あのドーム球場が出来てからというもの、観光客はもちろんのこと居住者も増え続け、この街は活気のある都市へと変貌しようとしていた。
この日も朝を迎えて街全体が起きだすと、首都近くの大都市にも引けを取らないほどの人や車が街中に溢れかえり、元気な一日が始まろうとしていたのだ。
そんな中、突然の地震が起こる。街の人たちはいつものことという感じで特に気にも留めていない様子だ。それが二度、三度と回数を重ねるたびにだんだん揺れが大きくなってきても、まだ気にする人は少ない。何故ならば地震の原因はわかりきっているからだ。
だが、あるひとりの一言が、そんな日常を打ち砕いた。
「あれ?久美子様、出てきてないぞ・・・」
じゃあ、この地震はいったい・・・そのひとりと他にも気がついた者達を中心に、ある種の不安がどんどんと街を侵食していく。あの久美子さんの巨ブラドームをきっかけに発展してきたこの街は別名「久美子タウン」と呼ばれ、めったに自分たちに危害を加えない久美子さんのもとで平和に発展していたのだ。たまにスケールのでかい悪戯をされるのは止むを得なかったが・・・
時折発生する地震も、今までは震源地はわかりきっていたので行きかう人々も全く気に留めなかったのだが、それが違うというのはどういうことだ?ある種の恐怖を伴って、人々の動きがだんだんと緩慢になっていった。

「それで?なんであたしも一緒なの?」
奈々美の掌の上でちょっと不機嫌な加奈子はまだ眠そうにしていた。
「だって、初めての場所だからひとりだけってちょっと不安だし・・・」
申し訳なさそうに、掌の小さな友人を見下ろす奈々美。
「でもさぁ、何でヨガなのさ。まだダイエットって歳じゃないじゃん!あたしたち、まだ12だよ!」
「うん、でも、運動も出来なくなっちゃったから、ヨガだったらいいかなって思って。それに、教えてくれる人も大きいし。」
今や身長6000mを超えるほどになった奈々美にとっては、普通に歩くだけで大騒ぎになるのだ。人のいる街の中に入ることなどもちろん無いし、街の近くを歩くだけで崖崩れや建物の崩壊などを起こしてしまう。運動なんてしたらどうなるか。加奈子にも想像できないほどの大惨事になるのは間違いない。
「まあいいけどさ。あ、あそこじゃない?」
加奈子が指差す先に、山々に囲まれた神殿のような建物が見えた。その辺の山など盛り土にしか見えないほどの大きさだ。そこから通路のような小道がこちらに向かって続いていた。もちろん、小道とは奈々美の主観で、実際には幅1000mを超えるほどの平地で、その脇には標高1000~2000m級の山々が列を成しているのだ。その膝ほどの高さの山の間を、奈々美は目指す建物に向かっていった。

「あれは・・・なんだ?」
街の外れの高い山の向こうで何かが動いたと思った次の瞬間には、それが巨大な頭部だとわかるほどになった。若い女の子の顔。でも、どこかで見たことが・・・そんなことを考えているうちに、巨大地震にリンクしてその姿が一気に街の人々の眼前に現れたのだ。
抜群のスタイルにまるで山のように巨大な胸が地響きが起こるたびにユッサユッサと揺れている。爆乳自慢の久美子さんよりも大きいのでは?と皆が思うほどだ。
「あれ、横綱の巨大彼女じゃ・・・」
そうだ。いつか週刊誌を賑わせたあの極大山の本命の彼女は実は山よりでかい女の子だと噂で聞いたことがある。あれがそうなのか?それにしてももの凄い迫力だ。ほとんどの人が、髪を後ろに束ねた途方も無く巨大な女の子が、その膝ほどの高さの高い山脈の向こう側を久美子さんの家に向かって歩いていく姿を、唖然として見上げていた。

「あら、いらっしゃい。はじめまして。」
「お、おはようございます。」
初めての顔合わせは、余裕の表情の久美子と少し緊張した面持ちの奈々美といった感じだった。
「でも、本当に大きいのね。今どのくらいなの?」
4649mの久美子でさえ、奈々美の胸元あたりまでしか届かない身長だ。それでも、奈々美のほかの友達に比べても3倍は大きい。普通に立って会話できるだけで、奈々美は嬉しかった。
「えっと、この前6000m超えちゃいました・・・」
「そう、でもまだ若いからもっと大きくなりそうね。もう皆さん集まってるから、こちらへどうぞ。」
タンクトップにレギンスのヨガの定番スタイルの久美子に促されて、奈々美も自分の身長より少しだけ高い家の裏側に回っていった。

「すっご~い!何ですか?これ。」
奈々美の足元には大きな街が広がっていた。もし、人が住んでも数十万人は余裕で居住できるほどの広さだ。しかも、中央には高層ビルまである。その中を10人強の巨大な女性たちが思い思いにくつろいでいたのだが、奈々美の姿を見て一斉に立ち上がっていた。
「フフ、ビックリした?これはおもちゃ用に作ってもらった街なの。」
確かに所々に破壊の跡が見える。この人は、こびとに破壊用の街を作らせてるの?なんか凄い・・・
「ちょっと飽きちゃったから、今日はここでヨガをやろうと思ってるの。もちろん好きなだけ壊していいわよ。」
「はい。あ・・・でも・・・」
「そうね。足元のおちびちゃんには気をつけてあげてね。」
それって足元で立っている身長150~400mほどの巨人の女性たちのことなのだろう。確かに奈々美や久美子から見れば、大き目のこびとでしかない。でも、奈々美が言おうとしていたのはそういうことではなくて・・・あ、久美子さん、行っちゃった。
「いいんじゃない。おばさんも壊していいって言ってるんだからさ。」
しゃがんだ奈々美の掌からポンッと飛び降りていくつかの建物をまとめて粉砕しながら、加奈子は自分と同じサイズの女性たちのほうへと走っていった。もちろん、足元のことなどお構いなしに。

「じゃあ、始めましょうか。最初は気持ちを落ち着かせましょう。」
街の反対側で、久美子が胡坐をかいて両手を膝の上に乗せる。他の女性たちもそれに倣って久美子の方を向いて同じポーズをとり始めた。奈々美も久美子以外がよろけるほどの地響きを立てながら、800mを超えるサイズの足で数十棟の建物をまとめて踏み潰しながら街の中に入ると、その場に座って同じポーズを取る。巨大なヒップの下では、膨大な数の建物や置いてあった車両がひとつの例外も無くぺしゃんこに押し潰されていた。
「はい、深呼吸して~・・・」
こうして久美子のヨガ教室は始まった。
深呼吸が終わるとサギのポーズ、Vの字のポーズと続いていく。どちらもダイエット効果があるポーズらしいが、唐変木はこの程度のことしか知らないのでこのあたりは割愛していく。
だが、女性たちがポーズを取るごとに、ビルは崩れ、木造家屋はバラバラになり、車はクシャクシャに潰されていくのだ。特に奈々美と久美子の破壊力は凄まじく、手の届く範囲には残っている建物などほとんど無い有様だった。
「じゃあ、ねじりのポーズをするけど、その前に。」
久美子は身体を伸ばすと、中央にまだ残っていた高層ビルのうち一棟を簡単に引き抜くと、胸の谷間へと挟み込んだ。200mほどの高さのビルが完全に爆乳の間に呑みこまれて見えなくなる。
「みんなも胸に何か挟んでね。奈々美ちゃんは、そこの高層ビル、使っていいわよ。」
えっ?と思いながらも、奈々美も身体を前に伸ばした。驚いて振り返る女性たちに「すみません」と小声で謝りながら、250mほどの高さのビルの根元を指先で摘むと簡単に引き抜いた。
着ていたTシャツを脱いで上半身キャミソール姿になると、標高500mを軽く超える巨大な山の稜線がくっきりと見え、そのふたつの山の谷間に小さな高層ビルが乗せられた。見上げていた女性たちが、こびとを虫けら程度に扱える彼女たちでさえ簡単に埋まってしまうほどの爆乳を見て息を呑んでいた。
「はい、じゃあ、ねじりのポーズね。」
横向きに脚を伸ばして座っていた久美子が片膝を立ててゆっくりと上半身をねじっていく。奈々美も他の女性もそれを真似して同じポーズを取る。と、その時だった。
「あ・・・」
谷間に挟んだ小さなビルが潰れる感触。奈々美が谷間をそっと広げると、身体をねじった時に生じた桁外れの爆乳の圧力で、数千人のこびとを収容できる巨大なビルが跡形も無く押し潰され、粉々の破片になってこびり付いていた。

気持ちのいい汗をかいた後、久美子からハーブティーが振舞われていた。当然、奈々美は久美子愛用のマグカップを使わせてもらっている。
「気持ちよかったね。でも、いっぱい壊しちゃった。」
完全に廃墟と化した街を見回しながら、奈々美はボソッと呟いた。
「そうだねぇ、奈々美がいたとこなんか何にも残ってないよ。」
「だって・・・」
あの週刊誌事件の頃から、奈々美は街を破壊することに多少の快感を覚えるようになっていたのだ。なんてことは、加奈子には口が裂けても言えない。だって、絶対に調子に乗るに決まってるし。
「でもさ、久美子さんって素敵だよねぇ。私もああいう大人になりたいなぁ。」
奈々美は敢えて話題を変えてみた。でも、少し先に座って小さな女性たちと談笑している久美子の姿を、奈々美は本当に素敵な人だと思っていたのは事実だが。
「うん、でも奈々美だってスタイルいいし、おっぱいだって大きいし、負けてないんじゃない?」
「そういうんじゃなくて、なんか凄く素敵なオーラが出てるじゃん!私はああいう大人になりたいの。いくら身体が大きくたってまだ子供じゃん。」
「奈々美がそれ以上魅力的になったら、極大山さんにももっと好きになってもらえるもんね。」
「え?もうっ・・・」
奈々美はだんだん頬が赤くなっていくのを自覚していた。

ズシンッ!
加奈子の真横に巨大な足が踏み下ろされた。見上げると久美子が文字通り聳え立っている。反対側に座っている奈々美との間に挟まれて、自分がこびとになってしまったような錯覚を受ける。
「どうだった?ヨガ。」
「はい、なんだかとても身体が軽くなったみたいで、楽しかったです。」
「そう、よかったわ。奈々美ちゃんは?」
「私も楽しかったです。でも、いっぱい壊しちゃいましたけど・・・」
「あら、気にしなくていいわ。そうだ、ちょっと付き合ってくれる?」
何かを思い出したように久美子に誘われたふたりは、もう少し久美子に付き合うことにした。

奈々美と加奈子は久美子に案内されて「久美子タウン」を一望できる場所に来ていた。奈々美と久美子にとってはどこにいても余裕で一望出来るのだが、この場所が久美子のお気に入りの場所ということで連れてきてもらったのだ。
「凄いですね。こびとさんの街がこんなに近くにあるなんてウソみたい。」
山の麓の少し先は商業街が広がり、駅を挟んでその先のオフィス街や郊外の住宅地までが一望できる。そして忘れてはならないのが、商業街の右手のこの街のシンボルでもある「久美子ドーム」だ。
「そうねぇ、でも、私が歩くとおちびちゃんたちには迷惑かもね。」
久美子がこびとのことを「おちび」と呼ぶのは癖みたいなものだろう。でも、それも奈々美にとっては大人の余裕に見えるのだ。
「あのドームって久美子さんのブラなんですよね。」
「そうよ、大きいでしょう。といっても奈々美ちゃんには敵わないけどね。」
加奈子の質問も余裕でかわす久美子さん。しかも、奈々美にネタ振りするところなど流石というしかない。
「え?やっ、やだぁ・・・」
奈々美の顔は真っ赤になってしまった。もう熟れたリンゴのようである。
「でも、奈々美ちゃんのだったらもっと人気が出るかもしれないわね。」
「だめですよぉ。でか過ぎて街ごと入っちゃうかもしれないし。」
「え~っ!?そんなにおっきくないもんっ!!!」
真っ赤になりながら、必死に打ち消す奈々美であった。

街からは圧巻の光景が広がっていた。いつもの久美子様の横に、さらに巨大な美少女が聳えているのだ。低い雲など余裕で貫いてしまうほどの脚は、手前の大きな山でも余裕で跨げるほどの長さを誇っているのだ。しかも、座っただけで水がたまれば湖が出来てしまうほどのヒップラインと圧巻の超巨大バスト!久美子様よりもふたまわりは大きなそれが、話をするたびにユラユラと揺れている様は、見ている特に男たちの視線を完全に釘付けにしていた。
ズズンッ!ズズゥンッ!!!
久美子様がその場に座ると、奈々美もゆっくりとその巨体を下ろし、女の子座りになった。座っても見事な太ももが作り出す壁が山の向こうに聳えている姿は圧巻だった。

「久美子さん、街の中に入ってもいいですか?」
突然の加奈子のお願いに久美子も少しだけ戸惑いを見せた。が、何かを思い出したように街の中を覗き込む。
「あ、あった。いいわよ。あの赤い線と黄色い線、わかるかしら?実は赤い線の中は私が壊す予定の場所なの。あそこならいいわ。」
商業区画の片隅に確かに赤い線に囲まれた場所がある。奈々美の右手が伸びていき、加奈子はその中の片側3車線の道路に下ろされた。
確かに誰もいない。しかし、赤い線の近くまで行くと、何人かのこびとの姿が見えた。
「あ、おまわりさん?」
赤い線と黄色い線の間は一般人は立ち入り禁止なのだが、久美子に近づきたい一心で侵入するものを追い出すために警官が警備をしていたのだ。
「へぇ~、ちゃんとした街なんだ。ねえ、久美子さん、ちょっと壊してもいいですか?」
ズシンズシンと地響きを立てて歩き回りながら、ダメかな?と思いつつもちょっとお願いをしてみた。
「いいわよ。奈々美ちゃんも指先でビルとか潰してくれたら、おちびちゃんたち喜ぶんじゃないかしら。」
えっ?なんで街を壊して喜ばれるの?この街のこびとさんって、ひょっとして・・・
「ちょっとやってみて。あの大きなビルがいいわね。」
「え?あ、はい。」
恐る恐る人差し指を伸ばして、ターゲットのビルに伸ばしていく奈々美。街の中からはどよめきと歓声が聞こえてきた。
おかしいよ、絶対・・・そう思いながらも、指先をそっと20階建てのビルの上に乗せる。ミシィッ!ビル全体が軋むような音を立て、すべての窓ガラスが瞬時に粉々になって落ちていったようだ。
「やっぱ、凄いね~、奈々美のパワー!」
加奈子は椅子代わりにしようとした10階建てのビルをそのままヒップで押し潰してその光景を眺めている。
「でもおちびちゃんたちは喜んでるでしょ。そのままゆっくり押し潰してあげて。」
久美子に言われたとおりに、指先を徐々に押し付けていくと、ビル全体が歪み、最上階と1階ががあっさりと潰れていく。さらに、他のフロアも至る所で崩落が始まり、建物全体が強大な指先の圧力に耐えられなくなった瞬間に、完全に押し潰され巨大な指先が回りの建物も巻き添えにしてズンッ!と地面に接地した。
全然力入れてなかったんだけど・・・やっぱり脆いんだ・・・
奈々美が指を退かして押し潰した場所を見ると、ビルがあった場所には円形の巨大なクレーターが出来上がっていた。

「すげぇ!」「あんな可愛い子が・・・」
どこからともなく上がった声に次々と反応する群集の中から、「奈々美様、バンザーイッ!」の声が上がるとそれが大合唱になっていった。
「え?なんで?」
自分の耳にも微かに届くその大合唱の内容に、思わずまた赤面する奈々美。
「奈々美様だってさぁ、人気者だね。」
加奈子のそんな笑い声よりも群集の声のほうが大きく感じる。
「まあ、でもちょっと妬けちゃうかしら。」
久美子が手を伸ばすとあっさりとふたつのビルを摘み上げ、約100mほど上空で群集に見せ付けるように捻り潰して見せた。
今度は「久美子様、バンザーイッ!」の大合唱だ。
結局、奈々美と久美子が交互に指先で赤い線で囲まれた中を破壊し、加奈子も負けじと奈々美の指を蹴っ飛ばしながら破壊を楽しんで、500m四方ほどのエリアはものの5分も経たないうちに完全に何も残らなくなっていた。

「あの、また来てもいいですか?」
かなり破壊してしまった後ろめたさもまだ残っていた奈々美が久美子に恐る恐る尋ねてみた。だが、久美子の答えは、そんな奈々美の予想をいい意味で裏切ってくれた。
「もちろん大歓迎よ。あなたたち以外にも大きい女の子がいるんでしょ?みんな連れてきたらいいわ。それまでに新しい街を作らせておくから、ね。」
「じゃあ、絶対来ますっ!」
ふたり同時に同じ答え。思わず顔を見合わせて笑ってしまった3人だった。

「やっぱりあの街のこびとっておかしいよ。」
帰り道に奈々美の掌の上で加奈子がふっと呟いた。
「うん、普通だったらこびとさん、逃げ出してるよね。」
「奈々美様~!だもん、ビックリしちゃった。」
「でも、ちょっといい気分かな。私もああいう街、欲しいなぁ。」
おっ、奈々美ちゃん、街づくりに挑戦か?
「ふ~ん、じゃあ、奈々美もドーム球場作るんだ。」
悪戯っぽい笑顔で加奈子が切り返す。
「え?いや、あれはちょっとぉ・・・」
ふたりで笑いながら、いつもより少し大きめの地響きを立てて「久美子タウン」を後にしたのだった。