エロなし。(次話より)
ほのぼの系。
シュリンクもの。

─── プロローグ ───

俺の名前は朱里ニナタ。
今年から大学生だ。
親父は海外に赴任中で、心配症の母は一緒について行っている。
そのため今は自宅マンションに一人暮らしをしている。

7月の前期試験も終わり、来月から2か月間の夏休みに入る。
俺は自由に使えるお金が欲しくてアルバイトを探していた。

「なかなか良いバイトないな~」
大学のバイト斡旋の張り紙を眺めながらため息をつく。
すると丁度そこに事務のお姉さんが新しい求人表を貼り付けて行った。

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【募集内容】
研究開発のアシスタントおよびモニター
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「こ、これは・・・」
自給は悪くない。いや、むしろ良い。
勤務時間は長いが、食事付きというのが有りがたい。
さっそくアポを取って面談を受けることにした。

「場所はここのはず・・・なんだけど」

自宅からすぐ目と鼻の先にあるビルの地下1階。
入口に表札が掛かっていた。
───MAD科学研究所。

「あ、あかん。これあかんやつや。」
そのままそっとUターンして立ち去ろうとした時、不意に後ろから声を掛けられた。

「君、電話くれた朱里くんでしょ?」
恐る恐る後ろを振り返る。
そこには白衣を着た少し年上の女性がニッコリと笑っていた。

しばらく俺の事を舐め回すように眺めると
「うん、君、採用ね!」
と話も聞かずにバイトに採用されてしまった。

「それじゃ自己紹介するね。
私の名前は彼出遊子。遊子って呼んでね。」

「それじゃ仕事について説明するけど、実は今度作った試作機のモニターを頼みたいの。」
そう言うと厳重に管理された研究所の奥に案内される。
いくつもの用途の分からない装置が所狭しと並んでいる。

「これが今作ってるやつね。物質転送装置なんだけど。」
「・・・えっ?」

思わず聞き返してしまった。
そんな装置が完成してたらニュースどころの騒ぎではない。

「実際に見てもらった方が早いと思うから、一回動かしてみるわね。」
直径1メートルくらいの透明の筒状の装置が二つ並んでいる。
どうやら片方が送信装置で、もう片方が受信装置の様だ。

「何がいいかなっと・・・」
そう言うと遊子はおもむろにスカートの中に手を突っ込んでパンツを脱ぎ始める。
突然の事にあっけに取られている俺に脱ぎ立てホカホカのパンツを手渡した。
「それじゃこれを転送してみるから、転送前の状態をしっかり覚えておいてね。
色とか、柄とか、臭いとか・・・(*/∇\*)キャ」

「だめだ、この人。早くなんとかしないと・・・。」
ポツリと呟きながら言われるがままに装置にセットする。

「それじゃ転送装置動かすわよ!ポチッとな。」
送信装置がまぶしく光ったかと思うと、パンツが光の粒子となって空間に消えて行った。
そして反対側の受信装置の方では光の粒子が現れてはパンツを構成していく。。

「チーン」

うちの台所で聞いたことがあるような音がしたかと思うと受信装置側のドアが開く。
そこにはあのパンツが・・・。

恐る恐る手に取って、まじまじと見つめる。
色、柄はさっき見たパンツとまったく同じに見える。
まさかと思いながら臭いを嗅いでみたが、臭いまで全く同じだった。

「遊子さん、この装置マジもんじゃないですか!」
俺の中ですでに博士は尊敬の対象となっていた。(性格を除く)

「で、これどういう原理なんですか?教えてくださいよ!」
興奮冷めやらぬまま聞いていた。

「うん。よくぞ聞いてくれた・・・。
が、その前に右手に握りしめているそれを返してもらっていいかな?
どうしてもと言うならあげてもいいけど(*ノ▽ノ)イヤン」

俺は無言でそれをポケットに突っ込んだ。

結局の所、三行で説明するとこういうことらしい。
1.送信装置側で一旦素粒子状態まで完全にスキャン
2.受信装置側では情報をもとに素体を構築。例えるなら3Dプリンターで出力するような感じ。
3.仕上げにオリジナルから電子のスピン状態やら何やらを転送先に構築した素体に転移させて完成らしい。

厳密にはそのものを運ぶのではなく、同じものを別の空間で再構築するということらしい。
転送先であらかじめ素体を構築する必要があるため、素体の元が必要だとか。

「で、話は相談なんだけどさ・・・
最終的に君にはこれのモニターやってもらいたいんだけど、いいよね?」

「つまり、俺で人体実験させろと?」
「そうそう、マウスとかでは上手く行ったんだよ?転送後も元気にしてるし。
でもやっぱり自分で試すの怖くってさ・・・だから、オ・ネ・ガ・イ(ハート」

前屈みで胸を強調しながら、上目使いでお願いしてくる。
「上手く行ったらいろいろサービスしちゃうよ♪ いろいろと・・・。」

俺は純粋に科学の進歩のため、この身を差し出す所存である。

それから2週間程かけて何度も実験を繰り返した。今の所、成功率は100%だ。
遊子の性格には重大な欠陥があるが、腕は確かだった。

───そして人体実験の本番当日。
俺が送信装置に入るとドアがロックされる。
緊張からドキドキが止まらない。

「それじゃ準備はいいかな?朱里クン」
俺はコクリと頷く。

いつもの様に遊子がボタンを操作する。
何百回と見慣れた光景だ。
俺の身体は光に包まれていく。
そして受信装置側で再構築されて実験終了───のはずだった。

ただし、このときはいつもと違って
受信装置のディスプレイに次のメッセージが出ていた。

「トナーが消耗しています。交換してください。」
「転送を継続しますか?(Y/N)」

画面のメッセージを見ると、またかという表情でトナーを引っこ抜き左右に揺すりながら呟いた。
「大丈夫、まだいけるわ。」
そう言うと遊子は何事も無かったかの様にトナーを元に戻し、決め顔でターンッとENTERキー叩いた。

転送中の俺はそんな事知る由もなかった。

マシンは唸りを上げて再び動き出す。
光の粒子が収束し、再び俺という存在を再構築し始める。
手や足に、そして耳や目にじょじょに感覚が戻り始める。

「遊子さん!やりましたよ!!」
まだ眩しさで視界がぼやけていたが、俺は歓喜の声を上げた。

だが、その横の受信装置の画面には新たなメッセージが表示されていた。
「トナー不足のため省エネモードで実行されました」と。


つづく