登場人物
・イスト:戦士(男) 真面目でえっちな事への耐性が高くない。
・ディマ:魔法使い(女) 礼儀正しくイストには甘いが、他の男に対しては冷静。
・アトラ:盗賊(女) 2人をからかうことが好き。


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「新しい補助魔法を試してみたい?」

 イストはパンを頬張りながら聞き返した。食堂の喧騒の中、ディマがぎこちなく応える。

「え、ええ。せっかく覚えたので、イストに試して欲しいと思いまして」

 ただ魔法を試すだけなのに、なんだか様子がおかしい。
 そう思いながらも、イストは快く頷いた。

「いいよ。それなら今日は簡単なダンジョンに行こうか。慣れないことは危ないからね」

 その言葉にディマの顔が曇った。そのやりとりを見ていたアトラはしょうがないと言いたそうな顔で呆れ、口をだす。

「わかりやすい魔法だし、部屋で試しても良いんじゃねーか? 試すだけのためにわざわざダンジョンまで行くのも手間だろ」
「確かにそうだね。……ん? アトラはもうどんな魔法か知ってるの?」
「あぁ、先に見せてもらったからな」
「一体どんな魔法なの?」
「それは見てからのお楽しみってやつだ」
「なるほどね」
「後で部屋に行くから、木剣準備して待ってろよな」

 アトラにも試したと言うことは、きっと前衛職に使う魔法なんだろうとイストは思った。それにしても、いつの間に試したんだろう。
 疑問に思いながらも朝食を食べ終わり、部屋に戻る。
 机を隅に寄せ、十分なスペースを作ってからしばらく待っていると2人が部屋にやってきた。

 アトラがニヤニヤと眺める中、ディマは中央に立ったイストに向かい合う。

「それじゃあ、かけますね」
「うん、いつでもいいよ」

 イストは木剣を構え、どんな魔法がくるか想像を膨らます。

(モンスターがいなくて良いと言うことは、きっと防御魔法じゃないんだろう。素早さを上げる魔法かな? いや、こんな部屋の中で素早くなっても実感し辛い。なら筋力を上げる魔法? それなら腕立て伏せが楽になったりすれば試せる。でもそうだとしたら、木剣の意味がなくなるな……)

 そんなふうに色々考えるイストの耳に、予想だにしなかった言葉が飛び込んできた。

「縮め!」

 次の瞬間イストの視界は低く、とても広くなっていた。

「こ、これはラミアの…?!」
「そーいうこった」

ズシン!

 大きな足音を立ててアトラが目の前に立ちはだかると、目の高さに巨大な素足が2つ並んだ。
 きめ細かい肌を目で上へとなぞると、程よく筋肉のついた太ももが見える。そのままショートパンツを通り過ぎ、お腹のさらに上を見ればドンと突き出した2つの大きな乳房が顔を隠していた。
 元から大きかったその乳房は、小さくなった体で見るとより一層迫力を増して見える。今はまだ、鳥が飛ぶような高さまで離れているのに、だ。
 立派な南半球がこちらに傾いたかと思えば、大きすぎるその乳房を押さえるチューブトップがよく見えるようになる。ただでさえ負担がかかっているチューブトップに、乳房が重力の力を増して襲いかかった。生半可な素材ではきっと胸の重みだけで千切れてしまうだろう。

 圧倒的爆乳が傾く様に見惚れているイストを、アトラが前屈みで見下ろす。

「なんだ〜? イストはまたここに入りたいのか〜?」

 指で谷間をくぱぁと開き、柔らかな肉を見せつける。イストの顔が真っ赤に染まった。

「なっ⁈ いや、違っ?! ……もう! かけるのは補助魔法じゃなかったのか⁈」
「立派な補助魔法だろ? 小さければこの前みたいに、倒れても簡単に運べるし。な!ディマ」

 ディマは手で口を押さえ、恍惚の目で小さくなったイストを見つめている。

「やっぱり小さいイスト、可愛い……♡」

 その独り言はあまりにも小さく漏れたもので、イスト本人には聞こえていなかった。
 その様子を見たアトラは呆れている。

「おーい、ディマー? 聞こえてるかー?」
「あっ! すみません。なんですか?」
「これって立派な補助魔法だよな? イストに説明してやってくれよ」
「……そうですね。えっと、小さくなれば普段行けない場所にも行けますし、食料が足りない時も問題なくなるでしょう」

 本当は別の目的があるのだが、ディマはそれを口に出さない。ちなみにアトラにはすでにバレている。

「確かにそれは便利だけど……。もし敵や他のパーティに遭遇したらすぐに元の大きさに戻れるの?」
「ディマがいたら戻れるだろうけど、倒れてたりその場にいなかったら無理だろうな〜」

 アトラはニヤニヤと笑っていて、早く何か言いたそうな雰囲気だ。

「それじゃあダメじゃないか。小さくなんてならない方が」
「だ・か・ら。小さくなっても戦えるように訓練しとかないとな〜♪」

 イストの言葉は遮られ、アトラは足を上げた。滅多に見ることのない他人の足裏が視界に広がる。ワキワキと動く足の指はそれぞれが意思を持った生き物のように見えて不気味だ。しかしそんな物を見入っている余裕はない。巨大な足は圧倒的な質量を持ってイストへと襲いかかる。イストは慌てて横に飛んだ。

ズシィン‼︎

「そんなんじゃ通りすがった誰かに踏んづけられちまうぞ〜?」

ズシン!ズシィン!

 アトラは楽しそうに足踏みを続ける。その後ろでディマはイストに防御魔法をかけていた。
 イストはそのことに気づいているが、だからと言って易々と踏まれるわけにはいかない。いくら防御力が上がっているとはいえ、この質量差ではダメージが入ってしまうはずだからだ。そもそも人に踏みつけられることが嫌だし、目の前に迫り来る恐怖から逃げないと言う選択肢はなかった。

 とはいえただの足踏みと全力の回避では運動量に差がありすぎる上に、タンクの役割を担うイストでは尚更体力が持たない。流石のイストもこれには不満が募った。

「こんなのいつまでも逃げ続けられるわけないだろ⁈」
「そりゃそうだ。だから言ったろ? 『戦えるように訓練しとかないと』って。なんの為に木剣を準備させたと思ってんだ」
「こんな室内で戦闘訓練なんて出来るわけが……」
「安心しろって。こんなチビとはロクな戦闘になんねーよ。それになんたって、お前にとっちゃこんなに広いんだから」

 バッと広げられた両腕に釣られ、イストは辺りを見渡した。必死に動き回っていたはずなのに、四方八方どこを見ても壁は遥か遠くにある。確かにこれなら、もっと自由に動き回っても良さそうだ。

「『部屋の中で戦闘訓練が出来る』っていうのも、この魔法のメリットに加えといてくれ」
「お、良いねぇ。そんなことを言う余裕も出てきたか」

 実際、イストには少し余裕が出てきていた。
 小さくされたのが2度目であること。ここまでとは言わないが、巨大なモンスターとの戦闘も経験していたこと。そしてなにより、目の前にいるのはモンスターではなく仲間だということで、死ぬことは無いという安心感が少し出ていた。そうだとしても、踏み潰されるのはごめんだが。

ズシィン!!

 アトラは踵をイストの目の前に落とし、足裏の壁を作った。

「ほれ、攻撃してみろよ。足裏にすら勝てないんじゃ、訓練にすらならねぇぞ〜?」
「言ったな? 遠慮しないぞ」

 イストは木剣を構える。女の子を傷つけるのには抵抗があるけれど、本物の剣じゃ無いから大丈夫だろう。煽ってきたのはアトラだ。それにこの体格差。本気でやらないと効果が無さそうだ。
 イストはモンスターに対して攻撃する時と同じように、渾身の力で足裏に斬りかかった。

「んっ......//」

 しかしその木剣は足の弾力に負け、大したダメージを与えることは出来なかった。

「ちょ〜っとくすぐったかったかもな? 爪で掻いたみたいだったぜ」

 効かないだろうと分かってはいたけれど、予想以上にショックだった。やっぱり小さい体だと戦闘にはならないらしい。
 うなだれているイストに、足裏が迫っていく。

ズゥン!

 体は足にすっかり覆われて見えなくなってしまった。もし今誰かがこの部屋に入ってきても、ディマとアトラの2人しか居ないように見えるだろう。
 土踏まずの下にいる為潰れることはなさそうだが、かかる圧力はとてつもない。まるでドラゴンに前足で抑えつけられているみたいだ。ぴくりとも動けない状況で足についた汚れを擦り付けられ、イスト自分も床の汚れの一つになりそうな感覚に襲われる。

「はい、お前の負けな。ま、そんなちっさくて勝てるわけねぇか〜」

 足がどかされ、アトラの体が見えるようになる。数分の間足裏しか見えてなかったから、全身を見るとその大きさに再び圧倒される。
 仰向けでぼんやりと巨体を眺めていると、それは一気に自分の元へ近づいてきた。巨大な手がイストの体を摘み上げる。

 顔の高さまで持ち上げられたかと思うと手のひらに乗せられ、視界にはアトラの顔が広がった。振り向けば、ディマがなんだか羨ましそうにアトラを眺めている。
 羨ましがる要素なんてあったかなんて考えは、アトラの声に吹き飛ばされた。

「戦闘訓練は終わりだな。ま、訓練になんてなってねえけど」

 イストの目の前で、大きな唇が動く。体にかかる吐息とちらちら覗く口内が前に咥えられたことを思い出させ、体が無意識に震えだす。

「お? なにビビってんだ?」

 ズイ、と顔が近づく。アトラが声を出すたびにイストの体は反応してしまう。

「……もしかして、口が怖えのか?」

 確認するように大きく開かれた口から、喉の奥がはっきりと見える。それはどんなダンジョンよりも恐ろしく見えた。中には前に全身を舐めまわされた舌というモンスターが鎮座している。

「安心しろって。今度は食べたりしねーから」

 そう言われても怖いものは怖い。猛獣の目の前に置かれて「絶対噛まない」と言われても、そこに居続けたくなんてならないだろう。

「口の中なんかじゃなくて、今からちゃんと幸せな場所に行かせてやるよ」

 アトラはイストの目の前でデコピンの構えをとる。イストはこれからされることを察知し逃げようと振り返るが、手のひらの上では逃げ場がないことに気づく。瞬時に気持ちを切り替えて防御の構えをとった瞬間。

ビシッ!

 ものすごい速さで襲いかかった指がイストを吹き飛ばした。体は手のひらから飛び出し、宙を舞う。

(あ、死んだ)

 この高さから床に叩きつけられたら命はない。自分は仲間が軽い気持ちで行ったいたずらで死んでしまうのかと思い、イストは悲しくなった。
 しかし、床まで続くだろうと思った空中旅行は予想外の速さで終了した。

ふにゅんっ

 柔らかい感触がイストを包み込む。落ちた先はディマの谷間だった。

「きゃっ!」

 ディマは胸を触られたことに驚き、反射的に胸を抱えた。腕で押さえつけられた胸は形を変え、谷前にいたイストをむにゅううぅと挟み込む。

「あっ、ごめんなさい!」

 ぱっと腕を離すと、顔を真っ赤にしたイストが谷間に挟まっていた。

「出てきても大丈夫ですよ」

 笑顔で胸元の小人に語りかけるディマだったが、その口元は普段より緩んでいた。
 イストは恥ずかしさや申し訳なさから早く抜け出そうともがいたが、下半身が包み込まれて抜け出せない。腕に力を込めても、柔らかな胸が沈み込むせいで体が持ち上がらない。もがけばもがくほど全身で胸の感触を味わうことになり、イストの体温は上昇していく。

「え? もしかして出られないんですか?」

 ディマの綺麗な笑顔が徐々に緩んでいき、腑抜けたものに変わっていく。自分の胸でもがくイストを拾うことなくただ見つめていた。

「おいおい、出してやれよ。なんならアタシが出してやろうか?」

 アトラはニヤニヤしながらぬぅっとイストへ手を伸ばす。

「ダメです!」

 ディマは勢いよく体を横に向け、アトラの手を避ける。ぶるんっ!と大きく揺れた胸がイストを襲った。

「イストは私が飼うんです。胸の中で大事にしまってあげて、食事をあげて、トイレのお世話もしてあげて、一緒に寝て、そしてお風呂なんかも……♡」

 話しながらディマはイストへ指を伸ばし、優しく撫でながらデレデレした顔でぶつぶつと呟いていた。
 幸か不幸か、その言葉は巨大な指に翻弄されるイストにはちゃんと聞こえていなかった。

「いや、ずっと小さいままだと冒険に行けないだろ」

 アトラの言葉はディマの耳に届いていない。完全に自分の世界に入っている。

「ダメだこりゃ……。昼飯の時にまた来っからなー?」

 2人を残してアトラは部屋を出た。

 小人化はあくまで状態異常なのでいずれ治るのだが、この先の冒険が少し不安になるアトラなのであった。