<巨人の足指が現れた>
<親指攻撃力2500000>
<人差し指攻撃力1600000>
<中指攻撃力1500000>
<薬指攻撃力1200000>
<小指攻撃力1000000>
<あなたのステータス HP500攻撃力200防御力200>
「こんな化け物相手にどうやって戦えばいいんだ」
王様の命を受けた僕は巨人の正体を探るために巨人の屋敷に忍び込んでいた。
でも今の状況は最悪だ。
<あなたは巨人に見つかってしまった 巨人はあなたを見ています 現在あなたをロックオン中>
僕の体よりもはるかに大きい目玉が僕の体を貫いている。
巨人の目はまるでお月様のよう。
手の届かない、はるか上空から僕のことを見下ろしている。
猫に襲われるネズミは死ぬ時、こんな気持ちになるのだろうか?
怖くて、恐ろしくて、足がすくむ。
しかも見つかった相手は100万の攻撃力を持つ10本の足指ファミリーたちなんだ。
こんなのどうやって対処しろって言うんだよ。
<エネルギー放出率3% 足指五連攻撃 親指の身震い 人差し指の身震い 中指の身震い 薬指身震い 小指の身震い>
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
地面が揺れる。
足の指たちが狂ったように暴れ始めている。
<あなたにダメージ HP500/500→420/500→340/500→260/500→180/500→100/500>
そんな・・めちゃくちゃだ。
巨人の攻撃は五連続で、あっという間にHPを400も削られてしまった。
しかも巨人の奴、エネルギーを3%しか使っていない。
つまり、まだ97%も力を余しているということ。
これは本気とは程遠い攻撃ということになるのか。
<巨人の連続攻撃スキル発動 あなたの行動ターンをスキップします>
僕は表示石のナビに驚愕した
なんだって!? 連続攻撃スキル!
僕の行動ターンを飛ばして、行動ターンが相手に映る上級スキルだ。
そんな上級スキル想定外だ。
聞いてない・・・。
<エネルギー放出率0%>
<足の匂い攻撃 スキル風呂あがりが発動 巨人の匂いと石鹸の匂いによる誘惑攻撃が発動されます>
スキル風呂上り?
なんだそれは?
石鹸の匂いで誘惑ってなにそれ?
<足の匂い攻撃>
ポワワ~~~ン
ほのかな匂いが漂ってくる。
??なにこの匂い・・・?
「なんて・・・いい匂いなんだ・・・・」
<巨人の足の攻撃 スキル風呂あがり発動 あなたは麻痺した 混乱した 怯んだ 転倒した 混乱した 巨人に魅了されてしまった>
スンスンスン。
女の子の匂いに僕は鼻を鳴らす。
風呂上がりのためか、巨人の足はほんのり赤くなった。
そこから溢れんばかりに、女の子の甘い匂いが僕の脳に直接入ってくる。
百合のような女の子の香りが増長されている。
さらにその匂いが石鹸とブレンドされ、匂いはよりきつくものとなっており、凄まじいほどの匂いの波が僕に押し寄せていた。
甘い蜜の匂い。脳を溶かすほどの甘い匂いに僕はいっぱいになる。
ああ・・・なんていい匂いなんだ。
気持ち良くて、体が動かない。
「こんな綺麗な足に見下ろされて、僕はなんて幸せなんだ」
<警告 警告 あなたは混乱してしまいました 正気を失い行動不能>
僕は彼女の足の指の前に跪き、できるだけいい匂いを嗅ぐ。
するとますます体がしびれていき、ついに立てなくなった。
だけど、それでいい。このまま巨人に踏まれるなら本望だ。
<巨人のスキル 神の目を発動 あなたは顔を覚えられた あなたの匂いを覚えられた あなたのステータスを解析されてしまった あなたに興味をもたれてしまった>
バッドステータスが次々と表示されているが、今更どうでもいいよ。そんなことは。
巨人に顔を覚えられようが、匂いを覚えようがそんなことはどうだっていい。
それよりも僕は、彼女の足の匂いをずっと嗅いでおきたい。
そしてこのまま僕は死ぬんだ。
「がおおお!」
このまま巨人に殺されるとそう心を決めていた時、ドラゴンの咆哮が響いた。
「あれ? ドラゴンの奴まだ生きていたのか?」
巨人の屋敷まで一緒に同行していたドラゴンが僕に向かって急降下してくる。
「がおがおがお!」
え? なに?
ご主人様を助けにきました。早くわたしの背中に乗って。
そんな風に聞こえる。
ちょっと! ドラゴン待てよ!
僕は巨人の足の指をずっと嗅いでいたいんだー。
「おい。離せ! 離せよ!」
変な所で僕に忠実なドラゴンは、僕の体を咥えるとそのまま背中に乗せて飛び立った。
巨人の屋敷を飛びたち扉を抜けて、外へと脱出している。
「アリミーユ。ヤタカ!」
背後から巨人の声が響く。
その言葉の意味はわからなかったが、なんとなく「待って」と言っていたような気がした。
巨人の寂しそうな目が僕の背中に突き刺さる。
***********
「待って!」
わたしがそう叫んだ時には、もうコビトさんはいなくなっていた。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
それからわたしはベッドの中に潜り込んで、小さな小さなコビト君の顔のことを考えた。
つぶらで小さな瞳、小さいけど少し、たくましい整った顔。コビトさんの目、鼻、そして口。
朝も昼も夜も、ずっと小さな彼のことが頭に思い浮かんでいる。
・・・・
・・・・
・・・!?
「あれ? あれれ・・・?」
もしかしてこれ、ヤバいんじゃないの?
異世界来てからコビトさん以外の人と誰も話したことがない。
誰もわたしを訪ねてこない。
魔法で建てた丸太小屋の近くには人の影すら見えず、暇なときはずーと畑を耕して暇をつぶしてきた。
「やばい。やばい。やばい! このままだとわたしずっと一人じゃん!」
そう思うと急に怖くなってきた。
押しつぶされそうな不安が頭によぎってくる。
誰も訪ねてこない世界。誰もいない世界。
周りは地平線に囲まれ、人のいる気配が全くしない寂しい世界。
このままだとずっと、誰もいないこの世界で生きていかなければならない・・・のか?
そんなのは嫌だ! いくら一人でいるのが好きだと言っても孤独では生きていけない。
誰もいない世界で生きていける勇気も覚悟も今のわたしにはなかった。
「決めた! やっぱりもう一度あのコビトさんに会おう。会って話をしよう」
この世界がどういう世界なのか? コビトさんはどうやってこの世界を生きて来たのか?
改めて聞き出す必要がある。
でも、そこでネックになってくるのが。
HP10
攻撃力5
防御力5
この弱いステータスがネックになってくるのよね。
「もし、強い敵が現れたら一巻の終わりなのよね・・・」
ここまで弱いとスライムにすら勝てるのかどうか怪しい。
武器や防具はない。
戦い方を教えてくれる人も武器屋や薬屋も近くにはなかった。
アフターケアがなにもないこの状況でコビト探しなど、もしかしたらとんでもなく無謀なことをしようとしているのかもしれない。
なら、やめるか?
ここがどんな世界かわからないが、とりあえず屋敷に引きこもってさえいれば安全に暮らせる。
「冗談じゃないわよ。このままずっと一人で居るほうが死んじゃうわよ」
決まった。やっぱり探しに行こう。
危険を冒してでもコビトを探す価値は充分にある。
というよりも探さないという選択肢は最初からなかった。
なんとしても、コビトさんともう一度お話がしたい。
「これでよし! 問題ないよね?」
水魔法で洗濯した学校の制服に袖を通し首元のリボンをつける。
これで気が引き締まったような気がした。
「注意事項その一 足元には気をつけること 注意事項その二 コビトさんを怖がらせないこと」
忘れてはいけないが、わたしはコビトさんからすれば大巨人なのだ。
こんな小柄な乙女が大巨人なんて・・・ほんとは認めなくはないけど、まあ事実だから仕方がない。
ガリバー旅行記で出てくる巨人の国よりもさらに大きな巨人なんだから、そのふるまいには最大限注意しないといけない。
誤ってコビトさんの家を踏んづけたりしたら、目も当てられない。
敵対勢力として見られては大変なので、足元には最大限注意しようと思う。
あと、挨拶に行くときは手ぶらで行くよりも、なにか持っていった方がいいと地球に居た時、
近所のおばさんに教わったことがあるので、わたしが育てた野菜を手土産として持っていくことに決めた。
「これが一番立派な奴かな? コビトさんたち喜んでくれるといいなあ」
今朝取れたばかりの新鮮な野菜を学校のカバンに詰め込む。
まさか教科書を入れるカバンがこんなことに使われるとは、地球に居た頃には思わなかったけど、まあ仕方がない。
この世界ではいくら勉強しても何の役にも立たないから、今は野菜を入れるカバンとして使わせてもらおう。
「じゃあ出発!」
朝日が昇り始めると、いよいよ出発!
とにかく早くコビトさんに会いたい。誰かと話をしたい欲求で、わたしはいっぱいでした。
「なんとなくだけど、こっちの方からコビトさんの匂いがするような」
自分の鼻を頼りに、コビト探しの旅が始まる。
朝日に輝く緑模様の地面をローファーで踏みつけながら、コビトさんの匂いがする方向に向かって、わたしh歩いて行った
<スキル 神の嗅覚発動 コビトの匂いをサーチし目的地へ誘導します>
******
あり得ないぐらい巨大な巨人の屋敷を抜け、さらに迷いの森を抜けると、やっと王都が見えてきた。
「や・・・やっと帰ってこれた・・・」
<あなたの残りHP5/500>
迷いの森でカバやライオンや怪鳥に襲われ体はボロボロ。
回復薬草が切れた状態で、よくもまあ帰ってこれたと思う。
そんな奇跡の生還に偵察隊隊長も驚いている様子だった。
「おまえ本当にジョンなのか! 足はついているよな!」
隊長は目を白黒させていた。
よほど、僕の生還が珍しいと見える。
「なんとか、ギリギリですが、帰ってまいりました」
「はあー驚いた。まさか一番経験の浅いお前が生きて帰るとはなあ」
「隊長、これが巨人に関するデータです」
僕は巨人のステータスが書かれた書類を隊長に手渡した。
もちろん制作したのはこの僕。
傷だらけの痛々しい手で、詳細なデータを書いたんだよ。
「それはご苦労だった、えっとなになに、巨人のステータスは・・・!!」
<親指攻撃力2500000>
<人差し指攻撃力1600000>
<中指攻撃力1500000>
<薬指攻撃力1200000>
<小指攻撃力1000000>
使用する魔法
<伝説の水魔法ノアの箱舟>
<回復魔法ナオール>
「なんだこりゃ! 足の攻撃力がひいふうみい・・・・100万! 小指だけで100万もあるというのか!」
「はい。その通りです。隊長! この目で確かに見ました」
隊長が僕のことをじっと見てくれた。
これは光栄なことだ、普段隊長は、こんな目で僕を見ることはない。
尊敬の眼差しだ。
これでようやく僕も一人前の偵察員になれたのかな?
「くだらん」
ぽい
「え?」
せっかく作ったゴミ箱へとポイしてる。
え? なんで?
「なんだこれは! 巨人は高さ10万メートルの屋敷に住み、しかも伝説の破滅魔法、ノアの箱舟を使うとここには書かれているぞ!」
「はい。そうです。この目で確かに見ました」
「おまえ、気でも狂ったんじゃないか? 巨人族はただ図体ばかりでかい、あほおなんだぞ!
家を建てる技術なんてないし、そもそも巨人が字を読むなんてあり得ん。字も読めないような野蛮な種族がどうやって魔法を使うんだ?
それにこのステータスも怪しいな。いくら強くても100万はないだろう、100万は! 巨人が字を読めるその根拠はなんだ? 言ってみろ」
「そんなこと僕に言われても」
「そんなこと僕に言われても・・・・なんだ?」
「やばい!」
ここで粛清されると、思われたがそうはならなかった。
「まあいい、最初からお前には期待してなかった。そもそも経験の浅いお前に偵察なんか無理だ。当分は掃除と雑用を担当しろ。いいな」
そんなー! せっかく命懸けて調査してきたのにそりゃないよー
と叫びたいところだが・・・
「なんだ? 不満か?」
ギロリと隊長に睨まれてしまった。
ここで文句なんて言ったら、クビになっちゃいそうだから、グッと我慢する。
我慢・・・我慢・・・はあ・・・。
世の中理不尽、あんなに頑張って偵察したのに誰も認めてくれないなんて・・・。
迷いの森で受けた傷口が一層痛む思いで、僕はその場に立ち尽くす。
*
「そのような経緯があり偵察は失敗に終わってしまいました。王様。どうかお許しください!」
「うむ。偵察は失敗であったか・・・」
偵察隊隊長が王様の前で跪き、巨人の報告を行った。
その手にはジョンが作った報告書は持たれていない。
あの報告書は没にされたらしく、偵察は失敗だったと、そう王様に報告している。
「なんの手がかりも無しか? それは困ったのぉ。もしまた巨人が攻めてきたら一体どうしたらよいやら・・・」
「王様。このわたしが何とかしましょう」
王様の前に現れたのは若い大臣だった。
彼にはなにか妙案があるようである。
「王様。古代のゴーレムをご存じで?」
「古代のゴーレム? 古代ゴーレムとは前文明時代に制作された、あの大規模破壊用ゴーレムのことか?」
「はい。左様でごさいます。今から2000年ほど前、前古代文明を衰退させたと伝わる魔の禁断兵器。それが古代ゴーレムでごさいます」
「余もその存在は聞いておる。しかしゴーレムを記した古文書にはいくつか不可解な点があり、単なる伝説に過ぎぬと、そう学者が申していたぞ」
「はい。確かに「昨日まで」はそうでした」
「昨日まで・・とな?」
「はい。実は砂漠の向こうにあるドラルフ遺跡で今日、古代のゴーレムが発見されたとの一報が入ってまいりました」
「なに!? 古代ゴーレムが発見されたとな?」
「はい。王様。そこで提案なんですが。あのゴーレムを戦わせてみてはいかかでしょうか?」
「戦わす? まさかあの巨人と古代ゴーレムを戦わすつもりか?」
「はい。王様。ご察しの通りでございます」
2000年ほど前に滅んだと言われる古代文明。
その元凶である、古代ゴーレムを復活させれば巨人など目ではない。
一瞬で片が付く、これはいい考えだ。
「大臣よ。早速行動に移せ」
「ははー王様」
*
古代ゴーレムなら巨人に勝てる。
誰もがそう思ったようだが、しかし、唯一偵察員ジョンだけは違ったようである。
「ええ!? 古代ゴーレムと巨人を戦わせるですって! 隊長! それは本当なんですか?」
「ああ、本当だ。ちょうど今、ゴーレムのお披露目会をやっているぞ」
ズンズン!
グラグラと偵察員の会議室が揺れ始めた。
気が付けば、城壁の向こうに山のような巨大ゴーレムが聳え立っている。
<古代ゴーレムステータス>
<HP100000>
<攻撃力50000>
<防御力50000>
<高さ100メートル 魔法耐性レベル50 スキル頑丈 スキル連続攻撃 スキル自動回復>
「ジョン。見ろ、古代のゴーレムのステータスを。攻撃力が5万もあるんだぞ! こんなゴーレムが俺たちの味方になったんだ。巨人なんかに負けるはずがない!」
ゴゴゴゴゴと地響きを鳴らしながら歩く巨大ゴーレム。
その姿はまさに山のようだった。
王都の国民たちも、古代ゴーレムのお出ましに手を叩いて喜んでおり「これなら勝てる」「これなら巨人も怖くない」とみんな喜んでいるようだった。
「今からゴーレムのデモストレーションをします。皆さん森に注目してください」
ゴーレムを先導するドラゴン騎士団の隊長がそう叫ぶと、表示石が赤く光り始めた。
<危険 危険 これより古代ゴーレムのビームが発射されます>
表示石に、そのような表示がさえるとゴーレムの目が赤く光り始めた。
<古代ゴーレムの攻撃 ゴーレムはビームを発射した>
眩しい光がピカーと王都全体を包み込む。
そして次の瞬間、王都の近く森に大爆発が起こる。
ドカン!
ボーと燃え上がる火の手。
火の手は森の中央から発生して、森を焼き尽くしている。
<古代ゴーレムのビーム攻撃 エネルギー率98% 森のクリティカルヒット! 森に10000のダメージを与えた>
「うおおおおおおおお」
「すげえええええ!
「流石は古代ゴーレム、最強じゃんか」
街はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
ゴーレムの目からビームを出すと、あっという間に森は全焼。
緑豊かだった森が、一瞬ではげ山に成り下がっている。
「わかったか。ジョン。これで俺達王都民は無敵になったんだ。もう巨人なんて目じゃない。見ろ、ゴーレムはビームだけではなく、他にも・・・)
<古代ゴーレム スキルロケットパンチ 文字通りロケットのようなパンチを繰り出す スキルロケットキック 文字通りロケットのようなキックを繰り出す>
「なあ。これで分かっただろ? 古代ゴーレムが居る限り、王都に敵はいないのさ」
「・・・・・」
歓喜に沸き上がる王都民。
偵察隊隊長も「うんうん。そうだ」と王都民と一緒になって喜んでおり、誰しもが古代ゴーレムの力に酔いしれているようだった。
だが巨人のことを、もっともよく知る僕。ジョンだけは違う。
これは大変なことになった。
HP10万、攻撃力5万、防御力5万の古代ゴーレム?
目からビームを出し、ロケットパンチとロケットキックを搭載している古代の兵器だと隊長は言っているが。
「あれ? 古代ゴーレムって弱くね?」
それが僕の率直な意見。
もう一度表示石を表示させ、巨人のステータスを改めて確認する。
<巨人の体全体のステータス>
<HP100000000>
<攻撃力50000000>
<防御力50000000>
<巨人の足のステータス>
<親指攻撃力2500000>
<人差し指攻撃力1600000>
<中指攻撃力1500000>
<薬指攻撃力1200000>
<小指攻撃力1000000>
一方のゴーレムはというと
<古代ゴーレムステータス>
<HP100000>
<攻撃力50000>
<防御力50000>
弱い弱すぎる、
巨人と古代のゴーレムとの差は約1000倍ほどの差が開いている。
これを例えるなら巨象と子ネズミに匹敵するぐらいの戦力に開きがある。
とてもじゃないが、まともにやり合える相手ではない。
これなら、生まれたばかりの赤ん坊をプロレスラーと戦わせた方がまだ勝算がある。
「隊長、悪いことは言いませんから戦うのだけはやめましょう。あんなゴーレムごときで巨人は倒せませんよ」
僕はこの瞬間さえも、巨人の恐ろしさを思い出していた。
山のように巨大な足指、足の厚みだけでも、ざっと100メートルぐらいはある分厚い肉の壁。
足だけで山のように巨大。
しかも、その巨大さを感じさせないぐらい軽快な動きで足を操る怪物。
そうだ。巨人はただ大きいだけじゃない。普通の人間と同じように軽い身のこなしで動ける怪物の中の怪物なのだ。
「みなさん。あのゴーレムはダメです。力不足です。巨人と戦えるだけの力はありません、巨人はもっともっと強いのですよ」
僕は大通りに出て叫んだ。叫んで民主に訴えた。
「巨人のHPは一億です。足の指だけでも攻撃力100万を超える化け物なんですよー」
こんなゴーレムではダメだ。巨人の強さを侮ってはいけない。巨人はもっと大きくて頑丈で、神のような攻撃力を持っている。
こんなペラペラの鉄でできた、ゴーレムなんかで勝てるはずがない。
僕は恥を忍んで、大通りで巨人の強さを説明して歩く。
「ジョン。お前なにいってんだ?」
「そうだよ。せっかく古代のゴーレムが味方になったのに、祭りの邪魔しないでくれ」
「攻撃力100万の足指なんてあり得ないだろ。ジョン。お前は邪魔だ。あっち行けよ」
「そうだよ。HP1億なんて、表示石が壊れているんじゃないか?」
なぜだ? なぜ僕の意見を聞こうとしないんだ。
僕は直接巨人を見ているんだぞ。
王都で一番巨人に詳しいのになんで? 誰も耳を傾けてくれないんだ。
巨人はこんなもんじゃない。もっともっと強いゴーレムを持ってこないと話にならないのに・・・。
「ジョン。もうよせ。これ以上反抗的な態度を取ると、王都警備隊に目をつけられるぞ」
隊長の言葉に僕はハッとした。
気づけば鎧と剣で武装した、王都の兵士が僕を睨んでいるではないか?
「これ以上は何も言うな。俺の部隊から反逆者を出すわけにはいかんからな。ジョン。お前はもう家に帰れ!」
その日、僕は家のベッドで泣いていた。
こんなに悔しかった日は人生で一度もない。
僕は誰よりも巨人のことをよく知っている。
それなのにみんな僕を嘘つき扱いにして、半場反逆者のような扱いをしてくる、
こんなのおかしい間違っている。
間違っているはずなのに誰も僕の言うことを聞いてくれない。
疑問にすら思わないなんて悲しくて涙がボロボロと出てくる。
山のような足。
ちょっとでも足が動くと台風のような爆風が吹き荒れ、かと思えば脳までとろけそうになるぐらいの甘い匂いで誘惑してくる、
巨人とは悪魔のように強く、そして蠱惑の魅力も潜んでいるんだ。
今、目をつぶると巨人の足の指がフラッシュバックする。
恐ろしくて怖くて、でもどこか女性の魅力を持つ恐ろしい敵。
そんな巨人と全面戦争だなんて無謀すぎる。
よく考えてもみろ。
あの足の指がちょっと身震いしただけで僕のHPが500から100にまで削られたのに、巨人と戦うなんて、あまりにも無謀すぎるだろ。
しかも、あの時の巨人は僕と戦う意思を、これっぽっちも見せていなかった。
その証拠に巨人が起こした足の身震いは、エネルギー率3%程度と表示石に書かれていて、本気には程遠い僅かな数字だった。
3%の力で、剣で武装したこの僕を吹っ飛ばすなんて・・・怖い。恐ろしい。
巨人が本気になった時のことを考えると、絶対に戦わない方がいい。
もし巨人を、それこそあの恐ろしい10匹の指の怪獣たちが本気にさせてしまうと、どうなるか既に目に見えている。
あの指はいわばパンドラの箱なんだ。
開いたら最後。つまり敵として認識されたら最後、世界が滅びるほどの怪物なのだ。
やっぱり、あのゴーレムではダメだ。絶対に巨人は倒せない。よくて小指一本を倒すのがやっとだろうと思う。
「やっぱりダメだ。巨人と戦うのは得策じゃない。なんとかしてゴーレムを止めなきゃ」
布団を跳ね除け、僕は正装する。
王様に会わなきゃ。会ってゴーレムの使用をやめさせないと王都が・・・いや世界が巨人の素足に踏まれてしまう。
*******
朝出発してから、ずっと歩て来たけど、まだコビトさんは発見できていない。
「よいしょっと、ちょっと休憩」
流石に1時間も歩くと、足が痛くなってきた。
これも日頃の運動不足のせいかな?
もっとたくさん歩けるようになりたい。
「運動不足かもしれないけど、でも地面がブヨブヨして歩きずらいのよねー」
異世界の地面ってなんだか不思議。
どこまで行っても砂浜みたいにブヨブヨした地面がずっと続いている。
振り返れば足跡がくっきり残っちゃってるし変な感じ。
「さて休憩終わり、ええと・・・コビトさんの匂いは・・・」
<スキル 神の嗅覚発動 コビトの匂いをサーチし目的地へ誘導します>
「こっちの方向みたいね」
異世界に来てから、急に匂いに敏感になった気がするけど、まあいいでしょう。
匂いに鈍感になったのなら嫌だけど、よくなっているんだから良しとする。
「さて。ああ・・・ボロボロ・・・」
制服のスカートに砂粒のようなものがいっぱい、ついちゃってる。
汚れちゃったな・・・・。
「ほんと変な地面よね。砂粒もあり得ないぐらい細かいし」
スカートの砂を触っても全然ざらざらしない。
なんというか、すごっく細かい砂なの。
まあそれもいいでしょ。それよりも先を急ぎましょう。
よいしょと・・・??
<古代ゴーレムが現れた>
「え!?敵!うそ!」
頭が真っ白になった。
今まで敵なんて一人も出てこなかったのに、なに? 古代のゴーレム?
「こ・・・こわい・・」
体が震えるのを感じる。もう何をしていいのかわからない。
だって、わたしのステータスは・・・
HP10
攻撃力5
防御力5
こんなゴミみたいなステータスしかない一般人なんだ。
ゴーレムなんかに襲われたらひとたまりもないわ。
「早くどこかに隠れないと・・・」
と言っても、異世界は地平線ばかりで、隠れれそうな場所なんてどこにもなかった。
なら、逃げる!
逃げるしかない!
「・・・?? でもゴーレムってどこに居るの?」
逃げる・・・には相手の場所を把握しないと逃げようがない。
だけど周りにはなにも、ネズミ一匹いないじゃない。
<古代ゴーレムの不意打ち攻撃 ゴーレムはあなたにビームを放った ダメージは0>
「ダメージは0?」
ダメージは0ってことは既に攻撃を受けているってこと?
でも、どこにもいないよゴーレムなんていないわよ。
わたしはゴーレムの存在を確かめるため、一歩前に出てみることにした。
すると
<ローファーの地響き攻撃 ゴーレムにダメージ ゴーレムのHP0.005/0.010にまで減少>
「・・・・??」
ゴーレムにダメージ?
え! でもゴーレムなんかいないよ。今度は一歩下がってみた。
<エネルギー率40% ローファーの踏みつけ攻撃 ゴーレムに致命的な一発! ゴーレムのHP0.000/0.010>
<あなたは古代ゴーレムに勝利した 経験値0.001獲得 取るに足らない壊れたパーツをGETした カバンの中に入れますか? YES NO>
「いや、倒した覚えがないからNOだけど・・・」
さっきからわけがわからない。
ゴーレムなんてどこにもいなかったのに・・変なの。
まあいいわ。
敵に襲われることもなかったし旅を続けましょう。
それからわずか二歩歩いたところで、わたしの鼻がヒクヒクと波打った。
「近いみたいね」
コビトさんのいい匂いがする。
懐かしい、さっき会ったばかりなのに、もう遠い昔のように感じでしまう。
「匂いは下の方から匂ってきてるのかな?」
そうだった。そうだったよね。
コビトさんはコバエよりも小さいんだった。
だったら、わたしの足元に居ても全然不思議じゃないよね?
わたしは、そっと腰を下ろした。
なるべく、怖がらせないよにそっとだ。
注意事項その一 足元には気をつけること 注意事項その二 コビトさんを怖がらせないこと
これをもう一度読み返して、コビトさんをなるべく刺激しないようにする。
これは猫や犬などの野生動物にも言えることで、
突然激しい動きをしたら相手に警戒させてしまうので、わたしはなるべく優雅な動きで腰を下ろした。
「・・・ッ!! すご~~~~い! コビトの国だ~~~」
腰を下ろすと、目を見張るような素晴らしい街がそこに広がっていた。
形は小さいのに、一つ一つがとても精巧に作られている。
精巧に出来た街。博物館とかでたまに見るミニチュアなんか目じゃないほど、細かい作りの街が地面いっぱいに広がっていた。
これ本物の家なんだよね?
「すごいな~~~」
思わずため息が出る。
ミニチュアじゃない、生きた本物の街がそこにあった。
「あ・・いけない、いけない。コビトさんたちを怖がらせちゃいけないね」
そうだ。そうだった。
今のわたしは、おっきな巨人。
こんなかわいい子が巨人だなんて認めたくはないけど、コビトさんの視点で立ってみれば、わたしは間違いなく巨人だよね?
「ごめんね~、こんな大きな子が急に来たら誰だって怖いよね・・・」
わかってる。わかってるよ。
みんな、わたしの顔を見て逃げだしているんだもん。
まるでゴ×ラの来襲だ。みんなわたしから背を向け、波のように逃げている状況。
ちょっとショック。こんなかわいい子がやってきたのに逃げるなんてね~。でも仕方がない。
これが現実だ。これが今のわたしの置かれている現状。
嘆いたってしょうがない。今はとにかく最善のことをやるだけだ。
「クンクン・・・わたしの家に忍び込んできたコビトさんはどこかな?」
鼻を頼りに、コビトさんを探す。
<スキル 神の嗅覚発動 コビトの匂いをサーチし目的地へ誘導します 発見しました サーチ対象物はあなたの手から5センチ先の赤い屋根の家です>
「クンクン・・・この辺りかな? この辺からいい匂いが漂ってきてるけど」
コビトさんの匂いが一層強くなった。
いい匂い。甘い蜜のような匂いが赤い屋根から漂ってくる。
「ごめんね~。こっちのコビトさんに用があるから、ちょっと中を歩かせて」
城壁?のような壁を跨いで、わたしはミニチュアの街に入った。
プチプチとローファーの下で家が崩れる感触。
こうなってくると、いよいよ本物の怪獣になったみたい。
「ほんとごめんって! でも、一応つま先立ちになってるから許してよ」
キーキーと、甲高い声が足元から聞こえてきた。
コビトさん達、みんな怒っているんだろうなー。
でも許してよ。街の中に入らないと、コビトさんの家に行けないんだもん。
「ふう。やっと着いた・・」
つま先立ちになって、三歩ほど進むとようやく赤い屋根の家にたどり着いた。
ふう。この体制結構きついから早く引き上げよう。
「ごめんね、あとでちゃんと戻すから」
手を合わせて先に謝っておこう。
わたしは、いい匂いのする赤い屋根の家に手を差し向けた。
家を指でつまむ。
そ~~と壊さないように、細心の注意を払って持ち上げる。
「大丈夫。壊れてない?」
コビトさんの家は、わずか1ミリしかない極小サイズ。
わたしの爪先よりも小さな、よく見ないと見逃しそうになるぐらいの小さな家。
慎重に持ち上げないと壊しちゃいそう。
「え~~~なにこれ、超可愛いんですけど~~~」
赤い屋根の家の窓に小さな小さな、コビトさんの顔が映った。
めっちゃ可愛いやん。なんなんこの子?
そのちっぽけな家だけでも充分可愛いのに、窓に映ったつぶらな瞳が超かわいい~~~。
「こんにちは。コビトさん、相変わらず可愛いね」
きゅ~~~~と胸が締め付けられる。
なにこれ? 超可愛いんですけど!
前家で見た時から、ちょっと気になっていたけど、今見ると可愛さ100倍だ。
よーく観察すると彼は美少年? なんというか少女のような可愛さというか・・・・う~ん・・・。
コビトさんは・・・なんて例えたらいいのだろう?
ハムスター? 子猫? それとも子犬?
なんて言ったらいいのかわからないけど、とにかく超かわいい!
チマチマした、小さな腕をパタパタさせる仕草が母性本能をくすぐられる感じがする。
庇護欲が凄い。なんていうか赤ちゃんみたいに守ってあげなきゃって気持ちが、胸の奥からどんどんこみ上げてくる。
「コビトさん。落ち着いて、落ち着いてよ。ね? 何もしないから。本当になにもしないから。わたしの目を見て? 嘘ついている目じゃないでしょ、ね?」
こんなに優しくしてあげてるのに・・・。
どうやら、コビトさんは泣いているようだった。
小さい点のような目から、大粒の涙がこぼれ落ちている。
「こういう時どうしたらいいの?」
途方にくれそうになっていると、昔、近所のおばちゃんが言っていたことが突然脳裏に浮かび始めた。
「いいかい。赤ちゃんをあやすときはやさしーい目をするんだよ。どんなに赤ちゃんが泣きじゃくっても絶対に怒っちゃダメ。
赤ちゃんは不安で泣いているんだから、まずは赤ちゃんを安心させないとね。こうやってやさし―目であやしていたら、そのうち泣き止んでくれるから」
おばちゃんナイス!
そうだ。確かにそうだ。今のこの状況は赤ちゃんをあやす時と似ている気がする。
コビトさんと赤ちゃんは似たもの同士。
どっちもなんにもできない、泣くことしかできない存在なのだから。
ここは
「ベロベロバァ!」
舌を出してコビトさんをあやしてみることにした。
見よう見まねの拙いあやし方だけど、コビトさん泣き止んでくれるかな?
*****
「巨人だー巨人だー」
「巨人が来たぞー!」
王都でそんな悲鳴が上がると巨人の体が山の向こうに現れていた。
デカい、デカすぎる!
陽炎のようにモヤのかかった体が。アラムス山の向こうに聳え立っていた。
全長ははっきりとしないが標高1000メートルのアラムス山よりも巨人の方がはるかに大きい。
ズンズン。
規則正しい動きで揺れ動く地面。
その揺れの元凶は言うまでもなく巨人の履くローファーにあった。
黒い光沢を放った、巨人の履物が王都に向かってきている。
「古代ゴーレムよ、出陣せよ!」
ゴゴゴゴゴ!!
王都城から古代ゴーレムが出陣する。
腕を大きく振り上げながら飛ぶ姿は、まるで正義のヒーロみたいだ。
「頑張れー古代ゴーレム」
「王都を守っておくれー」
王都市民は空を飛ぶゴーレムに手を振り武運を祈っている。
「大変なことになったな・・・」
だが偵察員のジョン、ただ一人だけでが青ざめた様子で空を眺めていた。
自分の家を横切っていく古代ゴーレム。
王都民はみんな、その勇敢な姿に心打たれているが、どう考えても勝てる気がしない。
あんなペラペラの鋼鉄じゃあ、一瞬で巨人の靴に踏みつけられ、ペシャンコにされるのがオチだろう。
戦うだけ無駄。絶対に負ける。
「みなさん。応援している場合じゃありません。早く避難してください。巨人はすぐそこにまでやってきているのですよ」
巨人の一歩はとてつもなく広く、遠くに居ると思っても、すぐに目の前にまでやってくる。
それは巨人の屋敷で既に経験済みだ。
「なに言ってるんだ。ジョン、古代ゴーレムが負けるわけないじゃん」
「そうだよ。避難する必要なんかないさ」
「でも・・・早く逃げないと・・・」
「お! 今から攻撃を始めるみたいだぞ」
(ただいまより古代ゴーレムのビームが発射されます エネルギー充填率90% エネルギー消費率100%)
「なあ? 表示石にも書いてるだろう。エネルギー率100%って。ゴーレムが本気出せば絶対に負けるはずがないさ」
「うわー、俺今から鳥肌立ってきちゃったよ。ゴーレムの本気のビームだなんて、一生に一度見れるか見られないかの代物だぞ」
わいわいガヤガヤ。
王都はまるでお祭りのような人出であった。
みんな、ゴーレムが負けるなんて、これぽっちも思っちゃいない。
これから無謀な戦いが始まるのに、みんな呑気すぎるよ・・・。
「お、赤く光った!」
「ついに、ビームが発射されたぞ!」
<古代ゴーレムのビーム攻撃 スキル魔力上昇魔法発動! 魔力が高まり攻撃力が上昇します>
<古代ゴーレムの攻撃力50000から60000に上昇!!>
「おおすげえ! ビームが進化した」
「これなら負けるはずない」
<ビーム発射!!>
「おお、すげえ!」
「やったか!」
ビームは巨人の履くローファーに直撃した。
確実に巨人のローファーにぶつかった。
だが・・・・
<巨人のローファー 人工皮革の特殊スキル・・・・が複数発動!>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 頑丈レベルMAX発動>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 防火性レベルMAX発動>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 防水性レベルMAX発動>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 衝撃吸収レベルMAX発動>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 衝撃軽減レベルMAX発動>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 履き心地レベルMAX発動>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 魔法吸収レベルMAX発動>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 疲労軽減レベルMAX発動>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! しなやかレベルMAX発動>
<巨人のダメージ軽減スキルが複数発動します! ダメージ 10000→1000→100→10→0>
<ダメージは0 巨人の特殊スキルによりダメージは与えられませんでした>
・・・・・・
「ええええええええええええええええ!!」
王都にどよめきが走った。
巨人の履く、ローファーの特殊スキルに苛まれ、ビームを無効化している。
「そんなばかな! 森を焼き払うほどのビームなんだぞ。それなのに・・・なんで」
ゴーレムの渾身のビームは不発に終わってしまった。
しかも悪いことに
<ゴーレムはビームの反動で動けない>
ゴーレムはピクリとも動けなくなってしまっている。
まるで固まったように、そこに静止している。
<巨人はローファーを持ち上げた>
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。
不気味な音を鳴らしながら、持ち上がっていく巨大ローファー。
その大きさは標高1000メートルのアラムス山とそうは変わらない。
文字通り山のようなローファーが、古代ゴーレムのすぐわきに振り降ろされようとしている
ズシィイイイイイイイイイイイイイイイ
<ローファーの特殊スキルが複数発動!>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 急降下 ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 体重 ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 勢い ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! しなやかさ ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 硬さ ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 滑り止め ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 硬い靴底 ダメージ上昇>
<がそれぞれ発動 ローファーの攻撃力が上昇中!>
グオオオオオオオオオオオオオオオ
ズシィイイイイイイイイイイイイイイイ
<ローファーは古代のゴーレムを攻撃した miss ローファーの攻撃は外れてしまった>
<ローファーの振動攻撃! 古代ゴーレムはダメージを受けた HP50000/100000>
ローファーの振動だけで古代ゴーレムが転倒し、半分ものHPを失っているではないか。
流石の王都民もこれには動揺が隠せない。
「おいおい、なんだよ」
「あの巨大ゴーレムが転倒している!?」
王都民はみんな揃ったように顔を青ざめ「まさか」といったような顔をしていた。
だが、これはほんの始まりに過ぎなかった。
巨人はゴーレムのことなど眼中にない。
足元など最初から見ておらず、それよりも王都の方に目が行っている状況。
巨人が王都へと迫ってくる。
その時つられてローファーも一緒になって動いてきた。
ズシィイイイイイイイイイイイイイイイ
<ローファーの全体攻撃! 古代ゴーレムにクリティカルヒット! ダメ―ジ999999999 ダメージ99999999999 ダメージ999999999>
<古代ゴーレムのHP0 HP0 HP0 HP0 HP0 HP0>
<古代ゴーレムは壊れたパーツになってしまった>
・・・・・・
「きゃーーーーーーーーー!!」
「うああああああああああ!!」
この瞬間、王都はパニックになった。
巨人の無意識の攻撃。
足元など全く見ずに古代ゴーレムを踏みつけた
その間、わずか数秒、数秒の間にゴーレムを鉄の塊にしてしまったのだ。
ペシャンコになったゴーレム。
その姿はまるで潰された蚊のように哀れな姿だ。
<巨人の完全勝利です>
「うああああああ」
「逃げろおおオオオ!」
王都民の尻に火がついた。
高みの見物はもうできない。
古代ゴーレムが、やられたということは今度は自分たちが踏みつぶされる番かもしれない。
そうなったら、お終いだ。あの巨人に勝てる兵器はもうない。
王都の中に入ってきたら、それこそお終いである。
「メルモーゼ・・・パリヲ・・・」
ふいに巨人が口を開く、すると同時に煙が激しく噴きあがった。
巨人の口はまるで火口のように見えた。
湯気のように熱々の熱気が巨人の口から漏れ出し、その息吹が王都に降り注ぐ。
「くそ・・なんだこれ」
「あつい・・・」
<巨人の息吹攻撃 特殊スキル熱気 熱で王都を蒸し焼きにします>
表示石に表示されているように、王都は蒸し焼きにされていた
温度計をみると気温が36度を差している。
真夏のような暑さ。
うだるような暑さに体力が奪われ、みんな汗だくになっている。
「パルタ・・・アルヤン」
「うあああああああああ」
「巨人が城壁を超えて来たぞー!」
古代ゴーレムの残骸で汚れたローファーが、王都外城壁を跨いで入ってきた。
<ローファーの特殊スキルが複数発動!>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 体重 ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! しなやかさ ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 硬さ) ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 滑り止め ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! 硬い靴底 ダメージ上昇>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! つま先立ち ダメージ軽減>
<地球産人工皮革 特殊スキル発動! ゆっくり ダメージ軽減>
ズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!
飛ぶ飛ぶ飛ぶ。すべてが吹き飛ぶ。
山のような靴が王都に降ってきた。
神をも驚かすほどの、渾身の一撃。
巨人は重々しい靴を強烈に振り下ろし、王都の内部にまで入ってきている。
「僕も・・・逃げなきゃ・・・」
だけど、もう手遅れ・・・かな?
巨人はもう目の前。
手を伸ばせば届く距離にいる。
靴の上に聳え立つ、白いパンツ。
巨人は、パンツを見られてもなんとも思わないのか?
こんな堂々と足を広げて(実際には広げてない。大きいからそう錯覚しただけ)僕たち王都民にパンツを見せてつけてきている。
しかし、近くで見ると、なんて大きさなんだ。
小さな虫にでも、なった気分にさせられる。
逃げることができない、動くことができない虫。
巨人の動きに比べると、僕たち王都民はあまりにも遅すぎた。
逃げることすら許されない、デカいくせに機敏な動きになすすべがない。
「ペムナ・・ガクト・・・」
巨人がそんな轟音を振るわせうると、天から二本の柱が降ってくる。
パンツよりもはるかに高い所から何かが降ってくる。
「これは・・・巨人の腕!」
最初は本気でそう思った。それぐらい巨大な物だったのだ。
だけど違った。腕かと思ったものは実は指。
二本の指が僕の家を挟もうとしている。
「なにするんだ。やめろやめろ!」
だけど、指は挟むのをやめてはくれない。
むしろその逆、指はさらに力を加えてきている。
引き締まる指の筋肉たち。
水道管をさらに太くしたような紫の血管が急に引き締まり、そして急激に硬くなっていた。
「やめろ! 僕の家に触るな。おい、まさか持ち上げるつもりじゃないだろうな?」
その予感は当たらなくてもいいのに、見事当たってしまった。
巨大クレーンのように指が、僕の家の両側から挟んでいき、家の土台ごと持ち上げようとしている。
ゴゴゴゴゴゴゴ
<危険 危険 家が危険です 倒壊する可能性があります>
<家のHP30/500>
立っていられない揺れとはまさにこのことで、本棚や衣類用の家具が床に散乱していた。
天井からランプが落ちてくる。そして家具が暴れるように動いている。
壁には大きな亀裂が入っている、天井の埃が雪のように降ってきた。
僕は泣きながら、その揺れに耐え必死に神に向かって祈った。
「神様! どうか僕を助けてください」
しかし現実は非情であった。
僕の家は持ち上げられ、天へと連れ去られてしまった。
「やば! どんだけ高いんだよ・・・」
海が丸く見える。ここは・・・宇宙か?
とんでもない高さだ。こんな高い所ドラゴンでも来ることができない。
「ひ!」
ドラゴンすら来られない、ものすごい高みに巨人は立っていた。
巨人は僕の家をまじまじと見つめ、そして僕のいる窓の方へと目が近づけられた。
「メガモ、アキタチイイイイイイイイイイ」
ギィイイイイイイイイイイ
う・・・うるせええええ!
近くで、爆弾が破裂していたような凄まじい音量。
耳がおかしくなる!
「ひ!」
ニチャアアアアア
スローモーションのように、ゆっくりと口が開く。
その暗闇に包まれ口の中からネバネバした、大黒柱のように太い透明な唾液の塔が幾重にも連なり、口内の中を聳え立っていた。
僕は巨人の口の中をまじまじと見せつけられている。
巨人の口はまるで海のように唾液があふれ出ており、唾液の泡が舌の上に溜まっていて気味が悪い。
さらに目を向けると口内の中をズラリと歯が、まるで扇状のように広がっていた。
前歯、犬歯、奥歯。
それらの歯は、日常的に見る普通の形の歯だけど、大きさはだけは異様の中の異様。
まるで洞窟に生えている鍾乳洞をもっと規模を大きくしたような不気味な形をした歯。
大きさが変わるだけで、歯がこんなにも不気味に見えるなんて、僕自身も驚いている。
その証拠に下と上にそれぞれ生えそろっている歯は、どれも100メートルはありそう。
もしかしたら古代ゴーレムの体よりも一本の歯方がデカいかもしれない。
一つの城にも匹敵するような、とんでもない巨大な歯が、10や20も当たり前のように口内に生えている。
歯を見せるということは、それすなわち、いつでも僕を噛み殺せるという巨人の意思表示。
首元に鋭い剣を突きつけられているような、恐ろしい状況に僕は陥っている。
「やめてくれ。僕を食べないでくれ」
泣いて頼み込み。そこに男のプライドなんてものはない。
舌に絡まれ転がされ、ゴーレムサイズの歯に処刑されるなんて、そんなの絶対に嫌だ。
でも現実は非情であり、鋭く尖った100メートルの犬歯が僕の体を狙っている様子。
「今か、今か、早く食わせろ」と舌が唸っているように見える。
「お願い。お願い。僕を食べないでー」
「ふ・・・っふ・・・っふ・・・ニチャアアアアア」
急に筋肉が緊張した動きを察知する。
巨人が口を大きく開けて、僕をカプリ・・・・??
食べなかった。代わりに舌が現れて。
「ベロベロ・・・バァー」
巨人が舌を出してベロベロさせていた。
「な・・なにをやっているんだ・・・」
続くかも