※今回は、少々残酷な場面が多いです。話の流れから避けて通れないので、そういうのがお嫌いな方、ご容赦ください。

美由紀と真菜は並んでシュナイダーに向かっていた。今日はふたりとも私服である。そして、ふたりともなんとなく身体の線が見える系の服装だった。
途中の村はまだ人が戻っていなかった。まだ危険だったし、何より前回美由紀が山の尾根を押し崩した時に、道も完全に塞いでいたからだった。
ふたりは美由紀が作った新しい山を軽く跨ぎ越していた。
「うわっ!これ、美由紀がやったの?」
「うん・・・」
美由紀がさらに巨大になったという話が真菜には半信半疑だったのだが、目の前の現実を見せつけられて呆れかえってしまった。
特に向かって左側の被害が凄まじく、シュナイダーの左側の山がえぐれて切り立った崖になっており、そのさらに左の山は完全に崩壊しているように見えた。
「何でもありだね。美由紀様。」
「もう、笑い事じゃないんだから。元に戻れなかったらどうしようって本気で悩んでたんだからね。」
「いいじゃない、戻ったんだし。それに大きくならなかったら、マジでヤバかったんでしょ?」
「うん、そうだけど・・・」
「これで意識して大きさが変えられたら言うこと無いね。キャッ!」
ズッズーンッ!あまり足元を見ていなかったのか、真菜がいきなりこけてしまった。が、何やら大きく凹んでいる場所、しかも踏んでもそれ以上凹まないほどに硬い岩盤。
「なに、これ〜っ」
真菜がお尻を叩きながら立ち上がる。
「これ?えーっと・・・その・・・」
美由紀が赤い顔をして、自分の胸を指さした。
「はぁ?」
真菜が辺りを見渡して、もう一度美由紀の爆乳をじーっと見つめる。
「こんなにでっかくなったの?あっきれた!これじゃあ、美由紀の胸って文字通りの山になったんじゃない?今度アレックスでも登らせてみたら?」
「え?うん・・・」
美由紀は真っ赤になって俯いた。

時間はパルメア時間で1週間ほど前に戻って、ここはグロイツ帝国の前線基地。そう言えば、グロイツ側って初登場です。
「全滅ぅ?どういうことだ!」
パルメア王国シュナイダー領を襲わせた魔獣軍団の戦況報告を聞いて、一番偉そうな男、たぶん司令官が部下を怒鳴りつけていた。
「はあ、小官にもわかりかねます。何しろ魔獣軍団の真後ろに配置した偵察部隊が帰隊せず、再度偵察部隊を派遣したところ、その・・・」
「その?なんだ!」
「シュナイダーは健在、しかも魔獣軍団も偵察部隊も跡形もなく消え失せていたと・・・ただ、周辺の地形が大きく変わっていたとのことであります。」
「どのようにだ?」
「何でも、山々が崩れ、場所によっては山全体がえぐり取られたような痕跡があったらしく、その中にあの突然変異種の2匹の遺骸が張り付いていたとのことであります。」
「そんなことが出来るのは、あの巨大女しかおるまい!そのために陽動作戦をし、さらにあの突然変異の魔獣を全て投入したと言うのに、最低限の目的も果たすことが
出来なかったのか?」
グロイツ帝国が、獣を魔獣化させる薬草の一種を発見したのは数ヶ月前のことである。研究開発を続け、ある一定の周波数帯の音で魔獣のコントロールを可能にするまでに至り、
さらには突然変異でさらに巨大化した熊型の魔獣のコントロールにも成功し、満を持してこの作戦を実行したのだった。
ちなみに、魔獣のコントロールは、イルカの調教で使うような笛(人間には聞こえない周波数帯の超音波を発する)を使用している。

偵察部隊兼魔獣操作部隊の名誉のために言うと、彼等は途中まで作戦を忠実に実行していた。
シュナイダーの南は、少し先にある山を境に左右に分かれて、シュナイダーから見て右側に小さな村の方へ分岐し、左側へは、以前、美由紀が魔獣の群れと遭遇した場所に至る。
彼等は魔獣の群れと共に巨大な山脈のいずこかから現れ、広大な渓谷に工兵部隊が持ち込んだ即席の橋をかけて渡り、シュナイダー領に侵入していった。
しばらく侵入したところで、予想通りシュナイダー領の偵察部隊と遭遇する。ここからが作戦展開の勝負になる。
最初、左側から魔獣約1000匹をシュナイダーに向かわせ、巨大女が出てきたところで、右側から約1000匹を突入させる。恐らく巨大女は城壁近くまで引くだろうから、
位置取りによって突然変異種を臨機応変に投入する。実際、そのまま推移すれば、右側から突入させた突然変異種が城壁を突破するはずだったのだ。
ところが、ここで第一の誤算が生じた。まさかあの巨大女がさらに巨大化するとは夢にも思わなかったのだ。彼等は、巨大女が突然変異種の熊型の魔獣をまるで小虫でも扱うように
指先で捻り潰す光景を、城壁まで3kmの地点まで進出して目の当たりにしていた。
彼等は常に最後尾の魔獣のすぐ後ろに続いていた。笛の音の効果の範囲は実証実験の結果、約3km程度だったからだ。これが第二の誤算である。
茫然として超巨大女の凄まじい破壊力を見ていた彼らの部隊長が、その女が山より巨大な身体の体勢を変えようとしていることに気がついたのだ。
「早く魔獣を戻せ!このままでは全滅するぞっ!」
だが、遅かった。恐ろしい勢いで伸ばされた脚は、彼等から数百メートル先の林を根こそぎ押し流して、彼らがいる辺りまで足先が達してしまった。
突然、手の届くような近くに現れた足でさえ、彼らが遥か上空まで見上げなければならないほどに巨大だった。
「なんて・・・でかさだ・・・」
部隊長のその一言が最期になった。彼等は超巨人がただ脚を横に移動させただけの動作によって、つま先付近ですり潰された。もちろん、すり潰した本人は全く気付かずに。
第2隊が戦場付近に到着したのはすでに全てが終わった後だったので、グロイツ帝国側はまだあの女神を名乗る巨人の女がさらに巨大になったことを知らないでいた。

もちろん司令部も魔獣軍団に相当数の被害が出ることは予想していた。最小で半分、最悪でも2割残ってシュナイダーの城壁をいくつか貫けば上々と思っていたのだ。
それが、最低限の目的も達せずに、しかも魔獣は全滅である。手持ちの魔獣は100匹にも満たない。これでは作戦変更もやむを得ない。
作戦会議は、罪のなすりあいから始まった。
「だから、大地の日に攻撃すべきでは無かったのだ!結果、大失敗ではないか!」
「何を言う!あの巨大女が大地の日以外には現れないという保証など無いではないか!」
こんな具合である。
ちなみに、最初の作戦では、シュナイダーに一次攻撃を仕掛けた後に、次の炎の日(大地の日の4日前)にシュナイダーとエーレンへそれぞれ兵3万と魔獣を投入して
同時制圧し、一気にパルメランドまで落とそうというものだった。先行してエーレンとシュナイダーの防御力を削いでおけば、成功の可能性がグンと高くなる。
だが、エーレンはある程度の成功を収めたが、シュナイダーは大失敗だった。ある程度の数の魔獣が残っていれば強硬策も取れたが、3日のうちに落とさないと、
あの巨大女が現れる確率が飛躍的に上昇し、さらにパルメランドなど望むべくも無くなる。作戦は大幅な修正を余儀なくされた。

グロイツ帝国は、まずエミリアを橋頭保とすることを考えた。エーレンの城壁はガタガタではあるが、パルメランドから相当数の兵がエーレン近くにまで進駐している
という情報を得たからである。
エーレン方面の部隊をふたつに分け、パルメランドからの援軍を牽制しつつエミリアへ攻め入る。軍船も動員してエミリアに二正面作戦を強いる。こちらも二正面作戦に見えるが、
兵数の上では圧倒的に有利だ。そして、3日のうちにエミリアを陥落させ人質を取り、巨人の干渉を排する。
だが、グロイツ軍はエミリアが攻め込まれることを予測していたことも、巨人がふたりに増えたことを知らなかった。

炎の日(大地の日の4日前)グロイツ帝国の3万人の兵士がエーレンに迫って行った。だが、そのうちの1万はそのまま東のエミリアへ向かい、残り2万でエーレンの動きを牽制する。
エミリアの守備はせいぜい2千人、5倍の兵力である。軍船を投入してさらに万全を期すはずが、悪天候のために投入を延期せざるを得なかった。
だがそれでも3日もあれば十分だろう。前線部隊の司令部は特に焦ってはいなかった。

エミリアに攻め込んだ1万のグロイツ兵は、あまりの強固さに攻めあぐねていた。街の入り口の外側、ちょうど山に挟まれた谷間の一番狭い場所の少し手前に防御壁が築かれ、
その向こうから、投石や矢の雨が降り注いで来たのだ。
グロイツ軍としては谷の一番狭い場所から矢と投石で応戦せざるを得ず、縦列陣を強制されて自由に身動きが出来ないでいた。しかも敵の兵力は7千に増えている。
兵力差で圧倒するはずが、互角、いや、グロイツ軍がやや不利な状況で戦況は遷移していった。
しかも、守備する兵士たちは異様なまでに士気が高い。これも、グロイツ軍が思わぬ苦戦を強いられている理由だった。

敵襲の報を受け、ハウザー(クリスのことです)は、パルメランド公とシュナイダー領のアレックスに伝令を送り、守備する兵士たちを叱咤していた。
「よいか、次の大地の日まで何としても持ちこたえよ!そうすれば真菜様が来てくださる!形勢逆転だっ!」
一瞬兵士たちがどよめく。真菜様・・・そうだ、真菜様が来てくだされば。だが、その前にエミリアを落とされたら、真菜様のお怒りは・・・兵士たちは前回のことを思い出していた。
地上100mの高さでの懸垂100回。目も眩むような高さで、落下は即ち死を意味する。そんな恐怖と闘いながら懸垂をするのだ。しかも目の前では真菜様が冷たい眼光で睨んでいた。
「その程度のこと出来なくてどうするのよ!」
だが、約半数の兵士が脱落した。落下と迫りくる死への恐怖。だが、落ちた場所は広大な掌の上。ほっとしたのも束の間、脱落者たちには指先での腕立て伏せ100回が待っていた。
少しでも手を滑らせればまた落下してしまう。
あまりの恐怖に逃げ出そうとした数名に向かって、真菜様は長い脚を伸ばして絶妙のタイミングで踵落としを喰らわせた。兵士たちの真横に叩きつけられた踵は巨大なクレーターを
作り上げ、兵士たちは跳ね上げられてその場に叩きつけられる。
「逃げたら潰すわよ。」
冷たく言い放たれた真菜様のひとこと。それ以外にもあんなことやこんなこと。よく死人が出なかったものだと思うような数々の鍛錬、というより拷問。。。
兵士たちの脳裏にその光景が走馬灯のように蘇り、もし負け戦になったら生き残っても同じ目、いや、もっと恐ろしい目に遭わされるという予感が、必然的に熱狂的な士気の高まりに
直結したのだった。

海の日(大地の日の3日前)エミリアからの連絡を受けたパルメランド公が1万の兵を率いて動き出した。同じ頃、グロイツ側もエーレンが空城になっていることを知り、
2万の部隊を城内に侵入させた。
パルメランド兵はエーレンを取り囲み、いかにも攻撃するような素振りを見せる。グロイツ兵の大多数が城壁に登って弓矢で応戦する。投石機は破壊されて使い物にならないので、
前線基地から持ち込んだものを城内に入れ、急いで設置し始める。
グロイツ軍が兵糧を城内に運び入れ、投石機の設置が完了する直前の絶妙のタイミングで、パルメランド公は総攻撃を仕掛けた。攻撃対象はただひとつ、西側城門である。
しかも、城門の上から外に向かって張られている2本の綱を断ち切ること。これだけだった。

からくりはこうである。普通、城壁というものは外側からの力には強くするように作られる。外敵から守るためだから当然である。それを、西側の城壁のみ、横からの力には
弱くなるように細工をしたのだ。さらにわからないように城門に少し寄りかからせている。西側の城門は少し内側に傾けて反対側を門の両側の綱で引っ張るようにした。
つまり、この綱を切れば、まず、城門が内側に倒れ、次に横の支えを失った城壁が崩れて、西側からは丸裸になる。
この作戦は大成功を収めた。綱を断ち切った瞬間に城壁がドミノ倒しのように崩れていった。一斉にパルメランド兵が城内に侵入し、混乱状態に陥ったグロイツ兵を駆逐していく。
2倍の兵力を誇ったグロイツ軍は混乱から立てなおすこともできずに東側と南側へ壊走していった。
パルメランド兵の犠牲者100名強に対し、グロイツ帝国は、3000名以上の戦死者と、5000名にもおよぶ捕虜を出していた。

植物の日(大地の日の2日前)エーレンから敗走したグロイツ兵1万2千が加わり、エミリアの包囲は4倍の兵力差になった。だが、状況はあまり変わらなかった。
ひとつは、強制的に縦列陣を強いられていることと、もうひとつは、エーレンを再奪取したパルメランド兵が、ほぼ無傷の状態で後背に迫ったため、
結局そちらに1万2千の兵力を戻さざるを得なかったためである。

だが、この日ようやく軍船の出航が可能になった。ただ、蒸気機関も存在しないこの世界、動力となるのは風力と人力のみである。エミリアへの攻撃は翌日になるだろう。
それと呼応して、5千の別動隊が山伝いに天然の防壁となっているエミリア南側の尾根に進軍を始めた。極端な縦列陣形を強いられていたことがこれほどの規模の別動隊を
組織することが出来たというのも皮肉である。

こうして、戦線が膠着したかのように見えたまま、動物の日(大地の日の前日)を迎える。
海の方からグロイツ帝国の軍船の姿が見えた。元々のエミリアの守備兵たちが急ぎ軍船に乗船し迎撃に向かう。防御壁からの反撃が一時的にだが手薄になった瞬間に、
グロイツ帝国は残った魔獣部隊を伴って突入を開始した。
これで尾根伝いの別動隊が呼応出来れば、その日のうちにエミリアを陥落させられたかもしれない。が、そうはならなかった。
別動隊は、山の尾根や谷間に無秩序に出来あがっていた巨大な窪みに行く手を阻まれ、容易に尾根への登頂が出来なかったのである。それはふたりの巨大な女神の
足跡に過ぎなかったのだが、深さ数十cmから数mにもなる窪みの中に、無残にもへし折られ、砕かれ、ペシャンコに張り付いている木々のなれの果てが、兵士たちに
心理的なダメージを与え、いくつもの広大な足跡を迂回させる結果となっていた。

グロイツ帝国の突入を察したパルメランド公は、一気に後背に襲いかかった。相手は一度敗走していて士気は低い。同兵力であれば圧倒的に有利だった。
案の定、グロイツ側の防衛ラインはかなりの後退を余儀なくされ、エミリアに突入させた部隊の一部を呼び戻さなければならなかったほどだった。

その夜、グロイツ陣営では、深刻な会議が行われていた。
「明日が大地の日だぞ。あの巨人が現れたら完全に負ける。今のうちに撤退すべきではないのか?」
「いや、シュナイダー南方の部隊3万が、巨人の足止めをするはずだ。そうすれば、こちらには来られまい。その間に・・・」
「そんなもの、すぐに全滅してしまうではないか!兵を無駄に損なうつもりか!」
「その程度のことは承知している。あちらへは指令も出している。これが写しだ。」
参謀長と思われる男から、全員に一枚の紙が配られた。さらにその男は続ける。
「これがあの巨人の美点でもあり欠点だ。この作戦がうまくいけば、明日一日、巨人はシュナイダーに足止めされることになる。」
反対論もあったが、最終的には司令官の判断で明日のエミリア総攻撃が決定された。このまま帰国すれば降格は当然のこと、罪に問われるかもしれない。
司令官は焦っていた。

そして大地の日である。美由紀と真菜はアレックスからエミリアとエーレンで戦闘が開始されたことを聞いていた。
「今日が5日目?やばいかなぁ・・・」
最初に口を開いたのは真菜である。少々心配顔になっていた。
「じゃあ、すぐに行った方がいいんじゃ・・・」
「いえ、今はパルメランド公の作戦通りに進んでおります。美由紀様は我らと共にお残りください。」
すかさずアレックスが諌める。いつもとは違う顔つき。そうか、今は間違いなく戦争状態なんだ。アレックスや他の兵士たちの少々緊張を含んだ表情は、美由紀を複雑な気持ちにさせた。
「じゃあさ、あたしが行ってこようか?」
「真菜様が・・・ですか?」
アレックスの複雑な表情。たぶん、クリストフが心配なのだろう。それは分かっているが、ひとりで行かせて問題ないのだろうか?
「あ、心配してるでしょ。大丈夫よ、必要以上は暴れないって。」
「降参してきたら、ちゃんと助けてあげるんだよ。」
「美由紀まで?ひっどいなぁ、あたしだって一応常識ぐらい持ってるんだからねっ!」
美由紀までそんなことを言い出したので、心配顔がちょっとふくれっ面に変わっていた。ふたりの心配はわかる気がするけど、クリスや兵士たちを思うとじっとしてられない。
「わかりました。真菜様のご援軍があれば、クリストフ達もさぞ心強いでしょう。お願いいたします。」
真菜は最後まで聞かずに立ち上がっていた。

真菜が出かけた後、美由紀は南に向かって歩いていた。アレックスは久しぶりにペンダントの先に入れられている。大地の日になってもエミリアが陥落できなかった以上、
女神がエミリアに駆けつけることをグロイツ帝国が考慮しないはずはない。アレックスはそう思っていたのだ。
シュナイダーに美由紀様を足止めするには、魔獣軍団の再度の侵攻が考えられ、その動きがあるかを確かめるために偵察に出ることになった。

「あれ、なんだろ?」
谷の少し先に、なにやら色々なもの、たぶん人工物が見える。その間をちょこちょこ動き回っている小さな粒、たぶん、グロイツ兵だろう。一番手前には長さ300m程度の壁を
築き、その向こうに小さな投石機やら陣幕やら、近づくにつれてそれがかなり広い陣地であることが分かって来た。
「なんでこんなところに陣地なんか作ってるのかな?」
「さあ、前線基地にでもするのですかな。」
「フーン・・・」
陣地はもう目の前という場所で、美由紀は立ち止りしゃがみ込んでいた。予想通りというか、美由紀の膝から下は投石機から発射された小さな石やら弓矢やらが大量に当たっている。
「あはは、初めて会った時のこと思い出っしゃった。アレックス達も頑張って攻撃したよね。」
陣地からの攻撃など、完全に無視している。
「そうですな。しかし、こうやって見ると、我々の攻撃など全く通用しないということが良くわかります。」
「そうだよね〜、あの時もちょっと反撃しただけで降参しちゃったもんね。」
「お恥ずかしい限りで・・・」
敵を目の前にして、完全に思い出話モードになっているふたり。今までの経験が余裕たっぷりになっているのか、それともおちょくっているのか?
「でも、凄い数だね〜!どのくらいいるのかな?」
「ざっと見て、3万というところでしょうか。」
アレックスは球体から顔を覗かせて、陣地全体を見渡していた。
「へ〜っ!そんなにいるんだぁ!じゃあ、こんなところにいられたら困っちゃうね。」
「はい、困りますな。」
「ちょっと遊んであげたら、逃げるか降参してくれるといいな〜。アレックスは隠れててね。矢が当たっちゃうと困るでしょ?」
美由紀は人差し指でアレックスのいる玉を胸の谷間に軽く押しこむと、しゃがんだままで陣地の中に手を伸ばしていった。
球体は美由紀の世界のアクセサリーを改造したものなので潰れる心配は無いが、アレックスは美由紀が動くたびにギシギシと軋んでいる暗闇の中でしばらく過ごすことになった。

シュナイダーの南、大渓谷を越えたあたりで布陣したグロイツ軍は、山の向こうから重苦しい連続した地響きが突然聞こえ、やがて遠ざかっていくのに少々安堵した。
突然変異した魔獣よりも巨大な巨人の女。まだ、見たことが無い彼らには想像もできなかっただろう。それを今日、その目に見ることができるかもしれない。
彼らの中には恐怖心よりも興味の方が大きかったのも仕方が無いことだった。
だが、その数分後には、一瞬にして彼らの心の天秤は一気に恐怖心へと傾いてしまったのだが。
山の尾根の陰から現れた巨大な女性、いや女の子の姿にほぼ全員が釘付けになった。それは全員の想像を遥かに超えた大きさだったのだ。
まるで地面が呻いているような地響きを伴って一歩、また一歩と歩いてくる姿は、まさに女神そのものと思った兵士も多かったはずだ。だが、そこは軍事帝国の兵士である。
大多数の兵士は、いち早く茫然自失の状態を脱し、迎撃の準備に取り掛かっていた。
むしろ狼狽していたのは司令部だったかもしれない。
「あんな、ばかでかい女・・・どうすれば・・・」
「し・・・しかし、命令書・・・どおりに・・・」
既に巨人女は砦の目前にまで達し、その場にしゃがみ込んで中を見下ろして何かを話していた。何か戦には全く関係ないことを話しているように聞こえる。
最前線の兵士たちは既に攻撃を開始していた。夥しい数の岩が、矢が、火矢が巨人の脚に命中している。が、巨人はそんなものは全く気にしていないように思われた。
司令官はもう一度命令書を読み返した。実際に目の当たりにすると圧力だけで潰えてしまいそうなほどの迫力なのだ。
『大渓谷の先に第1の陣を気付き、巨人の襲撃あるときはこれに応戦すること。ただし、防壁を超えての攻撃は不可とする。
 必要に応じて防御しつつ一時退却を繰り返すこと。巨人には我々を害する意志は無いので、大きく後退してはならない。
 また、退却止むなしと判断した場合、侵攻路とは異なる方面に退却すること。決して巨人に侵攻路を気取られてはならない。』
要は、これ以上攻めてはならない。しかし、退却するにしてもゆっくりと時間をかけて行え。ということである。
いくら陽動とはいえ、本当にこんなに積極性が無くて大丈夫なのだろうか?だが、巨人の性格上、専守防衛に徹するはずだと参謀長は言っていた。ここは信じてみるか。
そこまで思考したところで、最前線から大きなどよめきが起こっていた。慌てて顔を上げる司令官の目には、巨人が片手で3つの投石機を掴み上げる光景が飛び込んできた。

「軍事国家って言う割には、使ってるものは変わんないのね。」
美由紀はまず、投石機を3つまとめて掴むと陣地の中に高く翳して、兵士たちに見せつける様に握り潰した。
投石機だったものが、粉々の木片になった状態で、グロイツ兵たちの頭上に降り注ぐ。いくつかのテントが木片に押し潰され、中に隠れていた兵士が飛び出してくるのが見えた。
「うふふ、かくれんぼ?すぐ見つかっちゃうよ。」
次に、手が届く範囲にあるテントをひとつずつ指先で摘まみ上げていく。もう、最前線は右往左往する兵士たちで溢れかえっていた。
「さて、壁は邪魔だから潰したいんだけど・・・そこにいると危ないよ。」
美由紀はゆっくりと立ち上がり、両手を腰に当てて防壁の上に右足を掲げた。足の真下やその周囲から弓兵が防壁から飛び降りて慌てて逃げ出すのが見える。
「そんなに慌てなくてもいいのに。」
一度足を戻して、防壁上にこびとがいないかを確かめた。何人か踏みとどまっていた。忠誠心なのか、それとも自分が攻撃しないと思っているのか。
「うーん、どうしようかな?」
少し下がってわざとらしく地響きを立てながら膝をつき、そのまま四つん這いになってみる。それだけで幾人かが逃げ出した。それでもまだ何人かが残っている。
そのまま頬杖をついて寝そべってみた。残っている兵士たちの眼前にズドンッ!と巨大な丸い物体が現れた。
「あなたたち、女の子の胸にも攻撃できるの?」
さすがにこれには防壁上に踏みとどまっていた兵士も狼狽したようだ。立て続けの地震に翻弄されながらも攻撃していた彼らの弓を射る手が止まっているようだった。
もう少しかな。でも、本当にあたしが攻撃しないと思ってるのかなぁ・・・
美由紀は城壁上にいる兵士たちを次々と摘んでは軽く放り投げながら、次の手を考えていた。
手が届く城壁上に兵士がいなくなると、美由紀はそのままゆっくりと身体を前に寄せた。巨大なふたつの山でちっぽけで薄っぺらい城壁を簡単に押し倒した。
その横に肘を突き直して、あっさりと押し潰す。これだけで城壁の三分の一ほどを破壊した。
だが、グロイツ兵の動きは緩慢だった。一部の兵士はパニックを起こしたのか必死に逃げ出す姿が見えたが大部分はじりじりと下がっているように思える。
ちょっと時間がかかるかなぁ・・・少し美由紀は焦り始めていた。

一方、真菜の方はエーレン経由でまっすぐエミリアへ向かっていた。
エーレンにはクリスもいないし、元々のエーレンの守備兵もいない。完全に無視しての通過である。ただ、完全崩落した西の城壁を見て、
「パルメランド公って、結構な策士なのね。」
とは思ってはいたが。
そろそろエミリアという場所で、たくさんのこびとの軍隊と遭遇した。おそらくパルメランド公の軍だと思うが、向こうは自分のことを見るのは初めてのはず。

パルメランド公も後背から近づく巨大な足音に気付いていた。
「美由紀様?シュナイダーにいて欲しいとお願いしたはずなのに、でも少し嬉しいか・・・」
もちろん、最後の一言は誰にも気づかれないように小声で呟いたものだ。だが、彼が振り返ると、間違いなく別人の巨人の少女がこちらに近づいてくる姿が見えた。
「あれは?誰だ?」
大きさはほぼ同じか大きいくらい、だが、身体の線は細いというか筋肉質という感じのちょっとボーイッシュな感じの少女。残念だがパルメランド公のストライクゾーンからは
外れている。
「恐らく、美由紀様のご友人の真菜様という方ではないかと。」
側近がすかさず答えた。
「そうか、では挨拶に行かねばなるまい。」
完全に好みで無かったばかりに儀礼的な態度に終始しそうなパルメランド公の振る舞いが、吉と出るか凶と出るか。

軍隊の最後尾から何頭かの馬がこちらに向かってくるのが、真菜の目にも映った。その場で立ち止まりしゃがみ込む。たぶん、この軍の責任者だろう。パルメランド公だっけ?
馬群が真菜の手が届く場所に止まると、先頭の馬からひとりの男が降りたって恭しく一礼した。
「真菜様でございますな。お初にお目にかかる。パルメランド領を預かるパルメアでございます。」
「こんにちは、真菜です。あなたがパルメランド公ですね。お噂は美由紀から色々と聞いています。まず、戦況を知りたいので乗っていただけますか?」
そう言って、右手をこびとの前に差し出して、パルメランド公が乗ったのを見てから目の前までゆっくりと持ち上げた。
パルメランド公は自分の話がどう伝わっているのかも気にはなったが、まずは現在の戦況を簡単に説明した。
「こちらはグロイツ軍の後方部隊に足止めされてるんですね。エミリアの方は?」
「防壁は未だ健在のようですが、グロイツ軍は総攻撃をかけるようです。軍船も出航したようですので少々厳しいかと。」
「では、こちらはお任せしてよいですか?私はエミリアへ行きたいのですが。」
「はい、お願いいたします。こちらは我が兵力だけで十分。真菜様がエミリアに援軍くだされば戦局も一気に変わりましょう。」
真菜は北側を大きく迂回して、エミリアへ向かうことになった。
後日、エミリアを守備していたエーレンの兵士たちから、真菜の「訓練」と称する仕打ちの話などを聞いた時、パルメランド公は儀礼的に徹して良かったと、心から思ったらしい。

迂回と言っても真菜にとってはたいした距離ではない。せいぜい到着が数分、いや、数十秒遅れた程度だろう。
真菜は、エミリアの南側の山よりは少々高い北側の山の向こうから、戦の状況を見下ろしていた。
防壁を挟んで右側にグロイツ軍の大兵力が間断ない攻撃を仕掛けているようだ。ちらほらだが魔獣の姿も見える。防壁はというとすでに真下にまで取りつかれており、
いくつもの梯子が掛けられ、そこでの攻防が繰り広げられていた。また、門扉へは今まさに数本の丸太を叩きつけるための準備がされていた。
「間一髪ってとこかな。よくがんばってるな〜、褒めてあげなきゃ。」
そう呟きながら、真菜は、山を跨いだ最初の1歩の着地点を決めた。
ズゥゥンッ!北側の山の向こうからゆっくりと一歩目が踏み下ろされた。真菜の感覚ではそおっと踏んだ感覚。勢いよく踏みつけると防壁まで崩れてしまう。
そうなれば混戦になり、収拾がつかなくなる恐れがあったからだ。
足の裏から伝わった小さな果実が潰れたような感触は、恐らく何人かのグロイツ兵を踏み潰したからだろう。だが、特に何とも感じなかった。

突然落下してきた巨大な物体の近くの梯子は振動で倒された。うちひとつの梯子が落下してきたものの上に倒れて、3人のグロイツ兵が投げ出された。
彼らが乗っている肌色の斜面は何だろう?と首をかしげながらも上を向いた。
「う・・・あ・あ・あ・・・」
呻くしかない光景だった。すぐにこれが「女神」と呼ばれる巨人の足の上だとわかった。どこまでも伸びる長い脚、もう一本はまだ山の向こう側にある。
その上に腰から上が聳え、顔は下を向いている。顔までの高さなど見当もつかなかった。それほどまでに巨大な女性はパルメアの巨人女以外にはあり得ない。
しかも、魔獣を一撃で倒してしまうという噂は決して誤りではない。この巨人女の前では自分達は虫けらに過ぎない。その証拠に十数人が一瞬で踏み潰され、
巨足の周囲でなぎ倒されて呻いている者は小指の大きさと変わりがないほど小さいのだ。余りにも圧倒的すぎるではないか・・・
彼の眼に続いて飛び込んできたのは、山の向こうのもう一本の脚が軽々と山を跨ぎ越し、着地していく様だった。同僚の兵士や魔獣が巨大な足に覆われて見えなくなっていく。
着地した衝撃で吹き飛ばされたところで、他の2人と同様に彼の意識は途絶えた。

真菜の登場で、エミリアを守備していた兵士たちからは歓声が上がり、グロイツの兵士たちのほぼ全てが凍りついた。
「あ、あれが・・・大地の、め・が・み?」
グロイツ軍が初めて見る巨人である。まさかふたりもいるとは誰も思っていなかったので、真菜が大地の女神と思われても仕方が無いだろう。
前線からかなり離れた司令部からも充分に視認できる巨大な姿に、混乱を極めつつあった。前門の虎後門の狼とはまさにこのことである。司令官が呻くように声を絞り出した。
「間に合わなかった・・・か・・・」
「し・・・しかし、大地の女神は、魔獣には容赦ないが人間には慈悲心を持っているはず。と聞いております。」
「それは、自国の人間に対してのみであろう。あれを見よ!」
彼らの視線の先には、門扉を打ち破るための大木を指先で軽々と摘まみ上げ、兵士もろとも放り投げようとしている巨人の姿があった。

「まずは壁の前を綺麗にしなきゃね。」
真菜はしゃがみ込むと、門扉へ叩きつけている木の束の後ろ端を摘まんだ。
長さ20m、太さ50cmほどの大木を3本束にして20名ほどの兵士が木を縛っている縄を持って既に2回ほど突撃を繰り返していた。
あと1回か2回、この大木を門扉に打ちつければ突破できそうだと思い、渾身の力を込めた第3撃を放とうとしたその時だった。彼らの突進が急停止したのだ。
20名が必死の力を入れても束ねた大木はピクリとも動かなかった。
「そんなことしたら、門が壊れちゃうでしょ。」
上空から女性の声が響き渡った。大木を持っていた全員が後ろを見ると、そこには最後部を摘まんでいる巨木よりさらに太い指先。見上げれば、こちらを見下ろしている女の子の顔。
「そんな、指先だけで・・・」
誰かが呟いた瞬間、大木の束はあっさりと上空に持ち去られ、しゃがんでいる巨人の目の前で急停止した。
衝撃で何人かが縄を放してしまい、悲鳴を上げながら100m以上下の地面へと落下していく。縄にしがみついてぶら下がっている者たちの目の前には、巨大な顔。
その目は冷たく自分達を睨んでおり、口元には薄笑いを浮かべていた。しかも、どこかエキゾチックな風合いを持つ超美人なのでなおさら冷酷に見える。
巨人の口がゆっくりと開いた。
「ばいばい」
次の瞬間、彼等は大木もろとも空中に投げ出されていた。

「さて、次は・・・」
真菜は足元のこびとの軍隊を見下ろしていた。軍隊と言っても剣、槍、弓矢、投石程度しか攻撃できないかなり古い年代のものである。
精神的に立ち直った者が何人か真菜の足を攻撃していたが、彼らが真菜の皮膚にさえ傷つけるのはほとんど不可能に近かった。だが、現代兵器を彼らが持っていたとしても、
どれだけ通用しただろうか。
そんな真菜は足元の攻撃を完全に無視して、密集している兵士たちの中から何かを見つけようとしていた。ほどなくターゲットは見つかったようだ。ゆっくりと右手を伸ばす。
防壁を目前にしている多数の兵士の少し後ろで馬に乗っている数人の集団を一纏めに摘まみ上げると、左手の上に落として目の前まで持ってきた。
「いたいた。3人か〜」
掌の上には3人のこびとと3頭の馬が転がっていた。1頭は摘まんだ時に少し潰してしまったらしい。横たわってピクリとも動かなかった。
真菜は、ウロウロしている2頭の馬を順に指先で弾き飛ばし、死んだ馬も摘まんで放り投げた。掌には3人のこびとだけが残された。
兵士たちよりは上等な鎧兜を身に纏い、手には剣や槍を持っている。ひとりは楯も持っていた。間違いなく一般兵よりは上位の現場指揮官といった風貌の男たちだったが、
あまりの恐怖に3人寄り添ってガタガタと震えていた。
「あら、震えてるの?そんなにあたしのことが怖いのかな?だったら撤退しなさい。どう?」
真菜の問いにそのうちのひとりが答える。一番年長そうな男、たぶん一番の上位者なのだろう。
「そ・・・そんなこと・・・で、きる、かっ!」
声を上擦らせながらも、勧告を拒否した根性は立派である。確かに真菜が現れる前はグロイツ軍が圧倒的に有利だったのだ。だが、形勢は一気にひっ繰り返されていた。
「ふ〜ん、度胸だけは褒めてあげる。でも、それって無謀とも言うのよね。」
真菜はその男を指先で軽く摘まむと、腕をゆっくりと伸ばして兵士たちの頭上高くに晒した。
「あんた達、いつまでもそこにいると皆殺しにするわよ。こいつみたいに・・・」
そう言うと指先にほんの少しだけ力を込めた。男の身体は指の間に見えなくなり、ほんの少しだけ出ていた両足の先だけが兵士たちの中に落ちて行った。
それを合図にしたかのように、真菜の足元から兵士たちが壊走し始めた。その場に一瞬だけ踏みとどまっている者もいたが、防壁からの弓の雨にある者は射倒され、
ある者は壊走する集団に合流するかのように逃げ出し、ほどなくして防壁の回りにはグロイツ兵の生者はいなくなっていた。
「お前たちは捕虜ね。剣を捨てなさい。」
残った2名に、指先を開いて見せつける。巨大な指の腹は真っ赤に染まり、鎧兜や衣服などが完全に潰れて張り付いていた。自分たちの防具がこの巨人の指先にも敵わない。
そう思い知らされた2名は、あっさりと降伏し、防壁内に転がり落とされた。

「真菜様、ありがとうございます。」
2名の捕虜に代わって、クリスが掌に乗っていた。
「でも、間に合ってよかった。よく持ちこたえたね。」
「これも真菜様の訓練のたまものです。皆もよくやってくれました。」
「そうね。みんな、お疲れ様。よく頑張ったわね。後はあたしに任せて少し休みなさい。」
防壁内から大歓声が沸き起こる。真菜様に初めて褒められたのだ。感激して泣きだす者も出る始末だった。
「あとは、国境線まで押し返して来るから。」
「では、私も参ります。」
「疲れてるんじゃないの?それに今日はあのペンダント無いから・・・」
「大丈夫です。真菜様のお邪魔にならない場所におりますので!」
クリスの真剣さに根負けして、グロイツ兵の追撃に同行させることにした。

グロイツ軍と交戦中のパルメランド軍が敵の後方から巨大な影が近づいてくるのを最初に見つけた。真菜様だっ!すでにエミリアのグロイツ軍を片づけたのか?なんと早いっ!
後背から近づいてくる巨大な足音にグロイツ軍も気がつき始めた。森の木々よりも圧倒的に巨大な女性がゆっくりと、だが確実に迫って来るのだ。
「女神・・・」するとエミリア方面に展開した部隊は既に敗退したということか。これでは勝ち目は無い。グロイツ軍は早々に退却にかかっていった。

「ずいぶんと潔いですな。」
掌上のクリスが嘆息する。たぶん有能な指揮官なのだろう。攻め時と引き時をしっかりとわきまえている。
「そうね。挟みうちに遭ったら最悪全滅だもんね。あたしがいなくても」
以前から思っていたが、真菜様は戦略戦術にある程度通じているのか?敵を圧倒するような援軍であれば、まず前面の敵を打ち破ろうと思いがちだ。だが、真菜様は迂回して
エミリアの敵を敗退させ、さらに敵の後背に回り込み撤退に至らしめさせた。力押しでも充分に勝てたであろうに。
「こっちは殺さなくて済みそうかなぁ。ほら、美由紀って優しい子だからあたしがあんまり暴れるとまずいじゃない。」
そういう理由もあったのか。だとしても、やはり考えての行動と思わざるを得ないクリスだった。改めて真菜の色々な部分に心をギュッと掴まれたのは間違いなさそうだ。

グロイツ軍は真菜が立ち止まっている場所から1kmほど先で方向を変え、南に向かって逃走していた。殿がパルメランド軍を要所要所で食い止めている。
「優秀な軍ですなぁ。犠牲らしい犠牲がほとんど出ておりません。」
「そうね、でも、あたしが参戦したらどうなるのかな?」
「そ・・・それは・・・」
「冗談よ。このままパルメランド兵が行ってもなかなか国境までは戻らないでしょ?パルメランド兵を引かせてくれる?あたしが行って来るから。」
真菜達とパルメランド兵は、南へと延びている新しい道で合流した。グロイツ軍が侵攻してきた時にエーレン、エミリアのどちらにも動けるように作られた道のようだった。
地上に降ろされたクリスと馬で駆け付けたパルメランド公が何やら話し合っていた。
「では、真菜様に追撃をお願いしてもよろしいので?」
会話が終わったパルメランド公が、真菜を見上げている。
「その方がこっちの犠牲は出ないでしょ?それにどうやってこっちに来れたのかも調べなきゃいけないし。」
「わかりました。では、我が兵士1000名をお連れください。」
「いらない!足元でこびとにチョロチョロされたら踏み潰しちゃうよ。こんな風にね。」
真菜は少しだけ足を上げると、軽くその場に踏み下ろした。衝撃で一同がなぎ倒される。
「踏み潰されてもいいんだったらついて来てもいいけど、クリスがいれば充分よ。あんたたちはエーレンとエミリアの間を綺麗にしといて。」
そう言うと、真菜はクリスをもう一度掌に乗せ、南に向けて歩き出した。

グロイツ軍は5kmほど後退し、エミリアから逃れてきた部隊と合流していた。総数約1万5千、一連の侵攻作戦で約半分、今までにないほどの大損失だった。
「ここで一旦立て直す。」
言い終わらないうちに地響きが聞こえ始めていた。どんどん近づいてくる地鳴りと大きくなっていく揺れ、やがて森の木々の上から頭部が現れ、あっという間に上半身までが
木の上に見えていた。
巨人は部隊の前で一度立ち止まり、片手を腰に当てて悠然と自分たちを見下ろしていた。
「おとなしく帰りなさい。踏み潰されたくないでしょ。」
右足が振り上げられ、狙いすましたように一番近い木々に隠れている兵士の一団に踏み下ろされた。
バキバキッ!ズッズ〜ンッ!衝撃で周りの兵士が吹き飛ばされ、大木に激突する。ある者は数mを跳ね上げられて地面に叩き付けられた。
「森の中に隠れても無駄、お前たちはこのまま素直に逃げ帰るか、あたしに踏み潰されるか、降伏するかしか選択肢はないの。わかったかな?」
上空では巨人が冷徹な笑みを浮かべ、今踏み下ろした足を後ろに戻した。
足があった場所を中心にして、周りの木々は根こそぎ倒れたり途中からへし折れたりしていた。
そして巨大な足跡の中。彼らでは抱えきれないほどの大木でさえ粉々に踏み砕かれ、至る所の地面が赤く染まっている。そしてその中に潰されへし折られた数々の武器や防具の類。
それが、人が倒れたような形で赤茶けた色に変色した地面に張り付いていた。ひと踏みで十数人を単なる染みに変えてしまう破壊力に、運良く生き残った周りの兵士は、
武器も放り出して一目散に逃げ出していった。
司令部も同様だった。どうやら、女神と称する巨人の性格分析は全くの誤りだったと言わざるを得なかった。あの女は自分たちが撤退か降伏しなければ本気で全滅しにかかるだろう。
もはや撤退しかあり得なかった。だが、あの秘密の通路の存在だけは隠し通したい。どうすればいいのか。。。

真菜は足元から逃げ出した蟻の行列のようなグロイツ軍を悠然と見下ろしていた。
「ね、見せしめで何人か潰せば簡単なのよ。美由紀はこんなことしないだろうけど。」
そう言って掌に乗せているクリスに向かって微笑むと、ゆっくりとグロイツ軍を追いかけ始めた。

さて、手詰まり感がある美由紀の方はというと・・・
一度城壁から離れて、アレックスを入れたペンダントを近くの山頂に置いて立ち上がっていた。グロイツ兵は巨人が少し後退したので破壊されていない方の防壁に戻りつつあった。
「やっぱりね。じゃあ、これでどうだっ!」
一度目を瞑り、精神を集中させる。数秒後、ドクンッ!と胸の高鳴りを感じるとゆっくりと目を開けて周囲を見下ろす。足元の景色は一変していた。
「よかった、意外と簡単に大きくなれるのね。」
美由紀は前回と同様、さらに巨大化したのだった。

防壁に近づこうとしていたグロイツ軍は大パニックに陥っていた。目の前の巨人女の姿が急激に近付いてくるのだ。しかも一歩も動かずに。。。
巨足が防壁に近づいたかと思った瞬間には、既に防壁は数名の兵士を巻き添えにして指の下に消え去っていた。さらに近くに放置したテントや投石機も同様の運命を辿っていた。
防壁に近づきつつあった兵士たちは、一目散に逃げ出すしか出来なかった。
「さらに・・・大きくなれる・・・のか・・・」
司令官も参謀も茫然自失になっていた。これ以上巨大になられたら国境の山脈まで楽に跨ぎ越してしまうかもしれない。そうなれば・・・
もう、撤退するしかなかった。だが、ほとんどの兵士は命令が下されるのを待つことも無く、谷に向かって逃げ出していた。

両足は山間の狭い谷あいを埋め尽くし、足先はもう防壁を超えてグロイツ軍陣地まで侵入していた。その先で小さな砂粒がサァ〜っと引いているように見えるのは兵士だろう。
「あ〜・・・橋を架けてたんだ〜」
美由紀はその先にある谷に目を向けると、そこに架けられたいくつかの橋を渡って兵士たちが必死に逃げていくのが見えた。ただ、橋の上は大混雑だったようで、
溢れた何人かが谷底に落ちていくのも見てとれた。
「何人かは仕方がないか。」
美由紀は、こちら側から渡るこびとがいなくなると、谷に人差し指を挿しこんで、8つほど架かっていた全ての橋を指先ですくい上げた。
いくつかは目の前に達する前に落下して破壊されたが、残る橋をしげしげと見つめていた。およそ2〜3cmほどの小さな橋が指の腹の上に並んでいる。
どうやら伸縮式になっているようで、消防車のはしご車を連想させるような構造になっていた。
「へぇ〜っ、よく考えてるのね。これだったら必要な時だけ橋を架けられるもんね。でも、これは没収っと」
指先に乗せられていた小さな橋は、全て胸の谷間に放り込まれた。

美由紀から見ると谷などとは呼べないほどの2cm程度の隙間の向こうで、砂粒の一団が止まっていた。様子を窺っているらしい。
「やっぱ、おっかけないとダメか〜・・・」
足元の小さな山に置いたはずのペンダントを探して摘まみ上げる。巨大化した時に身につけていなかったせいか、ペンダントの大きさは変わっていなかった。
目の前まで上げて、とても小さな球体の中にもっと小さなアレックスがなにかにしがみ付いているのを確認する。
「いたいた、ちゃんとペンダントの中にいてよ。」
アレックスも必死である。注意してくれてはいると思うのだが、動きがとにかく早いのだ。身体を球体のどこかに固定しておかないとあっさりと吹き飛ばされてしまう。
とりあえず、ペンダント毎広大な左手の掌に乗せられて、ようやくアレックスは身体を固定する作業に取り掛かることができた。
「じゃあ、いくわよっ!」
美由紀の右脚は小さな隙間を軽く越え、砂粒達が集まっている横の小さな山に踏み下ろされた。

全ての橋がたった1本の指によって取り払われた光景をなす術も無く見守っていたグロイツ軍は、それでも谷の先に踏みとどまり、大巨人の次の動きを注視していた。
深い谷間と言っても、あの大巨人にとっては指1本ちょっとの幅しかない。ほんの一歩踏み出せばそれだけであっさりと谷を越えてしまうだろう。
そんな危惧が現実のものとなって襲ってきた。大巨人が片脚を上げて自分たちの方に踏み出して来たのだ!
谷間にひしめいていた約3万の兵士たちが我先にと逃げ出した。だが、到底間に合うものではない。数百m四方が巨大な影に覆われる。もうダメだ・・・と誰もが思った。
ズッドォォォォンッ!
大巨人は彼らがいた谷あいのすぐ横にあった300mほどの山を踏み潰した。一瞬で山は消滅し、まるで内部から爆発したように足の横から恐ろしいほど大量の土砂溢れ出たかと
思うと、山津波のように兵士たちに襲いかかる。
山そのものが崩れたそれは単なる土砂崩れの比などではなく、さらに兵士たちが密集していたがためにおよそ千人以上が一瞬でその膨大な土砂の流れに呑み込まれた。
土砂に呑まれなかった者も無事ではない。全員がなぎ倒されるような物凄い地響き、地面のあちこちで地割れが発生して何人かずつがその間に落ちていく。
グロイツ軍の戦意と作戦は、大巨人のたった一歩で完全に消失した。

「山・・・潰しちゃった・・・」
美由紀は自分がしでかしたことに半ば呆れ、半ば驚いた様子だった。踏み潰した時に発生した山崩れで砂粒の一部にそれが襲いかかるのは見ていたが、直接殺戮した
訳では無かったからだろう、大変なことをしたとは思えない様子だった。
それより、それを契機にグロイツ兵の逃げ足が速くなったので、そちらの方が美由紀としては満足だったようだ。
視線を先に向けると、彼等は高い山脈とその前にある山の谷間に逃げ込んでいるようだった。あそこが進入路ということだろうか。最後尾を踏み潰さないように、
かなりゆっくりとした足取りで近づいていく。
「洞窟?トンネル?」
グロイツ軍は兵士から司令官に至るまで、恐慌状態のまま進入路に向かって一目散に逃げていたのだ。命令書のことなど綺麗に忘れ去られていた。
普通だったら手前の山に遮られて見えないであろう山脈に掘られた穴が、遥か高空からだと簡単に見つけることが出来た。美由紀の感覚で直径3cmほどということは
かなり広いトンネルである。ここからならあの巨大な熊型の魔獣も充分に通ることができる広さだった。
「ここから出入りして、橋を渡ってたのね。だったらここを潰しておけば・・・」
美由紀は最後の砂粒が入ってから充分に時間が経った後、トンネルの真上数百mのあたりを思いっきり踏みつけた。そこから大量の土砂が崩れ落ち、トンネルの出入り口を
完全に塞いだ。恐らくトンネルのある程度の場所まで埋められたはずだ。これでしばらくはここから攻めてくることは無いだろう。
山脈の最上部が少し歪んだ気がしたが、それは気がつかないことにした。そんなとんでもない破壊力、絶対に真菜にネタにされると思ったからだ。
かくしてシュナイダー側のグロイツ軍は撃退された。だが、エミリア方面は、真菜が行ったとはいえまだ戦闘中かも知れない。
美由紀は足元に広がる山々を見下ろして、北北東に位置するエミリアにまっすぐ歩いていくことに決めた。

真菜の方も少々困っていた。逃げ続けているグロイツ兵をゆっくりと追い立てているのはいいが、国境まで100km以上ある。真菜の足ならともかくこびとの足では
丸1日以上かかってしまう。このままだとグロイツ兵を完全撤退させる前に自分たちが元の世界に帰らなくてはならなくなるかもしれない。
「クリス、やっぱここは全滅させた方がいいのかなぁ。」
「いや・・・それでは美由紀様とのお約束が・・・」
なんとなくクリスに相談してみたが、どうも妙案は無いらしい。どうしようかと思いながらもゆっくりと足元のこびとを追い立てていった。
そんな時だった。真菜にも感じることができるほどの地響き。それがゆっくりと、だが確実に大きく響いてくる。
「な・・・何?」
斜め前方に大きな影が見えた。人らしきもの、だがその大きさは近くの数百m級の山よりも遥かに大きく、当然人であれば真菜など比べ物にならないほどの巨人!
「み・・・み、ゆ、きぃ!?」
山々を踏み潰しながらこちらに向かってくる巨大な親友の姿を見て、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「なに?あのでかさ。山とか普通に潰しちゃってるんだけど・・・」
呆れてものが言えないといった感じで、近づいてくる大巨人に大きく片手を振ってみる。美由紀も気がついたようだ。少し歩調が早くなった気がする。
ほんの数秒で、美由紀は真菜を見下ろす場所まで到達していた。
「あんたね〜・・・なにそのでかさっ!」
「だって〜・・・仕方なかったんだもん。でも、真菜ちゃん、ちっちゃくって可愛いっ!」
そりゃ美由紀から見れば人形みたいな大きさなのだから可愛いのだろう。だが、でかくておっかない真菜ちゃんがちっちゃくて可愛いなんて、美由紀はちょっと嬉しくなった。
「いや、美由紀がでか過ぎんのっ!その馬鹿でかい胸もこびとから見たら山だよっ!ってかアレックスは?」
「いるよ〜、ちょうどよかった。真菜ちゃん預かってて。あたしだと落としても気がつかなくなりそうで・・・」
真菜は目の前に降ろされた左手の上に乗っているペンダントを取ると、中にクリスも入れて首から下げた。
とりあえず今までの状況を交換し合う。シュナイダー方面が片付いた今、残るはこちらを逃げているこびとだけだ。軍船の方は、陸上から支援できるようになったので
問題は無い、とクリスが自信たっぷりに請け負ったので大丈夫だろう。
「それでね、今思いついたんだけど・・・」
美由紀の提案に他の3人も乗ることにした。3人ともあきれ果ててはいたが・・・降伏を進めれば受け入れるだろうが、既に数千人の捕虜がいる。
これに一万人以上の捕虜はとても作れないのだから、今は逃げ帰ってもらうのが一番だろう。
美由紀は3歩ほど移動してグロイツ兵の集団を軽く追い越すと、目を付けていた少々広めの盆地を見下ろす形でその場にしゃがんだ。

「はい、グロイツ軍のこびとたちっ!よく聞きなさい!」
真菜が仁王立ちで見下ろしていた。グロイツ兵にとっては、後方にあの恐ろしい巨人女、そして前方にはそれよりもさらに巨大な、山さえ踏み潰してしまうほどの大巨人女が
行く手を塞いでいる。もう、どこにも逃げ場は無かった。
「あちらが大地の女神様よ。あたしなんかより大きくてずっと強いのは言わなくてもわかるわよね。ただ、女神様はとてもお優しいから、あんたたちが素直に撤退すれば
許してくださると仰ってるわ。女神様の手に乗れば国境まで送ってくださるそうよ。生きて帰りたければ素直に言うことを聞きなさい!」
それに呼応するように、美由紀が盆地に左手をゆっくりと降ろし、そのまま地面にめり込ませた。昔は集落があったのだろう。何軒か点在していた家屋も全て巨大な手の甲に
押し潰されて消えていった。
グロイツ兵達は半ば狂乱状態で一斉にその掌に向かっていった。もう無条件に言うことを聞くしかないとほとんど全ての兵士が思っていたのだ。
盛り上がった地面をよじ登り、次々と途方も無く巨大な手の上に乗っていく。上空から中央に行くように命令されると、言われたとおりに移動する。こうして目に見える範囲の
全てのグロイツ兵が、女神の掌の上によじ登った。
「みんな素直よね。じゃあ女神様、念のためにこのあたりを踏み潰しておきましょうか。」
真菜は意地の悪い顔で美由紀を見上げた。真菜のウィンクを見て、美由紀も理由がわかった気がした。
「そうですね。森に隠れるような不届きものは、許す必要は無いでしょう。」
たったこれだけの会話で、森に隠れている数百人が一斉に飛び出して、美由紀の掌によじ登っていった。
「森に隠れても意味が無いってさっき学習しなかったのかな?」
そう言いながら、真菜は降りてきた右手の上に飛び乗った。

美由紀は左手に1万人以上のグロイツ兵、右手に真菜を乗せて国境に向けてゆっくりと歩いていた。一歩進むたびに大地を揺るがすほどの大震動が沸き起こり数百m四方を
完全に平面に変えてさらに数十mの窪地を作り上げる。それが山だろうが森だろうが関係なく踏み潰してしまうのだ。
さらに左手の上を見下ろすと、そこには1万人を超えるこびとたちが恐らく恐怖に打ちひしがれて乗せられている。これだけの人数がいるのに、全く重さを感じない。
あまりにも圧倒的過ぎる大きさと力の差。掌を返して全員を転落死させることも、軽く握って握り潰すことも簡単にできる。
たぶんその気になれば国のひとつやふたつを滅ぼすことも、この世界を征服することだって簡単にできるだろう。
そう言えば真菜ちゃんはどのくらいのこびとを潰したんだろう。視線を右手の上に移して、ペンダントの先を目の前に上げてふたりの守備兵長と談笑している小さな親友を
眺めてみた。たぶん必要以上は殺していないはずだから聞かないでおこう。あたしも同罪だし・・・何かを守るために何かを犠牲にしなきゃいけないのが戦争・・・か・・・
そんなことを考えながらも、ほんの数十秒で山脈の麓に達していた。
あとはグロイツ兵を帰して進入路のトンネルを潰してしまえば、しばらくは攻めてくることも無いだろう。それでいいんだよね。美由紀は心の中で呟いていた。

真菜は降ろされたグロイツ兵から偉そうな格好をした何人かを摘まみ上げ掌に乗せた。
「あんたたちは帰すわけにはいかないわね。魔獣のこととか色々聞きたいこともあるし。」
司令官も参謀長も既に逆らう気力も逃げ出す気力も無く、ただ首をうなだれていた。
「じゃあ、ほかのこびとは出てきたトンネルから帰りなさい。どこかにあるんでしょ?ばれてるんだから素直に帰るのよ!」

文字通りの完敗だった。シュナイダー方面は約3割、エーレン方面は約6割の損失を出し、両方とも進入路であるトンネルを完全破壊され、しかもエーレン方面の首脳部は
全員が捕虜になってしまったのだ。
これで、グロイツ帝国の危機は当面の間は避けられるだろう。誰もがそう思っていた。

あとがき
 長編は辛いです・・・でも、あとひと波乱あって一応終幕に向かいます。残り2〜3話ってとこでしょうか。
 これが終わっても、一話完結で細々とは続けていく所存ではありますが。

 私事ですが、急に多忙になったのでその残り2〜3話がどのくらいで出来あがるか予想できません。
 感想を書き込んでくれる皆さまには申し訳ないのですが、気長に待っていただければ幸いです。