この作品は「女神の予行練習」の続編です。
まだお読みでない方はそちらをご覧になられた後、この作品をご覧になった方がより理解できると思います。


タイトル
女神そのニ覚醒


前回の話から一年後。
女神は中学校を卒業し高校生になっていた。

いつもと同じように彼女は帰宅し靴下を脱いだ。
そろそろ爪を切らないといけないなと思い、爪切りを取ってきて、爪を切り始めた。
まずは右足から切り始めた。

「パチンパチン」

さて次は左足の爪の番、左足に爪切りを向けた時、足の人差指の爪の上になにか小さなごま粒みたいなものが乗っていることに気づいた。

「なにこれ?」

爪の汚れか、どこかに足をぶつけて爪が変色したのかと思い、足に向かってぐっと顔を近づけた。
爪の先っぽに小さな黒い点があるように思えた。
でもなにか変だ、小さな黒い部分の中にさらに小さな白いつぶつぶがあるように見えた。
その白いつぶつぶの正体をもっとよく確かめようと最大限目を凝らしてみた。
すると信じられないことだが、目がズームした。
普通の人間の目はズームなんかできず、ズームできるのはTVカメラとか写真のカメラとかの人工的なレンズだけである。

そんなことを気にするよりももっと驚いたことが起こった。



白いつぶつぶの正体は巨大な銀河であった。
その小さな白い一粒一粒が銀河だった。
そのほかにも天の川や大小様々な星がたくさんあった。

この時、彼女はプラネタリウムで見た星座や星の話を思い出した。
あの時と全く同じ、いやプラネタリウムよりも精巧でひとつひとつの銀河や星が光ったり、自転していたりしていた。


「え!なにこれ?宇宙!」
「なんでこんなものがここに?」


この言葉が引き金となり、彼女は晴れて一人前の女神になった。

すると彼女の頭の中に走馬灯のように今まで無意識に起こしていた天変地異やそのほかにも女神の力を使った場面が高速で流れてきた。


「そっか・・・私は普通の人間じゃなかったんだ、女神だったんだ。」

なんかがっかりしたような声で言った。
頭が若干混乱している。
自分の知らない、もうひとりの自分と出会ったような気持ちになった。


そしていつの間にか、自分が居た自宅ではなく、辺り一面白い世界が広がっていた。
地平線も見えない、どこまでも続く白い世界、女神が作った宇宙と女神以外何も存在しない殺風景な異空間であった。
ここが女神として生活する拠点の空間、まさに女神の城であった。



爪の上にあった宇宙は女神の爪から自然に離れ、女神の手のひらにふわふわと飛んできた。
彼女の作った宇宙は女神の指示を待っているかのようだ。

そしていつの間にか宇宙は手のひらサイズに巨大化していた。
多分、女神が力を解放したので、それに従い宇宙も大きくなったのだろう。


女神は今の状況を理解し予想以上に冷静だった。
さっき起こった走馬灯で大体の状況が分かり、だんだん冷静さを取り戻していた。
絶望したり悲観的な気持ちになることはなく、それよりこれからどうしようかと悩んでいた。

相談相手がいるわけでもないし、こんな状況下に陥った場合の対処方法なんてもちろん知らなかった。


「地球はどうなったんだろう?」

と心配するような声でボソッと言った。
自分の祖国がある地球のことを心配するのは当然のことであった。


すると宇宙がふわふわと上昇し自分の目の前に飛んできた。
宇宙が自然と視界に入る。
宇宙を覗き込む形で観察した。
その光景はまるで、小さな双眼鏡を覗いているみたいだった。

女神は宇宙を覗いてみて、ひとつ気づいたことがある。
小さい文字を見る時みたいな目の動きをすると、宇宙は拡大して見え、逆に全体を見るような目の動きをすると宇宙は縮小して見える。
これは便利な発見だ。

例えるならスマホで文字を拡大したり、縮小したりする時の指の操作に近かった。



小さな子供が初めて買ってもらった、おもちゃで遊ぶように、意味も無く何度も宇宙を拡大したり、全体を広く見たりした。
こんなことをするのは初めてで、無邪気に宇宙で遊ぶ女神。

「そうだ。地球は!どこ?」

宇宙には無数の銀河が存在し、広大な銀河の中にたった一つだけ、地球が存在する。

宇宙の中にある地球を探すのは、砂浜にある一粒の砂粒を探しだすことより、はるかに困難なことであったが、女神はなんとなく地球の場所が分かっていた。


「こっちの方かな」

と言うと宇宙の中にある星が高速で流れ始めた。
SF映画なんかで出てくるワープする時の映像にそっくりだった。
高速で流れていた星がだんだんゆっくりになり、やがて停止した。

「ん?・・・」

なんとなくだが、地球はこの辺にあるような気がするが、辺りに地球らしき星はどこにもなかった。
何度探しても地球らしき星は無い。

「地球無くなっちゃったのかな・・・地球どこ・・・出てきて・・・」

残念そうで不安いっぱいな声で言った。
この時、初めて女神は絶望的な気持ちになった。
まさかこんなことになるなんて。
なにか大切な物をなくしたような気持ちになった。
友達は?家族は?どうなったんだろう?。
この辺りに必ずあるはず、もう一回よく確かめてみよう。



あっちこっち細かく移動しながら、辺りを見回しキョロキョロと必死に探す女神
なくなったら困る、なくなったら困ると必死に探した。
すると目で見えるか見えないかギリギリのサイズの小さな小さなオレンジの点を見つけた。

「え!?なにこれ?小さな光・・・・だよね?」
「消えちゃいそうなぐらい小さい光?だと思うけど、なんだろこれ?」

多分、光っていると思うがあまりに小さすぎて半信半疑であった。

すぐに拡大してオレンジの点を見た。
それは女神が毎日のように見ていた、太陽であった。
拡大して初めて分かったが、太陽はオレンジ色に強く光っていた。
最初に見つけた時は弱々しく、小さな小さな弱い光だったが、拡大して改めて見てみると、力強く核融合をして膨大な光と熱を放っていた。

女神が最初に見ていた倍率では大きすぎて、太陽すら発見するのは困難だったのだ。
小さすぎて太陽やその周りの惑星が見えないなら、もっともっと拡大して見ればいい。
とても簡単なことであった。


「あった、あった!太陽だ!もう~小さすぎるよ!まったく~♪」
「太陽さんもっと大きくならないと、女の子に気づいてもらえないよ♪」


子供が無邪気にケラケラ笑うかのように女神はにっこりと笑顔になった。
飛び上がって喜びたいぐらい嬉しかった。
太陽がここにあるなら、地球もすぐ近くにあるはずだ。
大事な物をなくしたと思っていたが散々探し回ったら、ひょっこり、なくしものが出てきた。
そんな心境だった。

「太陽がここなら、地球はこっちの方だよね♪」

太陽を見つけたことがよほど嬉しかったのか、だんだんノリノリになっていく女神。

普通の人は太陽と地球の位置関係なんて知らない人がほとんどだが、女神は正確に熟知していた。
彼女は元々、天文学に詳しいとかではなく、女神になった時に自然と身に付いた知識であった。

そもそも宇宙全体から、太陽を探し出す方が圧倒的に困難なのだから、太陽から地球を探し出すことはとても簡単なことであろう。


太陽から少し移動すると、小さな小さな青い点が現れた、そうこれが地球なのである。


「なにこれ!?ちっちゃくて超可愛い~~♪」


女神は目をキラキラさせながら、地球を見ていた。
そしてその声は子猫を抱っこして可愛いと喜ぶような声であり、女神は可愛いくて小さな地球を見つめた。
まさか地球がここまで可愛く美しいと思わなかった。

女神は地球がどんな形や色をしているのかは、もちろん知っていた。
しかし写真や映像で見る地球と生で自分の目で見た、地球は全くの別物であった。
ライブやスポーツをTVで見るのと生で見るのが違うように、女神も地球を生で見て感動していた。


地球が太陽の光を受けて、青い海や緑や茶色の大地や白い筋状の雲を照らしている。
その反対側は夜であり、その明暗差により地球の美しさを際立たせていた。

女神はなにか愛おしいものを見るような表情で地球を観察した。


「はあ~地球可愛いな~~、ギュって抱きしめたいな~♪」
「うふふ、本当に抱きしめちゃおうかな~」
「抱きしめたいけど、やっぱりやめとこ、突然抱きついたら、みんな怖がるかもしれないし、うふふふ♪」
「あれ?そういえば私って地球に帰れるのかな?」
「どうしよう?あ、そうだ!」


女神は地球を確認できたが、地球人は女神を確認できなかった。
覗いた宇宙はマジックミラーのようになっており、女神からは地球が見えるが地球からは女神は見えなかった。
それで良かっただろう、もし地球から女神が見えていたら、大パニックになっていたに違いない。
女神の目以外は宇宙の外にあるため、巨大な目だけが地球に接近することになる。
地球よりも数十倍の大きなふたつの目が地球のすぐ近くで、キョロキョロと目玉を動かし、瞬きなんてしたら、大パニックになること間違いなしである。
今の女神は目だけでも木星よりも大きく、身長は宇宙の外に存在するため宇宙全体より大きかった。


もしも仮に地球人が女神の目を認識できたら、こんな感じになっただろう。
太陽の方角から木星を上回る大きさのふたつの目が地球にどんどん接近してくる。
しかも目だけであり、そのほかの体のパーツはどこにも見当たらず、なんとも不気味な存在であった。

ふたつの木星が地球に大接近したようだった。
地球に巨大なふたつの目がキョロキョロと動かし、地球の表側と裏側を確認するために目はぐるぐると地球を数週した。
全世界のあらゆる都市上空に目は現れそして去っていく、北極や南極上空にも目は現れ、世界のどこからでも巨大な目が見えた。
目は自分の存在を全世界の人に知らしめる為に世界旅行をしているようだった。

空を覆い尽くす巨大な目。
いや、目全体は大きすぎて確認できなかった。
目の黒目の一部分を地表から見上げるのが精一杯であり、太陽の近くにいた時は、遠くにいたので、ふたつの目全体を確認できたが、
地球に近づくにつれて、巨大過ぎて目として認識できなくなっていき、地球上空を埋め尽くす、未確認物体を見ているようだった。



もちろん女神が地球に抱きついたら、ひとたまりもない。
それどころか目玉が地球に衝突しただけでも、地球は簡単に滅びるだろう。
上まつげの長さだけでも地球の直径より、少し大きかった。
まつげの先の部分が地表に触れただけでも滅ぶ可能性もある。


女神は自分がワームホールを作れることを思い出した。
無意識のうちに鼻息で宇宙艦隊を吹き飛ばしたなんて、それが本当なら恥ずかしいが、ともかくワームホールを通れば地球に帰れるのでないか?と思いついた。
一旦、宇宙から顔を離し、ワームホールを作ってみることにした。

「あれ?出てこない」

確かにワームホールを作り出したと思ったがどこにもない。

「あ、そっか!」

ワームホールは実は存在した。
前回、鼻息を通す為に無意識に作ったワームホールとサイズが同じだったのだ。

「これ小さくて体、入んないよね?」

女神は一応確認するために手の人差し指を突き出し、小さなワームホールを突っついてみた。
ワームホールはビリビリビリと電流みたいな電が全体に走り、ワームホール全体がゆらゆらと歪み始めた。
丸い形だった、ワームホールは指を入れようとしたことによって、ふにゃふにゃな形に変形して使い物にならなくなってしまった。

そもそも鼻の穴よりもはるかに小さく、目に見えないぐらい小さなワームホールに巨大な人差し指を入れようとするのは無理があった。

女神は壊れたワームホールを指先ですり潰し、新しいワームホールを作った。
どうしたらいいか、なんとかワームホールを大きくし自分の体が通れるぐらいの大きさにできないものか?と考えた。

試しにスマホの画面文字を拡大する要領で、ワームホールの端と端を親指と人差し指の間を広げるような動きをした。
するとワームホールは女神の指の動きに合わせて大きくなった。
親指と人差指から手全体そして最後の方は右手と左手をめいいっぱい使って、ワームホールを広げた。

「よし、これでいいかな、バッチリじゃん~」

自分は賢いでしょと言わんばかりだが、女神はワームホールを意識的に作ったのはこれが初めてだったが、完全かつ完璧なものであり、
宇宙に存在するどんな生命体のワームホールよりも高性能な物であった。

ワームホールを作れるのは一部の限られた生命体の所有する機械だけであり、作るには膨大なコストが発生する。
前回の宇宙艦隊のように高精密な機械がワームホールを作り出すのであって、生身の若い娘がたった一人で簡単に短時間で作り出す。
そんな前例は全くなかったし、そんなことは今までの常識ではあり得なかった。


「出口はとりあえず私の部屋にして、ああそうそう、大きさはちゃんと前のままの大きさにしてと~」

この前の宇宙艦隊の時のように入口は小さく、出口は大きく、なんてことがないようにするという意味だ。
ワームホールは出口の大きさを自由自在に変更できることは、前回無意識のうちにやってのけたが、今回入口の大きさも変更できることが判明したので、
女神が作り出す、ワームホールの完成度はかなり高いものへと進化していた。

とすんと物音がした。
女神は自分の部屋に戻ってきた。
それは宇宙の外側から地球に帰って来たということである。
女神は太陽系の外に出た偉業を成し遂げたばかりか、銀河系の遥か彼方、宇宙の外側に足を踏み入れたことになる。
そんな歴史的瞬間だったが、女神はそんなことどうでもよかった。


それよりも自分は人間じゃなかったから、今まで通りの生活に戻れないかもしれないと思っていたが、こうやって何事もなかったように戻って来れた。
自分が爪を切っていた頃と何も変わっていない、爪切りもあの時と同じ位置に転がっていた。
思い返せばこの爪切りが全ての始まりのように思えて仕方なかった。

とりあえず、明日いつも通り学校に行こう。
帰ってきたら、また女神の力を使ってみよう。
色々試したいことがある。
彼女は女神の力を完全に手に入れ、今まで過ごしてきた日常の自分と女神になった時の自分、ふたつの時間を手に入れることができ嬉しかった。
これでひとつ楽しみが増える。
地球で手に入る、どんな高価な物や美味しい食べ物や地位や名声なんかよりもはるかに素晴らしいものである。

「明日の放課後が楽しみ~宇宙でなにしようかな♪」

そんな何気ない独り言のように聞こえるが、この言葉はとてつもなく重く、重要な言葉だとそう遠くない未来に理解できるだろう。





つづく