タイトル
「巫女さんたちの蹂躙2」





「潰れちゃったね」

妹が妖に向かって、指を振り下ろすと、妖はあっけなく潰れ、妹の指先端をほんの少しだけ赤く染めた。

「慌てて殺しちゃったけど・・・なんだか悪いことしちゃったみたい・・・」

小さな小さな妖は、弓で妹に攻撃しようとしていたが、その力はたかが知れており、抵抗されたという感覚はあまりない。
なんだか、私たちが一方的に妖を殺したように思え、少し罪悪感がよぎった。

「ですが、あね様。妖を放っておいたら、何をするかわかりません。増えられては困ります。なので、ここは躊躇なく殺してよいと思いますよ」
「うん。でも、ちょっとかわいそうな死に方をしたから、簡単な供養だけはしておくとしましょう」

妖の死体を地面に埋め終わると、二人で手を合わせる。
妖が妹の手の中で、苦しんで死んだとしても、その苦しみを和らげ、極楽へ行けるよう祈ってあげた。

「はい。これで死んだ妖も、きっと極楽へ行けると思うわ。よかったわね~」

私もそうだが、妹は特に霊力が強い、なので私たちが祈ればきっと大丈夫。極楽へと行けるはずだ。
死んだ妖も極楽へ行けて喜び、あの世から私たちに感謝していることだろう。

「あね様。ですが妖は一人ではありませんよ。森の奥深くへ行けば、もっとたくさん住みついているはずです」
「そうね・・・」

確かにそうだ。妖一人を見つければ、その近くには100はいると昔からずっと言われている。
だからきっと、たくさんの妖たちが森の奥で、自分たちの力を蓄えているに違いない。
もし、その推測が当たっているなら大変なこと。
私たちのいるこの里に妖たちが攻めてきたら、私たちの責任になる。
「巫女はなにをやっていたのか! 霊力があるというのは、あれは嘘なのか!」と里の人からお叱りを受けてしまう。

「すぐに妖を退治しに行きましょう」
「はい。あね様。私もそのつもりです」

妹も私と同じ意見だったらしく、話が早くて助かる。

「で、さっき死んだ妖はどこで拾ったの? 場所は分かる?」
「あっち! あそこを入って・・・いえ、一緒に行きましょう、あね様。その方が早いと思います」


こうして、私たちは巫女服を着たまま、森の奥の深くへと入っていった。




*******



ワープタワー。
それは宇宙船に加速をつけ、ワープ可能な速度まで早める、いわば瞬発性加速装置の一種であり、このワープタワーの中に船を入れて、
入った瞬間加速し、ワープを開始する、
宇宙開発には欠かせない、重要な設備である。

宇宙進出の象徴とも言える、巨大なタワー。
その高さは上空12キロにも及び、このタワーが完成したことにより、我々が地球から脱出できる。そういうことになっている。
すでに試運転は何度もした。タワーの安全性に問題はない。なので失敗はありえない。多くの学者や政府関係者はそう思っていた。
そして、その第一便である、宇宙船がワープタワーの中へ入っていく。
さあ、これからいよいよワープを開始する、そういったときに事件は起こった。

「異常数値反応!!」

ワープタワー総合指令室に突如サイレンが鳴り響き、赤いランプが回り出している。
現場が騒然となった。
ワープタワーのエネルギーが急激に低下し、これからワープを開始する予定であった宇宙船はタワーの内部で止まってしまった。
それにより、宇宙船の内にいる救出者たちは怒り出す。
宇宙船に乗っていた彼らからしてみれば、これから故郷の星に帰れる、そう期待していたのに、こんな暗い所で止まってしまっては怒るのも当然だ。
一万人という大量の乗客の怒りに、乗務員だけではいよいよ対応しきれなくなり、総合指令所にどうしたらいいか指示を仰いでいた。 
しかし、総合指令所に問い合わせてみても、よい返事がもらない。とにかくその場で待機。そう言ったことが繰り返されるばかりであった。

総合指令所でも何が起こっているのかわからない。
全く予期せぬ出来事に、関係者は慌て、その原因がなんなのかを追及している最中である。
タワー関係者は一斉にモニターを操作し出し、タワー内部の異常や、周辺環境をくまなく調べ上げた。
そして、一つの結論にたどり着いたのである。

「異常内容が判明しました! モニターに出します」

指令室の皆がどこからでも見えるよう設置された総合モニターにタワーの異常、つまりサイレンと赤ランプが示した危険がモニターに映し出されている。

「巨人・・・」

モニターにはあり得ない光景が映し出されている。
もはや、大きすぎて身長というより、直径と言った方がしっくりくる、それほど巨大な人間がデカデカとモニターに映し出されていた。
巨人の直径はワープタワーとそう変わらない。なので、たぶん直径は10キロを軽く超えていると思う。
そんな巨人たちが、我々のいる街に向かって、やってきている。
二人いる巨人のうち、一人は明らかな子供、そしてもう一人は思春期を迎えたぐらいの若い少女だった。
そんな巨人たち二人が、地面をしなわせるようにして、森の中を歩いている。

「エネルギー反応大! 巨人は草をなぎ倒しながら、進行しています!」
「場所は?」
「場所はエックス008、海の向こう側です」

海の向こう側にある大草原、
人が立ち入れぬほど、深い魔境のような大草原を、二人の巨大巫女たちは当たり前のように歩いている。
それは我々にとっては衝撃的なことで、高さ1000メートルにも及ぶ巨大な草たちを二人の巫女たちは当たり前のように跨ぎ、足を降ろして踏みつけている。

「ぺしゃんこだな・・・」

本来頑丈なはずの地球の草たち。
しかし、まだ子供であるはずの幼い巫女に、頑丈な草たちが一度に10や20をまとめて踏みつぶされていた。

「危険信号アリ! アリに接近中です!」
「なに!」

アリとは昆虫のアリ。単なるアリだ。
しかし我々にとって、地球産のアリはとても大きく、像の大きさに匹敵する怪物であった。
しかもアリは肉を食う。肉食でとても凶暴な怪物。
そんな怪物と我々が戦ったらどうなる?
素手で戦うのは無謀、ピストルでもアリが怯むかどうか、ライフルを使って、ようやくアリを追い払えるレベルだ。
だが、これはアリ一匹を相手にした場合の話で、アリが集団で来られたら、もうどうにもならない。
これまで何人もの同胞たちがアリの餌食になり、死んでいった。
なので、街の外に結界を這って、昆虫の侵入を防いでいる。
本来アリは恐ろしい怪物なのだが・・・二人の巨大な巫女はアリに恐れる様子をまったく見せず、アリの集団にどんどん近づいていた。

「アリの行列です!」

巫女たちの足元では、アリが一列に歩いていた。
アリの行列。本来なら目をそむけたくなるような恐ろしい光景だが、巨人たちはかまわず、列の中心に足を振り下ろした。


ドシイイイイイイイイイ!!


巨人を映し出していた、遠隔カメラがグラグラと大きく揺れる。
揺れすぎて、なにが映っているのか、わからない、それほど激しい揺れが、モニターに映し出され、
巫女が歩く、それだけで大地震が起こっている。

「アリの生命反応消失! その数・・・・なんと50です!」

その報告に辺りがざわつく。
巨人が足を数回降ろしただけで、アリが死んだ。しかも50匹まとめてである。
我々がアリを50匹殺そうと思うと、戦闘機やミサイルを束のように使わなければ倒せない。
それなのに、巫女たち巨人たちはいとも簡単に、歩いただけで、大量のアリを殺してしまった。

「巨人。なおもこちらに接近中です! このままの速度で進みますと、あと2分で結界にまで達します!」

その報告に辺りはざわつく。
肉食怪物であるアリを、いとも簡単に殺した怪物以上の怪物巨大巫女。 
そんな化け物のような巨大巫女たちは二人仲良く並んで、我々の街に向かってきているのだ。
騒ぎにならないほうがおかしい。
周りにいる他の虫たちもアリが死んだことで、警戒を強めたのか、それ以降巫女たちの前に虫が現れることはなかった。
空飛ぶ虫は巫女たちから逃るようにして飛び立ち、そして地上にいる虫たちは大急ぎで逃げ出し、巫女が通り過ぎるのを隠れて待っているような状況だ。
まさに、二人の巫女は森を制した覇者であり、そんな圧倒的力に立ち向かう、愚かな生命は一匹もいない状態だった。
巫女が近づけば、逃げて隠れる。それが虫たちにとって賢明な判断なのだろう。
しかし、残念ながら、我々の場合そうもいかない。
我々も虫たちのように逃げ、隠れることができればどんなに楽かと思うが、そうもいかないのだ。
ここで逃げたら、一般市民はどうなる?
あの巨人たちに踏みつぶされ、殺戮されるのが目に見えている。
なので、人的被害を出さぬよう、巨人たちを街から遠ざけ追い払う。
それが最悪出来なくとも、街を守る結界、それだけはなんとしても死守せねばならない。
街を守る結界は核兵器が飛んできても一応は大丈夫なように設計はされているが、
巨人巫女たちの戦闘力が未知数である以上、絶対に安全だとう保証は今の段階ではないのだ。
相手がどれほどの戦闘力を持っているのか、わからない以上、警戒し過ぎることが害になる、そんなことにはならないだろう。

だが、その一方で、結界は万全である。
巨人など、怒るるに足らず、
そういった声が多数あったのもまた事実。

こういった、楽観的な意見があった理由には、結界安全神話があったからである。
結界は絶対に壊れない。
万が一、なんらかのダメージが加えられたとしても、結界には優秀な自動修復機能が備わっており、
結界に傷がついたり崩れそうになっても、傷はすぐに修復され、元の状態に戻る。結界には無敵の安全機能が備わっているのだ。
しかし、結界に近づけさせない、それが一番の安全策であることには変わらず、
結界を維持し、巨人を追い払う。それがもっともよい方法だ。
そんな思いで、まずは空軍が行動を開始した。
街に張られてある結界が開き、矢のようにして戦闘機が飛び立ち、迎撃を開始した。



******



「ずいぶん草が生い茂っているわね。裾が破れないか心配だわ」
「大丈夫です。私がこうやって、道を作りますから」

妹は、またはしたない格好をした。
大きく足を上げて、木の枝を折ったり、葉っぱをむしったりしている。
これじゃあ、まるで男の子だ。
男の子が、こうやって森の中で遊んでいたのを思い出す。
今の妹に巫女らしい気品はなく、ずいぶん乱暴なことをしているように見える。
どんなにひいき目で見ても、巫女服でするようなことじゃない。
なので私は巫女として、そして姉として、妹を叱ろうとした。
だが、妹のある行動を見て、思いとどまる。
妹は草木を分ける際、自分の体以上の草木をかきわけていた。
これは私の着ている服を汚さないようにと、妹が配慮してくれたのだ。
そんな無言の気遣いに私は感心し、とうとう叱ることはできなかった。



********



巨大な巫女たちは、地球産の草や枝を蹴り踏みつけながら、歩いている。
我々からすれば、地球の植物は手に負える存在でなく、焼くことも折ることも我々にはできない。
どんなに強力な武器を駆使しても、地球産の草や枝はびくともせず、我々の攻撃を跳ね返していた。
なので、新しい道を作りたくても、植物が刈れない以上、道は作れない。
それに比べ、あの巨人たちはどうだ?
妹の巫女巨人は当たり前のように枝や草を足で踏みつけていき、手でむしりながら歩いている。
巨人が近づき、危険を察知したのか? てんとう虫などの巨大生物たちが慌てた様子で飛び立ち、巫女たちから距離を取るようにして逃げている。
こうして、巫女たちが草むらに近づいた頃には、虫一匹残っていなかった。

虫一匹いない、異様な空気に包まれた草むらに、巨大な影が現れた。
普段日が当たっている草むらには、今や夜みたいに暗くなり、次々と巨人の足が降ろされていっている。
草先端部に軽く草履が触れると、草は見たこともないような角度で大きく曲がり、
聞いたこともないような重々しい音を立てながら、巫女の履く草履に潰されていった。
枝も同じ。巨人が枝をどかすため、ぎゅっと握ると、バギバギという鈍い音を立て、枝は簡単に折られてしまった。
地面に落ちている枝も無事というわけにもいかず、巫女に踏みつけられた枝は真っ二つに折れ、そして蹴飛ばされる。
その様子を見ていた多くの隊員が「おおー!」と驚きの声を出し、みな驚愕していた。
どんなに強力な武器束のように集めても枝は折れなかったのに巨人は草履を乗せただけで簡単に折ってしまった。
だとすれば、巫女が持つ体重はいかほどだろうか?
想像もつかないとてつもない体重の持ち主だ! しかし、いくら重いと言っても、枝を折っているのは妹の巫女のほう。
小学生ぐらいの小さな巫女なのだ。
その後ろからは、さらに大きな巫女、姉がやってきている。
姉巫女は妹よりもさらに身長体重が大きく、枝や草を踏みつけた時の破壊力は妹と比べ、一回りも二回りも大きかった。
植物の蹂躙は主に妹の巫女が担当しているが、姉の巫女も蹂躙に参加してないというわけでなく、
妹が踏み残した、僅かな草や小さな茎を姉が踏みつけており、妹以上の体重も手伝ってか、姉巫女に踏まれて無事だった植物は存在しない。
妹が大きな草木を刈り、細かいものを姉が踏み、残った僅かな植物を刈っている。
二人のコンビネーションある意味で素晴らしく、巫女が通った後、そこに残されたのはズタズタに破壊された植物たちの残骸が残るのみだった。

我が物顔で、生い茂っていた草や枝はほとんど姿を消し、巨人が通れるほどの広大な道が新たに切り開かれている。
邪魔な草を刈り、踏みつけ蹴飛ばす。
無敵を誇った森の王者植物も、地球の人間、巫女たちにはかなわず、徹底的に草や枝が破壊され、なんの抵抗もできずに死んでいった。
植物が元通りに再生するまではかなりの時間がかかることだろう。
こうして我々ができなかった国家プロジェクトを たった二人の巫女たちが成し遂げていた。
我々が持つ、最新式のブルドーザやショベルカーよりも巫女が履く一足の草履の方がはるかに優秀、伐採、掘削能力が桁違いに優れていた。
そんな信じられない驚愕の事実に総合指令所のみなは驚きを隠せなかった。






つづく