公園管理官

一美は巨人の女の子である。いや、男の巨人はいないので、巨人であると言えば、女の子を意味する。
巨人は15歳で成人すると、そのほとんどが巨躯を生かして軍か警察組織に所属することになる。
稀に建設会社など民間企業で働く者もいるが、それこそ数年にひとりいるかいないか程度である。
だが、一美はそのどれでもない仕事に、周囲の反対を無視してそれこそ強引に就いてしまった。

『公園管理官』
これが一美の仕事である。公園管理官というのは、全国の国立公園や国有緑地などにいる公園そのものの管理者であり、
広い意味においては公務員なので、軍人や警察官と大きく変わるものではない。だが、一美が管轄する公園はあまりにも広大だった。
幅300km以上、奥行き50km以上の広大な範囲の自然公園は全国屈指の広さを誇り、通常であれば普通の人間が数百人以上で
管理するところを、自ら進んで申し出たとはいえ一美と一美が連れてくる非常勤のアルバイト数人で行うのだ。

この日も朝いつもの時間に起きて、軽く身支度を整える。専用のスマホを開いて今日のスケジュールを確認する。
「あ、今日だっけ?巨人の子たちの遠足。9時には着くのかな?」
学校名は自分も通っていた小学校だ。なんだかその頃が懐かしくなる。
「あの時は、こんなになるとは考えてもなかったよなぁ。。。」
そんな独り言を言いながら、遠足のコースにしたがって遠隔でこびと立ち入り禁止柵の操作を行う。小学生と言えども立派な巨人である。
下手にこびとと接触すればけが人や死人が出ることは間違い無いが、それはそれで楽しいとは思わない子もいるだろうから、
不測の事態はなるべく避けるようにしている。そう思いながら準備を続けた。

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一美は部屋の一角にある窓辺の手前に座って、公園を眺めていた。
そろそろかな?あ、来た来た。5、6年生だから大人とほとんど変わらないと思うけどみんな可愛いなぁ。
「おはようございます。」
脅かさないようになるべく小声でそっと声をかける。。。が、案の定というか全員が顔を上げてその場で固まってしまった。

全員で30名ほどの小学高学年の女の子と引率のふたりの先生は、世界を分断しているのではないかと思ってしまうほどの高い壁の横から公園に到着した。
入り口からそのまま入って、公園管理官のお姉さんの話を聞いて、そこから200kmほどハイキングを楽しみ、廃墟と化した都市の近くで昼食をとり、
それからしばらく自由探索(都市の破壊もOK)して、帰路につくというスケジュールだ。
身長178mと6年生を含めても一番大きな5年生の女の子が隣を歩いている友達に話しかける。
「ねえ、ご飯食べたらこびとのいる街に遊びに行かない?公園の人も全員を見れないでしょ。」
「え~、だめだよ~。勝手にこびとの街に行くの禁止じゃん。それに、公園のお姉さんちょーでっかいって話だよ。」
「そんなのウワサでしょ?せーぜーあたしくらいなんじゃないの?」
その時だった。『おはようございます~』という声が頭上から轟いてきたのだ。
「は・・・わ・・・で・・・かす・・・ぎ・・・」
その女の子は顔を上げて見えたものを指さしたまま、その場に腰を抜かしてしまった。
壁の横を通り抜けた瞬間に、巨人である自分たちなど蟻か蚤にしか見えないほどの大きさの女性がその辺りの山など遠く及ばないほどの爆乳を窓辺に乗せ、
頬杖をついて見下ろしていたのだ。驚くなと言う方が無理だった。

「えっとぉ、驚いちゃったかな?」
一美にとっては初対面の場合はだいたいこんなリアクションなので慣れているが、向こうはそうでもないようだ。
それにしても出身小学校なんだからこの程度の情報は持っててほしかったんだけど・・・まあいいや、落ち着いてきたかな。
「はじめまして。公園管理官の水鶏一美です。ちょっとみんなよりおっきいけどよろしくね。」
いやいや、ちょっとどころじゃないだろう。一美は身長188kmにもなる超巨人なのだ。100倍クラスの巨人など、2mm程度にしか見えない。
シャレにならない冗談を交えた挨拶を済ませたところで、注意事項だ。
「注意事項は特にありません。なるべく森の中には入らないようにしてください。小さな木なのであなたたちが踏んでも折れちゃいますからね。それと、」
それと?女子児童たちの目は、超巨人のお姉さんが何かを摘まんで伸ばしている右手にくぎ付けだ。それが幅50kmの公園をあっさりと越え、
その向こう側の街に降ろされる。そしてゆっくりと右腕を戻していった。
「公園を出て街に行かないようにしてくださいね。お姉さんの許可なく勝手に街に入ったら捕まえちゃいますからね。」
そう言って右手で摘まんでいた細長いもの、ピンセットとその先に摘ままれたて手足をバタバタさせている100倍クラスの女性を見せつけて、
そのままピンセットを戻してしまった。
全員が、さっきの最長身の女の子も含めて顔面蒼白になったことは言うまでもなかった。

小学生たちがゆっくりと散策しながら進んでいるのを一美は頬杖をついて眺めていた。途中コースが3000m級の山に向かう方に枝分かれしている場所で
何とか慣れてきたひとりの子から質問が来た。
「あの~、山の方に行くんですか?」
「そうよ。あなたたちから見ても丘みたいな感じでしょ?」
「そうですけど、まっすぐ行った方が速いような気が。。。」
「そうだけど、たった200kmなんかあなたたちがゆっくり歩いても1時間もかかんないじゃない。それに、山の上からの眺めは綺麗よ。」
綺麗な景色が見られるのなら、と全員が山を登り始めた。普通の巨人にとっても3000m程度の標高は大した高さではない。しかも山道が整っていて歩きやすい。
本当にピクニック気分で全員が山頂へ到着した。
「うわっ!きれ~い!」
ふたつほどの山並みの向こうに小さな人間たちが住む街が見える。子供たちから見ればおもちゃにしか見えない大小様々な建物も、これだけたくさんあると
とても美しい街並みに見える。その先には港があり、何隻かの船がゆっくりと動いているのも見ることができた。

ひとりの女の子が何かに気づいたように振り返った。
「あの・・・お姉さんから見るともっと高い場所から見えるんですよね。」
「え?まあ、そうだけど。。。」
地中30kmほど掘り下げた部屋に座っても、窓辺の上に巨大な胸が鎮座するほどの巨体なのだ。視線の高さは海抜50kmはあるだろうか。
「あたし、もっと高いとこから見てみたい!」
「へっ!?」
いや、ちょっと待って。それってこの高さから見たいってこと?そりゃ掌に乗せればできるけど、動かした拍子にこんなにちっちゃい子たちなんか飛ばされちゃうんじゃ・・・
それはちょっと・・・と言おうと思った時に。
「「「だめですか?ちょっとだけでいいんです!」」」
いつの間にか他の児童にも伝搬してなんだか掌に乗せなければならない事態になっている。困り果てた一美が、
「あのぉ、先生方はどうでしょうか?どうしてもというのなら少しくらいなら・・・」
ここで制止してくれるだろうと期待して声をかけたのだが、引率の先生はふたりともOKしてしまったのだった。

右手の小指の爪に10人くらいずつ乗せて左掌の中央に降ろす。それを3回繰り返して全員が一美の左手の上に乗ってしまった。
突然自分たちの身長の数倍の高さを誇る小指が山頂を少し抉って降りてきたときはみな一様に驚いていたが、慣れとは恐ろしいものである。
左手の上からは女の子たちの騒がしい声が聞こえる。
「動かしますよ~、みんなできれば寝転がってくださいね。」
なるべくゆっくりと左手を自分の身体に近づけ、そのまま目の前までゆっくりと上げていく。あえて目の高さまで上げたのは、吐息や鼻息で子供たちを吹き飛ばさないためだ。
「はい、着きました~。」
超巨大なお姉さんの声が、掌の下から聞こえてくる。ということは、何人かが後ろを振り返って「うわっ!」と叫んで尻もちをついた。
それもそのはず、目の前には一美の巨大な瞳があるのだ。その大きさは自分たちの身長の10倍を軽く超えていそうで、目の中に飛び込んだとしても
小さなごみが入ったとしか感じることしたできないだろう。
「こっちじゃなくてあっちですよ。大サービスですからね。」
子供たちから歓声が上がる。さっきまでの比ではない眺望なのだ。公園も街も海もその向こうまでも一望できるのだ。しかも、薄い雲なのか霞がかかっているようで
凄く幻想的だ。子供たちはしばしその景色に見とれていた。

「おや?さきちゃん先生?」
そう呼ばれた女性が振り返り、にっこりとほほ笑む。やっぱりそうだ。6年生の時の担任だった先生だ。
「やっと気づいてくれた?でも、びっくりしちゃった。噂には聞いてたけど、本当に大きくなったわね!」
今度は先生の周りの児童たちが騒ぎ出す。
「え~っ!?さきちゃん先生って、このおっきなお姉さんの先生だったの?」
「そうよ、でも小学生の頃はそうね、あなたより少し大きいくらいだったんだけどね。」
そう言って5年生の最長身の子を指さした。
「はあ、卒業して少ししたら急に・・・中2で千倍、中3で1万倍、今はこのでかさですから・・・やっと止まってくれそうですけど。」
「そうよね、普通の突然変異とは桁が違うものね。」
突然変異とはたまに発生する超巨大化現象で、何年かにひとり程度の割合でこびとの千倍以上に巨大化してしまう子が発生してしまうことだ。
それでも、せいぜい3000mに届くかどうかで止まるものだが、一美の場合はさらに成長し続けて今に至るということらしかった。

一美は持ち上げた時と同じゆっくりしたスピードで左手を降ろし、全員を山の麓の巨人用ピクニックコースに降ろした。ちょっと掌の上で長居させすぎたので、
少し予定より遅くなってしまったのだ。
「ここからお弁当が食べれる広場までは100kmくらいですからね。あと、この辺から小人の街はそのまま残ってたりするので、適当に壊してもいいですよ。」
「「「は~い!」」」
さっきの掌展望台によっぽど満足したのか子供たちから素直な返事が返ってくる。
子供たちは廃墟と化した街を見つけては踏み入って、まだ何とか残っている建物を踏み潰したり、車両を掴んで投げ合ったりして遊んでいた。

お昼を食べてからの自由行動、30人の少女たちがめいめい好きなことができる時間だ。それを眺めながら一美は自分が小学生のころを思い出していた。
そういえばあの頃の遠足って、直接こびとの街とかに行ってたんだっけ。他の学校の子が壊しすぎて何にも残ってないときとかあったなぁ。
他の街に行こうとしたら「ここ以外は壊していい許可が出てないの」ってさきちゃん先生に怒られたんだっけ。
ふと見下ろすと街はずれで何人かの少女が手を振っている。どうしたんだろう?と鼻息で吹き飛ばさないように注意しながら一美は顔を近づけた。
「あの~、なんかもうボロボロで、他に遊べる街ありませんか?」
街を見るともう10km四方の巨大な廃墟と言った方が正しそうだ。まともに残っている建物は皆無に等しいありさまだ。
「そっかぁ、じゃあ可愛い後輩のためにいいものあげるね。その前、これは捨てちゃいましょう。街の中に入ってる子は外に出てね。」
捨てる?どうやって?少女たちの脳裏にいくつもの?マークが浮かびあがる。
だが、その?マークが!マークに変わるのに数秒もかからなかった。

一美の左手が、大都市の向こう側に近づいて行った。それは、そのまま地面の揺れを伴って地中に差し込まれていく。
巨人の自分たちでさえ立っていられないほどの揺れに翻弄されながら見た先には、もう親指を覗いた4本の指の姿は無く、心なしか街全体が少し
浮き上がって見えた。
「う・・・うそっ・・・」
少女たちが呻いたり絶句したのも無理はない。今まで目の前にあったはずの大きな街が、それよりさらに巨大なおねえさんの左手の上に乗せられ、
上空に持ち去られてしまったのだから。
おねえさんが指を少し動かしただけで、地盤ごとへし折られ、砕かれ、ぐしゃぐしゃになった地面が内側の廃墟に降り注いでいくのだ。
小人から見たら、いや、自分たちから見ても天変地異としか言いようがない大破壊を指先だけでやってのけてしまう。
「じゃあ、これはいらないから。」
グシャァッ!!!
巨大な左手が大都市を一握りで粉砕してしまった。握ったままの左手は公園の端に移動して、グシャグシャの土塊と化したバラまいて1000m級の山を
いくつか作り上げた。それを軽くペシペシと叩いて処理完了である。

次に一美は、部屋の中に手を伸ばして、何やらすくい上げる動作をすると、それを街があった場所に翳して見せた。
「これなら、いっぱい遊べるわよ。」
そう言いながら左手の上に乗せたものをそっとその場所において、縁を指先で軽く均すと、少女たちの目の前には多少損壊してはいるが立派な大都市が
広がっていた。

恐る恐る街の中に入ってみる少女たち、遥か向こうにおねえさんの胸から上が聳え、にこやかな笑顔が見下ろしている。
「凄いよねぇ。あたしたちも車とかこびととかは握り潰したりするけど、こんな大きな街丸ごととか、あり得ないよ!」
ひとりの少女が足元のダンプカーを掴んでグシャリと握り潰す。
「そうだね、あと、おねえさんのおっぱいって、この街よりおっきいよね。」
「あ、そうそう、あたしもそう思った。この上に乗っけたらこんな街なんか余裕でペッチャンコにできそう。あたしはせいぜいバスくらいだよなぁ。」
ダンプカーを握り潰した子が、今度は乗用車を掴んで自慢の巨乳の谷間に挟み込んで一美に向かって振り返ると、谷間から金属の悲鳴が聞こえてきた。
「だって、あたしたちが登った山だってあんなにちっちゃいんだよ!
巨大なブラトップに包まれた砲弾は、自分たちが登った山など盛り土にしか見えないほどの大きさなのだ。窓辺が平たんなのは、あの巨大な胸がほぼ毎日
圧し掛かっているためで、実は普通の巨人が思いきりジャンプしたところで全くへこみもしないほどに押し固められていた。

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「ん~っ!なんかつっかれた~!でも、みんな可愛かったなぁ・・・」
陽も暮れかかった夕刻、一美は小さな女の子たちがもっと小さな街をおもちゃにして遊んでいるところを思い出していた。
仕事が終わると、全長300km、幅200kmの小部屋いっぱいに両手足を思いきり伸ばしてあおむけに転がるのが好きなのだ。
濃紺のブラトップに包まれた爆乳山脈が盛り上がり、ちょっとした力加減で簡単に避けてしまう生地に悲鳴を上げさせる。
「あ、そっか。」
思い出したように起き上がると、部屋の片隅の一辺30kmの立方体に向き直った。表情に昼間の小学生たちにはちょっと見せられないような残酷さが加わる。
「今日は5匹か。」
立方体の上には100~200倍程度の巨人の女性が5人、蹲っていた。朝、ピンセットで摘まんだ女もその中に含まれている。
「いつも思うんだけど、あたしの手の届く範囲は無断立ち入り禁止だって言ってるじゃん。死にたいの?」
全員押し黙ったままだ。
「まあいいや、一応聞くけど、明日から一週間公園の整備をするのと、今夜あたしと遊ぶのとどっちがいい?あたしと遊びたい子は爪に乗って。」
だれも動こうとしない。目の前に聳える自分たちの1000倍も巨大な女に弄ばれるなんて自殺行為だ。
「じゃあ、決まりね。明日から掃除とかよろしくね。でも、その前に。」
一美はひとりの女性の目の前に小指を降ろした。
「乗って、嫌なら潰すよ。」
そう言われては乗るしかない。あきらめた顔の女性が一美の小指の爪によじ登ると、瞬く間に上空に移動してしまう。
「あんた、3回目だよね。だから、一度だけチャンスをあげるね。あたしの胸の谷間で10秒間生きてたら無罪ほうめ~ん!」
他の4人に見えるようにピッタリとくっついた標高20km級の爆乳山の谷間に女性を落とすと、少しだけ隙間を作ってそのまま谷間に呑み込んでしまった。
「ありゃ、1秒ももたなかったじゃん。」
笑顔で谷間を押し広げると、残った4人に斜面に貼りついた赤い染みを見せつけた。
「あんたたちも2回目までは大目に見るけど3回目は無いから。それと逃げ出したらどうなるか言っとくね。あんたたちの住んでる場所、まっ平にしてあげるから。」
そう言うと、一美はまた寝転がって、スマホをいじり始め、いつの間にか眠りにつくのだった。