周りの人たちより頭ひとつ以上飛び出したかなり目立つ体格の5人。
めいめいが浴衣を着て髷を結っているその姿で、近所の相撲部屋の力士だということがすぐわかる。
今日は「こども相撲大会」のゲストとして招かれていたのだ。

決勝戦は身長180cm以上、体重も100kgは軽く超えていそうなほど大きな子と、それより一回りほど小柄な子の対戦だった。
小柄と言ってもそのへんの子どもよりは全然大きいのだが、相手の方が大き過ぎるのだ。結果は言うまでもなく巨漢の6年生のあっけない吊り出しに終わった。

「いや、すげぇな!俺が小学生の時だってあんなにでかくはなかったぞ!」
角界一の巨体を誇る身長250cm体重200kg超の大関が少し興奮しながら隣の力士に話しかけていた。
「あの吊りの速さといい、お前、負けちゃうんじゃないの?」
「え~っ!勘弁してくださいよ、大関」
大関よりは全然小さいが、それでも普通の大人よりはふた回りは大きな関取が笑って答えていた。

その時だった。土俵上で得意満面で仁王立ちしていた巨漢の男子の顔色がみるみる青ざめていく。視線は上空を凝視したまま微動だにしないまま、ただ立ち尽くしているという感じだ。
「どうしたんだ?」
ふたりの力士が振り返ると、思わず息を呑んだ。
「あ・・・わ・・・わ・・・」
口をパクパクさせながら、一点を指差している。
「あ?なにしてんだっ!」
回りの観客たちもざわめき始めたので、大関を含めた残りの3人も振り返った。
その視線の先にあるものを見つけて、200kgの巨漢が盛大に尻餅をついてしまった。腰を抜かしてしまったのだ。

「男子の決勝、終わったんだ。誰が勝ったの?」
会場の外に立っていた体操服姿の女子小学生が腰をかがめながら会場を見下ろしていたのだ!途方もなく巨大な素足が踏みしめている地面が少し陥没しているように見える。
足の小指のすぐ横では、その小指と比べるとまるで蟻のように小さな何人かの男性が、四つん這いになって逃げようとしていた。
女の子は足元のパニックなど気にも留めずに土俵上で立ち尽くしていた男子に目を止めて、ゆっくりと腕を伸ばした。
「な~んだ、やっぱお前なんだ。女子の指先にも勝てないのにね~」
今まで勝利の喜びに浸っていた彼は、その身長の半分ほどの太さの人差し指にツンと突かれ、簡単に土俵の外に転がり落ちてしまった。

次に女の子が目を止めたのは、一際目立つ浴衣姿の5人組だった。
「ひょっとして、お相撲さん?」
その一言に、力士たちの周りから人がスーッと引いていく。代わりに現れた指先に次々に摘まれ、力士たちは逃げる暇も与えられずに女の子の左手の上に乗せられていた。
「もうじき女子の決勝が始まるからさ、見に行こうよ。ちっこい男子の相撲なんかより全然楽しいよ。」
力士たちは胸元まで下ろされた掌の上で、白い体操服を少し盛り上げている少女の胸を至近距離で見せ付けられながら、会場の裏山の向こうへと連れ去られてしまった。

いくつかの山を越えて少女が立ち止まったのがわかった。掌に乗せられた力士たちは、巨大だが成長中の胸元を一瞬だけ見せられた後は、もうひとつの手で覆われた状態で
移動させられていたのだ。
そこに彼らを連れ去った少女より遥かに大きな声量が暗闇の中の力士たちに襲い掛かった。
「あ~っ、加奈子、どこ行ってたの?」
抑揚から推測すると、恐らく同年代の少女だろう。だが、そんなことを考える余裕などなく、鼓膜を叩き破るほどの轟音に両手で頭を抱えて必死に耐えていたのだ。
「またこびとさんを虐めてたんでしょぉ」
「そんなことしてないよぉ。男子の決勝を見に行っただけだもん。だって、一回戦負けでつまんないじゃん」
え?超高層ビル級のこの子が一回戦負け?じゃあ、相手は・・・
「そうそう、奈々美ちゃんってお相撲さん大好きでしょ?男子の会場にお相撲さんも来てたよ。」
「えっ?ほんと?」
奈々美と呼ばれた轟音の主の抑揚が少し上がる。マジ?俺らどうなるんだ?蹲ったままの力士たちが自分たちの命運に恐怖したことは言うまでもない。
「それでね、女子の決勝もあるんで見に行きませんか?って言ったらいいですよって。だから・・・」
うそつけっ!有無も言わせずに摘み上げたじゃねぇかっ!!!
心の中で悪態をついていた力士たちを乗せた柔らかな地面がググッと移動したのがわかった。次いで、パァッと一気に視界が開けた。

陽光の眩しさにやっと目が慣れてきて、辺りの状況をだんだん理解し始めてきた。
背後には、あっさりと自分たちを連れ去った巨大な少女の胸元。そして彼らの前には、見渡す限りの壁面が聳えていた。
「なんだ?これ・・・」
視線をどんどんと上げていく。やがて斜めにカーブした頂上が見え、その上にはさらに巨大な壁が聳えて・・・う、動いたっ!
「&#’☆%”()★」
もはや言葉になっていなかった。壁の正体は、膝を抱えて座ったさらに巨大な少女の太股だったのだから。

奈々美はゆっくりと顔を下げて、小さな同級生が差し出した手の上をじっと見つめていた。
「ほ・・・ほんとだぁ!!!ゆかた着てるし、普通のこびとさんより大きいし・・・本物のお相撲さん?」
至近距離からの大声量に力士たちはのた打ち回っていた。奈々美もそれに気がついたらしい。慌てて口を手で押さえていた。
「ご、ごめんなさいっ!うれしくって・・・つい・・・」
「でもさぁ、なんで奈々美ってそんなにお相撲さんが好きなの?結局こびとじゃん」
「そうだけど・・・一生懸命がんばっている姿が好きなんだもんっ!特に大関の極大山関とか、他のお相撲さんより大きいのにすごく真面目に稽古してるんだよ。
そんな姿見たらあたしも見習わなきゃって・・・」
力士たちを連れてきた少女は、掌の上が一瞬ざわめいたのを見逃さなかった。グイっと目の前に移動して、こびとたちを見下ろしていた。
「そういえば名前、なんて言うの?そこの一番おっきなお相撲さん。」
一瞬の沈黙。奈々美はキョトンとした顔で見下ろしている。友達の指先が力士たちに近づいていくのが見える。
「き・・・きょく・・・だい・・・やま・・・です・・・」
迫りくる指先の恐怖に耐えかねて、ついに大関が口を割った。

「あ・・・あの、ほんとに極大山関なんですよね・・・」
奈々美は顔どころか全身が真っ赤である。思いもかけない場所で憧れの大関に会えたのだ。
「は、はい。。。」
対する極大山はというと、土俵よりも遥かに巨大な少女の瞳に見つめられて、内心死ぬほど怯えていた。
「ところで、決勝でしょ。相手は?」
「昌枝ちゃん・・・」
奈々美の顔が急に曇った。
「マジ!?奈々美ってなんであの子に勝てないんだろうね。全然おっきいし力だって強いのにさ。。。あ、そうだ」
こびとを乗せた掌をもう一度目の前に持ってくる。
「極大山さん、あんたお相撲さんなんだから、なんで勝てないかわかるんじゃない?」
「へ?へぇぇ???」
いきなりの無茶ブリである。それでも大関は大ファンの女の子のためにと、今まで負けた原因を聞いてアドバイスをしてあげた。

ついに決勝戦である。奈々美はゆっくりと立ち上がると、山中にぽっかりと作られた土俵に向かって歩いていった。
「で・・・でけぇ・・・」
驚くのも無理はない。他にも何人か巨大な女の子がいるのだが、群を抜いて大きい。何しろ小さな力士たちを掌に余裕で乗せて立っている加奈子でさえ、奈々美の踝ほどの
身長しかない。
「そうなんだよねぇ。一番おっきくて強いくせに妙に優しいというか。でもさ、大好きな極大山さんに負けるとこ見せたくないだろうから、今日はがんばるかもね」
「はぁぁ・・・」
その辺の山よりも遥かに巨大な奈々美の後姿を見送る力士たち。その向かっている先からひとりの少女が立ち上がり、土俵へと入っていった。
確かにでかい!が、身長は奈々美の肩にようやく届くかというくらいだろうか。
さらに小さな、といっても加奈子よりは全然大きな少女がふたりの超巨大女子小学生の間に入り、行事役を務めるようだ。

「はっけよい!」
応援している女子の声援が飛び交う。力士たちは縦横に飛び交う轟音に必死に耐えながら取り組みを見守っていた。
「のこったっ!」
先に飛び出したのは昌枝だった。思い切り腰を屈めて奈々美の脚を狙っていた。奈々美はというと、その場にどっしりと腰を下ろしたままでゆっくりと前かがみになる。
「よしっ!いいぞっ!教えたとおりだっ!」
なぜか極大山は今までの恐怖も忘れたような興奮ぶりだ!
突進してきた昌枝に向かって奈々美の巨体が圧し掛かる。そのまま両手をグイッと出して、昌枝の腰をガッチリと抱え込んだ。動きを封じられた昌枝が抜け出そうともがくが、
元々奈々美の膂力は昌枝など歯牙にもかけないほどに巨大なのだ。
腕の中で必死にもがく昌枝をゆっくりと吊り上げて、土俵の外にドスンと下ろす。あっけないほど簡単に勝負がついてしまった。

満面の笑顔で奈々美が戻ってきた。
「あ、ありがとうございます。極大山関のおかげで勝てましたっ!」
「い、いや、重心を低くすることは相撲の基本だからね。でも、おめでとう。立派な勝ちっぷりだね。」
なぜか極大山も両手で耳をしっかりガードしてはいるが満面の笑みである。
「奈々美、よかったね。ご褒美に極大山さんにお相撲してもらったら。」
な・な・なんてことを言い出すんだぁ?こいつはっ!全員がそう思い、恐怖したのは言うまでもない。そんなことしたら一瞬で地面の染み決定である。
「だ、だめだよぉ。そんなの・・・お相撲さんって言ったってこびとさんなんだからぁ・・・」
真っ赤な顔をして奈々美も思いっきり否定した。
「いいじゃん、折角だからさ。お相撲さんたちに足でも押してもらえば感じ出るんじゃない?」
加奈子は、まるでこの場の支配者のように奈々美の足の前に、5人の力士を降ろしてしまった。
「ほら、うっかりしてると踏み潰しちゃうよっ!」
「えっ?じゃ、じゃあ、ちょっとだけ・・・」
奈々美は足の親指の周りに盛り上がった高さ10mほどの小さな土手を指先だけで拭い去ってしまった。
何台もの重機を使って数時間かけてでないと絶対にできない作業を、たったの指1本で一瞬でやってのけてしまったのだ。力の差など考えるだけでもばかばかしい。

「よし、いくぞっ!」
最初に動いたのは極大山だった。彼はちょっとしたオフィスビルほどもある親指に向かって、張り手を始めたのだ。
唖然としていた他の4人もそれに加わる。張り手、突進、何でもやったがそんなもので1mmだって動くはずもない。しゃがんで見下ろしている加奈子はゲラゲラと笑っている。
「だめだよ、笑っちゃ!でも、やっぱりお相撲さんだよ。普通のこびとさんより全然強いもん!」
実際は何も感じていないに等しかったのだが、奈々美としては絶対にそう言ってあげたかったのだ。だって、こんなにがんばってるし。

力士たちは帰りは奈々美の掌に乗せられていた。加奈子よりも遥かに広大な掌の中央で巨大な体操着の壁に思わず息を呑んでいた。
普通サイズであっても十分に巨大な胸が優美な曲面を描いて体操着を思い切り盛り上げていた。それがゆっさゆっさと揺れるたびに、風が唸っているのだ。
「あの、今日は本当にありがとうございました。」
見下ろしている少女の顔は凄く嬉しそうだった。そして嬉しそうな顔のもうひとりが掌の上から叫んでいた。極大山である。
「こっちこそ!君みたいに大きくて強い女の子がファンだと言ってくれて、嬉しいよっ!」
えっ!?大関ってそんな趣味なんですか?大きいにも限度があるでしょ?だが、他の4人が見た大関の瞳はハート型だ。もう、何がなんだかわからない。
「あの・・・今度、お相撲見に行っていいですか?応援したいんです。」
えぇ~っ?あの見に来るって・・・極大山以外の力士は、途方もなく巨大な女の子が小さな国技館の横に座って、屋根を引き剥がして中を覗き込んでいる。いや、ひょっとしたら国技館を
掌に乗っけてしまうかもしれない光景を想像していた。が、極大山の答えはというと。。。
「ほんとうかい?そりゃ、がんばっていいとこ見せなきゃ!」
近い将来、街が大パニックになることを予想できているのは、今のところこの4人だけである。