タイトル
「恐ろしい天使様3」


「ねえ、アルトってどんな女の子が好みなの?」

僕の借金を返済する見返りに執事になるよう命じた天使様。
執事の仕事なんてせず一緒にいてくれれば、それでいいと天使様は言ってくれたがそんなはずないと思う。
じゃないとあんな大金を簡単に払ってくれるはずがない。
どんなキツイ仕事をさせられるのか考えていた時にそんな間の抜けたことを言ってきたので、少し拍子抜けしてしまう。

「どんな子とおっしゃられましても・・・」
「ふーん、じゃあ今まで好きになった子とかいないの?」
「いえ、いるにはいますけど・・・僕なんか相手にしてもらえませんでした・・・。
 仲の良かった子も僕が借金を作ると避けるようになりましたし」
「で・・・その仲の良かった子とキスぐらいはしたの?」

天使様はなんでこんなことを聞くのだろうか。僕の恋愛なんてそんな大した話でもないのに妙に興味津々だ。

「そんな・・・・ちょっと話したりするぐらいで、僕の一方的な片思いですよ」
「え!?アルトに好かれているのにその子はアルトの想いを受け取らなかったの?」
「いえ、なるべく態度に出さないようにしていたので、多分気づいてなかったのかと」
「たとえ片思いでも、なんとなく雰囲気でわかる気がするけどなあ。そうでしょ?」
「多分、僕のことなんてなんとも思っていなかったのでしょう。それに借金作った後は全然会ってくれなくなりましたし」
「本当にそんなことあるの?もしかして嘘ついてるんじゃないでしょうね」
「いえ、本当です。本当のことですから」
「それが、もし本当ならその子かなりの愚か者ね。もし私の部下にそんな子がいたら・・・まあそんな愚かな子は一人もいないけど、
 もしいたとしたら島流し・・・いや島流しは重すぎるか・・・屋敷から追い出してやるのに」

私の部下?天使様以外にも他の天使がここにいるってこと?

「で、アルトはどんな性格の子が好き?ほら色々あるでしょ。可愛い子、無邪気な子、天然な子、活発な子とか」

本当は天使様の部下について詳しく聞きたかったが、返答の間も与えないぐらい次々と質問してくる。
部下のことを聞くタイミングを完全に逃してしまい、結局聞けずじまいだった。

どんな性格の子が好き?自分に女の子を選ぶ権利なんて、今まで一度も無かった。
結局好きだった子も片思いで終わったし、借金を作った男に寄って来る女なんて一人もいなかった。
でも本心は天使様みたいな顔の子が好みだ。人間離れした天使様の美貌と天使様の美しい声に僕はメロメロになっている。
だから「天使様みたいな人が好きです」と言いたかったがそうは言えなかった。
もし言ったらどうなる?

「私みたいな綺麗な人が、あんたみたいな薄汚い貧乏人と恋仲になるわけないじゃない。
 あんた!なにか勘違いしているようね。私のすごさが全然わかってない。今からあんたに天罰を加えるわ」
 
なんて言い出すかもしれないので黙っておく。 

「そうですね・・・。特にありませんがしいて言うなら守ってあげたくなるような子が好きです」
「ふーん、なんで?」
「やはり自分を頼ってくれるようなちょっと、か弱い子がいいですね」
「か弱いね。ふーん・・・例えばなんだけど、どんなに強い兵隊が束になってきても絶対に負けない強い女ってどう?」

僕は全身筋肉ムキムキで鋭く目が吊り上がった女を想像した。

「いえ・・そのような人は・・・」
「そう・・・なの」

急に暗くなる天使様。なんか悪いこと言ったのかな?なんでしょんぼりするんだろう?わからない。

「ところで、天使様のお好きな方はどのようなお方で?」

これを言った後、すぐに違和感を覚えた。
あれ?よく考えたら天使様って愛とか恋とかっていう感情あるのかな?
そもそも男の天使っているのか?今まで一度も見たことがない。
それどころか他の天使の姿も見てないし、この家の外がどうなっているかもよくわからない。
いや、でもいるんじゃないかな。さっき「私の部下」って天使様言ってたし・・・

「私はアルトとは逆ね。私は強い殿方が好き。私がどんなに頑張っても絶対に敵わない人。
 強すぎて勝負を挑む気さえ、起こる気にならない圧倒的力を持った殿方が好き。
 強いのに優しくて、私のわがままにも付き合ってくれて、それなのに文句を言ったりしない人。
 そんな人が好き・・・大好き」

天使様より強い人がこの世に存在するのか!?
どんな男だろう?もしかして神様?いやもしかしたら、天使様よりも強い力を持った大天使がいるのか?
そんな奴と僕が出会ったら、どうなる?天使様ですらあんなに強いんだ。
その天使様が敵わない、大天使僕と戦うことになったら、僕みたいな虫けら一瞬で殺されるだろうな。

「その人はどんな人なのですか?」

僕は恐る恐る聞いてみた。どんなすごい力を持った人なのか一応知っておきたかったし。
その方が心の準備ができるから。

「その人はね・・・・んっ・・・」

天使様は目をつぶり、僕のいるテーブルに向かって口を向けてきた。
大きな大きな唇が覆いかぶさり、ちょうど上唇と下唇の間に押しつぶされてしまう。
唇はプルンとしており、いかにも柔らかそうで、表面は唾液で若干濡れておりキラキラしている。
辺りが暗くなり始める。上唇の大きさはちょうど時計台と同じような大きさだった。
町一番の建造物である、時計台が天使様の上唇の縦の長さと一緒。
下唇を合わせた場合、その倍の時計台二つ分の大きさの唇ということになる。
そんなピンクの生物的な巨大な建造物が振ってくれば、唇の肉に潰されてしまう。
僕は必死になって走った。走らないと死ぬ。確実に天使様の唇に押しつぶされてしまう。

ドスウウウン。

間一髪のところで唇から逃げれた。
辺りがグラグラと揺れ、その揺れの大きさから唇の重さを考えると絶対に助からない。
あのまま下敷きになっていた場合、唇の重さに殺されていただろう。

「んっ・・チュッ・・チュッ・・んっ・・・うん??いない」

テーブルの上に唇は着地している。唇を若干上下に動かし、その下いるはずの獲物を探している。
その獲物とは僕のことであり、口を動かすごとに生温かい息が口からあふれ出す。
獲物が唇の下にいないことに気づき、天使様は顔を上げた。

「ちょっと、なんで逃げるのよ!」
「いえ、恐ろしかったのでつい」

本当は「死にたくなかったから逃げました」と言いたかったがそう言うと天使様は怒るかもしれないので嘘をついた。

「もう一回やるから、今度はじっとしてて」

そう軽く言っているが、僕にとっては死刑宣告に等しい。
このままではあの巨大唇に押しつぶされ殺される!!

「天使様、どうかご勘弁を、それだけは何卒」
「なんで?もしかしてそんなに嫌?」

「死ぬのが嫌だから嫌です」なんて言ったら機嫌を悪くするに決まっている。だから本当のことは言わず誤魔化すことにした。

「身分が違います。天使様はご主人様であり、私は執事です。そのようなことあってはなりません」
「ご主人である、私が許可すればいいじゃない。さあアルトじっとしてなさい。んー・・・」

また目をつぶり、唇を少しパクパクと動かすと真っすぐ頭上に向かって降下してくる。

「いけません。いくらご主人様の命令でもそれはできないことです」
「え!?もしかしてあんたのところのシツジってキスできないの!?もしかして私が命令してもダメ?」
「はい、そうです」
「じゃあ、今すぐシツジをやめなさい」

やっぱりそうだよな・・・。そんな都合のいい仕事なんてあるはずないよな・・・。
天使様の言うとおり、キスすれば唇に押しつぶされて死ぬし、嫌なら執事を辞めさせられる。
天使様は最初から僕を殺すつもりだったのか・・・・。でも死にたくない。
なんとかして生き残らなければ!

「天使様、それでは私を故郷へ帰してください」
「え!?」
「執事の仕事ができないということは天使様に返していただいた借金を僕が返さないといけません。ですので帰してください」
「な・・なあんだー。ホントびっくりした・・・」

一瞬顔が青ざめたような気がしたか。気のせいだよな?

「シツジをやめたらキスできるのでしょ?だからやめたらって言っただけ、深い意味はないわ」
「ですが、あんな大金をタダで頂くわけにはまいりません。ですから執事の仕事ができないなら故郷へ帰してください」
「ってことは、シツジをすればキスできないし、シツジを辞めたら故郷へ帰るっていうの?」
「はい、そうです」
「え・・・そんな・・じゃあどうすればいいのよ!!」




そんな話をしているともうすっかり夜も更けてきた。
ところで僕はどこで寝るのかな?
天使様は布団と呼ばれる寝具を広げているけど、どう見ても一人分しか敷いてない。
初めて来た場所は苦手だ。勝手は分からず若干あたふたしてしまう。

「あの天使様、僕はどこで寝るのでしょうか?」
「今、用意しているところよ」

僕用の小さな布団も敷くのかと思ったけど、どう見ても一人分の布団しか敷かれていない。

「さあ、できたわ。もう遅いからさっさと寝るわよ」

指で僕のことを簡単に摘まむとそのまま体を倒し布団に入った。
もちろん僕を指でつまんだままの状態で。

「天使様ー、もしやこのまま眠るのですかー?」

天使様の手の指先にしがみつきながら叫んだ。
天使様は体を倒しながら布団に入ったので、指に摘ままれた僕の体も必然的に傾く。

「そうよ。当たり前じゃない」

「そうよ」って簡単に言ってるけど、こんなのおかしいだろ。
体格差があるとはいえ、若い男女二人が一緒に寝るなんてあり得ない。

「離してください。一人で寝ますから」

その言葉は聞くと天使様は少しムッとした表情になった。

「私の近くにいるのがあんたの仕事だって、言ったでしょ・・・それに初夜だし・・・」
「確かに言いました。ですがこれはおかしいです」
「ふーん・・どうしても嫌なの?キスも嫌、一緒に寝るのも嫌。
 なんでもかんでも嫌嫌嫌。そんな言うこと聞かないあんたには天罰を下すから」

僕は人差し指と親指に挟まれていたが、反対の手の人差し指が頭上にやって来た。
その綺麗な爪先がキラリとひかり、頭の上に暖かいガラスみたいな指がツンツンと触れる。

「このまま指が進んだらどうなると思う?私の爪の硬さとあんたの頭の硬さ比べてみる?」
「ひ!!」 
「それにあんたの町も無事でいられないわよ」

まずいまずいまずい、天使様は完全にお怒りだ。
このままでは多くの人が死ぬ、それだけは阻止しなくては。

「天使様、どうかお許しください。天使様のおっしゃることに逆らいません。どうかお許しを」
「え!?一緒に寝てくれるの?」
「はい、ですがどうか天罰だけは・・・」

こっちは天罰をやめるよう必死にお願いしているのに、天使様は手鏡を見ながら、のんきに自分の髪をいじっている。
僕のことなんて、どうでもいい存在でしかないのか・・・・。

「ちょっと待てて、髪直してくるから」

天使様は部屋から出て行ったため、一人になる。
改めて辺りを見回したが、やはりここは巨大な部屋だ。
山よりも高い天井。山のように大きく聳え立つタンスやテーブル。
それにどこまでも続いている、イグサという植物が編み込まれた地面。
これは畳というらしく、さっき天使様がそう言っていた。
それに僕が今いる布団。これは天使様の体に合わせて作られた物であり、山をも包み込めるほど大きな布であった。

「ごめん。髪直すのにちょっと時間かかっちゃった」

そう言いながら、部屋に戻ってきた天使様。
しかし、布団の上にいた僕は腰を抜かしそうになった。
すぐ横に天使様の足が降ろされたからだ。もう少し足が横にずれていたら間違いなく踏みつぶされていた。
その足が降ろされた時の衝撃で、体が浮き上がり、上を見上げると天使様がこっちを見下ろしている。

「そんなに驚かなくても大丈夫よ。あんたを踏むわけないわ。だって私の大事なシツジだもん。
 そんなかわいそうなことしないから安心して」
「は・・・はい」

そうは言ってもちょっとでもずれていたら、あの大きな足指の下敷きに・・・・。
僕の代わりに踏まれた布団は足の重さに耐え切れず、曲がり沈み込んでいる。
間一髪のところで命拾いしたように思え、踏むわけないと天使様が言っても信じることができない。

「ねえ、さっきから私の足ばっかり見てるわね・・・。もしかして」

天使様は腰を下げ、しゃがみこんだ。
しゃがんだ体制のまま、足を少し前に出す。
足が前に出されたことにより、目の前に足が迫って来た。

「アルトは足が好きなんでしょ?ま・・まあ私の足って結構かわいいと思うし・・・、そんなに好きなら触ってみる?」

確かに天使様の足はかわいい。白くて丸っこく女性らしい足だ。
だがそう思えるのは、命の危険がなければのこと。こんな人間の何倍もあり見上げるほど大きな足指を見せられても、
天使様には悪いが、かわいいとは思えない。どちらかというと遠くから天使様を眺めたい。
その方が全体がよく見え、命の危険もなく、天使様のかわいさがよくわかると思うのに。

「どうしたの?もしかして見とれちゃった?そんなに好きなら、足の指を枕にして寝てもいいよ。暖かいし。」
「い・・・いえ、今日は布団で寝かしてください。」
「あ・・・あれ?足が好きじゃないの?別に隠さなくてもいいのよ」

天使様は足を上げ、指をにぎにぎしたり、指を広げたりしている。

「ふーん、どうやら嘘じゃないみたいね。まあいいわ。今日は布団に入って寝ましょ」

そうして二人は布団の中に入った。
山のような巨体を楽に包み込める大洞窟。それが天使様の布団。

「ねえアルト。こんな遠い所に一人で来て寂しくない?」

横になっても不安そうにしている僕のことが心配になったのか?天使様はそんな優しい言葉をかけてくれた。

「ずっと一人で暮らしていたので、慣れています。平気です。大丈夫です」
「でも一人じゃ寂しいでしょ?抱きしめてあげようか?」

大きな手が指を広げながら、こっちに向かって来る。
抱きしめる?この手が?この大鷲のような・・・・いや伝説上の生き物ドラゴンに匹敵するような指。
それが天使様の指一本。たかが指一本でも実在するどんな生き物よりも強くて大きい。それが天使様のたった一本の指なのだ。
手で抱きしめるということはドラゴン五匹が僕に絡みつくようなもの。
指一本一本に絡みつかれて、その指の間に潰され赤い染みとなる。
そんな未来が見えた時、背中に氷水をかけられたような気持になった。

「ぼ・・・僕は一人で寝ることに慣れていますので、天使様に抱きしめられると逆に寝れそうにありません。
 申し訳ありませんが、何卒ご理解ください。お願いします」
「まあ・・・そういうなら仕方ないわね。今日の所は抱きしめないで一人で寝るかな」

抱きしめらることはなんとか回避できたものの。この後天国のような地獄のような時間が数時間も続いた。
天使様から出る本能に響く匂いと天使様の吐息。
横から盗み見すると柔らかそうな唇が寝息とともにプルプルと動き、たまに大きな息が漏れる。
その寝息が僕にかかり、ムラムラしムスコが反応する。下がムクムクと大きくなるのがわかる。
まずい。こんな姿を天使様に見られるとまずい。
まずいとはわかっていても、天使様のほっぺや耳元にある指、耳や耳の産毛さえにもエロさを感じ、
今すぐにでも思いっきり抱き着きたくなる。
「ダメだ!」と思って目をつぶって天使様と反対側を向いても「ふぅー、ふぅー、ううん・・・ふぅーふぅー」てな具合に寝息が聞こえてくる。
その寝息の音がどうしても我慢できない。どう考えても淫らな声にしか聞こえない。
いや本当はただの寝息なのだが、今の僕は狂っているんじゃないかと思うぐらい、この寝息や天使様の体に欲情している。

恐る恐る、天使様の顔を見上げると目をつぶっている。
寝息も規則正しく聞こえてくる。これって完全に眠っているよな・・・・。
そーと、そーと足音を立てないように歩き、耳元にある天使様の白くて綺麗な指に近づく。
僕はいけないとわかっていても天使様の指を横から触ってみた。
町をも簡単に破壊できる力を持つ指なのだから、強力な筋肉の塊でできており、とても硬いと思っていたがその予想は外れた。
天使様の指はプニプニだ。指を触ると肌が簡単にへこみ、程よい弾力で触っていて気持ちいい。
その柔らかさに夢中になって、僕は思いっきり指に抱きついた。
抱き着くと天使様の指の肌が少し沈む。柔らかいずっと触っていたい。天使様の指の温もりがとても落ち着く。

上を見上げるとかなり高い位置までこの指は続いている。
全身で抱き着いても指は家のように大きく、指の底辺部分を少し触っているに過ぎなかった。
そんな大きな指がすぐ横に丸まった状態で、あと四本も並んでいた。

しかしそのやすらぎの時間はすぐに破られた。
抱き着いていた、指が上に向かって動いたからだ。
その指の動いた衝撃で尻餅をついた。
お尻がジーンと痛む、その痛みに驚いていると二本の指が前進してきた。
その二本の指の間に僕は挟まれ、天使様の顔の上に持ち上げられてしまった。
下を見ると天使様は目をつぶり眠っている。
手は天使様の顔の真上を飛んでいたため、目や眉毛や鼻や口などの天使様の大きな顔がよく見えた。
間近で見ても天使様はやはり綺麗だ。
顔のどの部分をとってもケチのつけようがなく完璧に整った顔。
もしも僕が天使様と同じ大きさの天使ならその美しさに見とれていたかもしれないが、
今の僕は天使様の手にしがみつく小さな粒のような存在。手にしがみつくに必死だったので、ゆっくり顔を見る余裕なんてなかった。
それにもし、天使様の顔の上に落下したらどうなる?
一本一本が棒のように巨大なまつ毛に衝突したら?もし巨大洞窟のような鼻の穴へ吸い込まれたら?
どんなに頑張っても食べきれなかった食べ物を一瞬で平らげる、そんな巨大な口に飲み込まれたら?

そもそも顔の上に落ちる前にこのまま指が開くと僕は真っ逆さまに手から落ちる。こんな高い所から落ちると命はない。
だから僕は手が開かれないことを祈りつつ、天使様の指に力一杯しがみついていた。

気づくと左手も動き始めた。左手は天使様の懐をいじっている。天使様の服が左手によって取り払われ右手の通る道を作っている。
みるみるうちに懐がはだけると大きな胸が姿を現した。
その胸はプルンと大きく揺れると懐が下に下がっていき、胸が丸見えになる。
風呂場で見た時もそう思ったが、やはり大きな胸だ。天使様の体の倍率を考えてもやはり平均よりも大きい胸だと思う。
指は地面に着地し、そこで僕を解放すると指は天高くどこかへ飛んで行ってしまった。
地面に一人ぼっちになった僕は状況を確認するため恐る恐る目を開く。
すると後側に、ものすごい存在感を感じた。
後ろを振り返ると巨大な胸が手に触れれそうな距離に鎮座していた。
ほぼゼロ距離から胸を見上げると、その大きさに驚く。
こんな大きな建物は僕の住んでいた町に存在しない。これだけ大きなものは山や丘などの自然界に存在するものしか見たことがない。
肌色の丸い曲線を描いた山。それが天使様の胸だ。
風呂場でも見ているから、初めて見るってわけじゃないけど、
あの時は指に押さえつけられていたため、見るというよりぶつかったといった方が近く、今の状況とはまるで違った。
上から見下ろすのと下から見上げるのでは胸の印象が全然違った。
この胸は上下に常に動いている。その動きに合わせて地面も動く。
この動きの原因は天使様の呼吸が原因で、息を吸ったり吐いたりすることで胸が動いている。
僕は波の荒い船にでも乗っているような大揺れで身動きが取れないでいた。
ちょっとした呼吸でも小さな僕にとっては大ごとで、呼吸という生物でもっとも基本的な動作ですらものすごい力強さを感じた。
さらに地面のその下からは、ドクンドクンと力強い心臓の音が聞こえてきた。
その心臓の大きさは僕の体の何倍も大きいということは間違いない。
その心臓が一回ドクンと動けば地面が揺れ、すぅーと息を吸えばお腹が大きく揺れその揺れが胸まで伝わる。
心臓と呼吸のコンビネーションにより、体は常に揺れ続けており、長いことここにいたら体力を消耗しそうだ
でもおかしい。最初胸に降りた時よりも呼吸と心音がだんだん大きくなってきている。
徐々に大きくなってくる心臓の音に首を傾げながら、右を見ると目の前にある胸と同じ胸がもう一つあった。

「こんな大きな胸がもう一個あるなんて・・・」

そう、胸が一つだけじゃない。普通の女性なら二つあって当然だ。
つまりこの山は双子山でその二人の姉妹が美しさを競い合っているかのように鎮座している。
目の前にある左胸は近すぎて、全容を把握できなかったが、右胸は少し離れた位置にあるため全容がわかる。
その丸い肌色の山の山頂はピンク色になっており、そのピンクの地面に家が建っているかのように乳首が建っている。
小さな乳首といえども人間が暮らすだけの十分なスペースがあり、家のような大きさの乳首。
だが乳首は人間が住むところではない。本来赤ちゃんがおっぱいを吸うところだ。
あのピンクの家を赤ちゃんがしゃぶりつき、吸引をおこなう。
しゃぶりついたことにより、乳首が刺激され乳首の門が開く。
門が開くと家のように大きな乳首から赤ちゃんを育てるために作られた膨大なミルクが噴火のようにあふれ出す。
そのあふれ出したミルクを赤ちゃんが飲み成長していく。
そんなことを妄想していると天使様は僕と同じ人間とは思えない。住む世界が違いすぎる。
唯一の共通点は僕と同じ人間の姿をしているというだけだ。

「ううん・・・」

突然手が胸に戻って来た。
その手は右胸の麓で一旦止まり、人差し指だけ突き立て、右胸をツンツンと突っついている。
胸がプ二プ二と沈み込む。さらに突き終ると手が開かれ手が胸の山に襲い掛かった。
手のひらよりも若干大きな胸がムニムニと揉まれ、形が目まぐるしく変化している。
こんな風景どっかでみたぞ。そうだ風呂場だ。風呂場でも同じようなことしていたな。

「うん!」

右胸を揉み終わると今度は僕のいる左胸に向かってやって来た。
まずい。右胸みたいに揉みくちゃにされたら、僕は天使様の手に巻き込まれて死んでしまう。

「早く逃げなくては・・・ってもう遅い!!」

手のひらが胸の目の前まで迫ってきていた。人差し指が突き出される。
さっきみたいに胸をツンツンする気だろう。そうなっては天使様の体の上から落下し死んでしまう。
天使様の体表には産毛が生えておらず、まっ平なので、なにかにつかまりたくても適当な物がない。
手はぐんぐんこっちに向かって来ていたので、ものすごい衝撃を予想し身構えたが何も起こらない・・・。

「うん!うん!」

天使様はそう一言、寝言みたいな言葉を発し、胸のすぐ横のなにもない空中で指を前後に動かしている。
今度は手が開かれた。また、なにもない空中で手が動く。今度はにぎにぎと手を動いている。
胸を揉む動作のようにも見える。

その不思議な現象に呆気にとられ、手や胸ばかりに目が行ってしまったが、前を見ると天使様の顔が見える。
天使様は目をつぶっている。やはり目ぼけているのか?

「???」

天使様の顔をよーくみると首を少し引いており、左目が半開きになっている。
寝ているにしては首の位置が変だ。寝るときに首を引いて寝たりするかな?それに左目だけ半開きなのもおかしい。
もしかして寝たふりをしているんじゃないか。
それに薄暗いし、遠いからはっきりとはしないが天使様は顔を赤らめているような気がする。

「天使様ー、起きていらっしゃるのではないですかー?」

叫んだが反応なし。
しかし僕が叫ぶと半開きだった左目が完全に閉じた。
やはり怪しい。絶対に起きているはずだ。

「天使様ー、起きてくださいー」

しかし無反応。
このままでは埒が明かないので僕は少しやり方を変えた。

「天使様ー、トイレに行きたいですー起きてくださいーお願いですー」
「もう!うるさいわね!めんどくさいからそこでして
 どうせあんたみたいな小さい体が私をどれだけ汚しても、ちっちゃすぎて気にならないから」
「そんなことできません。漏れそうで苦しいです。天使様助けてくださいー」

すると目が開き、指がすぐに飛んできた。指は空からやってきたので、本当に飛んできたのだ。
指に挟まれ、テーブルの上に降ろされた。
そこに僕専用の小さなトイレがある。本当はトイレなんか行きたくなかったが、天使様に言った手前一応少しだけ出しておく。
用を足し、外に出ると、はだけた服を着た天使様が待ってくれた。

「アルト!よくも私を起こしてくれたわね!せっかく気持ちよく眠っていたのに!」
「申し訳ありません。ですが生理現象ですので・・・」
「それに私のこと襲ったでしょ!!私の指に抱き着いたことを知らないとでも思っているの?」

まずい!全部バレてる!!僕はこの世の終わりを見た気がした。
それぐらい、僕は自分のしたことの罪の重さを感じ、恐ろしくて震えあがった

「どうかお許しを・・・」

その場で土下座する。そんなことぐらいで許してもらえるとは思えないが、今の自分にできることは土下座ぐらいしかない。

「いや絶対に許さない!責任取って私の胸の上で寝なさい」

てっきり殺されるのかと思っていたのに、胸の上で寝る?どういう意味?

「あの・・・なぜそのようなことを・・・」
「私はね、アルトが襲ってくれて嬉しいのよ。ずっと待っていた。だから指だけじゃ、かわいそうだと思って胸に案内したのよー。
 それなのに胸に降ろしたら、なかなか襲ってくれないから手で合図まで送ったのに、すぐ私を起こすんだもの。
 せっかくのあげたチャンスを潰して・・・怒るのが当然でしょ」
「いや・・・それはおかしいと思いますが・・・」
「おかしくなんかない。さあもう一回胸で寝て、それとも胸の谷間がいい?」
「天使様、胸の上では眠れませんし谷間でも寝れません。どうかご勘弁を」
「わかった!もしかして・・・アルトって私の指が好きなの?だから私の胸を見ても嬉しくないのね?・・・ふーん・・・変わっているわね。
 でもいいわ。そんなに好きなら好きなだけ私の指を触りなさい」

テーブルに向かって両手がくねくねと動きながら飛んできた。
僕の前に手が着地し、少しづつ前に前進してくる。
そして指先がツンツンと僕に触れる。
左手は手のひらを上に、右手は手のひらは下にしていた。
これで手の爪も指も両方触れる。これは僕に対する天使様の配慮だ。

「天使様、おやめください」
「ああそうね。あんたが私の指に触りたいのね。わかったわ。じっとしているから思う存分好きなだけ触って」
「いえ!違います。指が特別好きというわけではありません」
「じゃあ、なんでよ?なんで指はよくて胸はダメなの?」
「それは・・・・・」
「じゃあ、アルトは私の体のどこが気になるの?どこでもいいわよ。怒らないから言ってみて」

僕は困惑してしまって、何も言い返せず無言だった。
ただ目ばかりが泳いでいた。

すると僕のことを突っついていた指が前進し、親指と人差し指でギュッと僕をつかむ。

「答えないつもりね。じゃあ今から問題を出すわ。ちゃんと答えなさいよ」

なんか突然、天使様は問題を出してきた。

「ここは?」
「天使様の足です」
「ここは?」
「ふくらはぎです」

そんな感じで天使様の体をあっちこっち答えさせられた。

「最後よ。ここは?」
「天使様の目です」
「そう、全問正解。さっき答えた体の場所全部があんたのことを好きだって言っているわ」
「え!?」

驚いた。天使様が僕のこと好きだって?いやそれとも天使様の体だけが僕のことを好きなのか?
でも顔からつま先まで、ありとあらゆる体のパーツを答えたし、それってもしかして・・・

「でもね。一つだけあんたのことを好きじゃないところがあるの」

天使様の指が動き、その指の動きに合わせて僕も一緒に動く。

「それはここよ。耳よ。耳はね、とっても大事な部分なの。まあ言えばわがままなお姫様と言ったところね。
 このお姫様の機嫌を損ねないようにするのもシツジであるあんたの大事な役目よ」

耳の穴のすぐ横で指が止まる。ここの位置からだと耳がよく見える。
その穴の縦の大きさは馬四頭は入れそうなぐらい大きい。僕の住んでいた大通りくらいの幅もある。
天使様の耳の穴は大通りの幅のある洞窟といったところだ

「この耳はね。今とっても機嫌が悪くてね。あんたのこと嫌いだって言っているの。
 胸とか唇とかはね。あんたの体を欲しがっているだけだけど、この耳は少し特殊でね。優しい言葉を欲しがっているのよ。
 私はあんたに借金返したりとか色々良くしたでしょ。それなのにあんたは私に優しい言葉一つかけてくれない。
 そんなんじゃあ、私の可愛い耳が怒るのも無理ないでしょ」

ようするに天使様は感謝の言葉を聞きたいようだ。
なんだ、危うく早とちりするところだった。天使様が僕のこと好きなわけないよな。
それにあんな大金をポンと出してくれたんだ。ちゃんとお礼を言わないと。

「うふふ♪耳はあんたのこと嫌いみたいだけど、指はあんたに懐いているようね。好き好き~って言ってるわ~」

僕のことを挟み込んでいる、指がギュッギュッと力を入れたり緩めたりしている。
指が持ち上がり、上から頭をポンポンと撫でてくれる。
指の重さに潰れることもなく、絶妙な力加減で撫でられたので本当に頭を撫でられているように感じた。

「天使様。申し訳ありません。そのことについては感謝しております」
「違う!!そんなこと言ってほしいんじゃない!あなたと死ぬまで一緒にいるってあんた言ったじゃない!!それなのにいつまで他人行儀のつもり?
 あんたがそんな態度を取り続けると私の耳を敵に回すことになるわよ。私の耳を敵に回すと、
 つま先から頭に至るまで、私の体全てを敵に回すことになるのよ。そうなった場合あんたはどうなると思う?」

天使様はすかさず反論をした。

僕が挟まっている指に力を込められる。さっき指は僕にじゃれてきたが、その時とは力の入れ方が全然違う。
今まで味方だった指が今度は敵となった。
指に握られたことにより、僕の体は悲鳴を上げるが、それでも天使様にとっては少し力を入れたに過ぎないのだろう。
天使様と僕とでは圧倒的な力の差がある。
さらに反対の手も僕の元にやってくる。
天使様が寝ている時に見た指はとてもきれいに思えたが、今の指は僕の首をへし折りに来た恐ろしい兵器。
キラリと光る爪ですら、熟練の鍛冶屋が丹精込めて作った剣のように鋭く切れそうで、その幅だけでも馬五頭分もあり、
たかが指一本でも巨大な剣に思え、その巨大な剣五本がこっちに向かってやって来ている。
逃げようにも僕は天使様の手の指に握られているので、逃げることもできず僕はなにもできない。
指は僕の首元で止まった。これでいつでもこの巨大な剣が僕の首を跳ねれる。
首元に刃を突き立てられたようなものだ。

天使様の耳を怒らしたことにより、指だけではなく天使様の体全部が僕を敵として認識している。
今は指だけが僕のことを攻撃しようとしているが、そのほかの体も僕のことを攻撃する気だろう。
指一本だけでも敵わないのにそうなっては、僕は一瞬でやられる。
僕は本気で怒った天使様の迫力に圧倒され俯き死を覚悟した。

「あ・・・ごめん。やりすぎた・・・」
「あの天使様?」
「天使様・・・・ふん、もういいわ。寝るから」

指が引っ込んでいき、握っていた力も緩んだ。
天使様は強い口調でそう言ったが、なぜか一緒に寝ることには変わりなかった。
天使様はどんな表情なのか?怒っているのか?それとも僕が怯え切っていたので
心配してくれたのか?今の天使様の心境はわからない。
表情を確認したくても、反対側を向いてしまったので、結局天使様の気持ちはわからずじまいだった。

それからしばらく沈黙が続き、本当に眠くなってきた時事件は起こった。

天使様の体がもぞもぞと動き出した。
もしかしてトイレかな?天使はトイレなんか行かないと思っていたが、風呂場で天使様の性器を見た時尿の匂いがした。
なので天使様はおしっこをする。だからトイレに起きたのかと思ったが少し様子がおかしい。
じっと僕のことを真上から覗き込んでいるよう感じる。
目をつぶっているから推測でしかないが鼻息があたり、その呼吸音も聞こえてくる。

「申し訳ありません」

そうやって僕のことを確認したあと、小声でそう言い部屋から出て行った。

天使様の足音が遠ざかっていくのを確認すると僕は目を開けた。
やはり隣に天使様はいない。その大きな布団の中には主の姿が見えなかった。
布団から天使様の体がなくなっても、その布団は盛り上がっており巨大な洞窟のようだ。
奥は暗くて見えなかったが、その洞窟から天使様の残り香が漂ってくる。
いい匂いなのでこのまま洞窟探検でもしようかと、悪だくみをしていると足音が聞こえてきた。
どうやら天使様が戻ってきたようだ。まずい早く寝たふりをしないと。
走って定位置に戻り、横になり目をつぶった。
足音が近づいてくる。
おかしい?足音が一人だけじゃない。明らかに複数いる。
足音という地響きは天使様が部屋から出て行った時より、絶え間なく聞こえてくる。
ふすまがゆっくりと開き、忍び足で天使様が戻って来た。

「リイ様、やはりおやめになったほうが・・・」
「私もそう思います。アルト様は王になられるお方です。これ以上騙すのは好ましくありません。このまま騙し続けると本当に嫌われるかもしれませんよ。
 謝って済むうちに本当のことを打ち明けるべきです。それにもし、アルト様がここは嫌だ故郷に帰りたいとおっしゃったらどうするのですか?」
「私だって怖いわよ・・・アルト様がお怒りになられると子供ができなくなって、この星が滅びるんだもの。
 だから早く子供を作らないといけないし、でもアルト様にどう言えばいいのか・・わからなくて・・」
「それなら、なおのことアルト様にきちんとお話された後の方がよろしいのでは?」
「でもね、二人とも子作りしたいでしょ?アルト様と子作りしたいなら、私のいうとおりにして。
 アルト様には申し訳ないけど、私たちだって絶滅の危機なんだから一人でも多く子供を作らないと。
「ですが私心配で・・・」
「近いうちに必ず私からアルト様にお話しするから。それに私が提案したことだからあなた達は関係ないわ。だから安心して」

小声でささやくようにボソボソとなにか話している。
この時初めて天使様以外の巨人が薄っすらと見えた。天使様以外にも別の天使がいるんだ。知らなかった。
天使たちの会話は所々しか聞き取れなったが、その内容から察するに天使様はやはりなにか隠し事をしているみたいだ。
それはなんだ?もっといろいろ聞いてみないと。

「リイ様こちらが例の薬です」
「これね。一滴垂らせばいいのね?」
「はい、この一滴で10人は軽く相手にできると待医様がおっしゃっていました」
「まあ、今日は初めてだし様子見で3人でいきましょう」

影が濃くなる。
なにかが僕に近づいてきている。
僕は少しだけ目を開けた。
すると薄っすらとだが赤い液体が見えた。
その雫が今にも落ちてきそうだ。
雫といっても僕の体全身を包み込める巨大な水玉である。
そして真っ赤な水玉がフルフルと震えだした。
ますい避けないと!と思ったときはもう手遅れ。
その赤い液体が僕の体に直撃した。
すると体が燃えるように熱く痛み出し、頭が真っ白になるぐらいものすごい激痛が走った。
痛みに耐え切れず、布団の上をのたうち回る。

「やった、薬が効いたみたいよ」

指が僕を覆いつくす。
僕の体を横にしたら、8人は並べれそうな巨大な指だ。
その指は僕の体を押さえつけられると、痛みが和らいでいく、そして心地いい・・・