タイトル
女神の予行練習


倍率???計測不能


中学三年生の女子が真面目に授業を受けていた。
真剣な眼差しで、黒板の文字をノートにうつしていた。
その光景はごく普通の学校のひとコマにしか見えなかったが、彼女の上履きの中、靴下の中にある足親指の爪の先端付近で異変が起こった。

彼女の足親指先端に彼女の原子よりもはるかに小さい超極小宇宙が誕生した。
彼女の足指は中学生らしくあどけなさが残る丸っぽい可愛い足指であった。

彼女の足指に存在した宇宙は本物の宇宙とは別に存在する別の宇宙であった。
極小ということを除くと本物と寸分変わらず、まさしく宇宙のミニチュアであった。


そう彼女は女神なのである。
彼女は自分が女神だという認識は無かった。
彼女は普通の人間だと思って普通に生活している。

女神といってもまだまだ半人前の女神で、彼女は無意識のうちに宇宙を作り出したのである。
宇宙を作り出す予行練習である。

彼女の爪と宇宙はぴったりと密着しており、彼女がどんなに爪をこすっても宇宙にダメージが無いようにできていた。

女神の足親指に存在する宇宙は彼女の爪からエネルギーを吸い上げており、まるで胎児を体に宿す妊婦のようであった。
ただ宇宙は超極小サイズであったため、女神の体に負担は全くなく彼女の体に違和感や倦怠感を感じることは全くなかった。
この宇宙を養うだけのエネルギーよりも心臓を一回トクンと動かすエネルギーの方が圧倒的に膨大なエネルギーが必要であった。

女神が家に帰って来た。
靴下を脱いで、足を確認した時に爪が伸びていることに気づいた。
爪切りを持ってきて、爪を切り始めた。
爪を切る対象は宇宙が存在する足親指も含まれていた。
宇宙が乗る爪の部分を爪切りが通り過ぎて、爪切りが爪に食いついた。

「パチン」


親指の爪が爪切りに真っ二つに切られてしまった。
宇宙は爪切りの餌食にならず、今だに切り離された爪の上に乗っかっていた。
しかしエネルギーを提供してくれる女神から切り離されたため、
エネルギーの供給が停止し宇宙に存在する全ての星は自転しなくなり星の光が失われ、宇宙は崩壊に向かっていった。
エネルギーのない宇宙は崩壊するしかなかった。

まるで電池の切れたおもちゃのようにゆっくりと崩壊し始め、最後はあっけなく全てが静止した。
追い討ちをかけるように親指の爪の上に人差し指の爪が重ねられた。
親指と人差し指はまるで姉妹のようにお互いを助け合うような存在であったが、宇宙の上に爪が乗っかり、そのとんでもない重量で押し潰されてしまった。
女神の体から切り離されたことにより、宇宙を保護する必要が無くなったため爪に押し潰された。
これにより宇宙は消滅してしまった。



と思ったら、今度は女神の手の人差し指の爪先に新しい宇宙が出来上がっていた。
先ほど爪切りのせいで宇宙が消滅する結果になったのに、今度は人差し指の爪に転生し足の指の爪を切る側の指になるとは
なんとも皮肉な結果になった。


しかも足の親指に存在した時の宇宙の大きさに比べて1000倍の大きさで巨大化し転生していた。
1000倍といってもまだまだ女神には小さすぎて目に見ることはできなかった。





それから一週間後。


あいかわらず女神の手の人差し指の爪に宇宙が存在し、なにも変わらずいつも通り星が自転し星が光を放っていた。
女神が家に帰ってくると、人差し指の爪が伸びていることに気づいた。

前回足の爪を切った時と同じ要領で爪を切り始めた。

「パチン」

また一つ宇宙が消滅した。
あの時と同じように爪から切り離されて、宇宙にエネルギーが供給されず消滅した。


宇宙が消滅した直後にまた宇宙が転生した。
今度は足の小指の爪に宇宙が転生した。
今度は人差し指の時の3倍の大きさで宇宙が転生したのだ。
巨大化の倍率はまちまちであるが宇宙は確実に巨大化している。

これは女神がどんどん力をつけてきた証拠であり、ミニチュアの宇宙が女神に認識できる大きさになる頃には宇宙を無意識ではなく、意識的に保護し
宇宙全てを女神の思い描くように完全にコントロールできるようになる。
ここまで力をつけるともう一人前の女神である。

そして今現在、存在する宇宙は女神の作り出した宇宙に置き換わるだろう。
そうなると今いる我々はどうなるか分からない。
もっといい世の中が来るかもしれないし、逆に悪い世の中が来るかもしれない、それとも今いる宇宙生命は全て無に帰すかもしれない。
それを決定するのは女神であり、女神が一人前になった後の世界はどうなるか分からない。



宇宙に存在するほとんどの生命体はそんなスケールの大きなことが行われていることに気づかなかったが、
遥か彼方の別の銀河に存在する宇宙一科学が進んだ、地球型生命体はそのことが分かり危機感を持っていた。

まだ力が完全ではない今のうちに女神を抹殺し、今存在する宇宙を守ろうと決心した。

太陽系をまとめて吹っ飛ばせる、ものすごい火力を持った宇宙艦隊が地球に向けて出航した。
女神を抹殺するため、太陽系ごと吹っ飛ばそうという恐るべき計画だった。
こんな大規模な艦隊をたかが地球の小娘ひとりに向けるなんて、大げさだと呆れて反対する人も多かったが万全を期す構えであった。
女神が完全に力を習得してないとはいえ、どれぐらいの力を秘めているのか不明であった為、念には念を入れることに決定した。



時を同じくして、女神の鼻の穴付近に目に見えないぐらい小さなワームホールが出現した。
女神が無意識に出現させたワームホールである。
そのワームホールに向かって鼻から息を吹きかけた。
女神は無意識のうちに自分の身の危険を感じ、防衛本能が働いた。


その頃、宇宙艦隊は地球に向けてワープの準備に取り掛かっていた。
すると宇宙艦隊の真上にさっき女神が出現させたワームホールが突如出現した。

宇宙一の科学力を持つ彼らでも女神の作ったワームホールを探知することができず、ワームホールの出現は完全に不意をつかれた。


「ゴオオオオオ」


女神の作ったワームホールは入口はとても小さなものだったが、出口はとんでもなく大きかった。
ワームホールの形状は彼らからすれば未知の形状だったので、ワームホールの大きさは測定不能だった。
しかしその破壊力を考えれば、想像を絶するような大きさにあったに違いない。

宇宙艦隊はもちろんのこと、辺り周辺の星も全部吹き飛ばされてしまった。
その中には太陽の数百倍の超巨星も含まれていたが、宇宙艦隊と同じようにちりみたいに簡単に吹き飛ばさせれた。

艦隊で無理なら、一隻だけ密かに地球に接近したがこれもやはり鼻息で吹き飛ばされてしまった。
ならばということで、今度は地球に隕石をぶつけようとしたがこれも鼻息で同じように吹き飛ばされてしまった。
女神は知らず知らずのうちに地球の危機を何度も救ったことになる。

ならばならばということで、地球人に不思議な電波を送り精神を乗っ取り女神を闇討ちしようと考えたがこれも失敗した。
ある男の精神を乗っ取ることは成功したが、女神に近づくと男は正気に戻った。
何回やっても別の人に試しても結果は同じであった。

地球に女神を抹殺目的で近づくのは不可能であった。




もう万策尽きてしまった。

彼達はもう女神に興味をなくしつつあった。
何をやっても無駄。
女神にはかなわない。
今彼達ができることは、女神の爪の伸びるスピードが少しでも遅くなるように祈るだけだった。


また女神が爪を切り始めた。
パチンパチンと爪を切っていく。
こうすることで宇宙のレプリカが巨大化し、近い将来彼女は一人前の女神になるだろう。