タイトル
女神その五怒り


あれから約束の2週間がたった。
1万分の1の大きさの星で作ってもらったローファーの履き心地がとてもよく女神はすっかり気に入ってしまった。
ローファーがこれだけ良い出来なのだから、ピーチサンダルも同じように良い出来であることを期待していた。

「今日で約束の2週間ね。できてるかなー早速行ってみよっとー」

例によって、真っ白な空間を経由してワームホールを作り、ピーチサンダル作りを頼んでおいた、宇宙一科学が進んだ星に女神がやってきた。
その大きさは前回同様1兆倍の身長15億キロの大きさであった。

「こんにちはーあれから2週間たったねー。サンダルはできたー?」

「・・・・・」

直径100万キロの星の住民から返答はない。
なにか様子が変だ。
自分の声が聞こえているはずなのに無視するなんておかしい。
どうやら私の声を聞いてみんな震えあがっているみたいだ。

「どうしたのー?そんなに怖がらないでー、前みたいに私に危害を加えない限り私はなにもしないから」

それでも返答がない。
いつもと明らかに様子が違う。

「ねえー本当になにもしないから!前したことがそんなに怖かったのなら、謝るから無視はしないでよ」
「女神様、申し訳ありません。ピーチサンダルは作れませんでした」
「できなかった?それどういうこと?そういえば完成していた左足のサンダルはどこにやったの?姿が見えないみたいだけど」
「前回女神様が帰られた後、他の星の艦隊から攻撃を受けまして、我々は逃げるのが精一杯でした。申し訳ありません」
「攻撃された!?それどういうこと詳しく聞かせて」

この星のトップの人が詳しい経緯を説明してくれた。

まずあの作ったサンダルは崩壊寸前の出来損ないだったこと、そして鼻緒を修理しようと思ってもあれ以上頑丈な物を用意できず、
同じものを作っても結局女神の体重に耐えられる設計ではなかったこと、そしてこの星が持てる資金や資源の全てを女神のサンダル作りにささげたため、
他の星の人類に攻められても、それを迎え撃つ資金や戦力がこの星には残されておらず、彼らにはなすすべがなく、
この星に横付けされていたサンダルも破壊されてしまった。
しかもこの星の何人かの人たちは拉致され、人質にされているのだと言う。

「人質を取るなんて、なんて卑怯なの!許せない!」

どうやら女神は本気で怒っているようだ。
手が握りこぶしになってプルプル震えている。
その握りこぶしの大きさは9500万キロもあり、彼らの住む太陽サイズ大きさの星の90倍以上もあり、その手に巻き込まれたらひとたまりもなかっただろう。

「ねえ?この星の科学力ってかなり進んでいるよね?迎え撃つ戦力はなかったの?」
「じつは・・・前回女神様の鼻息を受けてほとんどの艦隊が再起不能な状態でありまして・・・」
「そんな・・・」

女神は驚いた。
自分が無意識でやったことが、こんな結果になるなんて思いもしなかった。
やっぱり自分は女神なんだなと改めて思った。
自分の強すぎる力は使い方次第で、多くの人に迷惑をかける。

「とにかくサンダルが今どうなったのか知りたいな、ねえ場所を教えてよ」
「わかりました。では誘導する宇宙船を派遣します」

本来、宇宙船は目に見えないくらい小さいものだが、女神の力でどんなに小さなものでも見ることのできる。

「ここです」

バラバラになったサンダルの残骸が宇宙を漂っていた。
サンダルの表面の色はところどころ、黒に変色していて、穴も開いていた。
このサンダルに向かって多数のレーザー砲が撃ち込まれたようだ。

「これはひどい・・・」

女神は率直な意見を言った。
彼らなりに一生懸命サンダルを作ってくれていることは女神もよくわかっていた。
それなのにこんな無残な姿にされて、女神の怒りはより深いものへと変化していった。


「ねえ?あなたたちの星は無傷みたいだけど、なんでサンダルだけ集中攻撃を受けたの?」
「それは・・・じつに言いにくいことなんですが・・・」
「早く言って!!」

女神は宇宙船に向かってぐっと近づき、彼らの宇宙船の窓には惑星以上に巨大な女神の目が覆いつくした。
目を見ればわかるという言葉があるが、彼らは惑星以上に巨大な女神の目を至近距離で見ることができたため、
女神がいかに真剣であり、そして怒りをあらわしているかよくわかった。

「攻撃を受けた本当の理由はですね、連中が女神様の存在を良く思っていないから、女神様のサンダルに攻撃してきたのです」
「それで?」
「攻撃してきた連中は女神様の存在を認めず、ましてや女が男の上に立つことがどうしても受け入ることができず、
 噂によると女神様の殺害まで考えているようなんです」
「ふーん、その人たちは女神に逆らうどこか、女神を殺そうとしているのね?じゃあ、あなたたちと同じだ」

女神は宇宙船に向かってビシッと人差し指を立てた。

「ひ!!お許しください。そのことは深く反省しております。どうかどうか!」
「ふふふー冗談よ。あなたたちにも迷惑かけたみたいだし、その私に反抗しようとしている人たちにちょっと会ってくるわね」
「しかし女神様、相手も最近勢力を拡大して勢いがある連中です。用心なされた方が・・・」
「それなら、心配には及ばないわ、だって私は女神だもん」


女神は15億キロの大きさのまま宇宙を歩行していた。
女神はただ移動のために歩行しているにすぎないが、地球から土星までの距離の体が動くのだから、その影響はすさまじく様々な星に影響を与えていた。
今まさに無数の星が集まっているところを女神が通過した、
無数の星はなすすべなく、女神の体に激突して星は粉々になっていったが、女神の体や服には傷どころか星が当たった跡さえもなかった。



とある宇宙艦隊の司令官は女神を攻撃するプランをいろいろ考えていた。
女神を倒さなければならない。
しかし女神のいる星を攻撃しようとするとこちらが攻撃をうけてしまう。
しかも女神はどこからともなく現れ神出鬼没であり、どこに女神がいるのかわからない。
司令官は女神をピンポイントで攻撃できる方法が思いつかないでいた。
しかし必ず女神を倒す方法があるはずだ。
相手は成人のしていない小娘である。
戦いの百戦錬磨である我々が、小娘なんかに負けるはずはないと自信だけはあった。

すると一人の参謀が、ノックもせずに司令室にドアを蹴飛ばす勢いで入ってきた。

「司令大変です!!星の大群がこちらに向かってきています!!」
「星の大群?この近くには星なんてないはずだが?」

司令はきょとんとした。
この空間には星がほとんどなく、星との衝突なんて聞いたことがない。

「司令本当です!。こちらをご覧ください」

参謀はモニターを映し出し、司令官に見せた。
そのモニターには直径1万キロから100万キロの大きさの星々がまっすぐ宇宙艦隊に向かってやってきている。
なかには表面温度6000度もある赤く燃える恒星も含まれていた。

「あんなでかい恒星まであるなんて、あきらかにおかしいじゃないか!近くで超新星爆発でもあったのか?」
「いえ、危険状態にある星には近づかないのが我々の航行マニュアルの基本中の基本です。そんな初歩的なミスはしません」
「ではなぜ?星の大群がこっちに向かってきているんだ!」
「それは・・・わかりません」

星の数は100個ぐらいあった。
オレンジや青そして黄色など様々な色の星がどんどんこっちへ向かって来ている。
司令は冷や汗をかいた。
これほどの沢山の星が一斉に向かってくるなんて異常だ。
しかも超新星爆発などの異常は計測されておらず、原因は不明であるとのこと。

「とにかく回避だ!全艦回避ー!!」

星が通過する軌道から少しでも外れようとする艦隊。
幸い発見が早かったので、このままの速度で航行すれば回避できそうだ。

「司令大変です!!」
「今度はなんだ!」
「星が軌道を変えました」
「なに!!」

モニターを見ると星が30度ぐらい角度を変えていた。

「このままでは衝突は回避できません!全滅です!」

ゴゴゴゴゴ。

大小さまざまな星が艦隊の目の前まで接近してきた。
彼らには星の表面しか映らなくなっていく。

もはやこれまでと思った時、突然星が90度ぐらい大きく進路を変えた。
星は艦隊と衝突を免れた。

「奇跡だ」

司令は喜んだ。
奇跡が起こったのだと思った。
神は我々を見放してはいない。
我々はついている。

「司令大変です」
「今度はどうした?」
「真上と真下から星が同時にやってきます」

モニターを見ると下から100万キロの恒星が上からは10万キロの惑星が挟み込むように近づいてきていた。

「回避できるか?」
「できません!」

なんてことだ!一難去ってまた一難とはこのことだ。
ほっとしたのも束の間、今度こそ終わりなのか?

ゴゴゴゴゴ。

上下から星が不気味に近づいてくる。

「うわー」

衝突寸前と思われた時、星があり得ない動きをした。
なんと星と星が宇宙船を挟み込みそうになった時、星が突然逆方向に動き出した。
まるで磁石のS極とS極が反発しあうような感じであり得ない動きだ。

「なんだと・・」

もちろん司令はこんな怪奇現象みたいなことは初めての経験であり、驚くばかりであった。

「くすくす」

突然、人を小馬鹿にしたような笑い声がこの宇宙空間に轟いた。
その笑い声は宇宙空間を反響して同じ音が繰り返し聞こえた。
いわゆる反響音ってやつである。
空間そのものがぐらぐらと揺れだし、艦隊もその揺れで陣形が乱れた。

「なんだ!この音は人の声のようだが」

司令は揺れに耐えながら、状況を把握しようとしている。

「あ!さっきの笑い声聞こえちゃったみたいね」

宇宙空間に反響音が響き渡る。
その反響音は可愛らしい声でもあり、神々しい声でもあった。

「誰だ!」
「姿を見せずに話をするのも失礼だし、ちょっと待ってて今そっちに行くから」

超巨大なワームホールが出現した。
その大きさは簡単には計測できないぐらい巨大なものだった。
そのあまりの大きさに彼らはワームホールのほんの一部分しか見ることができなかった。
黒々とした空間の歪みは世界の終わりを告げるような不気味さがあった。
ぐにゃりとワームホールが歪むと地響きが聞こえてきた。

ズウウウン、ズウウウウウウン、ズウウウウウウウウウウウン

このワームホールは地獄へと繋がる入り口ではないか?
ワームホールから巨大な地響きがする。
ワームホールが鳴いているのか?と思ったがそうではなかった。
なぜなら巨大ワームホールから巨大な白く濁った壁が彼らの艦隊の目の前に現れた。

「うわあああああ」

なんてデカさだ。
さっきの星とは比べ物にはならない大きさだ。
我々の目の前には白の壁が続いているが、下の方を見ると壁は肌色に色が変わっていたが、巨大すぎて一番下まで見ることはできない。
ここから見ると肌色の壁が永遠と続いているように見える。
大きさはえっと?どのぐらいだ?
司令は見当もつかなかった。。

「おい!すぐに測定開始!もちろん戦闘能力も分析しろ!」

司令はこの物体がなにかは分らなかったが、とにかく自分たちが危険な状況にいることだけは分かっていた。

「結果出ました。この物体は足の親指の爪です」
「親指?」
「そうです。足の親指の爪厚さ50万キロ、指の高さの1900万キロ、指の長さ4400万キロ幅3100万キロです」
「ではこの白い壁は指の爪ってことか?50万キロだとそれだけでも星の大きさぐらいあるじゃないか。指至っては星以上の大きさ・・・」
「戦闘能力計測不能です。しかしかなりの戦闘力を擁していると考えられます」
「もしかしてこれが女神・・・」
「うふふーようやく気付いたわねー。そうよ私は女神。あなたたちは運がよかったわね。もう少し前にいたら、私の足に踏みつぶされていたわよ。クスクス」

これが我々の倒すべき相手女神!。
噂には聞いていたが、やはり規格外のデカさだ。

「私の作った、惑星がこっちに沢山来たでしょ?気に入ってもらえた?」

我々に向かって来た星は全部女神の差し金だったようだ。
これは我々に対する挑発であろう。
売られた喧嘩は買わなくてはならない。
もとより、女神を亡き者にするため、探し回っていたのだ。
向こうからやってくるとは丁度いい。

「出たな!このデカ女め!ただデカいだけで女神を名乗り追って。なにが女神だ。この破壊神め!!」
「あらあら、いきなりご挨拶ねー。あらあら大変ー、あなたたちが私をいじめるから足が怒っているみたいよ。
 私の足は凶暴な性格だからなにするかわからないから逃げた方がいいわよー」

女神がそう言うと幅9000万キロのつま先が少し前に動き、指がグーパーグーパーと動き出した。
ただそれだけの動きであったが、太陽の90倍の大きさのつま先が高速で動くのだから、艦隊はものすごい衝撃波を受けていた。
機体に亀裂が走り、航行能力が落ち始め、このままではバラバラになる可能性もありとても危険な状態であった。

「うわああああ」

ガクガクガクとものすごい揺れので多く戦闘員が悲鳴を上げた。
さらにつま先は前進してきて、彼らの乗る宇宙船は親指と人差し指の隙間に閉じ込められてしまった。
いや、隙間というより空間と言う方が正しいかもしれない。
女神の足指の隙間だけでも地球の何十倍の面積があった。

「ふふふー、足の指の間に入っちゃたね。でもまだこれだけじゃないよー」

宇宙船に乗る彼らから見ると左側に足の親指があり、右側に人差し指があったが、
足の指だという認識はなく、ただただ断崖絶壁の壁が続いているように見えていた。
突然暗くなってきたと思い上を見上げると上空から肌色の巨大な球体が近づいてきた。

「どう?右足の指の間に左足の親指を乗せてみたの、これで逃げられないでしょ!もう降参したら?」

彼らは足の爪の横辺りにいたため、突然屋根ができたような出来事であった。
左右の足指に挟まれ上側には反対側の足の親指をかぶせられ、彼らの逃げ道は閉ざされてしまった。

「司令!いかがしましょう?」
「下側から逃げれないか?」
「いえ、難しいと思います。下まで行こうとすると1900万キロもあり、脱出は困難です」

彼らは女神の足の爪の横あたりにいたため、下に向かって逃げるには足指の高さ1900万キロも移動しなければならず、
その距離を短時間で移動することは不可能だった。
つまり彼らは女神の足指に完全に捕らわれてしまった。

「ええい!こうなったら、攻撃あるのみ、撃て!!」

ドカンドカン。

女神の親指の側面に向かって一斉射撃が始まった。
女神の肌にレーザーが衝突し火炎に包まれた。

「やった!!」

司令官は女神の肌が炎に包まれるのを見て、手を叩いて喜んだ。
我々の勝利だ。
女神を討伐できた、これからは我々の時代が来る。
全てを支配するのは我々だ!

「司令!これを・・・」
「なんだ!うっ!」

煙が取れそこに現れたのは、女神の足の指の壁。
攻撃する前となんら変わっていない。
傷を付けるどころか、炎の跡すらない。

「そんなバカな!」

確かに全弾命中したはずだ。
なのになぜ?

「うん?もしかして攻撃してきたの?」

のほほんとした声で彼らに問いかける女神。
その様子から本当に攻撃は効いていないのだろう。

「ええい!もう一度だ!撃て撃てー!」

ドカンドカン。

「今度はどうだ」

煙が取れるとやはり女神の足指は彼らの真横に無傷で存在した。

「そんな・・・最大火力でも効いてないのか?」

「ねえ、もうやめにしない?これ以上やっても意味ないと思うし、あなたたちがどんなに頑張っても私を傷を付けることなんてできないよ。
 そこにあなたたちがいるから攻撃してきたってなんとかわかるけど、本来ならわからないよ」

女神は屋根になっていた足指をどけて彼らに語った。
困ったようなあきれたような、表情でつまらなさそうに言った。

「いや、我々にはまだ人質がいる!この人質がどうなってもいいのか!嫌なら我々に・・・」
「あ、もう救出したから大丈夫だよ」

どういうことだ?
確かに女神のサンダルなんて馬鹿げたものを作っている連中を拉致し、この宇宙船にある牢獄に閉じ込めていたはずなのに。

「司令大変です!牢屋の中に一人もいません」
「なに?」

モニターを見るとさっきまでいた人質がひとりもいない。
牢屋には鍵が閉められた状態にも拘わらず、人っ子一人いないガランとした牢獄が並んでいた。
いつの間に集団脱獄したのだろう?
この牢獄は絶対に脱獄できない完ぺきな作りのはずなのに。

「ほら見て、私の手のひらにいるでしょ」

女神はその場でしゃがみこみ、彼らのいる足の指の間からでも手のひらが見えるように位置を調整して彼らに見せた。
太陽の10倍ほどもある大きさの手の指の腹に小さな小さな170cmぐらいの大きさの人間が沢山いた。

「みんな、これで大丈夫だよ。なんにも心配しなくていいよ~。」

女神は手の指の腹にいる人たちに向かって微笑みかけた。
その笑顔は優しく可愛らしく悪意のない笑顔だったが、それでも半数ぐらいの人は女神を恐れていた。
女神の手のひらの上にいるということは、自分たちをいつでも殺すこともできるし生かすこともできる。
自分たちを殺すのは簡単だ。指と指ですりつぶせばいいだけだ。
この行動は女神にとってとても簡単で指を少し動かせばいいだけ。
自分たちがいつでも簡単に殺される状況にいたため、もしかしたら殺されるのでは?という疑問も少なからず残っていた。

「もう!大丈夫だって言っているでしょ。わからないの?じゃあ証拠見せてあげる。」

女神の手のひらが金色の光に包まれた。
手のひらの上にいる人たちは眩しくて反射的に目をつぶった。
するとなんということだろう。
女神の手のひらから、温かさが伝わってくる。
優しく、そして安心するような体がとてもリラックスした気持ちになった。
それはまるで、極上の温泉と極上のマッサージを一度に両方受けるような気分。
先ほどまでの切り詰めた雰囲気はなくなり、皆リラックスして女神の手のひらに腰掛けたり寝転んだりしていた。

「女神様の手のひらすべすべー」

女神の手のひらに顔をうずめて喜んでいる人もいる。

「よかったー。みんな気持ちよさそうだねーよかったよかった」

自分がしたことを喜んでくれるのは素直にうれしい。
さっきまでの緊張が嘘のように皆嬉しそうだ。

「あなたたちも私の手のひらにおいでよー。気持ちいいってみんな言ってるよー。勝ち目のない戦いなんてつまらないこと考えないで、
 一緒に仲良くしよう、ねっ」

宇宙船に向かってしゃべる女神。

「いや!まだだ!我々にはまだ宇宙艦隊がある。戦える武器がある。それなのに降伏なんてありえない。徹底抗戦だ!!」
「はあ~まだ戦うの?本当に物分かりの悪い人だな~。いいよ、そんなのに戦いたいのなら、好きに戦えばーどこからでもかかってらっしゃい」

やる気のない、本当にめんどくさそうな声であったが、その声をきっかけに小さな彼らと女神の戦いがスタートした。
しかし彼らのやることは大して変わらず、女神の足指に向かってレーザーを撃つだけであった。
もちろん、なんの成果も得られない。

「攻撃しているみたいだけど、痛くもかゆくもないよ。さてそろそろ反撃でもするかな」

ググーと女神の体が降下していく。
身長15億キロの体が動く。
その大きさは地球から土星までの距離とほぼ同等あり、その巨大な物体が高速で動いていた。
彼らの目には、足指から膝、太もも、オーロラのようなスカート、そして巨大な二つの膨らみ、それは胸のふくらみであった。
さらに上へ上へと上がっていき首元そして顎、口ときて、巨大な目が彼らの前に姿を現したところで女神の移動が止まった。

目の大きさは縦1200万キロ横幅3200万キロもあり、太陽すら凌駕する大きさであった。
もしも女神の前に太陽があったのなら、ゴマ粒ぐらいの大きさに見えただろう。


彼らの前に真っ黒で不気味な球体が現れた。
目はキョロキョロと動き、瞳孔が小さくなっていく。
どうやら彼らの乗る宇宙船を見ようとして目を凝らしているようだ。
その黒い不気味な黒目はしっかりと彼らの存在を認識し、しっかりとらえて離さない
その瞳孔の動きを見て、彼らはこれが巨大な球体ではなく、生きている女神の目であり、自分たちの存在をしっかりととらえたことを認識した。
一部の乗組員は「このままではやられる!」とさえ思うものもいた。
なんせ物を見るために存在する目ですら、彼らの住む太陽より遥かに大きいのだから、そう思うのも無理もない。

パチパチと瞬きをすると長さ680万キロのまつ毛が上下に高速で動いていた。
そのまつ毛が動くだけで、宇宙船はぐらぐらと不気味に揺れた。
その原因は目の上に存在するまつ毛が高速で動いたことで生まれる衝撃波であり、
その瞬きに巻き込まれるとこの宇宙船はひとたまりもないだろう。
女神のまつ毛はどんな鉱物よりも頑丈であり、まつ毛が普通の毛なら宇宙船はチリ以下の強度しかない。


「ふーん?この小さな黒い点があなたたちの乗っている船ね?本当に小っちゃい、私が女神じゃなかったら気づいてもらえないよ」

相手の戦意喪失を狙い、自分と彼らとの体の大きさの差を見せつけようとしたが、それでも彼らは攻撃を止めることはなかった。
むしろ攻撃は激しくなるばかりだ。
彼らからすると女神の目を狙い放題なわけだから、最後のチャンス!とばかりに総攻撃を仕掛けてきた。

「私の目を狙っているみたいだけど、やっぱり全然痛みなんか感じないわね・・・はあ~何度言ったらわかるの?
 意味のないことだってさっきから言ってるのに!口で言ってもわからないようだし、本当に攻撃するよ。覚悟はいい?」

長さ6600万キロ太さ1200万キロの太さの人差し指が彼らの乗る宇宙船に向かって進み始めた。

ゴゴゴゴゴ。

その人差し指の破壊力はすさまじく、たとえ直接宇宙船と衝突しなくても、その指が通過する際に出る振動で宇宙船に亀裂が入り航行不能になっていった。

「さて、仕上げね。ふ~」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

まるで誕生日ケーキのろうそくを消すかのように口をすぼめて、彼らに向かって息を吹きかけた。
それだけで、宇宙艦隊の全てが粉々になり、宇宙船がその場所にあったことなんてわからないほど跡形もなく破壊された。
女神の吐く息は、宇宙最強の空気弾であった。
少し前に無意識のうちに鼻息で宇宙艦隊を吹き飛ばしたことがあったが、それとは比べ物にならないほど強力であった。
やはり鼻から出る空気の量と口から出る空気の量を比較すると後者の方が空気の量が多く威力が高かった。

宇宙船の乗組員は全員戦死かと思われたが、そこはやはり女神、そこまで残虐非道なことはしなかった。

「宇宙船の皆さん、私の指の居心地はどうですか?」

女神は彼らを殺すことはしないで、自分の親指の腹に彼らを転送させた。

「うわあああ、苦しい!!助けて!!」
「クスクス、そこで少し反省してなさい」

彼らも人質になっていた人たちと同じように指の腹に転送されていたが、彼らとは重力が少し異なっていた。
人質になっていた人のいる人差し指は優しく包み込むような心地いい環境になっていたが、宇宙船の乗組員のいる親指は重力が強くて立ち上がることすらできず、
皆地面に伏せて、自分にかかってくる重力に苦しんでいた。

「人差し指と親指は大きさが違うから、そこにかかる重力も違うみたいね。ねえ親指にいたらとても苦しいでしょ?
 今からでも自分の過ちを認めて、懺悔をして私に歯向かわないって誓うなら、人差し指に移してあげてもいいよ。さあどうする?」
「誰がお前のようなバケモノに懺悔なんてするか!」

司令は懺悔をしないらしいが、他の部下はというと。

「女神様、私が間違っていました。今では女神様に歯向かったことを恥ずかしく思っています。どうかお許しを!」
「貴様!裏切る気か!」

宇宙船の乗組員の下っ端が女神に懺悔し始めた。
彼は最初から女神を攻撃することに乗り気ではなかったが、上官の命令だから仕方なく命令に従っていた。

「よしよし、いい子ね」

と女神が言うと彼は親指から姿を消し、人差し指に転送された。

「すごい・・・なんて素晴らしい場所なんだ・・」

何度も何度も上官から無茶な命令に従ってきたこともあり、心身ともに疲れ切っていたが、女神の人差し指に来た瞬間疲れが吹き飛ぶ。
いや吹き飛ぶというより、自分の体の下の方から力が送られてくるような感覚。
彼は無意識のうちに女神の手のひらに寝転がり、そのまま気持ちよさように眠ってしまった。
女神の手のひらは最上級の布団のようであり、温かく柔らかく全身が包み込まれるような安心感があった。

「ふふふ、気持ちよさそうに眠っている。そこでゆっくりおやすみなさい」

女神は自分の手のひらの上で眠る兵士を見て、自分の子供が眠るのを見届けた母のように、微笑んだ。

「さあ、どうする?こっちに来る人はもういないの?」

するとあっちこっちから懺悔の声が聞こえてきた。

「女神様お許しください。女神様お許しください」

と絶え間なく聞こえてきた。
女神はその声を聞き届けると一人、また一人といった感じで、兵士が転送されていき、親指には参謀と司令官の二人だけになっていた。

「親指にいるのはあなたたちだけよ。いつまで強情張ってるつもりなの」
「私はお前なんかに従わん。我々は我々だけで生き抜くんだ」
「ふーん・・これだけ言ってもわからないなんて、よっぽどプライドが高いようね。まあいいわ、じゃあ希望通り自分の力だけで生き抜いてちょうだい」

女神は宇宙一科学が進んだ星に向かって歩き始めた。
その親指には司令と参謀をくっつけたまま。




「ただいまー」
「おお女神様、ご無事でしたか?」
「うん大丈夫。あ、そうそう人質もみんな無事だよ」

指の腹を星に近づけた。
女神の人差し指から星に向かってふわりふわりと人が降りてくる。
すると歓声に包まれた。
もう死んだかと思っていたのにひょっこり帰って来たもんだから、家族や友人恋人などが抱き合って再開を喜んでいた。

「女神様ありがとうございます。このお礼はなんと言っていいやら」
「お礼がしたいなら、ピーチサンダルを作ってよね」
「え!?」

すっかり忘れていた。
そうだ我々はピーチサンダル作りをしていた最中によその星の艦隊から攻撃を受けたのだった。

「女神様、それは・・・」
「わかっているわよ。材料はこっちで出すから」

するとこの星から少し離れた所に直径5億キロの超巨大星が現れた。

「ここにサンダルを作るのに必要な材料は全て揃っているわ。この星からあなたたちの星へ物資を輸送して組み立てれば作れるはずよ」
「すごい・・・」

こんなことしか言えなかった。
なんせ直径5億キロの球体にサンダル作りに必要な材料がびっしり詰まっている。

「これで足りると思うけど、どうかな?」
「いえ十分です。むしろ余るかと」
「余ったら、好きに使っていいよ」
「本当ですか!!」

女神のサンダルの直径は2億3千万キロであるから、単純計算で2つ作るとしても4千万キロも余る計算である。
これはものすごい量の資材が彼らにプレゼントされたという意味である。

「女神様ありがとうございます。これで作れそうです」
「ふふふ、なるべく早く作ってね。楽しみにしているから」

女神はその星を後にした。
そしてローファーを作ってもらった星に行き、さっきと同じ要領でローファーに使った材料を彼らにも提供した。

そのあと、女神に歯向かった人たちの母星に向かっていた。

「さて到着~。さあ~みんな降りて~」

女神は星に向かって人差し指を差し出し、ふわりふわりと人が降りていく。

「あなたたちは、どうするの?まだ親指にいたい?」
「司令もう降参なさった方が・・・」
「ええい、うるさい、参謀!そんに弱腰だったとは知らなかったぞ。私は絶対に降伏しない」
「ふーんまだそこにいるんだ。私そろそろ帰って学校の宿題しなきゃならないんだけどな。そうだ!一緒に勉強しよ、
 あなたたちは一応士官学校出てるから、頭いいよね?」

女神はワームホールに包まれ姿を消した。
そしてその親指には司令と参謀がくっついたままである。
このまま司令と参謀は女神と一緒に地球に行くことになった。
女神の親指の太さは1500万キロもあり、それに対し彼らは2mもない。
女神が地球に帰ると普通の大きさの150cmに戻るため、手の親指の幅は1.5cmまで小さくなる。
それに対し司令は0.0000000002cm以下の大きさになる。
微生物以下の大きさであるため、地球の人たちに彼らを発見してもらうのは不可能である。
その小さな小さな微生物以下の司令と参謀は女神の親指から出る重力に苦しみながら生きることになった。
しかも誰から相手にされず気づいてもらえない。
唯一、彼らの存在を知っているのは女神だけ。
その女神が彼らを親指から解放する気になるか、もしくは彼らが考えを改め、女神に懺悔をしない限り親指から抜け出すことはできないだろう。