「貴女達新人さんの下着はこれ」

リョーコ先生が大きなダンボール箱いっぱいのブラとショーツを開けてくれた。
全部脱いで着替えるようにとは言われてたけれど、まさか治安省の制服が下着まで指定されてるなんて思ってもいなかった。

「え。でも、何ですかこれ? こびと?」
「うふ。そうね。こびとね」
包装のビニールを破って取り出すと、わずか数センチほどの全裸の男に見えるこびとは突然目を覚まし、周りを見渡して戸惑っているように見えた。

「もぞもぞしてるし、何か言ってる。生きてるんですか?」
「ちゃんと生きてるわよ」

手足は自由みたいだけど、どんな方法か、腰のあたりが下着に固定されているみたいで、目の高さまで掲げても落ちたりはしない。

「あは。かわいい」
「ねえねえお前、名前はー?」
「コワイコワイタスケテタスケテ」

目を合わせて話しかけると、こびと達は怯えて卑屈に許しを乞う。このへんは普通の男とまるで同じ。
リョーコ先生がにこにこと見てる。

「初々しいわね。でもきっと、すぐに慣れちゃうと思うけど。ううん、慣れてもらわないとね」

どういう意味か分からない。こびとなんて初めて見たから。
これはもともとこういう生き物? それとも、縮小された男なのかな。
見た感じだと、ブラやぱんつにはそれぞれ2~3人のこびとが固定されている。
袋を破るまでは、ずっと眠ったままみたい。

「でも、このまま着るんですか?」
「そうよ?」
「くすぐったそう」
「くすぐったいわよ」

やっぱり意味が分からない。くすぐったい思いまでして、どうしてわざわざ、制服の下着にこびとを貼り付ける必要があるんだろう。
それに、こんなものを着てお仕事したら。

「簡単に潰しちゃいそうですー」
「簡単に潰れるわね」
「潰したら、やっぱり死にます?」
「死ぬわよ。だって、生きてるもの」

リョーコ先生はやっぱり笑って、そう言った。







その少しだけ前。

「見て見て。お巡りさんだ」
「あれ。男もいるねー」

脱いだ服を脇に畳みながら、下着姿の少女達が、大きなガラス窓の遥か下を見て話している。
巨大な治安省の本部ビルの高層。下部組織の警察局の朝礼さえも、彼女達は珍しそうに。
凛としてかっこいい婦警に混じって、少数ながら見える男性警官に興味しんしん。

「お腹空いた時に食べるのかな」
「偉い人の奴隷じゃないー?」

楽しそうに、思い付きを口にする。
少女達、さなえとちあきは、厳しい試験をパスした将来の幹部候補。言わば、エリート中のエリート。
けれど、治安省にとっては生まれたばかりのヒヨコも同然。まだ任務経験もない彼女達は、世間に疎い。
成績優秀だからこそ、狭い社会で育ってきた少女達からすれば、男と言えば。奴隷かワーカー、そして多くの「囚人」或いは「野良」とも呼ばれる餌かの分類しか知識にない。
実際、今までの男との接触の経験は、魔力補充のために支給される囚人だけだった。

「涙目じゃない男って初めて見たかも」
さなえが快活そうなショートの茶髪を揺らせて、身を乗り出す。控え目な胸。細い手足。どことなくアスリート向きな、華奢だけど健康的な体つき。

「うん。囚人よりずっとおいしそうー」
意外と食いしんぼうなちあきはぺろりと可愛らしく舌舐めずり。さなえとは対照的に、胸とお尻がふっくらしてて、運動は苦手そう。細くてきれいな金髪をゆるく二つに結っている。

「でも、みんなお手つきだね」
「ざんねんー」

お手つきとはすでに他の女性によって吸われているしるし。魔力を帯びた女性だけが感じられるサイン。法律にこそ定められていないが、乱獲を防ぐための男性保護ルールの一つ。
基本、女性達はお手つきの男は食べない。持ち主に怒られちゃうから。
でも。すごくおいしそう。
こういう男だったら、殺さずにちょっとづつ食べてあげてもいいかな。
そんなお喋りを交わしながら、ブラとショーツも脱いで、一糸纏わぬ裸身を晒す。

「食べちゃ駄目よ。ほらほら。早く着替えないと」
「あ。せんせー」
「はーい」

黒髪の上司、リョーコ先生がお喋りに夢中な少女達を促した。
長身の美人。ストレートの黒髪は長くさらさら。大きな胸がノースリーブのブラウスとネクタイを押し上げて。
深いスリットの入った紺のミニスカートとハイヒールと言うセクシーな格好だけれど、これに略帽と腕章を身につけた姿で正式な制服。
魔力を帯びた女性は等しく望んだ容姿を保つため、見た目からでは年齢は分からない。
大人っぽくてかっこいい「せんせー」は少女達の憧れの対象だ。

「せんせー」
さなえが元気よく下着を脱ぎながらちょっと甘えた声を出す。

「何?」
「あの男の人達は誰かの奴隷ですか?」
「奴隷の子もいるけど、ほとんどは優秀なワーカーね」
「そうなんですかー」

ワーカーって言ったら普通は単純作業の労働者を指す。
少女達は今まで知らなかった世界に触れて、初仕事からハイテンション。

「治安省は力仕事だもの。いい子達よ? だから手を出しちゃだめ」
「はーい」

「さすがにお手つきには何もしませんよー」
こくん、と喉を鳴らして唾を飲み込むちあき。ちょっとその言葉は疑わしい。

「そうよ。女の子同士のトラブルはご法度だからね」
リョーコ先生は、にっこりと笑って、そう言うと、大きなダンボールをびりびりっと開いた。







「制服は無料で支給されるけど、下着もそうよ。それに、これは使い捨てだから必要なだけいくらでも用意するわ」

たくさんの真っ白な下着。これが全部、さなえとちあきただ二人のために用意されている。

「全部、こびとが?」
「新人さんのものにはね」

少女達は首を傾げる。
リョーコ先生は、上品に微笑んだまま、聞く者によってはとても物騒な説明をした。
なんてことのないことのように。まるで、当たり前の常識のように。

「貴女達はたぶん、食事くらいでしか男を殺したことがないでしょ?」
「これからは、仕事で殺すことが必要になることも多くなるから」
「早く慣れておかないとね。好き勝手に、当たり前のように命を弄ぶことに」

つまりどういうことなんだろう。さなえとちあきが目配せし合う。
二人は今日が初出勤。言ってみれば、まだ試用期間のようなもの。
これは試験? 二人が、治安省に相応しいかどうか見極めるテスト?
どちらかと言えば真面目なさなえが、一生懸命考える。
していいことと、しちゃいけないことに気付かなきゃ。
これは、きっとそういう試験なんだ。

「じゃ、じゃあ、このこびとは殺しちゃってもいいんですか?」
「殺しちゃっても怒られませんー?」

食事以外での殺しは罪にこそならないが、状況によってはすごく怒られることもある。
女性は男性と比べて、能力、資質、社会的立場がともに圧倒的に上だけれど。
それでもこの「魔法少女世界」では男性を陵辱する際のタブーや暗黙のルールがたくさんある。
二人はまだとても若い上に箱入りだったから、そういうことを一つ一つ、理解していかないと。

真剣な表情のさなえと、のんびりしていてどこか本心の読めないちあきの顔は対照的。
リョーコ先生は、やっぱりくすくす笑っている。

「誰も怒らないわよ。言ったでしょ? それは貴女達の下着。ただ生きたこびとがくっついてるだけ」

怒られない。
それは、よかった。ほっとした。やっぱり、怒られるのは怖い。

「でもちょっと、恥かしいかも」
「こびとに、見られてるよー」

少女達が頬を染める。
だって、こびと達が、怯えた目をして見上げてる。
耳を澄ませば彼らの「タスケテクダサイ」の連呼がきちんと聞こえる。

「恥かしいのにも慣れて。慣れれば楽しくなると思うわ。それに、嫌だったら潰しちゃえばいいわ。でもそれは脱ぐときにね。これは決まり」

「履いてる間はがまんですか?」
「慣れて、って言われても、どうかなー」
「がまん。これは決まりだから」

「決まりだって」
「しょうがないよねー」
「オネガイデスコワインデスコロサナイデコロサナイデ」

やっと、少女達が、こびと下着をおずおずと身につけ始める。
こびとたちが胸に、あそこに密着する。苦しいのか、ばたばた暴れる。くすぐったい。
恥かしくて、下着を少しだけずらそうかと思ったけれど。
鏡を見て、結局やめた。半脱ぎの下着とか、なんだかみっともないし、どちらかと言うとその方が恥ずかしい。

結局二人とも、きちんとこびと下着を身につけて。ぴったり。あらかじめ全身を採寸されてたのは制服のためだったみたい。
でも、成長して合わなくなったらどうなるんだろう?
この、もうパウチされて眠らされちゃったこびと達は。

そして少女達はノースリーブのブラウス、ネクタイ、紺のミニスカートを着て。略帽と腕章をつけ、ハイヒールを履いて。初めての制服姿を鏡に映す。

「似合ってるかな」
「あん。もぞもぞ動くー」

制服を着込んだ以上、ブラやショーツが見えることはないけど。
こびと分のわずかな膨らみを、傍目には見えることないその存在をやっぱり意識してしまう。
それに。
分かっていたことだけど、この制服、スカートがすごく短い。横にすごく深いスリットも開いてるし。

「うふふ。二人とも、可愛いわよ」
先生がわざわざ二人の頭を撫でて、褒めてくれた。
それだけで、少女達は今までの戸惑いや不安もどこかへ行ってしまい、舞い上がる。

「本当ですか? 嬉しいですせんせー」
「でも、せんせーもこびとぱんつ履いてるのー?」
頬を染めて、目をきらきらさせて上司にまとわりつく少女達。
「見たい?」
「見たい、かも」
「見たいですー」

リョーコ先生が、するすると自分のスカートをゆっくりたくし上げる。
面積の狭い、セクシーなレースの黒い下着が露わになった。

「ごめんね。普段は普通。でも私もたまに履くこともあるわ。くすぐったくて、楽しいもの」







初めての任務はごく単純な地域の巡回だった。つまりパトロール。
本来なら警察局の仕事だけど、いずれ指示・指揮をする立場だからこそ、まずは現場から。
時折すれ違うベテランのかっこいい婦警さん達が、律儀に丁寧な敬礼をしてくれる様は、まだ駆け出しの二人にとっては、なんだか申し訳なくて、気恥ずかしかった。

「ちょっと職務質問、してみましょうか」

ルートを八割ほど消化して、引率のリョーコ先生がそう言った。
治安を乱す疑いのある怪しい人がその対象だけれど、とりあえず今日はただの練習。
相手は誰でもいい。

「じゃああれにしましょう。二人とも、声をかけて」
「は、はいっ」
「え、ええと。ちょっとそこのお前。待ちなさい。治安省よ」

少女達が二十歳くらいの青年をぎこちなく呼び止めた。
声が上擦るのは初仕事のせいというのもあるけれど、それ以上に、下着の中の、こびと達がずっと蠢いてるから。
ここまでずっと、くすぐったいとかむず痒いのをがまんしてきたけれど、緊張して早鐘を打つ少女達の鼓動に反応するのか、こびと達がよりいっそうもぞもぞする。
さなえとちあきの顔は真っ赤だ。

「ひっ」
逆に、怯えた声を上げて足を止めた彼は、真っ青。

「こ、これは職務質問だから、さ、逆らっちゃだめよ」
「ええと、正直に答えるの。どこへ向かってたの? …ひゃぁん!」

どきどきどきどき。
身体が火照って、青年に近づく度にこびと達が蠢く。くすぐったい。それに、少し気持ちいいし。こびとの癖に。いらいらするし、わずらわしい。

「あの。俺、私は、その」
「んっ。さ、さっさと答える」
「やぁっ、そ、それに、こういう時は、速やかにIDを、あぁんっ」

「?????」
突然悶えて、自分に寄りかかってくる高い身分の少女達に、青年はますます戸惑い、そして怯える。
それはまるで何度か経験してきた、「餌を食べたくて興奮している残酷な女性」の姿によく似ていて。
さぁーっと血の気が引き、恐怖に気絶しそうになるのを何とか堪えて、ポケットからIDカードを差し出した。

「ちゃんと携帯してるわね。はい、まず一段階クリア。次は? どうするの?」
リョーコ先生が淡々と指示する。多分どこまでも見慣れた日常。

「は、はい。ええと、種別はワーカー。4区のプラント勤務で、んんんっ」
「はぁっ。あは。この子、お手つきじゃない…」

「きょ、今日は午後勤でっ。これからプラントに、私はっ」
表情が残酷な色合いを帯びて紅潮したちあきに怯えて、青年は直立不動で説明した。
少女二人に絡まれ、纏わりつかれながら。

「はい。彼はそう言ってるけど? 貴女達はどう? 信じるの?」
リョーコ先生が言葉を続ける。
つまり、このまま解放するか、疑わしいと判断して拘束するか、彼女達の権利の執行権を行使してこの場で何らかの処罰を下すか。

「し、信じますよ。無害なワーカーっぽいし、お仕事は大事だし、ね」
こびと達がもぞもぞ気持ちいい。気持ちいいけど。快感は捕食の欲望を増大させる。けれど、さなえは職務を優先してそう結論付け、青年にIDカードを返す。

「信じてもいいけどぉ。お前がワーカーなのと、お手つきじゃないのは別ぅ…」
うっとりと快感に身を任せながら、ちあきは意地悪く言って青年にしなだれかかる。

「ひゃああ、で、でも、私には、仕事がっ」
彼がますます怯える。
16年の義務教育と言う選別を経て、ワーカーの身分になった。生きている同級生はもう半分もいない。真面目な働きぶりに、上司からは「いい子」と認められ、ここまで生きのびてきたのに。
目の前の彼女、ちあきの表情には見覚えがある。
男の血を、命を糧にする女性特有の残酷な笑顔。
どうにもならない。どうにかする方法なんてない。ただ慈悲を願って、土下座するしかない。

「ち、ちあき。仕事中っ」
さなえが青年に助け舟を出した。

「はぁあっ…。ダメなんですかぁ?」
ちあきが甘えた表情でせんせーを見上げる。

「ダメじゃないわね」
リョーコ先生は、そう答えた。もともと女の子にはその権利がある。
それに、してはいけない場合で男を食べたとしても、罪にはならず、ただ怒られるだけだ。

「ふふふ。ダメじゃないってぇ」
土下座して震えている青年を優しく抱えて頬擦りするちあき。
真っ青になって固まっている彼にぺろぺろと舌を這わす。

さなえは慌ててきょろきょろと見回した。青年を。ちあきを。せんせーを。
どうしよう。
だって、これは私達の初出勤で、私達は治安省って言うすごく高い身分の一員になってて。高い地位にはそれに応じた高い義務が課せられて。
だから、だめ。

「ちあき、めっ!」
こびと下着の甘いくすぐったい快感もはねのけて、声を張るさなえ。
びくん、と固まるちあき。
「だめぇ?」
許しを乞うようにさなえを見上げるちあき。すでに細いきれいな金髪は興奮した汗で頬に貼り付いてる。

「この子はワーカー。これから4区のプラントに仕事に行くの。多分それ、本当。ワーカーが減って仕事が滞ったら、きっとそこの偉い人に、怒られるよ?」
「ええー」
「ええーじゃない」
「ううー。お仕事って、ちょっと面倒…」

ちあきが不満そうに口を尖らせる。
それを制して、さなえは青年を立たせて、何とか優しく微笑んだ。

「怖がらせちゃってごめんね。お仕事、がんばってね」
「ええー」
「行っていいよ。ありがとう」
「ええー」
「ええーじゃないっ」

さなえとちあきのやりとりを、リョーコ先生は楽しそうににこにこ見てる。
多分、二人には秘密の採点表かなにかで今日の初仕事の評価をしているんだろうけど。
さなえにはどうすれば合格かは分からない。

「じゃあ、さ」
「えっ」
ちあきが背を向けた青年を後ろから抱きとめて、吐息混じりに囁いた。

「私が吸ってあげるー」
「ひいっ」

ちゅう。つぷ。
彼の首筋に歯を立てて。溢れる血を丁寧に舐め取った。わずかながら魔力が満ちる感覚。
ちあきが飛び散った血を掌で撫で、赤い舌でうっとりと味わいながら、
「これでお前は私のお手つき」
そう宣言した。

「え、ええと」
さなえがきょろきょろしてる。先生は軽く腕を組んで豊かな胸を押し上げて、「だめ」とは言わない。

「でも、次に会ったら食べちゃうからね」
幸運な青年は、二人の職務質問から無事に解放され、職場へ向かった。







「せんせー。良かったのか悪いのかわかりません」
一人で楽しそうなちあきを恨めしそうに見ながら、さなえが呟く。
「そうね」
リョーコ先生はいつものすごくきれいな表情で、頬に人差し指を当てる。
「プラスもマイナスもないわ。普通ね」
にっこり笑ってそう言った。

普通? これで? ええと。さなえは考える。
あたしが止めたところまでが普通? それとも、普通に食べ散らかしちゃってもいいって意味?
確かに、治安省の権利はすごくて、何をしたってまず罪になんかならないけど。
でも。ほら。私達は警察局よりも上で。治安を守る上でみんなの模範にならなくちゃいけなくて──

さなえがぐるぐる考えてる間にも、こびとはもぞもぞ蠢いて。くすぐったい、ちょっと静かにしてってば。

「せ、せんせー。ちょっと休憩、お願いしますー」
何? のんきなちあきが手を挙げてそんなことを言ってる。
「どうしたの?」
「ええと、何か、あの。ポジションが、あのー」

「はい?」
さなえが露骨に眉を潜める。

先生は快く「いいわよ」と言って。
二人は近くの公園のトイレの個室に入った。

「ねえねえ。さなえー」
「何よ」
隣の部屋から、ちあきが声をかけてくる。

「さなえのこびと、まだ生きてるー?」

「え」
まるで壁越しに見透かされたようで、さなえはドキっとした。
それを確かめるために、今ほとんど裸の姿になってたから。

「え、ええと」
ブラとぱんつの、白い下着の中を確認する。こちらを見上げて、両手を合わせてる。拝んでる。
「まだみんな生きてるみたい」

「そうなんだー」
やっぱりどこかのんびりした、ちあきののんきな返答。ちあきは? さなえはそれが気にかかる。
「あたしはだめ。いっぱい潰れちゃった。今息があるのは、ええと、二匹だけ、かな」

「そうなんだ」
「白いぱんつが真っ赤だよー。せっかく替えがたくさんあるんだから、替えようかなって」

ごく自然に、さなえは自分の腰につけた小さなポーチを見てる。
治安省のスタッフが、常に携帯してるのが、ええと、このたくさんの替えの下着ってどうなんだろう。

仕事のたびに使い捨てられちゃう下着って。
それも、生きたこびとが貼り付けられてて。私のはまだみんな生きてるけど、動くたびに潰しそうだし、実際ちあきはもうほとんど潰しちゃったみたい。
ええと。

「ちあき? あの、さ」
「なあにー?」

「こびとを殺しても、魔力って補充できてる?」
男の血と精液と命を食べて魔力を回復する少女達。
たぶん通常の1/20の身長のこびと。そんな男の命が、自身の糧になるのかどうか。さなえには最初から疑問だった。

「うーん」
壁一つ隔てた向こう、ちあきは多分裸で首を傾げてる。

「ちょっと。ちょっとだけ、かな。殺したこともなかなか分からないし。思い返せば、あ、今死んでこの子の魔力が入ったな、って気付くか気付かないか、って感じー?」

「うーん。小さいせいで、きっと、魔力も小さくなってるんだね」
「かもー」

じゃあ。
さなえは考える。
何の役にも立たないじゃない。

魔力を使って殺したこびとから得られる魔力が本当に微々たるものだったら。
こう、自然界の感覚とかでは、わざわざ食べる理由が思いつかない。
だって、世間にはお手つきでも奴隷でもワーカーでもない「囚人」がうようよ、たくさんいっぱい蠢いているんだから。

痩せっぽちの豚がいたら育つのを待つ。
だって、そのまま食べてもそんなに満たされないから。
この世界はそういう理屈で回ってるはずだから。
だから餌の男は絶滅しないし、「いい子」はむしろ保護される。
なのに。
この、消耗品の、こびとは何?

「ええー。でも、お前達、役立たずでしょー?」
ぐるぐる考えていたら、隣の部屋のちあきの楽しそうな声が聞こえてきた。

「ナンデモシマスタスケテクダサイコロサナイデ」
生き残りの二人のこびとと喋ってる。
何となく、半脱ぎの自分のブラとぱんつを、その中の八人のこびとを見つめながら、ちあきの声に耳を澄ませた。

「お前達が潰れたせいで、制服の下着が汚れちゃったー。だから、あたし、着替えようと思ってるのー」
「ユルシテクダサイタスケテクダサイドンナコトデモイタシマスッ」
「だからー」
ちあきは楽しそうに、こびとをいじめてる。追いつめてる。
殺してもまるで魔力にならないのに。一回の食事にも足りないのに。

「あたしがお前を助けてあげて、それであたしにメリットあるー?」

こびとが沈黙したのを感じた。
ちあきってば、下着を捨てる前にきちんと潰すつもりなのがありあり。

「シヌノガコワインデスタスケテクダサイオヤクニタチマス」
「そうねえ。お前達を潰しても潰さなくても、あんまり変わりはないけどぉ」
微かな小さなこびとの声が聞こえる。ちあきは嫐ることそのものに、興奮しているようだった。

「でも、やっぱりだめー。こびとぱんつはいっぱいあるし」
「ヒッタスケテタスケテユルシテオネガイコロサナイデエエエ」
ぷち。ぷちゅ。ぷちゅっ。

どくん。
悲鳴こそ聞こえなかったけど、さなえには、ちあきが「いらないもの」をきちんと丁寧に処分した様がありありと分かった。何のために? さなえの心臓が跳ね上がる。







とんとん。
さなえの個室の戸がノックされる。ちあき?
「まだー? あたしもう着替えちゃったよー」

何となく、なぜか分からないけどドアのロックを解除するさなえ。
ほぼ裸で、便座に腰を預けているさなえの前に、にこにこ微笑んだちあきが入ってきた。
「着替えないの?」

「き、着替えるわよ」
「手伝ってあげよっかー」
「そ、そんな。子供じゃないんだから。一人でできるって、ば」

さなえの抵抗をよそに、ちあきは笑いながらブラとぱんつをするする奪い取る。
「うわー」
のぞきこんで、声を上げた。

「な、何、よ」
「本当に一匹も潰してないんだね。やっぱりさなえ、凄いなー」

凄くないっ。
さなえはそう口を尖らせたけど。
ちあきはキラキラ目を輝かせて、こっちを見てる。

「仕事だから? やっぱり真面目。そういうとこ、大好きー」
「ばか。せんせーに怒られるわよ」
「うふふ。せんせーは外だよー?」

興奮して見たこともない表情のちあきが迫ってくる。
さなえは困った。嗜虐の快楽に溺れ、特権階級の権利に恍惚としている幼馴染。
サドっぽいとは思ってたけど、まさか私にまでいじわるをしたがるなんて。

「さなえー?」
「え?」
「これから一緒に、がんばろうねー」

目をまっすぐ見てそう言うちあき。
「も、もちろん、こちらこそ、お願いします」
なぜか敬語。
ちあきは熱に浮かされたようにさなえに軽くキスをすると(そんなこと初めてだ)真っ赤になって表に、せんせーのもとに戻って行った。







「ええと。お前達のことなんだけど」
トイレの個室。ポーチの中の、替えのこびと下着が指先に触れている。

「タスケテタスケテシニタクナイデスッ」
八人のこびと達が口々に命乞いをする。

ふう。
さなえは割と、それこそ餌の男にさえも、優しい気質を持っていた。

「ああもう。分かったから。いい子にしてたら、きっと殺さないから」
足の間の三人のこびとを軽く撫で、努めて優しい笑顔を見せる。
「アリガトウゴザイマスアリガトウゴザイマスジヒブカイジョオウサマ」
こびとぱんつの中の面々の忠誠の言葉がくすぐったい。

こんな。
ご主人様の慈悲を乞わないと生きてさえいけない男って、どんな人生を辿って来たんだろう。
さなえは優しい。
餌を食べる、そういう必要な捕食以外ではそれなりに男の生存権利を認めている。
だから。
ぱんつの中のこびとであっても、必要でないなら、あえて殺す理由が浮かばない。

「大人しくしてなさい、ね」

改めて履き直そうとして、思い出したように、真っ赤になった。
やっぱりすごく、恥かしい。

汗もかいちゃったし、できれば早くシャワーを浴びたい。
ちら、と時計を見る。初仕事はあと2時間くらい。
終わったら、汗を流して、着替えよう。

せんせーはこのこびと下着、使い捨てって言ってた。
洗濯したらきっと溺れて死んじゃうだろうし、潰れたりとかでかえって汚れるかも。

どくん。
心臓が鳴った。
「えい」
思い切って、また下着を身につけた。やっぱり少し、もぞもぞ動く。

袋を破るまで死んだように眠らされていたこびと達。
洗濯もできない。小さいから、魔力供給のための男としてもまるで役立たずの命。
女の子の下着の一部として、身につけられてる間だけ目を覚ます、少しも意味のないその存在。

「本当に、使い捨てなんだ」

何のために、このこびと達は生きてるんだろう。
ええと、ええと。せんせーや、大人の人たちの考えを一生懸命想像する。
精を吸いようもないし、殺して食べても微々たる魔力。
まるで、ただ死ぬためにいるとしか思えない。

「女の子に、殺されるために?」

声に出して、呟いた。
下着の中のこびとがはっきりと暴れるのが分かった。







「仕事後のシャワー室で二人でこびとを潰すプロローグ2」へ続きます