タイトル
「巫女さんたちの蹂躙4」






妖たちの供養が終わった。
これで、死んでいった妖も、無事極楽へ着いたことだろう。

「あね様!」

妹は立ち止まって、私に振り返った。
なにやら、意味なありげな様子。

「どうしたの?」
「すごい気の数です! こっち! こっちの方から・・・」

妹は急に走り出した。
妹は何かに吸い寄せられるようにして、どんどん藪の中へと入っていく。

「ちょっと待って!」

妹に続いて、私も走る。
走って、妹を追っかけた。

「あね様。妖の巣です」

ようやく妹に追いついた、と思っていっていると、妹は立ち尽くしていた。
茫然と何かを見つめている。

「どうしたの?」

わたしはそう言って、妹のすぐそばに駆け寄った。
すると、そこには見たこともない、奇妙な風景が広がっていた。

「なにこれ・・・」

あまりの美しさに息をのんでしまう。

「これが妖の巣・・・」

わたしたちは妖の巣の前に立ち尽くしていた。
キラキラと光る、宝石のような、粉が地面いっぱいに広がっている。
この宝石のような粒が妖の家。
その密集地帯が全て妖の巣・・なのだろうか?

「ねえ? これって全部、家のなの?」
「はい・・・たぶんそうなんでしょう」
「え! うそ!」

小さい! いくらなんでも小さすぎる。
妖はなんて小さいんだろう。
アリなんてもんじゃない。
下手をすると、蚤よりも小さく、妖を目で見ることすらできない。
妖は驚くほど小さいが、なんとか家は見ることができた。


妖の家は随分と変わっており、
地面を埋め尽くすように家は並んでいた。
地面の色は見えなくなっている。
それほど、家が密集して並んでいる。

見たことも聞いたこともないような、不思議な形の家がびっしりと建ち並んでおり、
正直数が多すぎて、どれぐらいの数が建っているのか、よくわからない。
試しに数えてみても多すぎて何が何だか・・・。
家の数を50、数えたところでやめにする。
あまりにも多いので、数えるだけ無駄・・・あまりにも無意味な作業に思えてくる。

「あね様。それにしても小さな家ですね~。でもぉ・・これを全部始末しようと思ったら、結構骨が折れそうですね・・・」
「そうね・・・でも、本当に壊すの? なんか勿体なくない?」
「あね様。ですが・・・妖を始末しないと、森に平和が・・・」
「わかっているわよ。ちょっとそう思っただけ、ちゃんと壊すから安心して」

と言っても、どうやって壊そうか迷う。これだけ多いと、一つ一つ、歩いて潰すには時間がかかりすぎる。
かと言って、他に方法はなさそうだし、どうしたものか?

「見てください。あね様! こっちにすごい大きなものがあります!」

妹に呼ばれたので、妖の巣の反対側に回ってみた。
するとそこには、妹の背丈より少し大きな木が地面から生えていた。

「銀の木! 銀の木ですよ。すごいなあ」

妹は目をキラキラさせながら、木を眺めていた。
妹は子供らしい呑気な目で、銀色の木を見ていたが、私の心境は少し暗かった。

「これ? 本当に木なの?」 

この木・・・・どう考えても、自然に生えている木と同じ物に見えない。
なんというか、人の手によって作られた人工的な物に見える。
妹は銀だと、言っていたが、銀と言うよりは鉄に近いと思う。
だけど・・・なぜこんなものが地面から生えているの?

「あね様の言う通り、木にしては少し形が変ですね」
「確かに変だけど、こんな変な木・・・本当に生えてくるのかしら? 妖が作った木なんじゃない?」
「妖が作った木!? じゃあ、早く壊さないと・・・」 
「あ・・・待って。危ないわよ・・・」

私の注意も聞かずに、妹は妖の木に近づいた。
大きく手を伸ばして、銀の木に触ろとしている。
あと少しで、手が触れる。その時。

「え?」

妹の動きが突然止まった。
それと同時に、妹の周りに結界のようなものが現れ、稲妻が結界内に走る。

「大丈夫!?」
「はは・・大丈夫です。ちょっとビリっとしただけです」

幸い妹にケガはなく、体に異変は感じられない。
よかった。でもまだ油断はできない。

「ちょっと、どいて」

妹に続き、わたしも結界に触ってみた。
うん。確かにビリビリする。だけど、静電気のようなバッチいった感じじゃなくて、本当にビりと言った感じ。
それほど痛くはない。

次にわたしは、結界を叩いてみた。
叩いてみたけれど、結界は破れない。
どうやら、この結界が、銀の木と妖の家を守っているようだ。
いや、そうとしか考えられない。

「困ったわね。中に入れなんじゃ、どうにもならないし・・・」
「あね様。離れてください。ちょっと蹴ってみます」

妹は急に走り出した。
そして。

「やあー!」

結界に向かって、思いっきり飛び掛かったのだ。

「痛!」

しかし結界は破れず、逆に跳ね返されて、しまった。
可哀そうに・・・妹は尻餅をつき痛そうにしている。

「この! この!」

だけど、妹はめげない。
ガンガンと音を立てて、一心不乱に結界を蹴っていた。
しかし、それでも結界は破れそうにない。

「はあ~・・・結構強い・・・あね様。どうしましょう? これを破れないと里が・・・」
「ほら、どいて、こういう時はこれを使うのよ」 
「あ! それは神楽鈴ですね」
「うふふ・・・こっそり持ってきちゃった」

私がこっそりと持ってきた物、それは神楽鈴という巫女が使う鈴。
この神楽鈴は私たちの神社に代々伝わる代物で、神社にある神楽鈴の中でも特に霊力が強いと評判の鈴であった。

「神楽鈴で結界を壊すんですね?」
「うん。うまくいくといいけど」

私は霊力を集中させて、力を神楽鈴に送り込む。
そして力が溜まったと、感じたところで霊力を解放し、勢いよく鈴を結界にぶつける。

「えい!」

鈴が結界に触れると同時に、柔らかい感触が手に伝わってきた。
そして、スルスル、スルスルと結果の中にわたしの手が結界内に引き込まれていく。

「あね様、結界が崩れていきます」

神楽鈴が結界を突き刺し、貫通していた。
鈴が結界内に達すると、亀裂が大きく入り始め、ピシリ、ピシリと音を立てて、結界が崩れていく。
鈴を結界から引っこ抜いてみると、腕が一つ入るような穴が結界に開いていた。

「あね様。すごいです。結界の霊力が弱っています、これなら蹴るだけでも結界を壊せそうです。えい! えい!」

妹は大きく足を上げて、結界を蹴り始めた。

「ちょっと! あんまり足を上げると、裾がめくれちゃう。今すぐやめなさい!」

妹の姿はとてもはしたなかった。
裾がめくれて、ふくらはぎが丸見え。
それに、いくら足元に結界があるとはいえ、それを足で蹴り上げるなんて、巫女にあるまじき品のない行為だ。

「もう~、あね様たっら~、誰も見やしませんよ。ここはあね様と私、二人っきりです。誰も来やしません。
 それにこうして蹴った方が早く結界が破れますよ」
「でも・・・」
「あね様。忘れていませんか? 私たちの目的は妖を退治です。一刻も早く妖を倒すべきなのでは?」
「そうだけど・・・」
「なら、あね様もこうやって足を上げて、結界を蹴るべきです。じゃないと日が暮れてしまいますよ」

私の注意も聞かず、妹は蹴り続けている。
それどころか意地悪な笑みを浮かべながら、妹は今までになく大きく足を上げた。
ピシリ、ピシリと、結界は順調に割れているが、裾は大きくめくれ、太ももが見えてしまっている。

「う~・・・でも、やっぱりダメ! やめさない! 聞こえないの?」
「やめませんよ~だ!」
「なんですって!」
「ここでやめたら、結界はどうなるんです? まさか、このまま放っておくつもりですか?」

妹には羞恥心がないのか?
悪びれる様子もなく堂々と大きく足を上げ、太もも丸出し状態で結界を破り続けていた。

「放ってはおけないけど・・・」
「では、蹴り続けるしかありませんね」
「ダメよ。はしたない!」
「じゃあ、どうやって壊すんですか? あ・・・もしかして手で少しづつ壊すつもりですか? ダメですよ~、あね様~
 いくら神楽鈴で、結界が脆くなったとはいえ、まだまだ結界は頑丈です。
 手で壊していては時間がかかりすぎてしまいます~。だから、こうやって蹴る、それが一番です」

私に口答えなんて、なんて生意気な妹だ! 
本当なら、ぶってやりたい。
けど、妹の言っていることも一理ある。
確かに結界はまだまだ力を残しており、手で少しずつ壊していては時間がかかってしまう。

「草履も脱いじゃいますね。履いたまま蹴りますと、霊力が伝わりにくくなるので」

妹はとうとう草履まで脱いでしまい、足と脚を完全に晒した状態で結界を蹴り始めていた。
しかし、妹の言ったことはどうやら正しかったようで、草履を履いた時よりも、脱いだ時の方が壊れていく速度はずっと速い。
一蹴りするだけで、結界が壊れている。

「あね様も早く、草履を脱いで蹴ってください。じゃないと妖たちが里に降りてきますよ~」
「うう・・・」
「作物は食い荒らされ、あね様の寝所にも妖が這い上がってきますよ? それでもいいんですか?」
「・・・」
「あね様の貞操も奪われ、無理やり子供を産まされることに・・・」
「あ~! もう! わかったわよ。蹴ればいいんでしょ。でも勘違いしないで。これは仕方なくやっているだけ! 
 里のことを思って、仕方なくやっているだけなんだからね!」
「えへへ~、脱いだ、脱いだ~、草履を脱いだ~。あね様も随分と、はしたないことをしますね~」

妹はケラケラと笑い、わたしをからかっていた。
妹からしてみれば、口うるさいわたしに仕返しできる、いい機会なんだろう。

クスクスと笑いながら、チラ、チラッと私の顔を時々横目で笑っている姿がなんとも腹立たしい。
私は腹がたったので、半分やけくそになりながら、ガンガンと結界を蹴る。
妹にからかわれた分の八つ当たりだ。
こうなったのも、妖がいけない。
妖のせいで、わたしはからかわれてしまった。
だから妖なんてさっさと滅んでしまえばいい!

しかし、思いっきり結界を蹴ってみると、やはり裾がめくれてしまい、わたしは思わず裾を抑えた。

「あね様。ダメですよ~。裾なんか抑えていたら~、ほら、全然壊れていないじゃないですか~。もっと大きく脚を振り上げて!」

ガンガン!

「脚に体重を乗せて、蹴るんです」

妹は裾がめくれてもお構いなしだ。
それどころか、わざと肩を張り、まるで男の子のような振る舞いで結界を蹴っている。
こんなはしたない姿、他の誰にも見せられない。
巫女とは思えない、本当にひどい姿だ。
でも、これも結界を破るため、必要な行為。
里にいるみんなのことを思えば、ここで恥をかくのも仕方のないことなのかもしれない。
みんなの幸せを願う、それが巫女の務めなのだから。

「ええい! もう、こうなったらヤケよ! えい、えい」
「あね様~、上手くなりましたね~。その調子です~」

わたしはガンガンと思いっきり結界を蹴ってみた。
すると今まで以上に亀裂の入りがよく、結界がどんどん割れていっている。
悔しいが妹の言う通りだ。
恥を忍んで思いっきり、裾がめくれるまで蹴った方が、結界の壊れる速度は速い。
この調子なら、結界がすべて壊れるまで、それほど時間がかからないかもしれない。