーつ」

 椅子の上に小人を残し、少女は立つ。小人からは太ももの裏とお尻が丸見えだ。

「きをつけー。礼」

 号令の後、少女はお尻を見せつけながら小人に微笑む。

「それじゃまた今度、楽しませてね♪」

 別れの言葉の後、小人にお尻メテオが振り落とされた。

ズウウウゥゥゥゥン!!

 気を失った小人は、後で少女の手によって小人が暮らす場所へと返された。