タイトル
「10万倍のOLは神様3」




全身紫の体に赤い目。
不気味な風貌を醸し出している彼は、黒いのマントを羽織り、頭には大きな二つの大きな角が生えていた。
彼の名はグランエルマ。魔王四天王の一人である。
その風貌からして、強力な魔人なのだと、一目でわかる。
スライムやゴブリンなど下級モンスターが、彼と出会えば一目散に逃げてしまうだろう。
それほどの差。
圧倒的実力差が下級モンスターと魔王四天王にはあったのである。


「クク・・・いくら女神といえど、所詮は女。我が結界魔法で女ごとき蹴散らしてくれるわ!」

グランエルマには自信があった。
いくら女神とはいえ所詮は女。
こんな小娘に負けるはずがない。
図体がデカいだけだ。
ましてや自分は魔王軍四天王の一人。
そうやすやすと負けるはずがないと、グランエルマは考えていたのである。
しかし、それは単なる自信過剰や慢心などの希望的観測ではなく、ちゃんとした根拠があった。

「まずは小手調べよ」

グランエルマは、魔方陣を瞬時に作り上げた。
複雑な文様の魔方陣、それがグルグルと周り、彼の手から離れる。


「フハハハハハ! 見たか! これが我が力よ」

彼の放った魔方陣が、森を横切りると、そこにあった木はすべて焼け落ちている。
魔方陣には、炎の魔法が込められており、それに触れたものはすべて焼き落ちてしまうのだ。
魔方陣の大きさは推定100メートル。
これほど大規模な魔方陣を作れるのは、強者揃いの魔王軍の中でも彼一人だけ。
グランエルマの魔法は魔王様よりも高いともっぱらの評判だ。
もちろん、総合的な強さは魔王様が一番なのだが、魔法だけならグランエルマのほうが強いとされている。


魔法を操る達人、グランエルマは、このオットル山に住むドラゴン、すべてに洗脳魔法をかけていた。
ドラゴンとは、この世界最強のモンスター。
そんな強力なモンスターに、洗脳魔法をかけれたのも、彼の強力な魔法があってこそ。
本来、ドラゴンとは手を付けれない化け物。
そんな強力モンスターを、手なずけ、自分の手足のように動かせてしまう、
そんな高等魔法を使えるのも、彼以外誰いないだろう。
しかも、オットル山に住むドラゴンとは他のドラゴンとは違う。
オットル山のドラゴンは一番強いドラゴンとされていた。
子供のドラゴンでさえ、普通の冒険者なら苦戦は確実。
しかし、今回グランエルマが洗脳したドラゴンは全て大人のそれもオスのドラゴンであった。
戦うために生まれてきたと伝わる、凶暴な雄のドラゴンを、彼は子犬のように手なずけて、
ドラゴンの顎を撫でている。
彼にとって、ドラゴンはペット。いやこの場合は猟犬か?
ドラゴンを洗脳した、グランエルマは女神来襲に備え、ドラゴンたちを待機させている。






*******


「熱いわね・・・」
「そうですね・・・」

一方、女神優子と召喚士は砂漠の上を歩いていた。
召喚士は女神の手に乗せられており、歩いているのは女神の方なのだが、でも、やはりそこは砂漠だ。
座っているだけでも熱さが身に染みる。

「ふう・・・」

女神は、首元の汗をぬぐい辺りを見回していた。

「召喚士さん。見て、これって山ですよね? ほら、このちっちゃいの!」

砂漠も終わり、森と砂漠のちょうど境目に小さな地面の盛り上がりを発見した。
どうやら、これは山らしい。

「召喚士さんの世界って小さな山がいっぱいあるから、どれが山なのか、見分けがつきにくいんですよね・・・」
「あの・・・女神様。少々言いにくいことなんですが・・・」
「え? なあに?」
「はい。今まで黙っていましたが、その・・・山を踏んでいて・・・」
「え?」

私は後ろを見た。
しかし、あるのは砂漠と私の足跡だけで、特に山らしきものは見当たらない。

「女神様。ご自分の足の裏をご覧になってください。山が張り付いているはずですよ」
「え? 嘘・・・」

私はしゃがんで、足を横に倒してみた。
すると・・・小さくて細かい、それこそ、地球の砂粒よりもさらにきめ細かい砂粒が「サー」と私の足の裏からこぼれ落ちていた。

「なに・・・これ・・・」

砂粒もそうだが、私が立っているこの地面も細かい模様が刻まれている。
なんというか、小さなデコボコが沢山広がっている・・・。
でも・その細かいデコボコは、私の足の小指よりもさらに小さく、しゃがんでみないとわからないぐらい小さかった。

「女神さまの右足、その小指の下に、山がありました。今は踏まれて、なくなりましたが・・・」
「え!」

私は慌てて、右足を少し後ろにずらす。
そして、地面に顔を近づけ、自分の足を見てみる。

「なんにもないけど・・・」

地面にはなにもない。
あるのは私の足跡。つまり私の小指のつけた丸い指の跡があるだけで、あとはなにもない。

「指の裏をごらんください。そこに山があるはずです」

足をひっくり返す。
そして、首を下げて、自分の足を覗き込む。

「あ!」

あった! 確かに山。いや、この場合山らしきものと言った方が適切か?
とにかく、私の小指の腹の下に山が張り付いている。
その大きさは・・・私の小指の10分の1ぐらいか?
足の指に細かい糸くずが、くっつくように、山が・・・潰された山の残骸が、小指の腹にこびり付いていた。

「確かその山は標高100メートルぐらいある美しい山でした。キノコや山菜が名物だったと記憶しています。
 ですが・・・今はもうありません。女神さまによって、キノコや山菜が・・・山ごと踏まれ消えたのです」
「ご・・・・ごめんなさい。わたし・・・そんなつもりなくて・・・」
「いえ、責めているのではありません。ただ・・・女神さまが山だとお分かりになるのは一部の大きな山だけでして、
 あまり目立たない小さな山は、女神様に気づかれずに踏まれ消えている。それを知っておいてほしかったのです」
「ほんとうにごめんさない。今度から気を付けるから・・・」

と言ったところで、私は疑問に思う。
細かい山は大きさにしたら1mmぐらいしかない。
そんな小さな山を一つ一つ確認しながら歩くの?
それって・・・結構大変なことだと思う。

「気を付けなくても結構です。この辺りは人もいませんし、いくら踏んでも人は死にません。ですのでご安心を」
「そ・・そう。悪いけどそうさせてもらうわ」






**********


「そんなバカな!!」

グランエルマは驚愕した。
オットル山の先にある比較的小さな山。
標高100メートルの山々に、偵察部隊のドラゴンを数匹配置し、女神の様子をうかがっていたのである。
しかし。

ドシシシシシシシシシシシシシ!!


<女神の足小指の攻撃>
<クリティカルヒット! ドラゴンに20000000のダメージ>

ドラゴン(中)は死んだ。
女神経験値1000を獲得!


と・・・女神が軽く足を降ろしただけで、ドラゴン偵察部隊が、まとめて踏みつぶされていた。
いや、ドラゴンどころか、山ごと踏みつぶしている。
女神の足の攻撃力は200万。小指だけに絞っても20万。
それをもってすれば、ドラゴンどころか、山さえも一撃で葬ることができる。
まさに桁違いの恐ろしい兵器だった。

女神の足に対して、ドラゴンの攻撃力500・・・。
これは決して低い数値ではないのだが、200000という女神足指の攻撃力を前にすると霞んでしまう。

勇者ですら苦戦すると言われるドラゴンを、女神は一撃で倒し、山をもまとめて踏みつぶす。
足の小指と言う、女神からすれば小さな部分であっても、恐ろしい戦闘力を要していた。
そんな女神の破壊力を、一つ向こうの山から見ていた、グランエルマはこう思った。

(これは本気で挑まないと勝てない。 すべてのドラゴンで総攻撃させないと、こちら側がやられてしまう)

そうグランエルマ悟り、結界魔法をオットル山に張り巡らした。
山をも包み込むほどの、巨大な結界・・・。
これほど大規模な結界・・・作れるのはグランエルマだけ。
魔王四天王だから、できる高等魔法であった。

「ククク・・・これで女神も終わりよ。飛べ! ドラゴンよ!」

ドラゴンの大群が飛び上がる。
その数は500を超え、遠くからその様子を見ると、空が黒く染まったように見えた。
空を埋めつくほどのドラゴンの大群・・・。
今まで、これほどのドラゴンを集められたことがあっただろうか?
いや、ない・・・。
長い魔王軍の歴史をたどっても今回が初めてだ。
ここまでしないと、女神を殺せない。
それはグランエルマが一番よくわかっており、彼は本気で女神倒そうと、意気込んでいたのである。

「結界、構築完了」

結界も無事張り終わった。あとは女神が通過するのを待つだけだ。
この結界の中に女神が足を踏み入れれば・・・・・・


女神は死亡する。



*******



小さな山を越え、または踏みつぶし、女神は歩いていた。
しかし、ふと女神は気づき、足を止める。

「召喚士さん。この山、今までの山より、ちょっと大きいわよね。そうじゃない?」

何気なく聞いた。だけど、召喚士さんは目を丸くして驚いている。

「とととと・・・とんでもない! この山はオットル山、凶暴なドラゴンがたくさん住んでいる、
 非常に危険な、人が寄りつけないぐらい険しい山なんですよ。
 女神様もどうかお気を付けに・・・」

険しい山と言われても、私から見れば、地面が一センチ盛り上がっているに過ぎない。
砂浜に小石が転がっているのと同じ。
こんな小さな石ころが、危険な山だと言われても、どうも実感が沸かない。

「もう、大げさな! 今の私の大きさなら、跨ぐことだってできるのよ」

私は山を跨いでやった。
すると召喚士さんは目を丸くして、驚いていた。

(うん。うん。いい感じ。なんとも言えない優越感・・・)

この辺りで、一番大きな山を私は征服し、跨いでいる。
辺りを見回してみても、私より大きなものは存在しない。
山を含めても、私がこの辺りで一番大きいのだ。

「わたし、山よりも大きいー」

腰に手を当て、その山を見下ろす。
やっぱり石ころだ。
石ころのような山を見下ろし、私は本当に偉くなったと感じた。

「や・・やめてください。女神様。あんまりドラゴンを刺激ちゃダメですよ・・・」
「うふふ・・ドラゴンなんてどこにいるのよ。どこにもいないけど」

それにもし、本当にドラゴンが居たとしても、それが何だと言うのだ。
小石の中に住む、小さなドラゴンなど怖いとは思えない。

「早くいきましょう。今は街を救うことが第一です」
「そう、ならいきましょうか」

もっと山を跨いでいたかったけど、召喚士さんに言われては仕方がない。
私は足を踏み出し・・・踏み出し・・・・?

「あ・・・あれ? 歩けない・・・」

足におもりが乗っているような・・・変な違和感を感じ、歩き出すことができない。

「なんで。なんで!」

力を入れてみてもダメ。足は一向に動かない。

「え・・うそ・・痛!」

爪楊枝で、足の先端を・・・つま先をつつかれたような痛みが走る。

「女神様。ドラゴンです! うわあ・・凄い数だ・・・」

気づくと、私のつま先に小さな粒が集まっていた。
その粒からは赤い糸のようなものが出てきて、私のつま先に当たっている。

「離れなさい。離れなさいよ。もおー!」

ちょこまか、ちょこまかと、実にうっとおしい粒の大群・・・いやドラゴン。
でも、払いたくとも払えない。
足をピクリとも動かせないのだから、反撃したくても反撃できなかった。


私が反撃できないとドラゴンたちも悟ったのか? 攻撃は激しくなるばかり。
ドラゴンたちは、私のつま先の前を、我が物顔で悠々と横切っており、さらに調子に乗って、私の爪の上にまで登ってきていた。
なんだか、足の上に虫が這っているようで、気持ち悪い・・・。
背筋がぞくぞくする・・・例えるなら知らない人に体を触られるような、そんな気味の悪い感触だ・・・。
虫の大群が・・いや、虫以下の生物が私に攻撃し、足元を這いずり回っている。

「うわぁ・・・」

こんな粒のように小さなドラゴンに、私はいいようにされている・・・。
この私が・・・山よりも大きな私が、こんな・・・アリにも劣る、小さな生物になにもできないでいる?
いやいや・・・そんなことあってはならない。
像がアリに負けるなど、あってはならないのだ!

「今に見てらっしゃい!」

なんとかして、このドラゴンたちに反撃できないか、私は一生懸命策を考えていた。


******



「な!・・・そんなことって・・・」

またグランエルマは驚愕していた。

「デカい・・・デカすぎる・・・」

その圧倒的女神の体格に驚愕していた。
グランエルマは確かに、オットル山の頂上に陣をかまえていたはずである。
標高1000メートルの山の上に自分はいるはず。
それなのに・・・女神の足の指は山よりも高く、グランエルマは山頂から足指を見上げていたのだ。
山よりも高い、五つの肉の山が、グランエルマを圧倒する。


<女神の足。親指が現れた。  攻撃力400000>
<女神の足。人差し指が現れた。攻撃力300000>
<女神の足。中指が現れた。  攻撃力280000>
<女神の足。薬指が現れた。  攻撃力250000>
<女神の足。小指が現れた。  攻撃力200000>


オットル山頂上に影を落とす、五つの山・・いや、女神の足指。
標高1000メートルのオットル山は、女神の小指とほぼ同じ高さだった、
しかし、それは目の前に聳えている親指よりも一回り小さいことを意味し、山よりも高い親指がグランエルマに影を落とす。
グランエルマが陣を構えている山よりも、さらに巨大な足指たちが、ずらりと五本も並び、爪辺りでは雲が漂っている。
まさに圧巻! 指の山脈であった。

しかし、幸いなことに結界魔法はちゃんと発動しており、女神の足の動きを封じている。
これがグランエルマにとって、最後の希望であり、同時に生命線でもあった。


<結界魔法により、女神の攻撃力低下>

<女神の足。親指。  攻撃力400000→0>
<女神の足。人差し指。攻撃力300000→0>
<女神の足。中指。  攻撃力280000→0>
<女神の足。薬指。  攻撃力250000→0>
<女神の足。小指。  攻撃力200000→0>


グランエルマが所有する、ステータスストーンには女神のステータスが表示されていた。
女神の動きは完全に封じ、足の攻撃力を奪ったのである。
しかし、グランエルマの表情は硬い。
脂汗を額から流している。

「クッ・・・ク・・」

女神の足指は結界から、なんとかして抜け出そうと、指たちが必死にもがいており、そのすさまじ過ぎる衝撃がグランエルマにも伝わっていた。
女神の足指が動くと、結界内部から電流が流れ、山そのものが振動している。
親指、人差し指、中指と・・・すべての指がグランエルマの張った結界を破ろうと、力を合わせて突進していた。
もし仮に、小指だけ抑えるにしても、その攻撃力は20万。
これは王都軍全兵力以上のものとなる。
つまり、女神の小指一本の動きを封じるには、王都軍、全兵士をまとめて戦うようなもの。

しかし、女神の足はまだ四本もある。
つまりグランエルマは、王都軍四倍の兵力を、一人で戦っていたこととなる。


ビリビリビリ!!


結界が激しく波打ち電流が流れる。 オットル山全体が鼓動していた。
それほどの力が結界内に伝わり、女神の指たちは、もがき続けていた。
指の力はすさまじい・・・近くから見るとよくわかる。
まるで、巨大な芋虫たちが、餌をねだるように、くねくねとうねっていた。
いや・・芋虫なんてもんじゃない。指には爪がある。
五匹の芋虫たちには、鋭く切れる爪と言う、剣をそれぞれ独立して持っており、
少し指をうねらせるだけでも、かなりのダメージを結界に与えていた。
剣よりも鋭い、女神の爪先は結界に傷をつけ、結界内にひび割れを起こす。
結界はいつ破れてもおかしくない状態・・・事態は予想以上に深刻だった。

「攻撃だ! ドラゴンたちよ。攻撃せよ!」

グランエルマは予定を早め、ドラゴンの総攻撃を命じた。
飛び上がったドラゴンは総数500を超え、攻撃力も500前後ある。

女神の動きを封じた今なら、攻撃のチャンスはあるはずだ。
女神の足の攻撃力は0。攻撃力はない。
理屈上はゴブリンよりも足の方が弱いこととなる。
なので、こちらが攻撃を受けることはない。
いくら頑丈な指と言えども、ドラゴンの攻撃を受け続ければ、いつかは女神のHP0となり死亡するはずだ。

「あとは結界が持つか、どうかだな・・・」

結界が破られれば、女神の攻撃力は復活し、ドラゴンですら歯が立たなくなる。
そうなる前に決着をつけなければならない。
結界が破られれば、こちら側が不利になる。


<足親指、特殊能力発動。耐衝撃LV9999によりダメージを5にまで軽減>


「な!!」

グランエルマはまたまた驚愕した。
ドラゴンの攻撃が効いてない!?
いや、実際には効いているのが、あれはカスダメ・・・。
攻撃し放題の、クリティカル連発状態でも、カスダメ連発・・・。
最強のドラゴン集団のファイヤーボールですら、攻撃が通らないなんて・・。

「硬い・・・硬すぎる・・・」

あの女神の耐衝撃LVは一体どうなっているのだ!? 
あんな数値、ダイヤモンドはもちろん、どんな鉱石にもない。

「チートだ・・・」

グランエルマの口から、そんな言葉が出てくるなんて、今まで一度もなかった。
彼が絶望を感じるのも、これが初めて。
ドラゴンのファイヤーボールが効かないなら、もやは・・・女神を倒せる手段はない。

「もう! もううっとしい!」

女神の怒り声。
その声にあろうことか、魔王四天王であるグランエルマが怯えたのである。
魔王軍最強の四天王でさえ、女神と比べれば、まだまだ子供の域だったのである。


<女神の足。親指2が現れた。  攻撃力400000>
<女神の足。人差し指2が現れた。攻撃力300000>
<女神の足。中指2が現れた。  攻撃力280000>
<女神の足。薬指2が現れた。  攻撃力250000>
<女神の足。小指2が現れた。  攻撃力200000>



「み・・・右足だ・・・」

彼が怯えた理由、それは結界に縛られていない、反対の足が迫っていたからだ。
結界に縛られている左足を、右足が救出しに来たのである。

「えい! えい!」

ドシシシシ・・・ドシシシシ・・・。

女神の右足が、左足の甲を蹴っていた。

「うわああああ!!」

その衝撃で、グランエルマはもの凄い痛みを感じ、マントが破けてボロボロになる。
彼のHPゲージは赤くなっており、瀕死寸前状態にまで、追い込まれる。
しかし、それだけに終わらず、女神の左足の上を飛んでいたドラゴンたちも、右足の来襲によって全滅していた。
残ったのは彼一人、グランエルマはだけになっていた。


<結界が破られた>

<女神の足。親指。  攻撃力0→400000>
<女神の足。人差し指。攻撃力0→300000>
<女神の足。中指。  攻撃力0→280000>
<女神の足。薬指。  攻撃力0→250000>
<女神の足。小指。  攻撃力0→200000>

女神の足の攻撃力も元に戻り、グランエルマは瀕死状態。
さらに結界も破られ、ドラゴンたちも既に死んでいない。
まさに、絶体絶命・・・。
さらに

<女神の足。親指2。  攻撃力400000>
<女神の足。人差し指2。攻撃力300000>
<女神の足。中指2。  攻撃力280000>
<女神の足。薬指2   攻撃力250000>
<女神の足。小指2   攻撃力200000>


合計10本の足指がグランエルマに迫っていた。
五本の指でさえ、ギリギリの戦いをしてたのに、今度はその二倍。
10本の指と戦うこととなる。

「む・・・無理だ・・。しかし・・まだあきらめん」

グランエルマ最後の力を振り絞り、自分自身に回復魔法をかけた。
HPは回復していき、徐々に傷も癒えている。

<HP500回復>

HPも回復し、ようやく目が開けられるようになった・・・しかし、そこで・・・女神の声が響いた。

「ドラゴンだが、なんだか知らないけど、よくもやってくれたわね。 えい!!」

ドシシシシ!! ぷちゅり!




<女神の足の攻撃>
<グランエルマに200000000のダメージを与えた>

グランエルマは死んだ。経験値5000獲得。



******


女神速水優子は、小石のように小さな山に向かって、足を降ろしていた。

「倒したのかしら?」

砂をつぶしたような感触が、足に伝わり、ドラゴンの姿も見えなくなっている。

「女神様。流石です。ドラゴンは全滅いたしました!」
「え? そうなんだ・・・なんだか、あっけないわね」

急に足が動かなくなったので驚いてしまったが、終わってみれば一瞬、あっという間だ。
思ったよりもドラゴンは弱かったと、速水優子は心の中で思った。

「先ほど女神さまが動けなくなりましたが、あれはどうやら、結界魔法の一種ですね・・・・
 魔王四天王がどこかに潜み、女神様に不意打ちを行ったようです」
「そうなの? でも、四天王なんて、見かけなかったけど、そんな奴いたっけ?」
「はい、わたしも気づきませんでしたが、あれほどの結界魔法を張れる者は、そうそうにいません。
 ですので、間違いないかと」
「で? その四天王はどこ? 逃げちゃった?」
「いえ。たぶん、女神さまの足にこびりついているかと・・・」
「げ・・・」

私は恐る恐る、足をひっくり返してみた。
気持ち悪い死体が、私の足の裏に隠れていると思ったが・・・。

「・・・・? なんにもない」

足は土で、黒く汚れているだけで、死骸は見当たらなかった。
アリを踏んだ時みたいに、ペシャンコになった、虫の死骸が足についていると、思ったがなにもない。
ただ足が黒くなっているだけ・・。

「女神様。四天王の死体は粒子レベルに分解されてしまって、もう確認できません」
「微粒子?」
「はい。女神さまのおみ足は、山よりも重いので、きっと骨すらわからないほど圧縮され、バラバラに・・・」

なんか、そんな風に言われると気味が悪いが、でも、気持ち悪い死体を見なくてよかった。

「私って、そんなに重いのかな? なんか微生物、相手に戦ってるみたい」
「ははは・・微生物ですか? そういわれるとそうなんですが・・・相手は四天王なんですよね・・・」
「四天王だか、何だか知らないけど、ちょっと踏むだけで死んじゃうなんて弱過ぎよ。もっと強い相手はいないの?」
「ははは・・さすがは女神様。お強い。では、このまま真っすぐお進みください。きっと、この先に魔王軍がうじゃうじゃといますので・・・」
「わかったわ!」

私は歩き出した。
ズンズンと、リズミカルな足音がなんとも心地よい。
太陽は優しく、私を照りつけ、気分をさわやかにしてくれる。
踏みしめる地面もふかふかだ。
これなら裸足でも不自由はない、むしろ気持ちいぐらいだ。

「ほんと、召喚士さんの世界はいいところだね。う~ん! 気持ちいいよ~」

私は両手を伸ばして、背伸びをした。
しかし、なぜか召喚士さんは慌てていた。

「め・・・女神様。おやめください」
「え? なに? 私変なことした?」
「つま先・・・・つま先ですよ!」
「え? つま先?」

私は背伸びを止めてトンっと、かかとを着地させる。

「女神さまが、つま先立ちになりますと、地面にかかる重量が増大してしまいます。それにさっきのように、かかとを地面に勢いよく降ろしますと、
 マグマが吹き出してしまいますよ。なにとぞ、ご自重ください」
「でも・・ちょっと背伸びしただけじゃない? そんなオーバーな・・」
「そのちょっとが我々にとっては大問題なんです。ご理解を!」

まあ、確かに・・・私が背伸びしたことで、地面の亀裂は深くなっていた。
地面が赤く染まり・・・これはマグマが噴出しているのだろうか?
灼熱のマグマに私は素足で触れているというのに・・・なぜか熱いとは感じなかった。

「ねえ召喚士さん。この赤い汁みたいなものって・・・マグマよね?」
「はい。そうですが・・・」
「もしかして・・・背伸びしたせいで、地面を破いちゃったの? 私ってそんなに重いの?」
「はい。女神様。その通りです。女神様の足の重さだけで、王都よりも遥かに重いのです。ですので、背伸びは絶対におやめください」
「王都よりも重いんだ・・・わたし・・・」


でも・・・ちょっと背伸びをするぐらいで、こんな騒ぎになるなんて不便な世界だ・・・・。
せっかく自然豊かで気持ちいいのに、なにもできない・・・。


「この先も気を付けてくださいよ。農家がありますので、あまり田畑を踏まないように」
「でもぉ・・・どれが畑でどれが山かなんて、わからないわ」

山ですら、小さくてわかりづらいというのに・・・田畑がどこにあるかなんて全然わからない・・・。

「大丈夫です。そこは私がお教えしますので」
「そう・・・ならいいけど」

そして、数歩歩くと、早速田園地帯に差し掛かった。
そこは、麦畑や田んぼが100キロに渡って広がる、巨大な田畑。
これほど、規模の大きな田畑は日本には存在しない。
この異世界にしかない、一大食料生産所と言った場所だ。
そんな、広大な農地に、巨大なつま先が横切る。
足の匂いが田畑に広がり、「サー」と音を立て、麦や稲穂たちが揺れていた。

「女神様。足を降ろす場所はここ・・・・もう少し先です」
「・・・この辺り?」
「はい。そこで結構です」

召喚士さんの誘導で、ようやく一歩踏み出せた。
しかし

「次の一歩はですね・・・前、前・・ストップ。そこです」
「よいしょ・・」

女神が足を降ろし、また次の一歩を降ろそうとする。

「横、横・・・あ! ダメです。行き過ぎですよ。もう少し後ろ・・・・そこです」

これで、ようやく三歩目。

「前、前・・・・ストップ。そこです」
「ああ! もうー! こんなんじゃ、いつまでたっても進めないじゃない!」

足を一歩踏み出すだけでも、だいぶ時間がかかっている。
なんともじれったい・・・それに足の位置を少しでも間違えると、召喚士さんは怒るし、もう最悪だ。

「足の踏み場ぐらい、好きにさせて」
「そうはいきません。女神さまのおみ足は23キロです。もし、誤った位置に降ろしますと、1万・・いえ10万の民が一瞬で死んでしまいます。
 そうなってもよろしのですか?」
「そりゃ・・・ダメだけど・・・でも、平均台の上を歩いてるみたいで、なんか嫌!」
「もう少しの辛抱ですから、ほら、あと二歩ぐらいで終わりますよ」

言われて、初めて気づいたが、この先の地面の色は少し違う。
緑の地面、どうやらこの先は森のようだ。
あと二歩で、この田畑も終わり。
そう思うと、少し気が楽になってきた。

「前、前・・・横・・・ダメですね・・・はみ出てしまいます」
「つま先立ちでもダメ?」
「はい。どうやっても、最後の一歩だけ、降ろすところがありません」

最後の一歩、そこには家が密集していて、足を降ろせそうなところはどこにもなかった。
どこに足を降ろしても、つま先立ちになってみても、結局は街を踏んでしまう。

「女神様。足をもっと小さくすることはできませんか? こう・・ちぎったりとか・・・」
「冗談じゃないわよ。足を切り下せって言うの!?」
「ですよね・・・仕方ありません。民に避難するように言いますので」
「いいわよ。飛び越えるから」

私は足元に力を入れて、街を飛び越えた。

「よっと。ほら、こうすれば簡単じゃない」 
「ななななな・・・なんてことを・・・」

召喚士さんは叫んだ。だが、何が起こったのか、私はまだ理解できていない。

「街が・・・街が・・・あわわわ・・」

召喚士さんは、しきりに私の足元を指さしていたので、しゃがんで後ろの状況を確認してみる。

「あ・・・ああー、飛び越えたのが、いけなかったみたいね・・」

私が今踏みしめている地面には、普通に歩ている時以上の亀裂が地面に走り、それがずっと続いている。
この青の線は川だろうか? 
私が起こしたと思われる亀裂によって、川にも亀裂が入り、水が寸断されて流れなくなっている。
そして、問題の後ろ側。
私が飛び越えた街。
王都よりも二回りほど小さな街に建っていた建物は、全て崩れ落ちており、小さな煙もいくつか上がっている。
私の起こした亀裂が、街を真っ二つにし、建物をぐちゃぐちゃにしている。
そこから、火の手が上がり火事になっている。
なんだか・・・ものすごーく! 悪いことをしてしまった・・・。

「ごめんなさい。そんなつもりはなかったの!」

足の踏み場がなかったらか、飛び越えた。
良かれと思ってやったことが、結果として、みんなに迷惑をかけてしまった。

「なにか、わたしにお手伝いできませんか。何でも言ってください」
「だ・・・ダメですよ。女神様。民にそんなことを言っては・・・」
「でもぉ・・・私のせいで・・」
「壊れてしまったものは仕方ありません、それに家が崩れた程度で済んでよかったですよ。
 本当なら、やむを得ず、踏んでいたかもしれませんし・・・」
「ほんとにごめんさない。私が大きいばっかりに・・・」

私は女の座りをしながら、みんなに頭を下げた。

(・・・・って、あれ? なんだが、体がフワフワする・・・)


<女神回復魔法発動>


私の体の周りから、光の粒が出てきた。
キラキラ、キラキラっと・・・、光が集まって、崩れた街に向かって落ちていく。

「なにこれ・・・ホタル見たい・・・」

光の粒が、集落を包み込んだ。


<回復終了しました>


「なにこれ! うそでしょ」

光が消えると、街は綺麗になっていた。
元に戻った! あのボロボロに崩れ去った街が元に戻っていたのだ。


「す・・・すごい! 女神様。街全体に回復魔法を!?」

と召喚士さんは、心の底から驚いていたようだが、私には自覚がない。

「魔法なんて私、使ったことないし・・」
「だとすれば、無意識で発動したんですか!? やっぱり女神さまはすごいなあ」
「いや、ちょっと待って! 私は魔法使いじゃないわよ。それなのになんで・・・なんで魔法が使えるの?」
「それはですね・・・口言うよりも実践した方が早いでしょう。例えば・・・ほら、あれなんか、いい感じです」

召喚士さんは後ろを向き、私がさっきまで踏んでいた足跡を指さした。

「実はあの足跡の下に、大量の麦があったんです。今は女神さまに踏まれ・・・全部ダメになってしまいましたが、
 回復魔法を使える今なら、元に戻せるはずです」
「そんな・・・魔法なんて・・」
「いえ、そんなに身構えなくても大丈夫です。かる~く、直ったらいいなと軽く念じるだけで、できるはずです」
「かる~く?」
「はい。かる~く」

ほんとにかる~く念じるだけで、魔法なんて使えるのだろうか?
なんだか、バカにされたような気分になる。
でも、物は試しと言う。

(かる~く・・・麦よ・・・元に戻れ!)


「ほら、念じたけど、なんにも出ないじゃない」

なんだ。やっぱり、魔法なんて・・・。


<女神回復魔法発動>


「え!」
「すごい! 女神様。やっぱりすごいです!」

私の体からキラキラと、ゆっくり粒が落ちていく。
いや・・・違う。
それは最初のうちだけで、勢いが違っている。
ゆっくり落ちていた光の粒は、空間を切り裂くようにして、激しい光の波へと変わっていた。


<回復完了>


「だ・・大丈夫なの? なんか、さっきのと全然違うけど・・」
「違います。これは魔力が上がった証拠です、ほら、見てください。足跡は消え、麦畑も元通り・・・それどころか、
 今まで女神さまの歩いた足跡がすべて消え・・・元に戻りました! すごい・・・」

召喚士さんは子供のように、はしゃいでいた。
なにが一体すごいのか、よくわからないが、でも確かに足跡は消えて、地面の色が元に戻っている。
それだけは確かだ。

「一回やっただけで、これほど精度を高めるとは、流石女神様」
「なんだか、実感がないけど、元に戻せたのならよかったわ」
「とんでもない。元に戻すどころか。麦の成長も助け、村は大豊作です。それだけではありません。
 女神さまの回復魔法を受けたものは皆、病が治ったそうです。
 寝たきりの老人ですら、今は元気になったと、皆がそう言い、喜んでいます」
「え? そうなの・・でも、そんなことって・・」
「そんな夢みたいなことがあるのですよ。皆女神さまのことを「癒しの女神」と言い、今日から毎日信仰するそうです」

なんだか・・・いやな予感がしてきた。
私は今女の子座りをしている。
で、私の膝の前の辺りに、街があるのだが・・・そこから、むず痒い空気が漂っていた。

「「女神様! 癒しの女神様!」」

やっぱりそうだ!
街中の人々が、私のことを・・正確には私の膝小僧めがけて、みんなで拝んでいる。
なんだか・・・くすぐったい気分だ・・・。

「や・・・やめてください。そんなことされても困ります」

街の人に止めるようお願いすると、さっきまでの行為が嘘のようにピタリと拝む行為が止んだ。

「女神様・・・せっかくの信者が震えていますよ・・・」

私は別に責めるつもりはない。
拝まれるのが嫌だったので「やめてくれ」と軽く言っただけだ。
それなのに、みんな顔を真っ青にして、震えている・・・。

「女神様を怒らせてしまった! 死んでお詫びを・・」

などの・・・悲鳴が絶えない。
このままだと、本当に自殺者が出そうな勢いだ。

「怒っていません。ですが、拝むのはやめてください。それだけですから・・・」
「「そうですか・・なら、よかったです」」

本当にコビトたちは単純なもんで、私の声一つで、コロコロと感情が変わる。
さっきみたいに、私は少し優しく言っただけで、みんな安心しきっていた。
さっきまであった自殺者騒ぎが、嘘のようにやんでいるし・・・。

「女神様。行きましょう。ここの民のためにも、魔王軍は滅ぼさなくてはなりません。
 でないと、ここもいつ破壊されるかわかりませんから」

この場所が魔王軍に壊される?
そう思うと、なんだがコビトたちがかわいそうになってきた。
彼らは単純で、私の気分次第で、コロコロと感情が変わる。
でも・・・なんだか、そんなところが、可愛いのだ。
彼たちを守ってあげたい。
彼らを守って、安心して農業に専念して欲しい。
こんなかわいい子たちを、魔王軍に滅ぼされてなるものかと、
私はいつの間にか、そう思うようになっていた。

「みんな聞いて頂戴」

街に住む、全員の視線が私に集中する。
でも、私は緊張はしない。堂々としているつもりだ。
だって彼たちは、もう・・・私の友達なんだから。

「魔王軍は私が必ず滅ぼすわ。みんなに怖い思いは、もうさせない。だから安心して待っていて」

女神がそう宣言すると、わあーと大歓声が上がった。
これほどの歓声が、今までこの街にあっただろうか?
大人から子供まで、みんな腹の底から声を出し、女神に歓声を上げたのである。
女神が魔王を討伐する。
それは、王都軍100万の軍を手に入れる以上の・・・いや、その程度では比べ物にならない。
神と言う、唯一無二の無敵の存在、女神を味方に付けたのである。
神が味方に付き、我々が負けるはずがないと、みな確信し、彼たちは熱狂したのである。