おとなのおつかい

今回はかおりちゃん視点のお話になります。

私は今とても気分がいい。この短期間の間に優しいお姉さんと、なんと可愛い妹までできたのだ。
もちろん血は繋がっていないがそんなことはどうでもいい。今の私の願いはこの仲良し三姉妹がいつまでも仲良く一緒にいられることだ。

なんだけど・・・最近ちょっとめぐみちゃんがしつこすぎて若干ウザく感じてるんだよね。慕ってくれるのは凄く嬉しいんだけど、なんて言ったらいいのかな。
ひとりで考えごととかのんびりしたりとかしたい時も四六時中まとわりついてくるから、たまにはひとりになりたいなって思って・・・さおりおねえさんに相談しました。
「今までがひとりの時が多かったからね~。わかった。めぐみちゃんが傷つかないいい方法考えるね。」
「ありがとう。でも、わがままなのかな・・・」
「そんなことないよ。環境が急に変わったからね。それに私に甘えたくてもめぐみちゃんがいるからね。たまにはリフレッシュしないと。」
「うん・・・さおりおねえさん。ちょっと甘えていい?」
「いいよ~。めぐみちゃん、もう寝てるでしょ?今がチャンスだから。でも手加減してね。かおりちゃん、また大きくなったでしょ?」
あ、バレてた。。。おねえさんに内緒でこっそり服とかを作り直してもらったんだけど、その時に測ったら9m近くまで大きくなっていた。
「ごめんなさい。。。」
「謝らなくていいんだよ。成長期だもんね。」
さおりおねえさんの部屋で床に寝転がって話をしていたので、私は無言のままおねえさんに覆いかぶさった。
本気で身体をあずけたら凄く重いだろうから、顔だけおねえさんの可愛らしい胸の上に乗せて顔を上げると、おねえさんがほほ笑んでくれていた。
「かおりちゃんさ、胸も大きくなってきた?かなり重いんだけど。」
「うん、たぶん、6倍Fカップくらいかも。。。」
「凄いねぇ。普通に小学生でFカップでもなかなかいないのにね。こりゃ完全敗北も近いかな。」
笑顔でそう言われながら、大きさと強さ以外だったらまだまだおねえさんには勝てないよ。と思いながらしばらくの間おねえさんを占領しちゃった。

「え~っ!?めぐみも一緒に行きたいよ~!」
「かおりちゃんには大人の人しかできないおつかいをお願いしたから、めぐみちゃんは私とお留守番ね。」
「めぐみだっておっきいじゃん!かおりおねえちゃんの次におっきいんだよっ!」
「おっきいのと大人とはちょっと違うかなぁ。めぐみちゃんも大人になったなって思ったらおつかいに行かせてあげるよ。」
「む~っ・・・どうしたら大人になれるの?」
「そうだねぇ。最初はおねえさんの言うことをちゃんと守れることかな。」
めぐみちゃんがハッとした顔になった。この前私とふたりで行ったおつかいのことを思い出したみたい。
あの時は、市役所におねえさんの書いた手紙を届けに行っただけなんだけど、「街で遊ぶわけじゃないからこびとを潰したり怖がらせたりしちゃダメだよ。」って言われたのを忘れて
途中で逃げ回っているこびとを追いかけまわして蹴っ飛ばしたり、車を潰したりして遊んじゃったんだよね。
私が、「さおりおねえさんに言われたこと忘れちゃった?」って言ったらおとなしくなったけど。
めぐみちゃんはしばらく黙ったままだったけど、
「わかった。今日はお留守番する。さおりおねえちゃんの言うこともちゃんと聞くから、今度は一緒に行かせてね。」
「わかった。めぐみちゃん偉いね~。」
さおりおねえさんがしゃがんでいるめぐみちゃんの頭を背伸びしてなでなでしてあげていた。

山を下りて街の中に出ると、みんなよくある反応をする。私たちがなんでこの街にいるかを知っている人はたまに挨拶をしてくれるから「こんにちは」ってちゃんと挨拶するけど、ほとんどの人は逃げ出してしまう。
でもこの程度で怒っていたらこの街なんかあっという間に全滅しちゃうな。そう思って大通りの真ん中をゆっくりと歩き出す。歩道なんか歩いたらこびとを蹴っ飛ばしたり踏み潰しちゃうからね。それに車も避けてくれるし。
グシャッ・・・あ、踏んじゃった。白い車の前の部分を私のでか足が踏み潰していた。壊れたタイヤがコロコロと転がっていく。でも、屋根を踏んだわけじゃないからこびとは潰れて無さそう。
「ごめんね。」
それだけ言って、車から足をどかして、車は邪魔になるからそのまま横に移動させる。でも、軽いなぁ。また強くなっちゃったのかな。こびとの車だったら大きくならなくても余裕で潰せると思う。

大きな橋をてくてく渡りながら、こうやってのんびりお散歩気分で歩くのって久しぶりだなぁ、って思っていると、橋の向こうの様子がなんか違って感じた。
そっか、もう隣り街だから守ってあげる約束とかしてないところなんだ。出かける前にさおりおねえさんに言われたことを思い出した。
『今日は軍の奴らに会いに行ってもらうんだけど、ちょっと危険かもしれないの。特にこの街を出たら注意してね。危険だと思ったら迷わず巨大化すること。』
私は「大丈夫だよ。変なのがいたらみんなやっつけちゃうから。」って答えたんだけど、実は私ひとりで大丈夫かちょっとだけ不安だったりする。
でも、せっかくおねえさんが『ゆっくりのんびり行ってくるんだよ。それに、かおりちゃんならしっかりしてるから大丈夫だよ。』って言ってくれたからすごく嬉しかったし、ちょっとは頑張らないとね。

あれ、何だろう?向こうの方に人がいっぱい集まっているように見える。近づいてみるとやっぱり人だった。何やってるんだろう?とその少し先を見てみると交通事故みたい。
こういう時はこの大きな身体は便利だ。だって、みんな私の膝にも届かないくらい小さいから、人がいっぱいいてもその先が簡単に見えるのだ。
そこでは、ダンプカーが横倒しになって、それをたくさんの人が持ち上げようとしているところだった。
なんか一生懸命だな、と思ったら、車がダンプカーの下敷きになっていた。あんなに一生懸命ってことは中にまだ人がいるのかな?どうしよう、助けてあげようかな。
うん、たまには優しいところも見せてあげよう。
「ちょっとどいて。」
私の目の前にいた人は驚いて腰を抜かしていた。尻もちをついて私を見上げて「あ・・・わ、わ・・・」しか言えないみたい。他の人も私に気づいたみたいで、すぐに道を空けてくれた。
「何してんの?」
ダンプカーを必死になって持ち上げようとしていた人も私を見て驚いている。まあ、いつものことではあるけど、あまりいい気分じゃない。やっぱやめようかな。と思ったその時だ。誰かが私の左足に掴まっていた。
「た・・・助けて、ください・・・こどもが・・・こどもが・・・」
女の人が泣きながら訴えかけていた。下敷きになった車の中に子供がいるんだ。でも生きてるのかな。でも助けてあげようかなって思った。
「わかった。ちょっと待っててね。」
私は横倒しになっているダンプカーの荷台に両手をかけて力を入れてみる。動きそうな感じだ。確か、ダンプカーって10tくらいって聞いたことがある。私の体重より少し重いから持ち上げるのは大変だけど起こすだけだったら出来そうだ。
おっきくならなくても大丈夫かな。そう思って、そのまましゃがんで態勢を立て直して、ダンプカーの向こうの人に「そっちにひっくり返すから危ないよ。」と声をかけて、「せーのっ!」立ち上がりながらその勢いで両手を上に上げた。
ドォォォンッ! ダンプカーが浮き上がったかと思うと一気にそのまま上側にあったタイヤが地面に落下していった。だけど、勢いがよすぎたのか反対側に傾いた次の瞬間にはドッドォォォンッ!と反対向きに横転してしまう。
10人以上の男性が必死に動かそうとしてもビクともしなかった大型車が、たったひとりの女の子によってひっくり返されたものだから、みんなビックリしたみたい。やっぱおっきくならなくてよかった。
おぉ~っ!というどよめきと歓声、その中から拍手の音も聞こえてくる。だが、車に駆け寄った人の「泣き声が聞こえるぞっ!」の声にちょっと照れ臭かった私は我に返り、潰れた車に群がった人たちを、「邪魔!」と片手で軽く薙ぎ払った。
軽すぎでしょ、本気で退かさなくてよかったとちょっと安心して車を見ると屋根がペシャンコになっているけど、ドアの半分はまだ残っている。隙間に入ってるのかな?そう思って屋根に指をかけ、ペリペリっと引きはがしたら、
いた、前の席と後ろの席の間にふたりの小さな女の子が挟まっていた。
「これならアンタたちでも出せるでしょ。」
私が立ち上がると、拍手が一層大きくなり、最初に足にしがみついてきた人がふたりの小さな女の子を抱きかかえて「ありがとうございます!」と泣きながら言ってくれて、ちょっといい気分になっちゃった。
いつもはこびとなんかおもちゃくらいにしか感じてないんだけど、たまには助けてあげるのも悪くないなって思ったんだ。

拍手喝さいの中私がそこから離れようとすると、少し先に見覚えのある白黒の車が止まっていた。パトカーだ。パトカーにはいい思い出は無いんだけど・・・
たぶん、ちょっとムッとした顔になってたと思う。無視しようと思ってズンズンと近づいていくと、制服姿のおまわりさんがふたり、両手を大きく振っている。仕方がないなぁ、と思ってちょっと怖い顔してしゃがんで
「なんか用ですか?」と言ってやったら、
「いえ、あの、人命救助、いただいて、ありがとうございました。」
な~んだ、お礼言いたかったの?と思ったが、
「あの、失礼ですが、これからどちらへ行かれるのですか?」
言い方が凄く丁寧だからちゃんと答えてあげた。でも、まだ信用してないからね。
ひとりのおまわりさんがパトカーに戻ってどこかに連絡しているみたいだ。戻ってきて、軍の基地跡までパトカーで先導してくれると言ったので、お願いすることにした。
でも、向こうの山を越えたらもうすぐなんだけどね。
山に近づくにつれて、何だか変な形の山だなって思ったんだけど、あの辺って・・・ああ、私たちがこの前踏み潰したところかもしれない。その後で戦車部隊を踏み潰して、基地を滅茶苦茶にしたんだった。
1000倍くらいだとあんなになっちゃうんだ。遊んでるときはそんなに感じなかったけど、怪獣なんてもんじゃないよね。

基地の近くは滅茶苦茶になっていた。あれから1ヶ月くらいしか経ったけど全然直っていない。ひょっとして壊しすぎたから直す気無くなっちゃったのかな?
「どうしたの?まだ向こうだよ。」
基地の大分手前でパトカーが止まったのでしゃがんで聞いてみた。
「いえ、あの・・・車では通れ無さそうで・・・」
よく見ると道路が完全に切れている。その先は崖みたいだ。ひょっとしてこれって・・・崖の下を覗き込んでみると、100mくらいかな、地面が凹んでいる。その下にはなんか色々地面に貼りついてるように見える。
あ、たぶん、私かめぐみちゃんの足跡だ。1000倍の私は足の大きさも1000倍になるから、1km以上の超でか足なのだ。確かにどこを歩いても足跡ができることは知っていたけど、絶対怖がるからだまっていよう。
そして足跡の周りは色々なものが転がっていてとても車が通れるとは思えない。
「そうだね。もうすぐそこだし、ここまででいいよ。ありがと。」
それだけ言うと、私はズンズンと歩き出した。
しばらくすると滅茶苦茶になっている基地の中にヘリコプターが3機くらい止まっているのが見えた。きっとあそこだね。

足元には軍隊の人が3人、周りには銃を構えた兵隊さんが30人くらい勢ぞろいしていた。しかもどっから見ても銃口は私の方を向いている。さおりおねえさんが『最初が肝心だからね。』って言ってたのを思い出した。
「ねえ、今日は話し合いなんだよね。それとも遊んで欲しいの?だったらせめて戦車くらい無いとつまんないんだけど。」
両足を少し広げて両手を腰にあてて悠然と見下ろしてやったら、ひとりの男の人が後ろの兵隊さんに何か言うと、みんな銃を下に降ろした。フフン、私の威嚇も効果があったみたい。
私はしゃがんでショートパンツのお尻のポケットからさおりおねえさんから預かった小さな手紙を出して一番偉そうな男の人に渡してやった。
「中身は私も知ってるから、返事だけしてくれればいいよ。」
手紙の中身はこうだ。軍の特殊部隊の攻撃をやめさせること。そうしたら、街で遊ぶのは月1回くらいにしてあげる。ということだ。別に何回来ても返り討ちにするからいいんだけど、まだまだ子供のめぐみちゃんもいるから、
夜はのんびり過ごしたいよね。というさおりおねえさんの提案なのだ。
軍の人たちが何やら話している。小声だから私には聞こえないけど、なんか揉めてるみたい。
「あの・・・せめてどこに行くかを遊ぶ前に教えて欲しいのですが。」
「どのくらい前?」
またざわざわと始まった。ひとりじゃ決められないんだね。大人ってめんどくさいなぁ。
「1週間前でいかがでしょうか?」
「いっしゅうかん!?長すぎ!遊ぶ時ってだいたいその時の気分で決めるんだよね。そうだなぁ、前の日だったらいいよ。1日くらいなら我慢できると思うから。でも、それ以上はダメ!」
周りの兵隊さんたちの銃口が、また私に向いたのがわかった。
「ふぅん、それで脅してるつもり?いいよ、撃ってみなよ。そしたらアンタたちと何も約束しなくてもいいもんね。」
兵隊さんが困っている。やがて、一番偉そうな人が後ろに向かって何か言うと、またみんな銃を下に下げた。
その時だった。ヘリコプターからひとりの兵隊さんが走ってきて、その一番偉そうな人に何か耳打ちしている。何かあったのかな?
「ちょっと持ち帰らせていただいてもいいですか。1日で避難が終わるか確認しないと・・・」
「別にいいけど、待ってる間に特殊部隊が攻撃して来たらこの約束は無しだから。それと、私たちも今まで通りその日の気分で遊びに行くから。それでいいよね。」
「そ・・・それは・・・緊急事態が発生したので、すぐには回答できないのです。わかっていただけませんか。」
さおりおねえさんが、相手はかおりちゃんのやさしさにつけ込んでくるかも知れないから気を付けてね。と言ってたけど、本当にその通りだ。さおりおねえさんって、超能力者なの?
巨大化できるって超能力の一種なのかな?だったら私やめぐみちゃんも?それはいいけど、ここはNoだよね。
「ダメ。その緊急事態の方が私たちが遊びまわるより大変なんでしょ?だったら別に私たちがいつどこで遊んでもいいんじゃない?」
一番偉い人はもの凄く渋い顔をしていたが、何か決心した様に私を見上げてきた。
「実は、あなたたちと同じような巨大な女性が向こうの街で暴れているのです。そちらに急行して軍の指揮を執らなければならないので、時間が・・・」
そういうことか、大きくなれるのって私たちだけじゃないもんね。何か閃いたかもしれない。
「ねえ、その巨大な女の人ってどのくらい大きいの?」
「身長約180~200m の女子高生風の女性がふたりです。」
けっこう素直に教えてくれた。100倍くらいかな?だったら、私が100倍になればふたりくらいなら楽勝だね。
「なんだ、ちっちゃいじゃん。じゃあさ、その1日前の条件でいいんだったら私がやっつけに行ってあげるよ。どうせ軍隊じゃ勝ち目ないでしょ?」
おじさんたちがざわめくのがわかる。でも、意外と早く結論が出たみたいだ。
「本当に、行っていただけるのですか?1日前の条件も呑むからお願いしたい。まだ全然避難が終わっていないのです。」
面倒なことにならなくてよかったな。1日くらいだったらめぐみちゃんも我慢できると思うし。
「じゃあ決まりね。邪魔だから軍隊は行かなくていいから。それとここでおっきくなって行くから、邪魔しないでね。」
「わ・・・わかりました。できればなるべく破壊は少なめに・・・お願いできますか。」
「足がでかすぎるから広い道路でもはみ出しちゃうんだよね。でも、約束はできないけど努力はするね。まあ、このおっきくて強いかおりちゃんに任せなさい!」
私は軍隊の人たちから少し離れると、100倍の大きさに巨大化した。

「こんなに近くで見たことないでしょ?」
私はそのまま四つん這いになって軍隊の人たちを見下ろしてみた。やっぱり小さいな、豆粒、いやそれ以下だ。ちょっと悪戯したくなったので、そのままゆっくりと寝そべった。
自慢の6倍Fカップが600倍Fカップになって、おじさんたちの前にあるビルや車の残骸を押し潰す。少し左右に揺すれば何もかもが粉々にすり潰されちゃう。
「こびとだったら死体も残んないよ。凄いでしょ。」
頬杖をついて悠然と見下ろす私。ちょっと優越感、と思ったら兵隊さんたちがまた銃を向けてきた。懲りないなぁ。
「撃ってもいいよ。潰さないからさ。」
そうは言ってみたけど誰も撃ってこない。怖いのかな。でも、私みたいな可愛い女の子に攻撃しようとしたらどんな目に遭うか。ちょっとわからせてあげよう。
私は人差し指を伸ばしてひとりの一番大きそうな兵隊さんに狙いを定めて軽く押し付けてやった。ちょっとでも力加減を間違えちゃったら潰れちゃうから慎重にしなきゃ。
「ほら、早く撃たないとこの人ペチャンコになっちゃうよ。」
やっと攻撃してくれたみたいなんだけど、本当に撃ってる?全然何も感じないんだけど。
もういいや、と思って指を退かしてあげる。押し付けられていた人はぐったりしている感じだった。ちょっと指乗っけただけなんだけどね。やっぱり弱いなぁ。
「たったの100倍でも全然勝てないんだから、あんまり生意気なことしちゃダメだぞ。」
私はゆっくりと立ち上がって、Tシャツの汚れをわざとらしく落として、
「すぐ終わらせてあげるね。」
と言って、おっきな女の人が暴れている街に向かって歩き始めた。

目的の街まではここから50kmくらい離れているらしい。私にとっては100mくらいかな。急げば1分かからないけどお願いされちゃったからゆっくり歩く。
でも、やっぱり私のでか足は大通りに全く収まっていないので、街路樹はもちろん、道路沿いの建物も手前の部分は踏み潰してしまう。
一応車はつま先で横に避けたりしてあげてるし、私にとってもけっこう面倒なのだ。このくらいの破壊は仕方が無いよね。
ふたりの女の人が街の中で遊んでいるのが見えてきたので元の大きさに戻って近づいていった。だって、自分たちよりでかい女が近づいて来たら警戒するでしょ?
逃げ出したりしたら被害がもっと広がっちゃうし。そう思ったのだ。

やっぱり100倍くらいかな。足元の10階建てのビルは膝まで届かないくらいしかないし。
まだ近くを逃げ回っている人がいるみたいだけど、逃げ終わるまで待ってらんないんだよね。そんなわけで、私もまた100倍に大きくなった。
「楽しそうだね。」
それは驚くよね。ふたりとも私の膝を見上げるくらい小さい。ひとりの人なんか持っていたバスをポロッと落として、口をあんぐりしていた。
「あ・・・あんた、何よっ!」
私はしゃがみながらふたりに手を伸ばしていった。
「ここってさ、こんど私たちが遊ぼうとしてた場所なんだよね。だから、アンタたちは邪魔なの。」
片手にひとりずつ掴んで目の前まで上げる。制服姿の女子高生のおねえさんかぁ。でも、さおりおねえさんと違って華奢だな。力入れたら簡単に壊れちゃいそう。
「ちょ・・・ちょっとっ!離しなさいよっ!」
左手に掴んでいた人が一生懸命逃げ出そうとしているみたい。全然弱いんだけどね。でも、ウザいから少しだけ握る力を強くしたら・・・パキポキッ・・・あれ?ぐったりしちゃった。
マジで?普段の大きさの時のこびとと変わんないじゃん。右手の女の人はそれを見てもおとなしいままだ。震えてる感じもしないし、怖くないのかな。

港の方に移動して、倉庫を何個かお尻で潰して座ってあぐらをかいた真ん中にふたりを転がした。こうすれば長い脚に邪魔されて逃げるのも大変になる。
「逃げようとしたら潰すからね。」
と言って脅すのも忘れない。左手で少し潰しちゃった方の人も気が付いたようだ。どうも腕の骨とあばら骨が何本か折れちゃったみたいで、「痛い痛い」と転がりまわって中にあった倉庫やビルを潰してしまう。
「あんまり暴れないでよ。壊れちゃうじゃん。」
人差し指で軽く胸のあたりを押し付けると、転がることができなくなった。
「ウフフ、可愛いおっぱいだね。私の胸はどうかな?」
軽く摘まんで胸の上に乗せてみた。さおりおねえさんは無理だけど普通の人なら乗せられるんだ。女の人しか乗せないけどね。
「どう?気持ちいい?」
「いいわけないでしょ!なんでこんなことすんのよっ!あたしたち、遊んでただけでしょ!アンタたちだって暴れるじゃない!」
なんか少し元気になったみたい。そうなんだけどね。軍隊の人と約束しちゃったからって言わない方がいいよね。
「だから~、ここは今度私たちが遊ぶの。だから、遊ばないで欲しいんだけど。」
「そんなの・・・勝手すぎるじゃん!」
「そう、勝手だよ。でも、勝手なことしてほしくないんだったらおねえさんももっと大きくなれば?」
「できるわけ、ないでしょ!」
やっぱり100倍が限界なんだ。今まで見た人で一番大きいのってめぐみちゃんだもんな。さおりおねえさんももうちょっと大きくなれるって言ってたし、私もまだ全然大きくなれるし。
でも、私たちより大きな人が出てきたら私たちもやられちゃうのかな?それは嫌だな~。
「じゃあ言うこと聞いた方がいいと思うよ。私、もっと大きくなれるから、おねえさんたちでも余裕で指先でプチってしちゃうよ。見てみたい?」
胸に乗せたおねえさんが、私を見上げてぞっとしたような顔を見せた。

下に置いたままのおねえさんはずいぶん静かだな。そう思って下を見るとそれに気が付いたのか顔を上げて私の顔をじっと見つめていた。
「もう、帰るから。それでいいでしょ。あなたたちの邪魔はしないから。」
ずいぶん素直だなぁ。こっちのおねえさんとは大違い。
「そう、だったら帰してあげる。このおねえさん、連れて帰れる?」
「大丈夫よ。」
そう言ったとたん、おねえさんの身体がどんどん大きくなっていった。「え?」座っている私が見上げて、いや、今の大きさで立ってもたぶん見上げるくらい大きい。
「おねえさん、おっきくなれるんだ!」
「あなただってそうでしょ。こんなに大きくなってケンカなんかしたら、こんな街なんにもなくなっちゃうよ。その子、こっちに渡して。」
「こっちのおねえさんもまだ大きくなれるの?」
私はおねえさんに胸に乗せたおねえさんを渡して聞いてみた。
「この子はこれが限界。だからもう許してあげて。」
それはいいんだけど、なんでさっきおっきくなんなかったんだろう?ちょっと聞いてみた。
「あなた最初から私たちを潰す気無かったでしょ。この子を握り潰しそうになった時に顔にそう書いてあったわよ。」
「そうなんだ。でもなんで?」
「この子に付き合って遊びに来たけど、別に誰かと争うつもりで来たわけじゃないから。殺されないんだったら謝って帰った方が楽じゃない。そんな風に考える人もいるの。あなたも大人になったら少しわかるかもね。」
そういうもんなのかな。よくわかんないや。
この近くに来た時にこびとの姿は見えなかったから、おねえさんが港沿いを踏み潰しながら帰っていく姿を見ても別に止めなかった。

しばらく海の方を眺めてぼうっとしていると、パタパタという小さな音が近づいてきた。そっちを見るとヘリコプターが近づいてくるのが見える。さっきの軍隊の人かな?
そう思って左手を差し出して、手の上に着陸するように言う。
掌の半分もない大きさのヘリコプターから、こびとが何人か降りてきた。
「終わったよ。もうここには来ないと思うよ。」
「しかし、あれでは他の街が被害を受けるかもしれない。今からでもいいので、その・・・処分してもらえないだろうか。」
なにそれ?お礼も言わないでそれなの?だいたい、処分って何よ!空いている右手でヘリコプターを摘まみ上げたんだけど、カチンと来てたので真ん中を潰してしまった。
「処分って何よ!おっきい人のことなんだと思ってるの?」
「いや・・・あなたのことではなくて・・・彼女たちもまた他の街で遊んでしまうのではと・・・そうならないように・・・」
「わかった。処分してあげる。その代わり明日はこびとが一番多い街に遊びにいくから。みんなこのヘリコプターみたいに処分してあげるよ。」
私は右手の上に半分潰れたヘリコプターを落として、そのままぎゅっと握り潰した。中に何匹かこびとがいたみたいだけど、そんなこと知らない!
ん?ほっぺたに何か当たっているみたいな感じがする。左手の上から攻撃しているんだ。相変わらず弱すぎだけど。
私は握り潰したヘリコプターをわざと街の方に投げ捨てて、そのまま攻撃しているこびとを一匹ずつ指先で弾き飛ばす。一匹だけ残した一番偉いこびとは、尻もちをついてガタガタと震えている。
「お前は今は生かしといてあげる。約束通り明日遊びに行く街を教えたんだからちゃんと伝えてもらわないとね。」
私が立ち上がろうとした時、やっとそのこびとの声が聞こえた。
「もっ・・・申し訳ありませんっ!も、もう・・・二度と言いませんから、どうか、首都に行くことだけはやめてくださいっ!お願いいたしますっ!」
小さすぎてよく見えなかったけど、なんか土下座して謝っているようにも見えた。

生き残りのこびとを足元に転がして、「この大きさで帰るから。ちゃんと避難させときない。」と言って、倉庫やビルを踏み潰しながら私は帰ることにした。
たぶんあのままあのこびとと話していたらたぶん私があの街を滅茶苦茶にしちゃったと思う。
ああ、でも、あの子供を助けてあげた街はきっと避難してないだろうな。真ん中通ったら近いんだけど、今日は海沿いを歩いて帰ろうと思った。

「ただいま~!」
「かおりおねえちゃんっ!おかえり~!」
意外と早く着いちゃったけど、めぐみちゃんが私以上の元気で出迎えてくれた。やっぱり可愛い。今日連れて行ってあげられなくてごめんね。でも、あれ?さおりおねえさんは?めぐみちゃんに聞くと、
「ちょっと疲れちゃったってお部屋で寝てる。」
「ん?めぐみちゃんさ、お留守番の間何してたの?」
「え~っとね、山でさおりおねえさんと鬼ごっこしたり、街にお買い物に行ったり。そうだ、今日は誰もこびと潰してないよっ!」
「そう、偉かったね。」
「うん、それから一緒にお昼食べて、おすもうごっこしたの。」
おすもうごっこ?たまにめぐみちゃんから挑戦を受けてしてあげる奴だ。まさか、それ、さおりおねえさんとやったの?めぐみちゃんの怪力は私も舌を巻くほどで、間違いなく私が9歳の時より強い。
しかもこの前は私がけしかけたとはいえ、さおりおねえさんを抱きしめて気絶させてしまったほどだ。
「めぐみもさおりおねえちゃんが弱いのわかってるから、本気出さなかったんだよ。でも、すっごく疲れたみたいで・・・寝ちゃったの。」
これは当分ひとりでは出かけられないなぁ。。。そう思いながらさおりおねえさんの様子を見に行くのだった。

結局さおりおねえさんは朝まで起きなかった。私も寝ちゃったので、起きてきたさおりおねえさんに昨日のことを報告する。もちろん、めぐみちゃんも一緒に聞いていた。
だって、仲間外れにしたら絶対すねちゃうから。
「そう、一応交渉成立したのね。ありがとね。」
「でも、軍隊の人潰しちゃったけど、大丈夫かなぁ。」
「ああそれ?大丈夫よ。向こうも私以上に怒らせちゃいけないって思い知ったみたいだし。」
「え?それってどういう・・・」
「さっき連絡があってね。首都だけは勘弁してくださいって、泣き声だったわよ。だから、『今度特殊部隊が来たら首都に遊びに行くから。』って言っておいてやったわ。」
さおりお姉さんの顔、いたずらした子供みたいな顔になっててすごく可愛い。
「じゃあ、夜はぐっすり眠れますね。」
でも、めぐみちゃんの反応は、
「え~っ!?一日待つの?めぐみ、我慢できるか自信ないよ。。。」
「やりたいことを我慢するのも大人になることなの。めぐみちゃんならできるよ。その代わり、遊ぶときは思いっきり遊ぼうね。」
「ほんと?じゃあ、頑張って我慢する。」
さすがはさおりおねえさんだなぁ。私だったらすぐ怒っちゃいそう。でも、めぐみちゃんの次のひと言でさおりおねえさんも絶句してしまった。
「じゃあさ、こびとの街でまたおすもうごっこしようね。さおりおねえちゃんが一生懸命押してる顔ってすっごく可愛いんだよ!」
「さおりおねえさん、本気でも全然ダメだったの?」
「もうぜ~んぜん、ビクともしないのよ。めぐみちゃんだったらクマが相手でも巨大化なしで楽勝だね。」
さおりおねえさんは複雑な顔でそう答えた。その横からめぐみちゃんが茶化してくる。
「クマさん可愛いもんね~。でも、かおりおねえちゃんはゾウさんがぶつかっても平気だよね。」
いや・・・それはどうかなぁ。でも、おっきくならなくてもダンプカーをひっくり返せたことは言わないでおこう。と思った。