遊びの後で

「この電車は当駅で運転を休止いたします。復旧の見込みは立っておりません。」
というアナウンスを背に、私は電車から降りて歩き出した。でも狭いなぁ、私がでかすぎるからかもしれないけど、せめてドアの上におっぱいがぶつからないようにできないのかな?
そんなちっこいもんしか作んないから潰したくなっちゃうんだよね~。

282cmの身長はとにかく目立つ。2m程度の身長では、私の爆乳の下にすっぽりと収まってしまうほどだ。「なんだ、あのでかさは!」的な視線を浴びながら平然と改札を跨ぎ越して、
あ、ちゃんと料金は払ったからね。駅の外に出ると、まあ普通の郊外の駅前っていう感じだ。
「あっちだっけか。」
電車が通らなくなった高架橋沿いを、周りを観察しながらしばらく歩くと、景色が突然一変した。

高架橋は私の視線の数十m先で突然千切れ、へし折れていた。その周りの建物とかも、まともに建っているものなど一つも無いのではないかという有様だ。
近づくにつれて廃墟の色合いが色濃くなっていく。その廃墟の少し手前にある黄色い規制線を跨ぎ越そうとした時に声をかけられた。
「そこから先は関係者以外立ち入り禁止だよ。」
声の方に視線を向けると、私の腰あたりの身長のおじさんが立っている。この街の職員っていう雰囲気。っていうか、脚、震えてるよ。
「知り合いがこの先に住んでるんで、様子を見に行くんですけど、ダメですか?」
ちょっとだけ怖い顔をして見せるとだいたいが怯えて何も言わなくなる。このおじさんも同じだった。
「いや、ダメってわけじゃ・・・でも、危険、だから。。。」
「大丈夫です。危ないと思ったら戻りますから。」
おじさんの返事がないので、私はまた歩き始めた。

「このあたりはけっこう潰したんだなぁ。」
しばらく歩くと周りは廃墟どころか瓦礫の山になり果てていた。大規模な爆撃を受けて、ここまでひどいことになるのかな?私は1週間前のことを思い出していた。
1週間前、私はこの街に気まぐれで訪れていた。今と唯一違うのは服装と、身体の大きさ。身長2820mの女の子がビキニ姿で聳え立っていたら誰だってパニックになるだろう。
ちょっと可哀そうな気もしたが、たまに気まぐれで街遊びをしたくなるのだ。ただ、遊んだ後ってどうなってるんだろうって気になって見に来るのは初めてだったけど。
「確か、電車摘まんで丸めたんだよなぁ。それにしてもすっごいバカ力!」
千切れた高架橋を見上げて思わず笑ってしまう。確か高架橋ごと電車を摘まみ上げて、片手でクシャクシャに丸めたんだった。
「投げ捨てたのってあっちだっけ?」
住宅が立ち並んでいるあたりが部分的に壊滅して、その先に何か大きなものがあるのが見える。ってかふたつ?もういっこって何だっけ?
何をしたかを思い出そうとしながら、その巨大な物体に近づいていくと、視界の片隅に何やら地面がえぐれている場所が・・・あ、思い出した。

私は電車を投げ捨てた後、大きめのショッピングモールを見つけた。大きいといっても私の500m近いでか足には敵わない。
しばらくしゃがんで観察していたが、両手で建物全体と中央の駐車場、車100台くらいいたかなぁ。をすくい上げて、そのままぐちゃぐちゃに潰して丸めて投げ捨てたんだ。
けっこう硬めに握ったから隙間で運よく助かったなんてこびとはいないと思うけどね。

私の手の中で丸められた物体は、今見るととんでもなく巨大なものだった。改めて自分の馬鹿でかさにあきれてしまう。
そこにたくさんの人間や重機が集まって、一生懸命解体しているようだ。巨大化して「手伝ってあげようか?」とか言ったら、どんな反応するんだろう?

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ここはヒップドロップ、あっちはおっぱいプレスかな?といったことを思い出しながら散策を続けていると、ひとりの人影が視界に入ってきた。膝を抱えて座ってる女の・・・子?
でも、なんか大きい・・・吸い寄せられるように近づいていくと、その大きさがよくわかる。
彼女は、1週間前に私が作った足跡の縁の地面が盛り上がっている場所に座って、何やら考え事をしているようだった。
私は、座っていても見上げている彼女の頭を見上げて、声をかけてみた。
「何してるの?」
「え?あっ、いえ・・・」
人が近づいたことにも気づかなかったらしい彼女は少し慌てていた。振り返った顔はまだ10代の女の子。ひょっとして中学生くらいなのかな?
「あなた、ずいぶん大きいのね。この辺の子?」
「え?あっ、はい、そうです。。。」
それだけ答えてまた俯いてしまう。
「何してたの?」
私はもう一度同じ質問をしてみた。彼女は少し顔を上げ、足跡の向こうの方を指さした。
「あれ、見えますか?私が通ってた小学校なんです。」
「あなた、小学生なの?」
超巨大女子高生よりはるかに巨大な女子小学生がいるとは夢にも思わなかった。
「はい・・・いちおう、5年生です。でも、この前おっきな女の人が暴れたせいでいっぱい人が死んじゃって、学校もお休みになっちゃったんですけど。」
すいません。犯人は私です。って言ったら、仕返しされちゃうのかな?
「そう、でもあなたは無事だったのね。」
女の子は軽く頷くと今度は私の方に向き直った。
「あの・・・一緒に、学校の方に、行ってみませんか?」
「いいけど、なんで?」
「ん~、なんとなくです。」
そう言いながら女の子はゆっくりと立ち上がった。

「身長、どのくらいあるの?」
私の目の前には、とても小学生の女の子のものとは思えないほどの超ド級の太ももが聳え立っている。間違いなく私の2倍以上の身長だ。
「7めーとる・・・きゅうじゅうにセンチ・・・です。」
はぁ~・・・でっかっ!これ、普通の大人の人間だと膝まで届かないんじゃ、と思って聞いてみるとその通りだった。
「でも、この前のおねえさんよりは全然ちっちゃいですよ。」
ドキッとして、思わず立ち止まってしまう。それって、どういう・・・
「あ、勘違いしないでください。仕返ししたいとかじゃありませんから。それに、そう思ってたらこの前おねえさんを殺しちゃってます。」
恐ろしいことを平然と言う子だなぁ。でも、ってことは?
「あなたも巨大化できるの?」
「はい、この前のおねえさんくらいだったら余裕です。でも、たったあれだけでもみんなぺっちゃんこなんですね。」
たったあれだけ?ってことはあのくらいなら余裕で大きくなれるんだ。私もあれより大きくなれるけど、同じだけ巨大化しても2倍以上の身長差か~。殴り合ったら完全に負けそうだな。

そんなことを考えていると、もう、足跡の中央くらいまで差し掛かっていた。土踏まずのあたりはまだ何か残っているようだけど、それ以外は完全にペッチャンコだ。
やがて踵のあたりの盛り上がりが近づいてきた。足跡の中の様子が少し違う。たくさんの赤い斑点が、いや、これは、私が踏み潰したこびとたち。完全にペシャンコで陥没した地面に貼りついている。
「ひと踏みで100人くらいですかね。タイミングもよかったし。」
「そろそろ私をここまで誘った理由を教えてくれてもいいんじゃない?」
頃合いかな?と思って、私は少し真剣な顔を彼女に向けてみた。彼女は少し考えた顔をして、少しずつ話し始めた。

最初は校庭に避難していたが、誰ともなく体育館に入り始めた。巨人は向こうでしゃがんで何やらやっているので、運が良ければやり過ごせるかもしれない。皆そう思っていたようだ。
すでに体育館の中は全校児童300人ほどが入っていて、彼女もその中でなるべく縮こまって座っていた。そこにさらに300人以上が入ってきたのだ。体育館の中はすし詰めに近い状態になっていた。
巨人がゆっくりと立ち上がるのが見えた。しかも足はこちらを向いている。すらっとした素足が住宅地を数十棟まとめて踏み潰し、一瞬で廃材に変える。しかも、地響きで体育館が揺さぶられ始めていた。
その時、彼女が思ったのは、巨大化して巨人を止めるのではなく、仲のいい友達だけを助けることだった。元々他の人間は嫌いだったしどうなってもいいとも思っていた。
「それで、少しだけおっきくなって、友達に覆いかぶさるようにして守ってあげようと思ったんです。」
私には敵意が無かったんだ。なんかちょっとだけホッとした気がする。

3倍ほどに巨大化した彼女はそのまま体育館の屋根に背中をつけるように四つん這いになった。が、左手の下のブチャッ!という感触と周りの人の悲鳴が同時に起こった。
見ると、彼女の手の下でふたりほどがグチャグチャに潰れていた。彼女としては「やっちゃった」程度の感覚だったが、周囲のそれは違っていた。パニック状態になっていたのだ。
しかも、両膝の下でも同じように何人かが押し潰されて赤い水たまりとぐちゃぐちゃの肉に変わり果てていた。
当然ほとんど全員が、目の前、いや頭上で自分たちを見下ろしている巨人から逃れようとする。もちろん校庭側に出たらあの大巨人に見つけられてしまう。そう思って反対側の扉に殺到したのだ。
友達の姿も近くに無かった。それに気づいた時、彼女は無言のまま右手で拳を作って、体育館の壁を叩き壊した。
人の波がそこから流れ出たその時、巨大地震並みの揺れが襲い掛かり、肌色の巨大な壁が壊した壁の向こう側を覆い尽くしていたのだ。

「あ~、思い出した。あの時の学校かぁ。最初は学校丸ごと踏み潰そうと思ったんだけど、体育館からなんかいっぱい出てきたからそっちを踏み潰したんだ。そっか、あれがこの学校なんだ。」
「その時思ったんです。私が仲良くなれるのはおっきくなれる人だけなんじゃないかって。だから、今日おねえさんに会えて、凄く嬉しいんです。」
人間に絶望しちゃったわけかぁ。気持ちはわかるなぁ。元もでかいと色々あるから。
「いいよ。友達になろうか。私、さおりっていうの。あなたは?」
「ほんとですかっ!?あのっ、わたしっ、かおりですっ!名前も似てるんですねっ!」
そう言われてあっさりと抱き上げられて、ものすごい力で全身を締め上げられたところまでは覚えているけど・・・私の意識が飛んだ時に力緩めてくれなかったら、ミンチになってたかも・・・

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私が気が付いた場所は、広い部屋の中だった。いかにも女の子の部屋って感じの場所。ベッドの上で私は横たわっていた。っていうか、このベッドもけた外れにでかい!
ゆっくりと起き上がって辺りを見回す。やっぱりいろいろとでかい。天井には間違いなくジャンプしても手が届かないし、ベッドの高さだって私の腰の高さくらいありそう。
その時、超特大サイズの学習机(たぶん)に向かっていた巨大な人影が振り返った。
「気が付いたんですね!よかった~!」
ベッドの端に腰掛けて脚をブラブラさせていた私の目の前に、ズズンッ!と正座するかおりちゃん。やっぱりでかい!
「よかったです!わたし、とんでもないバカ力で・・・この前もプロレスラーの人を軽く引っぱたいたらグチャッてなっちゃって・・・さおりおねえさんも潰しちゃったらって・・・」
私も素手で人間くらいは軽く潰せるけど、たぶん私のグチャッとこの子のグチャッ!は、全然違うんだろうなぁ。
「何とか大丈夫みたい。骨も折れてないし。でも、すごい力だねぇ、大きいっていっても気絶させられるとは思わなかったよ。」
「すみません。嬉しくってつい・・・でも、さおりおねえさんも頑丈なんですね。本気で抱きしめても大丈夫かなぁ。」
え?あれって本気じゃないの?いや、この子の本気なんか私でも絶対耐えられないって。そんなことされたら確実にミンチだよ~・・・
「いや、本気はムリ・・・だと思うよ。」
ヤバイ、声が上ずってる。。。
「あれ?おねえさん、震えてるんですか?そっかぁ、やっぱ私ってちょー強いんだ。大丈夫ですよ。本気はやめときますね。」
はい、そうしてください。お願いします。私は涙目のまま思わず頷いていた。

今までの話とこれからの話、かおりちゃんはもうこの街から出ようと思っているらしい。
「だって、学校であんなことしちゃったから・・・」
そりゃそうだよねぇ。何人か生き残りもいるだろうからきっと尾ひれをつけて噂が広まるだろうし。
「じゃあ、うちに来る?」
「え?でも、迷惑じゃ・・・」
「山奥で私以外は誰も住んでないよ。学校とかは行けないけど、それでも良ければ、ね。」
私にはもう一つ思惑があった。この子がどのくらい巨大化できるかはわからないけど、素では手も足も出ないほどの差があるのだ。
こんな危険な子、放っておけない。というか、ずっと私の側にいてもらわないと私が危険だし。というわけで、似たような境遇の子にはやさしいおねえさんになるしかないのだ。
「まあ考えといて。私はいつでもおっけーだから。」
と、そこで玄関のチャイムが鳴った。

「人なんか・・・来ることないのに。」
かおりちゃんはそう呟きながら玄関ドアに向かって歩き出す。高さ6mくらいのドアを開けてしゃがんで顔を外に出した。私でもドアノブまで手が届くかどうか。何もかもが大きすぎる!
訪ねてきたのはひとりの中年の男性だった。いや、ひとりじゃない。後ろに何人もいる。そんな気配を感じた。
「え?そんなこと。」・・・「わ、わかりました。支度するんでちょっと待っててください。」
男の声は聞こえなかったが、かおりちゃんの顔つきが少し険しくなっている。あまり良くないことだよね。私は思い切って聞いてみた。
「どうしたの?」
少し考えてかおりちゃんが発した言葉に少し驚いてしまう。
「なんか、逮捕状が出てるから、警察に来て欲しいって・・・」
「え?なんの逮捕状?」
「殺人、だそうです。」
学校の一件かな。そうしたら、私なんか逮捕状が何ダース必要なんだろう?私はかおりちゃんに同行することにした。何かあれば巨大化すればいいし、そう考えると危険は少ない。
一緒に部屋を出ると、男の後ろにパトカーやら装甲車っぽいのやらいい感じのおもちゃがずらっと並んでいる。女の子ひとり相手のこの物量って、やりすぎ・・・とは思えないか。
もうひとり大女がいるとは思わなかったようで、男は一瞬だけ私を見上げて驚いていた。
その男に同行する旨を告げると、関係者以外は同行できないと言われたので、「妹よ!それともただ大きいだけの11歳の女の子をひとりで連行するわけ?」
すると男は、「ちょっと待ってくれ。」と言って、少し離れて無線でどこかと連絡を取り始めた。少しして、同行してもいいと言われた時のかおりちゃんの顔は少し嬉しそうだった。

「で?この子が乗れる車なんかあるの?」
常人の5倍近い体格は、当然体重も軽く5tは越えている。6t、いや、肉付きもいいから7t~8tといったところだろうか。ダンプカーでも持ってこない限りかおりちゃんが乗れるわけがない。
「申し訳ないが徒歩でお願いしたい。パトカーを先導させて、我々も徒歩で同行する。」
ふ~ん、先導ね。どう見ても逃げないように取り囲んでいるようにしか見えないんだけど。でも、パトカー程度だったら私でも何とかできちゃうし、かおりちゃんだったら瞬殺スクラップだよ。
「あの、さおりおねえさん。。。」
「大丈夫、私がついてるからね。」
不安そうなかおりちゃんの手を握って、と言っても思いっきり手を真上に上げてやっと届くんだけど、まあ、とにかく握って、ふたりのでか女を中心にした一団はゆっくりと移動を開始した。

10分ほど歩いただろうか、破壊の少なかった場所から急にほとんど建物が残っていない場所に出た。この辺りって、寝そべって遊んでたあたりかな。だとしたら、普通に歩き回ってた場所よりも
広範囲に破壊されつくされているのも頷ける。何しろ全長3km近い超巨大ブルドーザーが何もかもすり潰して押し流したんだから。
「この辺りが一番ひどいよな~、数千人が瞬く間にすり潰されてほとんど死体も残らなかったらしいよ。お嬢ちゃんたちの大きさも可愛いもんだよなぁ。」
すり潰した張本人を目の前にしてるって知ったらどんな顔するだろう?どこかで巨大化しちゃっても楽しいかも。その時だった。
いつの間にか周りの男たちが10m以上離れていた。パトカーも速度を上げ始め、後ろのパトカーと装甲車は逆にその場に停止していた。そして、向こうの方で何かが光った。
「ヤバッ!かおりちゃんっ!しゃがんでっ!」
私は振り向きざまに猛ダッシュしてパトカーのフロントを両手で掴んで頭上に掲げ、しゃがんで頭を抱えているかおりちゃんの目の前に横倒しに地面に叩きつけた。
中の警官がどうなろうと知ったことではない。
同時に盾代わりのパトカーが大爆発を起こして炎上する。爆風で私は吹っ飛ばされ、かおりちゃんはその場にしゃがんだままで、「いった~い。。。」と腕をさすっている。
見た感じ外傷はなさそうだが、直撃じゃないといっても戦車砲を至近距離で食らって痛いだけって・・・頑丈さも桁外れなんですけど。私なんか一撃で全身傷だらけだぞっ!
そんなこと感心してる場合じゃなかった。仕留めそこなったと判断した男たちがこちらに駆け寄ろうとしているのが見える。
「かおりちゃんっ!こっちっ!」
流石の私も装甲車は持ち上がらないので、横転させたその裏側にかおりちゃんを呼び寄せる。
「あの・・・ごめんなさい。わたしのせいで・・・」
「気にしなくていいよ。それよりいきなり抹殺しようとするとはね~。そろそろ戦車の次の一発も来るよね~。」
そして、止めを刺すように男たちがなだれ込んでくる。それでかおりちゃんがどうこうなるとは思わないが、私は急所に当たったらちょー痛いだろうしなぁ。
「かおりちゃん、少しおっきくなろっか。」
「え?でも、そしたら・・・」
かおりちゃんが考えてることはなんとなくわかった。たぶん、巨大化した姿をあまり見られたくないと思っているのだろう。その辺は私ほどは切り替わっていないのは仕方がない。
「いいんじゃない?もうこの街にはいたくないんでしょ?だったら大きくなっても見られても別にかまわないんじゃない?」
かおりちゃんは、少しだけ考えていたが、コクンと頷いた。

装甲車は戦車砲の第2撃を受けて瞬時に爆散した。そう見えてもおかしくないほどのドンピシャのタイミングだった。のだが、相変わらず私の視線の横はかおりちゃんのショートパンツから
にょっきりと伸びた超健康的な太ももが聳えている。足元を見れば100倍に巨大化した45mの私のバカでかローファーなど幼児の靴にしか見えないほどの大きさの可愛らしい色合いの
スニーカーがドンッ!と鎮座していた。
「かおりちゃん、パトカー踏み潰しちゃって。」
見下ろした先には先導していた2台のパトカーがすでに200m以上離れた場所を走っていた。私なら大股一歩か二歩、かおりちゃんだったら?
「はい。」
かおりちゃんの小さな一歩はいとも簡単にパトカーの頭上を暗闇に染め、一瞬で鉄板に変えてしまった。
「ついでに戦車も潰しちゃいますね。」
そう言うと、二歩目で戦車を踏み潰し、にっこり笑って私の方に振り返った。
「やっぱり誰かと一緒におっきくなるのって楽しいですっ!」
かおりちゃんは少し先に広がる健在な街並みを見下ろしてにっこり微笑む。ちょっと先にはさっき私が降りた駅が見えた。

足元を見下ろすと、右足のすぐ横に何人かのこびとの姿が見える。突然現れた巨人の姿に驚き、その場に固まっているようだ。足を上げて奴らの上に移動させそのまま軽く踏みつける。
それだけでそこにいた人数分の赤いペーストが出来上がる。奴らにしてみれば自分が死んだということもわかっていなかっただろう。
左足の近くで同じように固まっているこびとの中からさっきの刑事だけを摘まみ上げ、残りを踏み潰して顔を上げると、かおりちゃんの太ももが視界を埋め尽くした。
「何ですか?それ」
「さっきのおまわり。かおりちゃんにあげるから好きにしていいよ。」
かおりちゃんが差し出した左手の真ん中にそれを落とすと、かおりちゃんはゆっくりと身体を伸ばしながら掌を目の前まで上げていた。
「おじさんだからおいしくなさそうですね。そうだ、警察署、行かなきゃですよね。どこですか?」
刑事は蹲ったままだ。
「じゃあ、自分で探しますね。」
その言葉の意味がわかったらしく、「あ、案内するっ!」と叫んだ声が私にも微かに聞こえてきた。

「普通に歩いてこれかぁ、すっごいなぁ!」
私は少し後ろで歩く姿を観察してみた。身長792mの大巨人の足が片側3車線の道路を丸ごと踏み潰す。もう片方の足は、足首くらいしかない高さのビルをいくつかまとめて踏み潰しながら進んでいく。
車道から上げられた足跡には20台を軽く超える車両がペシャンコになって貼りついていた。
「これですね。」
かおりちゃんは立ち止まってしゃがむと、刑事を屋上に転がり落として立ち上がって足元を見下ろしていた。署内にいた警官たちが銃撃を始めたようだ。何百発という銃弾がかおりちゃんの下肢の至る所に
当たっているようだが、痛みなんか感じていないだろう。当然だよね。この大きさになれば私だって戦車砲くらい全然平気だし、ましてやさらに2倍以上大きいかおりちゃんに拳銃なんて豆鉄砲にもならない。
「取り調べするんですよね。じゃあ、中に入らないと。」
かおりちゃんはそう言いながら右足を上げて警察署に狙いを定めた。
足の親指よりちっちゃい建物に入るって、冗談きつすぎるわ。そのでか足が踏み下ろされ、あっさりと警察署と近くの建物を消滅させ、警官の銃撃も完全に沈黙させる。
やっぱそうなるよなぁ。そう思いながらかおりちゃんを見上げて話しかけた。
「どうする?ちょっと遊んでく?」
一瞬考えこんだかおりちゃんから出た言葉は、意外というかなるほどなと思うことだった。
「今日は一緒に巨大化できるお友達っていうよりおねえさんが出来ただけで充分です。もちろん、さおりさんが遊びたかったら一緒に遊びますよ。」
私も少し考えたが、今日は遊ぶつもりは無かったので素直に引き上げようかなと思っていた。
「今日は帰ろっか。一緒に住む場所まで歩いて行かなきゃだからね。」
「じゃあ、私のお部屋、持ってきますね。」
街をさらに踏み潰しながら、かおりちゃんは小走りに駆け出していった。それだけで、とんでもない大破壊を生み出しながら。