真菜が来訪することを告げられた時、アレックスは顔面の筋肉が痙攣したのを自覚していた。
「真菜様が・・・ですか。承知いたしました。」
明らかに声は上擦っていた。決して失礼があってはいけない。全兵士、住民にもきつく申し渡しておかなければ・・・
「もう、大丈夫だよ。あたしがちゃんとついてるし、真菜ちゃんも変なことはしないって言ってたから。」
「あ、はい。。。」
そうは答えたが、魔獣を処分した時のあの冷酷さは忘れられない。美由紀と共に辺境を見まわっている時も、美由紀が元の世界に戻ってからも、
そして、次の大地の日までの間も、結局アレックスは夜もろくに眠れぬほどの不安を抱き続けていた。

「み・・・みずぎぃ???」
美由紀の部屋で真菜はブラウスのボタンを外して中を見せていた。
「そう、向こうに行って何も起きてなかったら退屈でしょ。港があるって言ってたから海もあるじゃない。ちょっと泳ごうよ。」
「で、でも・・・」
「港から100kmくらい離れたところで脱げばいいじゃん!誰も近づけないって。」
「そうだけど・・・」
「じゃあ、アレックスさん連れてあたしだけ泳ぎに行っちゃうけどいい?掌には乗っけらんないからどこか身体の上に乗せると思うけど。」
「ダメッ!絶対ダメ!だったらあたしも行く!」
こうして、ふたりとも制服の下に水着を着込むことになった。真菜の作戦勝ちである。

最初に真菜が腕時計を見た時、時計の針は1時ちょうどを指していた。そういえば、前に美由紀の家に泊った時も美由紀が消えたのは確か1時頃だったことを思い出した。
「真菜ちゃん、時計なんか持って来たんだ。」
「え、うん。だってあたしたちの世界の1日がこっちの1週間なんでしょ?時間の進み方とかどうなるのかなって気になって。」
「へえ〜、凄いね〜!あたし、そんなこと考えなかった。」
まったくこの子は思慮が足りない時があるのよね・・・成績はトップクラスのくせに天然というか何と言うか・・・
そんなことを考えながら、まず真菜は手近にあった木を2本ほど引き抜いてみた。名前はわからないが広葉樹のようだ。長さはおよそ10cmといったところだろうか。
「この世界で言うと20mくらいなのかな?」
人差し指と中指の上に横たえた木の中央付近に親指を乗せて、少し力を入れてみた。
ポキッ・・・2本まとめてあっさりと折れてしまった。たぶん爪楊枝を折るよりも力は入れていなかったはず。
「全体的に弱いのかもね。気をつけなくちゃ。」
真菜は、結局2本の木を指先の力だけで粉々の木片に変えながら、既に立っていた美由紀のとなりに立ち上がった。
「いい眺めだね〜!これだけなんにもないと気持ちいいね!」
「でしょ?あたしも夢の世界じゃないかって思ったんだ。今もちょっとはそう思ってるけどね。あ、なるべくあたしが踏んだところ歩いてね。」
「わかったわよ!」
ふたりはシュナイダーに向けて歩き出した。

ずうぅぅ〜ん!ずうぅぅ〜ん!
地響きがだんだん大きくなっていく。部屋の中のテーブルがガタガタと音を立てる。食器などの割れ物は予め床の上に置いてあるのでガチャガチャといってはいるが
割れることまではない。この村の週に1回のイベントが始まる合図だった。
「でも、なんか女神様の足音、いつもと違わねえか?」
「なんかおひとりじゃない気がするわねぇ。」
とある家の老夫婦がそんな会話をしながら外に出ると、既にほとんどの村人が集まっていた。だが、様子がいつもと違う。
なんだろう?と思いつつも、いつもの村の中央の広場に移動して、女神様のお姿を拝そうと地響きの方向に目を向けると、老夫婦は腰を抜かしてしまった。
「ふ・・・たり・・・」
ひとりは間違いなく大地の女神様だった。そしてその横にもうひとり、大地の女神様よりもさらにひと回りほど大きな巨人が並んで歩いている。
美由紀様と同じ服装。確か、ガッコノセイフクとか仰っていたものだった。その巨体に比してあまりにも短いスカートから伸びる脚は美由紀様のふくよかさを持ったそれとは異なり、
力強さと精悍さを併せ持ったどちらかと言えば逞しいものだった。だが、その身体と顔の美しさは美由紀様とは異質だが負けずとも劣らず、村の青年たちはしばしの間
ふたりの女神様の巨体を茫然と見上げていたのだった。
どこからともなく声が聞こえた。
「あれが守備兵長様のお話された真菜様だ。みんな、失礼の無いようになっ!」
美由紀様以上の巨体に恐れおののいたのか、命令とも思える口調にも異を唱える者も無く、全員がその場に平伏してふたりの女神が近づくのを待っていた。

「あれ、なに?」
真菜は村の方を指さした。
「シュナイダーの街の手前にある村だよ。ほら、あたしが最初に魔獣をやっつけた村。行ってみる?」
美由紀に促されて真菜も村に近づいてみる。足首までの高さもない囲いの中に小さな箱が散らばっているようだった。
囲いの少し手前でふたりはしゃがむと、中央の広場のような場所に、豆粒のようなものが見えた。
「これ、こびと?ほんとにちっちゃいんだね!でも、何してんの?土下座?」
数十人の村人が広場の中で平伏している姿だった。
「そんなことしなくていいって言ってるのに。みんな、立って。」
美由紀がそう話しかけると、村人たちはぞろぞろと立ち上がった。
「えっとね、こちらはあたしの友達で真菜ちゃん。今日初めてパルメアに来たんだけど、怖くないから仲良くしてあげてね。」
「ちょっとぉ、まるで恐怖の大王みたいな言い方じゃない?でも、こびとさんってほんとにちっちゃいのね。今日だけだけどよろしくね。」
真菜がにっこり微笑むと、全員がまたその場で跪いた。
どうも反応が大げさに過ぎる気がする。絶対アレックスが何か言ったんだな。真菜は直感したが、そんなことは顔には出さずにそのまま立ち上がった。
「じゃあ、先を急ぐから、またね。」
そう言うと、ふたりはシュナイダーの街の方へと歩き出した。

城壁の上では案の定アレックスがそわそわしながら待っていた。ふたりの姿を認めると、それは頂点に達したようだった。
ふたりの巨人が並んで歩く姿はアレックス自身は以前にも見たことはあるが、美由紀の部屋とこの場所とでは迫力が全く異なっているように思えた。
地響きと共に地面を踏みしめて巨大な足跡を作る光景など何度も見ているはずだが、今回はその迫力が2倍いや5倍にでもなっているような気がする。
ふたりは城門の少し手前で止まったのだが、アレックスを含めた皆が4本の脚が天高く聳える様を仰ぎ見ることになった。
急にひとりの巨人がしゃがみ込んだ。真菜だった。何も言わずに街中をゆっくりと見回している。何かを探しているようにも思えた。
それは間違いなく自分だろう。そう思った時、視界に捉えられた。思わず目が合ってしまう。アレックスは背筋が寒くなるのを感じた。
「アレックスさん、み〜つけたっ!」
嬉しそうな声と共に、巨大な影が落ちかかって来た。アレックスは全くどうすることもできずに、真菜の指先に摘ままれて上空に持ち去られてしまった。
掌に落とされた時、目の前には真菜の瞳があった。美由紀様とは少し違う色の瞳。美由紀様は?そう思ったが視界の隅で黒い大きなものが動いているのが見えた。
そうか、真菜様の方が大きかった。アレックスは改めて真菜の巨大さを思い出していた。
「ま、真菜様・・・お久しぶりで、ございます。」
「元気そうね、アレックスさん。なんか怯えてるみたいだけど、どうかしたの?」
無機質な答え。何か機嫌を損ねたか?いや、たった今来たばかりではないか。。。今にも心臓が飛び出しそうなほどの緊張感がアレックスを襲っていた。
「真菜ちゃん、急にどうしたの?ねえ、アレックスさん?」
広大な掌の下から、美由紀様の声が聞こえる。だが声を上げることも出来ない。まさに蛇に睨まれた蛙といった状態であった。
「なんでもないよ〜、ちょっとアレックスさんに聞きたいことがあってさ。」
真菜様の視線が一瞬だけ下に逸れるが、すぐに戻って来た。
「な・・・なんで、しょう、か。」
アレックスは完全に怯えきっていた。
「さっき村に寄った時にさ、みんな必要以上に恐れてたっていうかさ。アレックスさんが、なんか変なこと言いふらしたのかなぁってね。」
「そ・・・そのようなことは・・・」
言ったとは絶対に言えない。しかし、そんなことは兵士たちをちょっと脅せば白状してしまう。忘れていた、真菜様の感は鋭かったのだ。
「ならいいんだ〜、はい、美由紀。」
真菜はアレックスを美由紀の掌に転がり落として、もう一度その場にしゃがみこんだ。
「ほんっとちっちゃいね〜、家なんかすぐ指先でペッチャンコになりそうだし、ちょっと中を歩いただけで大惨事だね〜。」
本当にやりそうな勢いである。アレックスのがんばりもそこまでだった。
「もっ、申し訳ありませんっ!」
真菜にもアレックスの大声が聞こえたらしい。ゆっくり立ち上がると、美由紀の掌で土下座しているアレックスを見下ろした。
「どうしたの〜?急に謝って。」
「ま、真菜様のご機嫌を損ねると、大変なことになると、確かに・・・申しましたぁ〜」
「やっぱりね。でも、すでに機嫌悪いんだけど、どう責任取ってくれる?」
「そ、それは・・・」
「もう、アレックスさんも反省してるんだから、許してあげなよ。でも、ほんとにそんなこと言ったの?」
助け船を出しつつ、美由紀もアレックスに聞いてみる。
「はい、申し訳ありませんっ!」
掌に額を押しつける勢いのアレックス。美由紀も真菜に許してあげてという顔をしている。
「わかったわ。じゃあ、今日一日あたしたちに付き合ってよ。あと、絶対に逆らわないこと。いいわね。」
ふたりの足元では多くの守備兵が、脅しだけであの守備兵長を完膚なきまでに叩きのめした巨人の少女に、心の底から恐怖していた。

そんなわけで女神様ご一行はパルメランド公の言いつけを完全に無視してエーレンへと向かった。
もうひとり巨人が来ることはエーレンには知らせていなかったので、街の中で様々な作業をしていた兵士たちは、ちょっとしたパニック状態になっていた。
ところが、歩き来るもうひとりの巨人の姿を半ば呆けた状態で見ていた男がひとりいた。エーレンの守備兵長のハウザーである。
「ハウザー様、いかが対処しましょう。」
「慌てるな。恐らく美由紀様のご友人だ。ビッケンバーグから聞いている。」
それにしても大きい。美由紀様より頭一つくらいは大きいのではないか?それにあのスタイルといい顔立ちといい、なんて美しいんだ。
つまりハウザーは真菜に一目惚れしてしまったのである。
ふたりは城壁から少し離れたところをズシン、ズシンと歩き南側に回ろうとしていたので、ハウザーも急いで南側の城門に向かった。
門を出た所で美由紀がしゃがんで掌を置いていた。
「ハウザーさん、こんにちは。」
「美由紀様もお元気そうでなによりです。ん?どうしたんだ?ビッケンバーグ」
掌の上で、小さくなって蹲っている僚友の姿を見て声をかけてみたが、返事が無い。代わりに美由紀が答えた。
「いや、ちょっとショックなことがあって。。。あとで話しますね。それと、こっちが真菜ちゃんです。あたしの親友なんです。」
ハウザーも乗せた掌を少々上にあげて紹介する。
「お初にお目にかかります。クリストフ・ハウザーと申します。どうぞお見知りおきを。」
ハウザーはかなりドキドキしていた。当然末長くお見知りおき頂きたいと心の中で叫んでいたことなど誰もまだ気付かなかったが。
「はじめまして、真菜です。今日はちょっと行きたいところがあるんだけど、一緒に行きませんか?」
「どちらへ?」
「港町、エミリアです。」
代わって美由紀が答えた。
「ちょうどいい、私も明日からエミリアに作っている防御壁の視察に行こうと思っていたのです。一日早いですがご一緒します。」
ハウザーは誰にも見えないように小さくガッツポーズを作っていた。

エーレンからエミリアまでは50km、つまり美由紀と真菜にとってはたったの250mしか離れていない。足元に気をつけてゆっくり歩いてもあっという間の距離である。
エミリアは崖に挟まれた入り江に作られた港町で、南側の崖はそのまま山へと連なり天然の城壁を兼ねていた。当然崖の上にはいくつかの櫓が作られており、
山を登って崖伝いに侵入しようとする敵に対処できるようになっている。進入路は大きく迂回して東側しかなく、ここに防御壁を築くことによって陸からの敵の侵入を
阻止する。ハウザーはその防御壁を築く作業の進行状況を確認するために訪問することにしていたのだった。
「なるほどね〜、攻めにくくて守りやすいってわけね。」
ふたりの女神の視点からは、その様子を容易にうかがい知ることができた。なるほどパルメランド公とは地形も含めて頭に入れて防衛プランを考えていると、
皆感心するしかなかったのだ。
「今、出ている船はあるのかしら?」
真菜がハウザーに尋ねた。
「いえ、いつ戦闘が始まるかわかりませんので、出航を禁じておりますが。」
「だったらいいわ。あと、パルメアの領土ってどの辺までなの?」
「はい、遠く南に見える山脈まででございます。あの山脈は海岸近くまでせり出していますので、それがそのまま国境線になっております。」
ハウザーは真菜の質問にまるで水を得た魚のように生き生きと答えていた。
ふたりの目からは遠くに雲に霞んで見える山々が見えていた。
「途中に街とかはないのかしら。」
今度は美由紀が質問した。
「ありません。この海岸線はほとんどが切り立った崖になっています。唯一の街がここエミリアですが、ここから先は廃墟しかありません。」
「廃墟って?」
「以前は港町があったのですが、数年前の大嵐で壊滅的な被害を受け、復興するにもこの山道ですので止む無く放棄したのです。」
「ふ〜ん、じゃあ、その辺りでいいかな。ねえ、ハウザーさんも今日は暇でしょ?付き合ってくれる?」
真菜はそう言うと、膝ほどの高さの山の尾根を軽々と跨ぎ越していった。美由紀もふたりの守備兵長を乗せたままそれに続く。
高さ100m近い天然の要塞も、このふたりの巨人にとってはちょっと高い段差でしかない。防御壁を作っていた守備兵も街の住民もただただ驚いてふたりの巨人の
後ろ姿を見送るしかなかった。

エミリアから100kmほど南に下っただろうか。一部分だけ平地になった場所に出現した街並みに到着した。
城壁もところどころが破損しているがほぼしっかり残っており、街の中もそんなには荒れていない。ただ、山崩れが延々と街道を塞いでおり、大嵐でこの地の生活が
かなり難しくなったことを物語っていた。
「ここなら泳いでも大丈夫だね。」
真菜がブラウスのボタンを外し始めた。
「お・・・泳ぐ?ですと?」
ふたりの巨人の間に下ろされたアレックスは、とんでもないといった顔で叫んでいた。
「そうよ、今日は美由紀も水着だよ。あ、水着って言うのはあたしたちの世界の泳ぐための服みたいなもんね。」
美由紀も小さく頷いた。
「いけません!このあたりの海は危険なのです。以前のここの街でも毎年のようにサメの被害が・・・」
「サメってどのくらいの大きさ?」
真菜がブラウスを脱ぎ去って、近くの林に放り投げる。
「大きいもので、7〜8メートル、くらい・・・かと。」
「じゃあこんなもんじゃない。あたしたちが襲われてどうにかなると思う?」
真菜は親指と人差し指で4cmほどの幅を作ってアレックスたちに見せた。
「どうにも、ならない・・・かと。」
「でしょ?メダカに襲われたって怪我なんかしないって。それに、今日は一日逆らわない約束でしょ。」
アレックスは言葉を失ってしまった。追い打ちをかけるように、真菜はハウザーにシュナイダーでの顛末を話して聞かせた。
ハウザーは、笑いを堪えるのに必死になっていたが、アレックスが涙目で抗議した。
「お主も同じ目に遭ってみろ!恐ろしいなんてもんじゃないんだぞっ!」
それに反応した真菜がふたりをじろっと見下ろして、
「だ〜れが恐ろしいのかなぁ?」と言うと、アレックスは黙りこくり、ハウザーの背中にも冷や汗が走っていた。

「先に入っちゃうわよ!」
真菜はスカートも脱ぎ棄てて、ハイレグワンピースの水着を足元のふたりのこびとに見せつけていた。流石にバレーボールで鍛えているだけあって、少々脚を広げて
腰に手を当てている姿は、世のM男どもからすれば垂涎もののアングルだろう。
「女神様というより女王さまだな・・・」
これはアレックスが言ったかハウザーが言ったか。いずれにせよふたりとも顔をほぼ真上に上げて、半ば呆けた状態で見上げていたが。
ほどなく、大きな影が真菜の横に近づいてきた。「うぉっ!」アレックスの呻きにも似た声がハウザーの耳にもしっかりと届いた。
美由紀の水着は薄いピンク色のビキニ。しかも少々きつそうである。胸元などは横と下から少々はみ出しているくらいだ。足元のふたりからは、その大きな胸に
隠れて顔がほとんど見えなかった。
「に、似会う・・・かな」
美由紀がゆっくりとしゃがんでアレックスを見つめる。
「は・・・い・・・とても」
とは答えたが、アレックスは視線が定まらない。ちょっとした沈黙。ラブシーンは後でやってよね、という顔で真菜が沈黙を破った。
「じゃあちょっと遊んで来るから、あなたたちはちゃんと見える場所にいてよね。」
そう言ってバシャバシャと海に入っていく真菜に、美由紀も続いていった。

アレックスとハウザーの視線の先にはふたりの女の子が膝くらいまで海に浸かって水遊びをしていた。至って普通の海辺の光景。ただ、普通ではないのはふたりが遊んでいる場所は
水深100mはありそうな場所だということくらいだろう。
そんな光景を見ながら、アレックスが呟いた。
「こうして見ると普通の女の子なんだがなぁ。。。」
「うむ。それにしても真菜様のスタイル、素晴らしいではないか。」
ん?ハウザーさん?あなた今何と言いました?アレックスはハウザーの顔をじっと見つめた。目がハート型になっている。もしや・・・お主・・・
「なんだ?何かおかしいか?」
ハウザーは本気で変なことは言っていないと思っている顔で聞き返した。アレックスも返答に困ってしまう。
「いや、おかしくはないが・・・」
「そう言えばお主に聞きたいことがある。」
急に真顔でハウザーが話題を変えてきた。
「何故お主は『アレックス』と呼ばれて、俺は『ハウザー』なのだ?名前の、しかも短縮形で呼ばれるなどよほどの仲でなければ出来まい。しかも、真菜様まで・・・」
ははーん、お主やっぱり。という顔でアレックスが答える。
「『ビッケンバーグ』という姓が言いにくいのだろう。それに『アレクサンデル』もな。お主も『クリストフ』とか呼ばれたいのか?特に真菜様から。」
「い・・・いや、そういう訳ではないが・・・」
顔が真っ赤になっていた。彼もわかりやすい男である。
そんな時、大波がふたりに襲いかかった。何しろこの世界では規格外サイズの女の子の水遊びである。海岸近くにいるなど危険極まりない。
既に廃墟の中の港の近くの家が何軒か、ふたりの巨人が起こした大波に押し流されていた。
ふたりは街中の少々小高い場所に移動することにした。幸いなことに城門は開いている。移動しながらアレックスは美由紀の方を見ていた。そこには最近特に少なくなっていた
満面の笑顔の少女の顔があった。

ほどなくして一度街の近くに戻ってみると、ふたりのこびとの姿が見えない。
「あれ?どこいっちゃったんだろう?」
ふたりからは1cmにも満たない小さな人間である。下手に上陸したら気がつかずに踏み潰しかねない。
「もう、面倒くさいなぁ〜・・・」
真菜はしゃがみこんで街中を探していた。それにしても小さい家、と思って2階建ての家を1軒そっと摘まみ上げる。簡単に土台ごと引き抜かれ、
目の前でパラパラとこびり付いていた土が落ちて行った。
ほんの少しだけ指先に力を加えると、すぐに家全体が悲鳴を上げ始める。ドアが吹き飛び、壁一面に大小様々なひび割れが走った。
さらにもう少し、と思って指先に神経を集中させようとした瞬間に、クシャリ・・・2階建ての家だったものが完全に押し潰され、指の間に挟まっていた。
「う〜ん、力加減が難しいわね。あ・・・いた!」
真菜は街の奥の方に小さなものが動くのを見つけた。目を凝らして良く見てみる。間違いない、アレックスとハウザーだった。
美由紀も真菜の横にしゃがみ込んだ。膝の上で巨大な胸が押し潰され、谷間がグイッと押し付けられていた。
「もう、ダメだよ。見つけられなくなったら大変でしょ!」
まるで母親の目が届かないところで遊んでしまった幼児扱いである。美由紀の拳ひとつほど高い場所にいたふたりから「申し訳ありません」という小さな声が届いた。

「ねぇ、この街って潰しちゃってもいい?」
唐突に真菜が尋ねた。真菜ちゃん、何を言い出すの???という顔で美由紀も目を丸くしている。
「ここってグロイツからも近いでしょ。使われる可能性だってあるでしょ。だったら潰しておいた方がよくない?」
「わかりましたぁ!おふたりのお好きなようにっ!」
聞こえてきたのはハウザーの声である。やはり横でアレックスが、何を言ってるんだ?という顔で目を丸くしていた。
「じゃあ決まりね。ちょっと揺れるよ〜」
真菜は右足を上げると家々が密集しているあたりを踏みつけた。
ズッドォォォォンッ!!!
巨足の回りの何軒かが土台ごと跳ね上げられて叩きつけられる。他の家も爆風で丸ごと吹き飛ばされたり崩壊したりしていた。たったのひと踏みで凄まじい破壊力である。
足を一度海に戻して足跡を観察する。直撃を受けた6軒ほどの家屋が完全に平面となって深さ2mを超える足跡の中に張り付いていた。
アレックスとハウザーは直下型の大地震に足を取られよろめいていた。すぐ近くにいたら間違いなく吹き飛ばされる。身も凍る思いで街の惨状を眺めていた。
「ちょっ・・・真菜ちゃん?なにしてんのぉ?」
これには美由紀も驚いた。突然破壊するとは思わなかったのだ。だが、破壊した当の本人は涼しい顔だった。
「ちょっと本気になったらどうなるんだろうと思ってさ。ここだったらこびともいないから大丈夫でしょ?それに美由紀もやっといた方がいいよ。」
「あ・・・あたし、も?」
「今まで本気で壊したことないでしょ?本気で壊した時にどのくらいになるか分かってないと、いざという時に力加減とかわからないでしょ?」
「いっかいだけ・・・」
「もし、今グロイツが攻めて来たとします。あのふたりのおちびちゃんの命が危険になった時に、仕方が無いからグロイツ兵を潰そうとします。
でも、本気で叩き潰したらすぐ近くにいるふたりは無事に助けられるでしょうか?」
そう言いながら今度は拳を振り下ろした。足の時ほどではないにしろ、かなりの範囲が同じように破壊された。
「ね、この家みたいに吹っ飛んじゃうかも知れないでしょ。だから、本気だとどのくらいかは覚えとかなきゃいけないの。それにここはこびともいないし、
見ているのもこのふたりだけだから、他のこびとをビビらすこともないでしょ?」
美由紀も何となく納得したらしい。「えいっ!」という掛け声と共に、街の中を思い切り踏み潰した。足元で滅茶苦茶に破壊された家並みを見下ろすとちょっと気持ちよかった。
すぐにヤバッ・・・と思ったが・・・

アレックスとハウザーは最早放心状態だった。ふたりの巨人が街の中を無造作に歩き回り、時にはしゃがみ込んで家々を叩き潰している。
アレックスは美由紀が城壁を踏み潰したのも見てはいるが、それとは比べ物にならないほどの恐ろしさだった。
ふたりがいる高台にあったいくつかの建物を除いて、城壁も含めて全てが破壊されるまでほんの数分しかかからなかった。
文字通りの廃墟となった場所に巨人が並んで座り、アレックスとハウザーを見下ろしていた。
「ごめんね。怖くなかった?」
「い・・・や、大丈夫です。」
アレックスは何とか答えたが、ハウザーは茫然自失と言った状態だった。
「このくらいのことは慣れておいてよね。」
真菜はさも当然と言う顔で言ってのけていた。
確かに慣れておく必要はあるだろう。慣れるということはこの女神たちの行動の結果を予測することである。例えば魔獣と対する時に女神様からどれだけ離れていれば
巻き添えにならないかを知ることは、兵士たちの生命を救うためには絶対に必要なことなのだ。ふたりの守備兵長も納得はしていた。
ただ、あまりの凄まじさに更なる恐怖心も同時に植え付けられたことは間違いなかったが。

「そうだ、美由紀。ペンダント貸して」
「え?なんで?」
そう言いながらペンダントを外して真菜に手渡す。
「最近使ってないんでしょ?はい、ハウザーさん、乗って。」
真菜は受け取ったペンダントをふたりのこびとの前に置いた。
「わ、わたしが・・・ですか?」
「そう、先にエミリアだっけ?港町に戻りましょ。」
「へ?あたしたちは?」
今度は美由紀の頭に?マークが山のように浮かんできた。
「せっかくなんだから、もう少しアレックスと一緒にいなさい。」
名指しされたふたりの顔がみるみる赤くなった。
ハウザーがペンダントに入ったのを確認すると、真菜はそれを首から下げた。先端の玉は胸のあたりまで降りていた。
「あたしの胸、美由紀と違ってちっちゃいけど、いいよね。」
真菜はペンダントの鎖を摘まんでハウザーが入っている球を目の前まで上げて言った。
「と、とんでもありません。光栄なことです!」
ハウザーとしてはこれ以上の至福は無いという顔である。ところが、続いてとんでもないことを言ってしまった。
「真菜様、私も、名で呼んで頂きたいのですが・・・」
「名前?クリストフ、だよね。」
真意を洞察したのか、真菜も少し赤くなる。
「いいけど・・・じゃあ、クリスにしようか。呼びやすいし。」
「はいっ!ありがとうございます!」
真菜でも少々気恥ずかしくなるらしい。そそくさとその場を立つとブラウスとスカートを着こみ、ズシン!ズシン!と盛大な地響きを立てながら、さっさと行ってしまった。
その場に取り残された美由紀とアレックスは顔を見合わせる。
「カップル誕生?」
「なのでしょうか・・・」
そう言っているふたりも、また顔を赤くしてしまった。

美由紀は壊滅した街の中で仰向けに寝そべっていた。アレックスは美由紀の胸のすぐ近く、鎖骨の辺りで座っていた。
「今日は振り回しちゃったね。ごめんね。」
「いえ、そんなことはありません。美由紀様がとても楽しそうでしたので。私も・・・楽しかったですし」
「だったらよかったの・・・かな。」
「そうですな。その、真菜様のこと、本当に申し訳ありませんでした。」
「あ〜、真菜ちゃんもホントは怒ってないから大丈夫だよ。でも、ハウザーさんって、真菜ちゃんのこと好きになったんだ。」
「そのようで・・・真菜様の方はどうなのでしょう?」
「わかんないけど、悪くはないと思ってるかもね。前に『芯がしっかりしてればこびとの彼氏でもいい』って言ってたから」
「それならば私が保証します。あの男ほどの者はそうはいますまい。」
「アレックスは?」
「どうですかな。私では美由紀様には不足かも知れません。」
「そんなことないよ〜!あたしがアレックスがいいもん!」
急に美由紀が頭を上げたので、アレックスは転がってしまった。少し柔らかな場所でようやく止まると、彼の頭上には大きなふたつの山がせり上がっていた。
「エッチ・・・」
そうは言ったが、アレックスを胸の谷間から引き戻そうとはしなかった。
「ここにこうしてていいのはアレックスだけだよ。」
美由紀は上体を少し上げると、両手で背中のあたりを何やらやっていた。アレックスの両脇では大きな山がフルフルと揺れ動いている。
と、突然山を覆っていた薄ピンク色の巨大な布が取り払われた。アレックスの驚きは尋常なものでは無かった。
「み・・・美由紀、さまっ!」
「あたしの胸・・・どうかな?」
ダメだ!上を見ることなどできない!だが正面を見ると、真っ赤に染まった巨大な顔が自分をじっと見つめていた。
「ちゃんと見て!アレックスだけなんだから!」
「は・・・い・・・」
見上げると、こんもりと盛り上がった肌色の山だった。それは自重のためか、身体の上下の側が鏡餅のように反り返るような角度でせり上がっており、とても登ることなど出来ない。
唯一の登山口は谷間付近だが、それでもかなりの急斜面になっている。そして、それぞれの山頂には、薄ピンク色に染まった突起物が聳えているのが見えた。
「お美しいです・・・美由紀様・・・」
「ほんと?嬉しい・・・」
美由紀はアレックスを軽く摘まむと、左胸の乳首の横に乗せた。
遥か頭上にあったものが、いきなりアレックスの眼前に出現していた。間違いなく女性の乳首だった。幅は3mはありそうだった。高さは2mに満たない程度だが、
とてもアレックスには抱えきれないほど大きい。
「ねえ、アレックスを感じたいの。いいでしょ?」
ここで引いたら男がすたるというものである。身体全体を使って、巨大な乳首にしがみついた。足元がグラッ!と揺れた。それでもそこから離れずに、普通の女性にするように
愛撫を始めた。たぶん自分に出来る精いっぱいのことだろうと思いながら。
美由紀の息遣いがだんだん荒くなっていた。アレックスの小さな身体が乳首にしがみついている。それを感じるだけでも十分だったが、時折何かをしているのか、
ひどく感じてしまっていたのだ。
美由紀は視界に入っていた高台の家屋を何軒かまとめて掴むと、そのまま右胸に覆い被せ、ゆっくりと右胸を揉み始めた。
バキバキッという破壊音が聞こえてくる。
あたし、なんてことしてるんだろ?でも、気持ちがいい・・・いとも簡単に建物を胸で揉み潰している自分に酔っていたのかもしれない。
だんだん乳首が固くなっていくのをアレックスは感じていた。高さも先ほどよりも遥かに大きくなっている。感じていただいているのか?アレックスは嬉しかった。
そして、さらに乳首にしがみつきながらゆっくりと回り、愛撫を続けていた。

美由紀が3回目に建物を揉み潰した時、小さな悲鳴が聞こえた。ハッと我に返った美由紀が左胸を見ると、いない・・・視線を谷間に下ろしてみる。いた!
アレックスは美由紀自身が起こした余りに大きな揺れに耐えきれず、谷間に転げ落ちてしまっていた。散らばった瓦礫の山の中で、アレックスは打ち身だけで済んだのか
立ち上がって手を振っていた。
「こ、これ以上は、危ない・・・ね・・・」
少々中途半端だが仕方が無い。何よりもアレックスの生命の方が大切だった。美由紀はアレックスを腹の上まで移動させ、胸の回りの瓦礫を払い落した。
「感じちゃった・・・でも、ごめんね。気をつけてはいたんだけど。」
「いえ、私の力不足です。申し訳ありません。」
と言いながら、アレックスは肩で息をしている。体力の差は歴然だった。
「そんなことないよ!アレックスでいっぱい感じちゃったもん!すっごい嬉しかったんだよ!」
美由紀はアレックスを摘まんで口の上に乗せた。もちろんがんばって息は止めている。アレックスも分かったらしい。自分の身長よりも厚い唇に寝そべってキスをした。

エーレンに立ち寄り、こびとたちをからかって遊んでいた真菜を連れてシュナイダーまで戻って来た。そこでアレックスも解放し、ふたりは南へと向かっていった。
「ねえ、真菜ちゃん。ハウザーさんってどう思う?」
「えっ?あっ、いいんじゃない。ちょっとちっちゃ過ぎるけどそれは仕方ないしね。」
「じゃあ、また一緒に来てくれる?」
「う・・・うん、考えとく。」
間違いないな〜、真菜ちゃんもハウザーさんを意識してる。そんなことを思いながら、美由紀は真菜と一緒に自分の世界に戻っていった。
つかの間の休息は、思わぬ副産物を生みだしたようだ。

翌日、保健室にて・・・
「やっぱり真菜ちゃんも大きくなってる?183cmだよ!」
「ねえ、それって・・・美由紀並みに大きくなったら2m超えってこと?そこまでいくとちょっと複雑だなぁ・・・」
そんな美由紀は、ついに170cmを突破していた。もう、間違いなく長身の女子高生である。だが、たったの2週間で20cm以上も成長するのはどう考えても異常だろう。
その異常な成長に興味を持つ者が現れるかも知れない。だが、ふたりはまだそんなことは知る由も無かった。