今日は2月14日、バレンタイン。女性が男性にチョコを渡す神聖な日。中には友チョコや義理チョコなど増えてきているものの、チョコをもらえなかった男性の数は少なくない。「別にチョコなんて」と言いながらも格の差に打ちひしがれる男たち。

だが、そんな彼らに救世主が現れる!その名はテナ(女の子)!超絶美少女で17才というパーフェクトスペックなら貰う男たちも文句はきっとない!

そのあまりの美しさ、可愛さ。制服のスカートから顔を出す眩しい絶対領域。まさに神秘的な彼女の魅力に、男たちは皆が夢中に……なれなかった。

でかい、でかすぎる!

彼女は日本のどこにいても、それどころか彼女を中心とした半球に居ればどこからでも見ることができたのだ……!

脚に履かれたニーソックスを湿らせることしかできない海、足指を漂う雲、大気圏を超えたスカートや太ももは人工衛星や宇宙ステーションをペシペシと撃ち落とす。

さらに高度を飛ぶ衛星によると推定身長1500kmだそうだ。文字通り桁の違う、単位も違うその巨大さに人々は唖然とする。

本州の大きさは1300kmなのだから、彼女は人類で初めて本州と添い寝ができるのだ。その副産物として本州は海に沈んでしまうだろうが。

いや、別にそんなことをしなくても。足を下ろすだけで、座り込むだけで、撫でるだけで、胸を押し付けるだけで。彼女の全身が超大量破壊兵器であり、軽く大地に触れただけで核も顔負けな大虐殺が一瞬にして起きてしまうはずだ。現に柔らかすぎる地面に体制を整えるべく、彼女が海の上で足踏みを行うだけで付近の海面からは水が吹き飛び消失し、衝撃はいくつもの小島を粉砕していた。

人々が一挙一動を見守る中、静観をしていたテナは左手に持つ袋をがさごそと探索し、やがてお目当てのものを見つけると日本の上に翳した。

「サイズフェチな皆さんに女の子の手作りチョコをプレゼントですっ♪」

テナの指には5cmほどの丸い、けど少し歪な形をしたチョコレートが摘ままれていた。もし、こんなに可愛い少女からチョコを貰えたなら心躍るに違いない。

しかし彼女は人類の100万倍の大きさだ。一つの県とほぼ等しい大きさである50kmのチョコを貰えて喜んでいられるものなどいない。例外的にサイズフェチの皆さんは喜んでいたが。

そして、遂に……。怖れていたことが起きてしまう。

彼女の指からチョコレートが離される……それはつまり日本に落ちてくるということ!人々は天より迫りくる、視界をどんどん埋め尽くすチョコに怯えて逃げ出す!

当然間に合うはずもなく、範囲内にいた人々はテナの目論見通りチョコを受け取ってしまった。非力な人類では少しも愛情を味わうことは出来ず、あるのはただただ凄まじい重量だけ。

その重さでバウンドすることなくドスリと大地にめり込んだチョコは人間も高層ビルも圧し潰して、その衝撃で半径100kmを敷かれたコンクリートごと粉砕する。

日本中を揺るがすほどの振動。ようやく凄まじい揺れが止み、これで終わってくれと願う人々。しかし、それは叶わない。

「今貰えなかった人たちも安心していいよ。まだまだいっぱい作ってきたからねー」

そういって再び袋からチョコを出すテナ。今度は別の場所に翳し、離す。高度1000kmからの愛の爆撃は止むことを知らない。次々と街という街、県という県が手作りチョコの犠牲になっていく……。

 

 

 

「ふふっ、満足してもらえたかな?穴だらけになっちゃったけど、地面が柔らかいからしょうがないよね。それじゃあ、ホワイトデー楽しみにしてるから!」

少し余ったチョコを世界中にも分け始め、アフリカにも一つプレゼントしたところでストックが切れたようだ。気になる言葉を言い残して、彼女は光に混ざり消えていく。

数少ない残された人々は、手作りチョコの被害と、それ以上に巨大な足跡の被害からの復興を余儀なくされた。彼女が歩き回ったせいで世界人口は半分を切っている。いや、半分を切った程度で済んだという方が正しいだろうか。甚大なる被害をもたらしたものの、陸地に脚を下ろすことはなかったのだ。

何という優しさ。それでいて壊滅する人類の何と儚いものか。未だ大地に残り続けるチョコのほうが立派に存在していた。前例がないほどの大災害に、人々は深く項垂れる。

……やがて復興を始め、超巨大チョコの処理に追われる人類は一つの不安を持つ。再び彼女が現れた時に、いったい人類はどうなってしまうのだろうか?

 

ホワイトデー編へ続く……?