タイトル
女神その四買い物


「あ~あ、なんもいいことないなあー」

学校から帰って来た女神はベッドに転がり、足をパタパタさせながら、不満をこぼしている。
自分がせっかく女神になったのに、あんまり得したことはない。
しいて言うなら宇宙からかわいい地球を見れたぐらいしかいい思い出がない。
それよりパンツの中に地表の一部を間違って転送させて、恥ずかしい思いをして知らず知らずのうちに他の星の人に迷惑をかけている。
良い思い出よりも悪い思い出の方が多い気がする。

「女神になれたんだし、私だけの特権がなにかあってもいいよね。う~ん、そういえばもうすぐ夏かー、夏になったら海に行きたいなー」

女神は水の中に入るのが好きだった。
冷たい水の中は涼しくて気持ちよく、泳いだり、水面にぷかぷか浮かんだりして陸とは違う感触を味わうのが好きだった。

「砂浜で履くサンダルも買いたいな、去年買ったやつは確か少し小さかったし、そうそう靴といえばローファーも欲しいなー、
 いまのやつ歩きにくいし、でも買って間がないから、新しく買うのもったいない気がするなー」

お小遣いを使うのは少し抵抗があった。
ほかにも欲しいものはあったし、別になくても我慢できるし、あったほうがいいなー程度の物だった。

「どうしよっかなー、ああーそうだ!宇宙人に作ってもらおう、そうすればお金を使わずに手に入るじゃん」

なんでもっと早く気がつかなかったのだろう?悩んでいた自分がバカみたいだ、宇宙へ行ってすぐに作ってもらおう。

「どこの星の人に作ってもらおうかな?この前パンツの中いた星に行こうかな、ちゃんと記憶を消せたかどうか確認したいし、
 あのあとあの人たちが無事に帰れたかどうか気になるし」

彼らがパンツの中の出来事を忘れることは難しいと女神が判断した時、女神は恥ずかしさのあまりよく確認せず速攻で転送してしまった。
しかし彼らから大きな悲鳴や大規模な死者は確認できなかったので、多分彼らの母星に無事に帰れたと思うが、細かいことはなにも知らなかった。

「これで決まりー、早速出かけようー、うん?ちょっと待てよ・・・今思い出したけど、
 私が女神だって気づく前に私を攻撃しようと企む悪い宇宙人がいたわね。あいつらにも挨拶しておかないとね」

といたずらっ子がいたずらをしたときのような顔で言う女神。

私がいなかったら、地球は壊されていたかもしれない。
そう思うと女神は悪い宇宙人を懲らしめようと考えた。

「決めた、ふたつの星へ行って、別々に作らせよっと、そのほうが面白いし早く作ってもらえるよね。早速レッツゴ~。」

女神はそう言うと部屋から消えた。


そして真っ白な異空間に到着した。


「う~ん、この場所なにもなくて淋しいから、なんか持ってきたいなー」

女神自身もここの空間は殺風景だと思っていた。

「あ!そういえば学校に行ったときのままで来ちゃったな。」

いつも放課後学校から帰って来て再度出かけるときは、いつも私服に着替えるのだが、
今回は自宅から出ずに外に出てきた形になったため、着替えるのを忘れていた。

「でもまあ、宇宙人と会うときはこの格好でもいいか。えっと、宇宙はどこ?」

と言うと手のひらサイズの宇宙がどこからかふわりふわりと飛んできた。
この空間内だったら、呼べばすぐにやってくる女神の言葉に忠実な宇宙である。


すると女神は宇宙に吸い込まれるように消えていった。


ワープが終わり、その出口にはパンツの中に間違って転送した星があった。
この星は地球よりも少し科学が発展しており、宇宙進出も成功していた。
この星は地球と大きさと形がよく似ていた。

「ここの星ね、まずは信号を送ってみよっと」

地表の人に向けて脳波を送った。

「こんにちはー私は地球という星からやってきました、少しお話があります、地上への着陸許可をください」

すると地上は大パニックになっていた。
ざわざわざわとあちらこちらから、悲鳴や叫び声が聞こえてくる。

え!?なんで?まさか記憶が消えていないの?いやそうじゃない、巨人がやってきたとみんな驚いているようだった。
驚いてくれた方が、いろいろと都合がいいし、今からサイズを変えるのもめんどくさいし、このままの大きさで通そう。

「皆さん、大丈夫だよ、危害を加えるつもりは、ないから着陸許可をお願いー」

そう彼女は倍率は間違えた、大きさは1万倍の身長15000mになっていた。

パニックは少し続いたが、少しずつ状況が理解し始めたのか、どこかの国の大統領から返答があった。

「ワレヘントウス、キジョノモクテキカナワズ、スミヤカニカエラレタシ、イジョウ」

えっと・・・なにかわかりにくい言葉が頭に浮かんだ。
これじゃあよくわかない。

「そんなかしこまらずに普通にしゃべってよ」」

「返答します、あなたの希望に答えられそうもありません、申し訳ありませんがどうぞお引き取りください」

ようやく普通の言葉で返答してきた。

「そんな・・なんで!いいじゃない、確かに私はあなたたちに比べたら大きいかもしれないけど、この星に危害は加えないよ」

「いえ、あの・・・その大きさなら危害を加えない方が難しいのでは?あなたの着陸できる地点は残念ながらありません。
 どうかどうかお引取りを」

大統領の言っていることは正しい。
なぜなら女神の身長15000mもあり、地上に降りればただでは済まない甚大な被害を受けるだろう。
女神の大きな体があっちこっち普通に歩くだけで侵略的破壊行為であり、大勢の人があの巨大なローファーの下敷きになるだろう。
そのような被害を出さないためにも、彼女には地上に降りてきて欲しくないし、できればそのまま立ち去って欲しかった。

「ああ、もう心配性だな、私が大丈夫だって言ってるから、大丈夫なのにーそこまで心配ならね、そうね・・証拠を見せてあげる」

と言うと女神は履いていたローファーの片っぽを脱ぎ手に持った。

「ピッチャー振りかぶって第一球投げました~」

女神は脱いだローファーを星に向かって全力投球してきた。

2300mのローファーが宇宙から投げられ、地面に接近してくる。


大きな隕石でも大気圏に突入した際、隕石は爆発し、粉々になって消滅するか隕石の破片が地上に降り注ぐ。
こうやって星は隕石から身を守っているが、女神の投げたローファーは硬く頑丈な物質でできており、大気圏に突入する際、
ローファーの一部分が熱で赤くなっていたが、燃えたり欠けたりすることなく、投げられたままの形で地上に落下してきた。

ちなみに科学者によれば、1キロの隕石が地上に衝突した場合、人類絶滅するのも十分考えられると発表している。
人類が絶滅する可能性がある二倍以上の隕石ではなく、ローファーが落下してきたら確実に人類は絶滅するだろう。


地上では多くの人が悲鳴をあげていた。
ローファーはまさしく巨大隕石そのものであり、赤い光を放ちながら、地上に向かってものすごい速度で落下してきた。
ローファーの作り出す影に都市が染まり、衝突直前には都市全体が夜みたいに辺りが暗くなった。

「うあああああああああ、もうだめだあああ、人類絶滅だ、地上には衝撃波が走り爆風が吹き荒れ、
 何百メートルの津波が発生し、気候は変わり人間はもう生きていけない」

と叫び目をつぶってうずくまったが、なにも変化がない。
もう自分は知らない間に死んでしまったのかと思って目を開けたら、辺りは真っ暗だった。

上を向いてみたら、さっき地上に向かって投げられていたローファーが横たわっている。
夢でも見ているのではないか?なぜローファーは地面に衝突せず、ビルの上に浮いているのか?


「うふふー♪これで分かったでしょ、危害を加えるつもりはないって、バリアを張ったから地上に降りても平気だよ。ねえ早く着率許可出して」


大統領はどうしていいか分からなかった。
彼女が投げた、見たことのない履物が地上に衝突していたら、人類絶滅していたと偉い科学者は言っていた。
しかし人類は絶滅しなった。
それどころか死者はもちろん、けが人すら出ていない。
今、彼女の要求を拒否して、彼女の機嫌を損ねたら、どのような反応するのか未知数だし、
この星の科学力ではさっきの履物の衝突を食い止めることはできなかった。

つまり彼女に逆らうことは得策ではない。
彼女の機嫌を損ねず、なるべく早く帰ってもらおうという結論が出た。


「あの?本当に我々に危害は加えませんか?侵略行為をしませんか?お見えになられた目的はなんですか?」

と質問しまくる大統領。


「大丈夫だって何回言えばわかるの?さっき靴をぶつけた時なんにもなかったでしょ!」

彼女はムスっとした顔で、めんどくさそうな少し怒ったような声で言った。
これはまずい、彼女が機嫌を損ねると気が変わって、本当に侵略してくるかもしれない。
武力では撃退するのは、かなり難しいと思う。
履物が地上に落下して来るのを食い止められない以上、彼女に武力行使は無意味だろう。
履物の変わりに小惑星を地表にぶつけてきたら防ぎようがない。
目的は不明だが今は彼女の要求を飲むしかなさそうだ。

女神は遊び半分でローファーを星に投げつけたが、知らず知らずのうちに地上の人たちに軍事的圧力をかけていた。

「わかりました。着陸を許可します。場所は○○○砂漠の・・・」

「バリア張っているんだから、どこに降りても一緒よ。それに投げたローファーを履きなおさないとね!」

大統領のいた都市に天空から、ふわりふわりと女神が降臨した。
女神は地上に降り、ローファーを履きなおした。


ズウウウウウウウウン。


普通なら街がめちゃめちゃに破壊される所だが女神の宣言通り、バリアが張られ街は無傷であり、無数のビルの上にローファーの裏側が都市を支配した。
ローファーの裏側は影になっており、都市は夜みたいに暗くなった。
ローファーを買ってから、それほど日がたってないのか、ローファーは綺麗でピカピカと光沢を放っていた。
こんな巨大な物をこれだけ綺麗に手入れされた巨大建造物はこの星にはなく、そのローファーの光沢がより一層、女神の偉大さを増大させるように思えた。

女神の顔は雲よりもはるか上空に存在し、遠すぎてぼんやりとしか見えなかった。
そのかわり、地上から一番近いローファーと垂直に伸びる太く巨大な脚がよく見えた。
もちろん女神の脚は太くなく、地上の人から見て太く見えるという意味である。
膝の高さですら4300mもありその高さだけでも富士山よりも高い。
女神の目の位置は1万4000mもあり、この星のどんな雲よりも高い位置に存在した。
巻雲と呼ばれる高い位置にある雲でも1万3000mぐらいしかなく、女神の目の高さに及ぶものはなかった。

遠近感の影響で、地上から見て近くにあるローファーが巨大に見え、遠くにある女神の顔は小さくてほとんど見えなかったため
大勢の人が女神の顔よりもローファーに注目した。
そして制服にスカート姿でパンツが丸見えという状況だったが、女神はうっかりそのことを失念していた。
この星の住民は小さすぎて、真下からパンツを見られているという感覚がほとんどなかったからだ。
やはり、パンツもはるか上空にあるため、あまり目立たずパンツを見る人も少なかった。
そして地球人の感覚でパンツはエロいという認識があるが、この星ではそうゆう下着もなく、パンツを見ても興奮できる人はほとんどいなかった。


「ほら、言った通り大丈夫でしょ。みんな心配しすぎだよ~♪」

と言ってその場で足踏みをした。


いくら大丈夫だといっても全長2300mのローファーが上空を埋め尽くし、足踏みをするとそれは彼らに対する威嚇行為にも思え、
バリアが破られやしないか不安であった。
しかしそのことを彼女に伝えると先ほどのように機嫌を悪くするかもしれず、地上の人はこの恐怖を我慢するしかなかった。

女神は辺りを見回した。
この場所はこの星でもトップクラスの大都会だろう。
細かい建物がびっしり地面を隙間無く埋め尽くされている。
まるで航空写真を見ているようだ。
ただ航空写真と違うところは、一つ一つが全部本物でどんな精密模型よりも精巧にできている。
女神から見た都市は、小さな石ころや砂粒ぐらいの小さな建物が、地面を埋め尽くしていた。
ところどころ500mから700mぐらいの高層タワーもあったが、それでも女神の履くローファーのヒールの高さとそれほど変わらなかった。
女神の履くローファーのヒールの高さは450mもあり、この国の象徴的な高層建造物も女神の履くローファーより少し高い程度であり、
いかに女神が巨大であるか示しているようだった。

地上ではバリアが張られていたため、都市は無傷であったが、もしもバリアがなかったら、地面が女神の体重で何百メートルも沈み込み、
ビル群は女神の体重を支えるどころか、一瞬でペシャンコになるか粉々に粉砕され
地面にめり込み、ビルどころか自然の地形も大きく変化するだろう。
女神がもしバリアを張らなかったら、地面に着陸するだけでも多くの人が死ぬため、
地上の人たちは女神降臨ではなく、すべてを破壊する超巨大魔王が侵略しに来たと思っただろう。


そんな地上の人の驚きや恐怖とは対照的に女神は心の中でガッツポーズをしていた。
ほとんどの人が自分のことを初めて見て、驚いたようなリアクションをしている。
記憶はうまく消せたみたいだ。
よかった~、あの日のことは誰も覚えていない。
そう思うと女神は心に余裕が生まれてきた

「すごいちまちまして、建物がびっしりあるね。私が歩ける道路なんてなさそうだね」

女神の足幅は900mもあり、100メートル道路ですら足の小指の幅以下であり、どこにも彼女が歩けそうな広い道路はなさそうだった。

「あなたは地球から来たとおっしゃっていましたが、地球人は皆あなたのように大きく、そして高度な科学力をようしていらっしゃるのですか?」

「うん?いや、そんなことないよー私だけ特別だよ。だって私は女神だもん!」

女神はよしよしと心の中で思った。
今の会話からしてもあの時の出来事は覚えていない。

「女神様?つまり女の神様ということですか?」

「そうよ」

普通の人が自分が神だとか言っても誰も信じないだろうが、今の状況を考えると嘘ではないかもしれない。
この若い娘が女神かどうか本当か嘘かは分からないが、自分たちより圧倒的な力と大きさを持っていることには変わらず、
ひとまず彼女の言うことを信じるしかなさそうだ。


「・・・でこの星にこられた理由をお聞かせ願いたい」


大統領は女神に早く帰って欲しかった。
いくら直接的な被害がないとはいえ、住民に精神的ダメージがあり、大統領自身も彼女の靴の裏側部分を見て恐怖を感じた。

「あ?そうだった。えっとねローファーを作って欲しいの」

「ローファーそれは一体何でしょう?」

この星には女神の着ていたような服や靴はなく、彼らは女神の格好を見て少し変わった格好だなと皆思っていた。
それは始めて見る格好だったからそう思っただけであり、変とか格好悪いとはそのようなマイナスイメージでなく不思議で初めて見る格好だった。

「ああ、この星にはローファーがないのね。これよこれ!この靴のことよ」

女神片方の足を少し持ち上げ左右に振り、これがローファーだとこの星の人にアピールした。

「それを誰が作るのですか?」

「決まっているじゃない。あなたたちよ!そのために来たんだからー」

と女神が言うと辺りはざわざわし始めた。
もちろん大統領も慌てた。
彼女が履いてる靴を作れ?冗談じゃない!あんな巨大なもの作れるはずはない!
まるで海峡大橋を建設するようなものだ。
しかも海峡大橋を作り、その上に身長15000mの巨体の体重が乗り、それを支えなければならない。
それほどの技術はこの星にはなく、とんでもない無茶な要求だ。

「そんな大きなものを作るなんて我々には到底無理です。どうかご理解ください」

大統領がこう言うのも無理がなかった。
なんせこんな巨大な靴を作ったものは誰ひとりいなかったし、こんな巨大な靴を履く人間がいることも知らなかった。
彼女の機嫌を損ねるかもしれないが、どう考えても作れそうになく、嘘をつく訳にもいかず断るしかなかった。
皆、女神の次の言葉がなにを言うのか恐怖した。

そして女神は人を見下すような冷たい目線で我々を見下ろしながら

「そう、じゃあこの星の人たちは役立たずってことね。もう用はないから街を踏み潰してあげる、踏まれないようにせいぜい地べたを逃げ回りなさい」

とか言ってバリアを解除して辺りを蹂躙し始め、最後は隕石を地表に落とし我々を絶滅させるのではないかという憶測が流れた。

しかし意外にもそのようなことは起こらず、女神はキョトンとしていた。

「この大きさの靴を作れないの?見た限り地球より科学が発展していて、宇宙にも進出しているよね。これぐらい作れそうなのになあー」

少しがっかりしたような呆れたような声で言った。
地球人に1万倍の靴を作らせるには無理があるがこの星の人なら作れそうと女神は簡単に考えていたが、どうやらそうじゃないらしい。
しかしせっかくここまで来たんだから、手ぶらでは帰りたくない、どうにかならないか考えた。

「ねえ、この星はほかの星とも貿易しているよね?ここより科学が進んだ星とかないの?」

すると「ある」と返答が帰って来た。
なぜ女神はそんなことを我々に聞いてきたのだろうか?
みな疑問に思った。

「じゃあ、その星に連絡を取って私の靴の作り方を聞いてみてよ。そうすればあなたたちでも作れるんじゃない?」

そこまでして靴を欲しがる女神を大統領は理解できなかった。
なぜ自分たちにそこまでして靴を作らせたがるのか?
彼女の母星で靴を買えばいいじゃないか?
色々疑問はあるが、今は女神の機嫌を取ることが最優先であり、すぐに貿易相手の星に連絡を取った。

「あ、もしもし全長2300mの靴の作り方を教えてもらいたいのだが。なに!いたずらではない。こっちは大真面目だ!身長はいくつ?15000mの女の子だ。
 なに?そんな女いるはずないだと!それが今我々の星にいるんだ!早く教えてくれ」

なんとも奇妙な電話だが最初、相手側は信じようとしなかったがこの星の映像を相手側に送りつけてようやく巨大娘が実在することに納得させた。
靴の作り方はこうだ!まず第一に彼女の履いている、靴の物質を確認しそれに近い宇宙物質を探し出すこと、
第二に彼女の足の大きさを測定する、このふたつをクリアすれば不可能ではないという返答であった。

「分かりました。なんせ初めてのことなので、うまくいくかどうか分かりませんが、最善を尽くしてみましょう」

「あ!?できるの?やった、じゃあ早く作ってよ」

「まずは足を測定したいのですが、バリアが張られているため、我々は女神さまの足に近づくことができません。いかがなさいますか?」

「そんなの簡単♪あなたたちだけバリアをすり抜けられるようにしたよー。もちろんバリアは張ったままの状態でね-」

宇宙船はバリアをすり抜けた。
どうやら宇宙船だけ、バリアをすり抜けられるようだ。
女神が地上に降臨する前から空を飛んでいた宇宙船はバリアにくっついてしまい、宇宙船は身動きできない状態だったがこれでようやく解放された。

「裸足になればいいのね。はいとうぞ」

女神はその場で座りこみローファーを脱ぎ、靴下も脱ぎ、裸足になった。
女神は今から好きなように足を計測してくれと彼らに言った。

今まで地面に着地していたのは一足の靴の裏だけだったが、今度はお尻が地面に向かって落ちてきた。
幅2700mのお尻がぐんぐん隕石のように降りてきた。
靴の直径よりも長く、しかも丸っこい形をしていて足の総面積より大きかった。


ズズウウウウウウウウ。


まずはオーロラのようなスカートから地面に着地し、次いでお尻が地面に着地した。
都市を覆うバリアはビリビリと電流のような光の筋が流れた。
あの強力なバリアですら揺るがすお尻、彼女の体にはどれほどの重さと力が秘められているのか、検討もつかなかった。

女神は座りながら、手を使い靴下を脱ぎ始めた。
足に比べると控えめなサイズだがそれでも手全体の大きさは1700mもあり、それだけでも十分巨大だった。
今までこの星の者は靴の裏が女神の全てのような気がしたが、いまお尻と手という新たなパーツが天空から降臨し地面に着地している。
靴の裏側は女神の体の一部にすぎないとあらためて気づかされた。
女神が座ることにより、女神の顔が地上にずっと近づいたことにより、初めて女神の顔をよく見ることができた。
天空から響く声と自分は女神だと名乗っているから、声の持ち主は女だということは皆分かっていたが、
あんな見たこともない巨大な靴を履く持ち主なんだから、とても強そうな顔した女だと想像していたが、しゃがんだ時靴下を脱ぐ姿を見た、
人たちはその想像は外れていたことに気づかされた。
皆息をのんだ。なんて綺麗な人なんだろう。
ただ靴下を脱いでいるだけなのに、その行動だけでもとても絵になり美しかった。
あんな綺麗な人はなかなかいないだろう。
もし電車なんかで隣に座ってきたらドキドキするだろうし、自分にしゃべりかけてきたら、ドキドキしてうまくしゃべれない人も沢山いるだろう。
そのぐらいのすごい美貌の持ち主だった。
女神は美しさと可憐もあるがそれでいて、どんなことにも絶対負けない無敵の力を兼ね備えていた。
つまり、美と力の両方の究極的な存在であった。それが今我々の地表にいる女神である。


さてこれから宇宙船を使い、女神様の足を計測するのだが、本来宇宙船は輸送や軍事に使用されることを前提に設計されており、
1万倍の女の子の足を測ることは初めてであり、少し屈辱的ではあったが女神様の機嫌を損ねないことに首脳陣は気を使っていたため、
屈辱的だと考える人はごく少数であった。

宇宙船が女神の足に近づく。
百メートルもある巨大宇宙船も女神から見ると僅か1センチしかなく、宇宙船が女神の足に近づくにつれて、その巨大さが際立ってきた。
巨大宇宙船も女神の足の周りを飛ぶ虫けらのようで、こんな大きな足が女神の体の一部だということが信じられなかった。
親指の高さですら190mもあり、それだけで宇宙船の長さより大きかった。

「あはは~、私の足を測りに来たのね~ちっちゃくてかわいい~。ほれほれ~」

女神は足指をくにくにと動かし始めた。

その時、宇宙船の乗組員は悲鳴を上げた。
山のように巨大なつま先が突然上下に暴れだした。
それはまるで静寂だった山が突然、何の前触れもなく噴火し始めたみたいであり、山が自分たちに向かって、攻撃してきたみたいだった。
山と足の大きな違いは、足の内部には血管や筋肉や骨があり、女神の意思一つで簡単に自由自在に動かすことができることだ。
あんな巨大なものと衝突したらひとたまりない。

「女神様お願いです。やめてください。このままでは宇宙船が女神様の足に衝突してしまいます。」

と大統領が早口で悲鳴に近い声で女神に対し叫んだ。

「あはは、冗談だよ冗談~それに私の足に衝突しても大丈夫だよ~ほら」

女神は自分の足を宇宙船に向かって動かし始めた。
宇宙船は慌てて逃げた。
こんな巨大なものが接近してきたら、どんな人でも本能的に逃げるだろう。
どんどん足の甲が宇宙船に近づいてきて、きめ細やかな肌の大地が目の前一杯に広がり宇宙船はもう足を回避するのはもう不可能だった。
そして足と宇宙船がぶつかった。
ぶつかったが女神の足の甲にくっついただけで宇宙船は無傷であった。

「ほら、大丈夫でしょ。だから!!心配しすぎなんだってば」

宇宙船と足が触れてもいいように女神が、また別のバリアを張ったのだろうか?ぶつかった宇宙船はどこも問題なく航行できている。
これで自分たちの命が一応保障されたと安心したのか、あっちこっちに点在する宇宙船の乗組員は女神の足を測定し始めた。
足の高さや長さ幅やを測るために女神の足の周りを虫のような宇宙船がウロウロし始めた。
宇宙船はレーザーを当てて女神の足を計測した。

そして検測結果が出た。


足全体の長さ2300m、幅900m。
親指の長さ440m幅310m高さ190m
小指の長さ220m、幅160m
足首の幅630m


このサイズのローファーを作ればいいわけだ。
と簡単に言ってしまえばそれまでだが、こんなサイズの靴を本当に作れるのか?。
大統領をはじめ首脳陣は心配したが、もうここまで来てしまえば作るしかない。


「計測が終わりました。なんとかやってみます。しかし・・・一週間は・・・」

「もうわかってるわよ。一週間待てばいいのよね!あなたたちは靴作りにベストを尽くせばそれでいいの」

女神に先読みされてしまったが、これは海峡を跨ぐ橋を作るような作業であり、この星の技術と他の星の技術を総動員しても最短一週間はかかる。

さて面倒な計測や説明も終わり、もうこの星にようはなく、また一週間後にこの星に来ればいいだけ。

「じゃあね~、また一週間後ね~」

という声と同時にワームホールが現れ女神は消えた。
まるで今までのことが夢のようだ。
しかし女神の残した残り香が辺りに少し残っており、これは夢ではないと印象付ける気がした。



女神は真っ白な異空間にいったん戻っていた。
次は宇宙一科学が進んだ星に行くことにした。
この星は女神としての自覚がなかった頃に女神を暗殺しようと計画した悪い奴らである。
まあ結局、私に危害を加えられなかったが、にしても私や地球を破壊しようとした悪い連中であることには変わらず、なにか仕返しみたいなことをしたかった。
仕返しといっても本気になればひとつの星どころが宇宙全体すら指一本で破壊できるし、
いや指一本使えばオーバーキルになってしまうから指を使うまでもない。

「う~ん、どうしようかなー」

女神は考えた。
本気を出してもつまらないし、相手がうんと驚くにはどうすればいいか?

「やっぱり、大きな体を見せて驚かすかなー」



とある遠い遠い宇宙。
直径100万キロの星があった。
銀河系とは別の銀河の中にとある星に知的生命体が生活していた。
彼らは自分たちが住む星を人工的に作り出し、そこに住む人々は科学力が宇宙一発展しており、資源は他の星から調達し、
いらないゴミ類はブラックホールの中や影響の少ない場所に捨てていた。
こうすることで、この星は汚れず環境問題もクリアしていた。、
彼らの科学力はすさまじく、隕石の衝突や伝染病や資源やエネルギーなどの問題はなく、気温も管理されみな豊かな生活が送れていた。
まるで楽園のような星だった。

そこへぐにゃりと空間が歪んだ。
ワームホールの出現である。
ワームホールから現れたのは、なんと身長15億キロの少女だった。
普通の人間の約1兆倍の大きさである。
女神からしたら、太陽がなんとか見えるサイズであり、地球は肉眼で見ることは不可能なくらい小さかった。
一兆倍といえば女神から見た太陽が1mmに見え、地球は0.01mmに見える大きさであった。
15億キロは地球から土星までの距離である。
女神が寝転がるだけで、頭のてっぺんに地球、首元に火星、太ももに木星、足元に土星があり、
寝転がるだけで、地球、火星、木星、土星をまとめて潰せる大きさであった。

この星の住民は太陽サイズの人工の星に住んでいたが、その太陽の千倍サイズの超巨大少女が降臨した。

「わたしは女神。この星に復讐しにきました。命が惜しければ、おとなしく降伏しなさい。降伏しなければ女神の天罰が下ります」

今までのかわいらしい声と打って変わって、雷鳴のような音質で相手を威圧するように言った。
その声はこの星の全世界に響き渡った。
そして声から出る音の衝撃破だけで、星がグラグラと揺れるような衝撃が走った。

地上は大パニックになった。
なんせ今の力を手に入れる前から女神の恐ろしさを理解していたものの、それでも女神に太刀打ちできず、女神のことなんて忘れようと努力していた矢先
女神の方からやってきたのである。
例えるなら幼虫ですら歯が立たなかったのに、成虫に成長し完全な力を手に入れた女神に勝てるはずがない。
しかも自分たちが女神にしたことは全てばれているようだ。
自分たちは女神を亡き者にしようとしていたが、逆に自分たちが亡き者にされそうである。

「返事が聞こえてこないですね。それでは天罰を与えます」

早い早い早い!!まだ女神が現れてから一分もたっていない。
そんなに早く降伏するかどうか結論を出せるわけもなく、ただ慌てふためいてるだけであった。

すると手がニュっと現れこの星が簡単に指に挟まれてしまった。
手の大きさは1億7千万キロもあり、手だけでも地球の一万倍以上の大きさもあった。
地球から太陽までの距離1億5千万キロであるため、手のひらの中に地球、金星、水星、太陽がすっぽり収まってしまう大きさの手のひらだった。
とんでもない重量を持つこの星ですら、女神にとっては砂粒ほどの大きさしかなく、重さなんて少しも感じていないようだった。
この星は女神の手中に落ち、女神の手の指に逆らう手段は全くなかった。

女神の目の前に星を持ってきた。
目の大きさは縦1200万キロ横3200万キロもあり、この星の直径の約10倍もあった。

「ふふふ♪どお~私の目よりだいぶ小さいわね。瞬きで潰しちゃおかな」

まつ毛の長さは680万キロもあり、まつ毛の長さだけでもこの星の6倍以上の長さがあり、まつ毛が衝突しただけで、簡単に粉砕できるだろう。

「それとも口の中に入る?私の栄養になれるなんて幸せな人たちだね~」

あ~んと女神は口を開けた。
口が開けられたことにより、直径1100万キロ幅800万キロの前歯がキラリと光りながら、姿を現した。
歯というものは食べ物をかみ砕くため存在しているため、星より大きな歯であれば、いとも簡単に星をかみ砕くことができるだろう。
歯一本の重量だけでもこの星を凌駕していた。
そもそもかみ砕かなくても、女神の大きさを考えると丸呑みすることも簡単であり、むしろこの星は小さすぎて歯に挟んで噛むのは難しいかもしれない。
なんせこの星は女神から見たら、1mmしかないのだから、食べ物を細かくして喉の通りをよくするために存在する歯が必要ないくらい、この星は小さかった。

「そうそうあなたたちの艦隊、鼻息で吹き飛ばしたみたいね。じゃあ今度もそうする?」

と言うと口から鼻の穴のすぐ真下に星を持ってきた。
鼻の穴は800万キロもあり、この星の約8倍の巨大な穴であった。
この鼻の穴から計測不能なほどの、ものすごい突風が出てくるわけである。
まさに女神の鼻の穴は超巨大主砲というべき存在だった。
宇宙広しといえども、大きさ800万キロの超巨大主砲はどこの星にもなかった。

あの穴から発射される空気弾は宇宙一の火力を持っていること間違いなしである。
そのことについては前回宇宙艦隊を吹っ飛ばした時に実証されている。
しかし今回は超至近距離で鼻の穴が存在していたため、あの時より威力は高いと推測される。
そんな超巨大主砲をこの星の至近距離に持ってこられたことにより、
この星の住民は首元に刃物を突き付けられるような恐怖がこの星全体に広がった。



逆に吸い込まれたら、どうなるか?
穴の中は暗闇で中がどうなっているか、わからないがもし人間と同じ構造なら、この星は気管を通り肺に吸い込まれてしまうのだろうか?
いや鼻毛に衝突するか、鼻の粘膜に捕らわれるのがオチだろう。
女神にとってこの星はただの小さなゴミであり、空気を吸う過程でくっついてきた余計な異物であった。

この星を滅ぼす方法は実に簡単で女神が息を吸うか、もしくは息を吐くだけ、ただそれだけである。
呼吸という行為は、生き物が生きる上でもっとも基本的な行為であり、呼吸が5分止まるだけで死に至ることもある。
だからこの鼻の穴は24時間稼働しており、息を吸ったり、吐いたりして常に呼吸していた。
生きる上で基本中の基本の行為ですら、星の命運を左右する。
呼吸はもちろん、女神のどんな些細な行為ですら、この星を簡単に破壊できるだろう。


「降伏します。降伏しますから助けて」


前回鼻息で宇宙艦隊が吹き飛ばされてしまい、幸い死人は出なかったが、宇宙の真ん中で大規模な遭難事故になり、
宇宙艦隊は全て再起不能になってしまった。
そんなことがあったからか?鼻の穴を見せたら、あの時のトラウマの影響ですぐに降伏してきた。
この星の住民は絶望している。
なんせこの体格差だ、無理もないことである。
今まで女神に対し不意打ちばかりしてきたが、その不意打ちも見破られ、今こうして目の前の我々に復讐しに来ている。
これで絶望しない方がおかしい。

ある科学者は女神が本気を出していないことを十分承知していた。
そもそも宇宙そのものを作り出す力があるのだから、どんなに究極的な兵器を使っても女神にとっては、蚊に刺された以下の痛みしか感じず、
女神に対抗することは絶対に不可能である。
もし万が一、女神を亡き者にできたとしても、宇宙の主は女神であるから、女神を亡き者にしてしまうと宇宙そのものが崩壊する可能性もあると考えた。
宇宙に住む全生命体は女神の手のひらの上で暮らしているようなものであった。


「どうしようかな、あなたたちは私を殺そうとしたから、私もあなたたちを殺す権利はあるよね」


この言葉はこの星、全住民に対する死刑宣告だった。

我々は女神を亡き者にしようとした。
その女神が我々に報復しに来た。
つまり、我々が女神にしたことと同じように今度は我々が亡き者にされる番だろう
そうならないために微かな望みでもなんでもいい。
命乞いをして女神の怒りどんな形でもいいから、怒りを鎮めることが第一である。


「お願いです。なんでもしますから、どうかどうか・・・」

「あ、今なんでもするって言ったよね?じゃあ作ってほしいものがあるんだけど」

「作ってほしいもの?」

「うん、これ」

女神はローファーと靴下を脱ぎ素足になって、足の親指を星のすぐそばに持ってきた。
その距離約100万キロ。
100万キロも離れていたが、女神にとって1ミリしかなく、接触ギリギリの距離であった。
幅9000万キロもあるつま先が星に近づいたことにより、足指がこの星と衝突すると思い「いよいよ我々もこれで最後だ」と思った人も数多くいた。

足指が作り出す影により、この星はすっぽりと影に覆われてしまった。
その高さ1900万キロもあり、この星の20倍の大きさであった。
足指だけでもこれだけ巨大であるため、この星は指の指紋と指紋に挟まる小さな小さなゴミのようであった。
女神の足指のすぐ隣にあるのが、小さなゴミではなく、太陽に匹敵する巨大な星だと思えるものは誰もいなかった。
この風景を見たものは、まず女神の足にしか目が行かず、足の指を拡大してようやくわかるぐらいの大きさであり、
この辺り一帯で一番大きな星だった頃の威厳はもうどこにもなかった。
今では女神の足指一本一本がこの辺り一帯を支配する超巨大星であった。
足以外にも脚、お尻、おなか、背中、胸、手、腕、肩、首、顔などの沢山の体のパーツという巨大星がたくさん存在していて、足はそのほんの一部である。
今まで自分たちの科学が一番発展していたのに、女神の足の指にすら満たない小さな星に住んでいるのだと思うと自分たちが惨めになり絶望した。

「ああああ・・あしを向けて、なにをするんですか」

「え?まだ怖がってるの?やだな全部冗談だよ。だってよく考えてみてよ。私が指で星をつまむときにこの星はとっくに潰れているよ。
 本当にこの星を壊すなら、もっと早く簡単にできるし」

言われてみれば、そうである。
この星が女神の指に触れても無傷だった。
そもそも女神の指で星を突っつかなくても、指が星の近くを通るだけで簡単に破壊されてしまうだろう。
女神の指が近くを通るだけで、その衝撃波に巻き込まれて、粉々になる星々、女神の指を止めることのできるものはこの世に存在しない。
それに本当にこの星を壊すつもりなら、前回みたいにワームホールを作り、この星の真上にセットして鼻息でこの星を吹き飛ばせばいい。
それをしなかったということは、本当にこの星を壊すつもりはないのかもしれない。

「そのかわりちゃんと作ってね」

「なにをですか?」

「靴よ靴。えっと・・・これだけ大きかったら、本格的な靴を作るのは大変だろうし、そうね・・・そうだピーチサンダルでいいよ」

「ピーチサンダルですか!?あの地球と呼ばれる星の海で履く、あのピーチサンダル?」

「そうよ。作ってくれたら許してあげる。私って優しいでしょ、こんな簡単なことで許してあげるなんて、それにピーチサンダルなら面積が少ない分
 作るの簡単でしょ」

「えっとですね。足のサイズは23cmぐらいですよね?」

「なに言っているの!あなたたちの目の前にあるこれが見えないの?この足に合うサイズのサンダルが欲しいのよ」

衝撃の事実だ。
こんなでかい足なんか見たこともなく。
何度も言うが足親指の高さだけでもこの星の20倍だ!こんな巨大なサンダルなんて作れっこない。

「そんなの無理ですよ」

いくら宇宙一の科学力を持つ彼らでもこんな天文学的数字のサンダルなんて作れないだろう。

「言うことが聞けないっていうの?踏みつぶすわよ。いいの?」

ぐわっと足の指が持ち上がり、この星の真上に足指たちがやってきた。

「小指ですら、この星よりだいぶ大きわね。ねえ知ってる?小指は地球じゃ赤ちゃん指って言うのよ。だからあなたたちは赤ちゃん以下ってことね」

「うあああああああ」

「ふふ、バリアを少し薄くしたわよ。さてさてどうなるかなー」

バリアが少し緩められた影響か、足の臭いが臭ってきた。
汗の臭いを強烈にしたような、すごいきつい臭いが漂ってきた。
気分を悪くしたり、めまいを訴えるものが多発し、この星全体があっという間に女神の作り出す臭いに包まれた。

足の細菌は古くなった皮脂や角質を栄養源として足の皮膚に住み着き、それが汗などで蒸して気温や湿度が上がると爆発的に繁殖して足の臭いとなる。
つまりこの臭いは女神の足に住み着く、細菌の出す臭いということになる。
身長15億キロの少女に住み着く細菌なのだから、人間よりも巨大な細菌であり、そのサイズ約1000キロ。
ひとつの国レベルの細菌が作り出す、悪臭は強烈なものだった。
この星にひとつでもこの細菌が落ちてきたら、大災害が起こること間違いなしであった。
女神に住み着く、細菌ひとつでも恐ろしい化学兵器であった。
ただひとつ言っておきたいのは、サイズ差があまりに離れていたため、こうなったのであって、女神の足が特別臭いとかではない。
むしろ綺麗な足だった。
女神の足は白っぽく、肌はきめ細かく、すべすべで、爪は健康的なピンク色で手入れが行き届いており、角質の乱れもなかった。
ただ、人間生きている以上足に細菌もいるし、どんなに気を付けていても多少臭いもする。
その多少の臭いが天文学的数字で膨張され、この星に降り注いだためこのようなことになったのである。

「ごっほごっほ、わかりました・・作ります・・・はあはあ・・うう・・」

「どうしたの?元気ないわね?あ!?バリアのせいね。ごめんごめん軽い脅しのつもりがやりすぎちゃったわね。臭いも取っておくわ」

女神は少し反省した。
軽い冗談のつもりで、バリアを少し薄くしただけなのに、こんなに被害が出るなんて思いもしなかった。
女神のちょっとした冗談でも天体に大きな影響を及ぼす。


この星の住民も前に行った星の人たちと同じような要領で足を計測していた。
ただ前回と大きく違うのは、女神の足があまりに大きいから、小ワープを宇宙船が何回か繰り返して計測していた。

そして検測結果がでた。

足全体の長さ2億3000万キロ、幅9000万キロ。
親指の長さ4400万キロ幅3100万キロ高さ1900万キロ
小指の長さ2200万キロ、幅1600万キロ
足首の幅6300万キロ

あらためて数字で見てみると規格外の大きさである。
足全体の2億3000万キロといえば、地球から火星までも距離とほぼ同じであった。
つまり、つま先に地球があれば、かかとには火星があることになる。
もし地球に女神の足が降ろされたら、地球、火星をまとめて踏みつぶせる大きさである。
地球の直径が1万2千キロなので、女神の親指の長さと同じ長さになるには地球3666個の地球が必要となり、
足全体の長さに匹敵するには、19166個の地球が必要となる、

「計測も終わったみたいだし帰るわね。じゃあ一週間後によろしくね」

と言うと女神は姿を消した。

一週間!そんなの聞いてない。
一週間で本当にできるのだろうか?
いくら宇宙一の科学を持つ彼らでも、地球から火星までの距離のピーチサンダルを一週間で作るのは困難を極めた。





それから一週間後。

女神は学校から帰宅し部屋に帰ってきた。

「今日で一週間ね。早速行ってみよう。ちゃんとできてるかな」

女神は今日を楽しみにしていた。
なんせタダで自分が欲しいものが手に入るのだから、こんなにうまい話はない。
女神は早速、いつものように真っ白な異空間を経由して宇宙に飛んだ。
まずは1万分の1の星から行くことにした。

「こんにちは、着陸許可をください」

「女神様これはこれは、今宇宙船をそちらに向かわせていますから、その宇宙船の誘導に従って着陸してください」

「へえー今日はずいぶん物分かりがいいじゃない。話が早くて助かるわ」

数分待つと1cmぐらいの小さな宇宙船がやってきた。
その宇宙船が地上に向かってノロノロ運転で降下していく。
その後ろから女神がついていくわけだが、宇宙船が遅いため、女神は文句を言った。

「遅いわよ。じれったいからローファーの場所を教えてよ」

早く新しいローファーを見たかった女神は、宇宙船の遅さにイライラしていた。
自分が宇宙船の動きに合わせて、動いたり止まったりするのは疲れるし、なによりこの宇宙船なんかわざとゆっくり飛んでる気がする。

「女神様!宇宙船の誘導に従ってください。お願いいたします」

「はあ~わかったわよ。ゆっくり行けば」

そしてようやく地上が見えてきた。
そこは大きな砂漠であり、砂ばかりのところに2300mローファーが2つ存在していた。
しかし様子が変である。
ローファーの周りにクレーンが横付けされており、まだ建造中のようだった。
数ミリ単位の小さく細かいクレーンがローファーの周りにびっしりと周りを囲んでおり、かなりの大工事だということを想像させられた。

「ねえ、もしかしてまだできてないの?だから宇宙船がわざとゆっくり飛んで時間稼ぎをしていたのね?」

「いえ、完成はしています。ただクレーンの撤去作業がまだ終わっていなくて・・これから急ぎ撤去作業を開始します。女神様はしばしお待ちください」

「待つ必要ないわよ。こうすればいいじゃない」

女神はローファーの中敷きあたりに指を入れ、2つのローファーを軽々と持ち上げてしまった。
突然ローファーを持ち上げられたときは、皆ヒヤッとした。
巨大建造物があんなにも簡単に軽々と持ち上げるなんて、なんて力の持ち主だ。
さすが2300mの足を持つ大巨人だ。
スケールが桁違いである。

「さっそく履いてみるね」

巨大建造物のようなローファーの中に靴下で包まれた女神の足がどんどん入っていく。
広大な自然と巨大な人工物の融合だ。
制作に携わった人は皆、緊張した。
自分たちの設計に狂いはないと思うが、それでも実際に履いてみないとわからない。

「すごいピッタリ、履き心地も今までで一番かも」

女神の様子から、ローファーに問題はないようだ。
一応耐久度の方も問題ないようで遠くから見ると普通の靴にしか見えない。

「いやーよかったです。なんとか完成できて。女神様いかがですか?なにか問題などはありませんか?」

「問題なんてないよ。すごくいい出来、普通の靴と変わらないわ。いやそれ以上かも」

それを聞いて皆ほっとした。
なんせ一週間で全長2300mのローファーを2つも作るのだから、不眠不休の一週間であった。
この星の科学を集結させ、他の星の技術を借りながらようやく完成した。
これと同じことは地球人には到底できないだろう。

「噂には聞いていたけど、オーダーメイドってすごいね。自分の足にピッタリに合わせて作るのだもの。履いていて全然違和感がないわ」

自分たちの計測に狂いはなかったようだ。
計測に参加した人たちは皆、安堵した。
一方で計測に参加していない人たちはそんな巨大な足がこの世に存在するのか?と半信半疑の人も多数いたが、
目の前の巨大な靴にピッタリ合う足が入れられているのを見て、現実を受け入れるしかなかった。

「ありがとう。次の星に靴を取りにいかなくちゃいけないから、もう行くね」

と言うと女神はワームホールの中に吸い込まれ、姿を消した。



太陽サイズの大きさの星を母星にする宇宙一の科学力を持つ彼らのもとにやってきた女神。

彼らの住む星のすぐ隣に全長2億3000万キロのピーチサンダルがあった。
その様子はピーチサンダルの周りを衛星として回る小惑星のように見えた。
全長2億3000万キロのピーチサンダルの周りを直径100万キロの星がグルグル回ることは、大きさの差を考えると別に不自然なことではないだろう。

「ここにサンダルが置いてあるけど、もうできたの?」

女神は約1mmの小さな星を覗き込み、問いかける女神。

「はい、この分はできました。しかし・・・」

「できたんだ。すごいじゃん。じゃあさっそく履いてみるね」

女神はローファーと靴下を脱ぎ裸足になった。
女神の足がピーチサンダルの上に重ねられた。
サンダルにはバリアが張られていなかったため、足がサンダルの上を進んだ時の衝撃破と足が降ろされた時の衝撃破が彼らの住む星からでも感じられた。
女神がもっと大雑把に足を降ろしていればこの星は吹き飛ばされていただろう。
足の衝撃破だけでも星にとっては死活問題である。
もちろん女神もそのことは承知済みなので、なるべく静かに慎重に足を降ろしたつもりだが、それでも衝撃波が星に届いた。

女神がサンダルを履く様子は異様だった。
長さ2億3000万キロの足がサンダルの上を芋虫のようにクニクニと指を動かしながら、サンダルの上を進んでいる。
5本の足指はお互い同じ動きをしていた。
その様子は見事なコンビネーションであり、指の動きに無駄はなく、足指の一本一本がお互い協力し合って進んでいた。
近くから見ると指一本一本が、それぞれ別の惑星のように思えたが、こうして遠くからサンダルを履く様子を見ると、
足指は女神の歩行のために存在し、惑星のような足指も全て同じ足の一部分である。
女神がサンダルを履く様子を見て、女神の巨大さを彼らは再認識する彼らであった。


「ピッタリだけど・・ここに左足だけ分しかないけど、右足の方は?」 

星の住民は青ざめた。
当たり前だが、足は2本あるのだ。つまり2億3000万キロのサンダルを2つ用意しなければならない。
そんな当然のことを彼らは失念していたのではなく、期限に間に合わなかったのだ。
宇宙一の科学力を誇る彼らをもってしても、地球から火星までの距離のサンダルを2本用意することはできなかった。
そんな超巨大サンダルをひとつ作るだけでもすごいことなんだが、結果的には納期に間に合わなかったのだ。
彼らは女神との約束を破る結果になり、女神の天罰が下るのではないかと震え始めた。

「ふーん。その様子だとできてないみたいね。まあしょうがないね。急ぎの用じゃないし、別に時間かかってもいいよ」

意外な言葉が女神から帰ってきた。
とりあえず、命は救われたようだ。


「まあ左足はできてるみたいだし、一応履き心地を確かめてみるね」


女神は履いたサンダルの履き心地を確かめるため歩き出した。
女神が一歩一歩、歩くごとに宇宙の空間が歪むような衝撃が走った。
その歩幅は約5億5000万キロもあった。
左足はサンダルを履いていたが、右足は素足である。
歩く際に右足の足の裏に星が触れ、足裏に星がくっついた。
足は強すぎる力を持つため、1万キロ程度の星は小さすぎて破壊対象にもなれず、無傷でそのまま足にくっついた。
むしろ少し大きいサイズの100万キロサイズの星は女神の足に踏みつぶされた。
その大きさはこの星の住民の住む星とほぼ同じ大きさであったため、もしも同じように自分たちの星が女神の足に踏まれたら、一瞬でペシャンコになるだろう。
足の行く手を阻むものは、容赦なく踏みつぶされ、直接踏まれなくても足の降ろされた時の衝撃波で粉々になっていた。
女神の足を止められるものはこの宇宙には存在せず、女神の足はまさに無敵の存在であった。

数歩、歩いたところで異変が起こった。

「ブチ!」という音がした。

「あらら、鼻緒が切れちゃった」


宇宙一の科学力を持つ彼らでさえ女神の足指に耐えられる鼻緒は作れなかった。
鼻緒の太さは約1000万キロに迫る極太の鼻緒だったが女神の親指と人差し指の持つ、指の力と体重を一時的に受け止めていたが、
女神の天文学的数字の指の力と体重に耐え切れることができず、とうとう鼻緒が切れてしまった。
鼻緒は悲鳴をあげていたが、女神は気づかずあっさり鼻緒は切れてしまった。
鼻緒の太さだけでもこの星の約10倍の太さもあったが、それでも女神の足の力には勝てなかった。
この星よりも太い鼻緒が切られてしまったということは、鼻緒と同じようにこの星が足指に挟み込まれればひとたまりもない。
女神のサンダルの鼻緒はこの星よりも太く頑丈に作られていたため、鼻緒と同じように星が握られれば簡単に潰れてしまうだろう。

「じゃあ、2週間後にまた様子を見に来るから、その時までに左足の鼻緒の修理と右足の方も作っておいてね」 

と言ってワームホールに吸い込まれる女神。
しかし彼らにはもう右足を作る分の資源や資金が底をつき、作ることはできない。
彼らはピーチサンダルに使えそうな物質を思いつく限り、いろいろな星々からかき集めていたが、それでもサンダル一つ作るのが精いっぱいであった。
もうこれ以上ピーチサンダルに作りに使えそうな物質は2週間前後という短期間で集めに行ける場所にはなかった。
そして鼻緒も彼らが考えうる最高の頑丈さを誇る物質をまんべんなく使ったのにあっさり女神に切られてしまった。
しかも悪いことにピーチサンダルの床部分にもひび割れがあり、次回同じように女神が履いたら、サンダルは真っ二つに割れてしまうだろう。
ピーチサンダルも鼻緒と同じく最高に頑丈な素材を使ったにもかかわらず、女神の体重を支え切れなかった。
つまりこのサンダルは出来損ないであり、とてもじゃないが女神が履けるほどの耐久力はなかった。

2週間後に女神はやってくると言っていたが、当然2週間で作れる見込みは全くなく、
彼らは2週間という期間をなにもできずに過ごし、女神のために作った左足のピーチサンダルをただ眺めるだけの2週間となった。
今度女神が来た時どんな顔をして女神とお会えばよいか?
正直に話したら、理解してもらえるか?
女神は我々の星を簡単に破壊できる。
冗談のつもりで我々の星を破壊しようとしたが今度は冗談ではなく、本当にこの星を破壊するのではないか?
あの時は冗談だと言っていたが本当に冗談なのか?

などいろんな推測が流れたが結局女神が来るまで、どうなるかわからない。
彼らは2週間後にやってくる女神の判断に全てをゆだねられている。




女神は自分の部屋に戻ってきていた。


「ピーチサンダルは完成まで時間がかかりそうだけどまあいいか。ローファーは明日から履けるけど、ピーチサンダルはそうもいかないもんね。
 なんとか夏休みまでには完成させてほしいな。まあ彼らにならできるでしょ」

女神はとりあえず欲しかった、ローファーが手に入り満足であった。
さっそく明日から学校に履いていこう。
そしてピーチサンダルの完成を楽しみにしながら、うとうとし始めそのまま眠ってしまった。