魔王。
それは圧倒的な強さで人々に絶望を振り撒き、弱気を蹂躙する恐怖の存在。
無数の浮遊大陸が浮かぶこの世界においても、それこそ大陸の数ほど存在し、そして倒されてきた。

さて、そんな魔王の中でも唯一の生き残りである、【超巨大銀髪美少女魔王種】な僕は餌を探して空域を飛んでいた。

ざっと人類の一億倍、身長17万kmな僕。その主食はなんと大陸なのだ。

早速見つけた浮遊大陸では、僕を倒すために国家間で協力して勇者を育成してるらしい。
最後の魔王だからか、僕って全人類から狙われてるんだよね。

"ぽりぽり"

向こう側を人差し指で軽く押してパクり。軽く舌に舐められた指ごと、大陸を口のなかに納める。
数億匹の人類種が生活する大陸といえども、僕にとっては一口サイズの小さいクッキーだ。軽快な音を鳴らしながら奥歯で噛み砕き、人類種の営みごと粉々にして飲み込む。

"ごくり"

ご馳走さまでした。
人類種が2億6942万401匹集まったとしても所詮この程度。僕を倒す? あはは、なんて馬鹿馬鹿しい。
そもそも、僕と彼らの関係は捕食者と被食者ですらない。その上に乗ってるトッピングだ。
とはいえ。そのトッピングも重要で、魔力的に強い人類種が乗っていた方が濃厚で美味しいんだよね。今回はあんまりだったから、次は探してみようかな。

◆◆◆◆◆

探しているとちょうどよく、魔力の高そうな大陸を見つけた。

近づくとぽつぽつと、肉眼には見えない魔法の束が胸元で弾ける。意識しないと気付けないほどの攻撃だが、この距離で攻撃を届けれるのは人類種としてとてもすごい。きっと僕には想像のつかない、血も滲むような努力をしているのだろう。

僕を倒すために力を付ける人類種は少なくない。その中でも成功した者たちは、こうして美味しそうなトッピングになるのだ。
このまま捕食してもいいんだけど、せっかくなのでたまには魔王らしく戦ってあげることにする。

パチン、と指を鳴らして大陸に無数の雷を降らせる。
僕の繊細な制御によってもたらされた、人類種に合わせた魔法。決して防げない訳じゃなけど、被害は大きい。うーん、これでも強すぎたのかもね。

"ぽりぽり"

まあ、彼らも僕と戦えた気分が味わえて満足だろう。先ほど魔法を鳴らした人差し指が、今度は僕の口へと大陸を運んだ。
何回か奥歯で噛んじゃえば4億890万7532匹の人類種が呆気なく全滅。超巨大銀髪美少女魔王種に生まれてないのに努力なんてするだけ無駄ってことだね。僕は美味しいから助かるけど。

◆◆◆◆◆

少々グルメな僕はとある空域ヘと飛んできていた。この辺り、美味しい大陸が多いんだよね。

まあ、美味しいということは強いということで。僕の周りをたくさんの飛行船が飛び回り、そこから点のような魔法で攻撃してくる。

いくら効かないとはいえ、一方的にやられるのは大変不快だ。あーもう、人間種のくせに空を飛ぶ生意気な。
いいよ。そっちがその気なら、僕は勝手にやるから。
魔法で大陸を引き寄せて、そのまま一口でパクり。舌と上顎で大陸を擦り潰してよく味わう。うん、やっぱり濃厚で美味しい。

僕は口を大きく開いて、舌の上でどろどろになった大陸を見せびらかす。強いと言ってもこの程度。僕の舌にさえ勝てやしない。
人類種たちは自分たちの故郷がこんな姿になってどう思うだろうか。やっぱり悔しい? 僕だったら耐えられないな。

"ごくり"

喉を鳴らして飲み込むと、息を止める音が聞こえた気がした。
んー、ご馳走さまでした!
気分を良くした僕は、飛行船を身体で弾いて消し飛ばしながら、その空域を後にした。

◆◆◆◆◆

おまけ


あ、進化しそう。
いつも通り人類種ごと大陸を食べていると、ふと、そう感じた。
アホみたいに人類種を殺している僕は、魔王経験値の桁がおかしいことになっている。
ただレベルアップとかするわけじゃなく、そういうものかと思ってたんだけど、どうやらちゃんと意味があったようだ。というか僕以外の魔王じゃ無理でしょこれ……。

なんて考えてるうちに進化は終わり、僕はめでたく【超巨大銀髪美少女魔王種】から【超々巨大銀髪美少女魔王種】になった。ええ……。

人類種の一億倍の大きさを誇っていた僕だが、いまや一兆倍の魔王さまである。身長というか全長は17億kmで、なんかもう大きすぎるなんて言葉じゃ言い表せない。
このもやのようなものが大陸の集まりなのだろうか。試しにパクりと食べてみると……あ、人類種が3兆匹程死んだ。食感は全くないけど。

それにしても強すぎるな僕。優越感に浸りながら豊かな胸を揺らせば2兆匹、お尻を突き出せば8兆匹、調子に乗って後ろ回し蹴りで384兆匹の人類種が、面白いように消し飛んでいく。

さてと。遊びはこの辺りにして、僕は目に見えないような大陸たちを魔法で集めていく。
集めて、集めて、集めて……。

数えきれない大陸をひとまとめにくっつけて、ようやく一口サイズになったそれ。その一口サイズの大陸の上で、7013京5368兆257億1429万8842匹の人類種が超々巨大銀髪美少女魔王種の僕を倒そうと何かしている。

"ぱくっ、ぽりぽり、ごくん"

はい、僕の勝ち。
このサイズで初めて食べたご飯は、まあそれなりに美味しかった。