タイトル
「巨人の執事2」





*****


「思ったより軽傷で済んでよかったです」
「よくなんかないよ。めっちゃ痛い・・って、いてて・・・」

氷枕に氷布団。
シーツの下に氷が敷き詰められている布団の上に寝かされ、患部を冷やしながら、横になっている俺。


「今は横になっていてください。まだ完全に治ってませんから」
「たっく・・・。なんでこんな目に・・・」
「申し訳ありません。まさかフタにしがみつく力さえ無いなんて、思いもしませんでしたから」


ティーポッドのフタから、振り落とされ、紅茶の中にダイブし、全身にやけどを負った。
幸い軽傷ですんだが、それよりも幸運だったのが、お嬢様に飲み込まれなかったことだ。
もし、紅茶とともに飲み込まれていたら、今頃お嬢様の胃袋の中。
全身溶けて、この世にいなかっただろう。

これで証明された。
お嬢様たち巨人と暮らせば、命がいくらあっても足りない。
執事を辞めたい、なんとかして、そう言わないと。


「今日は・・・そうですね。お嬢様いかがなさいましょう」
「休んでいい」
「だそうです。良太さん。今日は一日休んでください」


さすがに働けとは言ってこなかったか。
こんな状態でも働けと、と言われたら、速攻で辞めるつもりだった。
しかし、予想に反して寝てていいなんて言われたら、逆に辞めづらい。
でも、まあいいや。せめて今日一日ぐらいは様子を見るか。それからでも遅くないし、寝て過ごしていいんだからな。


やけど止めの薬を飲んで、ぐっすり眠り、数時間後に起きると、やけどもすっかり引いて良くなった。
体調はなんら問題ない。いや、むしろ、やけどする前より元気になっている。
不思議に思ったのでサラさんに聞いてみると、これぐらいは普通らしい。
さすがは戦争に勝った人たちだ。薬の性能も地球とはだいぶ違うようだ。

「よかった~。すっかり治られましたね」

俺の背中をサラさんに確認してもらうと、やはりやけどの赤みは引いらしく、これなら業務に差し付けえないらしい。
だが、今日は無理しないでいいと、お嬢様が言ってくれたので、ありがたくその指示に従った。


「お嬢様。よろしいのですか? 良太さんがお休みになられますと、今日のお夕食が・・・」
「いい。しょうがない」
「ですが、楽しみにしていらしたんでしょう?」
「良太のことは明日でもいい。今はかわいそう」
「そうですね。今日は仕方ありませんか・・・」


なにやら、二人がゴニョニョと話しているが、内容はまる聞こえ。
お夕食? 楽しみ? 
なにかご馳走でも作る予定だったのか?
でも、俺には関係ない話だ。こうなったのも全部あっちが悪いんだからな。

「あの。良太さん」

ほら来た。俺のせいで中止だとか言ってくるんだろう。
結局、全部俺のせいか!

「今日のお夕食なんですけど・・・」
「夕食?」

さっきの話は聞いてないふりをした。

「はい。良太さんのお好きなものを夕食にする。そうお嬢様が言われましたので」
「え?」
「ですから、お好きなものは何かと」



予想外の反応だった。
てっきりお嬢様は、俺のせいだと言って怒っている。
そう言ってくる思っていたのに、どうやらそうではないらしい。
お嬢様の顔を見てみると、相変わらず冷たい目つきだが、さっきよりは、顔の表情がほぐれているような気がする。
少し・・・ほんの少しだが優しい目をしている・・・と思う。
間違いない。お嬢様は俺に悪いことをした、そう思っているんだろう。
じゃないと、好きなものを食わしてやるなんて言わない。
なら、遠慮しないくてもいい。相手が悪いと思っている以上、遠慮はしない。

「寿司。寿司が食いたい」
「寿司ですか! お嬢様。寿司ですって!」
「サラ。寿司ってなに?」

首をかしげるお嬢様。
そして、サラさんも困ったを顔している。
・・・あれ? おかしいぞ。なんだか雰囲気が悪い。鉱物を正直に言っただけなのにこの雰囲気・・・変なことでも言ったか?

「良太さん。申し訳ありませんが、私たちは生魚を食べる文化がなくて・・・」
「みんな、寿司を食べたことないのか?」
「はい。申し訳ありませんが・・・」

と、お辞儀をするサラさん。
だが、俺は思わず、あとずさりしてしまう。
サラさんの巨大な頭が俺を覆いつくし、サラさんの顔が俺の体を押しつぶす勢いで降ってきたのだ。
怖いと思わないほうがおかしい。
それに、ここまで謝れられると居心地が悪い。
俺も悪かった。彼女たち巨人は地球人じゃない。それなら食文化も違うはず。それをわかったうえで話すべきだった。


「用意して」


お嬢様がそうポツリと言うと、また辺りの空気が変わる。

「ですがお嬢様。材料がなければ、調理のしようがないです。無理ですよ」
「用意して!」

サラを叱りつけるように、お嬢様は強く言う。

「お嬢様・・・」

サラさんのの目が泳いでいる。これは途方に暮れている目だ。
すぐにやめさせるべきだ。
そこまでして食べたいものでもない。

「いや、ないなら、いいんだ。なにか別の料理を・・・」
「良太。うるさい。黙って!!」
「はい」

ギロリと睨まれてしまった。
思わず背筋が凍り着き、反論の機会さえ与えない。それぐらいの迫力だった。

「今日の夕食は絶対寿司。サラなんとかして
「・・・・そうですね。わかりました。なんとかやってみましょう!」

サラさんはポケットからスマホを出し、なにやら電話をかけている。


「もしもし、日本で一番高い寿司屋さんはどこですか。ふんふん・・・なるほど・・では、そちらの者を全員こちらによこしてください。
 はい、そうです。全員今すぐにです。え・・・無理! 報酬はいくらでも・・」


報酬はいくらでもって・・・たかが晩御飯を食べるだけなのに!?


「お嬢様申し訳ありません。銀座で一番高級な寿司屋に掛け合ったのですが、こちらに来るのは嫌だと・・・」
「報酬は相手の言い値でいい。そう言って」
「はい。そう言いましたが、巨人は怖いから嫌だと・・・」
「誰そいつ? そいつを罪に問って! 首相に連絡」
「はい。わかりました」
「ちょちょちょ待った!」


二人の会話に割って入った。

「べ・・別に寿司じゃなくてもいいかなって・・・、せっかくここで働くことになったし、お嬢様の食べてるものも食べてみたいかなって・・・」
「良太は私に従っていればいい。良太が食べたいなら、なんとしても手に入れる」
「そこまでしてもらっても困るよ。今日はここの料理を食べてみたい。ダメかな? お嬢様」

お嬢様は少し考えて。

「サラ。どう?」
「はい。もともと私が作るつもりでしたから、問題はありません。ですか、本当にそれでよろしいので? せっかくお嬢様がおっしゃっているのに・・」
「そう、良太は無理しなくていい。食べたいものを食べればいい」

正直ここまて俺に気を使ってくれるとは思ってもみなかった。
それに、寿司職人の人だって、急に来いと言われても困るだろうし、巨人が怖い気持ちもよくわかる、
なので・・・・

「今日はサラさんの料理が食べたい。それが俺の希望だ。ダメかな?」

たかが、晩御飯ごときで、人には迷惑をかけられない。
なので、これが最善策のはず。
それにそこまで寿司にこだわっていない。
好きなものはなにかと聞かれて、答えたに過ぎない。
食べられるものなら、なんだっていいのだ。

「そう・・良太がいいなら、いい。サラ」
「はい。お嬢様。すぐに調理に取り掛かります」

サラさんは行ってしまった。
今この部屋にいるのはお嬢様と俺の二人だけ。


「良太と二人・・・ね」


お嬢様は俺の前に手の壁を出し、俺の方へと向かって手を動かしている。
迫りゆく壁。小さなアパートぐらいなら握りつぶせそうな巨大な手だった。
手の壁から逃げるように進むと、そこは赤いお嬢様のドレスの壁。
見上げてみると、丸みを帯びた胸のさらにその奥にお嬢様の顔があった。相変わらず冷たそうな目で、俺を見下ろしている。

「そこ」
「え?」
「近くにいて!」

大黒柱のような、人差し指でテーブルを叩いた。
ここにいろ。そういう意味だと思うが、正直言って居心地が悪い。
プールよりも巨大手が、両側に置かれ、俺の行く手を阻んでいるのだ。
もう、逃げられない。
手の牢獄。囚われの身同様だった。
しかし、助けを求めるようにお嬢様を見上げても、何も言わない。じっとしていた。


「じ~・・・・・」


お嬢様はさっきから俺を見下ろし、ずっと見つめている。その勢いは俺の体に穴が空くんじゃないかと思うほど。
お嬢様の目はギラギラと光り、俺を凝視している。
巨大な目玉が、星のように俺を見つめ、圧倒的威圧感を感じる。
怖くて背筋が凍りそうだ・・・・。

「あの・・お嬢様・・・」

上を見上げ、お嬢様を見た。すると・・・

「ぐぇ!!」

大黒柱のような指が俺にのしかかる。

「話しかけないで」
「は・・・はい」

やっぱりお嬢様と二人っきりは怖い。怖すぎる。
気安くにお嬢様に話しかけるだけで、死にそうになる。
これじゃあ、まるでライオンと同じ檻に入れられているみたいだ!

それに比べ、サラさんは明るく、大人のお姉さんって感じで話しやすいが、お嬢様はあまり話をしたがらないタイプだ。
それにお嬢様は俺たち地球人に容赦なく、気に入らなければ踏みつける、あの邪悪な印象がぬぐいきれてない。
なので、お嬢様と二人でいたら怖いのだ。なにをされるのかわかったものじゃない。


「じ~・・・・」


相変わらず、俺を見下ろし凝視してくるお嬢様。
少し前のめりになったせいか、胸が地面に付きそうだ。
迫りゆく丸い胸。ドレスからでもわかる胸の丸みが、俺を影で覆っている。
正直言って、胸に押しつぶされそうで怖い。
だが、お嬢様に話しかけたら、大黒柱のような指が俺にのしかかり、死にそうになる。なので話しかけられない。
こういう場合、無視するしかないのか・・・。だがギロッとした目が怖い・・・。
確実に怒っている目だ。

「あっち、向いて」

お嬢様は後ろを指さしていた。つまり、反対を向けとということなのだろうか。
しかし、なんでそんなことする? そんなことして一体何の意味があるんだ?
すると、また指が降りてきた。もちろん目当ては俺の頭上。
しかも、今度はかなり勢いが強い。このままだと、プチリと俺の体が潰されてしまう。

「はい。後ろを向くんですね」

くるっと素早くターンすると、指は降りてこなかった。
しかし、指は去ってもお嬢様はあいかわらず俺を見つめている。
チラッと、後ろを見てみると。

「じ~・・・」

お嬢様はなにもしない。ただ俺を見つめているだけだ。
ほんと・・・勘弁してくれ。ジロジロ見られるのも結構きつい。精神的に疲れる。
お嬢様と二人っきりは嫌だ。
サラさん。早く帰ってきてくれ~!

それから数十分。座るどころか、動くことさえも許されず、もし破ろうものなら、指が俺を押さえつけようとする。
なので人形のように立ち続けるしかなかったのだ。



「お待たせいたしました。今日のお夕食です」


金色の扉が開くと、ワゴンが現れた。
部屋に入ってきたのはサラさんだ。
サラさんが夕食を運んできてくれたのだ。
良かった。これで人形みたいな扱いからようやく解放される。

「今日は良太さんの歓迎会ということで、腕によりをかけました」

もしかして、サラさんって料理が好きなのか? 
部屋に戻ってきてから、えらく機嫌がいい。生き生きしている。

「こちらが、お嬢様で、こちらが私の分です。で、こちらが、良太さんの分です」


ドスウウウウン!!


「うわ!」


突然地震が襲い掛かった。
見上げてみると、まるで軍艦のように黒い壁が突如俺の目の前に現れていた。

「それでは、お嬢様。いただきましょうか?」
「うん」

軍艦のような壁を通り越し、巨大な刀が降りていく
ギリギリと、なにかを引きちぎるような鈍い音が響き、その音が収まると刀が戻ってきて、俺のいる場所のすぐ横に置かれた。
心臓が跳ね上がる。なんてことだ。工事現場の資材よりも巨大な鉄の塊。そしてその側面に付いた刀。
それが、キラリと不気味に光り、俺の方へと向いている。
こんな重そうな鉄の塊が、降ってきただけでも十分恐ろしいが、それよりもっと恐ろしいのがこの刀だ。
近づくことさえ、躊躇してしまう鋭く光った刀。
長さ30メートルを超える、見たこともない巨大な刃物だった。
長さもすごいが高さもそれなりにあり、まるで壁みたいに立ちふさがっている。


「うん・・おいしいわ」


刀が持ち上がった。
刀を見上げると、空の彼方へと向かい、振り落とされている。
その先は・・・。

「な!!」

ギリギリと音を立てていたのは肉。肉を切っている音だ。
刀。いや、ナイフか。
巨大なナイフが肉を切っている。
そして、切られている肉もかなり巨大でどれぐらいの重さがあるのか見当もつかない。
ただ、一つだけ言えるのは、これだけの肉、数百人はいないと食べきれない、とてつもないサイズの肉だった。
肉の高さは平屋建ての家に匹敵する。
家のような巨大な肉を、これまた巨大なナイフで切り裂いているのだ。
そして、ナイフが肉を切り終えると、今度は鋭く尖ったフォークが空を飛び、地面の肉に突き刺さると、お嬢様は口を開けていた。
口の中には、化け物ようなピンクの舌が待ち構えており、口の中に肉が入ると巨大な肉をズタズタに引きちぎっていた。


ゴクン。


喉が動くと、お嬢様の口の中は空っぽだった。
今ごろ、牛肉はお嬢様の胃袋の中だろう。
決して助からない、暗黒の洞窟へと招待された牛肉たちに未来はない、

そんな恐ろしい大処刑会を真下から、見ていた俺はドキドキと心拍数が上がる。
怖い怖すぎる。
なんせ、分厚い建物のような肉を、あっさりと切断し、持ち上げ飲み込んだのだ。
しかも時間にしたら10秒足らず、恐るべき早業だった。
それに比べたら、マグロの解体ショーなんか、まるでままごとだ。
子供が、包丁を握っているような幼稚なこと。
それぐらい、お嬢様の食事には迫力があり度肝もを抜かれ、言葉が出なかった。


「良太さん。どうされましたか? まだお召し上がりになっていないようですが」
「良太。食欲ない?」


二人は手を止め、俺のことを心配そうに見つめてきた。

「いや、そういうわけじゃないけど・・・」

正直腹は空いている。だが、巨人たちの食事とナイフの大きさに迫力に圧倒され、食べる気がしない。
それに、俺の皿が見当たらない。どこにもないのだ。

「ああ~。そこからでは見えませんか」

俺の姿を見かねてか、サラは俺をつまんだ。
宙を浮くと、そこから見えた風景は、あまりにも普通の景色だった。
ステーキが置かれた皿に、野菜とパンの入った皿。二つ皿が並んでいる。
うん・・・? でもおかしい。ひいふうみい・・・。
全部で三人分の皿がある。


「サラさん。他に誰かこの屋敷に住んでいるの?」
「いえ、誰もいません」
「でも、三人分あるよね」
「なにをおっしゃっているのですか? あれは良太さんの分ですよ」
「そっか。俺の分か。なあんだ~」
「当たり前ですよ。良太さんだけ、料理抜きなんて、そんなひどいことしません」
「ははは・・・って、おかしいだろ!!」 


俺の分だと言われた皿。その皿には当然お嬢様と同じクラスの肉が乗っていた。
いや、もしかしたら、お嬢様の肉よりも大きいかも?
いや絶対そうだ。俺の皿の方が肉が多い。
お嬢様が食べている肉よりもさらに多い肉。とてもじゃないが、こんな量・・・


「良太さんは男性ですので、摂取カロリーは私たちより多いはずです。ですので、少し多くしときました。
 さあ、召し上がってください。牛肉2400トンは食べ応えありますよ」


一面、肉肉肉。40メートルの巨大な黒い皿に長さ30メートルを超える肉の地面。
巨大な牛肉が煙を上げ、横たわっている姿は圧巻だった。
あの肉の上に車を走らせることだってできるだろう・・・って! ここは肉の道路か!
こんな巨大な牛が存在する彼女たちの星も恐ろしが、それよりもっと恐ろしいのが、こんなものを食べさせようとするサラさんが怖い。


「食べれないよ。こんなの」
「いいんです。今日は良太さんのためですから。遠慮なさらないでください」
「違う。そうじゃなくて、こんなの食べきれない」
「え!? ですけど、良太さんは男性ですし・・・」
「体の大きさを考えて、この肉一体何メートルあるの?」
「はい。30メートルはあると思いますが・・・」
「で、俺の体の大きさは?」
「確か、8ミリか9ミリぐらいでした」
「ね? 俺からしたらこの肉はプールよりも大きいの。そんなの食べきれるはずない! 考えればわかるでしょ」


そう強く言うと、サラさんの指が下がり、テーブルの上に降ろされた。
そして、またお嬢様と二人でゴニョニョ小声で話している。


「どどどど・・・どうしましょう。良太さんがあまりに私たちを恐れないので、小さいことをすっかり忘れていました。」
「サラ。いい。それより、良太が食べれない方が、かわいそう」
「そうですね・・・いかがしましょうか・・・」
「小さく切る」
「そうですね。お嬢様。なんとかやってみます」


2400トンの肉の皿を軽々持ち上げ、サラさんは部屋から出ていった。
どうやら、肉を切りに行ったようだ。

「良太。これ食べる?」

ふと、上を見上げると、そこには、巨大なコンテナのような・・


「げ!!」


巨大な肉が太パイプに串刺しにされ、俺の体の何倍もの面積が影になる。
一口サイズに牛肉がカットされても、この大きさだ。そう思えばお嬢様の口はなんて大きいことか・・・。
って! やばい。このままじゃ、牛肉に踏みつぶされる!!

「お嬢様。今はいい。サラさんが切ってくれるから・・」
「そう・・・」

コンテナのような肉が去ると、その肉よりも数倍もの大きなお嬢様の口の中へと消えていった。
もぐもぐと数回口を揺らすと、フォークは次の獲物めがけて、落下している最中だった。

ザッグ!

三本の太パイプが肉を貫くと、また空へ飛んで行った。
コンテナのような肉と、家の柱のようなフォークが、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりされると、正直落ち着かない。
お嬢様の手元が狂い、そのどちらかが、俺に降ってくると、その瞬間死ぬからだ。

「こんなちょっとの量も食べれない良太・・・男らしくない」

おいおいお嬢様よ。気持ちはわからんでもないが、大きさを考えて。
あなたの胸と俺の体、大きのはどっちだ? 
もちろんお嬢様の胸の方が大きい。
いやそれどころか胸の重みだけで俺を殺せるぐらい大きいんだ。
ちゃんと考えて。


「お待たせいたしました。良太さん。申し訳ありません。これで食べれますよね」


サラさんの手には、あの巨大な皿はなかった。
代わりに、持ってきたのは、ゴマ粒のように小さな皿。


「地球人用の小さな食器です。これなら食べれますよね?」


降ろされた食器は確かに小さい。これなら俺でも持てる。
だが、それでも肉の量はまだまだ多く、少なくとも皿の上に肉は1000グラムは乗っていそうなほど多かった。

「ありがとう~サラさん~。これなら食べれるよ~」
「うふふ・・・よかったです」

肉の量がかなり多いが仕方がない。小さいことにいちいち文句を言っても始まらないのだ。
さて、食べるか。と思ったその瞬間、またコンテナのような肉が俺の頭上を通過した。
見上げてみると、お嬢様がもぐもぐと咀嚼している。
牛肉がお嬢様の中に入ると、歯と肉が擦れ合う、そんな鋭い音が響いた。
牛肉が裂け、そして飛び散るような音。
怖くて食事どころじゃない。
気になって食べる気が起こらないのだ。


「お嬢様。あの・・・少し離れて、もらっても?」
「・・・・。私に命令する気?」


目を向いて怒っているお嬢様。これは聞いてもらえそうにない。

「ご・・・ごめん。じゃあ、俺が離れるよ」

料理を抱え、立ち上がる。


「どこ行くの?」
「え? だから、少し離れようかと・・・」
「ダメ。良太はここで食べるの」
「ははは・・・・、でも、やっぱり・・・」


グワーンと指がまた降ってきた。
俺を押しつぶすため、指は飛来してきたのだろう。

「や・・やっぱり、ここで食べる」

元の位置。つまりお嬢様の胸下へと戻る。
すると、お嬢様の指は引っ込み、俺の横に置かれていたナイフを握った。
そして、俺のいる方向へとナイフが向かってきている。
キラリと光るナイフ、その鋭い刃が、不気味な光沢を放つ。


殺される! 逃げなきゃ思ったが、行く手には左手が壁のように待ち構えており、逃げ場がない。
前にはお嬢様のドレス。後ろには左手。上空にはナイフが迫ってきている。
どう考えても逃げ場なんて、なかった。
震えながら、ナイフを見上げ、お嬢様の左手を叩く。
お嬢様のことだ。なにをしても助けてくれない。
だが、わらにもすがる思いでお嬢様の左手を叩き、許しを請うた。

「良太。なに?」

ナイフは、俺を通り過ぎ、牛肉を切っていた。
そして、そのままお嬢様の口の中へと運ばれている。
ああ・・・びっくりした・・・。てっきり殺させるのかと思った。
だが、お嬢様は俺を殺さない。ナイフという凶器を手元に置きながら、俺を殺さなかった。


「ごちそうさま」


お嬢様は夕食を全部平らげた。
何千トンという、とんでもない量の肉をお嬢様は食べきったのだ。
今頃、ステーキはお嬢様の胃袋の中。
25メートルプールを埋め尽くせる膨大な牛肉も、今頃は巨大な胃袋に収まっていることだろう。


「良太さん。私の料理いかがでしたか?」
「うん・・美味しかったよ・・・」


サラさんの料理は美味しかったと思う。うん、美味しいはずだ。
しかし、じっくり味わう余裕はなかった。
あの巨大な肉とフォークという鉄の塊が、俺の頭上を飛び交っていると、怖くて味がよくわからなかったのだ。


「良太。食べないの?」

一方、俺は半分以上残していた。
それも無理はない。1000グラム近い牛肉を食べるなんて不可能だ。俺は大食いではない。

「食べないなら、いい?」

お嬢様から見ればゴマ粒のような皿を持ち上げ、そのまま自分の口、目掛けて投げ込んだ。
お嬢様は噛まなかった。500グラムという肉の塊を丸呑みにしたのだ。
やはり、お嬢様の口はデカい。なんて大きな口なんだ・・・。

「それでは、これでお開きですね」

気づけば、8時を回っている。だいぶ夜もふけてきた。
お腹もいっぱいだし、寝てしまいたい。
でも・・・お嬢様は寝るまでは、起きてないといけないんだよな。
はあ・・・しんど・・・。疲れたから早く寝たい。



*****



「夕食の後は、お風呂ですね。さあ、皆さん一緒に入りましょう」


サラさんは夜になっても元気だなあ・・・。
って、お風呂!? さっきお風呂って言ったよな?
しかも、皆さん一緒って・・・。


「さあ、良太さん。行きますよ~」
「あの・・俺も入るの?」
「もちろんです。そうですよね? お嬢様」
「当たり前」


って!! おいおいおいおい。
お嬢様まで、なんてこと言うんだ。
表情を変えず、そんな爆弾発言するなんて・・・予想外過ぎて頭が回らない。


「あ・・・わかった~。水着か、もしくは下着でお風呂に入るんだね。そう言うことなら・・・」
「なにをおっしゃっているんです? もちろん・・・裸です」
「裸」


く・・・くぅ~・・・。なんてことだ。
年頃の娘が本当にすっぽんぽんで風呂に入ると? 男なら誰しも泣いて喜ぶようなことだがなんせ相手は巨人だ。
もし、いかがわしい目で見ると殺されるかもしれない。
だが、残念なことに、いかがわしい目で見ないという保証はできない。俺には女の免疫がないんだ。
恥ずかしい話だが全裸なんて、生まれてこの方、一度も見たことがない。
だから、もしかしたら、いかがわしい目で二人を見てしまうかもしれないんだ。


しかもこの二人は、巨人とはいえ、かなりの上玉。美人だ。
大きさを除けば、完璧に近い体系と顔を持っている。
なので、自信がない。エッチな目で見ないという自信がないのだ。
しかし、「二人の体を見ると興奮します。なので入れません」なんて言えないし・・・。
いやいや、それはまずいだろう。そんなこと言ったら、殺される。
お嬢様はなんだかんだで、かなり高貴な人みたいだし、そんな目でみたらどうなるか本当にわからないのだ。


「早く行きましょう」


サラさんの人差し指と親指が降りてきた。これで俺を摘み上げる気なんだろう。
だが、俺はその指を払う。と言っても指を止められるわけないが、俺の意図を汲んでくれたのか、サラさんは不思議そうな顔で俺を見つめる。


「二人で先に入ってきたら? 俺は後でいいから」
「ですけど・・・地球人用の小さな桶がありません」
「じゃあ、コップでもなんでもいいから、そこにお湯を張れば」
「ダメです。それでは良太さんの体を洗えないです。このシャンプーが使えますか?」


サラさんの持ってきたのは、ごく普通のシャンプーだが、もちろん巨人サイズの大きさなので、俺には大きすぎて使えそうにない。
10階建てのビルに相当する、巨大シャンプーを使うことは、できないだろう。

「シャンプーなしでいい。水だけで洗えば、それでいいよ」

シャンプーを付けずとも、お湯でしっかり洗えばそれなりに綺麗になるし、なにより、一人ゆっくり入ることができる。
うんうん、それだ。そうしてもらおう。

「汚い」

ボソッと冷たい言葉が飛んできた。
お嬢様を見上げてみると、明らかに目が怒っている。


「汚い執事は嫌」
「お嬢様。ですが、良太さんは嫌がっているようですし、ここは希望を聞かれてみては?」
「嫌」
「ですが良太さんは、お嬢様と一緒に入るのが嫌だと。
 どうしても入るぐらいなら、いっそ死んだほうがマシ、そうおっしゃっています」


おいおい。そこまでは言ってないぞ。
死んだ方がマシなんて、そんな乱暴な・・・


「ひ!!」


お嬢様を見上げると、どす黒いオーラが漂い、目は赤く光っている・・・ような気がした。
死んだ方がマシというより、本当に死がやってきそうな勢いだ。

「そうなの? 良太!」

目を剥き、鬼の形相のように、怒りをあらわにするお嬢様。
思わず、あとずさりするほどで手が震える。いや・・・足も震えていた。

「どうなのって聞いてるの!!」

ドスンと、握りこぶしが俺のすぐ横に振り落とされた。
俺は吹き飛ばされ、尻餅を着く。
すると、今度は、お嬢様の目玉が俺の視界を埋め尽くした。

「どうなの!」

怒声。しかも、お嬢様の口は俺のすぐ目の前だったため、声がダイレクトに響く。
あまりにも怖かったので、反射的に地面を這って逃げたしていた。なんでそんなことしたのか自分でもわからない。
いくら逃げても無駄なのに逃げていたのだ。
だが、それも数秒で終わる。
お嬢様の指につままれてしまったからだ。

「いてて!!」

まるで、鉄に挟み込まれたかのように、硬いものに挟まれる。
これが、たんなる指だなんて・・・。だが、お嬢様の指は大木そのものだった。

「答えて!」

さらに力が込められ、体がミシミシとしなり、悲鳴をあげだした。
これ以上はまずい。体が真っ二つになる。
お嬢様の指なら、俺の小さな骨を砕くのも容易だろう。じゃないとあんな大きなナイフ持ち上げれない。


「良太さん。本当は私たちと一緒にお風呂に入りたいんじゃないですか?」
「そうなの?」
「そうですよ。男というものは女の裸が好きなものです。嫌いな者はいません」


サラさんの言葉を聞き、お嬢様は少し力を緩めた。
それでもまだ痛みは消えないが、しゃべれるぐらいにはなった。

「裸だって!? 巨人の体なんて・・」
「うん?」

ギリギリ!

「ぎゃー!!」

巨人の体なんて見たくない、そう言おうとしたら、また力を込められた。
やばい、締め付けられすぎて、さっき食べた肉を吐きそうだ・・・。
なので、仕方なく。

「そんなこと・・・あります」

こう答えるほかなかった。

「よかった~。私の聞き違いだったようですね~。申し訳ありません。良太さん。あ・・・お嬢様も申し訳ありません」

サラさんの笑い声、それがなんて言っていたのか、わからない。
その時、あまりの痛さで、周りを見る余裕なんてなかったのだ。
少し、記憶が飛び、頭が真っ白になる、
だが痛みが消え、周りの状況が理解できた時


「お嬢様。また胸が大きくなられたのでは?」
「そんなことない。サラの気のせい」
「それにしても、お嬢様のお肌はお美しいですね。思わず見とれてしまいます」
「もう! 見ないで」


意識がしっかりしてくると、すでに二人は服を脱いでおり、下着姿になっていた。
ブラとパンツだけを身にまとっているだけで、ほとんど裸と言ってもいい。
そして、俺は地面に降ろされており、小さな俺でも使える洗濯籠が置かれていた。
この中に服を入れろという意味なんだろう。
その証拠に、彼女たちの脱いだ服も洗濯籠に入れられていた。


改めて二人を見上げる、するとサラさんがパンツに手をかけるいるところだった。
パンツがさがると、もじゃもじゃの・・・草のように生い茂った黒い陰毛が・・・・。
その姿を見て走り出す。俺は見てしまったのだ。サラさんの綺麗な陰毛を。
もうそれだけで、興奮してしまう。
もう無理だ。二人の全裸を見て、平常心でいられる気がしない。なので逃げないと、彼女たち欲情したとわかった時点で殺されるのだ。


「良太。どこへ行くの?」


走り出してすぐお嬢様にバレてしまったが、今更足を止める気はない。
すぐそこに全裸のお嬢様がいるんだ。振り返るわけにも止まるわけにもいかない。
それにしても、なんて広い廊下なんだ。
何キロにも渡って、直線が続いており、この部屋から脱出するだけでも、かなり走らなければならない。

「お・・・体重計」

一直線の廊下のその先に体重計があり、その下にわずかに小さな隙間が空いている。
チャンスだ。あの下に潜り込んでしまえば、彼女たちは俺を捕まえられない。
指一本すら入らない小さな隙間に入ってしまえばこっちのもんだ。
だが、問題はそこまで走れる体力があるかだ。あそこまで少なくとも1キロはある。なんとか頑張って走らないと。

「止まって良太。どうなってもいいの?」

今更脅したって、もう遅い。
それも覚悟の上だ。それに体重計まで逃げれば俺の勝ち、今更止まるわけがない。

「聞こえないの?」

ドスンと地響きが鳴り、地面が揺れる。
俺はふらつきながらも走り続けた。
止まった瞬間死ぬ。そんな気持ちで走っているのだ。ちょっとやそっとのことでは止まる気はない。


「サラ。捕まえて」
「はい」


突如として足が現れた。
その足は壁のように高く、25メートルプールよりも大きい。
この足の裏の水を張ると、かなり大規模なウオータースライダーになることだろう。
建造物のように巨大な足を飛び越えれる手段はどこにもなかった。
壁の高さは4メートルはあるだろうか? 横線の指紋の入った丸い肌色の壁が俺を見下ろし威圧している。
でも、逃げなければいけない。無理は承知なのだ。
壁を登れるか、試しに触ってみると、その壁は暖かく柔らかかった。
いや、柔らかいというよりも、手に吸い付くような感じ・・。
ずっと、触っていたいような変な感触だ。

「もう。そんなに触ったら、くすぐったいですよ」

壁がしゃべった・・・いや違う。これは足だ。そう、サラさんの親指。
そのサラさんの足指に、まるで蟻のように小さな俺が立っているのだ。
人間の足と蟻のように小さな俺。
しかし、なんて速い足なんだ。たった数歩歩くだけで、俺に追いついてしまうとは・・・。
両者にはかなりの差があり、45メートルの足に巻き込まれて、助かるはずもない。
少しでもサラさんが足をスライドすれば、一瞬でミンチに変えられることだろう。


指もすごいが爪もすごい。
白い爪が指から伸びており、その白さはまるで宝石のように美しく、白く輝いている。
角質や肌の乱れはない。アリのような小さな俺から見てもそう思えるのだから、サラさんの足はかなり手入れが行き届いているのだろう。
風呂に入る前からこれほど綺麗だなんて驚きだ。
しかも、サラさんはさっきまでずっと立ち仕事をしていた。
それなのにさっき洗ったばかりのようにつま先は美しかった。
そして足全体の形も美しい。
土踏まずが、丘のようにアーチを描いており、その曲線がなんとも美しい。
白くて、柔らかくて、綺麗。まさにサラさんの足は、美しい女性の足代表といった感じの足だった。


一番汚れやすい足ですら、きれいなのだから、全身はもっときれいなはずだ。
それなのにこんな綺麗な白い足を見せられ、絶望感が増した。やはり、風呂には一緒に入れない。
絶対、変な目で見てしまう。
いや、もうすでにヤバい。足を見ただけで勃起してしまいそうだ。


「良太さん。逃げれませんよ。もう観念してください。それにあまり私の周りをウロチョロしないでください。誤って踏んでしまいますよ。
 それでもよろしいのですか?」


サラさんの足指がもじもじと動く。
だが、そのちょっとした動きで、俺はおもわず尻餅を着いてしまう。
さすがは、巨人の足指。
何千トンの牛肉を食すだけの体の持ち主だ。ちょっとした動きでも大地を揺るがすほどの力を持っている。


俺はその時悟った。
いくら綺麗な足でも巨人の足だ。
サラさんの足は50メートル近くあり、それだけで電車二両ぶんはある。
これはつまり、家数件まとめてつぶせる大きさで、その重さも計り知れない。
足をズズンと降ろすだけで、何百人もの人が踏みつぶされてしまう。
いや、もしかしたら、次は俺の番かもしれない。お嬢様の言ったことに逆らい逃げたのだ。
このサラさんの綺麗な足の踏まれ、シミになるかも・・・・。
俺はサラさんの足がいつ持ち上がるか、そしていつ殺されるのかと思い震えていた。
気づけば腰が抜けてしまっている。
走ることもできず、その場にしゃがみこみ、手で頭を隠し震えている。情けない話、俺にはもう震えることしかできなかった。

「いた?」

そんな巨大な足がもう一組やってきた。お嬢様の足である。
お嬢様の足も、サラさんの同じサイズだった。
敵が二人から四人に増え、絶望感はさらに増す。

「逃げないの?」

最後の力を振り絞るようにして、匍匐前進で地面を這う。
足が動かないなら、手で逃げてやる。なんとか体重計の下まで逃げなければ・・・。


「良太さん。無駄ですよ。走っていてもアリより遅いです。それなのに這って逃げるなんて・・・すぐ追いつかれてしまいます」
「そう。カタツムリといい勝負」


彼女たち二人は、もじもじと指をうねらせた。
たった、それだけであっさり追いつき、そして追い越された。
唖然としてしまう。彼女たちの指は車並みに早く、俺との足と競争しても勝負にならない。
しかも足を持ち上げず、指の力だけで動いているのにこの速さだ。勝負にすらなっていない。


「お嬢様。こっちです」
「うん」


怪獣のような芋虫たちが、進路を変えた。
右へと向きを変える足指たち。その向かう先には俺がいて、どんどん影が濃くなっている。
指の形をした丸い影が、二つ左右から迫ってきている。
二人の足指は早すぎて、どうにもならなかった。

「ぎゃー!!」

サラさんの足の親指とお嬢様の足の親指に俺が挟み込み、そのまま持ち上げる。
約5メートルは持ち上がり、空へと連れ去られる。
俺の足は地面についていない。宙を浮いている。
彼女たちの指から逃れようと、暴れてみても、パタパタと空を切るばかりだった。


「あはは、パタパタして可愛いですね」
「自業自得」


足の持ち主達は呑気なこと言っているが、生死に関わる危機に直面している。
これだけ、すごい力で締め上げているにもかかわらず、使っているのはお互い指一本だけだった。
しかも悪いことに足に加わる力が不均一で、痛みが手の指よりの時よりも激しい。
足の指は手の指に比べ、力加減の調整が難しいらしく、俺の体を締め上げようとする力が強く、痛みがより増す。
キリキリときしむ俺の体。背骨は曲がりそうになり、巨人たちの力に耐えきれない。
一方、巨人たちの指に変化はなく、お嬢様もサラさんも今頃涼しい顔をしていることだろう。


「離せ!!」

俺の言葉とは逆に、巨人の指たちはだんだん上へと移動していき、全身足の指に挟まれてしまった。
顔まで指に埋め尽くされていく。
それは彼女たちの指を直で鼻で嗅ぐようなことであり、酸っぱい足の匂いが鼻孔に広がっていく。

「うー・・・もごもごもご・・・」

声が出なかった。
彼女たちの足の指に口を押えられ、声が出せない。

「うーうー・・うっ!!」

しょっぱい味が、口の中に広がった。
助けを求めるのに夢中になり過ぎて、思わず足をなめてしまった。

「良太ー!」

舐めてしまったのは、お嬢様の足だったらしく、顔は見えないが冷酷な声が響く。

「変態」

その言葉と同時に、足指が下がり、顔から指が離れていった。


「違うんだ。舐めるつもりはなかった。でも・・・」
「うるさい! 変態!」
「ぎゃー!!」
「うふふ・・・二人とも仲がよろしいですね~」


なにが仲がいいだ。
こっちは指に挟まれ窒息寸前。
どうにかなってしまいそうなのに・・・・。

「悪かった・・・だから離してくれ」


足の指を手で叩き、離すよう要求する。すると・・・


「本当に離してもいいんですか? 私知りませんよ」
「サラいい。良太が、そう言ったから離す」


足の力が抜け、体から足が離れていった・・・って!!
両者の指がどんどん離れていき、体の支えを失いつつある。今度は指から落下の危険が出てきたのだ。
俺は足の指にしがみつきながら、精一杯こう叫んだ。


「助けてくれ!」


幸い、足には指紋があり、そこをつかんでいたため、落下は防げたがそれでも油断はできない。
少しでもピックと指を動かせば吹き飛ばされてしまう。
5メートルも落ちれば、大けがしてしまう。


「助けてくれ、ですって。お嬢様どうします?」
「助けない。でも、良太の気持ち次第で助けてやる」
「お嬢様。そのお気持ちとは?」
「決まっている。私の言うこと聞く。それだけ」
「ですって。良太さん」


こっちは死にそうなのに、彼女たちは随分のんびりした口調だ。温度差が違いすぎる。
くっそ! でも言うこと聞かないと、どのみち死ぬ・・・。

「いやなの? なら、死ぬほど痛みつけてやるから」

すると、今度は反対側の足がやってきた。あれで俺を踏みつぶす気なんだろう。
指一本ずつでも、死にそうなのに、もう片足、つまり俺を押さえつけている指が2本から7本に増えてしまう。
当然痛みも重さも3倍に増し、死んでしまう。


「待った。待った!! わかった。わかったからお嬢様の言うこと聞く。だから殺さないって約束して」
「殺す・・・・? なんのこと? 私は別に・・・・」
「お嬢様。お待ちを。ここはこう言うべきです。ゴニョニョ・・・・」

サラさんは、お嬢様の耳に向かって、なにかを話していた。


「良太。私に逆らわないと約束して」
「うん。約束する」


すると指が離れていった。締め付けていた力が無くなり痛みも引く。
た・・・助かった・・・。ってこれで何度目だ? 死ぬって思ったのは? ほんと命がいくらあっても足りない気分だ。
って、あれ? そういえばさっきサラさんなにか言っていたような気がするけど、なんて言っているんだろう?


「サラさん。さっきお嬢様になんて言ってたの」
「私はなにも言ってませんよ。良太さんの聞き違いじゃないんですか?(棒)」


怪しい。絶対怪しい。なにか隠している。そういえば、なんで俺が執事に選ばれたのかも聞きそびれたし、絶対この二人なんか俺に隠している。


「そ・・・それより早くお風呂に入りましょう。お嬢様に従うと良太さんはお約束されましたし、お嬢様。良太さん。早く入りましょう」


・・・・って、二人とも素っ裸じゃないか!!
一瞬だが、二人の全裸を見てしまった。慌てて後ろを向き二人の体を見ないようにする。

「いくよ」

お嬢様の指につままれてしまった。もちろん行き先は風呂場だ。
このまま、何もしないでいると、確実に二人の裸を見てしまうことになる。
なんとかして止めないといけない。
だが俺の思いとは逆に、二人の足はどんどん進み、重々しい地響きを立てながら、風呂場へと進んでいる。


「だから一緒に入るのは・・・」
「言うこと聞くって言った。あれは嘘なの?」


キッっと睨んでくるお嬢様。
しかし、俺も屈しない。こっちとら命懸けなんだ!


「確かに言ったけど、でも・・・」
「死にたい?」


ギュッと指に力が込められる。
屈しないと硬く決めてから言ったが、お嬢様もどうやら本気だったらしく、本気で俺をつぶしにかかっている。
ダメだ。やっぱりこのままだと死んでしまう・・・・。
くっそ! 戦う相手が悪すぎる。真正面から戦っても絶対勝てるわけない。なので・・・

「わかった。もうこうなったら、好きにしろ!」

屈するしか、生きる道は残されていなかった。

「じゃあ、早く脱いで」

お嬢様の言葉に従い、しぶしぶ服を脱ぐ。
お嬢様とサラさんはもうすでに服を脱いでいたので、待たせる形になっている。
だが、俺が服を脱いでいる時も脱ぎ終わった後も決して彼女たちを見ない。
もし見れば、どうなるか・・・。わからないからだ。
なので、彼女たちが歩き出し、どれだけ手が揺れようとも、俺の体を見てキャーと大声で叫ばれようとも、決して目を空けない。
目を開けなければ、彼女たちの裸も見えない。我ながらいいアイデアだ。


「良太さん。これから湯船に入りますよ。いいんですか? 目をつぶっていても?」
「これでいいんだ。好きにしろ」
「そうですか。ならば遠慮なく」


サブンという重い地響き響くと、暖かい湯が足元から流れてきた。
湯は足から胸、胸から肩、そして・・・顔まで流れ込んでくる。
気づけは、全身がお湯に浸かり、息ができない。
苦しくて目を開けてみると、海のようなところに放り出されていた。

「溺れる・・・」

悪いことに泳げるほどの体力はない。
さっき、お嬢様にさんざん締め上げられたため、泳げるほどの体力が残っていなかった。

「良太さん。泳げないんですか?」

その声はサラさんだった。湯煙のせいで姿は見えないが、あちら側からは俺が見えているらしい。


「サラさんいるの? いるんだったら助けて! 溺れる・・・」
「私じゃなくてお嬢様に頼んでください」
「じゃあ、お嬢様助けて」
「うん。助ける。これにつかまって」


丸い、ドラム缶のようなものが流れてきた。
なぜ、風呂の中にドラム缶? と不思議に思ったが、この際ドラム缶だろうかなんだろうがなんでもいい。
溺れないならそれでいいのだ。
残された力を振り絞り、ドラム缶に向かって泳ぐ。
近づくと見ると、思ったより大きい。俺の身長と大差ない大きなドラム缶だった。
そんなドラム缶・・・いやこれ本当にドラム缶か? やけにゴツゴツドラム缶だ。
流れてきた謎の物体は半分湯に沈んでおり、ゴツゴツしたところを足掛かりにして登る。
登った地面はやけに柔らかく、触ってみるとぷにぷと俺の手を押し返している。変な地面だ。


「んっ・・・良太ダメ。そんなに乱暴にしちゃ・・・」
「お! 流石は良太さん。お嬢様の乳首を揉み、その上に跨るなんて、並みの男にはできませんよ~」


俺は湯船に飛び込んだ。
まさか、あれが乳首だなんて、思いもしなかった。
いくら切羽詰まっている状況とはいえ、まさか乳首に乗ってしまうとは、なんて失敗だ。


「お嬢様。サラさん。どっちでもいいから教えてくれ。俺は何につかまればいい?」
「これ」


差し出されたのは、ピンクの乳首だった。
乳首はまるで船のように波を立てながら進み、俺のいるところへと向かってきている。

「わわわわ! ストップ!」
「どうしたの?」

キョトンとした顔で、俺を見下ろしているお嬢様。
状況が分かっていないそんな顔している。

「いい? 聞いて。お嬢様は女、俺は男。わかる? で、若い男女が二人風呂に入るなんて、あり得ない。そう思うでしょ?」
「そんなの当たり前」


即答だった。


「じゃあ、なんでだよ。わかっているなら・・・」
「良太さん。よろしいではないですか。お嬢様は大人です。性に対しても、ちゃんとわかっていらっしゃいます。
 ですから、良太さんに自分の胸を差し出しているんですよ」


俺とのやり取りを見かねてか、サラさんが会話に入ってきたが、正直言って意味不明だ。
なにが言いたいのかまるでわからない。


「わかっている。だから良い太。私の乳首に捕まって」
「わかっていないんだよなーーー!!」

「「ええ?」」


二人そろって、目を丸くしているが、驚きたいのはこっちの方だ。
ここまで二人の考えを理解できないと、俺の方が頭がおかしいんじゃないかと錯覚してしまう。

「二人から見たら小さくても俺は男だ。裸の女を見たら、変な気持ちになる。それがわからないのかーー!!」
「・・・・・」
「・・・・・」

二人はお互い目を見合って、首を振ったり、縦に振ったりしている。なにかの合図なのだろうか。

「良太」
「良太さん」

二人がグッと俺に近づいてきた。
俺を見下ろし、なにかを言いたげな雰囲気。

「胸、好きなら、触ってもいい」
「胸がそんなにお好きでしたら、好きなだけお触りになればよろしいのに」

二人は俺に胸を差し出した。
運動会の大玉よりも巨大な乳首。俺の身長と大きさも高さも同じぐらいの巨大なピンクの乳首。
乳首の横の面積は俺の体よりもだいぶ広く、キングサイズのベッドぐらいある巨大乳首だった。
迫りくる乳首は城の石垣のように、小さな肉が積み重ねられており、遠くから見るとまるで、脳みそのしわのようにも見える。
大玉のような乳首は俺からすると怪物。
ピンクの怪物が計4つ、並んで泳ぎ俺のもとへと向かってきているのだ。

ザバアアア

乳首が水面へと浮上し、下からすくわれる。

「うふふ・・・良太さん。ご上陸~」

気づけば、サラさんの乳首の上に横たわっていた。
サラさんの乳首もお嬢様同様プニプニで、長いことここにいたら、頭が変になりそうだ。
早く逃げないと・・・

「逃がしませんよ。良太さん~」

ぎゅ! っと指で押さえつけられる。
乳首と指にサンドイッチされた状態になり、上も下もサラさんの肉に挟まれ、完全にサラさんに支配されている。
指はともかく、乳首はやばい。
指とは完全に肌の感触が違う。ここは女性の性感帯。敏感な部分だ。それを強調するかのように肌の感触が指以上によく、
匂いもだいぶ違う、くらくらするようないい匂いがする。
長いこと乳首にいると、頭が変になりそうだ・・・。

「サラだけずるい」
「きゃ! お嬢様・・・・」

サラさんの指がどけられ、お嬢様の乳首に変わる。
お嬢様とサラさんの両乳首に挟まれ、ぎゅーーーっと締め上げられていた。


「お嬢様・・・ダメです。そんなに力を入れちゃ・・・うんっ・・・!」
「サラ。良太から離れて」
「ダメですよ。今私が離れたら、うんっ・・・! 良太さんが落ちてしまいますよぉ・・・」


あれ・・・・? おかしい? なんだかフワフワしてきた。
それになんだか甘い香りがする・・・
ミルクの匂いだろうか? 二種類のミルク匂いがする。
お嬢様とサラさん。この二人の乳首の中にはミルクが内蔵されていて、俺を誘惑しているのか?
ガスタンクのような二人の胸。その中のミルクを飲み干そうとすると、どれだけ飲まされるのだろう。
もしかしたら、25メートルプールをミルクで一杯にできるかもしれない。それぐらい二人の胸が大きく、高さ20メートルはある胸だった。

そんなビルのような胸が丸みを帯びて、俺を挟んでいる。
そして、その胸の持ち主である、二人の巨人。お嬢様とサラさん。
俺からすれば彼女たちは、なにか別の・・・そう女神のような生き物だ。
それに引き換え、俺は虫けら。アリのように小さな俺なんかになぜこんなことをする?
アリと像は決して仲良くなることなんかないのに・・・・。


「私が先です」
「嫌! 良太は私のもの。サラは離れて!
「ダメです。いくらお嬢様とはいえ、それだけは譲れません」
「嫌ったら嫌!」
「ではこうしましょう。ここは良太さんに決めてもらうのです。どっちがいいかのかを」
「うん。そうする」


二人の女神・・・いやお嬢様とサラさんが俺を見下ろす。
二人は全裸なこともあいまって、今までのように普通に接しれない。
服を着ているか着ていないかで、全くの別もの。まるで別人だった。
例えるなら、タンポポがバラにでもなったというべきか。
ただでさえ、美人なのが裸体を晒し美しさに磨きがかかっている。

「良太さん! どっちを選ぶんですか?」
「良太! どっちを選ぶ?」

乳首に挟まれ、さらにその持ち主に迫られている。

「選ぶってなにを?」

「どっちの乳首がいいかをです」
「そう。早く」

頭がフラフラしてきた。
なに? なんだって? 二人の乳首を選べって?
そんなこと、そんなこと、そんなこと、あるわけ・・・・・・。


「きゃーーー! 良太さんーー!」
「良太!?」





*******


暗い暗い闇の世界
その世界に存在するのは俺だけで、辺りになにもない。
クラゲのように、フワフワ浮き、水の流れに身を任している。
海の底の底。光すら届かない闇の中に俺は一人。
どうやら、俺は死んだらしい。
そっか・・・でも仕方がないか・・・。だって、お嬢様の全裸を見てしまったんだ、きっとお嬢様の逆鱗に触れて死んだんだろう。
そんなことを思っていると、ピカッと光が差し込んできた。


「目。覚めた」
「良太さん。いけませんよ。さっさと選ばないから、のぼせてしまうんです。もう! あの後大変だったんですから」


目を覚ますと、そこは天国でも地獄でもない。今までいたお嬢様の屋敷だ。なんら変わっていない。
じゃあ、さっきのは夢か。俺は死んでいない、そういうことらしい。
死んでないなら、起き上がらなくては、と思い、地面に手を着くと。

フニュ

地面が異様に柔らかった。おかしいと思って、もう一回触ってみると

フニュニュ

おかしい。地面を触っているだけなのに、なんでこうもドキドキする? 全身に電気が流れるような、でも気持ちの良い感触。
それに床暖房が効いているみたいに、地面は暖かい。地面から熱が発せられている。

「良太。そんなに触ったらダメ」

つやっぽい、声が聞こえてきたが・・・これってお嬢様の声だよな。
確かめるため上を見上げてみると、顔を赤らめたお嬢様が俺を見下ろしてみた。
いつもの冷たい表情とは違い。まるで恋する乙女だ。なんでこんな顔する?

「お嬢様・・・」

立ち上がると、足に力を入れると、地面が大きく沈み、バランスを崩す。
顔面から転んだが、不思議と痛くなく、地面が俺を優しく包み込む。

「あんまり、動かないで」

顔を赤らめるお嬢様、そしてプニプニの地面。そこはお嬢様の太ももの上だった。
お嬢様は丈の短いネグリジェに着替え、太ももが前に投げ出されていた。
で、その上に俺が寝かされている。
で、俺はお嬢様の太ももを触った。ということになる。
だから、お嬢様は嫌がり恥ずかしがっていたのか? だったら話は早い。
早く、ここから飛び降りないと・・・・。
しかし、太ももから、地面を見てみると、その高さは高く、優に30メートルはあった。
お嬢様の太ももから飛び降りるということは、ビルから飛び降りるのに等しい自殺行為だ。

「良太さん。よかったですね。お嬢様の膝枕ですよ。あ・・・でも良太さんからすれば、膝枕ではなく、膝ベッドですね~」

サラさんはそんな呑気なこと言っているが、それどころじゃない。
お嬢様の膝の上に俺なんかが乗っていたら嫌なはず、早く下りないと、


「お嬢様。ここから降ろして」


お嬢様には悪いことした。太ももを触ってしまったし、裸も見てしまった。
これからそんなことがないよう挽回しないと。


「いい」
「え?」
「ここにいて、いい」

あれ? そういや、風呂場でも同じようなこと言っていたような気が。確か胸を触っていいとかなんとか・・・。


「あ・・・あのさ。一応聞いておくけど、お嬢様に好きな人っている?」
「いる」

即答どころか、俺の声に被せ気味でそう言った。


「もし、よかったら、その相手を教えてくれない?」


と言うと、サラさんは「まあ~」と言い口を押えている。
一方、お嬢様はというと。

「・・・・・」

うつむいしてしまった。
何も言わない。ただ、時間だけが過ぎていく。

「知らない」

うつむきながら、ボッソっと小さな声でそう言った。


「はあ~、なるほどね。じゃあ俺の勘違いか。まあそうだよな~」
「違いますよ。良太さんの推測は当たっています」
「は?」


俺とお嬢様の会話に入ってくるサラさん。
そして、話を続ける。


「お嬢様は、良太さんのことが好きです。それはもう大好きと言っていいほどに。ですが残念ながらお嬢様は男性との交友関係がありません、
 なので男性とどう接していいかわからず、空回りばかり。
 しかも良太さんに気に入られるどころか怖がられたり、嫌がられるばかりで、ずいぶん焦っておられました。
 ですが、ここまで一人の男性に執着したのは初めてです。ですので良太さんのことを好きななのは間違いありません。ね~お嬢様~」
「知らない・・・」


お嬢様はプイと向こうを向いてしまった。表情は見えず、どんな顔をしているかわからない。
だが、わずかながら、体が小刻みに震えているような気がする。
あれ? もしかして、今の話、全部本当なのか? 


「お嬢様。まだ意地を張るつもりですか? でしたら、私、サラの権限。メイド長の権限で良太さんをクビにいたします。よろしいですね。お嬢様」
「ダメ。それは絶対にダメ」
「なぜですか? 良太さんがいなくても業務には差し支えありません。いえそれどこか執事には不適合です。
 お嬢様を敬う気持ちが全然ありませんし、なによりお嬢様に対し敬語ですら話さない。主人を敬う気持ちがなく執事失格です」
「サラ。本気なの? 良太にはあれがあるのに・・・」
「ええ。本気です。あれがあろうとなかろうとお嬢様と特別な仲でないなら不要な人材。そう申しているのです」
「・・・・」
「ずっと黙っているつもりですか? お嬢様。良太さんのことが好き。答えはイエス、ノーどちらですか」
「・・・・」
「お答えにならない場合、ノー、そう判断しますよ」
「うっ・・・」
「どちらですか? お嬢様」
「い・・・イエス」
「ですって、良太さん。よかったですね。ずっとこの屋敷にいられますよ~」


本来なら泣いて喜ぶところなんだが、素直に喜べない。俺は思わず、あとずさりをした。
こんな巨人のお嬢様に好かれたって、正直困る。
考えてみろ、抱きしめられたら、どうなる? 指ですら、あんな怪力なんだ。思いっきり抱きしめられたら、絶対死ぬ。
それに足で踏みつぶされるかもしれない。俺とお嬢様はアリ像なのだ。
力の差はもちろん体重差もすさまじく、お嬢様の指一本ですら、持ち上がることはできない。
逆にお嬢様は指一本で、俺を殺せる。
もし、喧嘩にでもなったら、生き残れるかどうかすら、わからないのだ。


「良太さん。もちろんお嬢様のお気持ちを受け入れますよね?」

二人の視線が集中する。
あまりにも真剣な目つきで見られたので、俺の体に穴が空きそうだ。
だが、答えはもちろん。

「いや、悪いけど・・・」

すると、お嬢様の太ももから地面へと降ろされた。


俺の目に現れた四つの肌色の塔。サラさんとお嬢様の太ももが俺の前に現れ、目の前に聳え立っている。
二人の太ももの長さは優に140メートルはあり、さながら四つの肉でできたビルと言った感じだ。
さらにその上には、胸があり、さらにその上に小さな顔が二つ俺を見下ろしている。
超高層ビルを眺めているような、そんな気になってしまう。
彼女たちの下半身である、太ももは下から見るとかなり太く見えるのに、上半身が小さく見える。
ということは、彼女たち二人がいかに大きいかということを物語っていた。
俺の目の前にあるつま先。指は計20本もある、足指たちがズラリと俺を囲うようにして並び、床のじゅうたんを踏みつけ、沈み込ませている。
その足指たちの囲む円の中心に俺は囚われていた。
右を見ても左を見ても、指指指。どこへ向かって走ろうとも、指に遮られ逃げ道はない。
20本の足の指牢獄に閉じ込められ、脱獄するのは無理そうだ。


「お嬢様。いかがなさいます? 私の前をうろつく目障りな虫がなにか言いたそうにしてますが・・・」
「いい。良太は死刑にする。私のこと嫌いなら、いっそ死んでもらう」
「ですが・・・このまま踏みつぶすのも、なんだか、かわいそうな気が。
 あっ! そうだ。こうしましょう。私とお嬢様二人で、良太さんと対決しましょう。
 負けた方が勝った者の言うことをなんでも聞く。そういたしましょう」
「それはいいアイデア」
「良太さんもそれでよろしいですね?」
「いや・・・いいも悪いも・・・」
「お嬢様。良太さんは対決を受けるそうです」
「いやサラさん。そんなこと一言も言ってない!」
「では、対決を始めます。用意・・・はじめ」


受ける気なんか全然ないのに、サラさんによって対決がスタートした。
グワーンと迫ってくる足裏。しかも二つ同時。左がお嬢様で右がサラさんの足。
彼女たちは本気だ。二人がかりで、俺を痛めつける気だ。
俺は茫然と立ち尽くした。逃げる気なんかもない。
一人でも絶対敵わないのに、二人がかりで来られたらもう絶望しかない。

「まずは、つまんでみますか」

親指と人差し指に挟み込まれ、指が持ち上げられる。
遠くから見ると柔らかそうに見えるサラさんの足指だが、俺を挟み込むと鉄のように固くなった。
そんな鉄のような指に挟まれ、宙を浮く俺。
高さは優に10メートルを超え、マンションの三階から下を見下ろすようなそんな気分になる。

「くっそ! 離せ!」
「うふふ・・・良太さん。それでも叩いているつもりですか? 全然効いてませんよ。もっとこうやって力を入れてください」
「ぎゃーー!!」

足指がギュッと閉まると、俺の細い腕がしなり、腕と胴体がくっつきそうになるほど、締め付けられた。
痛くて痛くて、頭が真っ白になり、クラクラとめまいを感じる。

「どうですか? 良太さん。これぐらい力を入れないと指から逃げれませんよ~」
「くっそ!!」

俺の持てるすべての力をサラさんの足指に使う。俺はだって男だ。女にバカにされっぱなしだと嫌だー。


「うふふ・・・さっきより少し強くなりましたね。ですが・・・うふふ・・・くすぐったいです」
「はあ・・・はあ・・・そんな・・・これでもダメか・・・」
「良太さんは話にならないぐらい弱いですが、私に勝とうとよく頑張りました。ですので、これはご褒美です。それ!」


サラさんの指がパッと離された。
体がどんどん落下し、めまいを覚える。
これで死んだと思ったら、なにか柔らかいクッションの上へと落とされた。

「サラ。もう!」

暖かい地面。それはお嬢様の太ももに似ている。確かめてみると、そこはお嬢様の足の甲だった。
ちょうど、中指の付け根付近に俺は落とされた。
足の甲の上から前を見ると、指先の爪がキラリと光っている。
足の爪はキングサイズのベッド並みに大きく、そんな爪たちがズラリと五本並んでいる。
磨き上げられた、ツルツルのピンクの爪。
これが足の爪なんて、信じられないぐらい。
だがお嬢様の爪は美しかった。

「次は私の番」

一枚の爪ですら、数人は余裕で横になれる大きさなのに、それが小さく見えるほどの巨大な影。
お嬢様の足裏が自分の足を踏もうと近づいてきた。
逃げようと思ったが、逃げ場がない。
ここはお嬢様の足の上。つまり体の上なのだ。どこへ逃げても意味がない。

「うわあああ!!」

反対側の足の親指。それが俺の頭を覆うように踏みつけ、思わず転倒する。

ぎゅ~・・・

足と足に挟まれてしまった。
地面が指の付け根なら、天井は指の腹、肉の塊に挟まれ、踏みつぶされる一歩手前だだった。

「お嬢様。いけませんよ。これ以上は。本当に死んでしまいます」

指が離れると少し酸っぱい匂いが漂ってくる。
これはお嬢様の足の匂いだ。
だがそれも仕方ないこと。お嬢様の足は俺の体全身を包み込んだ。足の匂いが移っても仕方ない。


「良太さん。これが最後のチャンスです。お嬢様の言うことを聞いてください。でないと、さっきよりもひどい目にあいますよ」
「誰が言うこと聞くか! うんざりだ。いっそのこと殺せ! もう脅されるのはごめんだ! さあ殺してくれ!」

「「・・・・」」


二人は困って顔して、ゴニョゴニョと耳元で話し合っているが、そんなことどうでもいい。二人とも好きにやってくれ。
ここまで痛めつけられると、生きるも死ぬも大して変わらない。そんな気がしてきた。
それに、こんな暴力女と一緒に暮らせない。暮らしていけるわけもない。
お嬢様と一緒に暮らせば死ぬし、暮らさなくても死ぬ。どうせ未来は一緒なのだ。


「いっそのこと殺せ。その方が楽になれる。さあ、お嬢様俺を殺せー!」
「サラ。どうしよ。良太があんなこと言ってる」


お? 明らかにお嬢様取り乱している。
これは効果ありか?

「もう暴力には屈しないぞ!」

さあこれでどうだ!

「サラ。なんとかして・・・」
「お嬢様。慌ててはいけません。ここで慌てれば相手の思うつぼです。ここはサラにお任せください。力ずくでダメなら色仕掛けをするまでです」

お嬢様の足の上から、俺をつまみ上げるサラさん。
一気に顔の高さまで持ち上げ、俺をまじまじと見つめている。
今度は何をする気だ?


ビリビリ・・。


突然、服が裂けた。
だが、俺の体に傷はない。無傷だ。
しかし、破かれたスーツは綺麗に剥がされてしまい、気が付けばパンツさえ脱がされている。完全に全裸だ。

「お嬢様。見てください。これが男性器。いわゆる、おちんちんです」
「・・・・うん」

素っ裸にされた俺の下半身。いわゆる股間部分を4つの目玉が覆いつくした。
自分の体の倍ほどある二人の目玉。
その目玉が、俺の息子を穴が空くほど見ている。
時々響く、二人の笑い声が、胸に突き刺さる。
なんてこどだ。親以外誰身も見られたことのない俺の体を、二人の若い女性、しかも無理やり見られるなんて・・・・。


「お嬢様。よーく見ておいてください。地球人のおちんちん、なんて、なかなか見る機会ないですよー」
「うん」

拘束された俺の胴体。
サラさんの指は、体全身をガッチリとつかんでおり、離そうとしない。


「離せ!!」


体をゆすってもダメ。指は全く動かない。
それどころか、事態は悪化する。
サラさんの指が開き出したのだ。
すると俺の股も開き、サラさんの指によって下半身がY字になった。
そして俺の足だけを指でつまみ、逆さに吊るされる。
と思ったら、今度は手の上に立たされたりして、いろんな角度から俺の股間を眺めていだ。


「さすがは男ですね~。私の体と全然違います。あ・・・こことかも・・。あ・・・ここも」
「逆さになった良太も可愛い」


虫になった気分だ。
もし昆虫の品評会があるなら、こんな感じなんだろうか?
しかし人生で一番屈辱的な日になったのは間違いない。


「うふふ・・・点のように小さなおちんちん・・・」
「サラ。大きさってこんなもんなの? 良太の大きさ、普通よりもかなり小さいんじゃない?」
「お嬢様。良太さんは地球人ですので、おちんちんもかなり小さくなります。ですが、これでも普通の大きさ、立派に使えますよ~」


く・・・屈辱的だ。

嫌がっている俺を無理やり脱がせ、大事な部分をまじまじと見つめる二人。
人間扱いされていない。これじゃあ、まるで奴隷だ。


「サラ。触りたい。触っていい?」

ツーっとお嬢様の人差し指が、俺の息子に向かって、伸びてきた。
お嬢様の指の太さは俺の息子の約10倍。
指一本でも俺の全身を少し上回り、体全身を覆いつくせる巨大な指だった。


「お嬢様いけませんよ。おちんちんは非常にデリケートなんです。むやみに触ったら潰してしまいますよ」
「そう、ならやめとく」
「そうです。見るだけです。ほら・・・見るだけでもいいもんでしょう。」


4つの目玉が、俺の息子を眺める。
黒い瞳孔が大きくなったり、小さくなったりし、彼女の目玉たちは俺の小さな息子を見ようと必死だった。


「おちんちんもいいですが。それよりも、もっといいことがあります。お嬢様少し耳を・・・ゴニョゴニョ。私の言った通りに、できますね?」
「うん」

お嬢様はネグリジェを脱ぎ全裸になった。
そして、サラさんの手から俺を受け取ると、お嬢様の胸に俺をこすりつけ始めた。

すりすりすり。


「んっ! どう良太。気持ちいい?」


プニプニ乳首に顔がうずまり、左右に動かされる。
俺の体ほど、あるピンクの球体が揺れ動き、俺の体も同じように動く。
今までの俺なら、必死にもがくところだが、不思議とそんな気分にならなかった。
なんというか・・・気持ちいい。そんな気分になりつつあった。


「良太。私の体嫌い?」


うるうるとした目で、自信なさげにお嬢様はそう話している。
今までのような冷たい残虐な目ではない。
暖かい、心からそう思っている目だ。
なんとなく、お嬢様は今までのことを詫びている、そんな雰囲気さえ感じてしまう。

「お嬢様・・・」

こういう時、どんな反応したらいいのかわからない。
お嬢様は俺のことが好き。でも俺はどうもお嬢様のこと・・・苦手だ。
何かにつけて暴力と脅し。それがどうも引っかかる。


「嫌いじゃないよ。でも暴力は嫌だ。だからやめてくれるかな?」

「「・・・・・」」


あ・・・あれ? 俺変なこと言ったか? 結構まじめに答えたつもりなのに、この反応。明らかに予想外といった反応だ。


「良太さん。お言葉ですが、私たち暴力はふるっていませんよ」
「そう。言いがかり」
「はあーー!! いや、暴力だろ。それに死刑とか言ってたし」
「いえ、あれは冗談ですよ。いくらなんでも雇われている執事を殺せば大問題です。人権無視ですよ」
「サラさん。じゃあ、あれはなに? 今までさんざん手とか足で暴力を振るったじゃないか。あれも冗談なの?」
「もう良太さんたら、あれは戯れ。遊びですよ~」
「は? 遊び・・・」

するとサラさんは、お嬢様に頬に向かって一本の指を立て突っついた。

「ほら、ほらお嬢様。柔らかいですね~」

サラさんはお嬢様のほっぺをプニプニと突っついている。
そして、お嬢様は仕返しと言わんばかりに、サラさんを軽く突き飛ばす。

「ほら、これと一緒です。スキンシップですよ~」

開いた口が塞がらない。
あんなすごい力で締め上げるのが、スキンシップ? さすがは巨人と言うべきか。
ほっぺをつつく力と俺の骨をしならせる力が同じだったとは・・・。 
いやでも待てよ。暴力以外にもひどいことをしたぞ。


「暴力以外にも、色々と脅したじゃないか。あれは?」
「あんなのを本気にしてたんですか!? ほんと良太さんは可愛いですね。お化けがでるぞ~って言ったら、泣き出す子供みたいです」


「・・・・・」


はあ~・・・なんか疲れた・・・。
あれが全部本気じゃなかったなんて・・・。今までの気苦労は何だったんだ・・・・。

「だから、良太。私の体で遊ぼう」

指に力を込め、乳首に激突するお嬢様の指。
俺は指と乳首にサンドイッチにされ、指の柔らかさと、乳首の柔らかさに、翻弄されていた。
だが、少しでも指の力が強まる・・・・

「ぎゃーー!!」

死にそうになるほどの、激痛が走る。
これがスキンシップだなんて・・・命がいくつあっても足らない。

「お嬢様。待って。待って!!」
「いいところなのに・・・」

ムスっとした、冷たい顔に戻る。なるほど、これがサラさんの言っていた不機嫌な顔なのか。


「痛くてたまらないよ。もっと弱くできない?」
「無理」
「そこをなんとか」
「ダメ。これ以上弱くしたら、気持ちよくなれない」


指の締め付けが強くなった。おいおい、またやるつもりなのか・・・。


「ぎゃーーー!!」
「ハア・・・ハア・・・んっ! ん! ああぁーーーっ・・・・」
「ぎぇーーー!!」
「ひあっ・・・くぅうん・・・あっ!あっ!」


俺の悲鳴とお嬢様の喘ぎ声が交互に響き、屋敷は異様な音に包まれた。




*******




それから約十分間、拷問のような、お嬢様の一人エッチは続いた。
しかし、これでも、サラさん曰く短い方で、俺があまりに泣き叫ぶから、短くしてくれたそうだ。


「はあ・・はあ・・・死ぬかと思った」


ひざまずき、死にそうになっている俺とは対照にお嬢様は、たまったものを全部出し切り満足感に浸っている。
パンツはびしょびしょに濡れており、完全にやり切った後だ。


「お嬢様聞いてくれ。お嬢様にとって戯れでも、俺にとっては命の危険を感じるほど痛いんだ。だから、もっと気を使ってくれないか?
 じゃないと、痛くて安心て暮らせない」

返答はなかった。
もしかして聞こえなかったのだろうか? 
なので、もっと大きな声を出してみる。


「お嬢様ー!」
「すう・・・すう・・・」


って、寝てるんかい! こっちは今後に関わる大事な話だってのに。

「良太さん。お嬢様にはもっと力を弱めるよう私の方から伝えておきますので。ですので、これからは安心して暮らせます」

それはありがたいことだが、サラさんののせいで、ひどい目にあった。
それなのに、サラさんに対する憎悪が沸いてこないなんて・・・やっぱりこの人手ごわい。そう感じてしまう

「良太さん。今日はほんとうにお疲れ様でした。体調の方はいかがですか?」
「ああ・・・疲れた。もう立ち上がる元気すらないよ・・・」
「そうですか。でしたから、マッサージとかいかがでしょう? きっと疲れが取れますよ」
「サラさんが俺にマッサージするってこと?」
「はい。良太さんにはひどいことしてしまいましたし、お詫びの気持ちも込めてです」

サラさんの手が俺の体を包み込む。
小指の太さだけでも、俺の身長より大きく、五本の指が同時に動くと、体をマッサージするには余計で、4本の指は空打ち状態になる。
しかし、指たちは入れからリ立ち替わりで俺の体を包み、優しく触れる。
頭に小指、そして足には親指が触れられ、挟み込まれる。
それが終わると、今度は背中を人差し指で撫でられる。
すべすべで、つるつるの女性ならではの柔肌が、俺の背中を往復し、疲れが取っていく。
そして、ほんのり匂うサラさんの手の匂い。
サラさん指は優しく俺を包み込み、そして手の匂いでも俺に癒しを与えた。
マッサージがこれほど気持ちのいいものだなんて知らなかった。
サラさんの指の力加減は絶妙で、脅していた時の指とはまるで別物。
あの時の指が鉄なら、今の指は綿菓子。それぐらいの差があった。
ふと、指を見てみると、指は一本だけでもライオンより巨大。
そんな猛獣よりも巨大な生き物に恐れおののいていたが、癒しを与えようとするとこの変貌ぶりだ。
今のサラさんの指に恐ろしさは感じず、逆に可愛ささえ感じてしまう。
優しくて可愛いい、ただの大きな指だった。

「いかがですか? 良太さん」
「いやあ、ありがとう。すっごく気持ちよかったよ」
「うふふ・・・それはよかったです。では、もう横になるとしましょう。お嬢様もお休みになられましたし、私たちの業務も終わりです」

そのままサラさんにつままれ、サラさんの寝室へと案内された。
サラさんの部屋はお嬢様の部屋に比べると質素だが、家具は一通り揃っており、正直言って俺の部屋よりもいい部屋に見える。


「良太さん。マッサージのあとは、この薬をお飲みください。元気になりますよ」
「サラさん。この薬って?」
「大丈夫ですよ。変な物は入っていませんから」


サラさんが用意してくれた飲み薬を飲む。不思議なことに出された薬は無味無臭なんの味もしなかった。
これが薬だなんて、おかしい、ただの水にしか思えない。
しかし、数分もすると効き目があり、マッサージの効力も合わさって、体がさらに軽くなった。

「おお~すごい。元気になった~」
「うふふ・・・よかった~」

両手を顔の前で合わせ、ニコニコしながら、俺の回復を祝ってくれた。
サラさんって本当は優しい人なのか。それとも怖い人なのか。どっちが本当のサラさんなのかわからない。
だが、マッサージを施してくれた時もそうだが、今のサラさんには、恐ろしさは感じられない、
今のサラさんは、俺の回復を心から喜んでくれる優しい女性だった。

「今日はもう遅いですし、勉強は明日からということにして、もう横になりますか? 私も疲れたので早く横になりたいです」
「ああ、そう。じゃ寝ようか」

ってあれ? でもベッドは一つしかない。
サラさんサイズの巨大なベッド。
長さ300メートルのベッドが一つ置かれているだけで、他にベッドらしきものは見当たらなかった。


「良太さんのベッドはまだ来てませんので、今日のところは私のベッドを使ってください」
「ああ、なるほどね。でも、やっぱり悪いから・・・」


女性であるサラさんを差し置いて、俺だけベッドになるのは気が引ける。
それに、体育館より巨大なベッドの上で眠りたくない。
体育館のど真ん中で、一人眠りにつくようなもの、気が散って眠れそうもない。

「そうですか。ではお言葉に甘えさせてもらいます」

以外にも俺の主張を受け入れてくれた。
サラさんのことだから、お嬢様みたいに簡単には受け入れないと思ったのに、以外にもあっさりしている。
まあ、俺に気を使ってくれたのかな。色々と理不尽な目にもあったことだし、これぐらい優しくされたって罰は当たらない。

「では、私の体の上でお休みになってもらいましょうか」


バサバサバサ・・・・。


サラさんはメイド服を脱ぎ下着姿になった。
これでサラさんはメイドでなく、女神サラになる。
下着になったサラさんは女神のように美しく、裸体と巨大さがあいまって怖気づいてしまう。
抵抗できない美しい怪物、それが下着姿のサラさんだった。


「うふふ・・・ようやく私の番です」
「サラさん。なんで? なんで脱いだの。それにパンツが・・・」
「良太さん。私のパンツがそんなに気になりますか~?」


パンツを脱ぎ、指でひらひらと揺らしている。
当然その下には、俺がいて、巨大なパンツが今にも落ちてきそうな雰囲気だ。

「そんなに気になるなら、触っていますか?」

ポイっとパンツが投げられた。
風切り音から判断して、パンツはかなり重そうだ。
しかし、パンツの落下速度はかなり早く、逃げる暇もなかった。

「もごご・・・もごごご・・・」

パンツに埋もれてしまった。
横幅50メートルを超えるパンツはまさに巨大なパラシュートと言った感じで、つぶされはしなかったものの息がしにくい。
やっとの思いで、パンツと地面の隙間に潜り込むことができた。
そこで、深呼吸・・・すると、なんか甘ったるい匂いが漂っている。
これはサラさんのパンツの匂い。
それも無理もない。
今俺はパンツに包まれている。
上も下も右も左も、パンツパンツパンツ。
パンツを鼻に着け、直で匂いを嗅いでいるような状況だ。
嫌でもにおいが匂ってくる。
甘ったるく、女性ならではの匂い。
こういう匂いは、女性とすれ違いざまに、ふわっと一瞬だけ匂うことがある匂い。
そんなに長いこと嗅げるような匂いじゃない。
だが、パンツの下にいては、女性独独の匂いが、強力かつ長時間漂い続けているのだ。
パンツの洞窟に迷い込んだ俺は、嫌でもサラさんの匂いを嗅がなければならない。
洞窟全ての匂いがサラさんの股間の匂いだった。


「サラさん。出して! 出してよ」


正直言って、嗅いでいい匂いとは思えない。
パンツを鼻で直で嗅ぐなんてありえないことだ。

「え? なんですか~。聞こえませんよ~」

実にわざとらしい。ここまで聞こえないふりをされるとイライラする。
でも、助けてくれるような雰囲気じゃないし、結局自力で出るしかない。
狭いパンツの中。その小さな隙間を切り開き、匍匐前進で進む。
最大の難関だったのはパンツの縫い目。
重い縫い目部分を潜るようにして進むと、なんとかパンツから脱出することができた。


「あらあら~。良太さん。お帰りなさい~。パンツの中で動いている良太さん。可愛かったですよ~」


高みの見物というべきか、サラさんは一部始終を見物していたらしい。
こっちは必死だったのに、なんて人だ。文句を言って・・・・文句を・・・。

「うん? 良太さん。どうしましたか?」

文句を言えなかった。
サラさんはパンツはおろか、ブラさえも脱いでいた。つまり全裸なのだ。
サラさんが背伸びをすると大きな胸がぶるんと、10メートルは上下し、重そうな胸が揺れ動く。
そんな姿をみて、俺は恥ずかしさと、見てはいけないものを見た罪悪感で、まともに離せない。全裸のサラさんにはなにも言えないのだ。

「ふう~、すっきり。実はあんまりメイド服って好きじゃないんですよね。動きにくいですし・・・ですがこれで、動きやすきなりました」

完全に全裸になったサラさん。
後ろを見ると、パンツの向こう側にメイド服が積み重なっており、ちょっとした山のようになっている。

「これ邪魔ですね」

サラさんは積みあがったメイド服を乱暴に蹴飛ばし、200メートルは飛んで行ってしまった。
遠くへ吹き飛ばされたメイド服。
これでベッドの上にサラさんと俺の二人きり。ベッドの上にはなにもない。
平野のような白いシーツが敷かれているだけだ。

「うふふ・・・困った顔した良太さん。やっぱり可愛すぎます。いじめたくもなりますよ~。えい」

大木のような指に突進され、突き飛ばされる。
尻餅を着いたまま、指に持ち上げられ。

チュ・・・チュ・・・

全身を覆って余りある巨大な下唇に張りついてしまった。
俺をつまんでいる指は力を入れたり、弱めたりし、何度も何度も唇に衝突を繰り返し、無理やりキスさせられている。
暖かく柔らかい肉のベッドに、何度もダイブし、ネバネバした唾液で体が染まっていく。
頭はびしょびしょに濡れ、耳の中にまで唾液が入ってくる。
体全身全てがサラさんの肉と唾液に支配されていき、透明な唾液に体が染まっていく。


「これであいこ。お嬢様と私で一回ずつですね」
「サラさん。今度は何の冗談? やめてくれる?」
「うふ、やっぱり可愛い・・」
「や・・・やめろ! なんでだよ! さっきまであんなに優しくしてくれたのに・・・。これじゃあ逆戻りだ!」
「うふふ・・・まだ気づかないんですか? 良太さんに元気になってもらったのは、全部私の相手をしてもらうためですよ~」


おかしい。サラさんの目がトロンしている。頬も若干赤い。
これじゃあまるで、お嬢様と一緒だ。
それに俺に相手を・・・ってどういう意味だ?


「良太さん。覚えていませんか? 
 紅茶を入れる時、お嬢様に飲み込まれそうになりましたよね? 実はあの時、お嬢様とマグカップの中でキスしていたんですよ。
 なので、これであいこです。私とお嬢様の一回ずつです」
「も・・・もしかして、サラさんも俺のこと?」
「はい・・・というしかありませんね。お嬢様には内緒ですが・・・ですが、やはり良太さん鈍いですね。
 好きでもない相手と裸になって風呂に入りますか? あの時に私の気持ち気づくべきですよ」


確かに・・・。
認めたくないが、風呂に入った時、お嬢様と同じくサラさんも全裸だった。
思い返せば、サラさんもお嬢様同様、俺の息子を興味津々で見つめていた。
お嬢様に気を取られ、気づかなかったが、確実に俺のことをそういう目で見ている。


「良太さんと初めて会った時は使えない、ただのコビトだと思っていましたが、
 からかってみると、良太さん。全部真に受けて予想以上にあたふたするんですのもの。
 もっといじめたくもなります。それに、とてもいい匂いがするんですもの、いつの間にか好きになってしまいました。
 さあ、良太さん。綺麗な叫び声を早く聞かしてください」
 
指にギュッと力が入る。

「ぎゃーーー!!」
「うふ・・可愛い・・すごくいい悲鳴です。もっと聞かせてください」
「ぎぇーーー!!」
「良い声・・・」

甘いため息を吐き、うっとりとした目で俺を見つめている。
時々見せる、不気味な笑みが怖い。

「匂いをかがせてください。良太さん・・・」

頭がすっぽりと入る巨大な鼻の穴。
穴の幅は優に1メートルを超えており、その奥に無数の鼻毛が生えていた。
そして、鼻が近づくと、ゴウゴウと風が吹き、鼻の穴に吸い込まれそうになる。


「サラさん。やめてよ・・・なぜなんだ。なんで俺なんだ? それにお嬢様そうだけど、なぜそこまで執着する?」
「良太さん。本当にご存じないんですか? 
「なんのことだ? それより離れて・・・くそくそ」
「うふふ・・・いくら叩いても無駄ですよ~。力の差が違いすぎます」


俺がサラさんの指を叩くと、さらに強い力で反撃される。
やはり、お嬢様同様サラさんにも力じゃとうてい敵わない。
 
「うふふ・・・そうですね。私たちはコビトのエッチな気持ちを、エネルギーにして生きているんです。
 ですので、良太さんが、私をいやらしい目で見ると力がみなぎってくるんです。ほらこうやって・・・」

ぎゅ! っと指はさらに力を加える。
サラさんの頬はツヤツヤしており、元気がみなぎっている。
一方俺はサラさんに締め付けられ、体力がなくなってきている。

「あらあら・・・いけませんね~。ぐったりしてきちゃいました。早く元気を与えないと」

チュ・・・グジュ・・チュプ。

化け物のような舌が足元からゆっくりと舐め始め、股間や胸首から顔までを舌で覆い、全身が唾液で濡れる。
サラさんの唾液の海で溺れそうになり、息を吸おうとすると、唾液が喉に入ってきてむせ返る。

「おいしい・・・もう一口・・・」

ピンクの柔らかそうな唇が開くと、長さ14メートルはありそうな巨大な舌が洞窟から姿を現す。
そして、舌に頭を押さえつけられ、張り倒される。
寝ころんだ俺の体を舌が往復し、全身をなめとるようにゆっくりと動いている。
時々当たる、舌の表面の舌乳頭が痛い。
舌にある小さなブツブツも、俺からすれば10センチはあるのだ。
結構ざらざらしている。
そして、口の中に上下に生えている歯が顔をのぞかせ、体に触れる。
歯は舌のブツブツなんかよりも硬く、コンクリートが体が当たるような痛みが走る。
しかし、その痛みも唾液でかなり軽減されており、それほど痛くはなかった。
いやむしろ・・・気持ちいい?

「うふふ・・・力を・・・良太さんのエッチな気持を感じますよ。もう・・・最高です」

下品に唾液をまき散らしながら、サラさんはしゃっべていた。
一瞬気持ちいと思ってしまったが、やはりこの状況はだめだ。
早く止めさせないと・・・


「こういうことは俺以外の男にしてもらえよ。とにかくやめろ!」
「ダメです。良太さんじゃないといけないんです。相性っていうものがあるんです。
 私の鼻も言っていますが、良太さんほど美味しいコビトはいません。良太さんはほんと最高級品です」

サラさんは、舌なめずりをした。

「舐めるの飽きてしまいました、次は食べちゃいたい・・・」

サラさんの口からボタボタと、下品にもよだれを垂らしている。
メイド服を着ていた上品なサラさんの面影はなく、股を開いた下品な女にしか見えない。
そして、目はかなりやばい。俺のことをまるで獲物を見るような目で見ている。

「お嬢様! 助けて! サラさんが、サラさんがおかしんだ!!」

いくら叫んでも、返答はない。
お嬢様は完全に眠っており、寝息ばかりが響いている。

「いくら叫んでも無駄ですよ。お嬢様は一旦お休みなられると、朝まで起きません。そうですね。あと12時間ぐらいはぐっすりです。
 なので朝までじっくりと、良太さんをいたぶることができます」

12時間も起きないなんてそんな・・・。
じゃあ、この絶望的状況で、逃げ場もなく、助けも呼べない。そういうことか?

「徹底的に痛めつけたいところですが、やはり止めておきます。良太さんのお体に傷をつけるとお嬢様にバレてしまいますし、告げ口されるかもしれません
 お嬢様に私の、この隠している気持ちがバレると困りますので・・・」

よかった・・・。これなら痛い目にも。

「ですが・・・・せっかくこうやって服を脱いだのですから、お嬢様と同じようにしてもらいます。頑張ってくださいね良太さん・・・
 あ、そうそう。私お嬢様と違って大人ですから、求める快楽ももしかしたらお嬢様より大きいかもしれません。
 そこはご了承くださいね?」

可愛くウインクするサラさん。だが、それは俺にとって地獄の始まりだった。
サラさんのエッチに巻き込まれ、俺という一人の人間が大人のおもちゃにされてしまう。
お嬢様が目覚める12時間は、一睡もできず、ひたすら、ブルブルと指とともに体が揺れ続け、いつの間にか気を失ってしまった。
それから毎晩、俺は女巨人の性のおもちゃにされ、毎晩毎晩死ぬまで、彼女たちに奉仕し続け、一生を捧げなければならなかった。




******



「良太さん~。なにか食べたいものはありませんか? 何でも言ってください」
「サラ。良太は疲れてる。休ませるべき」
「いいえお嬢様。良太さんは疲れていません。それよりお腹が空いているはずです。ね~良太さん。私のご飯食べたいですよね~」
「違う。良太は眠い。だから寝たいはず」
「違いますー!」
「違うー!」


こんな言い合いは日常茶飯事、毎日のように繰り返されている。
彼女たちは昼間になると性欲が減るらしく、エッチなことはしない。
なので、昼間は俺の好きなようにさせてもらっている。
寝ていてもいいし、本を読んだっていい。なにをしたって自由なのだ。
これには理由があって、夜になると気を失うほど、彼女たちにめちゃくちゃにされるため、昼間は休憩の時間。
そういうことになっている。
夜は毎晩地獄だが、昼間があるから、まあ・・・なんとかやって行けている。
昼間は平和だ。のんびりできる。

「極楽極楽・・・・」




*******




「良太起きろ!」

おや? 寝てしまったか・・・。
今何時だ?

「良太さん。お待ちかねの夜ですよ~」
「良太。夜」

目が覚めると、二人の巨人たちが俺を見下ろしていた。
当たり前のように二人とも全裸だ。


「お嬢様とも相談したんですが、一人一人でやりますと、待ち時間がもったいなくて・・・。今日は二人同時にやってもらいます」
「良太。今日は3P」


3P?
3Pって、つまり三人でやるってこと?
いやいやいや・・・、一人でも手に負えないぐらいなのに、二人同時なんて・・・


「お嬢様は良太さんの上半身。で、私が下半身を担当します。二人で包むように舐めまわすのです」
「うん」


と言うと大型動物のような舌が二つ、並走してやってきた。
ネバネバした糸を引き、唾液を地面に垂らしながら迫りくる舌。
一つの舌でも、体がメタメタにされるのに、今度は二つ同時。
絶対体が持たない。二つの舌が、違う方向に同時に動けば引きちぎられるかもしれない。
ブッチっと、二つに切り離れる俺の体。そして、そのまま切り離された体は二人の巨人の体に取り込まれ、栄養となる。
そんな未来が頭によぎったのだ・


「やめてー! 二人同時はダメだ!」
「うふふ・・・やめません。お嬢様のあとはもうこりごりです。待っていられません」
「良太。今日は我慢して、サラが私の弱みを暴露するって言ったから・・・」
「お嬢様。人聞きの悪いことは言わないでください。私は本当のことを世間に話す。そう言ったまでです」


14メートルの二つの舌。
うねりを上げならやってくる舌は、軽々と俺を持ち上げ、サラさんの口の中に放り込まれる。
と思ったら、お嬢様の舌が、サラさんの口の中に入ってきて、俺を取り返そうとして暴れている。
それをさせまいとするサラさんの舌と、自分の口へと引きずり込もうとするお嬢様の舌。
二つの舌が、サラさんの口の中で戦争を始めた。
二つの舌の動きに巻き込まれ、あっちへとこっちへと吹き飛ばれる。
14メートルもある巨大な舌たちは、まさに猛獣の争いそのもので、俺の入る余地は全くない。
自分の身を守るので背一杯なのだ。

うねりを上げ、数メートルは上がったり下がったしする二つの舌。
その動きに、逆らえるはずもなく、巻き添えをくらい流されるままだ。
一方、舌たちは、俺のことなんかお構いなしに、口の中で争い続け、俺という景品を取り合っている。
両者一歩も引かず、実力は拮抗している。
この調子なら、容易に勝敗はつかない。当分の間、戦争は続くだろう。
俺は二つの舌を見てこう思った。



あ・・・やっぱり地獄だわこれ。



終わり