※この前、飲んだ帰りに、かなりベロベロになって数人のサラリーマン風の男性に無理やりタクシーに乗せられてる女の子を見かけました。
 たぶん飲み会で飲み過ぎたんでしょうね。

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あれっ?いつ眠ったんだっけ?
昨日は、やっと採用された会社で歓迎会をしてくれて、かなり遅い時間まで飲んでて、確か誰かが送ってくれるって言ってたのをタクシーでも拾いますって言って断って、
それから・・・
タクシー、乗ってないよね。ってことは・・・

耳の近くで何やら小さな音がする。ちょっと目を開けるのが怖いなぁ・・・
とりあえず目を瞑ったままで今の体勢を確認してみよう。
たぶん、腹這い、だよね。脚は?ちょっと開き気味に伸ばしてる感じかな。ヤバッ、昨日ってスカートだったじゃん・・・ってことは、たぶん、丸見え?
手は?右手を伸ばして、左手は顔の下・・・か。ってことは顔は横向きだよね?完全に行き倒れというか酔っ払い女が路上で寝ちゃいましたってポーズだなぁ・・・

残る問題は、ただひとつ。。。ここでゆっくりと目を開けてみよう。そう、ゆっくりとね
・・・やっぱり、っていうか、いつも以上だ・・・あ〜、自己嫌悪。飲み過ぎないように気をつけてたんだけどなぁ・・・こりゃ、初日で会社クビかな?

とりあえず起きるかぁ、いつまでも寝てたら迷惑だし。でも、まだいっぱいいるなぁ・・・
目の焦点がだんだんと合ってきて、寝ている自分の目の前のものの姿がはっきりしてきた。広げた左手の甲の上に顔を乗せて横向きになっている私の前には、とても小さな・・・ビル。
たまにこうなる。だいたい油断して眠った時の翌朝はこんな感じ。成人してお酒を飲めるようになってからは、飲み過ぎって自覚した次の日はだいたいこう・・・
だから昨日もセーブして、早く帰ろうと思ったのに・・・主賓だからとかなり大量に飲まされ、あげくのはてがこれだ。
会社の人、ちゃんと帰れたかなぁ。私の身体の下で、のしいかになってました。とかだったらシャレにならないんだけど。

それにしても今日はちょっとでか過ぎじゃないかなぁ。左手の小指の横で傾いてるビル、5階建て以上ありそうだけど、小指の高さとほとんど変わんない。
どれどれ?小指を上げて、軽く乗っけてみた。

クシャ・・・

実にあっけなく潰れてしまった。というか、近くの建物まで巻き添えにしてしまった。その周りの凄く小さなものが動いた気がする。ひょっとして・・・ひと?
そうだったらしい。ついでに車もある。なんで私が寝てるうちに逃げなかったの?というか逃げられなかった?まあ、どっちでもいいか。

ズンッ!

右手の中指を顔のちょっと先にある高層ビルの横に立ててみた。何階建てだろう?中指の長さより少し高いくらい。この事実だけでいつもより全然大きくなっていることがわかる。
だって、いつもはせいぜい高層ビルより少し大きいくらいの背丈だもん。指の長さでこれってことは、いつもの10倍以上は大きくなってるってことよね。
中指を添えたまま、人差し指と親指で挟んで、引き抜いてみた。あれ?弱過ぎるでしょ・・・何で摘まんだところが崩れて、って思ったらその上がポロッと落ちちゃった。
こりゃ力加減も難しいな。なんて思いながら落ちていく高層ビルをただ見ている私。他のビルを巻き添えにして、ぱっこーんって感じで砕け散った。

もういいかぁ。面倒なのでそのまま四つん這いに。何故か服もそのまま大きくなるので恥ずかしくは無い。それより大惨事だなぁ・・・私が寝ていた場所はほとんど木端微塵だ。
特に胸と腰の破壊力は凄まじく、残っている建物はひとつも無い。車も全てペシャンコに潰れて凹んだ道路にへばり付いている。被害規模は10倍なんて生易しいもんじゃなさそう。

ふと、視界の隅に何か動くものが・・・電車だ。線路には被害が無かったのかな?ちゃんと動いてる。
どれどれ?ちょっと手を伸ばして最後尾を摘まんで、なんかメキッていった気がしたけど、まあいいか。そのまま目の前で吊るしてみる。
う〜ん、けっこういっぱい乗ってるなぁ。朝のラッシュかな?・・・ん?朝のラッシュ???
かなり動揺する私。吊るしてた電車をぽろっと落とし、廃墟の中に真っ逆さまに落ちていく。いや、そんなのはどうでもいい。今、何時?

時計を見ると、9時をとっくに過ぎている!入社二日目で遅刻っ!?まさか「飲み過ぎて、しかも、巨大化してしまいまして・・・」なんてのは言い訳になるのかな?
だいたいこの体質がいけないのだ。自分の意志で巨大化した時は自分の意志で小さくなれるからまだいいとして、無意識に巨大化するといつ小さくなるかわからない。
この体質に今まで何回苦労させられたことか。私にも『彼氏』という存在が何人かいた。しかし、一夜を共にした翌日にはひとりの例外も無く逃げ出したか行方不明だ。
ある男などは瓦礫に埋もれているところを助けてあげたのに私の掌の上で泣きながら命乞いをしていたっけ。流石にこれには腹が立ったので思いっきりぶん投げてやった。
違う!そんな思い出に浸っている場合じゃない。会社、行かなきゃ・・・
しかし、今日は今までで最大級のでかさ!!!小さくなるまで待ってたら何時になるかわからない。決めた!とりあえず出社しよう!

私はその場に立ち上がり、ジャケットやスカートに付いている埃を払い落す。埃といってもビルや車や、何をとち狂ってか私の身体をよじ登っている人とかを、バラバラと辺り一面に
巻き散らかす。
で、会社はどっちなんだろう?困った。ここがどこかもわからない・・・あ!そうだ。電車が走ってたってことは駅があるはず。どこの駅かわかれば話は早い!
というわけで、私は足元を見回して駅を探すことにした。
えっと、電車が走ってたのは、あ、線路見っけ!そこから視線を動かしていくと、あった!

ずしぃぃん!!!

一歩進んでしゃがみ込み、駅を右手で掬ってみた。ちょっとばかり踏み潰したみたいだけど、このさい目をつぶって、ここは何駅?う〜ん、小さすぎて全く読めないな〜。
鼻がくっつくぎりぎりまで近付けて・・・読めました。え〜っと、東南北駅?ってことは会社は2駅先だ。このサイズならすぐだね。

よし、じゃあ、しゅっぱ〜・・・・へ?ヘックチュ!!!
あ、ごめんなさ〜い。なんか、人か車を吸いこんじゃったみたいで、くしゃみが・・・ってか、私の左手の上は、跡形も無く吹き飛んでいた。

本当にあっという間、私は会社の最寄り駅を完全に踏み潰して立っている。いや、駅から見ないと道順がわからないから・・・
え〜っと、ここの通りを真っ直ぐ行って、3つ目の信号を左、だよね。というか、3つ目の信号は既に私のパンプスのつま先の下敷きだ。で、左を見下ろすと、あっ!ありました。
見覚えのあるビル。

さて、なんて言い訳しよう。でも、今の私を見れば巨大化しちゃったってことはわかってくれるし。ここは素直に謝った方がよさそうかな?
考えた挙句、出た結論は、その場で正座して謝って誠意を見せる!だ。

ズッズ〜ンッ!!!

膝の下に沢山のビルや車や人が藻屑となって消えた気がする。でも、うちの会社のビルを潰しちゃったらその時点で明日から失業である。だから、気付かなかったことにしよう。
両手の人差し指で会社を挟むようにして三つ指ついて、可愛らしく上品に、でも、ちゃんと反省してる表情で、
「かちょぉ〜、いますかぁ?申し訳ありません。遅刻してしまいましたぁ・・・」
なんて猫なで声で言いながら、ちょっとモジモジしてみる。

あっ、指がビルに触れちゃった。でも、一応原形は保っているから大丈夫かな?それとも、ビルを手に乗っけてちゃんと課長の目を見て謝った方がいいのかな?
・・・その時、メールだ。
ジャケットのポケットから携帯を取り出すと、課長からのメールが入っていた。
『遅刻のことは気にしなくていいから・・・頼むから、動かないでくれっ!』
よかったぁ、クビは免れたみたい。

それ以来、会社の飲み会では私はお酒を飲ませてもらえなくなった。。。まあ、仕方ないか・・・