タイトル
美味しい牛乳の作り方



この世界では牛は人間の100倍の大きさである。
牛といっても大きさ以外人間と姿は変わらず、ホルスタイン柄のジャージとズボンを履いていた。
ただ牛は体が大きく力は強いが、人間に比べると少し知能が低く、人間より本能的な生き物である。
牛は干し草を栽培することができず、人間がいなければ生きていけず、人間も牛の力と牛乳がなければ今より貧しくなっていまう。
牛は人間の知恵と美味しい干し草をもらい、人間は牛の力と牛乳をもらい生活している。
牛と人間はお互い共存関係にあった。


今回はそんな牛のあいとひとりの人間の物語。


「ご主人!!お帰り~♪」


学校が終わり、家に到着し家のドアを開けた瞬間、ドスンドスンと縦23m横9mの素足が地響きを立てながら、牛のあいが出迎えてくれた。
すると17mもある大きな手が、ググーと降下してきて、親指と人差指に挟まれ軽々と持ち上げられてしまった。

牛のあいは人間よりも嗅覚と聴覚に優れており、俺の足音を聞くと、あいはすぐに気づき、いつもお出迎えしてくれる。

「うわ、離せよ、あい!」

そんなご主人の言葉を無視して頬ずりし始める、あいであった。

「寂しかったよ~、早く帰って来て~って、いつも言ってるのに」

「いやいつもどおりの時間だろ!」

時計を見るといつもと同じ時間であった。

「時計は難しくてよくわかんない~。いつもより絶対遅いはずだよ~」

時計がわからないから、あいの腹時計が頼りなんだろうなと思いつつ、俺が帰ってきて、喜んでくれるのは嬉しいが少し苦しいから早く離して欲しいと思う。

「よしよし、わかったから、離して苦しいよ」

「ダメ!いつもより遅かったから、いつもより長いことギュッとしていたいの!くんくん」

頬ずりをしながら俺の匂いを嗅ぐあい。
なんでも俺の匂いを嗅ぐと落ち着くらしい。

やれやれ、あいの寂しがり屋な性格はなんとかならんもんか。
俺が家から帰ってくるといつもこんな感じである。

強く降ろすように催促するとようやく降ろしてもらった、ご主人はそのまま自分の部屋へ入って行った。
その時あいはもっと構って欲しかったのか不機嫌そうな顔になっていたが、それより大事な用事があった為無視した。

この家は牛と一緒に暮らせるような家づくりになっており、玄関から向かって左が人間用の部屋、向かって右が牛用の部屋になっていた。
牛用の部屋はあいの感覚で大体、六畳一間でトイレとシャワー付きである。
人間の感覚で270m×360mの部屋であり、東京タワーの直径よりも長く、移動は少々大変であった。

左側の部屋に入るとリビングがあり、そこに父さんが座って待っていた。

「おう、帰ってきたか。お前があいの世話をしてくれて助かるよ。あいつはなあ、お前に出会わなかったらどうなっていたか・・・」

あいが家に来たのは数年前のことである。
その時のあいの評判はすこぶる悪かった。
ごはんをあまり食べず、やつれており、ミルクの質と量が悪く、前の飼い主が安く売りに出していたところ、父さんが買ってきたのだ。

「前の飼い主の育て方が悪かったんだ。きちんとあいの性格を理解して愛情を持って接してやれば、立派な乳牛になれるのに」

父さんが言うには、前の飼い主は利益第一主義で乳牛は金を生み出す機械であり、
牛に愛情をかけず少ないご飯でたくさんの牛乳を出すような飼い方をしていたらしい。

前の飼い主にあまり相手にされず、愛情なんてなく、乳を出せ出せと文句を言われ続けたらしく、そのせいで寂しがり屋な性格のあいは参ってしまい、
ストレスでうまく自分の力を発揮できないでいた。

「父さん、なぜ俺にあいの世話をするように言ったんだ?俺、牛の世話なんて始めてだったのに」

「いやお前が初めてだから良かったんだ。なにかを始めてやる時は、ぎこちないが丁寧にやるだろ、その丁寧さが必要だったんだ。
 父さんはもう牛を飼い始めて長いから、お前のようにあいを世話することができないから、お前に世話を任したんだ」

と簡単に言うがあいが来た当初は大変だった。
なんせ自分ひとりで牛の世話をするのは初めてであり、しかもなかなかあいは俺に心を開いてくれなかった。
しかしあいが食べやすいようにと、あいが好む干し草に変えたり、また探したりもした。
あいが何かに怯えていると優しく頭を撫でて落ち着かせたり、話相手になったりと俺のできる範囲でやれることをやった。
その甲斐あって、今ではあいも立派な乳牛である。


ただあいは初めて本物の優しさに触れた時の快楽が衝撃的だったのか、俺にすごく懐いてしまった
本当は父さんや母さんもあいの世話を手伝う気だったらしいが、俺じゃなきゃ嫌だとあいがそれを拒んだ。
それでも学校があるから、ずっと一緒というわけにもいかず、俺のいない時は世話を手伝ってもらうが、俺が家にいるときは基本的に俺が世話をしている。


「お腹すいた~ごはんごはん頂戴~」

と大きめの声が聞こえてきた。
どうやら、あいはお腹が空いたらしい。
俺があいの部屋に入るとこう言った。


「まだごはん食べるまで一時間もあるだろ。我慢しろ」

家のルールではごはんの食べる時間と量は決められており、ごはんをやり過ぎると太ってしまい牛乳の質が落ちてしまう。
牛は食事量をコントロールするのが苦手で、食事量は人間がコントロールしていることが多くこの家でもそれに従っている。

「じかんなんてわかんない~。おなか空いたんだから、ちょうだいよ~ちょうだいちょうだい!」

あいはいつもこうやって駄々をこねている。
もう少し待てといっても、自分の胃袋には勝てないのか、いつもちょうだいと催促してくる。

「あと一時間後な、そうしたらやるから」

「いちじかんってどれぐらい?」

「約60分だ」

「ろくじゅっぷんって?」

「一分が60回ぐれば一時間だ」

「え~わかんない!早くちょうだいよ、ねえ~」

だめだと言って俺のはあいの部屋から出た。
牛には人間の時間がわからないらしい。
といっても時間なんて人間が勝手に作り出した概念なのだから、しょうがないかもしれないが。

その後、ワーワー騒ぐ声が隣から聞こえてきたが甘やかしてはいけない、きちんと時間通りにやると決められているのだ。
そして一時間経ちごはんの支度に取り掛かった。
家の裏側に干し草の倉庫とその中にダンプカーがある。
ダンプカーの上に干し草が降りてくる仕組みになっており、ダンプカーに干し草を満載してあいの部屋に入っていく。
このダンプカーは約10tの干し草を一度に運ぶことができる。
そしてそのダンプカーを俺が運転する。
おいおい無免許だろ?と言われればそうなのだが、父さんによると私有地なので問題ないそうだ。

玄関へと繋がる方向と逆側からダンプカーが2台ぐらい通れる穴があり、そこをあいに開けてもらいダンプカーがあいの部屋に入って行く。

「あ!きたきた~早く早くちょうだい」

ようやく一時間経ち待ちくたびれており、俺の姿を見た瞬間目をキラキラさせていた。
あいから見たダンプカーはまるでミニカーみたいだ。

お皿の上に干し草を入れる。
ドサドサと重い音を立てて、すごい量の干し草がお皿いっぱいにする。

早速あいは干し草を指で掴み、食べ始めた。
あんなにたくさんあった、干し草が一口で無くなってしまった。

「おかわり~早くして~」

あいにとって10tダンプカーも全長9cm幅2.5cmしかなく、とてもじゃないがこれだけでは到底あいの胃袋を満足させることはできない。
30往復ぐらいしてようやくあいの胃袋を満足させることに成功した。
昼は父さんか母さんがこの作業をやっているが、朝と夜は俺がやっている。
あいは一日で100往復分の干し草を食べている。
あいは満足したのか、ごはんを食べたら、大きなあくびをしてすやすやと眠り始めた。


あいの食べっぷりを初めて見たときは、食べ過ぎだと思ったが牛ではこれぐらいが普通らしい。
大量の干し草がどんどん口に運ばれて、姿を消していく。
その姿を初めて見たときはド肝を抜かし、いつか自分が食べられるのではないかと不安に思ったがあい曰く。

「え!?ご主人を食べたら、あいの世話は誰がするの?だいいちご主人を食べても美味しくないよ~」

牛は草食動物であり、人間は食べないそうだ。
干し草を栽培している人間を食べてしまったら、牛は餓死してしまう。
だから牛は人間を食べたり、誤って怪我させたりしないようにしている。


「やれやれようやく落ち着いたな」

さっきまでうるさく、「ごはん」と騒いでいたのが嘘のようにあいはおとなしくなった。
今日の主な作業はこれで終了だ。
さてと、明日またあいに朝ごはんをやって、学校に行くその繰り返しだ。

夜も深まりそろそろ俺も寝るため布団に入り、そのまますぐに寝た。

数時間後の深夜遅くにあいの声が聞こえてきた。

「ねえ~さみしいよ~ご主人~。ひとりだと心細いよ~」

と言う声が深夜の夜空に響いた。
またいつものあいの悪い癖が始まった。
夜になるとこうやって、あいの部屋に来るようにいつも催促してくる。
だが今日こそは無視する。
あいには悪いが、いつも甘やかしていては、いつまで経ってもひとりで眠れないだろう。
無視し続けているとドンドンと床が揺れだした。
どうやら暴れているようだ。
あいの声もどんどん大きくなってきた。

その振動と声に嫌気がさしたのか、母さんがやってきた。

「なあ、可哀想だからいつものように一緒に寝てあげなよ。こっちだってうるさくて寝れやしないし・・・」

眠そうな目を擦りながら、母さんが起きてきた。
多分、父さんも起きたと思うが、母さんひとりだけ俺の部屋に入ってきた。

「なに言ってんだよ、母さん!そうやって甘やかすから、いつまで経ってもあいはひとりで寝れないんだよ」

わーわー文句を言う、あいの言うことを全部聞くわけにもいかない。

「あの子だって、昔はずっと一人ぼっちで寂しい思いをしてきたみたいだし、あんたがあの子と一緒にいるだけで、おとなしくなるんだからそれぐらい
 あいの為にしてあげてもいいじゃない。あんまりストレスかけると乳の出が悪くなるし、あいの為にもお前の為にもならないよ!それにこのままだと
 家が壊れるかもしれないし・・・」

と少し怒った口調で言う母さん。
確かに家が不気味にギシギシと音を立て揺れており、このまま揺れ続けると家が壊されるかもしれない。

「もう、うちの両親はあいに甘いんだから、わかったよ、行けばいいんだろ行けば」

捨て台詞を吐き、少し重い足取りであいの部屋に向かう。
別に我慢できないぐらい、いやってわけじゃないけど、なんかあいの言いなりになっているみたいで抵抗感が少しある。

「ご主人~~~♪」

俺があいの部屋に入ると目をハートにさせながら、ドスンドスンと地響きを立て俺のもとへ走ってきた。
俺の目の前にあいのつま先が振り落とされ、すごい地響きがして一瞬踏み潰されると思ったがそうはならなかった。

指で俺をつまみ上げ、あいの顔の前まで持ち上げた。

「もう~あいをひとりにしないで~さみしいよ~」

ほっぺに俺をこすりつけながら言うあい。

「いやいい加減ひとりで寝ろよ。俺が寝れないだろ!」

「え~ひとりじゃ、さみしくて寝れないよ~。夜は真っ暗になって怖いし・・・でもご主人がいれば大丈夫、えへへ~」

さっきまであんなにぎゃあぎゃあ騒いでいたのに、今ではこの喜びようである。
切り替えの速い奴だ。

「さあ早く指から離してくれ。俺は部屋の隅で寝てるからな。間違っても踏み潰すなよ。」

早く離すように体を左右に振り、離すように催促したが、逆にあいは握る力を強めた。

「だめだよ。それじゃ一緒にいる意味ないじゃん。ご主人はここにいるの~♪」

ホルスタイン柄のジャージのチャックがを下ろされ、ブラが見え始めた。
あいは乳牛らしく、かなりの巨乳でFカップはあるそうだ。

「うふふ♪ご主人はここで寝るの~。よかったね。特等席だよ~」

と言って俺を豊満な胸に挟み込んだ。
胸はあいの体の一部であるから、あいの言うことには絶対服従である。
あいの脳から送られた、脳波を受け取り、手が動き胸に挟み込む。
つまりここはあいの肉の城であり、俺は柔らかい牢獄に閉じ込められてしまった。

左右の胸からあいの甘酸っぱい匂いが立ち込めてきた。
頬ずりをした時と同じ匂いであったが、今回はより濃密な匂いがした。
あいの肉がご主人の首から下、左右に密着していたため、今までより濃密な匂いであった。
ここに長いこといたら、目に毒だし、あいの匂いに包まれて気が変になりそうだ。


Fカップの胸の重さは片方だけでも810tもある。
あいの体重は5万トンもあり、それに比べれば控えめのサイズだが、それでも810tもある肉の山に挟まれて、身動きが取れないのは不安である。
胸の高さ8mもあり、ちょっとした双子の丘みたいだった。
ご主人の身長の4倍以上の大きさのおっぱいであり、こんなにでかいものに挟み込まれたら、身動きが取れないのも納得できてしまう。

「おーい出してくれ~」

必死になって叫ぶが、あいはニコニコ笑顔で見下ろしているだけででなにもしてくれない。
ここはあいの肉の城なのだから城の主である、あいが俺を離す気にならない限り脱出できない。
だから俺は必死にお願いした。

「ふああ~ご主人~もう眠くなってきたから、ご主人の言ってることよくわかんない~もう寝るから明日の朝にしてね」

なんて奴だ。
嘘だとみえみえじゃないか、棒読みで喋っているし、あいの奴絶対俺の声聞こえているだろう!。

「くうーくうー、うーん」

あいは寝息を立て始めた。

「うーんこれでいつまでもご主人と一緒だ。えへへ」

寝言まで言ってる。こっちは大変な目にあってるのにのんきなものだ。
それよりここから早く脱出したいが、首から下は胸に挟まれて身動きが取れない。
胸の弾力で少し体が左右に動かせるが、上にあがろうとするとおっぱいの肉が俺の皮膚に食いつき俺を離そうとしない。
ここから抜け出すにはあいの指に助けてもらうしか方法はなさそうだ。
挟まれて苦しいとか、そんなのことはなく、あいの胸は柔らかく暖かくて快適だが、抜け出そうと力を入れても胸はびくともしなかった。

あいの指はおっぱいの肉を軽々とどかせれるのに俺はほんの少しだけ左右に動けるだけ、やっぱり牛はすごい力を持っているんだな。
それに引き換え俺はなんて非力なんだろ。

そんな力強い牛のことを考えているとあいの様子が気になり、見上げるとあいが幸せそうに安心して寝ていた。
俺が近くにいることで安心しきってる様子だった。

「俺はあいのおっぱいにまで懐かれていたんだな。もしかしたら、おっぱいだけじゃなく、口や鼻や手や足など、あいのありとあらゆる体の部分が俺のこと
 に抱きつきたいと思っているかもな。なんてったって全部同じあいの体なんだもんなあ」

あいはあんなに強いのに臆病で寂しがり屋で俺がいないとダメな奴だが、あの寝顔を見て俺がそばにいてやって良かったと思えた。
俺みたいな経験の浅い若造に懐いてくれて本当は嬉しいのだが、少し懐き過ぎというか、依存にも感じられるあいの行動に少し戸惑いっている。

あいの生暖かい、匂いと体温と寝息に包まれながら、一夜を過ごした。
時々、寝返りを打ったりしたが、あいの胸は俺を離すことはなかった。



そして朝。

もう起きないといけない時間なんだけど、あいは相変わらず、眠ったままだ。
このままだと遅刻してしまう。

「おーい、あいーもう朝だー。起きてくれ」

と力いっぱい叫んだ

「うーん」

反応が薄い、もう少し寝ていたいのか、俺の声に対しうるさそうにしているが起きる様子はない。
そのあとも起こすために叫んだが、全然起きてくれない。

「あ!まだ、あいの部屋にいたのか?どうした、お前はあいのことそんなに好きだったのか?知らなかったなあ~。おっぱいに挟まれてラブラブじゃないか」

驚いたような安心したような声で父さんが言った。
学校に行く時間になっても俺の姿が見えないから、探しに来てくれたみたいだ。

「違うよ父さん。あいが無理やり俺を挟んで、そのまま寝ちゃったんだ」

まさか父さんにこんな姿を見られるなんて恥ずかしい。
あいがこんな事やったんだ。俺は悪くない。

「なに!?一晩もおっぱいに挟まれそのまま寝た?お前にそんな趣味があったんなんて!」

「違うと言ってるだろうが~!」


結局遅刻した。
朝から大声で叫ばなければならないし、父さんに恥ずかしい姿を見られるし、目が覚めたあいに文句を言っても、

「昨日はよく眠れた~ご主人のおかげだね~また一緒に寝ようね~」

なんて俺の気も知らないでのんきなこと言ってるし、朝からもうぐったりだ。
その日は朝からくたくたで学校の勉強に身が入らなかった。

くたくたで重い足取りで家に帰ってくると父さんに会った。

「あ、帰ってきたか、そろそろあいの乳を絞らないといけないぞ。今から早速頼む」

牛は自分の乳を人間に絞ってもらう。
定期的に絞ってもらわないと、おっぱいが炎症を起し最悪重い病気になることもある。
だから搾乳の時期を適切にすることは、牛の飼い主にとって最も気を遣うことである。

「え!?やだよ。父さんがやってよ」

「父さんがやるとあいが嫌がるんだ。お前じゃなきゃ嫌だって。それにあい、いわくお前の方が絞るのがうまいって言ってたなー、だからお前がやれ」

朝の一件で疲れていたので、昼寝でもしようと思っていたのにやれやれだ。
でも本当にあいはおっぱいが出るのだろうか?この前絞ったばかりなのに、実は父さんの勘違いで あいのおっぱいが出ないかもしれない。
早速あいに聞いてみようと思い、あいの部屋に入った。


「うん。おっぱい全体が痛くて少し固くなってきてるよ~。おっぱいたくさん出ると思う~。そんなこと考え出すと早く出したくなってきちゃった。
 ねえ~早く絞って~。」

父さんの言った通り、あいはおっぱいが溜まっているらしい。
じゃ、また明日な!って言って逃げる口実が無くなった。
あいは今すぐ俺に、おっぱいを絞らせる気満々である。

するするとあいはジャージを脱ぎ始めた。
脱いだジャージをぽいっと投げると俺のすぐ近くに落下してきた。
長さ60mのジャージである。
電車3両分ぐらいの長さであり、俺の目の前に落ちたことにより突風が吹いた。
吹き飛ばされはしなかったが、それでも一瞬ドキッとする。

「じゃあ、この桶でいいよね」

あいから見たら小さな桶なのだが、俺から見たら巨大な桶だった。

「あの・・・あい様、誠に申し訳ありませんが、明日以降に延期させていただけないでしょうか?」

丁寧な言葉で言ってダメ元だが聞いてみる。

「え!?だめだよ」

ですよね~。仕方ないやるか。

桶の上におっぱいを置いて、俺が乳輪や乳首を愛撫する。
あいはブラを脱ぎ、Fカップの双子山が姿を現した。
あの巨大なおっぱいの中に大量の牛乳が貯蔵されており、これから放出されると思うと自分のやってることの規模の大きさに驚かされるが、
あいが作った牛乳であり、自分はその牛乳を外に出す手伝いをしているだけだから、そんなにいうほど自分の役割はたいしたことないかもしれない。

いつものようにあいの指でつままれて、おっぱいの乳輪に降ろされた。
乳輪はピンクの色の地面であり、その部分は肌色でないため、ここは特別な場所で神聖な場所のように思えた。
俺なんかがこんな所に足を踏み入れてもいいのか?と思ったがこの乳輪の持ち主の直接指名だから入っても良いということだろう。

乳輪の直径は3.5mもあり、乳輪だけでも俺の身長のほぼ倍あり、乳輪の真ん中にある乳首の直径1m高さ80cmもあり、
俺の身長の半分ぐらいしかないがそれでも巨大だ。
そしておっぱい全体の大きは高さ8m重さ810tもある。
このおっぱいの中にどれだけ膨大な量の牛乳が貯蔵されているのだろうか?
それを考えると改めて、牛の巨大さを再認識した。

「早く~絞って~」

俺があいの敏感な乳輪に下ろされたことにより、あいが俺を認識しやすいのか、俺の動きが手に取るように分かるらしい。
手に取るようにというより、乳輪に取るようにと言ったほうが正しいのか?


「じゃあ、始めるぞ」


俺はあいの乳輪に全身張り付き、下から上へ下から上へと体全体を強く擦り、あいの乳輪を愛撫する。

「うん・・・・ああ・・」

あいが顔を赤らめ、艶っぽい声を出す。

「ああ・・・」

体を擦り始めるとすぐにドドドドという重々しい音がしておっぱいから牛乳が出てきた。

よしよし沢山出てるな。
よっぽど溜まっていたのか、少し擦るだけですぐに大量の牛乳が出てきた。
ドドドドドという音を立てて大量の牛乳が出てくる。

「ああ・・・うん・・ご主人・・もう少し先の方でなでなでできる?」

「おいこれ以上先でやると乳首でやることになるぞ」

乳首のふもとで体全体を擦っていたが、これ以上先でやるということは、乳首を体を擦ることになる。

「うん、その方が気持ちよくてたくさん出ると思う。だから早く先の方に来て~」

乳首に触るのは始めてだが、少し体を動かせば届く距離なので、あいの希望通り乳首も愛撫することにした。
乳首を愛撫し始めると、俺の目の前であいの母乳が出てくる。
滝を高速化したようにすごい量の母乳が、桶に叩きつけられる豪快な光景だった。
いま乳首を愛撫しているが、乳首の先っぽに行くのは危険だろう。
母乳に流されるか、もしくはあいのちょっとした動きに巻き込まれて、桶に落下してしまうだろ。
俺は上下運動に勤しみ、あいは溜まったものを外に出して気持ち良さそうな顔をしていた。

「ねえ、ご主人?あいの牛乳の味はどうかな?前よりおいしくなってるといいけど・・」

少し冷静さを取り戻し、現実を考える余裕が生まれたのか、あいは自分の乳の味のことを心配しだした。

「さあ、どうだろ?」

俺はそんなこと言われても分からず、曖昧な返事をした。

「ご主人味見して~」

あいの牛乳は日を増す事に美味しさに磨きがかかり、十分美味しいと父さんが言っていたが、俺自身あいの牛乳を飲んだことがなかった。
こんなことをあいが提案するなんて珍しい。

「なんでそんなこと言うんだ?珍しいな。あいの牛乳の話をするのは嫌がっていたように思ってたんだか、なにかあったのか?」

「あいも考えたんだ。ご主人にいつもお世話してもらってるけど、あいがご主人にできることといえば、おいしい牛乳を作ることぐらいしか
 できないから、少しでもおいしい牛乳をつくりたいなって。それにご主人に見放されたら、と思うと怖くて・・・・
 だからご主人が喜ぶことを少しでもできたらいいなって思って・・・」

あいもあいなりに、俺に気を使ってくれてるんだな。
確かにわがままで俺をいつも振り回しているいるが、あいは我が家の家族の一員だ。
あいがいなかったら、俺たち家族も生活できないし、あいを見捨てるようなことはしない。

「そうか、分かった。あい桶の方に降ろしてくれ。」

「うん?桶から飲むんじゃ、桶の匂いが付いて、牛乳の味がわからないよ~。乳首から直接飲むの~。それに乳首から出た牛乳は鮮度抜群だよ~」

乳首のふもとにいた俺を指で少し後押しして、乳首のてっぺんまで押し上げた。

「うわ!」

突然の出来事でびっくりした。
てっきり桶から飲むのかと思ったが乳首から直接飲む?なんて大胆!。
この世界の牛乳は高温殺菌なんてしなくても、お腹を壊さない。そんな牛乳なのだ。

「ではお言葉に甘えて」

足元にある乳首に口で直接優しく吸い付いた。
すると優しく吸ったにもかかわらず、ビューと滝のように沢山出てきて体全体が牛乳まみれになった。

とっさに手で顔についた牛乳を拭き取る。
今度は地面についた、牛乳をペロペロと地面を舐める感じで飲んだ。

「うわ!?なにこれ」

「どうしたのご主人!?もしかしておいしくないの・・・」

「その反対だよ。今まで飲んだ牛乳の中で一番美味しいよ。こんなに美味しいなんて思いもしなかったから、びっくりしたんだよ」

あいの牛乳を飲むのは初めてだったが、ほかの牛の牛乳は飲んだことはあった。
あいの牛乳の味はほかの牛乳と大分違った、あいの牛乳は味が洗練されており、濃厚で複雑で深みがあり、それなのにくどくなく、のどごしもかなり良い。
なによりこの牛乳を一回飲んでしまうとクセになるというか、ほかの牛乳が飲めなくなりそうだ。

「え!本当~。よかった~」

あいは例えるなら、初めて彼氏にお弁当作って、美味しいよって褒められてるような心境だっただろう。

そして右側が終わると次は左側のおっぱいを絞る。

左側のおっぱいも絞り終わり、巨大な桶が牛乳でいっぱいになり、搾乳作業が終了した。

「あーやっと終わったー」

思いっきり背伸びした。
これでようやく一息つける。今日一日疲れた。

「やっぱり、ご主人が絞るの一番うまいね。またお願い~」

おっぱいの内部にあった貯蔵物を空にして気持ちよかったのか、少しご機嫌な様子だ。


「え!!100万リットル!そんなに出たのか!こんなに出たの始めてじゃないのか?」

桶に付いてあるメーターを見て、始めて気づいた!


100万リットルと言えば、25mプールが36万リットルの水が必要なので、約3倍の量の牛乳を出したことになる。
つまり25mプール3杯をあいの牛乳で満たすことができる。
牛乳風呂ではなく、牛乳プールで水泳を楽しむこともできるぐらいの量の牛乳である。

こんな重いものをひとりで運ぶなんてできるはずもなく、あいにお願いして倉庫まで運んでもらった。



「なあ、父さん。少し聞きたいんだけど」

「なんだ」

「あいの牛乳の量がいつもより、多かったけど、なにかの病気とかじゃないよね」

「えっと、どれぐらい出たんだ?」

「100万リットル出た」

「100万リットルか、それで味は良くなっていたか、それとも悪くなっていたか?」

「それは良くなっていた。今まで一番良かったよ」

「あいは搾乳の時、どんな様子だった?」

「それは・・・、とても気持ち良さそうにしていた」

「ハハハハ。心配することない。それはあいの状態がよくなってきている証拠だ。牛は自分の置かれている環境が良いと牛乳の味が良くなり量も多くなる」

「そうなの?」

「そうだ。あと牛自身が自分の牛乳が美味しくなって欲しいとか、飼い主に喜んでもらいたいとか思っても味が変化する。
 今のあいの状況はとてもいいようだ。この調子であいの世話頑張れよ」

そうだったのか、あいは今この状況がいいと感じているのか。
今まであいのわがままにいやいやながら、付き合ってきたが今から考えるとあれは、あいが俺にじゃれついていただけかもしれない。
なにせ大きさが100倍も離れているから、あいの行動が俺からしたらちょっとした暴力に感じることもあったが、あいの状況がいいと言うなら、
少しぐらいなら、あいの好きなように甘えさせてもいいかもしれない。


そして今日は日曜日。
今日は学校休みだが、あいと一緒に林業のアルバイトを週一でやっている。

「あいそろそろ行くぞ」

「うん」

と言うと例のごとく、あいの指につままれ、胸元に挟まれた。

「またここの場所か?もっとほかの場所はないのか?」

「いや、ここがいいもん。一番ご主人がよく見えるし、ここだと落ちる心配ないし~」

やれやれ、あいには羞恥心というものがないのか?
よく自分の胸に人を挟んで、恥ずかしいと思わないものだ。

ドスンドスンと大地を揺らしながら歩くあい。
そのスピードは時速400キロ、新幹線よりも早かった。
しかし俺はふかふかの肉壁と、あいの体温という名の暖房が効いていて、とても快適だった。
身動きができないのが、玉に瑕だが。
体重5万トン、時速400キロで歩くあいに踏まれたら、ひとたまりもないだろ。
あいも足元に気を使って、歩いているし、この周辺は人が滅多に歩かない地域なので、大丈夫だと思うが、一応俺もあいの足元に気を配る。
運転手助手と言ったところかな。

「さあ着いたよ~」

さすが牛は速い。あっという間に現場に到着した。
あい以外の牛たちも先に4、5人到着していた。
あいを見るなりひとりの牛がこっちに寄ってきた。

「やっほ~みんなげんき~」

「あれ?あいじゃん、元気だよ~あ!あいのご主人もいる~」

「え!?あいのご主人来てるの?どこ?」

俺が来ていると知った途端、周りにいた全員の牛たちがあいの周りに集まってきた。


「ねえーあいのご主人ー、今度うちに来てよ。もしよかったら、私の搾乳もやってよー歓迎するよ。」

「あ!ダメダメそんな抜けがけなんてずるい私が先よ!」

「そっちが抜けがけするなら私だって、ねえあいのご主人、あいのおっぱいより私のおっぱいの方が大きくて柔らかいよーこっちに来る?」

「ダメダメ、あいつのとこなんかやめといたほうがいいわよ。私のおっぱいの方がいいよ。私のところへいらっしゃい」


あいを囲んで、そんなことをわいわい牛たちが言い始めた。
俺をつかもうと牛の手がやってくる。
そしたら、他の牛がそれを払いのけて妨害する。
あんなでかくて強そうな手が他の手とぶつかり方向を変える。
そんな恐ろしい光景が目の前で繰り広げられていた。

俺はどうして良いか分からず、ただ今の状況を見ているのが精一杯だった。
牛の手もすごいが牛のおっぱいはもっとすごかった。
あいのおっぱいの周りにあいよりも大きなおっぱいが左右に艦隊のようにズラリと並んで、俺から見える景色は牛のおっぱいと
俺を連れ去ろうとする牛の手だけであった。
やっぱり牛のおっぱいはでかい。
あいのおっぱいでも牛たちにとっては平均サイズのおっぱいらしい。


「えっとあのその・・・」


あいひとりだけでもでかいと思うのに、同じようなサイズの牛が何人もいるのだ。
しかもあいの谷間に挟まれ身動きが取れないため、逃げることもできず、そもそも胸の谷間は地上から100m以上の高さがあり、
身動きが取れても逃げれないだろう。
そもそも牛たちは時速400キロで歩行するのだ。逃げ切れるはずない。


「もう!やめてよ!ご主人が困っているでしょ。あいのご主人はあいだけのご主人なんだから!」

「そんなムキにならなくてもいいのに。冗談なのにー、ホントあいはご主人一筋ねー」

牛たちは半分冗談半分本気といった感じでケラケラ笑いながら離れていった。

「さあ・・・仕事始めようか・・・」

気の利いた言葉が見当たらず、とりあえず仕事しよ、という言葉しか言えなかった。


高さ数十mある大木でも、まるで草を引っこ抜くみたいに軽々と大木が地面から抜かれていった。
人間みたいに、木が倒れてきて事故になることはなく、仮に牛に木が倒れてきても牛にとって大木は膝下の高さしかなく、倒れてきても無傷で安全だった。

あいの片手に大木が数本握られ、決められた場所に持っていく。
その作業が終わると、また大木を抜きに行く。
そんな作業を繰り返し繰り返し行われて、大木がどんどん積みあがっていく。
人間が重機を使って同じ作業をするよりも安全にそして早く行わていた。

簡単に大木が次々と引っこ抜かれ、いつ見てもすごい怪力だと思うが、これでもあいにとっては本気の力を出してないらしい。
あいが本気になったら、どれほどの力を持っているのか?それを考えると身震いする。

あいが黙って作業に遂行している姿をあいの胸の谷間から眺めた。
作業中はあいは無言であった。

そして作業が終わり、俺たちは自宅に帰ることになった。
帰り道もあいが口を開くことはなかった。


「なあ、あい」

と呼びかけてもあいは返事をしなかった。

「あい、なに怒っているんだ?返事しろよ」

「ご主人はあいよりもあの子たちの方がいいんだ」

「え?」

「あい知ってるもん。ご主人はさっきあの子たちの胸ばかり見ていたの知ってるよ。あいよりあの子たちの胸の方が好きなんでしょ」

「そんなことない!それに胸なんて見てないし」

「うそ!絶対ジロジロ見ていた!ご主人があいの胸にいるとき、どんな行動しているか、すぐわかるもん」

ぐ!既にお見通しというわけか。
これは下手に言い訳したら、ますます機嫌を損ねることになるな。

「そうだよ、見ていたよ。でも仕方ないんだよ。目の前に胸がいっぱいに広がってほかに視線を移しようがなかったし、それに一応俺も男だし・・・・」

「じゃあ、あいの胸は嫌い?」

「いやそんなことはないけど」

「じゃあ、あいの胸もさっきと同じようにジロジロ見てよ」

「いやあ、ジロジロ見るもなにも、今あいの胸に挟まれれるから、じかであいの胸を感じているんだけど」

「乗るんじゃなくて、少し離れて見るの」

と言うとあいの指がやってきて、谷間から俺をつまみ上げ、17mもある左手ひらに降ろした。
谷間の高さは約110mあり、この手のひらから落下すると命はない。
今あいの言うことを聞かないと何されるか分からない。
あいが俺に向かって、危害を加えることはないと分かっていても、今置かれてる状況を思うと、もしかしたらと考えていまう。
それになんだ・・まあ、いやじゃないし

「どんな感じ?あの子たちよりもいい?」

「うん」

そんな素っ気ない返事しかできなかった。
なんせ高さ110m付近に8mぐらいの肉の塊が大きく膨れ上がっており、そんな巨大な物をふたつもぶら下げている。
胸に挟まれた時に嫌というほどわかるが、肌はすべすべして気持ちよく、柔らかくて暖かい。
優しく包まれ、母親みたいな保護力が感じられるが、少し離れて見ると威厳のある巨大な肉の塊。
あいの胸は優しさと美しさ恐ろしさを兼ね備えた、自然物のようであった。

「なあ、今度は横から見たい。いいかな?」

「うんいいよ~」

といった感じであいの要望通り、俺はあいの胸をジロジロ観察した。
仕方ないね。男だもんね。

「なあ、人間の女にはモテないのに、なんでどこ行っても牛たちにはモテるのかな?わからないんだけどどう思う?」

「ご主人は牛たちの間ですごく人気が高いんだよ~。あい自慢のご主人だよ~。だって文句は言うけど、大体のことは聞いてくれて優しいし、
 いつもあいのこと気遣ってくれるし、乳絞るのも痛くしないし上手だしね~。
 それにいい匂いがするしね~」

「あんまりあいに優しくしているつもり、ないんだけどなあ。いい匂い?そんなことあい以外に言われたことないけどな」

「そうなの?くんくん、今もいい匂いするよ~」

どうやら牛と人間の美的感覚は違うようで、嗅覚も人間より牛の方が優れており、人間には感知できない匂いを牛たちは嗅いでいるらしい。
そんなこと全然考えもしなかった。
牛にしか分からない匂いが存在するみたいなこと前に父さんも言ってたような気がする。




そのあと、あいは少し機嫌が戻り晩ご飯を食べる頃にはいつものあいに戻っていた。
お腹が空いて、イライラしていたのも関係しているのだろう。





「ご主人~お帰り~」

ドスンドスンと地面が揺れる。
いつもどおり学校から帰って来た俺を、あいは指でつまみ上げ頬ですりすり擦り匂いを嗅ぐ。

「あい、悪いんだけど、明日から学校の行事で3日は家に帰れないんだ」

「え!?どういうこと?」

「いや、そのままの意味だ。3日は家に帰れない。父さんか母さんが家にいるから、大丈夫だろ」

「いや、絶対にいや。ご主人に会えないなんて、そんなのいや考えられない!」

「そんなこと言っても仕方ないだろ。行かないわけにもいかないし、悪いが我慢してくれ。なあいいだろう」

「じゃあ、あいも行く、ご主人と一緒についていく」

「いや、無理だろ。汽車に乗って遠くに行くんだぞ。あいの足のサイズは何メートルだ」

「23メートル・・・」

「ほら、汽車一両が20mだぞ!あいの足すら乗っけることすらできないよ」

そう言うと、あいはうーんと言って不機嫌な顔をしていた。


「じゃあ行ってくるからな」

「早く帰ってきてね~。絶対よ~」

ギュといつもより力強く、長いこと俺を抱きしめた。
目はどことなく、うるうるしているような気がした。

「あいは大げさなんだよ。そんな今生の別れみたいな風にしなくても・・・」

あいは俺が見えなくなるまで、いつまでも家の外に立ち見送り続けた。

そしてその日の夜は何事もなく、普通に寝たがなんとなくあいの寂しがる顔が目に浮かんだ。



その次の日の夕方事件は起こった。

先生に呼び出しをくらった。

「親御さんから電話だ。こっちに来て」

と言われ、電話に向かう。
あいがどうしても電話越しに俺の声を聞きたいとでも言ってきたのかなと思い、受話器を手に持った。

「もしもし、母さんどうしたの?」

「どうした、じゃないわよ!」

第一声がこれである。
いきなり電話越しから大声が聞こえてきて、とっさに受話器から耳を離した。

「あいが暴れて困っているのよ。すぐに帰ってきなさい」

「暴れてる?どういうこと!詳しく説明してよ」

「初日は元気がなくて、いつもより暗いだけだったけど、2日目の昼頃になってあんたに会いに行くっていうこと聞かなくて、街の方まで歩き出したのよ。
 牛が街に入り込んだりしたら、人や建物を踏んだりして危ないでしょ。
 ほかの牛の飼い主に連絡して、何人かの牛たちにあいを取り押さえてもらったのよ。そのあとワーワー騒ぐし暴れるから、
 お医者さんに連絡して鎮静剤をうってもらってようやく落ち着いたのよ」

そんな深刻なことになっているなんて、知らなかった。

母さんいわく取り押さえる様子はまるで怪獣映画を見ているような迫力だったらしい。
数人の牛たちがあいを取り押さえた時、牛たちの巨大な足が大きくスライドし、あいが地面を強く蹴ったりしたから、すごい地響きと大きな穴が開いたらしい。
周りの木々はなぎ倒され、牛に近づいたら、確実に命がないくらい激しいものだったらしい。

あいが街に入り込まなかったから、良かったものの、もし街に入っていたら死人が出ていたかもしれない。
牛は基本的に温厚で人に危害を加えたりすることは、滅多にないが牛が人間を故意に殺したら、牛も殺される。
つまり、あいも処刑されていたかもしれないということだ。

「で、母さん。医者はなんて言ってるの?治るの?」

「飼い主ロス症候群だって。ただ、あいの場合症状が重くて、お医者さんもここまで深刻化するのはかなり珍しいって言ってた。
 治療方は、飼い主が生きている場合は、飼い主が帰ってくれば回復するって、だから早く帰ってきなさい。
 もしもこのまま放置したら、またいつ暴れだすか・・・」

「分かったよ。担任の先生に聞いてみる。一応あいにも今から帰ると言っておいて」

「あいは今鎮静剤の薬で、ずっと横になっているのよ。だからあいには伝えられないのよ」

「とりあえず、すぐに家に帰るから」


そして先生を捕まえた。
すると先生は状況を把握してくれて、すぐに対応してくれた。

「今の時間だと、まだギリギリ汽車が走っているな。あ、これだ特急スーパー・・・・」

先生には悪いが、電話のあとの記憶は曖昧だ。
あいが街に行けば、あいが殺さるかもしれない。
俺のせいであいが死ぬかもしれない。
しかも今もあいは鎮静剤で横になっているなんて考えると頭真っ白になった。

そのあとも汽車の中でずっとあいのことを考えた。
暗い夜の窓に光が流れているのをぼんやり眺めていると、なんとなくあいの顔が頭に浮かんできた。
夜の汽車は寝ている客が多く人もまばらで、汽車の走行音以外なにも聞こえず、寂しい気持ちがより強まった。
それにしてもこの汽車はなんて遅いんだ。
100キロ以上は出てるみたいだが、それでもすごく遅く感じた。


「ご乗車ありがとうございます。まもなく・・・」

ようやく最寄駅に着くそうだ。
ドアが開くまで、まだ数分もあるのに俺はドアの前に立ち、早く開けとイライラした。
ドアが開くと同時に汽車から出ると、駅前で父さんが車に乗って待ってくれた。

「父さん今、あいどんな感じ?」

挨拶抜きにしていきなり、飛びつくような気持ちであいの状況を聞いた。

「今はずっと寝ている。でも元気がなくて、ずっとお前に会いたいって言っている。しかしここまで、お前に懐かれると思いもしなかった。
 父さんがもっとお前とあいのこと考えてやるべきだったな」

「いや、父さんが悪いんじゃないよ。あいが行くなって言ったとき、俺が行かなければ・・・」

車の中は暗く重い空気が流れた。
お互い悪いところを言い合うことほど、暗くいやな気持ちになることないだろう。
ようやく家に着いて、あいの部屋に駆け込む。

「あい、大丈夫か!」

「帰ってきたのね。今、あいは寝てるわよ」

あいの元に駆け寄るとあいは涙を流しながら、眠っていた。
あんなにでかい図体しながら、こんなに寂しがるなんて。
俺は涙を流しながら眠る、あいの人差指の指先を背もたれにして一緒に眠った。
指の高さは1mもあるので、体重を指に預けることができた。

「いて!」

突然支えが無くなって、床に頭を打ち付けた。
なんだよ、と思い目を擦ると目の前に15m以上の大きさもある巨大な化け物が迫ってきた。
化け物は影になっており正体がよく分からないが、翼を広げながら、こっちに攻撃してきたように思えた。

「うわあああ」

その化け物に連れさらわれてしまった。
すると目の前にあいがいた。
なんだ、さっきのは手のひらか、いつもより乱暴に俺を掴むから、寝起き直後だったこともあり、巨大な化け物に連れさらわれたと勘違いした。

「ご主人~~~~。会いたかったよ~~~~」

朝っぱらから大声が家中に響き渡った。
あいは俺を蹂躙した。
強く抱きしめ、今までに感じたことのない痛みが走った。

「痛い痛い、潰されるー助けてー」

と叫ぶとあいが力を少し緩めてくれた。

「もうなんで、早く帰ってきてくれないの?こんなに寂しかったのに」

「ちゃんと3日間って言っただろ。これでも予定よりも早く帰ってきたんだぞ。心配かけさせて」」

「3日がこんなに長いなんて知らないよ~」

ムスと怒るあい。
そういや、あいは時間や日にちが分からないだったんだな。

「そういや、あい。周りの人にえらく迷惑かけたらしいな。」

「だって~。だって~どうしてもご主人に会いたかったんだもん」

「バカ!街に行こうとしたらしいじゃないか!もし誰かを踏み潰したら、どうなる?お前が死ぬことになるんだぞ!」

「それでも、ご主人にどうしても会いたくて~」

「そんな・・・、死んでもよかったのか?」

あいは暗い表情をしながら答えた。。

「死ぬとか、そんなの考えてないよ。街に行ったら、いけないのは知っているけど、どうしてもどうしても・・・・・・」

それから黙ってしまった。
もしかしたら泣いていたのかもしれない。
俺が帰ってきて、あいはうれしかったのに、帰ってきてそうそう俺に怒らて、少し参ってしまったのだろう。

「悪い、少し言い過ぎた・・・、あいは悪くないかもしれない。俺がいない間、そんなことになるなんて、思いもしなかった。だから最初から行かなければ 
 よかったんだ。でもあいが死ぬようなことになったら、俺だって家族を失うみたいでつらいし」

「いや、そうじゃない!あいが悪いの、ご主人の父さんと母さんのいうこと聞かなかったあいが悪いんだよう」

ふたりの意見はこのままいけば平行線になり、意見がまとまらないと思われた。
どうしよう、こんなことがまたあったら、あいの命にかかわるし、ほかの人を踏みつぶしかねないし、どうしたらいいか?

「とりあえず、もう勝手に街に行こうとするな。あいの症状が落ち着くまで、あいとなるべく一緒にいることにするからな!たのむ」

あいに本気で頭を下げてお願いするのは今日が初めてだ。

「あいは、もう勝手に街に行かない。だって行ったら、ご主人やほかの人も悲しむからもう行かない」

それから数日間、放課後はずっとあいの谷間で過ごすことが多かった。
医者もそのほうが牛が安心して少しずつ、症状も良くなっていくと言っていた。
俺はまあ、あいの胸にずっと囚われの身であることに抵抗があったが、それ以上にあいが嬉しそう顔を見ているとそんな気持ちもどこかへ飛んでいく。





それから一か月後

あいの症状もだいぶよくなって、少しぐらいなら、あいと会わなくても平気になっていた。
あいはかなり我慢をしていたがこの前みたいな騒動になることもなく症状は確実よくなっている。

「おい、大変だ!!あいの牛乳が金賞を取ったぞ」

玄関を壊すような勢いで父さんが走って帰ってきた。
よっぽど、急いで帰ってきたのか、ぜえぜえと息を切らしていた。

「え!?父さんそれホント?」

「本当だ!今度あいとお前が表彰される。すごいことだぞ。なんせうちの村から銅賞以上出たことないからな!」

「あい、大変だ。金賞だ。金賞を取ったぞ!」

と言いながら、父さんはあいの部屋に慌てて入って行った。

「なにそれ~。ご主人と一緒に出るの~やった♪」

父さんの慌てぶりに比べたら、ずいぶん軽い返事をするあい。
まあ人間の作った賞で一番喜ぶのは人間だろう。


「え~このたびは、とても優秀な牛乳を生産された飼い主さんと牛に表彰します。それではまず金賞のあいさんとその飼い主さんどうぞ前へ」

パチパチパチと拍手で迎えられるあいと俺。
あいは普段着だが俺はスーツを着た。
スーツなんて普段着ないから、ネクタイの結び方を覚えたりして大変だった。

「飼い主さんにはトロフィーを授与します。どうぞ皆さん大きな拍手で」

俺はぺこりと頭を下げトロフィーを受け取ったら、早歩きで会場から降りた。
こんなに多くの人から一斉に見られることなんてないから信じられないほど緊張した。

「それではお次は、あいさんです。あいさんには記念指輪は授与します。どうぞ皆さん大きな拍手でお迎えください」

指輪?あいの指のサイズに合う、指輪なんて・・・と思ったら、直径1.5mの鉄でできた巨大指輪が現れた。
男4人で重そうに運んでいる。

「ではあいさん。指を通してください」

すると巨大な指輪の中にあいの指が入っていき、指の根本にピッタリ収まった。
指輪には金賞受賞記念と刻まれていた。




「ふふふん~。指輪もらっちゃった~♪」

子供が新しいおもちゃは買ってもらったみたいに無邪気に喜ぶあい。

「これからもあいと一緒に美味しい牛乳を作れよ。父さん期待しているぞ」

「わかったよ。父さん。今回の受賞をきっかけにもっといい牛乳を作りたいと思ったんだ。どうすればいいかな」

「そんなこと決まってるじゃないか!おまえとあいがもっと仲良くすればいい。絆が強ければ強いほど、あいも答えてくれる。牛はそういう生き物だ」

「あ、じゃあ~あいとご主人がもっと仲良くなるには~あいをもっと喜ばせないといけないね~ご主人~
 金賞を取ったのも半分はあいのおかげだし、ご褒美がほしいなあ~今日は何してもらおうかな~♪」

やれやれ今日もあいのわがままに振り回されるのか。
美味しい牛乳を作るのも楽じゃない。
誰か簡単に楽に美味しい牛乳の作り方を知っている方がいたら教えてください。



おわり







あとがき

牛ってエロい動物ですよね。
搾乳しないと炎症してしまうため定期的に搾乳しないといけないらしいです。
搾乳されるときに痛みが和らぐから、搾乳されると気持ちいいと感じるらしいです。
今回の登場人物あいは色んな動物を組み合わせた性格になっています。
ご主人の言うことを聞いて、林業に励む姿やご主人を胸に乗せて歩くシーンは馬をモデルにしました。
馬って賢い動物なんですよ。
人間のために自分を犠牲にして一生懸命働く姿は言葉に出ないほどすごい行為だと思います。
馬は人間に食事と寝るところを提供し、馬は代わりに労働を提供するお互い共存関係だと思います。
今では馬はほとんど見かけることはありませんが、昔は移動や農作物を育てるのになくてはならない存在でした。
あいがご主人に甘えたり、わがまま言ったり、家を勝手に飛び出すシーンは猫をモデルにしています。
猫って勝手な生き物です。
いたずらをして怒ったら、ピューって逃げるくせにお腹が空いたら、にゃーと言ってさっきのことは忘れたようにすり寄って甘えてきます。
あと甘えん坊で一人でいることにすごい不安を感じ、帰宅した際、飼い主の足音を聞くとピューと走ってきて、すりすり甘えます。
あと動物って嗅覚と聴覚がすごいですね。
足音だけで誰が歩いているか、遠くからでもすぐわかるんですよ。すごいですよね。
今回は短編でいくつもりでしたが予想以上に長い話になってしまいた。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。