社会人になってからまともな休みも取れなかったが
担当のプロジェクトが一息ついた頃、漸くまとまった休暇を取ることが出来た。

季節は初夏に差し掛かっていた。
昔から気になっていたあの事についてはっきりさせたくて旅に出ていた。

目的地は祖父の育った山奥の集落。
今となっては廃村となり誰も住んではいない。
子供の時に連れて行ってもらった時はまだ何家族かが暮らしていた。
村に続く道路も閉鎖されており、バイクでしか行くすべは無かった。

この季節になると決まって同じ夢を見る。
山間の小さな神社の境内で麦わら帽子をかぶり、
白いワンピースを着た一人の女性が手招きしている。

子供の頃の記憶なのだろうか、それとも何かあるのか。

爺さんが腰を悪くしてから渋々息子夫婦の家に同居している。
出発する前に爺さんに旅の事を言ったら、
「そうか、そうか。コレを持っていくとええ。」
と言って何やら懐かしそうな顔で飴玉をくれた。

最後に人を見かけてから何時間くらい走り続けただろうか。
人里からかなり離れた山奥、手入れもされずボロボロになった道をひたすら走り続けて数時間。
もう少しで日が暮れようかという頃、ヘトヘトになりながら目的地に到着した。

既に朽ちかけた家も何件か有ったが、爺ちゃんの育った家は寝泊りする分にはまだ健在だった。
バイクに積んできた寝袋を広げる。
長旅で疲れていたので、自分でも気づかないうちにすっと眠りに落ちていた。
不思議と怖さや寂しさといったものは感じなかった。


───そしてまた彼女の夢を見た。


いつもはぼんやりとしていて映像だけの夢だったが、
この日に限っては色鮮やかに、そしてはっきりと彼女の声まで聞こえてきた。
「待っておったぞ・・・。」

朝、目を覚ますと家の前の小川でさっと顔を洗い、村の中を探索に出かけた。
ポケットの中には爺さんにもらった飴を持って。

探索を始めてすぐに小さな神社があるのが目に入った。
まさに、夢で見た神社だった。
ただ、夢で見た神社ではあったが草は生い茂り、石灯篭は倒れ荒れ放題になっていた。
居ても立ってもいられなくなり荒れ果てたの神社の片付けを始めていた。

片付け始めてから数時間、ようやく片付き始めた頃
お社の縁側で一休みすることにした。

───木々の枝が風で揺れる音が心地良い。
そしていつの間にか眠りに落ちていた。

まどろみの中、気が付くと弾力のある膝枕が心地良い・・・。
「くぁwせdrftgyふじこlp !!」
驚きの余り声にならない声を上げて、飛び起きてしまった。
目の前には、いつも夢で見た彼女があの姿のままで座って微笑んでいた。

れれれ冷静になれ・・・これは罠だ。
大きく深呼吸をして、思考を巡らせる。

人里離れた山奥の廃村に普通に考えて人がいる訳がない。
しかも美人で膝枕サービスなど有ろうはずもない。
これは夢か幻、あるいは妖の仕業に違いない。

彼女はちょっと不機嫌そうにほっぺたを膨らませるとこう言った。
「夢でも幻でもなければ、妖でもないわい。」

頭の中を読まれた・・・。

さらに驚き、思考が停止する。
言葉を失った自分と彼女の間にしばらくの沈黙が流れる。

その時、ふとポケットに爺ちゃんに貰った飴玉を入れていたのを思い出し、
一つ取り出すと自分の口に放り込んだ。
それを見ていた彼女は、言葉にこそ出さないものの目をキラキラと輝かせ
物凄く物欲しそうなオーラを放っていた。

「た、食べる?」
聞くまでも無いとは思ったが、飴玉を舐めながら恐る恐る聞いてみる。
うんうんと大きく首を縦に振っている。

「それじゃ、あげるからちょっと待っ・・・」
言い切る前に彼女は飛び上がると俺の両頬に手を当て、不意に唇を重ねてきた。
そして舌を絡め、口の中から飴玉を上手に奪って行った。
奪った飴玉を舐めながら彼女はうれしそうに微笑んでいた。

しばらくして冷静さを取り戻すことができた俺は、彼女の事を色々聞くことができた。
何でも、昔からこの地で山々を守る神として祀られてきた存在らしい。
人が住まなくなり神として認識されることが無くなると徐々に力を失いつつあったと。
普通だったら絶対信じない所だが、何故かその時はすんなりと受け入れていた。


「お前さんには世話になったな。お陰で少し力を取り戻すことが出来たわい。
何か礼をしたいが、お前さんの望みは何じゃろうか。」
そう言うと彼女は俺の額に自分の額をそっとくっ付けると、
目を閉じて何やらぶつぶつ言っている。

先ほど自分の考えが読まれたことを思い出したが、
彼女の綺麗に整った顔が目の前にある。
先ほど触れた艶やかな唇が目の前にある。
彼女の肢体から発するフェロモンにも似た香りに包まれる。
頭の中では離れようとしたが、体は決して離れようとはしなかった。

やばい、マジやばい!これ絶対に頭の中を覗かれてる!!
彼女いない歴=年齢の健全なGTSやshrink好きの年頃の男の頭の中なんて覗いても
あんな事や、こんな事や、そんな事しか入ってないのに!!


しばらく沈黙が続いたが、彼女の頬が徐々に赤く染まりプルプルと震えている。
そして彼女は赤ら顔で俺の目を見て言い放った。

「変態じゃー!変態が出たぞー!」

俺は間髪入れずにこう言い返した。
「変態じゃないよ。仮に変態だとしても、変態という名の紳士だよ」と。

そう答える間にも彼女の身体がまぶしく輝き始める。
目眩にも似た感覚に襲われ、そして意識が遠ざかっていった・・・。

──────

「お前さんよ、そろそろ起きぬか。寝たままだと礼もできんでの。」
上からの声にようやく意識を取り戻す。

声の方を見上げると彼女の恥ずかしそうにした顔が見える。
見える・・・見えるが超でかい!
さっきまでは自分と同じくらいの身長だったのにちょっとしたビルくらいある。

「お前さんのストライクゾーンど真ん中の7cmくらいに縮めたでな。」
「ガタッ、キタコレ!」