翌日、途中で2つの街とひとつの村の敵(すでに二人の中ではそう認識している)の冒険者を退治して、首都近くまで達していた。
「ちょうどいい山があります。」
十分の一サイズ、といっても身長900m超のマリーがその山の斜面に沿ってそっと寝そべる。それでもその巨体が、大規模な土砂崩れを誘発していた。
山頂から顔を少し覗かせると、ちょうど首都の全景を見渡せる形になった。これならリサとリナが気づかない場所から敵が現れても目に入る。
「全部見えるね。でも、流石に首都ともなると広いんだね~。」
顔の横に置いた左手の上のレンが嘆息した。確かに今までに見たこともないような広い城塞都市。でも、マリーが本来のサイズに戻ったら・・・たぶん、10秒も持たないんだろうなぁ。。。
『あそこ、リサさんとリナさんです。』
マリーが一点を見つめている。レンもマリーの視線の方向に目を向けた。首都から少し離れた場所では、既に戦闘が始まっていた。

リサとリナは防御陣の中央にいた。リナは相手の攻撃に合わせて物理障壁と魔法障壁を使い分け、その間隙をぬってリサが飛び出して相手にダメージを与えていた。
当然敵も主力を中央に置いているので、相手をするのはハイレベルな冒険者たちだ。
左右両翼は、精強な守備軍に守られてはいるが、それでも中央よりは薄そうだ。敵から見た突破口は中央の巨人姉妹よりもこちらの方だと思うのだが。
「頃合いを見て主力を移動させるのかな?」
レンは独語していた。
一見すると戦線は膠着しているように見える。中央を突破できれば敵の戦線が瓦解するかも知れないと考え、最強の姉妹で中央から逆劇を与えようとしたが、敵の力も半端ではない。
特に黒魔導師が多いのだ。確かに剣士と格闘家だけでは何百人いようがリサには歯が立たないのだから当然なのはわかるが。
「長期戦だとやばいよね。」
リサの体力もリナの魔法力も無尽蔵ではないからだ。マリーはその時どうするのだろう?レンは黙って戦況を見つめるマリーの顔を見上げていた。

『レンさん。』
「え?なに?」
『あそこの森、様子が変です。』
ちょうど首都を挟んだ反対側、街の住民が避難を始めている近くの森にマリーは視線を移していた。
『たくさんの・・・人がいます。伏兵でしょうか?』
マリーは森の中の怪しそうな場所に意識を集中した。やがて敵の目的がわかってきた。
『大変です。逃げる人たちを襲うみたいです。何でそんなことするんでしょう。』
マリーの顔に怒りの成分が滲み出てくる。そっと右手の人差し指だけ伸ばして森の方に向けると、針のようなもの、レンから見れば長槍以上の長さと太さの柱が何本も指先から森に向かって飛び出していった。

森の中には逃げ出す住民を襲うように命令された300人近くの一団が息をひそめていた。避難民からの距離は500mほどで、もちろんマリー達には気づいていない。
そして、一般住民に紛れて貴族のような者の姿が見え、襲い掛かろうとしたその時だった。
風切音とともに彼らの何かが飛来し、彼らの眼前に突き刺さる。それも一本や二本ではない。何十本という柱が自分たちと避難民の間を分断していくのだ。
「なんだ、これは?敵襲か?」
だが、それらしき姿は見えない。それにこんな巨大な柱を飛ばすのだからそれなりの発射装置も必要だ。そんな大掛かりなものがあれば誰かが気づくはずだ。
「や、やばい!凍ってくる!」
それぞれの柱から地面が、草木が徐々に白くなっていく。アイスランスか?それにしては大きすぎる。だが、氷結魔法であることは間違いなさそうだ。既に先鋒の何人かは凍り付いている。
全員が氷の柱から距離を置き、治癒師が中心になってそこかしこに魔法障壁が作られた。
「そんなに多くの魔導師がいるのか?いったいどこに。。。」
それでも氷柱の飛来は止まらない。ついには伏兵の全員が氷柱に取り囲まれ、魔法障壁で氷結魔法の侵食を食い止めるという防戦一方の状態に陥れられていた。
「効果が薄まったら出よう。とにかく、先に魔導師どもを始末する方が先・・・え?」
レベル200以上の治癒師の作り出す魔法障壁がどんどん白く変色していったのだ。障壁近くにいたものは、既に凍り始めている。
「そ・・・んな、ばか・・・な」
絶句する彼ら。他の魔法障壁の中も全く同じ状態になっており、この別働隊が全員氷の彫刻と化すのに1分を要しなかった。

レンはポカンと口を開けたままだ。今までもマリーの魔法力の強さに驚いていたが、今回のはまたさらに凄い。そして、レンと同様にこの魔法力に呆れていた者が、もう二人、戦闘のただ中にいた。
「お、おねえちゃん、あれ・・・」
左手で魔法障壁の威力を調整しながら右手である方向を指さすリナ。リサがその方向を見ると、首都の向こう側の森の半分近くが真っ白に染まっている。
「ひょっとして・・・あれって、」
そう呟きながら上下左右に目くばせするリサ。いた!近くの山の頂の上に頭が見える。しかも、またサイズが変わっているようだ。
「もうっ、来ないでいいって言ったのにっ!」
しかし、マリーはリサがその後呟いた『ありがと』の言葉を聞きのがさなかった。
「よかった。怒ってないみたいです。」
マリーの顔が少し綻んで、レンに囁きかけた。

戦局は膠着していた。中央付近のふたりの巨人の少女は基本的には防御に徹していたといってもいいだろう。だが生来好戦的なリサは、リナの障壁の間隙をぬって突出してまとめて十数人を
その拳や蹴りの餌食にし、また障壁の中に戻るといったことを繰り返している。
リサの巨体から繰り出される直接攻撃の破壊力は凄まじく、高位の剣士や格闘家が治癒師の物理障壁に守られても、その程度の物は簡単に粉砕し一瞬で塵に変えていた。
黒魔法にさえ気を付ければ、魔導師や治癒師などは全く相手にならない。いつの間にか魔導師たちの前に巨大な足が現れたかと思うと、次の瞬間には治癒師が作った物理障壁諸共に踏み潰されているのだ。
それは、一か所だけ敵軍の中央に、楔が撃ち込まれようとしているように、リサたちには思えていた。

最初にそれに気づいたのはマリーだったろうか、それともレンだったろうか。
「あの二人だけ・・・」
『誘い込まれてるように見えます・・・』
二人の歩幅の大きさもあるのだろうが、いつの間にか他の兵士たちとの距離が数百mも開いていた。そして、その間を敵の魔導師や治癒師が回り込んでいる。
味方の兵士たちは物理障壁によってなかなか前に進めない。完全に二人の少女は孤立している形になっていた。
「おねえちゃん!まずいよっ!」
リナも気が付いたようだ。気が付けば周りは敵だらけになっている。
「一度戻らないと・・・え?」
今まで機敏に動き回っていたリサの動きが急に鈍くなっていた。表情が見るからに疲れている。でも、まだそんなにスタミナを消耗したとも思えない。何かおかしい、そう思って姉の足元を見ると、
そこには真っ黒な沼地のようなものが広がっていた。
「黒魔法!おねえちゃん!戻ってっ!」
叫びながらリサに走り寄るリナ。リナはがっくりと膝をついて息も荒くなっている。黒魔導師たちが張り巡らせた罠はそれだけ強力だったのだ。
治癒魔法をかけながらリサを背後から抱きかかえ、後ろに下がっていく。が、そこには黒魔導師の集団が待ち構えていた。しかも散開している。リナが巨人の体躯で踏み潰したとしても、
一度にせいぜいひとりかふたりしか退治できない。その間に無数の、体力消耗や魔力封じ、果ては死の魔法までもがふたりに降り注いでくる。同時に広げている魔法障壁にも限界が見え始めた。
「おねえちゃん、このままじゃ・・・マリーさんに・・・」
「だめっ!無関係なのにこれ以上巻き込んだら・・・」
その時だった。ふたりの視界にとんでもないものが飛び込んできた。

敵本陣と思われる場所の背後の山の頂から顔を覗かせたのは、ドラゴン!その大きさたるやふたりがマリーの家の前で襲われたあの巨大ドラゴンに匹敵していた。
体長およそ500mのそれは、このあたりで通常遭遇するドラゴンのおよそ20倍はある。こんな場所にまでこんなものが来るの?ふたりの脳裏にはマリーに助けられた直前のあの光景が蘇っていた。
「あんなの・・・もう、だめだよ・・・」
だが、山頂から顔を上げて咆哮を上げているドラゴンに驚いているのはこちらだけではない。敵の冒険者たちも唖然とした表情で巨大ドラゴンを見上げていた。中には戦意を喪失して
一目散に逃げ出す者もいる始末だ。どうやら敵の大多数もこのドラゴンの存在を知らなかったようだ。
そしてもうひとつ、大きな影が敵本陣の背後に現れた。それは人間と同じ2本足で立っているものの、その姿は人間とは言えないほどに異様だった。全身が濃い体毛に覆われ、
両手足の指が異常に長い。そして人間との大きな違いは尻の先に伸びた鋭い尻尾と背中に生えた蝙蝠のような羽だ。身長100m強のそれがリナたちの方を向いて冷笑を浮かべていた。
「魔族・・・」
リナと、遠くから見ていたレンがほとんど同時に呟く。
『魔族って、何ですか?』
マリーは何も知らなかったので、レンに尋ねてみた。
「魔族っていうのは、」
この大地の主は人間だけではない。人間以外では神族と魔族が存在している。神族の姿を見た人間はいないが、魔族は昔から度々人間界に現れては争いを起こしていた。
だが、ある日を境にぱったりと人間の前に魔族が現れなくなったのだ。理由はわからないが、それから20年以上経ち、人間たちの記憶からも魔族という存在は消えかかっていた。
それがいきなり目の前に現れたのだ。しかもそのサイズと後ろに従えているドラゴンから、かなり高位の魔族であることがわかる。過去に人間と争っていた魔族は、そのほとんどが
通常の巨人族程度のサイズだったのだから。
「ってころは、あのドラゴンはあいつが連れてきたのか。」
『そうなんですか?』
「うん、魔族にとってモンスターは、人間にとっての獣のようなものだからね。飼いならすことも出来なくはないんだ。」
『へぇー、レンさんっていろんなことご存じなんですね。』
前方の緊張感最高潮とは裏腹なこののほほんとしたやり取りはもう少しだけ続くのだった。

一方の戦場のど真ん中、巨大ドラゴンの放つ視線に敵も味方もその全員が恐怖していた。あのサイズから放たれる灼熱の火球の威力は恐らく凄まじいものだろう。既にドラゴンは
その態勢になりつつあった。
「フン、お前たちさえ片付けばあとはクズばかりだからな。」
勝利を確信した顔で、視線の先にいる唯一自分より大きな姉妹に笑いかける。
「クッ・・・なぜ魔族が・・・」
「魔王様の気が変わったのさ。人間界を俺たちのものにする。まず手始めにここが選ばれたんだ。光栄だろ?さて、そろそろいい頃だな。じゃあ、やれ!」
ドラゴンの口腔が真っ赤に染まり、火球が吐き出された。味方のはずの冒険者の魔法障壁を通り過ぎた火球は、それをあっさりと溶かし去り、中の冒険者を瞬時に丸焦げにする。
触れなくてもそれだけの威力の火球が、行く手の冒険者たちを次々と消し炭に変えながらまっすぐに巨人の姉妹に向かっていた。
「リナ、防げる?」
「や、やるしかないじゃん!」
持てるありったけの魔法力で前方にだけ魔法障壁の壁を作るリナ。
「あんたたちも、死にたくなかったら後ろに隠れてなっ!」
背後にいた敵であるはずの黒魔導師たちは、リサにそう言われて敵味方を忘れてリナの魔法障壁の後ろに、正確にはリサの巨足の後ろに集まってきた。
火球が魔法障壁に激突し、激しく火花を上げる。
「あ、あつい・・・」
リナが思わずうめき声をあげる。1発目は何とか防げそうだがもうひとつ喰らったら持たないだろう。障壁の中央もどんどんと薄く赤く染まっていた。

ドラゴンがもう一度火球を吐き出そうとしたその時だった。突然、ドラゴンの上空を真っ黒に染める影が現れた。ドラゴンどころか、もたれかかっている山までもがその影に呑み込まれる。
グッシャァッ!!!ズッドォォォンッ!!!
何か肉の塊が圧し潰されるような音とほぼ同時に巨大地震が発生した。あの魔族もリナとリサでさえその場に投げ出される。それ以外の人間などは震源に近ければ近いほど数百mも
跳ね上げられ地面に叩き付けられる。かなり離れた場所にある、姉妹たちが守る首都でさえ、至る所で建物が崩落していた。
やや間を置いて、敵本陣の背後の山全体が圧し掛かるように魔族も含めたその場にあった全てのものを呑み込んでいく。
戦場にいた数万人の中でその正体がわかっていたたったの二人を除いたすべての者が震源地の方を見て全身を強張らせる。巨大ドラゴンがいたはずのその場所には、ドラゴンはもちろん山も消え去っており、代わりに何か途方もなく巨大なものが現れていた。
「なんだ、あれ。。。」
向こう側へ行くにつれて優雅な曲線の稜線がグンと上昇していく。その丘陵をまるで編上げたような格子状のものがまとわりついている。よく見れば一番近い場所には、彼らか見ると右から左に向かって5つの巨大な岩石のようなものがだんだんに小さくなるように並んでいた。だがその曲面はそれが岩石などではないことを物語っている。
「人の足・・・みたい・・・え?」
その周りに飛び散ったものが次々と落下して来たのだ。それは濃いピンク色の肉片だった。しかもその大きさたるや数m~数十mはあり、中にはドラゴン特有の鱗まで張り付いているものもある。つまり、一瞬で潰されたあの巨大ドラゴンの肉片・・・
ようやく誰もがそれの正体を理解し始めた。これは、足だ。しかも、とんでもないサイズの・・・そして、その曲線の美しさから女性の足であろうことも。
冒険者たちは魔族の出現以上の驚きで、完全に戦意を喪失してしまった。

「無関係だなんて冷たいじゃないですか。」
リサが見上げると、通常のサイズに戻り、ドラゴンをあっさりと踏み潰してその場で聳えているマリーが少しふくれっ面で見下ろしていた。
「もう、私はおふたりをお友達だと思ってるんですから。そうだ、リナさん。レンさんを預かっててください。」
マリーの手から白い球がリナに向かって飛んできた。小さなボール大のその球をリナが受け取ると、白い球がパッと消え去って中から小さな剣士が現れた。はにかみながらレンが話す。
「助けたいってマリーが言うからさ。余計なことだったかな。」
「別に。また借りを作りたくなかっただけよ。」
リサは少し不機嫌そうに答えた。
それにしても、とリサは思う。たったの一歩で戦局をひっくり返すどころか敵に壊滅的な打撃を与えるなんて、この子の敵ってみんな滅んじゃうんじゃないのかな。
敵の冒険者たちは既に我先にと逃げ出している。もう、戦いも終りね。そう思うリサの視界に、敵本陣だった場所が盛り上がってくるのが見えた。
「あ、あいつ!マリー!そいつ、逃がさないで!」
「はい」
マリーも気づいていたらしい。ゆっくりとしゃがみながら土砂の中から顔を出した魔族に手を伸ばしていった。

何が起きたかわからないのは魔族の男も同じだった。突然生き埋めにされたのだから無理もない。土砂をかき分けて地上に顔を出すと彼の視界に飛び込んできたのは途方もない大きさの手だ。
慌てて抜け出して飛び上がり、状況がわかる場所まで上昇しようとした時、全身に強烈な衝撃が走ったと思った瞬間には地面に叩き付けられていた。
飛び上がった魔族を軽く叩き落として、マリーはその魔族を摘み上げていた。
「なんかキモい姿ですね。どうします?潰しちゃいますか?」
全身打撲で身動きが取れずに息も絶え絶えになっている魔族を見つめるマリー。レンたち3人はその光景を呆けた表情で眺めていた。どう見ても、虫けらを叩き落としたようにしか見えなかったのだ。
この魔族を殺すことも、マリーにとっては虫を潰すようなものなのだろう。レンは慌てて制止した。
「ちょっと待って。何でこんなことをしたのか理由が知りたい。」
「あ、あたしも。」
「そうですね。でも、逃げられないようにしておきましょう。」
マリーは、魔族の羽根を摘むと、メギッ!と簡単に引き千切ってしまった。直後に響き渡る魔族の悲鳴。リサとリナ、そしてレンも顔を見合わせる。
「あの子ってあんなに残酷だったっけ?」
いや、残酷というよりも飛べなくすれば逃げられないと思ったマリーの直線的な行動だろう。ただ、あまりにもあっけなかっただけだ。

マリーの掌の上にリサとリナと瀕死の状態の魔族、リナの掌の上にはレンが乗っている。足元を逃げ回っていた冒険者たちは既にほとんどが逃げ出したか降伏したかしていた。
「で?魔族が人間界にまた手を出しに来たのは、その魔王様の命令なわけ?」
ボロボロの状態の魔族をさらにボコボコにして色々と聞き出したリサを見ると、「いや、あんたも相当なもんでしょ。」とツッコミを入れたくなるレンなのだが。
「は・・・はい・・・」
魔族の男はもう恐怖で精神が壊れそうになっていた。こいつら、魔族より悪魔かもしれない。そうも思っていたが決して口には出さない。
「じゃあ、その魔王様のところに行ってみましょうか?場合によっては私がやっつけてもいいですし。」
魔王をやっつける?バカか?こいつら。でも、魔界に戻れば隙を見て逃げ出せるかもしれない。そう思った彼はこの一行を魔王の居城、すなわち魔界に案内することを承諾した。

「なんか、うちに帰るみたい。。。」
迷いの森を抜け、魔の森と同じような森を抜けようとした時にマリーがボソッと呟いた。
確かにそうだ。でも、魔の森の先に見え始めた景色はマリーの家があった場所とは明らかに違っていた。
「これが、魔界?」
陸も空も全体的に薄暗く、植物も生えてはいるが何か重苦しいような色彩のものばかりだ。
「フフッ、一度魔界に足を踏み入れたんだ。生きて帰れると思うなよ。」
自分のテリトリーに入ったからだろうか。魔族の男ががぜん元気になる。だが・・・
「こういうのにやられちゃうってことですか?」
一度立ち止まったマリーが、ゆっくりとしゃがんで空いている手で何かを鷲掴みにした。それは、あの500m級のドラゴンだ。必死に逃げ出そうとしているようだがマリーの強靭な手から逃れられるはずもない。
マリーがほんの少し力を入れたのか、何か固いものが砕ける音とドラゴンの絶叫が同時に全員の耳に入ってくる。
「この子以外にもいっぱいいるようですけど、みんなちっちゃ過ぎて・・・」
少し不満そうにドラゴンを投げ捨てまた歩き始める。
「魔王さんもこんなに弱かったら、ちょっとつまらないですね。」
マリーさん、ちょっと調子に乗ってるなぁ。と不安に思うレンであった。

やがて王城が見えてくると、マリーの歩みが少し遅くなった。レンたち3人も城の姿を見て思わず息を呑む。
「ちょっと、あれ。でか過ぎない?」
最初に口を開いたのはリサだった。
「かなり・・・大きいです・・・ね。」
流石のマリーもこれには少々困惑気味だ。門扉のサイズなど明らかにマリーとは比べ物にならないほど大きい!城全体の広さも、恐らくマリーが今まで歩いた距離の数倍はあるだろう。このサイズに見合う住民のサイズは・・・普通に想像すれば身震いしてくる。
門扉の前まで辿り着いたが、やはりマリーでさえ思いっきり見上げなければならないほどだった。もし、これが閉ざされていたらはたして開けられたかどうかもわからない。いや、きっと無理だろう。
それでも、これ以上人間界に魔族が襲撃しないようにしなければならないと自分に言い聞かせ、まず、3人を白魔法の球の中に入れる。魔法障壁に近いものだが、黒魔法にしか効果は無い。だが、さっきレンを移動させたようなことも出来るので、ある程度の防壁にはなるのだ。
と、その時、あの魔族がマリーの掌から隙を見て飛び出してしまった。
「あっ・・・」
いつの間にか少しだけ再生した羽根と風の魔法を使って、一気にマリーの手の届かない場所まで逃げ出してしまった。
「まちなさ・・・」
ズーン、ズーン、ズゥゥゥン・・・
奥からマリーでさえよろめくほどの地響きが聞こえてきたのだ。しかも、途中から走り出したのかズドドドドドという断続的な巨大地震に変わっていた。何か、とんでもなく巨大なものが・・・
まさか、本当にこの建物のサイズに見合った主なのか?そう誰もが考えた時、マリーの腰ほどの高さを飛んでいた魔族が黒く大きな影に呑み込まれていた。
「ま、魔王さ・・・」
ズッドォォォォォンッ!
そんな小さすぎるものに気付かなかったのか、数千m上空を飛んでいた体調100mほどの魔族を、さらに上空から恐ろしく巨大な足が踏み潰した瞬間だった。
「ひぇ・・・」
「もぉっ!またすぐ遊びに来るって言ってたのにいつまで待たせるのよっ!」
10代の少女の桁外れな声量と同時にマリーに大きな何かが近づいてきた次の瞬間、身長9000mのマリーがまるで人形のように掴まれ、そのまま城の奥へと連れ去られてしまったのだった。

マリー達の運命やいかに・・・って、まだ続くのかぁ・・・