行方不明者が多発するとある学園で、小学生と間違われそうな体型の少女が呟く。

「とりあえず、探偵さんの言ってた科学研究部の人を探せばいいんですね」

 周りには誰も見当たらず、スマホやイヤホンマイクを耳にしているわけでもない。呟く言葉はまるで独り言のようだが、それは確かに彼女のそばにいる男に向けられた言葉だ。彼女は自身の胸に向かって話しかけている。そこにあるポケットの中には、縮められて虫のようなサイズになった探偵が入っていた。



ズン……ズン……

 全身を隠すほど巨大な布の奥、体の遥か下から大きな足音が響いている。1人ではまともに探索できない俺は、小さな中学生の胸ポケットに入れられていた。背中から布越しにほんのりと熱気を感じる。

(今俺の後ろには、助手くんの胸があるんだよな……)

 助手くん本人に入れられたとはいえ、胸のすぐそばにいることに罪悪感を感じる。この罪悪感は昨日感じたものと似ていた。

 昨日、まだ普通の人間サイズだった俺は助手くんとファミレスで食事をしていた。
 食いつくように机に置かれたメニューを覗き込む助手くんを微笑ましく見ていると、その無防備な胸元からぺったんこな胸が見えてしまった。ブラを着けていないようで、先端まで丸見えになっている。
 体は小学生とはいえ彼女は中学生。恥じらう気持ちはあるだろうと考えた俺は注意するかどうか悩んだ結果、見なかったことにした。

 その後は意識を逸らすためにひたすら話した。以前依頼で探した迷い猫はどうなってるかとか、学校で流行ってる噂はないかとか。少食で痩せ細っている彼女に「もっと食べないと大きくなれないよ」なんて事も言ったっけ。

「大きくなれないのはどっちだろうな……」

 そんな独り言も助手くんの足音にかき消されてしまう。今の俺はそれほどまで小さい存在になってしまっていた。助手くんが歩くだけで全身を揺らされ、助手くんが着ている服の中で甘い香りを含んだ熱気に包まれる。時間が経つほどそれはポケットの中に充満し、俺の意識は助手くんの体に侵されていく。朦朧とする意識の中で、大きな声が響いた。

「すみません、歩き疲れちゃったので1度保健室で休みますね」

 ガラガラと扉が開く音が立ち、助手くんは俺の返事を待たずに保健室に入る。きっと返事をしたとしても俺の声は服に遮られて届かない。それは助手くんも理解しているんだろう。もしくは、毎回叫ばないといけない俺に対する気遣いなのかもしれない。
 服の中という普通の人間ならありえないほど近い場所にいるのに、会話すらまともに出来ないことを思い知らされる。こんな俺に未だ敬語で接し、慕ってくれている助手くんの優しさが胸に沁みる。それと同時に、自分の情けなさに泣きそうだ。
 ぼーっとする頭で上を眺めているとポケットの入り口が開き、大きな顔に覗き込まれた。

「それじゃあ、降ろしますね」

 爪だけでも俺よりも大きな指が2本、ポケットの中へと侵入してくる。その指はどちらか片方が俺の体を撫でるばかりで、一向に俺の体を摘まめない。

「あれ? あれ?」

 可愛らしい声でなんとか俺を摘まもうとする助手くん。しかしその動きは俺のいる空間を大きく揺るがした。床もなく安定なんてしないポケットがたわみ、指に引っ張られて上下左右に動く。まるで荒波に揉まれる船のようだ。
 何度か転がされたところで揺れが止み、指はポケットから離れていった。

「ごめんなさい。小さくて持てないので、自分で出てきてもらってもいいですか?」

 【小さい】という直球な言葉は俺に効いた。きっと悪気なんてなく、思ったことを正直に言っただけなんだろうけど、だからこそ凹む。事実だから仕方ないんだけれど……。
 それにしても、自分で出ると言ってもどうやって? こんなに高いところを登れるわけは無い。考えているとポケットが傾き、上にあった出口が横に向かって倒れた。

「どうぞ。出てきてください」

 その言葉に従い、出口に向かって歩く。よく考えると、今俺は胸の上を歩いているんだよな……。意識してしまうと、足の裏に感じるこの柔らかさが布の感触なのか胸の感触なのか分からなくなった。顔を赤くしながらポケットから出ると、助手くんの手が置かれていた。奥には優しく微笑む大きな顔がある。

「出てきましたね。それじゃあ乗ってください」

 苦労して手の上に乗ると、ベッドに横たわっていた助手ちゃんは俺を腰の横に置いた。

「探偵さん。私が寝ている間にまた1人でどこかに行ったりしないでくださいね」

 どうやら、助手くんに黙ってこの学園に潜入したことに納得していないらしい。

「分かったよ。ちゃんとここに居る」

 まあ、もしどこかに行きたくなってもこんな体じゃ1人でベッドから降りることすら出来ないだろうけど。
 俺をじっと見つめていた助手くんは安心したように笑い、眠りについた。すうすうと可愛らしい寝息が聞こえる。

 さて、特に探索も出来ないし、今のうちに情報をまとめることにしよう。ポケットに手を突っ込み、探偵手帳を取り出そうとする。しかしそこには何も入っていなかった。

「ん?」

 スカッと何度もからぶる手。おかしい。確かにここに入れていたはずなのに。
 慌てて全てのポケットを探すがどこにも見当たらない。助手くんと合流するまでは確かにあったのに。

 嫌な予感がする。
 もしかすると、助手くんのポケットの中で落としたのかもしれない。心当たりはある。きっと助手くんが俺をつまみ上げようとした時の揺れで落としてしまったんだろう。
 しょうがない。またポケットに入れてもらった時に探す事にしよう……。

 ……いや待った。そんな悠長なことは言ってられない。
 あの中に充満していたクラクラするほどの熱気は水分を含んでいる。このまま放っておくと探偵手帳がふやけて使い物にならなくなってしまうかもしれない。
 俺は急いで取りにいくことにした。

 いざ登ろうと助手くんのシャツを目指す俺だったが、すぐにその無謀さに気がついた。
 助手くんの体重でベッドは沈み、体の横から登ろうにも鼠返しになっている。おまけに助手くんが呼吸をするたび上下する体は、何度もその鼠返しをベッドに押し付けているのだ。ただでさえ登るのが困難なのに、あんなところでモタモタしていると潰されてしまう。

 俺はシャツから登ることを諦め、まず髪の毛をつたって顔に登ることにした。胸からは離れてしまうけれど、何はともあれ体の上に登るのが先だ。
 髪に向かって長い道のりを歩きだす。横にある巨大な体はいつ寝返りを打つか分からない。ヒヤヒヤしながら1kmはあるんじゃないだろうかと思う距離を歩く。シーツの皺ですら今の俺にとっては巨大な障害物だ。助手くんなら寝転がったままでも一瞬で運べてしまうのに、俺1人だとこんなにも遠い道のりなのかと悲しくなってしまった。

 やっとの思いで髪の毛にたどり着いた俺は休むことなく顔の上を目指した。体の上を歩き回っているなんて助手くんに知られるわけにはいかない。それにもし今起き上がられてしまったら、転がり落ちて体の上で迷子になってしまう。なんとしても助手くんが起きる前に探偵手帳を拾って元の場所に戻らないとならない。

 顔の上は圧巻の光景だった。遠目からは何度か見た大きな顔だったが、触れられるほどの距離だとその迫力は桁違いだ。巨大な建造物を遠くから眺めるのと、その根元から眺めるのでは迫力が違う。その違いを人の顔で感じるとは思ってもいなかった。今瞳は閉じられているけれど、もし開いてしまったら俺は怖くて動けないだろう。きっと蛇に睨まれた蛙の気持ちを体験するに違いない。……本当は同じ人間同士なはずなのに。

 いつ開くかと目を気にしながら、ぷにぷにしたほっぺを通り過ぎる。その時、スゥスゥと落ち着いていた寝息が急に止まった。

「んぅ……むにゃ……」

ペロッ

 ぷるぷると水々しい唇の間から巨大な舌が飛び出す。それは唇を這って俺の元へと一気に近づいてきた。咄嗟のことで体が動かない。

(食べられる!!)

 強張る俺の目の前で舌は止まった。まとわりついた唾の匂いが俺の鼻をくすぐる。
 舌はうねうねと動いたかと思うと、そのまま唇の中にしまわれていった。

(危なかった……!)

 もう少し近づいていたら舌に絡めとられ、寝ぼけた助手くんに食べられるところだった。
 俺は急いで顔から飛び降り、首をつたって胸ポケットを目指す。

 襟元から制服のシャツに登り、白い布でできた地面を歩く。後ろから聞こえる寝息とそれに合わせて上下する動きから、自分の足元にあるのは生き物なんだとはっきり分からせられた。寝ている女の子の上を歩き回るだなんて申し訳ないと思いつつも、俺は歩みを進めた。

 ようやく胸ポケットにたどり着いた俺は、障害物走の網を潜るように入る。テニスコートのような広さを探し回ったけれど、探偵手帳は見つからなかった。
 ここ以外に心当たりはないし、手帳が隠れるようなものがあるはずもない。なら一体どこに?

 悩んだ俺はもう一度手帳の見た目を思い出し、あることに気付いてしまった。
 手帳は当然俺よりも小さい。それも、俺の手のひらに乗る程度に。そして足元に広がる地面は布で出来ていて、繊維には隙間がある。

(もしかして服の中にまで落ちてしまったのか……?!)

 まさかそんなはずはないと再び辺りを探す。けれど見つからない。となったらもう、探す場所は1つしかない。俺はドキドキしながら胸ポケットを後にし、シャツを留めているボタンとボタンの間にやってきた。
 ブカブカのシャツはたわんでいるところが多く、簡単に中まで入れそうだ。光も差し込んでいるため、暗くて困ることはないだろう。それでも、流石にこれは一線を超えてしまうんじゃないかという不安が待ったをかける。とはいえ探偵手帳を放っておくわけにもいかない。あれには大切な情報がたくさん詰まっているんだ。

(助手くん……。ごめん……‼︎)

 俺は意を決して服の中へと侵入した。

 服の中は助手くんの熱気と香りで一杯だった。足元の肌から直接発せられるそれらは、胸ポケットにいた時とは比べ物にならないほど強烈だ。助手くんとは何度も接していたはずなのに、彼女からこんな香りがするなんて小さくなるまで知らなかった。それもそのはず、彼女はまだ女子中学生だ。しかも数ヶ月前まではまだ小学生で、今でもその体は小学校高学年の子達よりも幼く見えるほど成長が止まっている。そんな彼女から発せられる、本来なら感知することが不可能なほどの匂いも、この小さくなった体にとっては女性的な匂いを濃縮した強力な媚薬に感じてしまう。
 ただの少女。いや、普通よりも幼い体の少女の匂いに興奮させられてしまった俺は、自分がいかに矮小な存在なのかを分からされてしまった。

 胸ポケットの裏へ向かって歩くが、助手くんの胸は起伏が少なくて今自分がどの辺りを歩いているのかよく分からない。それでも歩き続けていると、目の前にピンク色の地面が現れた。こんな所にあるピンク色のものなんて決まっている。それでも、自分より大きなそれが何か理解するのを脳が拒んでいた。
 違う、これは頭に一瞬浮かんだあれじゃない。あれが自分より大きいはずがない。そう言い聞かせながらも前に進むと、ピンクの地面の中央がぷくりと飛び出していた。
 こんなものを見せられたら、もう現実逃避は出来ない。認めるしかないのだ。足元のこれは乳輪なのだと。自分は乳輪よりも小さな存在になってしまったのだと。
 はたから見ても分からず、本人しか分からない程度の小さな膨らみ。ブラが無くとも形は崩れず、着けていなくとも普通サイズの人間から見たら起伏なんて感じられない。そんな小さな胸にすら体積で負けるほど俺は小さいのだと思い知らされた。

 自分の小ささを目の当たりにしながらも探索を続けていると、探偵手帳を見つけることが出来た。俺は急いでベッドの上に戻ることにする。またボタンの隙間から戻るのは遠回りなので、今度はスカートから降りることにした。体の丸みで滑り落ちないように、なるべく真ん中の方を目指して歩く。

 少食な助手くんの体には脂肪が少ない。浮き出た肋骨は胸よりも起伏が激しくて乗り越えるのに苦労した。
 おまけに体内の音を遮る皮下脂肪も少ないせいで、お腹の上を通る時に食べ物を消化する轟音が聞こえてくる。普段ならお腹の音が聞こえるなんて可愛いことだけれど、今はまるで自分が消化される音を聞かされているようで怖かった。
 上下に動くお腹。足元から響く消化音。たまにモゾモゾと動き、いつ寝返りを打つか分からない体。ただ寝ているだけの女の子の生理現象に俺は命を握られている。その恐怖に怯えながらなんとかスカートにたどり着くことが出来た。

 皺に苦戦しながらもなんとかスカートを辿ってベッドの上に降り、元居た腰の横へと帰ってくることが出来た。疲れた俺は寝っ転がり、助手くんが起きるのを待った。





「ん……。んぅ〜」

 助手くんが起きて伸びをする。今からまた胸ポケットの中に入れられるんだと思うと恥ずかしいけれど仕方がない。けれど潰されるよりは遥かにマシだ。下手に動いて潰されないように、俺は助手くんの手が伸びてくるのを待った。

「……あれ? なんで私、保健室にいるんでしたっけ……。早く出ていかないと……」

 寝ぼけた助手くんは俺のことを忘れているようで、お尻を軸にしてベッドの外へ足を投げ出す。気付いてくれと叫ぶ暇もなく、体の何倍もある太ももがすぐそばに振り下ろされた。

ズンッ!

 むにぃぃっと柔らかく形を変えた太ももは強風を起こし、その風圧で俺は吹き飛ばされてしまった。

「あっ! そうだ、探偵さん!」

 助手くんは俺のことを思い出してくれたようで、ベッドを見下ろしている。しかしそこに俺の姿はない。

「あれ? ここに置いたはずなんですけど……。小さくて見えてないんでしょうか」

ギシッ!

 ベッドを軋ませ、助手くんが四つん這いになる。

「探偵さんどこですか?」

ズンッ!ギシッ!

 手足が動き回り、何度も振り下ろされる。その度にベッドが凹み、バネが軋む。

「探偵さ〜ん?」

ズンッ!ギシッ!ズンッ!

 俺の姿は皺に隠れ、助手くんからは見えていないらしい。手足がすぐ近くに振り下ろされる度、俺の体はベッドの上を飛び跳ねた。そして俺はついにベッドから落とされてしまった。

「うわあああああああ!」

ドンッ!

 全身に衝撃が走る。しかしその衝撃は思っていたより遥かに小さく、骨一つ折れることはなかった。どうやら体が小さいと落下の衝撃も小さいらしい。
 でも安心している暇はない。床にいると踏まれてしまうかもしれないからだ。
 急いでベッドの下へ潜ろうと思って立ち上がると、目の前には大きな壁が反り立っていた。

「なんだこの壁……」

 壁は俺を囲むように湾曲していて、振り返るとまるでトンネルのように上下左右を囲っている。天井に空いた穴の形には見覚えがある。俺はどうやら助手くんの上履きの中に落ちてしまったらしい。
 なんとかしてここから出たいが、ねずみ返しになった踵部分はどう足掻いても上れなさそうだ。

 途方に暮れていると、唯一の出入り口から助手くんの声が降り注いだ。

「もしかして、床に落ちちゃったんでしょうか……」

 ベッドで出来た崖からぬぅっと巨大な足が飛び出し、その足裏がこっちに向かって降りてくる。

(踏み潰される……っ‼︎)

 反射的にトンネルの奥へと全速力で逃げる。足裏に降り注ぐ光を遮られ、どんどん上靴の中が暗くなっていく。ズウンという音に振り返ると、5本の指を纏った靴下が後ろに鎮座していた。

ズズズズ……

 靴下に包まれた足がぐんぐん近づいてくる。必死に逃げたが、たどり着く先は行き止まり。もうダメかと思ったその瞬間、巨大な足は進むのを止めた。
 そういえば、助手くんにとって潜入用の服はブカブカだった。という事は、この上靴もブカブカに違いない。俺は助手くんの体が未発達だからこそ助かったのだ。

 ほっとした俺は安堵のため息をつく。そして息を吸い込んだ瞬間、強烈な刺激臭が鼻を襲った。ツンとくるその刺激の強さで思わず涙が出る。むせたせいで吐き出した分息を吸い、さらに鼻が痛くなった。
 この臭いは助手くんの靴下から発せられたものだ。今日1日歩き回った彼女はたっぷりと汗をかいていて、靴下には汗と臭いがしっかりとしみついてる。胸の上には甘い香りが媚薬のように充満していたけれど、それと同じように、上靴の中には少女の足から発せられる臭いがまるで危険な薬品のように充満していた。

 ずっとここにいたら臭いで死んでしまう。急いで出ないと……!!
 かといって、自力で出る事は出来ない。唯一の出口は目の前の足に塞がれている。ここから出るには助手くんに気付いてもらうしかない。

 俺は気付いてもらうために靴下へと近づく。近づくほど臭いは強くなり、鼻が曲がりそうになる。それでも声が届かない以上助手くんの足を叩くしかない。俺は涙目で巨大な足指に飛びかかり、思いっきり殴った。

 それでも、足指はぴくりとも動かない。

 俺の拳は布に吸収され、指の表面にすら衝撃が伝わらないのだ。
 息が苦しい。喉が焼ける。涙が止まらない。俺は助手くんの靴の中で死んでしまうのか?
 どうせ死ぬなら、胸ポケットの中の方が良かったな……

 その時俺は思い出した。胸ポケットの中から探偵手帳が落ちていたことを。小さな手帳が、服の繊維を通り抜けたことを。

 まだ終わってない。服越しがダメなら調節攻撃すればいい。
 俺は一か八か、靴下の繊維の中へ潜り込んだ。小さすぎる体はジメジメした靴下の中へと入り、やがて目の前に素足が現れた。
 汗で湿った足裏は、目の前にあるだけで兵器だ。すでに最大の刺激だと思っていたのに、中はそれを上回るほどの刺激臭がする。

(頼む! 気付いて! 出してくれ!)

 声を出すと口の中が攻撃的な空気に襲われてしまうため、無言で思い切り叩く。それでも足指は動かない。

(もっと痛い場所は……そこだ!)

 俺は全身の苦痛に耐え、爪の隙間を思いっきり殴った。

「あれ? 今なにか、チクっとしたような気が……?」

グオオオオオ

 体が持ち上げられ、足指ごと俺を包んでいた靴下が離れていく。やっと新鮮な空気が吸える……。
 ポロリと落ちた俺は手のひらに受け止められ、大きな顔が俺を覗き込んだ。

「探偵さん⁈ なんでそんなところにいるんですか⁈」

 心配そうな、それでもって恥ずかしそうな顔。
 助手くんはまさか自分のせいで俺がこんなところにいるなんて思ってもいないだろう。
 俺を探す時には気をつけてくれと言いたいけれど、今大声を出す気力は無い。

「もう。どこにも行かないでくださいって言ったじゃないですか」

 助手くんはぷりぷりと可愛らしく怒って俺を胸ポケットにしまう。
 さっきまで感じていた刺激を掻き消すような甘い香りに包まれ、俺はまた胸ポケットの中で揺らされるのだった。