パステルグリーンのビキニ姿でしゃがんでいる琴美は、膝の少し下をゆっくりと浮遊している芋虫のようなものをじっと見下ろしていた。
「これで最後かなぁ。」
そう言いながら、小指より少し小さいそれに向かってゆっくりと手を伸ばし、人差し指を丸めていく。
「そうみたいですねぇ、他のはみんな逃げちゃったみたいです。」
芋虫の向こう側で、同じデザインで色違いのビキニ姿のフィーアが巨大なおっぱいを地面に思いっきりめり込ませて寝そべっていた。
空中に浮かんでいるそれは、普通の地球人から見ればあり得ないほど巨大な宇宙戦艦なのだが、100万倍に巨大化したふたりから見れば芋虫程度にしか見えない。
ふたりは今、地球上にいるのだが、地球に恒星間航行の技術などあるはずもなく、また、全長50kmにもおよぶ超巨大戦艦など作れるはずもない。
つまりこれは地球外生命のもので、さらに付け加えると、地球侵略のために飛来した大艦隊の最後の一隻だったのだ。
ビシィッ!ボンッ!琴美の放った軽いデコピンが、超巨大戦艦を真っ二つにへし折り、さらに超高速でフィーアの標高200kmを超える超巨大おっぱいに叩きつけられ、爆発、四散した。
宇宙有数の強力艦隊も、このふたりにかかれば玩具にもならなかったのだ。

琴美はゆっくりと立ち上がると、足元をゆっくりと見まわしてみる。今、自分たちがいるのは北米大陸の東海岸だ。左足の下にはマンハッタン島はもちろんその周辺の地域も丸ごと踏み潰し、
右足は素足でワシントンあたりを完全に踏み固めている。
さらに視線を移すと、フロリダからメキシコにかけて、約250kmの巨大な足跡がいくつも続き、中米付近は完全に水没していた。そして、その足跡の中には数十隻単位で全長10~30kmほどの
異星人の戦艦がペシャンコになって貼りついているはずだ。
「ずいぶん潰しちゃったなぁ。地球が壊れちゃったりしない?」
フィーアは、下乳に貼りついた土砂やそれに塗れたいくつもの大小様々な都市の残骸を振り落としながら立ち上がり、琴美に向かって一歩踏み出すと、止めとばかりに何とか健在だったシカゴを
消滅させてしまう。
「そうですねぇ、地殻が粉々になってるんでちょっと直しときましょうか。あと、逃げちゃった子たちはどうします?」
「う~ん、地球に攻めてきたのは許せないからなぁ。もうちょっと虐めちゃおうか。」
「はい。」
フィーアが短く答えながら、薄ピンク色の花柄ビキニに包まれたどんなに大きな山も叶わない巨大な胸をユッサァと揺らすと、ふたりの姿は突然その場から掻き消え、後には北米大陸がほぼ壊滅した
地球だけが残された。

十数分前、琴美とフィーアはリゾートになりそうな星を探しに、遠く離れた銀河をいろいろと回っていくつもの恒星系を破壊して地球に帰って来たところだった。
「あれ?琴美さん、何か変です。」
「変って?」
ふたりの胸の間に浮かんでいるビー玉程度の大きさの地球を、やっぱり一番奇麗だなぁ、と思いながら見下ろしていたのだが、琴美には特に変化は感じられない。だが、フィーアの次の言葉に
琴美も少し驚いてしまう。
「なんか、侵略されてるみたいです。」
「へ?なに、それ。」
なんでも地球の技術力では作れない宇宙戦艦の大艦隊が全世界に展開しているらしい。しかも、その数300以上!そして驚いたことに、
「この侵略してきた子たちって、地球人の100倍くらいあるみたいですぅ。」
そんなに大きかったら地球の軍隊じゃ、ひとりを相手にしても大苦戦じゃん。自分が100分の1のこびとを相手にしている場面を思い出すと、どう考えても地球人に勝ち目はない。
「それで?地球はどうなってるの?」
「ちょうど今、ニューヨークで降伏調印式が始まるみたいですねぇ。」
「そ、じゃあ、ちょっと邪魔しようか。でも、あたしたちが地球人だってばれちゃダメだかんね。」
「なんでですかぁ?」
ちょっと不思議そうな表情のフィーアに、琴美はさらっと言ってのけた。
「だって、地球を救ったヒロインとか面倒くさいじゃん。だったら、リゾート探しの続きを地球でやった方が面倒が無くていいでしょ。」
そうでした。琴美さんは意外と面倒くさがり屋さんでした。そんなわけで、ふたりはビキニ姿のまま小さくなって地球に降下していった。

300隻もの超巨大戦艦の襲撃を受け、世界中のほとんどの軍隊は1時間も持たずに全滅し、世界中の大都市は壊滅的な被害を受け、侵略開始からたったの数時間で地球は無条件降伏か
滅亡かの二者択一を迫られていた。
ニューヨークの国連本部ビルの前には、異星人の代表と名乗る地球人そっくりだが身長200m近い女性が仁王立ちで足元を見下ろしている。相当高位の軍人なのだろうが、護衛などは皆無である。
というか、そんなもの必要ないくらい地球人との体格差は圧倒的だった。
その女性の掌には、国連を代表して何人かが乗せられ、握り潰される恐怖に耐えながら降伏文書を読み上げようとしていた。その時である。彼女の足元の地球人たちがざわめき始めたのだ。
「今更邪魔でもしようっていうの?黙りなさい。」
翻訳機を通した流暢な英語と共に、右足を少し上げてズシンッ!踏み下ろすと、足元のこびとたちはその振動で転げまわる始末だ。
「そんなに弱いくせに何を・・・」
彼女も頭上が真っ暗になっていくのに気がついた。顔を上げ、思わず絶句してしまう。顔を上げた女巨人の視界には、上空から落下してくる巨大な、自分なんかよりはるかに巨大な何かが
いっぱいに広がっていたのだ。
ズゥッシィィィンッ!
地球人の1万倍の琴美がニューヨークの手前に着地した衝撃で、周りの建物も車両も人も何もかもが吹き飛ばされる。もちろん着地した場所は2500mの巨足に完全に踏み潰され、
さらに地中深く押し固められた。だが、それだけでは終わらない。
ズゥッシィィィンッ!
続いてフィーアが着地し、琴美が着地した時と同規模の被害を地表にもたらした。
「あ~、やってますねぇ。ほら、琴美さんの右足のちょっと先にいますよ。」
フィーアが敢えて宇宙標準語で琴美に話かける。姿かたちはともかく、話す言葉が違えば相手は地球人だとは思わないだろう。
琴美が足元を見下ろすと、豆粒より小さな建物の中に、ひとりだけ規格外のサイズの女性が尻もちをついているのが見えた。確かに地球人を基準にしたら大巨人だ。
そう思いながらその場にしゃがむと、ゆっくりと手を異星人の女性に向かって伸ばしていった。

地球人たちはこの光景をどんな思いで見たのだろう?降伏調印式は全世界に生中継されており、かなり遠くから放送していたテレビカメラはたまたまふたりの超大巨人の落下の衝撃にも
巻き込まれずに、その途方もなく巨大な姿を全世界に映し出していたのだから。
そしてその超巨人が、たった数時間で自分たちを滅ぼそうとしていた巨人のひとりをいとも簡単に指先で摘み上げてしまったのだ。地球人たちはさらなる恐怖と絶望に落とされるのか、
このふたりの超巨大異星人の動向を固唾を呑んで見守るしかなかった。

「あ、あんたたち!何よっ!」
琴美の指先で虫のように摘ままれている異星人の女性はかなり取り乱していた。何しろ、巨大な体躯で有名な自分たちがまるで豆粒のように扱われているのだ。こんな扱いを
したことはあっても、されたことは皆無だった。
「何って言われてもねぇ。奇麗な星だからリゾートにしようかと思って来たんだけど、いけなかったかな?」
琴美が笑顔のまま指先にほんの少しだけ力を入れると、蛙が潰れたような小さな悲鳴が聞こえた。慣れとは恐ろしいもので、100倍の体格差の場合の死なない程度に痛めつける方法を
すでに琴美は身に付けているのだ。
「こ、ここは・・・あたしたちが、しんりゃく・・・」
「あら~、侵略は強いもの勝ちでしょ?欲しかったら力づくで来てもいいのよ。っていうか、来たみたいね。」
超巨人の左手の上に落とされた女性が顔を上げると、眼前に北米大陸中央部で待機していた30隻ほどの分艦隊が直進してくる姿が見えた。
「生身であの艦隊に勝てるの?いくら大きくても、主砲でこのくらいの星なら破壊することができる船もいるのよ。」
立場は逆転した。そう思い込んで勝ち誇る女性だが、琴美は全く余裕の表情で見下ろしていた。
「フィーア、あれ、あなたにあげるね。そうだなぁ、おっぱいにも勝てないくらい弱いってこと教えてあげてよ。」
「琴美さん、エッチですねぇ。」
フィーアは笑いながらその場から掻き消えた。

いつの間にか分艦隊は漆黒の闇に包まれていた。艦隊すべてを覆い隠しても余りある何か途方もなく巨大なものが遥か上空を埋め尽くしていたのだ。
琴美の掌に乗せられていた巨人の女性は、上空から落ちかかっている小惑星サイズの釣り鐘型のふたつの砲弾の周りを包んでいる薄ピンク色のものが、
今まで隣に立っていた女性の胸元に巻き付いていたものと同じものだと気づいた時、同時に隣にたっていたはずのもうひとりの姿が消えていることに気が付いた。
「う・・・うそ、でしょう?」
「あはは、気が付いた?あたしたちってもっと大きくなれるんだよねぇ。この星を指先で丸めるくらいだったら余裕なんだよねぇ。あなたたちの艦隊とあたしの友達のおっぱい、
どっちが強いのかなぁ。」
分艦隊とはいえ30隻以上の大部隊を丸ごとすべて包み込んでしまえる程の巨大な胸が、ゆっくりと落ちかかり、先端が大地に接地する。それだけで、この星全体が
揺れるのではないかと思うくらいの揺れが琴美たちに襲い掛かった。
次にフィーアはそのまま四つん這いの上半身を艦隊に向かってずらしていった。
胸の先端で轟音と共に地面や、その上に乗るすべての建物、車両、人や自然物のすべてをすり潰し、えぐり取りながら巨大な胸が艦隊に向けて大きく揺らされて、
全長10~30kmの巨大戦艦を、身長1560kmのフィーアが持つ高さ200km以上はある巨大な乳の壁に叩きつけて、次々と爆発四散させていく。
結局フィーアが少し胸を揺らしただけで、分艦隊は一隻残らず全滅してしまった。
「あ・・・わ・・・わ・・・」
声にならない声を上げている女性の視界には、オセアニア方面から駆け付けた分艦隊が乳の壁に向かって主砲を斉射しながら突っ込んでいくのが見えた。
だが、まるっきり効果が無いらしく、超巨人のおっぱいを揺らすことさえできないでいる。
すると、フィーアは上体を少し上げて、四つん這いのまま分艦隊の上空に一気に移動すると、そのままゆっくりと寝そべった。
今度は、左胸に上空から押し付けられて、すべての艦艇が潰され、へし折られ、次々と墜落していく。やはり、こちらも全滅だった。だが、胸の動きは止まることなく、
地表に叩きつけられ、片方だけで200km四方の超巨大おっぱいに、大小様々な数十にもおよぶ都市が、異星人の艦隊と一緒にペシャンコにされながら、
地面に貼りつかされた。

「ちょっとぉ、あたしの分残しといてよね。」
その一言を合図に、琴美もどんどん大きくなっていき、瞬く間に身長1650kmの日本列島級の超大巨人になる。もう、掌の異星人は目を凝らさないとわからないほどに
小さくなっている。何しろ今の琴美から見たら、0.2mmの極小のこびとなのだ。それがたったひとりで何をしようと、琴美にとっては無に等しい。
琴美は、二歩ほど進んでフロリダとメキシコの一部を壊滅させた後、南米大陸から駆け付けた援軍をたったのひと踏みで巨大な足跡の中に貼りつかせ、
今度はその場にしゃがんで、西ヨーロッパとアフリカ方面から来た合計50隻もの艦隊を脚の間に収めて見下ろしていた。
「強いもの勝ちだからねぇ、この星はあたしたちがもらうね。」
ズッバアアァァァンッ!!!
膝の間に出来上がった蚊だまり、ではなく艦隊だまりに向けて両手を叩くと、一瞬でほとんどが叩き潰され、運よく直撃を逃れた戦艦も衝撃波で爆発し、次々と墜落していった。
琴美が広げた両手を見ると豆粒大の大量の戦艦が、完全に潰れたりばらばらになったりして手のひらや指に貼りついていた。
「やっぱ、弱いなぁ。ってより、あたしたちが強すぎるんだね。」
クスッと笑って、パンパンと両手を叩いて戦艦の残骸をはたき落として、フィーアの前に戻っていく琴美の意識には、もう掌に乗せていたはずのこびとのことなど
全く残っていなかった。

時間はふたりが地球を後にした直後・・・地球から数万光年離れた宇宙空間を航行している十数隻の小艦隊。地球という辺境の惑星を侵略したまではよかったが、途中から乱入してきた
どこの星の人間ともわからない超巨人に蹂躙され散り散りに逃げ出したうちの一部だ。分艦隊司令のこの中では比較的長身の女性は、ひとしきり超巨人に対する
悪口雑言を並び立てた後で、本星に報告する内容を考えるために、一度私室に引きこもることを告げ、指令室を後にした。
とにかく、今回の侵略の失敗の責任を総司令官に押し付けるのはいいとして・・・少し報告内容を改ざんしなければならないかもしれないと思いながら、
重力制御の効いた移動廊下を腕組みをしながら移動していた。

その頃、琴美が両胸をムギュッと押し付けて、谷間に放り込んだ敗残艦に止めを刺しているところだった。
「あ、見つけました。これで最後かなぁ。今度は私が潰していいですかぁ?」
「そうね・・・あ、ちょっと待って、こういうのはどう?」
琴美がフィーアに耳打ちすると、フィーアの両目がキラーンッ!と輝く。
「それっ!面白そうですっ!」
「じゃあ、行こうか。」
琴美が胸元を少し押し広げて谷間で潰れている艦船を指で掻き出すと、ふたりの姿はまたもやフッと消えてしまった。

「他の艦隊とはまだ連絡が取れないの?いったい何をやっているのか!」
超高圧的な口調でまくし立てる女司令官の見ているモニターの向こうでは通信士官が恐縮しきった顔で平身低頭だった。
「も、申し訳ありません。ただ、ジャンプアウトした座標もモニターしたのですが、艦隊の気配が全くなく・・・」
「とにかくっ!急いで連絡を取りなさいっ!本国に帰投したら惑星破壊砲の許可を取って再出撃するんだからねっ!」
そう叫ぶと一方的に通信を切って、フゥッと大きなため息を・・・飲み込んでしまった。何しろ、顔を上げたその前にはふたりの水着姿の女の子がふたり、応接セットに座って
にこにことこちらを見ていたのだから。
「あの星破壊しちゃうの?それはちょっと許せないなぁ。」
黒髪の少女がそう言いながら立ち上がった。かなりスタイルのいい美少女だ。ただ、身長は恐ろしく高く、300m以上あるこの部屋の天井に頭が閊えそうなほどだ。
「な・・・あ・・・だ・・・れ・・・」
言葉にならない言葉から断片的に何が言いたいかを読み取った琴美が執務机に近づいていく。
「あら、忘れちゃった?せっかくあなたたちの軍隊と遊んであげたのに。そうそう、他も潰しちゃったから残りはこの艦隊だけなんだよね~。」
他の艦隊と連絡が取れない理由もついでに教えられ、女指令は立ち上がろうとしたが自席にヘナヘナと崩れ落ちてしまった。
「じゃ、じゃあ、全滅・・・それよりなんであなたたち、もっと大きかったんじゃ・・・」
「それはですねぇ、私たち色々なものの大きさを自由に変えられるんですよぉ。ちょっと試してみます?」
最初に立った少女より少し背が低いブロンドで爆乳の少女がそう言いながら立ち上がった次の瞬間、司令官のモニターに緊急通信が飛び込んできた。
「たっ、大変ですっ!後衛の巡航艦が2隻、しょっ!消失しましたっ!」
「あら~、どこに行っちゃったんでしょうね。そこ、何か挟まってません?」
フィーアがにこにこと女司令の豊かな胸元を指さした。
茫然自失の女司令が胸の谷間付近に違和感を感じたのはその時だ。何かが胸の間に挟まって・・・潰れている。そう思って慌てて着ていた軍服の胸元を開けて
手を突っ込むと、確かに何かが、しかもふたつ挟まっている。目の前の黒髪の少女ほどは大きな胸の谷間からそれを指先で摘まみ出して目の前に持ってくると、
「あっ」と短い悲鳴のような声を上げてそのまま絶句してしまった。
彼女の掌の上では豆粒大にまで小さくなった2隻の巡航艦と全く同じものがペシャンコに潰れていたのだ。
「あらら、ご自分のお友達を潰しちゃったんですかぁ?いけないおっぱいですねぇ。私のおっぱいはどうかなぁ、さっきは全然弱っちかったんですけどねぇ。」
フィーアが笑いながら言うと、また通信士官の悲痛な叫び声がモニターから聞こえる。この船以外、すべて消え去ってしまったのだ。
それを裏付けるようにフィーアがずいっと前かがみになり、司令官のデスクの上でビキニに包まれた胸の谷間を少し押し広げると、そこからパラパラと小さなものが
こぼれ落ちていった。それが消え去ったほかの艦船であることは、もう明白だった。
「それじゃあさ、あんたたちの星に案内してくんない?」
「な・・・なんでよ・・・」
精一杯の強がりも、尻すぼみになってしまう。そのくらい女司令官のショックは大きかった。
「決まってるじゃない。また侵略とか破壊とかされる前に滅ぼしてあげるのよ。」
「ちょっ・・・冗談じゃないわよっ!誰が案内なんか・・・」
琴美と女司令官の言い合いにフィーアが割って入った。
「大丈夫ですぅ。もう場所はわかってますから。でもすごく遠いところから来たんですね。この船でもかなり時間がかかるんじゃありませんか?」
そして次の決定的な一言で、司令官はぐうの音も出ないほど精神的に痛めつけられてしまう。
「琴美さん、この船でのんびり移動します?それとも、パッと行って片づけちゃいます?」

「あ・・・あの、お願い・・・滅ぼすのだけは・・・」
3人はソファに座って話している。エリーゼという名の女司令官はうなだれたままだ。
「そうは言ってもねぇ。だって宇宙は強い者勝ちでしょ?」
「わ・・・わかってる・・・けど・・・」
そんな様子を知ってか知らずか、司令官の私室のドアの外では数人の兵士が突撃の合図を待っていた。
「じゃあ、私たちに無条件降伏する?・・・気は無さそうね。」
琴美がそう言い放ったのと同じタイミングでドアが開き、武器を手に携えた兵士たちがなだれ込んで・・・次々と消えていった。
形勢逆転と信じていたエリーゼの顔が瞬時に青ざめる。また小さくされた?でも、そんな一瞬で・・・うろたえるエリーゼの視線は、ゆっくりと立ち上がりドアに向かっていく
金髪の少女の姿を追っていた。しゃがんで床から何かを拾い上げて戻ってくると、その何かをテーブルの上にばらまいた。
それは、豆粒ほどの大きさしかない兵士たち。やはり縮められてしまったのだ。
「言ってなかったけど、この部屋に入ろうとすると自動的に100分の1になっちゃうから、気を付けた方がいいわよ。」
琴美はテーブル上の兵士をひとり摘み上げて、外から様子を伺っている他の兵士たちに見せつけると、プチッ!簡単に捻り潰してしまった。
「それともうひとつ、あなたにも見ておいて欲しいんだけど、逆もありだから。」
もうひとりが摘み上げられ、ドアの外に向かって放り投げられる。豆粒大の兵士が小さな悲鳴を上げながらドアの場所を通り過ぎた瞬間、等身大の兵士が100倍のスピードですぐ先の壁に叩きつけられ、
その衝撃で肉体が破裂して四散した。地球人に置き換えれば初速が時速10kmだったとしても時速1000kmで叩きつけられたのだ。無事で済むわけは無いが、琴美もこれには少し驚いたようだ。
「お~っ!すっごい力!つまりあなたがここを出ようとしたらこの宇宙船が中から壊れちゃうわね。気を付けた方がいいわよ。」
そう言うと、残りの兵士をフィーアと半分ずつ分け合って、ものの数秒で全滅させた。
「さっきの話の続きだけどさぁ、この船も一緒に移動しない?目の前で自分の星が蹂躙されるのってどう思うかしらねぇ。」
をいをい、琴美さん、そんなにドSでしたっけ?というか何ヶ月もフィーアと一緒に遊びまわっていればそうなっちゃうのかな。何しろ、向かうところ敵なしの二人組だからなぁ。
「いいかも知れませんねぇ。」
フィーアが答えた瞬間、空間が歪んだ気がした。直後の艦橋からの通信は絶望的なものだった。
「たっ、大変ですっ。第1恒星系外縁にいつの間にかジャンプアウトしています。い、いったい、何が。。。」
女司令官は茫然自失といった顔で、ドヤ顔のフィーアを見上げることになった。

「お~っ!結構綺麗な星じゃない!」
向かい合っている琴美とフィーアの間に漂うバレーボール大の惑星は、ひょっとしたら地球より美しい彩りだった。今二人は地球人の百億倍、彼らの一億倍のサイズになっている。
つまり相対的に星のサイズも地球よりもかなり大きな惑星なのだ。絶対的なサイズ差だと、ここに地球があれば砂粒程度のサイズでしかない。
「ちょっと潰すのは勿体ないですねぇ。琴美さん、アクセにします?」
「そうだなぁ、それよりほら、あの子たちも戻って来たし、ちょっと様子を見ない?」
ふたりは塵よりも小さな宇宙戦艦が全速力でこの星に近づいてくるのを待つことにした。

「あんな・・・本当に潰されちゃう・・・」
超望遠カメラからの映像は、宇宙空間を向かい合っているふたりの女性とその胸元に漂うひとつの惑星を映し出していた。あの惑星こそ自分たちが帰る場所なのだ。
だが、その星も左側の金髪の少女の途方もなく巨大な胸程度の大きさしかない。いや、胸の方が少し大きいかもしれない。ただ、このサイズで彼女たちのどちらかが
軽く腕を振り下ろしただけで木っ端みじんになってしまうのは疑いようもない事実だ。
そしてその巨大な胸に本星の防衛艦隊が総攻撃を仕掛けているのだが、ビームもミサイルも全弾あの惑星サイズの爆乳に命中しているのに、当たっているという感覚を彼女に
与えられないでいた。
フィーアは、総攻撃されていることを知ってはいたが、攻撃されてる感覚が全くなかったのであまり気に留めていなかったのだ。
それでも、ちょっと自分たちの恐ろしさを見せた方がいいと思っていた。
「琴美さん、反撃しますねぇ。」
「ん?反撃?なんの?」
もちろん琴美からも見えないため、フィーアが左胸に総攻撃のようなものを受けていると話すと、琴美はよおく目を凝らしてフィーアの左胸を観察してみた。
が、特に変わったところは無い。ん?あれっ?たまに胸のすぐ近くで小さな光が瞬いているのが見える。これが攻撃なのかな?
「じゃあ、ちょっと反撃してみる?」
「はい。」
フィーアは少し上半身を揺すって、巨大なおっぱいを少し揺らす。が、その揺れが生み出す破壊力は凄まじいものだった。秒速数十万kmという途方もない宇宙気流を発生させ、
居並ぶ宇宙戦艦群を一瞬で粉砕する。それも一隻や二隻ではない、出撃した数万隻が一瞬で全滅してしまったのだ。だが、それもフィーアの左胸の周りに数えきれない数の
小さな光が発生しただけにしか見えなかった。
破壊は目の前の惑星にもおよび、一部分だが衝撃波でゴソッと吹き飛ばされ大爆発が至る所で発生した。これも二人から見れば小さな光がいくつか瞬いただけである。
ちなみに、このサイズで地球の前でこんなことをしたら、地球は一瞬で木端微塵になってしまうだろう。

そんな絶望の真っただ中にいる女司令官以下全員の脳内に、琴美の声が響いてきた。
「まっすぐ星に帰りなさい。そしたら破壊するのは少し待ってあ・げ・る」
船はそのまま本星に着陸するしかなかったのだ。
着陸した宇宙戦艦は、警備兵に幾重にも取り囲まれる羽目になった。客観的に見ればこの戦艦があの途方もないサイズのふたりの女を連れてきたのだとも言えたからだ。
私室のソファに座って茫然としていたエリーゼの部屋にも警備兵が踏み込もうとしていた。
「だ、ダメッ!入ったら・・・」
最初にドア枠を抜けた3人の姿が忽然と消えてしまった。やはりフィーアという金髪の娘が仕掛けた罠は生きていたのだ。
驚き慌てる警備兵たちに、エリーゼは立ち上がりながら声をかける。
「ここに入ろうとすると100分の1に縮んでしまうの。こんな風にね。あれ?」
足元にいるはずの小さな警備兵の姿がない。誤って踏み潰してしまった?そう思って両足を交互に退けてみたが、赤いしみはどこにもついていない。だったら・・・
「瞬間移動かしら。」
考えてみればあの二人が現れた時も消えた時も、いや、この戦艦が丸ごと本星間近に移動した時もそれ以外に説明のつけようがないのだ。
そうであれば、ここから出てもこの戦艦を破壊することは無いだろう。「私が出るから。」一言だけ言うとエリーゼはドア枠に向かって歩を進めていった。

「あ、やっと部屋から出たみたいだね。」
宇宙港に突然現れた黒っぽい粒を見つけて、嬉しそうに琴美が横に移動していたフィーアに話しかける。
「そうですねぇ。1万倍だと何とか見つけられますねぇ。話しかけてみますね。」
彼らの1億倍のふたりから見れば、それでも1万分の1の小人、身長たったの0.2mmなので見つけられるか心配だったのだ。

そしてその黒っぽい粒が現れた地上では・・・エリーゼが途方に暮れた顔で立ち尽くしていた。
部屋を出た時には巨大化したとは思わなかった。それほど瞬間的だった。しかも、その倍率は1万倍!どうりで部屋に入った兵士を見つけられなかったはずだ。
彼女の足元にはバラバラになって吹き飛んだ宇宙戦艦の残骸が散らばり、駐機場の艦船のサイズなど自分の足の親指にも満たないほど小さい。
たぶん足元を蠢いている人の姿など小さすぎて見つけられず、車両が動き回るのがやっとわかるくらいだ。
宇宙港ターミナルやその周りの建物群など、足元近くにちまっと固まっているが、たった一歩踏み出せば全てを踏み潰せるほど小さいのだ。
他の種族も合わせても「巨人」と言われた彼女の種族よりもさらに1万倍も巨大な文字通りの大巨人になってしまった。そこにフィーアの声が飛び込んできた。
「どうですかぁ?巨大化した気分は~。」
相変わらず少し間延びした呑気な声にイラッとする。
「何してんのよっ!すぐ戻してっ!」
「戻してもいいですけど~、逮捕されちゃいますよ~。今も攻撃されてるじゃないですかぁ。それよりこの星を支配した方がいいと思いませんかぁ?」
足元を見ると、小さな戦闘車両がずらっと並び、対地砲やら対空砲が飛び交っているように見える。というのは砲弾などあまりにも小さすぎて見えないのだ。
さらに少し向こうで浮遊しているのは最後の砦とも言える首都防衛艦隊だ。だが、あんなに小さな戦艦に攻撃されたとしても負ける気がしない。
元々好戦的な種族である。エリーゼの脳裏に「侵略」「蹂躙」「支配」という言葉が自然と浮かび上がってきた。
無意識に足を上げ、地上部隊を踏みつけると勝負は一瞬でついてしまった。数十台が足の下に消え去り、周りの車両は爆風で爆発四散しながら散り散りに吹き飛ばされていく。
エリーゼの口角は少しつりあがっていた。
「そうね。あなたの言う通り、私がこの星を支配するのも悪くないわ。」
もう一歩踏み下ろすと、宇宙港ターミナルとその周辺は、巨大なクレーターへと姿を変え中に残る建物も車両も人も一切がその中に押し固められた。
エリーゼは、隊列を組んで近づいてくる首都防衛艦隊に向き直り、足元には全く注意を払わずにゆっくりと歩き出した。

文字通りこの惑星上で敵なしの存在のエリーゼの足元には、無残に破壊され蹂躙された首都防衛艦隊の残骸が散らばっている。
「あとは、全面降伏させればこの星は私のものね。」
そうほくそ笑む彼女の両側に凄まじいプレッシャーが・・・恐る恐る横を見ると、見覚えのある肌色の壁。斜め上には花柄ピンクに包まれた巨大な砲弾、もとい、胸。
反対側の視線の高さより少し下には花柄グリーンのパンツと長く綺麗な脚・・・あのふたり?
「まあ、いろいろ遊ばせてもらったから、あなたにこの星あげるけどさ、悪いけどこれアクセサリーにするから。」
アクセサリーって?・・・どういう意味?
「あ、大丈夫ですよ~。ちゃんとコーティングするので、星にはダメージは与えませんから。」
琴美もフィーアもにこにこ顔だ。
「そういうわけだからさ、そうそう、あとたまにちっちゃくなって遊びに来るからさ。リゾートなんだから綺麗に整備しておいてね。」
「このあたりは人工物が多いから、掃除しちゃいますね。」
エリーゼは、ふたりの超巨大美少女が鼻歌交じりで首都を蹂躙し始めるのを茫然と眺めることしかできなかった。

ふたりが消え去ってから何日経っただろう。あの女司令官は、廃墟と化した首都の真ん中で寝そべって空を見上げていた。ぱっと見いつもと変わらない空だ。
でも、あの空の向こうが宇宙空間では無いことは彼女しか知らない。
ゆっくりと寝返りを打って瓦礫をさらに細かく粉砕し、頬杖をついてみる。視線の先には何人もの豆粒大の人間が瓦礫の山を片づけていた。
立ち去る前にあの金髪の女が1万人ほどの女性を100倍に巨大化させたのだ。もちろん肉体労働者としてである。さしづめその女性たちのさらに100倍のエリーゼは
現場監督といったところだろうか。
寝返りを打った時に聞こえた小さな悲鳴は、その中の何人かだろう。でも別に気に留める必要もなかった。この「星」の中では間違いなく彼女が絶対者なのだ。
「絶対者ね・・・」
そう呟きながら、明らかにサボタージュしている一団を見つけた。指先でそのうちの一人を摘み上げる。
「すっ、すみませんっ。さ、作業に戻りますから、ゆるし・・・」
必死の哀願を無視してプチッと捻り潰すと、見せつけるように指先を開く。
「さぼったらこうなるから、ちゃんと働きなさい。」
絶対者というより、強制労働の管理官みたい。と思いながら、エリーゼはまた空を見上げるのだった。

リビングでつけっぱなしのテレビでは、アメリカの臨時大統領選と議会選挙の結果が速報で流れていた。中部から東部が壊滅した時に政権中枢も当然壊滅的な
被害を受けていたのだ。だが、西海岸が無事だったのが不幸中の幸いだったのかもしれない。
地球の、特に北中米は壊滅的な打撃を受けたがそれでも何とか立ち直りつつあった。そして、その大壊滅を引き起こした張本人たちはいたって呑気なものだ。
「結局スマホのストラップかぁ。。。ふたつあればピアスでもいいかなって思ったんだけど。」
琴美はスマホを目の高さまで上げ、ストラップの先にぶら下がっているあの惑星をぶらぶらと揺らしている。
直径200万km(地球の約300倍)の惑星がたったの1cmの球になってぶら下がっているのだ。
「じゃあ、地球も一緒にちっちゃくしちゃいます?」
「そうだなぁ、でも宇宙もまだまだ広いってわかったから、綺麗な星がもっとあるかも知れないじゃん。それまで待ってるよ。」
「そうですねぇ。また探しに行きましょうか。」
ニュースは、この機に乗じて不穏な動きを見せようとしているアジアの二つの大国の話題になっていた。