「鬼はぁー外、福はぁー内ぃー」

豆を投げて厄を払う行事。節分。
毎年二月に行われる節分の行事は、ここ宇宙空間でも行われていた。

「「鬼はぁー外、福はぁー内ぃー」」

二人の天使たちが楽しそうに豆を投げて、厄を払っている。
豆を投げれば鬼が退散する。
それは人間であっても、天使であっても同じことであった。

「楽しいねー」
「うん。楽しー」

無邪気に笑い合う二人の天使。
彼女たちは宇宙の隅々まで飛び回り、豆をまいている。
宇宙に潜む厄を払う。
その使命感と、豆をまく楽しさに彼女たちは夢中になっていた。

「もう全部、まいちゃった」
「あたしもー」

豆が入れられた枡は空になった。
これでは、もう豆はまけない。

「帰ろうか」
「うん」

ピヨピヨと、可愛らしい羽音を立てながら宇宙をあとにする天使たち。
豆まきは終わった。
これ以上豆をまけないのは少し残念ではあるが、厄を払うという使命は果たせたので、二人は満足だった。
楽しかった。
また来年も豆をまきたいなあと思いながら帰路につく天使たちであった。


天使たちが去ると宇宙は静かになり、残された豆が宇宙空間を漂っている。
天使たちがさっきまでまいていた、あの豆。

その豆の大きさは天使の指先程度のもので、ごくごく普通の豆だ。
こんな小さなものを、いくらまこうが宇宙に影響はない。
宇宙は広い。宇宙は無限に広がっているのだ。
だが、そんな豆の大きさも天使の目線の話であって、それ以外の種族には大問題になる。


「楽しかったねー」
「来年も豆まきしたいよねー」

ピヨピヨと仲良く飛ぶ、子供の天使たち。
その体の大きさは、実は人の10億倍というとんでもない大巨人だったのである。
天文学的数字。
天使そのものが星のような存在。
その天使の体は少なく見積もっても身長140万キロ。
太陽より少し小さいが、ほぼ同じぐらいの大きさを持つ大巨人であることを意味していた。
そんな大巨人天使が投げた、豆。
指先程度の小さな豆であっても、その一粒が全長1万キロ。
これは地球の直径の7割程度の球体。
天使の投げた豆。
その一粒一粒が地球に匹敵する、超巨大球体だったのである。


そんな超巨大、お豆の接近に地球人たちはパニックなっていた。
直径1万キロの豆。
そんなものが30粒以上、重なるようにして飛んできている。
冥王星に迫る、お豆
先頭を走る豆の一群は、冥王星に衝突した。
冥王星の直径は2300キロだ。
それに対し、天使たちの豆は全長10000キロ。
つまり、天使の投げた豆は冥王星の4倍以上の巨大な球体であった。
冥王星を4つ重ねないと、豆と同じ大きさになれない。

冥王星の4倍の超巨大豆が冥王星を破壊する。
豆が激突し、赤く燃え上がる冥王星。
冥王星は、一瞬豆に抵抗するような動きをしたが、それも一瞬のことで豆の側面に衝突し、真っ二つに割れてしまった。
その瞬間、冥王星は大爆発。
豆の通過を食い止めることはできずに、あっさりと爆発してしまった。

これでわかったはずだ。
あの超巨大豆は、星をも破壊できる恐ろしい天災であると。
地球に衝突すればひとたまりもない、恐ろしい巨大な流れ星なのだということを。

天使の投げた豆は冥王星を破壊、通過し、次は木星に迫っていた。
木星は太陽系一巨大な惑星である。
木星の直径は13万キロ。
天使の投げた豆が巨大だといえども、地球の10倍の木星が豆如きに破壊されるはずない・・・破壊された。
今、木星が真っ二つに破壊されている。
なにが起った?
地球からそんな視線が注がれる。


無数の豆が木星に激突している。
その姿は流星群を彷彿とさせる、ものすごい豆の雨であった。
無数の豆の衝突を受けて、徐々にその形を変えていく木星。
降ってくる豆。
それが一粒だけなら、木星もなんとか耐えれたであろうが、その数は一粒だけではなかったのである。
10、20、30と地球サイズの豆が重なるようにして降ってくれば、いくら太陽系随一巨大な惑星であってもひとたまりもない。
木星は多数の豆の激突を受けて、徐々にその丸みを失ってった。
変形していく木星。
丸い球体の木星が、徐々に「く」の字に変形する。
そして爆発。
豆の襲撃に耐えられなくなった、木星はあっさりと爆発。
跡形もなく消え去っていた


その瞬間、地球は大パニックになる。
地球の10倍も巨大な木星が塵のように消えてしまったのだ。
もし、地球に衝突すれば、ひとたまりもない。
一粒でも地球にぶつかれば、それでジ・エンド。
木星の二の舞になる。


木星を破壊し、そのままの勢いで迫ってくる、超巨大な豆。
その一粒が地球に迫り、地上へ影を落とした。
地球の地上、その7割が豆の作り出す巨大な影に覆われてしまう。
地球は今、雲以外の影に覆われている。
それは、つまり地球外からやってきた巨大な影、日食のような巨大な影に覆いつくされていた。
世界が暗闇に包まれる。
太陽の光ですら覆い隠す、分厚い豆の影。
太陽光を完全遮断してしまえる、豆の分厚い影に地球人は皆、不安に見上げていた。

星が降ってくる。

地球人は、そんな思いで空を、惑星サイズのお豆を見上げていた。

パニックになるものもいる。
悲鳴を上げるものもいる。
神に祈りを捧げる人もいる。

色んな感情が渦巻く地球。
そのの上空20000メートルにまで巨大なお豆が迫っていた。
混沌とした世界に変わる。
地上の気圧が乱れ、豆に向かって、地上が吸い上げられていく。
ブラックホールのように、豆に向かって吸い上げられていく。
豆は重く、そこから生まれる重力は計り知れない。
豆からすれば、人など塵のような存在だ。
それゆえに、豆に向かって人が吸い上げれられていた。
今、豆は小型ブラックホールのように地表を吸い上げ、地球に迫っている。
そして、いよいよ衝突。というその時!!

「ダメだよ。天使ちゃん。ほら。みんな困っているよ~」

響き渡る雷鳴。
地球に豆は衝突せず、地上から1万メートルの上空で突如停止した。

「ぼり、ぼり・・・」

豆が消えていく。
そして次の瞬間、豆よりもはるかに巨大な二つの壁が現れ、それが開き、豆を内部へと押し込んでいた。
そう、天使たちが戻ってきていた。
地球にぶつかる瞬間。
天使は豆を拾い上げ、その口元へと豆を放り込んでいた。
その動作は、信じられないものであった。
地球サイズの巨大な豆を指で受け止め、口元へと運んでいる。
豆よりもはるかに巨大な天使の指。
きめ細やかな、指の肌が、地球地上から大アップで映し出されていた。
海全体を覆って余りある、巨大な指。
その指が、運ぶ先は、天使のお口
指が退けられると、今度は信じられないぐらい大ドアップで、天使のお口が地球上空に現れていた。
海の端から端までを、もしくは陸の端から端までを、天使のお口が覆っている。
天使のお口は開くと、木星サイズにも達する。
太陽系一、巨大な、あの木星ですら一口で収められるほどの超巨大なお口だったのだ。
そんなお口が、地球サイズのお豆をぼりぼり、食っていた。
それを見て、唖然となる地球人。
指先につままれた豆と、開かれた木星サイズのお口を眺めて、みんな茫然となっていた。
天使は大きく、地球は小さい。
そんな感情が地球で渦巻く。

「ほら。天使ちゃん。みんなに迷惑をかけたのだから、謝って」
「ご・・・ごめんなさい。さ・・・さよなら」

ぺこりと一礼すると、天使は一目散に宇宙を駆け抜けていた。
まさか、自分の投げた豆のせいで、人類は滅びることになっているなんて・・・・天使失格だ。
恥ずかしい。それに情けない。
そう思って、謝ると天使はすぐに逃げてしまう。

「天使ちゃん。ちょっと待ってよ!」

逃げる天使を追う、もう一人の天使ちゃん。
その口内では地球よりも重く、そして硬いお豆を嚙み潰している最中であった。
ぼりぼりと、星よりも硬い豆を砕きながら、逃げる天使ちゃんの追うのであった。


終わり