その世界では7つの種族が繁栄している。
 荒野でも弱ることなく、自慢の腕力を使った投石で戦うオーガ。ダンジョンのような洞窟に身を潜め、罠や奇襲で狡猾に獲物を狩るゴブリン。海原を泳ぎ回り、航海する者を襲うマーフォーク。森林と共に生き、清らかな心を持って魔法を扱うエルフ。岩山を棲家とし、空を支配するワイバーン。砂漠に身を潜め、迷い込んだものを餌とするサンドワーム。そして最後は、平原に町を作り、多種族に怯えながら暮らすヒューマン。
 どの種族も適した棲家を持ち、多種族の侵入に備えている。しかしヒューマンだけは特別な力を持たず、責められればすぐに壊滅してしまうような種族だ。

 そんなヒューマンのなかで数百年に一度、特別な力を持つ者が現れる。炎や水を生み出したり、空を飛んだり、いわゆる魔法が使える者だ。とは言ってもそれはせいぜい生活に使える程度のもので、異種族との戦闘に使えるようなレベルでは無い。
 しかしヒューマンには、古より伝わる伝説の召喚魔法が存在する。伝説によると、他種族を圧倒するほどの強大な力を持った勇者を召喚することが出来るらしい。一口に勇者と言っても能力は様々で、ある勇者は剣で戦い、またある勇者は魔法を使って戦ったという。勇者がどんな姿をしているのか、そしてどんな戦い方をするのかは召喚してみないと分からないのだ。

 今、また新たな勇者がこの世界に召喚されようとしている。
 自分勝手なヒューマン達は多種族を滅ぼし、大陸を自分たちだけの物にするつもりだ。せっかく魔法使いが存在するこの機会を活かし、勇者には他種族から襲われていると嘘を伝えようと企んでいる。用が済んだら、勇者は元の世界に帰してしまえばいいのだ。

 呪文を唱える魔法使いを囲い、町長をはじめとするみんなが勇者を今か今かと待ち構える。最後の一文を読み上げた時、あたりは眩い光に包まれた。

 光が収まり目を開くと、そこに勇者の姿は見当たらない。その代わり、数キロ離れた場所にペールオレンジの大きな壁が出来ていた。
 誰もが首を傾げる中、1人の若者が突然悲鳴を上げた。腰を抜かしたその若者は空を指差す。釣られて指差す方を見た者も次々に驚き、悲鳴をあげる。指を差したその先には、身長1kmはありそうな大きな巨人が立っていた。突如現れた壁の正体は、巨人の素足だった。

 あまりにも大きすぎて全身を見ることは出来ないが、誰もがそれは女の子だと分かった。足元から見上げると顔が見えないほどに大きく胸が張っていたからだ。こんなものが動き出したら街が壊滅する。そう考えた魔法使いは浮遊魔法を使い巨人の顔目掛けて上昇する。
 腰のあたりまで上がってきた時、空から轟音が鳴り響いた。

「ふわ〜ぁ……。あれ……? ここどこぉ……?」

 パジャマを着ていることから、きっと寝起きなのだろう。眠そうな声が鼓膜をビリビリと震わせる。魔法使いはあまりの大きさを実感して恐怖したが、同時に嬉しくもあった。これだけの力があれば、他種族を簡単に滅ぼすことが出来るからだ。
 大きさは違えど見た目は同じヒューマン。きっと力になってくれるだろうと信じていた。

 とはいえ言葉が届かなければ話にならない。足元に何があるか分からないだろう今、むやみやたらと歩き回られたら他種族を滅ぼす前に自分たちが滅ぼされてしまう。
 魔法使いは交信魔法を使うため、巨人の顔を目指して上昇し続ける。未熟な交信魔法では、遠く離れたものとは通じ合えないからだ。もし使えたとしても、姿も見せずいきなり脳内に語りかければパニックで暴れ出すかもしれない。虫と間違われて潰されるリスクもあるが、魔法使いはとにかく急いで上昇した。

 ねずみ返しのように飛び出た胸を超え、ついに顔を拝むことができた魔法使いは驚いた。ここにくるまでは横に立っているものが本当に人間か半信半疑だったが、そこで見たものは確かに女の子の顔だったからだ。
 わずかな間呆然としていた魔法使いだったが、急いでいることを思い出して我に帰る。こんな巨人と会話できるのはただ1人だけ。ヒューマンの未来が自分にかかっていることを意識し、気合を入れて交信魔法を唱え始める。
 しかしその瞬間……

くしゅんっ!

 女の子がくしゃみをした。言葉にするとそれだけのことなのだが、ヒューマンにとってその威力は計り知れないものだった。顔の前にいた魔法使いはモロに影響を受ける。生まれてから一度も味わったことのない突風を喰らい、魔法使いはあっという間に大陸から抜け出して遥か遠くへと飛ばされてしまった。

「う〜ん……トイレトイレ……」

 少女は寝ぼけ眼で地上をキョロキョロと見渡す。その目は数キロ離れたゴブリンの住む洞窟をとらえた。ヒューマンの町に気づきもせず、巨大な少女は洞窟へと向かって歩き出す。

ズシン……! ズシン……!!

 踏み出した足は道中にある、オーガの住む荒野を襲った。
 戦闘慣れしているオーガ達は巨大な少女を見てすぐに戦闘体制に入っていた。オーガは1体だけでもヒューマン100人に余裕で勝てるほどの力がある。そんなオーガが数十体集まり、5mはあろう大岩を構え、いつでも迎え撃つ準備ができていた。

 そんなオーガ達の頭上に、少女の足裏が現れる。
 大岩を投げつけるが、何事もなかったかのように足裏は降りてくる。オーガ達は全員手を頭上に掲げ、足を受け止めようとした。
 しかしその頑張りもまるでなかったかのように、あっさりと踏み潰されてしまった。

 足元で潰れるオーガに気付くことなく、少女は洞窟へと辿り着く。

「なんだろこれ……? アリの巣かなぁ?」

 しゃがみ込んでよく見るが、大きな少女の目には洞窟の入り口が小さな穴にしか見えない。

ブルルッ

 少女の体が震える。尿意が強まってきているみたいだ。

「まあいいや……ここにしちゃお」

 少女はおもむろにパンツを脱ぎ、下半身を露出させる。みっともなく股を開くと、ピンク色のグロテスクな光景が空に広がった。あまりの大きさに、真下にいる生物達は頭上に突然現れたものがなんなのか理解が追いつかない。
 誰にも見せたことのない少女の秘部が大陸中の生物に曝け出されている。しかし少女は微塵も恥ずかしがっていない。あまりにも小さな存在に気づくことができず、見られているなんて思ってもいないからだ。

 ピンクのひだがヒクヒクと蠢く。遠く離れた場所から見ていた者は少女のポーズから、これから何をしようとしているのかを察した。しかしそれを止める術はなく、ただ見ていることしかできない。

「はぁ……んっ//」

ちょろっ……じょろろろろ

 大河の滝や災害級の大雨すら比較にならないような大洪水が洞窟めがけて降り注ぐ。入り口に収まりきらない太さの水流は外に溢しながらもなお中へ中へと流れ込む。
 歴史上のどんな大雨にも耐えてきた洞窟がみるみると黄色い水に汚染されていく。地下2階、地下3階と次々に下層まで侵入し、中にいたゴブリンが次々に流されていった。
 やがて洞窟の中が満たされてもなお少女の放尿は止まらない。入り口に降り注ぐ洪水は中からの脱出を許さず、ゴブリン達は外に出ることもできずに洞窟の中で1匹残らず溺れてしまった。

「はぁ……スッキリ〜」

 恍惚の表情を浮かべ、いつもの癖で横に手を伸ばす。そこで少女は気づいた。

「あ、拭くものがないや……」

 当然、このちっぽけな大陸に彼女を満足させるサイズの紙なんてあるはずもない。そこで彼女は大陸を囲む海に目をつけた。

「なんかよく分かんないけどきっと夢の中だろうし、適当でいいかな。ふわ〜あ……」

 あくびをしながら海へと向かって歩く。エルフの森の上空を丸出しの下半身が通り過ぎた。
 海へたどり着いた少女は手で海水を掬い取ると、自分の股間をすすいだ。

バシャアッ!

 こぼれ落ちた巨大な水滴が地上に降り注ぐ。巻き込まれていたマーフォークは空高くから地上に落とされ絶命してしまった。

「とりあえずこれでいいかな〜。それにしても、なんだか喉が渇いちゃった」

 少女は四つん這いになり、海へと顔を近づける。その下には海に守られたマーフォークの棲家があった。
 少女の顔が、すぼめた唇が海面へと近づく。何かを察した一部のマーフォークは一目散に棲家を離れ、泳いで逃げ出した。大陸に異変が起きていることを察知して海面へと顔を出していたマーフォークは、つやつやの唇が迫ってくるのを見た。
 海面に着いた唇の隙間が、大量の海水を一気に呑み込んでいく。海面にいたマーフォークはもちろん、棲家に隠れていたものも、逃げ出したものも例外なく海水と共に口の中へと引き摺り込まれた。

ゴクンッ

 何十体ものマーフォークがあっという間に胃の中へと叩き落とされてしまった。
 呑み込んだ当の本人は顔を歪めている。

「ぺっ、ぺっ! なにこれしょっぱ〜い……。湖じゃなかったのかなぁ…..」

 立ち上がり、悲しそうな顔をしながら脱ぎかけだったパンツを履く。しかし履き終わった時、足がもつれてしまう。

「はれ……? わっ!」

ピンクの布に包まれた巨大な桃尻がエルフの森へと振り落とされる。

ズズゥゥゥン!

 踏み潰されずに済んでいたエルフの森だったが、その一部がプリンとしたお尻の下敷きになった。地震とは縁のなかった大陸が、盛大に震える。
 それだけならば被害は一部で済んでいた。しかし不幸なことに、転んだ衝撃が新たな災害を生み出した。

ブウッ!

 お尻からすごい勢いでガスが放出され、エルフの棲家を覆った。聖なる力を持ち、清らかであることを存在意義としているエルフにとって、その悪臭は猛毒だった。生き残っていたエルフも死に至り、残っていた森も棲家として使えなくなってしまった。

 また一つ種族を滅ぼした少女は顔を赤らめて立ち上がる。

「きゃっ、もうやだ〜! 誰も見てなくてよかった〜」

 恥ずかしそうにお尻をパタパタとはたく。このサイズだとそんな可愛らしい動作すらも災害となってしまう。
 尻餅をついた時にお尻についていた大量の木や大地がはらわれ、地上へと降り注いだ。500mを超える高さから降り注ぐそれらは遠くまで広がり被害を及ぼす。

 しかし少女にとっては汚れを払っただけ。彼女は呑気に独り言を呟く。

「見てなくて当たり前かぁ。だって夢だし。でも夢にしてはやけにはっきりしてるな〜」

 眠気が徐々に取れてきた彼女は改めて周りを見る。

「というか私の夢、殺風景すぎない? 水に囲まれた孤島って……。あ、いや、孤島ですらないか。雑草くらいしか生えてないこんな小さな足場なんて」

 ぶつぶつと呟く少女に、数mはあるワイバーンが集まる。棲み家を潰される前にこの災害級モンスターを止める気だ。彼らは少女のお腹に向かい、一斉に炎を吹いた。町の1つや2つ簡単に消し去ってしまう炎が1人の少女に向かって放たれる。
 しかし結果は、少女の服が少し焦げる程度にしかならなかった。いくら頑張っても、その炎は少女の肌に触れることすらできない。

「なんかお腹かゆいなぁ」

 巨大な指が1体のワイバーンを巻き込んでお腹にぶつかる。そのままズリズリと左右に引きずられ、ワイバーンは潰れてしまった。

「ん? なんか潰したような……」

 少女が指を見ると、そこにはワイバーンの死骸が張り付いていた。しかし彼女にとってそれは1cmにも満たない。

「うわっ、虫潰しちゃった。も〜、また胸の下で悪さされてるのかぁ」

 指についた死骸を一息で吹き飛ばして、手でお腹を叩く。残っていたワイバーン達もあっけなく潰されてしまった。手をはたけば死骸は全て下に落ち、残骸は何も残らなかった。

「やる事無いな〜……砂にお絵描きでもしようかな」

 少女は砂漠でしゃがみ込む。地中にはワイバーンより大きく、10mを超えるサンドワームが数体潜んでいる。ヒューマンどころかオーガでさえ丸呑みしてしまうモンスターが潜む砂漠に近寄るものは誰もいない。

 そんな恐ろしい砂漠が、少女にとっては平凡な公園の砂場にしかなっていない。1本でサンドワームの大きさを遥かに上回る指が砂漠をかき乱していく。天敵など存在していなかった大型モンスターが少女に認識すらされず翻弄される様子は、誰も見たことのない光景だった。

 奇跡的に踏み潰されなかったヒューマンを除き、6つの種族が壊滅的な状況に陥った。絶滅しなかった種族も、これから先が見えない絶望に打ちひしがれる。

 何も知らないヒューマン達は、魔法使いが巨人と交渉した結果なのだと思い大喜びしている。あとは魔法使いが巨人を元の世界にかえすだけだと安心した。
 しかし魔法使いは遥か彼方。巨人はこの世界からまだかえらない。

「やっぱつまんな〜い! もう寝ちゃお。そしたら目が覚めるでしょ〜」

 膝立ちになった少女が、ヒューマンの住む町へ倒れ込んでくる。町をいくつも飲み込めるほどの爆乳はまるで隕石のようだ。
 町からはいくつもの悲鳴が上がる。「助けて!」「おい魔法使いもう十分だ! 早くかえせ!」「どうしてよ! 勇者様じゃないの⁈」「いやああああああああ‼︎」

ズドオオオオオオオオォォン!

 悲鳴は少女の耳に届かず、町は胸の下敷きになった。ヒューマンは少女の胸一つで全滅してしまった。その後も少女の寝返りにより、いくつもの種族が潰されていく。

 数時間後、ボロボロの体でなんとか戻ってきた魔法使いが眠っている少女を元の世界へかえした。しかしその時にはもう大陸のほとんどが少女の体に押しつぶされ、まともに住める環境ではなくなっていた。