ズシィ~ンッ!ズシィ~ンッ!ズッシィ~ンッッッ!!!!

早朝の稽古中に、突然盛大な地響きが近づいてきた。思わず稽古の手を止めて見上げる力士たちの上空に、彼等など虫けら程度に扱ってしまえるほどの巨大な女の子の顔が現れた。
加奈子である。いつもなら部屋の力士たちとも顔見知りの彼女なので、一同安心したように稽古を続けるのだが今日は様子が少し違っていた。
「極大山さん、いる?」
いつも以上にぶっきらぼうな言い方に機嫌の悪さが見て取れる。と、そこに極大山が現れた。
加奈子の手がヌゥッと伸びてきて、2m50cm、200kgの極大山をいとも簡単に摘み上げた。
「何しに来たか、わかってるよね。」
極大山を左掌に落として見下ろすその顔は、明らかに怒っていた。そして、極大山はというと、加奈子が怒っている理由を理解しているかのように神妙になっていた。

奈々美の部屋、東京ドームが何個入るかなど想像するのも馬鹿らしくなるほどにだだっ広い部屋だが、部屋の主にとっては何とか両手足を伸ばせる程度の広さしかない。
その部屋の片隅のテーブル、といっても高さ1000m、面積は・・・小さな街なら丸ごと入りそうなほどの広さのそれの上を、奈々美は正座して見下ろしていた。
中央には奈々美の小指ほどの身長の加奈子が、掌に乗せていた極大山を足元に下ろしているところだ。
「極大山さんが、話あるって」
「あ・・・あたし、ないもん!」
奈々美も明らかに怒っている。両の拳は固く握り締められ膝の上に並んでいる。握られた拳の中に、もし世界一頑丈なものが入っていたとしても、間違いなくクシャクシャにされているであろうほど強く握っていたのだ。
「まあ、とにかく、話聞いてあげたら?」
「・・・じゃあ・・・」
少し考えて、奈々美は加奈子をひょいと摘み上げて、床に下ろした。
「ふたりで話す・・・」
そう言われたので、加奈子としては部屋から出て行くしかなかった。

「話ってなんですか?」
奈々美はわざと他人行儀な顔つきでテーブルの上のゴマ粒大、いや、それより小さな極大山を見下ろした。
「いや、あの週刊誌の・・・」
極大山はというと、上空でゆっさゆっさと揺れているTシャツに包まれた山脈の上にある奈々美の顔をまともに見ることが出来ない。
実は数日前に発売された写真週刊誌に、極大山と腕を組んでいる長身爆乳の美女の写真が掲載されていたのだ。当然それは奈々美たちも知るところとなり、その日以来、奈々美は極大山からのメールにも返信しなかったし、電話にも出なかったのだ。これはまずいと思ったところに、加奈子が現れた次第である。
「ああ、あれ?よかったですね。彼女が出来て!」
奈々美の声のトーンが少し強くなった。鼓膜が破れるほどの声量に、極大山は思わず蹲りそうになる。いや、絶対ダメだ!そう自分を奮い立たせてその場で何とか踏み止まった。
「いや、あれはそういうのじゃなくて・・・奈々美ちゃんの誤解を・・・」
「誤解?何を誤解するんですか?あたし、別に極大山関の彼女じゃないもん!」
「彼女じゃないんなら何でそんなに怒ってるの?」
この程度の切り返しならまだまだ序の口である。逆に口籠ってしまったのは奈々美の方だった。いくら口が達者な女の子でも所詮は小学生というところか。
「べつに・・・怒ってなんか・・・」
拳の震えが大きくなり、断続的な地震となって極大山に襲い掛かる。もし、あれが叩きつけられたら、ミンチどころか一瞬でシミと化してしまうだろう。
「とにかく、話を聞いてくれないかな。」
「わか・・・った・・・」
何とか自分のペースに持ち込めたらしい。極大山は少しだけ安堵のため息をついた。

簡単に要約するとこうである。
あの日は後援会主催で横綱昇進のパーティーが催され、その席上で気分が悪くなったあの女性を解放していたということだった。たまたま極大山と話していて気分が悪くなり、後援会の人の娘ということもあって、極大山自らが外に連れ出したらしい。
「なんか、わざとらしい・・・」
「でも、本当なんだ。僕は彼女の背中をさすってあげただけで、それは、店に戻る途中で気分がよくなったって腕を組んできたけど・・・」
たぶん確信犯だろう。とまではさすがに言わなかったが。
「じゃあ、腕組んだまま・・・その・・・ホテルに・・・入った、って・・・」
「それは全くのウソだよ。信じてほしい!確かにホテルとか近くにあったけど、絶対に入ってないっ!僕が好きなのは奈々美ちゃんだけなんだっ!!!」
「えっ?だって・・・あたし、こんなに、おっきいし・・・」
突然の告白だ!しかも、効果はバツグンだっ!
しばらくの沈黙の後、奈々美が口を開いた。
「あ、あたし・・・奈々美も、極大山関が好き・・・だけど・・・でも、腕とか・・・組めないし・・・」
どう考えても無理な話である。誰が想像しても、奈々美の極太の腕に小さな蚊がとまっているように見える極大山の姿しか想像できない。
「そういうことはできないけど、それじゃ、ダメかな?」
奈々美が顔を横に振った。両手は違う意味で固く握り締められたままだ。その証拠に奈々美の全身がほんのり赤くなっている。
「でも・・・こんな、でか女じゃ・・・」
「僕は、初めて会った時から、大きくて強くて、でもすごく優しい奈々美ちゃんが好きなんだ。だから、全然気にしなくていいんだよ。」
「ほ、ほんと?」
テーブルの上を見下ろすと、とても小さな極大山が少し大きくなったように・・・奈々美の目には映っていた。

次の日曜日、都市部から500kmほど離れた山中のとある場所で奈々美は寝そべっていた。
右腕を横にして顔を乗せ、左手の中央にはゴマ粒、もとい、極大山を乗せて視界に入る場所に置いている。胸が置かれた下には小高い山があったはずだが、たぶん、完全に押し潰されて逆に窪地になっているだろう。さらに腰や太股でいくつもの山を押し潰し、膝を曲げて両足をバタバタさせていた。
遠目から見れば可愛いしぐさだが、ばたつかせている膝下でさえ1000m以上あるのだ。誰も近づけるはずも無かった。
実はあの後、「腕は組めなくても、お出かけしたい!」という奈々美の強い要望でデートと相成ったのである。500kmの道程も奈々美が足元に十分すぎるほど気を配って歩いてもほんの数分で到着してしまい、お目当てのサファリパークを見下ろす位置に寝そべっていた。
「ふふっ、動物さんって可愛い」
広大なサファリパークも奈々美から見たら箱庭のようなものだ。目の前の小さなエリアの中でとても小さな動物たちが蠢いていた。
「あっ、象さんです。」
少し顔を上げて右手の小指だけ伸ばしてそっと象に近づけていき、一頭の象を少し伸ばしていた爪で軽々と掬い上げた。奈々美から見ると3mm程度の象は何が起こったかもわからずにその場に蹲っているようだ。
「可愛いですね。」
奈々美から見れば大型の動物でさえこの程度の大きさでしかない。巨象でさえ指先で簡単に潰してしまえるほど小さくて弱いのだ。
そう言いながら象を戻すと、今度はライオンの群れに伸ばしていった。突然現れた巨大な指先に驚き逃げ回るライオンたちだったが、やがて、ちょっかいを出してきた。前足で叩いてみたりじゃれ付いてみたり噛み付いてみたり。
「くすぐったいです。」
奈々美は笑顔でライオンと戯れている小指を見下ろしていた。
「奈々美ちゃんは、動物が好きなんだね。」
「うん、大好きっ!極大山関は?」
「好きなほうかな?でも、奈々美ちゃんが喜んでくれてよかったよ。」
「だって・・・極大山関も一緒だから・・・」
奈々美の顔がポッと赤くなった。

「そういえば、お相撲さんと熊さんってどっちが強いんですか?」
「へっ???」
呆けている極大山の眼前に黒くてずんぐりしたものが転がり落ちてきた。く、ま?ですよね。しかも、ヒグマですか?
「え、ちょ・・・奈々美ちゃん?」
「金太郎さんとか熊さんとお相撲するじゃないですか。」
いや、あれはただの物語で、現実は、だって、あの爪でひっかかれたらいくら極大山でもひとたまりも無い。しかも、ヒグマが立ち上がったのだ。体長は、3mはある・・・
「む、無理!怪我しちゃうよ!」
「じゃあ、ダメだね。熊さんのほうが強いのかぁ・・・」
残念そうにまた熊を爪で掬い上げる奈々美だった。

指先でシマウマの群れを追い回してみたり、カバを軽く水中に沈めてみたりしながら奈々美が突然話し始めた。
「実は、奈々美、夢があるんです。」
「どんな?」
「笑わないでくださいね。奈々美ってこんなにおっきいじゃないですか。だから、将来はアフリカに行って動物を守ってあげるお仕事をしたいんです。」
「素敵な夢だね。奈々美ちゃんがいたら、動物たちも安心できるね。」
「そうですか?だから、身体がおっきいのは全然気にしてないんです。動物をいじめる悪いこびとがいたら、奈々美がやっつけてあげるんです。」
う~ん、山より巨大な女の子にやっつけられることを考えたら、密猟なんてことをする気、なくなるよね。だって、見つかったら叩き潰されるか捻り潰されるか踏み潰されるかだし。
「奈々美ちゃんって、優しいんだね。」
「ほんと?嬉しいです。でも、もうひとつ夢が出来たんです。」
奈々美の顔がまたまた赤くなる。
「なに?」
「それは・・・まだ内緒です。」
奈々美の顔はさらに真っ赤なりんごのようになっていた。

しばらくサファリパークで遊んだ後、奈々美は極大山を掌に乗せたまま歩き出した。
もう帰るのかと思ったが、方向が違う。どこに行くんだろうか?
「一緒に、海が見たいなって・・・ダメですか?」
トレードマークになったピンクのTシャツを思いっきり盛り上げた胸をゆっさゆっさ揺らしながら、そのままどこかに向かって歩いていく奈々美。それを掌の上で眺めながら、極大山はあることに気がついた。奈々美ちゃん、足元をあまり見ていない・・・
到着したのは海沿いの中規模程度の都市だった。奈々美は歩を止めることなく街の中に入り、中心部近くでゆっくりと腰を下ろした。100を超える建物が途方も無く巨大なヒップにあっさりと押し潰される。それに、以前のようになるべく壊さないようにという素振りも見せなかった。
落ち着いたところで極大山が口を開いた。
「結構踏み潰しちゃったみたいだね。いつもの奈々美ちゃんらしくないよ。」
「大丈夫です。こびとさんには昨日までに避難してもらいましたから。」
「避難って・・・なんで?」
「実は・・・」

あの週刊誌騒動の後、加奈子を含めた何人かで話をした時のことだった。
「でもさぁ、奈々美が極大山さんのこと好きだってみんな知っててあんな記事書くかなぁ。」
「奈々美、こびとに優しすぎるからさ。ナメラレてんだよ。」
「そうかなぁ・・・だって、週刊誌の人がウソ書いても、あたしが怒ったら・・・」
そう言った奈々美だが、どの記事がウソで何が本当かわからなくなったらどうしようとも思っていた。
「でもさ、超巨大女子小学生の奈々美が怒ったらどんだけおっかないかを、こびとに教えたほうがいいんじゃない?」
「超巨大って・・・でも、教えるって・・・どうやって?」
「そうだなぁ、こういうのはどう?」

「というわけで、今日この街を全部壊すって宣言を出したんです・・・あの、嫌いになっちゃいますか?」
奈々美の顔が少し神妙になっている。
「嫌いにはなんないけど、壊すって?」
奈々美が何も言わずに片手で数区画ほどを掬い上げたのを見て、極大山は無意味な質問だと思っただろう。ビルの窓ガラスは全て割れ、壁面は無数のひび割れが発生し、傾いているものもある。木造家屋は既に崩れ落ちているものもあるのだ。それが数十棟、さらに乗り捨てられた車両も数十台が、広大な掌の上に乗っけられていた。
「こんな感じ・・・かな?」
ぐっしゃぁぁぁっ!!!
奈々美は顔色ひとつ変えずに、それを簡単に握り潰してしまった。閉じられた指の間から瓦礫や潰れた車両がポロポロと零れ落ちていく。
「なんか、怪獣みたいですね。」
握り潰した土砂を辺りにばら撒いて、奈々美がボソッと呟いた。極大山はといえば、圧倒的な奈々美のパワーに何も言うことが出来なかった。

ふたりで眺める海の景色は何か特別な感じがしていた。こういうのがデートっていうのかな?奈々美は胸の鼓動がどんどん大きくなっていくのを感じていた。
極大山は今、抱えて座っている膝の上に乗っている。胸を軽く膝近くに押し付けているので、ひょっとしたら鼓動が伝わっているかもしれない、とも思っていた。
「あの・・・極大山、じゃなくて、剛志さん?」
「へ?」
突然名前で呼ばれてたじろぐ極大山。見上げるとはにかんだような複雑な表情の奈々美ちゃんのドアップが見下ろしている。
「おかしいですか?名前で呼んだら。」
「い、いや・・・嬉しいよ。」
「奈々美も、剛志さんのことが好きだから・・・名前でって・・・そ、それでね、奈々美の胸って・・・どう、思う?」
胸とは?膝の近くに当たってグニュッと変形しているあの柔らかい双丘のことですよね。そりゃあもう!!!
「あの週刊誌見たとき、爆乳の女の人って書いてあったから、剛志さんおっきな胸好きなのかな?ってずっと思ってたの。」
「え・・・いや、あの、その・・・」
嫌いじゃない、むしろ大好きっ!と言いたいところだがしどろもどろだ。それに下手に好きとか言うと「胸がおっきかったから介抱したんだ」とか言われかねない。
そんな極大山のうろたえぶりを見ながら、奈々美は座っている横で何かを摘み上げた。電車だ!奈々美の小指ほどの長さしかない10両編成の電車がプラプラと吊るされていた。
胸元が膝から離れたかと思うと、空いているほうの手でTシャツの胸元を軽く下に伸ばす。極大山の目の前に、山脈級バストの谷間がくっきりと現れると、摘んでいた電車をゆっくりと谷間に沿って横たえた。しかも、丸ごと挟んでもまだ全然胸のほうが大きいのだ!
「今まで、胸が大きいのってあんまり好きじゃなかったけど、剛志さんが好きなら・・・」
指先で少し押し広げると、電車はそのまま奥深くに飲み込まれていった。
「こんなことできるの、奈々美だけだし・・・」
今度はまとめて摘み上げられた3つのビルが爆乳山の斜面に落とされ、粉々に砕け散っていく。
「その・・・エッチは無理だけど、おっきな胸は触ってもらえるかなって・・・」
止めは、極大山を小指の爪で掬い上げ、それをそのまま胸元に軽く押し付けた。甘い香りが極大山の全身を包み込み、視界の全てが肌色の曲面で覆われていた。
「な、奈々美ちゃん・・・あの・・・」
「こびとさんの街、潰しちゃうくらいの胸って、怖い?」
「いや、怖くないよ。奈々美ちゃんの綺麗な胸だから。」
「だったら、触って・・・」
極大山は肌色の壁に近づいて軽く触ってみた。少しザラザラしているが気持ちいい感触。だが、渾身の力をこめて押しても、ほんの少ししか凹まない。
「あは、剛志さんが触ってるってわかるよ。」
奈々美は嬉しそうに自分の胸元を見下ろしていた。

「あんたたちさ、極大山さんの悪い記事を書くってことは、あの子を怒らせることなんだからね。」
奈々美がいる街から100kmほど離れた山の頂から顔を出して寝そべっている加奈子が、不機嫌そうに掌を見下ろした。掌には政府や軍のお偉いさんなど十数名と例の記事を書いた出版社のこびとも乗せられていた。
「はい・・・」
奈々美の破壊行為の一部始終を見せ付けられて、全員が凍り付いていた。
何気なく歩くだけで次々と踏み潰され、壊滅していく街。片手で簡単に握り潰される商業区画など、超巨大女子小学生の圧倒的なパワーがまざまざと見せ付けられていた。
「今度何かあったら予告なしで潰しに行っちゃうかもね~。」
言っている本人は悪戯っぽい笑顔だが、言われている者たちにとっては死刑宣告にも似た恐怖である。だが、記者がここで踏み止まる。
「し、しかし、表現の自由は・・・」
「本当のことだったらいいよ。でも、ウソ書いちゃだめだよね。奈々美もウソつく人はこびとでも許さないって言ってるから。」
記者の完敗である。すでに記事の大半がウソだということはばれていたのだ。つまり、本来だったら奈々美の怒りはこの出版社だけが負えばよかったのだから。
翌週発売の写真週刊誌で、極大山の記事に関してお詫びと訂正がでかでかと掲載されたことは言うまでもないだろう。

「ってかさ、あたしって奈々美のパシリみたいじゃん!どういうことよっ!このとーへんぼくっ!!!」
と、加奈子の掌の上で叱責されている唐変木の姿があったことも書き添えておこう。
次は加奈子が主役?まさかねぇ・・・