何でいつも突然なんだろう?何でいつもパジャマなんだろう?
美由紀は実験してみることにした。2度あることは3度ある。今夜もまた、あのこびとの世界に
行けるに違いない。何の根拠も無いがそんな自信があったからだ。
いつものように寝支度をしてベッドに潜り込む。ただひとつ違っていたのは服装。そう、今日は
わざわざ制服に着替え直して寝てみることにしたのだ。

「んあ・・・」ゆっくりと上体を起こして大きく伸びをする。ゆっくりと目を開けて景色を確認する。
女の子座りになっている自分の膝の約1m先にあの城壁が見える。よかった、同じ場所だ。
美由紀はほっと胸を撫で下ろした。
「あれ?」城門が開いて十数人の兵士が出てくるのが見えた。先頭は1頭の馬で、その後ろに歩兵が続き、
整然とゆっくりとこちらに近づいてくる。そして美由紀の手が届くほどの場所で止まると、馬上の男が
馬を下りて恭しく一礼した。
「守備兵長さん?」小さくてもなんとなくわかる見覚えのある顔だった。
「美由紀様、わざわざお運びいただきありがとうございます。」彼の地声は大きく、わざわざ顔を
近づけなくても微かではあるが美由紀の耳にも届いていた。
「どうしたの?お出かけ?」
「はい、この先の村に魔獣が現れたとの報告がありまして、これから向かうところです。」
「魔獣?」美由紀にとって初めて聞いた言葉だった。
「通常の獣よりも大きく、かつ、凶暴でたびたび人や家畜を襲うのです。それをこれから退治しようと」
通常より大きいって・・・じゃあ、あたしも魔獣?それにこの先の村ってあたしが最初にこびとに
会った村のことよね。。。
「魔獣って・・・あたしもそうなの?」つい口をついてしまった。素直に「はい」とか言われたら
どうしたらいいんだろう?もう、なんでこう何も考えずに言っちゃうのかな。。。
だが、守備兵長の答えは明確にそれを否定してくれた。
「いいえ、魔獣とはこの世界の存在が何かしらの原因で変異したもの。美由紀様は身体は大きいですが、
明らかに異世界からお出でになった存在。魔獣であるはずがありません。それに・・・」
「それに?いいわ、乗って。みんなもね。」
美由紀は馬の前に左手を下ろすと、軽く地面に押し付けた。
「それに、美由紀様を大地の女神様と信じている者も多くおります。かくいう私もそうなのでは
ないかと思っている一人なのですが・・・」
全員が乗ったところで、左手を目の前まで引き上げる。やっぱり馬も小さくて可愛いなぁ。とは思ったが、
それよりも重大事を告げられているのだ。それを正さずにはいられなかった。
「大地の・・・女神ぃ???あたしが?」
「美由紀様はいつも大地の日にお出ましになりますので。今日もそうですし。」
「大地の日って?」
「1日を単位として、太陽、月、炎、海、植物、動物、大地の7つの属性が順番におとずれるのです。
美由紀様は大地の日、つまり7日に1回お出ましになるので、大地の女神様と申す者が・・・」
ちょっと待って、あたしは毎晩ここに来ているはずだけど、こっちでは週イチってことなの?
確かに城壁の修復はほとんど終わっているようだし、彼らが寝ずに作業してもたった1日では・・・
美由紀は、ここで初めて時間の流れが違うことに気がついた。
ってことは、こっちの7時間があたしの世界の1時間?だよね。しかも7時間もいたことが無いから、
実際には・・・ここで美由紀の思考が遮られた。まぁ、これ以上考えてもぐるぐる回るだけだったかも
しれないが。
「美由紀様?どうかなされましたか?」
「え?な、何でもない。だいたいのことが分かったし、魔獣って見てみたいから、一緒に行くわ。」
美由紀は掌の中央に全員が固まっていることを確認して、ゆっくりと立ち上がった。
あまり揺らすと、人はともかく馬は突然暴れだすかも知れないし、この高さから落ちたらひとたまりも
無いと思ったのだ。

振り返ると、すでにあの村が視界に入っていた。距離は美由紀の距離感だと20mといった
ところだろう。どんなにゆっくり歩いてもすぐに着いてしまう。
「ん?」美由紀は掌の上のざわめきに気がついた。
「どうしたの?」視線を落として声をかけてみると、彼らが一点を見つめているのが分かった。
一番安定しそうな胸元付近に左手を下ろしていたので、彼らの目の前にはブラウスを突き破らんばかりの
爆乳が2つ鎮座していた。それが振り返った拍子に大きく揺れたからだった。
「ふーん・・・」左手を目の前まで上げて、少し怒った表情を作って見つめてみた。
「えっち!」
「い・・・いや、美由紀様のお召し物が今までとは違うのが気になりまして、その・・・」
守備兵長の言葉で実験のことを思い出した美由紀は、視線を落として自分の身体を見下ろしてみた。
ブラウスにミニスカート、にょっきり伸びた肉付きのいい足には白いソックス。
寝た時と同じ服装。じゃあ、どんな服でもオッケーってことかな?あ、
ひとまず実験は成功したようだった。
「いいわ、見るだけだったら許してあげる。」
学校の男子生徒には絶対に言えない一言である。圧倒的な大きさが余裕となってこんなことを言って
しまったのか。よくは分からないが、彼等にだったら別に構わないという気持ちが美由紀の中に
芽生えたことは確かだった。

村では、男たちが急ごしらえの獣よけの柵を村の周りに張り巡らせていたところだった。
そこに地響きと共に巨人が現れたのだ。
「おい、あれ。」
「ああ、美由紀様だ。俺はこの前、美由紀様とお話させていただいたんだ。たぶんこの国で初めて
美由紀様とお話したのはこの俺さ。」
物語とは全く関係ないが、彼こそが美由紀が初めてこの世界に来たときに最初に話をした男だった。

美由紀は村の手前で立ち止まると、その場にゆっくりと腰を下ろした。巨大な太股とお尻で
バキバキとそこにあった木々をへし折っていく。申し訳ないなとも思ったが、まさか村の中に
座るわけにもいかない。かといって立ったままでは、スカートの中が丸見えである。
なるべく被害の範囲を少なくするだけで精いっぱいだった。
村の中央にある一番高い建物、恐らく教会だろう所から、わらわらと村人が出てきて近づいてきた。
作業をしていた村人たちも一斉に手を休めて美由紀の前に集まってくる。
それに気がついたのは、ちょうど掌に乗せていた兵士たちを降ろし終えた時だった。
村人の全員がちょうど太股から10cmほどの場所で跪いていたのだ。
「え?な・・・何?」一人の老人が少し歩み出て、再度跪いていた。何やら喋っているらしいが、
声が小さすぎてさっぱり分からない。
「守備兵長さん?」村人と一緒に跪いている兵士の集団にそっと声をかける。
「はっ!」守備兵長が老人の横に進み出て来た。
「ごめん、この人の声小さすぎて何言ってるかわからないの。」
「はっ!こちらはこの村の長老で、大地の女神様に対し奉り、歓迎の意を言上しております。」
また女神様?確かにサイズだけは女神級かも知れないけど・・・
長老の言上も終わったようで、いつの間にか村人の集団の中に戻っていた。
「あ、ありがとう。ちょっと聞き取りにくかったけど、嬉しいわ。」
巨大な女神のひとことで、一同が一斉に頭を垂れる。男も女も、大人も子供も全員が。
女の人とか、子供もいるのね。シュナイダーの城下町にはいなかったけど。。。
あ、みんな怖がってたのか。でも、子供って可愛いな。遊んであげたいけど、この馬鹿力じゃ
危険だよね〜・・・
美由紀は、指先で6人の男たちを玩んだことを思い出していた。大人の男でさえああなのだ。
女性や子供を相手にしたかったら、あの時の数倍は気を使わなければならないだろう。
「もういいわ。それより、魔獣はどこにいるの?」
守備兵長が長老と何やら会話をしてから、美由紀の方に向き直った。
「今は森の中のどこかに潜んでいるようです。大型の熊が4頭、すでに家畜が12頭、村人が3人
犠牲になっています。」
家畜、あ、いた。ちっちゃい牛さん。あたしもよくホルスタインとか言われるけど、ここじゃあ
そんなレベルじゃないなぁ。
「そう、じゃあ、探しに行く?」とは言ってみたが、森は意外と広い。この森の木々を全て
引き抜いてということもできるが、それでは自然に対する暴挙になってしまう。
それに、この美しい景色をなるべく壊したくない。
「我々で捜索してみますので、美由紀様はこちらで村をお守りください。」

守備兵長が村の中央で兵士たちに指示を出していた。その時だった。森との境界線のあたりが
急に騒がしくなった。
「出た〜!」「こっちだ!」声が聞こえる。兵士たちがその方向に走っていく。兵士の最後尾に
いた守備兵長が、美由紀の方を振り返った。
「あと3頭います。美由紀様はそこを動かずに、ここは我らにお任せください。」
「わかったわ」美由紀は、そう言うと兵士たちが走っていく方向に視線を移してみた。
森の入口で、黒いものが蠢いているのが見えた。兵士たちが左右に散って、まず矢を射かけ、
次に正面に陣取った数人が槍を突く。咆哮が聞こえ、攻撃された方に向かって木々の間から
何かが現れた。
「あれが、魔獣?」それは想像とちょっと、いや、大きく違っていた。美由紀は、場合によっては
自分と同じくらい巨大で、しかも、恐ろしい形相の怪物を想像していたのだが、森から出て来た
それは、とても小さな熊のぬいぐるみだったのだ。体長は3cmといったところだろうか。それが
身長1cmほどの小さな兵士たちに囲まれて、威嚇しているのだ。
「ヤダ、かわいい。」右手を伸ばせば余裕で届く場所なので、兵士たちが苦戦したら助ければいいし、
10人がかりだったら何とかなるだろう。それに、最初から助けては守備兵長さんたちの面目も
潰してしまうかもしれない。そんなわけで、しばらく観察することにした。

次の転機に最初に気がついたのは、美由紀だった。
魔獣と接近戦に持ち込んだ兵士たちは、槍で突き、剣で切りつけ、魔獣が立ちあがって腕を
振り下ろすと決してその間合いには入らなかった。間断ない攻撃で魔獣のスタミナを奪う。そして、
最後に仕留める。時間はかかるが、彼らの生存率がかなり高くなり確実な戦法を取っていた。
少し退屈した美由紀が視線を移すと、少し先の茂みがガサガサッと動いたのが見えた。何かが
動いている。しかもその方向は、今まさに魔獣と兵士たちが戦っているところ。美由紀はその
動きから目が離せなかった。そして・・・茂みから何かが飛び出す!魔獣だ!しかも、2頭!
美由紀は咄嗟に右手を伸ばしていた。10対1でも、あんなに大変なのだ。これが10対3に
なったら、間違いなく勝ち目はない。しかも、不意打ちを食らったらひとたまりもなかった。
そこまで考えていたわけではないが、彼らが危険になると思った時にはすでに2頭をまとめて
掴み上げていた。
「やっぱりクマさんだ。可愛いなぁ。携帯のストラップとかにちょうどいいかも。」
美由紀は左手の上に2頭の魔獣を転がり落とし、目の前まで上げてしげしげと見つめていた。
彼女自身全く気付かなかったが、掴んだ時に1頭の左腕を肩から粉砕し、もう1頭の腰骨を砕いて
いた。2頭の魔獣は痛さのために、悶絶し転げまわっていたのだが、美由紀の目には、コロコロと
転がってじゃれついているようにしか見えなかった。
そのうちの1頭が、小指まで転がってそのまま落下してしまった。美由紀も気がついて掌を返そうと
したが、間に合わなかった。魔獣はそのままブラウスの突き出た部分に当たると、軽くバウンドして
そのまま地面に落下・・・しなかった。
「エッ?うそっ!ヤダッ!!!」美由紀は胸ポケットの縁にしがみついてぶら下がっていた
魔獣を軽く、そう軽く払い落した。

戦っていた兵士のうちの一人がそれに気付いた時には、すでに2頭の魔獣は20mの近さまで
接近し、尚も突進しているところだった。大きさは今対峙している魔獣とほぼ同じ程度の
5mは軽く超える大きさだった。
「まずいぞっ!」誰かが叫ぶ。このままあの2頭に乱入されたら戦局は一気に逆転してしまう。
ここはもう美由紀様に助力を請うしかない。誰もがそう思っていた。
その時だった。大きな影が2頭の魔獣に猛スピードで近づいたかと思うと、巨大な手が覆い隠して
あっさりと上空へ持ち去ってしまったのだ。
持ち去られた方向を何人かが見上げると、山のような巨体のその手の上に、まるで小さな動物、
いや、昆虫のような大きさの魔獣が乗せられていた。
「やっぱ・・・すげぇ・・・」
「俺達が乗ってた時は、蟻みたいなもんか?」
思ったことがそのまま口に出てしまう。自分たちが必死に戦っている魔獣をあんなにもあっさりと
掌の上で転がしているのだ。しかも、笑顔で。彼らの大部分が自分たちの無力さを改めて
思い知らされていた。
「おらぁ!何やっとる!こいつだけは俺達の手で仕留めるんだ!」
守備兵長の一声だった。彼も兵士たちと同じ思いを抱いてはいたが、方向が少し違っていた。
美由紀様は大地の日にしか現れない。では、他の日にこのようなことがあったらどうするのだ。
確かにお願いすれば目の前のこいつも一瞬で倒してくれるだろう。が、それではいけないのだ。
彼の内なる声がそう語っていた。
巨人の上げた戸惑ったような声で、何人かが見上げた。その対象の3倍近い高さの胸の山に
しがみついている1頭の魔獣めがけて巨大な手が振り下ろされた瞬間だった。
魔獣は黒い塊となって、一瞬で100m近い高さから地面に叩きつけられた。ベチャッという
不気味な音と同時に辺りに何かが弾け飛ぶ。その距離は、兵士たちや村人たちにまで達していた。
それは、叩き落とされた衝撃で四散した魔獣の肉片や血飛沫だった。それが雨のように降り注いで
来たのだ。あちこちから女性の悲鳴が上がる。
「あ、あれをっ!」誰かが指さす方を皆が一斉に見上げた。そこには巨人の左拳がグッと握られ、
指の隙間から幾筋かの赤い線が流れている光景だった。

「もう、なんでこんなところに・・・」美由紀はそう呟いたすぐ後に左手の中のプチュッという
感触に気がついた。無意識に閉じてしまったのだ。
「え???」なんかいや〜な予感がする。だって、左手にはもう1頭が残っていたはずだし。
左手を目の前に戻してみると、しっかりと握られたその中には何かが動いているという感覚は無く、
指の間からは赤い液体が滴っていた。
恐る恐る手を開くと、そこには熊とは思えないほどぐしゃぐしゃに潰れた肉塊が血の海の中に
転がっていた。
「うわっ!」慌ててそれを横に落とす。落とした横にはつい今しがたかる〜く払い落した熊が、
やはり原形を全く保たない状態で地面にへばり付いていた。
やだっ・・・あたしってそんなに怪力なの?こんなことしたらみんなビビっちゃう。
美由紀はゆっくりと視線を村人たちに落としていった。視線の片隅で兵士たちが戦っていた熊が
崩れ落ちるのが見えた。そして・・・村人たちは、皆手を挙げて喜んでいた。
「美由紀様〜!」「女神様〜!」そんな声が混ざっている。
よかった。熊さんたちにはちょっと可哀想だったけど。そう思いながら、右手を軽く振って、
歓声に応えていた。
その時だった。残りの1頭が森から現れた。しかも、大きさは3頭よりも遥かに大きかった。
機先を制された兵士のうち2名が強烈な右フックで10m以上吹っ飛ばされた。そして、機敏に
方向を変えると、兵士たちに向かって突進を始めた。
「危ないっ!」そう叫んで右手を伸ばした時だった。不意に意識が遠のき始めたのだ。
ダメッ!今戻ったらこびとさんたちが・・・
美由紀から見れば体長8cm程度のぬいぐるみでも、彼らにとっては途方もない大きさのはずだ。
そんなのと戦って勝てるわけが無い。3cmの子にだってようやく勝ったのだ。このまま
戻ったら・・・美由紀の脳裏にさっきの子供たちの姿が浮かんだ。

「ダメ〜ッ!」国中に聞こえるような大声を発して、意識が戻った。いや、無理やり戻らせた。
人々は耳を塞ぎ、失神するものも出た。大熊でさえ余りの大きさに身体全体が強張ってその場で
急停止していた。
戻った。でも・・・美由紀は右手を伸ばすとそのまま熊を鷲掴みにした。
それをそのまま目の前まで持ち上げる。確かに今までよりは大きかったが、首から上だけを拳の
上に出して、全身は完全に手の中に閉じ込めていた。熊の方も我に返ったらしく蠢いてはいるが、
美由紀の手を開かせるにはあまりにも非力だった。
「よかった。間に合って。」
熊はじたばたしながらも、まるで巨人を威嚇するかのように咆哮を上げている。美由紀はそんな
光景も可愛いとは思ったが、ここで自分が消えることを考えると、今この場でこの魔獣を
殺さなくてはならないことも分かっていた。
「ごめんね。」そう心の中で謝りながら、拳に少し力を込める。美由紀の握力は、普通の女子高生の
平均そのものだったが、それでもこの熊を握り潰すには十分だった。
手の中で何かが砕けた感触がした。熊の咆哮が激しく、哀願するような感じに変わった。
骨、折っちゃったかな?そう思いながらも力を少しずつ強くしていく。何かが折れたり潰れたり
する感覚。本当にここでは怪力を通り越した力らしい。熊の悶絶した表情を見ていればよくわかる。
我ながら残酷とも思うが、どの程度の力を入れても大丈夫なのかは試しておきたい気持ちもあった。
そして、ついに熊は口から泡を吹いてカクッと頭が傾いた。
手を開くと、身体の幅が三分の一程度まで圧縮された熊が転がっていた。両腕はすでに身体に
めり込んで、ピクリとも動かない。腰骨も粉々なのだろう。下肢も少し潰れているように見えた。
「本気になったら、さっきの子と同じに出来ちゃうってことね。」まだ全力ではなかったのだ。
もし、全力だったら。。。ちょっと怖いな。あたし。そう思いながら、熊の身体を地面に転がり
落とした。
帰りは兵士たちを掌に乗せる気が起きなかった。というよりよく平気でのせて来たと思う。
最悪の場合、握り潰していたのは兵士たちだったかも知れないのだ。自分の余りにも桁外れの
力に驚き、呆れ、ついには恐れてしまっていた。
美由紀はゆっくりと立ちあがりながら足元を見下ろした。
「悪いけど、自分たちで戻って。あたしはちょっと手を洗ってくるから。」
美由紀は森の先に見える一筋の光。恐らく川であろう場所に向かって、村を迂回して歩き出した。

「ふう、」美由紀は細く流れる川で手を洗い、身体にこびりついていた赤いシミを洗い流してから
顔を洗った。
「これはここじゃあ無理ね。」ソックスやスカート、ブラウスに点々とついているシミはここでは
取ることは難しいと思った。
さっき、意識を集中してこの場に留まれたのはなぜだろう?自分がそう強く念じれば、ずっとここに
いられるのだろうか?それに今みたいに、帰りたくなったら帰れるのだろうか?
美由紀は膝を抱えて座ったまま、今日はもう帰りたい。と念じてみた。