むかし、むか~し、あるところに、大きな湖がありました。

 森深く鬱蒼とした山々に囲まれたこの湖は半径だけでも二里(約8キロ)程もある湖で、周辺には幾つかの村が点在しており、小さな畑や田んぼを作って質素に暮らす人々が住んでいました。

 その村のひとつに、恋仲同士の若者と16、7程の娘、おなみが暮らしていました。
 ふたりは将来、その時が来たら二人っきりで暮らそうと話していましたが、お互いの家には病弱な家族しかおらず、若い働き手として家を抜けることは出来ないでいました。
 それでもふたりは仕事の終わった夕暮れ時に毎日会って、お互いの気持ちを確かめあったり、将来結婚した時の空想をしたりして毎晩仲睦まじく過ごしていました。


 そんなある日の事ーーーーー。

 夕暮れ時、いつものようにおなみが若者に会いにいくと、若者は沈んだような表情で湖を眺めていました。
 不思議に思ったおなみは若者に近づき、尋ねました。

「………あにさん?どうかしただか?あにさんのそんな顔、おら見たことねぇ。どうしただ?」

 若者は不安そうに歩み寄るおなみに気が付くと、ふか~いため息をついてから、湖の方を見つめたまま静かに話し始めました。

「………なぁおなみ。実はな、おらもうこうしておめぇと会えなくなるだ………。」

「え………?」

「おらの家は…やんごとねぇ理由で湖の向こう側に引っ越すことになっただ……。もう、おめぇとはもう会えねぇ………。」

 若者の突然の告白に驚くおなみだったが、それよりももう二度と若者に会えなくなるということにおなみは納得がいきませんでした。

「………嫌だ。おら……あにさんと会えなくなるなんて……嫌だ。」

「そりゃあ、おらだって………。」

 おなみは足元の石っころを湖に蹴飛ばすと、若者に詰め寄りました。。

「嫌だ、嫌だ。おら、あにさんと離れたくねぇ。あにさん、おらも一緒に連れてってくれや。」

「でも……おめぇもおらも、家の手伝いしなきゃ、やっていけねぇだろ?」

「そ、そりゃあそうじゃが…………………。おら、あにさんと離れるの……嫌じゃ!」

 ふたりの間に気まずい空気が流れます。おなみは若者から少し離れた場所に座り込んでしまいました。若者も気まずそうにしながら、相変わらず湖の向こうを見つめていました。

 暫しの沈黙が流れました。

 すると、若者は何かを思い付いたかの様に立ち上がり、おなみの手をとって言いました。

「そうじゃ!おなみ……おら、向こうさ渡ったら、毎晩湖の近くで火を灯すだ。」

「………?それで、どうするんじゃ?」

「おら、何があっても必ずおなみのことを想いながら火を灯すだ。そしたら、おなみもその火を見ておらのことを想って欲しいだ。夫婦(めおと)になるまでの辛抱だ、そうするべ………な?」

「……寂しいけど仕方ねぇな。あにさん、毎晩火を灯してくれな?きっとな?」

「あぁ、きっとだ!」

 ふたりは手を握り合いながら、顔を近付けて口づけを交わしました。暫しの別れを惜しむように。


 ※


 そして、次の日がやってきました。

 その日は若者が言っていた通り若者とその一家が家を閉めて、湖の反対側にある村へと引っ越していきました。
 おなみは家の手伝いをしている最中もずっと若者のことを考えていました。
 若者のことを一時も忘れられませんでした。

 そして、ようやく夕暮れ時になりました。
 手伝いを終えたおなみは近くの水辺で、ひたすら若者が火を灯すのを待っていました。

 徐々に日が落ちて辺りが暗闇に包まれ始めました。
 秋の夜風は肌寒く、おなみはかじかんだ指先をはぁっと、息で暖めました。

 するとーーーーー。

「………あ、あれは………。」

 おなみが見つめる先、湖の向こう側にボゥッ、と小さな火が灯されるのが見えたのです。

「ついた……あにさんの火だ………!」

 おなみは向こうの村から自分の為に火を灯してくれる若者のことを想うと、胸が熱くなった。

 こうして、毎晩夜になると湖の向こう側に火が灯るようになった。
 そして、おなみも毎晩火が灯るのを待つ日々が続いた。


 ーーーーー数日後。

 いつものようにおなみは水辺で火が灯るのを眺めながら、若者のことを想っていた。

「あぁ……あにさんはあそこにおるんだな。あそこにいて、おらのことを想っててくれてるんだな………。」


「はっ……はっ……はっ……はっ……!」

 いつの間にか、おなみはあにさんの火を目指して走っていました。

 おなみの住む村から若者が住む湖の反対側まではたっぷりと二里(約8キロ)あり、また冬が近いこともあって身が凍る程の寒さに包まれており、とても若いおなごであるおなみには厳しい道のりでした。
 その上、辺りは闇のように暗く、おなみの走る道は手入れもされていない山道だった為、命知らずな行為でした。

 しかし、それでもおなみは若者の火を目指してひたすら走って、走って、走り続けました。


「……………。」

 パチ………パチ………

 若者は焚き火をしながら、ただじっと湖の反対側を見つめていました。

「はぁ………おなみ………。」

 若者もまた、恋仲であるおなみのことを想い続けていました。


「あにさん。」

「!」

「おら、来たで………。」

「おなみ!おめぇ………!」

 突然現れたおなみを見て、若者は喉から心臓が出る程びっくりしました。
 向こう岸にいる筈のおなみが、目の前に現れたのですから。

 おなみは若者に駆け寄り、飛び込むように抱き付きました。

「はぁ……はぁ……おら、駆けて来たで。」

「おめぇ、無茶するなぁ………!」

「なんでもねぇ!おら、あにさんに会いたくて………。」

「おなみ………。」

「あにさん………。」

 おなみは若者に会えて、嬉しさのあまり少しだけ涙ぐんでいました。
 よく見ると、着物は木の葉や土で薄汚れており、わらじを履いた足は所々傷のようなものが出来ていました。
 普通ならば夜に往復することは決してしないような険しい道のりを、おなみは若者への想いひとつを糧に、ここまでやってきたのです。

 暫く抱き合った後、おなみは着物の胸元から細い竹筒のようなものを取り出しました。

「あにさん、これ………。」

「何だ?」

 若者はそれを受け取り蓋を開けてみると、なんと中には温かそうなお酒が入っていました。

「こりゃあ酒だ!おなみ、おめぇこんなものまで持ってきただか!?」

「あにさん、呑んでくれや。」

 おなみの体温でまだ温かいお酒を、若者はぐいっと呑みました。

「んぐ……んぐ……っぷはぁッ!あぁうめぇ、こりゃあうめぇ!」

 寒い中焚き火で寒さを凌いでいた若者にとって、身体の芯から暖まるようなおなみのお酒は、最高のお土産でした。

 嬉しそうな若者の笑顔を見て、おなみは満足げでした。
 おなみはすっくと立ち上がると、若者に声をかけました。

「あにさん………。そしたらまた明日、火を焚いてくれな?」

「おなみ………?」

「ふふっ♪また来る!」

 そう言って手を振り、おなみは茂みの向こうへと消えていきました。


 ※


 それからというもの、おなみは毎晩毎晩若者の灯す日に向かって、湖の反対側へ通い続けていました。
 いつも必ずお酒の入った竹筒を胸元にしまい、あにさんのことを想いながらひたすら往復4里(約16キロ)の山道を熱心に走る毎日を過ごしたのです。
 雨の日も、風の日も、霧が立ち込める日でも、おなみは若者の火を目印に毎日欠かさずに走り続けました。

 若者はおなみが足しげく来てくれることに大喜びでしたが、ある日、あることに気が付きました。

 日を重ねるごとに、おなみが辿り着く時間が早くなってきていたのです。
 着物は相変わらず木の葉や土で薄汚れていましたが、おなみのか細い手足には傷ひとつ見られなくなりました。
 更には、竹筒の中のお酒が日を増すごとに熱くなっていき、冬間近にもかかわらずまるで出来立てホヤホヤのように火照ったお酒が届くようになっていったのです。

 不思議に思った若者はおなみに聞いてみました。

「………おらぁ、家を出る時に竹筒を抱いて出るだ。ここに来るまであにさんが恋しい、あにさんが恋しいと想いながら走り続ける。そうすりゃ、ここに着いた時にはこんなに熱くなってるだ。」

 若者は、おなみの一途な気持ちに涙が出る程嬉しく思いました。
 おなみもまた、自分の想いが通じて嬉しかった嬉しかったのです。

 おなみの若者を想う気持ちは募るばかりでした。


 夜中過ぎの道のりを戻ってくると、もう既におなみは若者のことで胸がいっぱいでした。

「おらぁ……飲めるもんなら湖の水を全部飲んでしまいたい………。そうすりゃあ、遠回りせずにあにさんのもとへ真っ直ぐ行ける………。」


 ある晩、おなみは湖の向こう側に火が灯ると、その場で着物を脱いで、湖の中へと入っていきました。
 この頃には雪が降るのも時間の問題で、湖の水も吹き続く風も身を刺すような冷たさでした。

 しかし、おなみの胸はあにさん恋しや早く会いたやと熱い想いでいっぱいで、湖の水を温くしていったのです。
 おなみはあにさんの火を目指して、真っ直ぐに広い湖の中を泳いで行きました。

 真っ直ぐ泳いで向こう岸に着いた時には、両手に一匹ずつの魚を掴んでいました。
 おなみは、胸に挟んだホカホカの竹筒と二匹のビチビチと動く魚を持って、ずぶ濡れの状態のまま、若者のもとへと向かいました。

 若者はいつもよりも早く来たおなみを見て驚きました。

「お、おなみ!?こんなに早くどうして来られただ?それに……その姿……何で素っ裸で全身ずぶ濡れなんだ………?」

 おなみは若者の質問に答えずに、両手に掴んだ魚を差し出した。

「っ!?おめぇ、この魚………一体どこから………?」

 おなみはクスッと笑うと、またもや答えを言わずにこう言いました。

「あにさんは黙っておらが来るのを待っててくれればえぇ。なんにも心配することはねぇ。な、あにさん。」

「だ、だけんどおめぇ、そのかっこは流石にちょっと……。」

「問題ねぇ。あにさんに会えさえすれば、おら何にも恥ずかしいことなんかねぇだ。さ、その焚き火でとれたての魚を焼いて食うべ?」

「……………あぁ………。」

 その後、若者はおなみがとってきた魚を焚き火にくべて、お酒の肴にしました。おなみはお酒と魚を美味しそうに食べる若者を見て満足そうな表情を浮かべていました。


 この日は珍しく、おなみは若者に寄りかかったままうたた寝をしていました。
 おなみのあらわになった形の良い胸が若者の身体に押し付けられ、下を向くとおなみの初々しいアソコが丸見えでした。
 若者は目のやり場に困りました。

 しかし、若者はそんなことよりももっと困ったことがありました。

 若者は、段々とおなみのやることが尋常なものには思えなくなってきたのです。
 自分が幼い頃からよく知っているおなみが、徐々に人間離れしていっている……。
 若者はそんな不安に駆られて、愛するおなみのことが怖くなってきたのです。


 次の日。

 若者は火を灯すと、まさかと思いながら湖の反対側を眺めていました。

 そうするとーーーーー。

「……お、おなみ……まさかおめぇ………。」

 若者の目に映ったのは、湖のど真ん中を平気で泳いでくる、愛しのおなみの姿でした。

「この凍るような湖を……泳いで………?」

 若者は思わず腰を抜かしてしまいました。

 おなみの行動は明らかに異常でした。
 いえ、行動だけではありません。
 普通の人間なら間違いなく凍死するであろう凍える湖を、体温を保ったまま進んできているのです。
 もはや、おなみ自身がおかしい存在になっていました。

 よくよく考えれば、おなみは最初からまともではありませんでした。
 日中の家の手伝いを終えてから、往復4里(約16キロ)もの距離を毎晩走って通うには、まだ16、7の娘っこであるおなみには到底無理な話でした。

 そして日を重ねるごとに熱くなるお酒も、いくら体温で温められたとはいえ、この寒い中であそこまで熱くなる筈がありませんでした。

 そして何よりも、いくら恋い焦がれているとはいえ、極寒の湖に長い間浸かって生きている訳がありません。

 尋常でない体力も、想うだけで身体が本当に熱くなる体質も、ついでに魚を捕らえる腕前も、素っ裸でもちっとも動じない精神もーーーーー。

 何もかもが、自分の知っているおなみという人間とは全くかけ離れてました。


 若者はあまりのことに暫くこちらへ泳いでくるおなみを見ていたましたが、突然、全身に寒いものがゾッと走るのを感じました。

「ひょっとして……おなみは魔性のモノにとり憑かれているのではねぇのか……?」


 その晩、若者はおなみの差し出すお酒を呑みませんでした。

「……?どうしただ、あにさん?どこか気分でも悪いだか?」

「………おなみ。もうおめぇはここには来ちゃならねぇだ。」

「……え?どうしてだ?おら、あにさんに会いたくて来るだ。会えれば嬉しいから来るだ。」

「おなみ……おめぇのやってることは……普通じゃねぇ………。」

 若者の言葉を聞いておなみは暫しポカンとした表情をしていましたが、急に真面目な表情になると、若者に詰め寄りました。

「嫌だ!おら会いに来る!あにさん、おらが来るの嫌になっただか?」

「そうじゃねぇ……そうじゃねぇが……。」

 若者の悲しそうな顔を見て、おなみは取り乱したように首を横に振ります。

「嫌だ嫌だ!おら、あにさんの所に来る!どんなことをしてでもあにさんに会いに来る!」

 おなみの目には大粒の涙が溢れていました。

「あにさん……火を必ず灯してくれな?必ず灯してくれな?灯してくれなぁ……?」

「……………あぁ………あぁ………。」

 おなみの必死の懇願に押し負けてしまい、若者は明日の晩も火を灯すと約束してしまいました。


 ※


 次の晩。

 この日は雲がたれ込めて、みぞれが降っていました。

 おなみは極寒の中全裸で若者の火が灯るのをずっと待ち続けていましたが、いつもの時間になっても向こう岸に火が灯ることはありませんでした。

 とうとう待ちきれず、おなみは雪降る湖の中へと入っていきました。

 若者はきっと火を灯してくれる。
 湖の真ん中からでもその火を目指して泳いでいけばいい。
 おなみはそう信じて湖の中心へ進んでいきました。


 しかし、この日は若者の火が灯ることはありませんでした。


 若者はおなみのことが怖くなり、あえて火を灯さなかったのです。
 湖の向こうから来るであろうおなみを警戒しての行為でした。

「………おなみ………。」

 若者は罪悪感に苛まれながらも、恐怖心の方が勝っていました。
 警戒をしながら湖の方を見張っていたのです。

「……………?あれは………おなみ、か……?」

 若者は、湖の中心に灯る赤い火の玉を発見しました。
 おなみはまたしても全裸の姿でしたが、その身体は真っ赤に燃えており、周囲の水が蒸気となって辺りに立ち込めていました。
 若者を想うおなみの強い気持ちが異変を起こしていたのです。

「や、やっぱりだ………!おなみのやつ、化物になってしまっただか………!」

 湖の中心で燃え続けるおなみを見て、若者は青ざめていました。
 もはや人ではなくなってしまったおなみに怯えながら、若者は近くの草むらに身を隠しました。

 若者の歯がガタガタと音を立てます。
 ただでさえ寒いのに、身体中から冷や汗が止まりません。
 若者のムスコもシュンと縮み上がってしまいました。
 若者は早く溺れ死んでくれと神や仏に願い続けました。
 おなみに対しての恋心は既に消え失せていました。


 一方、おなみは火が灯るのをただひたすらに待っていました。

「あにさん………火を……灯してけれ……。」

 そう呟くおなみの身体は、湖の冷たさが堪えてきたのか段々と熱さを失っていきました。
 流石のおなみも長時間凍える湖で立ち泳ぎを続けるには限界がありました。
 胸から溢れる熱い想いも、いつも通りに火が灯らない不安からか徐々に冷えていったのです。

「あにさん………どうしてだ………?どうして火を灯してくれねぇだか………?おら、火が見えねぇとあにさんのもとに行けねぇのに………。どうして………?」

 おなみの体力は限界に近付いていました。全身が人並みの体温に戻り、手足の自由が利かなくなってきました。

 思うように立ち泳ぎが出来なくなったおなみは、音を立てることなく静かに沈んでいきました。
 真っ暗な闇夜から更に闇深い水の底へと堕ちていったのです。

(あにさん………あにさんに会いたい………。)

 朦朧とした意識の中、おなみは死ぬ間際でさえ若者のことを想っていました。
 この執念とも言える強い想いがなければ、おなみはとっくに死んでいてもおかしくありませんでした。

(あぁ……飲めるもんなら、この湖の水を全部飲んでしまいたい……。そうすりゃあ、溺れずにあにさんのもとへ行ける……。)

「……………ごぽっ……………。」



 その頃、若者はおなみがようやく力尽きて湖の底へと沈んでゆくのを見て、ホッと胸を撫で下ろしてしました。
 化物と化したおなみが遂に死んだのです。

「おなみ……おめぇに罪はねぇが、どうか堪忍してけれ……成仏さしてけれ………。」

 そうして、若者が手を合わせて念仏を唱えていたその時でした。

 ズ………

 ズズ………!

 ズゴゴゴゴ………!!

「………!?」

 突如、目の前の湖が荒れ出したかと思うと、湖の中心に巨大な渦巻きが発生していたのです。

「な、なんだ………!?」

 渦巻きはどんどんと大きくなり、なんと湖の水位が物凄い勢いで下がっていったのです。
 そして、同時に湖の中から巨大な物影が見えてきたのでした。

「……!お……おなみ……………!?」

 そう、湖の底から現れた巨大な物影の正体は、湖の水を飲み干して身体が巨大化したおなみだったのです。

「………ぷはっ。………ふふっ、あにさん。おら、会いに来ただ………火は見えんかったが、おら、あにさんにどうしても会いたくて来たんだぁ………うふふ………。」

 おなみは笑っていました。

 身体は山のように大きく、湖の水を全て飲み干し、全身は真っ青になり血の気も感じさせませんでしたが、おなみは笑っていました。

 おなみに見下されていた若者は、巨人と化したおなみを見て腰を抜かしました。

「ひえぇ!お、おなみ、すまなんだ!おらが悪かった!だ、だからどうか許してけろ~!」

 身を伏せて必死に命乞いする若者でしたが、小さな若者の声は巨大なおなみの耳には届きませんでした。

「あにさん、おらもう我慢ならねぇだ。あにさんのそばに居たくて仕方ねぇ。あにさんから離れたくねぇ。だからあにさん………今すぐ夫婦(めおと)になって、ず~~っと一緒に暮らすべ………?」

 そう言っておなみは若者に手を伸ばし、むんずと若者を摘まみ取ってしまいました。
 そして若者の全身を大きな舌でべろりと舐め、若者の味を堪能しました。

「ひぃ、ひいぃ~ッ!」

 おなみのよだれでベトベトになった若者は、情けない悲鳴を上げることしか出来ませんでした。

 ズシン………!

「さぁ………イクべ、あにさん♪」

「あ………あぁ………。」



 その晩、湖の周辺で大地震が起き、周りにあった村は全て全壊してしまいました。

 数日後、他の地域から人々が様子を見に来ると、以前と変わらない美しい湖が広がっていました。

 ただ、その湖には魚が一匹も住んでおらず、水質も粘り気があり匂いも異様なものでした。


 湖の周辺に住んでいた住民たちは全員姿をくらまし、行方がわからないそうです。