待ち合わせ

なんか話が出来すぎている。そう思いつつも、俺は約束の場所に向かっていた。
それは昨晩のこと。いつものようにアダルト系ツーショットチャットで遊んでいた。特に見たいテレビも無く、何気に退屈なときはだいたいこうだ。
だが、いつも待機状態のままで眠りにつくことが多い。それだけマイナーな無料チャットと言うことだろうか。
昨晩も自分の性癖満開の待ち受けメッセージを入力して相手を待つ。その間テレビのチャンネルをコロコロ変えたりしてグダグダしていた。
ところが何故かほとんど待たずに相手の女性が入室してきた。

本当に女の子なのか、ネカマなのか?どっちでもいいやと思いつつ、当たり障りの無い挨拶からだんだんとエロトークに持って行く。要は自分の欲望が満足させられればそれでいい訳で、あれこれ妄想しながら楽しむものと自分では割り切っているつもりだった。
「彼女」は、19歳の無職ということだった。やはり退屈しのぎにチャットでもしようと思ったらしい。で、俺の待ち受けメッセージを見つけたということだった。
「私、本当に初めて会う人が必ずビックリするほど爆乳なんです。」
向こうからこう言って来る時はネカマ率が高い。声が聞こえれば萎えてしまうが、文字だけであれば女の子を想像しながらなのでこの時も俺はそうすることにした。
俺のとんでもない話にもちゃんと答えてくる。ネカマ率がかなり上がって来る。1時間ほどやりとりしただろうか。そろそろかなぁと思い始めた時だった。
「LINEのID教えてくれますか?」
そら来た。下手にIDを教えようものなら一日に大量の訳のわかんないメッセージが飛んでくると誰かが言ってたな。俺は「今日初めて話したばかりだから」と丁重に断った。
ここでだいたいは引き下がるはずなのだが、「彼女」は違ったのだ。
「じゃあ、非通知でいいので電話してください。番号はxxx-xxxx-xxxxです。」
えっ?どういうことだ?俺が次に想像したのは、相手は本当に女の子なんだがその後ろにこわ~いお兄さんがいる。そんな場面だった。でも、非通知なら声を聞くくらい。そう思って指定された番号に電話してみた。

「もしもし、あの、ありがとうございます。」
電話に出たのは本当に可愛らしい声の女の子だった。自分の声が上擦っているのを自覚してしまう。
彼女は本当に胸が大きすぎて男性と出会う機会すらない。だから、どんな形でもいいから男性と仲良くなりたい。ということだった。俺のことは「どんなに大きな胸でも構わないし、大きければ大きいほど好きだ。」と言ったので会いたいと思ったと言っていた。
「明日、会えませんか?」
どっ、どうしよう。新手の美人局だとしても人が多い場所で待ち合わせてお茶するくらいなら怖いお兄さんも出るタイミングが無いのではないか?などと考えながらも、というより一度会ってみたいという思いのほうが大きくなり過ぎてしまい、結局会う約束をしてしまったのだ。

郊外のそれなりに大きな駅前で俺は道行く人たち、特に女性の姿を眺めていた。約束の時間の30分も前に着いてしまったのだから、まだ彼女は来ていないであろうに・・・だ。
「確か身長も大きいって言ってたよな。」
そう呟きながら、長身で爆乳の女性がいないかを目で追ったりしている。もうここまで来たんだから、少なくともビックリするほどの爆乳くらいは拝んでおきたいと思っていた。
ズゥゥゥン・・・
遠くの方から何か重厚な地響きが聞こえてきた。
ズゥゥゥン・・・ズゥゥゥン・・・
少し遅れて地面がグラグラッと揺れる。地震?近くを歩いていた人たちも一斉に足を止める。
なんとも言えない静寂の中で、ポケットに入れていた俺の携帯がメールが着信したことを告げていた。

『もう、着きましたか?』
彼女からのメールにはそう書かれていた。
『はい、少し早く着いてしまいました。どこにいるんですか?』
メールを返信して、1分もしないうちに彼女から返事が来た。
『ちょっと曇ってるから見えませんね。そこで待っててくださいね。』
どういう意味だ?確かに今日は曇り空だが・・・えっ?な・・・なんだ?あれ?
いきなり空が真っ暗になる。突然現れた何かとんでもなく巨大なものがはるか上空で動いているようだ。そして、その動きに呼応するように厚く垂れ込めていた雲が吹き飛ばされ、散り散りになって消えていった。
何秒か遅れて吹き付ける突風に思わず蹲り、顔を上げたその先に見えたものは・・・数km先の山々の向こうに聳える真っ赤な壁だった。

『私のこと、見えますか?』
その場に座り込んだまま次のメールを見る。見えるって・・・う、うそだろぉ!?
標高500mほどのふたつの山の向こうの巨大な赤い壁。いや、それは豊かな丸みを帯びた球体に近いものだ。だが、そのサイズたるや山が小さな盛り土に見えるほどに巨大なのだ。目測で直径3000mはあるだろうか。しかも、それがただの球体でない証拠に接地しているほうが少しゆがんで大地に乗っている。さらに、全く同じ大きさのものがその隣にも・・・山々の至るところで土砂崩れが発生しているのをこの場所からも見て取れることが、大きさだけではなく重さもとんでもないことを表していた。
そこから視線を上げていくと、なだらかな局面の肌色の壁に変わり、そしてその上には女の子の顔・・・待てよ、そう言えば昨日電話で話したときのやり取りで・・・
「あの、胸が目立った服と隠した服とどっちがいいですか?」
「そうだなぁ。ビックリするほどの爆乳を見たいので目だったほうが・・・」
ダメもとで言ってみたら、
「わかりました。じゃあ、赤いタンクトップにしますね。」
じゃあ、あの・・・とんでもなく巨大な女の子が待ち合わせの相手!?
周りの人々が、山の向こうの途方も無く巨大なものの正体に気付き始めて我先にと走り出している中で、俺はメールを返信していた。もう、逃げるという行為はどこかにぶっ飛んでいたのかもしれない。
『たぶん、そうだと思うんだけど。手を振ってみてくれますか?』
その数秒後、恐らく寝そべっているであろう山の向こうの超巨人が、どのくらいの大きさなのか見当もつかないスマホの画面を見た後、はにかんだ様な顔で軽く手を振るのを、俺は唖然として眺めることになるのだが。

「あのぉ、やっぱり私の胸って大きすぎでしょうか?」
スマホから聞こえる声に続いて、直接の声が轟音となって二重に届いてくる。相対的に見ても顔よりも片乳のほうが一回り近くでかい!これが普通の女の子のサイズでも確実に爆乳だ!
「いっ、いや・・・確かに大きいです。けど・・・」
「けど?」
胸以前に身体がでか過ぎないか?と言いたくなる。でも、そんなこと言った瞬間にあの馬鹿でかい手であたり一面叩き潰されて、周りで逃げ回っている数千人か数万人と一緒に人生が終わってしまうだろう。それに、彼女は少し身を乗り出したのか、胸がすぐ手前の標高500mほどの山に圧し掛かって、既に山頂部は根こそぎ崩れ落ちているのだ。もう少し前進したらあんな小さな山などその数倍以上の巨大なおっぱいに押し潰されてしまう。
「や、山より大きいとは・・・思わなく・・・て」
「山よりおっきな胸は・・・嫌いですか?」
「そっ、そんなことありません!大好きです。」
「じゃあ、夕べのお電話のお願い、聞いてあげますね。」
彼女が嬉しそうに笑うと、それに呼応してフルフルと胸が揺れ、山や近くの建物に止めを刺し、振動がここにまで伝わって来る。
でも、お願いって?
「忘れちゃったんですか?私の胸によじ登りたいって・・・」
照れくさそうに少し俯く彼女。ってか、あんな爆乳山によじ登って、途中で振り落とされたりでもしたら・・・背中の汗の量が思い切り増量してしまう。

「今、駅前ですか?」
「はい」
「じゃあ、ちょっと動かないでくださいね」
ずぅん・・・恐ろしく巨大なスマホが胸の横に置かれると、周りから何か小さなものが吹き上がるのが見えた。小さなもの?違う、あれって瓦礫や車や人だ。ただスマホを置いただけで吹き飛ばされてしまう破壊力なんだ。。。
それだけでも恐怖倍増なのに、彼女の手がこちらに近づいてくるのが見える。え?なに・・・するの?
数百m向こうに4本の指が突き立てられる光景はまさに異様だった。しかも小指でさえ超高層ビルより巨大なのだ。その4本の指が今までの地震とは比べ物にならないほどの超巨大地震を起こしながらズブズブと地面に押し込まれていく。
足元からズゴゴゴゴッ!という地響きが身体を突き上げる。車はガタガタと揺れ、崩落していく建物が続出する。駅で止まっている電車でさえ、線路の上を行ったりきたりし始めていた。

突然、身体が地面に押し付けられた。高架橋がへし折れ、架線が引きちぎれる。地面の至るところに亀裂が走り、たまたまその上に止まっていた2tトラックがあっけなく呑み込まれる。まさに地獄絵図そのものだ。
「え~っと、どちらでしょうか?手を振ってくれますか?」
彼女の声量が突然大きくなった。雷鳴のような大音量に思わず耳を塞いで蹲ってしまう。
「う・・・わぁ・・・」
何とか顔を上げ目の前を見ると、街を覗き込んでいる巨大な瞳があったのだ。駅前の数区画が彼女の手で簡単に掬い上げられ、目の前に移動させられていたのだった。
「あれぇ?なんでそんなに手を振ってるの?」
あまりのドアップで表情までは読み取れないが、彼女が探している相手なら助かるはずだと思った奴らが手を振っているのだろう。声に少し怒気が籠っていた。
彼女は空いている手でスマホを耳にあてた。
「服装を教えてください。」
なるほど、質問は全員に聞こえるが、答えは俺にしかわからないということか。
「上は半袖のチェックのシャツ、下はジーンズです。今は手を振っていません。駅前のコンビニ前の車道にいます。わかりますか?」
巨大な瞳が動く。それだけでゴゴッ!という音が聞こえそうだ。俺を見つけた?ギョロッとした瞳が俺を見つめているようにも思えた。
「左手を上げてください。」
言われたとおりに左手を高く上げる。彼女の声しか聞こえない連中もきっと高々と手を上げているのだろう。

ゴウッ!という風切り音と共に何かがいきなり近づいてきた。人差し指のようだ。それが俺のいる場所から数十m離れた場所に降ろされた。
グシャッ!ベギッ!ドォォォンッ!
いくつもの建物と車両、そしてそこにいた人々が一瞬で押し潰された。もう、俺の目の前には周りのビルより遥かに巨大な指先しか見えなかった。
「爪の上に乗ってください。」
もうやけくそになっている俺はその厚みでさえ4mはあろうかという爪に近づいていくと、視界の隅に彼女の指先に走り寄ってくる何人かの人影が見える。だが・・・
ズゴォォッ!
凄まじい地響きと共にもう一本の指が現れたかと思うと、近づいていた他の人たちはもちろん、その進路上にあったビルや車なども一緒にして簡単に押し流してしまった。
「早く乗って!」
呆気に取られていた俺もハッとして反射的に走り出すほどに高圧的な大音量だった。

無事に爪の上に到着した俺は、街から1000m以上上空にいた。いや、街を乗せた手が下がっていったのだ。目の前には変わらず彼女の瞳がある。そして半透明の爪の下にはペシャンコになって貼り付いている車があり、その脇からはたぶん中に乗っていた人であろう赤いシミが広がっていた。
「やっと会えましたね。はじめまして。」
声の調子が少し弾んでいる。
「は・・・はじめ・・・まして・・・」
「緊張してるんですか?聞こえるから普通の声で大丈夫ですよ。」
そうなんだ。下手な独り言も言えないかもしれない。そう思って下を見ると、思わず声を上げてしまった。
「う、うわっ・・・」
それは俺が今までいた場所、巨大な手に乗せられた駅前一帯がグシャリと握り潰されていたのだから。
「どうしました?」
彼女も俺の狼狽した声に気付いたらしい。軽く握った手を目の前まで上げていた。指の間から土砂に混ざってポロポロと色々な物が落ちている。潰れた車や瓦礫に混ざって運よくそのまま地面にくっついた状態の3階建てほどの建物も丸ごと落下していった。
「ああ、これですか?もういらないと思って。」
そう言うと拳の中に残っていたものを撒き散らして手が視界から消えた。直後にドォ~ンッ!ドォ~ンッ!という衝撃音が轟く。彼女にとってはただお尻のあたりで手についたゴミを払っただけなのだろう。再び視界に現れた手の上にはもう何も乗っていなかった。

「本当に大き過ぎて困っちゃうんです。でも、こんなに大きくてもいいって言ってくれる人がいてすっごく嬉しい。」
彼女は上体を起こして膝を崩して座っている太ももの上まで左手を下ろして、俺はそのだだっ広い掌のど真ん中に乗せられているようだ。見上げればドンッと突き出した爆乳の下側から、寝そべった時にくっついた色々な物がバラバラと落下している。
改めて下界を見てみると、彼女が寝そべっていたあたりは完全に土がむき出しになっている。恐らく全てのものを押し潰して土砂に塗れているのだろう。その先の山はもう完全に原型を留めていないほど崩れ落ちていた。特に手前側は爆乳の重さに全く耐えられなかったようで、胸が圧し掛かったあたりだけ陥没している有様だ。さらにはその向こうに大きなクレーターがひとつ。彼女が片手で掬い上げ、簡単に握り潰してしまった場所だ。
「で、でも・・・魅力的ですよ。」
「ほんとぉ!?じゃあおっぱいで高層ビルを挟んであげますね。」
再び全身が掌に押し付けられる。彼女が立ち上がったらしく、胸元まで上げられた手の上で背後に大きく揺れる山脈の圧力を感じながらもんどりうっていた。

「会う約束しても、みんなすっぽかされてたんです。あったま来て待ち合わせ場所をおっぱいで潰したり踏み潰したりしちゃったんだけど、今日はすごく嬉しいです。だから言うこと何でも聞いちゃいますよ!」
『世界制服してください』なんて言ったら喜んでやっちゃいそうな勢いだ。
下のほうから聞こえるズゥゥゥンッ!という地鳴りのような音と一層大きく揺れた胸で、彼女が座ったらしいことがわかった。俺を乗せた手はまだ胸元にあるので、深いクレバスのような谷間もはっきりと見える。
指で何かを摘んで胸の谷間に横たえるのが見えた。あれって・・・高層ビル?彼女は手近にあった高層ビルを次々に引き抜いては胸の上に乗せていたのだ。あっという間に谷間に縦に並んだ5つの高層ビル群はまるで豆粒程度の大きさにしか見えない。
「高層ビルだとちっちゃ過ぎてつまんないんです。」
そう言った時に少しだけ揺れた胸に翻弄されて、ふたつばかりが谷底へと消えていった。
「乳首の上でも余裕で乗りそうだな・・・」
俺のその言葉に反応したのか、
「エッチだなぁ。でも、後で見せてあげますね。あとはどうしようかなぁ・・・」
辺りを見回す彼女。既に残りの3つの高層ビルの姿も見えない。

次に見つけたのは長さ1000m以上はありそうな長い橋だ。まだ橋上には沢山の車が残っている。それが左右の胸の間に乗せられていた。
「橋の上、乗ってみます?」
俺が何かを言う前に、小指の爪で掬い上げられ橋の上に落とされてしまう。左右から迫り出す巨大な胸。その桁外れの圧力で橋全体が嫌な音を立てていた。
「どうですか?おっぱいに橋をかけられる女の子って私くらいだと思うけど。。。」
彼女は俺が喜んでくれると思ったのだろう。だが、彼女が最後まで言い終わる前に、橋は真っ二つにへし折れて乗っていた車や人を撒き散らしながら谷間へと真っ逆さまに落ちてしまったのだ。もちろん俺も例外ではなかった。
肌色の斜面に叩きつけられ、そのままズルズルと落ちていく。谷間がくっついている場所で止まったので助けてもらおうと思ったその時、更に谷間が開いてしまったのだ。俺は暗闇の中に吸い込まれ、恐らくもう一度左右の胸がくっついた瞬間にペシャンコにされるのだろう・・・遥か頭上からは彼女の心配そうな声が響いていた。
「大丈夫ですかぁ?ちょっと待っててくださいね。」
もう・・・遅いな・・・

彼女はすり潰したことも気付かずにしばらくの間俺を探していたようだが、あきらめがいいのか数分後には立ち上がって、この大都市を蹂躙して立ち去っていった。