「胸」って書くより「おっぱい」のほうがえっちぃ不思議。

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「……さて」
腰まで伸びる長い白髪が美しい、純白の羽が生えた少女。天使がそう呟くと、臍ほどの高さのテーブルの上に、1メートル四方の模様が浮かんだ。

否、それは模様ではなく地形。裁きの対象として選ばれたその平面の世界は、今ここに転送されたのだ。

天使と世界の縮尺比は、およそ1000万対1。天使からすれば手が届かないところがない狭い範囲だが、その10000km四方の世界には数十億もの知的生命体が栄光を築いていたのだ。

彼らは気付いた。これまで世界を囲うように存在していた頂上の見えない果てしない壁――まあ、世界を管理するための枠組なのだが――が無くなっていることを。

ただ、一切纏わぬ天使の白いお腹の写る一方だけには、肌色の壁が新たに作られていたように見えただろうか。

変化に不安を抱く者もいたが、世界が広がったことへ期待した者はよりたくさんいた。新たな世界に皆夢を見たのだ。

――数分だけの、儚いものだったが。

 

現れた世界を前に、天使は手元のデータを眺める。

その資料によると、どうやらA国の侵略行為が残虐的であり、対処せよとのこと。位置としてはおおよそ中央辺りか。

それを確認すると、天使は表情を変えることもなく、おもむろに手を差しのべた。

端から見れば小さくて可愛い、しかし彼らにしてみれば1600kmの破壊的に巨大な手のひら。

それは彼らが視認できる距離に入った次の瞬間には地と接していた。

その衝撃は世界中を揺るがすほどの……いや、その振動は実際に世界を揺さぶった。何せ天使からして数mm動いたとすればそれは数kmを上下する大地震となるのだから。

「……あ」

ここまで無表情を貫き通してきた天使だが、ここでようやく眉を潜めた。本来ならば他への干渉を切っておくべきなのだがそれを忘れてしまったからだ。

だが既に事は成されてしまった。彼女からは解らないが、存在する万物は世界を揺るがす振動の中て粉々に砕け散ってしまった。天使が手を押し付けただけで世界は茶色く崩壊してしまったのだ。

「……いいか」

世界ひとつなど天使からすればたかだかその程度の認識だった。

――手のひらが押し付けられたA国に存在していた万物が、構成する原子すら圧壊させられていたのは言うまでもない。

 

次に転送されてきた世界は、一面銀色に輝いていた。これ程までに発展した世界は珍しい。天使も数秒見つめるほどに驚いていた。

「……高度な技術発展により、他世界への干渉の恐れあり」

データによれば、かなり発展しているらしい。

「……了解」

しかしどうやら、資料には続きが記されていたようだ。その内容は胸で破壊せよとのこと。天使に理由は解らないが、女神様より渡された指令なのだから、そうするだけである。

「……っしょ」

天使はそう短く呟くと、テーブルの角に手を付き、上半身を傾けた。

何かされたのかもしれないが特に感じることもなく、その巨乳はストンと地へと着地した。先ほどとは違い胸だけの自重であったが、下敷きとなった範囲が粉々に磨り潰されたのは変わりない。

しかし、物理的以外の干渉を切っているため一瞬で世界が崩壊することは無かった。

「……っん、っん」

塵みたいに小さい世界だが、全てを破壊するとなると面倒だ。

といっても、なにかいい方法があるわけでもない。そう考え、まずは東から胸を地に滑らせながら破壊を再開した。

 

転移すらも技術として確立したその世界が、次元を越えるのも時間の問題であった。それほどに高度に発展した化学は、人々に幸福な日々届けた。非常に高い人口密度を誇り、人口が2000億人に達するほどに世界は完成されていた。

――だが、皮肉にも人の分際で持ちすぎた力は神々の目に触れてしまったのだ。

 

果ての壁が取り除かれ、彼らが動揺している間に破滅はやって来た。

突如頭上からやって来たおよそ直径1800kmにも及ぶ超巨大な物体。視認できた時には既に地に墜落しており、100にも及ぶ都市と、そこに暮らしていた200億人もの命が失われた。当然、胸は一つだけではない。反対の胸でも同じだけの都市が粉砕され、人々が圧し潰される。

あまりに非現実的な光景に打ちひしがれる人々。だが、そんな人々などお構いなしに天使のおっぱいの蹂躙は続いた。手始めにただ乗せていただけの胸をむにゅりと押し込めば。天使からすればギリギリ、彼らからすれば数百km離れていた都市達にはみ乳となって襲いかかる。その胸の重さだけで粉砕された彼らが押し付けられた重量に対抗できるはずもなく、緊急時の地下シェルターごとミンチとなる。

被害はそれだけではない。幸運にも天使の双乳の間の僅かな空間に位置できた都市郡も押し広がる胸と頭上から迫り来る胸元に潰されてしまった。

もはや、どれだけ運が良かったとしても、人間ごときでは抗えないのだ。

 

天使のおっぱいの蹂躙は止まらない。ぐりぐりと地に押し付けながら進行する双乳は、人を、建物を、都市を、国を、大地を。全てを飲み込み、磨り潰しながら進行していた。

天使としては念入りに――といっても乗せるだけで十分過ぎてなお有り余っている破壊力なのだが――胸を押し付けていたため、秒間1cmのゆったりとした速度だった。が、彼らからすれば1秒で100kmも進んでくるのだから対処の仕様がない。

地平線から視界に入った次の瞬間には地を砕きながら進む胸に磨り潰される人々。

よく女神様にその柔らかさを堪能される天使のもちもちとしたおっぱいは、世界の全てを破壊できる凶悪な兵器と化していた。

が、彼らも破滅を待つだけではない。恐るべき速度の天使の破壊にも驚異的な早さで反応し、遂に軍隊の反撃が開始されたのである。

 

ワープにより適切な位置から放たれた無数の、空を真っ黒に埋め尽くす数十億の空中戦艦から放たれた攻撃。

その全ては巨大すぎる標的へと当たり、11発が都市をも滅ぼす爆発が胸の表面を支配した。

その光は昼だというのに辺りを照らし、視界一面が白く染まる。爆発の余波が地を軋ませる。その派手さは圧倒的な破壊の確信を人々に見せつけた。

既に数個の世界を滅ぼせるほどのエネルギーをつぎ込んでいるが砲撃が止む様子は微塵も無い。

軍隊はここで超巨大な怪物を塵すら残さず破壊するつもりなのだ。


「……?」

よいしょよいしょと世界の3割ほどを胸の下敷きにし、コツも掴んできた頃。

天使は彼らに攻撃されていることに気が付いた。……正確には何かされているなどと微塵も感じることはなかったが、天使の持ちうる超感覚がそよ風にも満たない刺激を教えてくれた。よくよく見れば、地表1cmぐらいのところからビームを飛ばされ、胸の地面に近い部分でぴかぴか輝いているのがわかる。

そんなに小さいのに、私に勝てると思ってるのだろうか。不思議に思った天使は、便利な超感覚で彼らの思考を読み取る。

……どうやら、彼らには天使の胸の地表に近い部分しか視認できていないらしい。天使がよくよく考えると、世界の中に入れているのは胸だけであったし、世界の高さは3cmほどの空間しかない。

つまり、彼らは天使のおっぱいの一部と世界を懸けて戦っていると思っているのだ。

「……がんばって」

胸を地面に擦り付ける行為をいったん止める。

世界を滅ぼす使命を持つ天使だが、血も涙もないわけではなかった。直向きに努力する彼らは可愛らしいし、満足するまで好きにさせてあげることにしたのだ。

 

砲撃の指令が飛び交う中、戦艦に載る軍人は苦い顔を浮かべていた。

先ほどから撃てども撃てども爆発位置が変わらないのだ。

それはつまり、対象の破壊ができていないことを意味する。

 

もしや、効いていないのでは……という不安が浮かび上がってくるのは時間の問題であった。

だが、それでも。砲撃を始めてから例の超巨大物体が動きを止めた以上止めるわけにもいかないのだ。

撃つ、撃つ、撃つ。

技術の粋を尽くしたこの戦艦を信じてひたすらに打ち続ける。彼らにできることは、それしかなかった。

 

「……飽きた」

先ほどから数度に渡り、天より響く凛とした音。それは心地よいほどに心に響く声であった。残念なことに、言語の違いから彼らはその言葉を理解することはできなかった。

まあ、結果として大した差はない。

次の瞬間、胸を取り囲んでいた軍隊はワープする間もなくぺちぺちとおっぱいの塵となった。

 

結果からして、平穏は5分と持たなかった。飽きてしまった天使がおっぱいを大陸に擦り付け始めたのだ。

もはや彼女を止められるものはいない。天使は端から世界を無に返していく。

「……っしょ」

逆側から動き始めた天使が端から端まで体を動かせば、西から4000kmに存在していたすべてが胸の下に消える。

偶然位置していた標高10kmを越える高山も、巨乳の持ち主から見れば僅か1mmしかなく。凹凸を感じさせることすら出来なかった。

運よく破壊を免れた軍隊が攻撃するも、今度は気づかれもせずおっぱいの染みとなる。

わずか数分の出来事だが、あっという間に人口は激減。数にして1500億人もの人々がプチゅりと潰されてしまったのだ。

人類史上これまでにない、そしてこれからも無いだろう大虐殺。彼らからは見えることはないが、その張本人の表情はいたって平淡なものであった。

天使としては別にこの世界の人が死のうが生きようがどうでもいい。ただ女神様から使命が来たからこうして処理しているだけ。大虐殺をしているなどとは考えにすら浮かんでいなかった。

 

ずりずりとやり残しのないように――あるはずもないのだが――体を往復させ、世界を見渡すとあれほどまでに輝いていた世界は酷く殺風景なものになっていた。左右から削られ、残ったのは幅20cmほどの空間のみである。東からは溶岩が吹き出し、西にいたっては念入りな破壊によって存在すら消されてしまい、白いテーブルの上に僅かに土が乗るばかりである。

「……んぅ」

片胸でも行けそうだがどうしようか考えていた天使だが、名案が浮かんだのか頷くと再び体を傾けた。

 

残された人々は深く絶望していた。

世界の多くは破壊されてしまった。次はきっと中央なのだ。もはや諦めに入っていた彼らは最後の晩餐を楽しんでいた。

家族と、友と、愛する人と。暗い雰囲気を飛ばすために騒ぎ続けた。

ズドン!

音にならない地響きと共に、彼らの視界から光が消えた。

 

「……よし」

うまく両胸の間に残された地を挟めたことを確認した天使は、その胸を手で強く押した。

当然、胸は一瞬にしてくっつき、間にあった都市郡は大地をもろどもあまりの勢いに砕けちった。

「……ぐり、ぐり」

それだけで満足しない天使は自らの胸をぐねぐねと揉みし抱く。どうやら、形をすら残さず滅ぼす気らしい。

満足した後胸を開くと、そこには砂すら付いていなかった。世界の中ではあり得ないの力によって全て何も残せず消滅したしてしまったのだ。

「……ん、楽」

そして天使は次の位置へ胸をセットする。

 

幸運にも最後のターゲットとなってしまった場所。そこにはまだ100億程度の人々と50以上の都市が生存していた。

だがそれも時間の問題。バコン!バコン!と先ほどから聞こえるギロチンの音がすぐ近くまで来ている。

そして夜に包まれる。終わりが来たことを皆理解した。

左右からものすごいスピードで壁がまだ迫ってくる。ビルというビルは塵のようにぶっ飛ばされ、大地を抉り創られる山は100kmを超えていたが迫り来る壁に比べれば起伏にも満たなかった。

こうして最後の人も天使のおっぱいに磨り潰された。今天使が揉んでいるもちもちとした胸はこんなに柔らかいのに、それを堪能できた人間は誰一人として居なかった。

 

「……ふぅ」

生命どころか大陸すら無くなったその世界を見下した天使は、ようやく使命の達成を認識した。

「……変な条件は、大変」

手を使えればどんなに楽だっただろうか。十秒も撫でれば終わっていたに違いない。

「……次、普通の、求む」

若干の願望を乗せながらも、天使は次なる世界を呼び出した。