ウルトラユカちゃん

私はユカというウルトラヒロインです。今日も怪獣出現の警報をキャッチしたので、面倒だけど出動します。まあ、一応お仕事なので・・・
今日の現場は海にほど近い中規模くらいのビジネス街です。すでに巨大変身して音速に近いスピードで現場に向かいます。音速超えちゃうとソニックブームが発生したりと面倒なことになるので、
スピードは抑えています。ちなみに、音速を超える程度では私の身体は何ともありません。

現場が見えてきました。あの山の向こうで怪獣が暴れているはずです。一応私は身長54mと怪獣並みの大きさなので格闘で相手を弱らせて最後に必殺光線で止めを刺すという、
オーソドックスな戦闘スタイルです。格闘中にそれなりに建物や車両を破壊してしまうのですが、そこはお約束ということで。。。
なんてことを言っている場合ではありませんでした。現場が見え・・・なんか、え?うそでしょぉ?

ちょっと気が動転しています。でも、この星の人たちにそんな心の内をさらけ出すわけにはいきません。私は努めて平静を装って怪獣から1kmほど離れた場所にそっと着地しました。
グシャッ・・・
あ・・・慌てて足元を見ると、8m近い私の足がその半分程度の大きさの乗用車をものの見事に踏み潰していました。幸い乗り捨てられたものだったようですが、持ち主さんには申し訳ないことをしました。
何軒かの家々を股下に収めて聳え立つウルトラヒロイン、と言えばカッコ良さそうですが、実際のところ薄ピンクのレオタードベースのコスチューム姿はちょっと恥ずかしいですね。
これでも、変身解除している時は普通の女子高生としてふるまっているのですから。

などと言っている場合ではありませんでした。私の視線の先では今、まさに怪獣が暴れているのです。え?じゃあ、早くやっつけろですか?あの・・・それはあの怪獣を見てから言ってください。
まさにたった今破壊しようとしている高層ビル、あれ何メートルあるか知ってますか?確か200m以上あるんですよ。それよりも怪獣の方が全然おっきいじゃないですか。300mはありそう・・・
勝てると思います?なんですか?いくらデカいからって急所を突けば何とかなるだろうって?その通りです。だから、怪獣に見つからないように背後に回ったんです。
と言うのは建前で、実はおしっこ漏らしそうなほどビビってるんですけど・・・

とりあえず背後に回ることは成功しました。そのままゆっくりと怪獣に近づいていきます。いいタイミングでこの星の軍隊が攻撃を始めてくれたので、怪獣はそっちに気を取られて全く私に気付いていません。
100mくらいの距離まで近づいて、背中へドロップキックかなぁ。それにしても大きい!この距離で相手を見上げるなんてことありませんでしたから、少々膝が震えています。
でも、この星の人も頑張っているんです。戦車を踏み潰されても戦闘機を叩き落されても必死に攻撃しています。わたしも頑張らないとっ!
「てやぁっ!」
首筋に渾身のドロップキックをお見舞いしてやりました。手ごたえ、というか足ごたえは十分です。
そのままぶっ倒れて・・・くれない。。。怪獣は頭を少し左右に振っただけで、全くダメージを受けていない様子です。普通の怪獣だったら派手に吹っ飛ぶくらいの破壊力なんですよ。それなのに・・・
そして、おもむろに振り向いた怪獣と目が合ってしまいました。咆哮を上げて私を威嚇しています。ど、ど、どうしよう。。。恐怖のあまり思わず両手をクロスさせて、最後に使うはずの必殺光線を
撃ってしまったんです。
バッゴォォンッ!!!
運よくものの見事に顔面に命中しました。これで頭部が吹っ飛んでくれれば、いやいやそこまでいかなくてもかなりのダメージを負ってくれれば見っけもんです。怪獣の動きは止まっているので、
それなりには効いたようです。頭部を覆っている黒煙が徐々に消えていき、そこには・・・
「ええっ!?う、そでしょぉ?」
思わず叫んでしまいました。だって、光線が命中した場所だけ少し黒くなってて、怪獣は全然平気そうな顔をしているんですもの。こんな相手、どうやって・・・もう、脚の震えは全く止まりません。

ヴォンッ!ドゴォッ!!!
「ギャッ・・・」
あまりにも絶望的な状況に呆然としていて、怪獣が横を向いたのも何も考えずに見上げていました。尻尾の直撃を受け2km以上は吹っ飛ばされて倉庫街に叩きこまれてしまいました。
「あううぅぅぅ・・・」
身体中が痛いです。今までに味わったことが無いレベルの破壊力です。幸い骨までは折れていないようですがとにかく痛い。それでも、怪獣は待ってはくれません。雄たけびを上げながら
地響きを盛大にたててビルも車も何もかも踏み潰しながらグングンと私に迫ってきます。
私も小さなクレーンを掌で押し潰して、何とか立ち上がろうとします。が、完全に腰が抜けていました。下半身に力が入らないのです。そのまま尻もちをついて半壊状態の倉庫を全壊にして
大股開きになってしまいました。でも、恥ずかしいとか考える前に、怪獣はもう目の前まで来てしまい、私の半身を覆い隠せるほどの巨大な足を振り上げていました。
こんなものに踏まれたらひとたまりもありません。私は咄嗟に腕のブレスレットでバリアを展開します。ガゴッ!何とかバリアで防ぐことが出来ました。

一度逃げ・・・ううん、ヒロインが逃げるなんて!などと綺麗ごとを言っている精神的余裕は全くないのです。何とか身体が動くまでバリアで防いで、でも、怪獣は諦めずに何度もバリアを
踏みつけてきます。しかもその衝撃がバリアの外はもちろん、たまたまバリアの中にあった車を吹き飛ばし、建物の残骸をさらに粉々にしていくのです。しかも、バリアまでひび割れてきて・・・
「や、やだ・・・」
私は大きなお尻で建物を押し潰しながら後ずさりますが(もちろんバリアを張ったままです)、怪獣は執拗に追いかけてきます。そしてついに、パキン・・・嫌な音がしてバリアさえ破壊されてしまいました。
怪獣の表情が物凄く嬉しそうに見えます。弱いものをいたぶる優越感満載です。次の一撃で私の身体はぐちゃぐちゃに潰されるのでしょう。お腹が裂けて内臓が飛び出してしまうかもしれません。
ウルトラヒロインが危険な仕事とはわかっていましたが、こんなに早く人生の終幕を迎えるとは思っていませんでした。
こんなことなら、同級生のあのイケメン君を巨大化した状態で力づくで・・・とか、いろんなことが頭の中を駆け巡ります。でも、それももうお終い・・・になるはずでした。

「あれ?」
固く閉ざした瞼を恐る恐る開いてみると、目の前にいたはずの怪獣の姿が消えていました。どこに行ったのでしょう。やはり、私に恐れをなして・・・なんてことは万に一つも無いことはわかっています。
また、軍隊に攻撃をされて、興味がそちらに向いたのでしょうか。でもそれにしては静かです。その時でした。頭上からまるで雷鳴のような声、それも女性の声が轟いたのでした。
『ずいぶん大きな怪獣なのね。』
その声に釣られて空を見上げる私の視界には、通常ではあり得ないものが。「は、はわわ・・・」あの巨大怪獣を見た時以上の衝撃で、無意識に失禁してしまったほどです。
お尻を伝わる生暖かい感触もどこかにすっ飛んでしまうほどの衝撃でした。だって、私の頭上では、途方もなく、本当に途方もなく巨大な女性の顔が見下ろしていたのですから。

怪獣は、さらに巨大な女性の指に摘ままれて目の前まで上げられていました。全体像はよくわからないのですが、恐らくしゃがんでいるであろう彼女の顔までどのくらいの高さがあるのか見当もつきません。
ただ、私より5倍以上大きかったはずの怪獣がまるで小虫のように扱われているのです。巨人である私から見ても途方もない大巨人です。
その時でした。彼女と目が合った気がしました。いえ、気がしたのではなく目が合ったのです。つまり見つけられてしまった。ということは私も摘ままれてしまうのでしょうか。
でも、そうはなりませんでした。
『あら、ひょっとして、あなた、この怪獣と戦ってたの?』
頭上の超巨人の女性は指先の怪獣と私を交互に見比べていました。
「あ、い、いえ、あの、その・・・そうです。」
完全にろれつが回っていません。もう頭の中は真っ白なんです。
『じゃあ、邪魔しちゃった?返してあげようか?』
いえいえ、邪魔だなんて滅相もない。そのままプチッと潰していただければどんなに助かるか。本気でそう思っています。ウルトラヒロインのプライドなんか、生存本能に比べれば微細なものでしかありません。
でも、彼女は私の本心を知ってか知らずか、ご丁寧に元の場所から少し離して怪獣を地上に戻してしまいました。
「いえ、あの・・・その・・・」
『この怪獣、あなたよりかなり大きそうだけど大丈夫なの?』
だから、大丈夫じゃないんです。お願いですから助けて・・・
そんなことを言いたいのに口がうまく回りません。しかも、あの怪獣、さっきまで私をいたぶっていたのを思い出したのか、まっすぐ私の方に向かってきます。
しかも、私の情けない体はいまだに後ずさりしか出来ない状態なんです。もう絶体絶命なんですっ!
「おっ、お願いですっ!負けそうなんですっ!助けてくださ~いっ!!!」
次の瞬間、私の身体でさえよろけそうな突風が巻き起こり、回りの瓦礫の山やスクラップ状態の車などはあっさりと吹き飛ばされ、怪獣の姿が再度忽然と消えてしまいました。
すると、上空から声が・・・
『な~んだ。最初からそう言ってくれればいいのに。』
笑顔でそう話しかけてくれた超巨大な女性の指先には、また、あの怪獣が摘ままれていました。

『あなた、ユカちゃんって言うんだ。私はアカネ。よろしくね』
「あ・・・はい。」
結局私も極太の指に摘ままれて、今はひろ~い掌の上。でも、摘ままれてる時は全身が全く動かなかったけど、何となく潰されることはないなって思ってしまうほどやさしい感じだったな。
『でもさぁ、ウルトラヒロインって本当にいるんだね。ちょっとビックリ!ユカちゃんも普段はこびとサイズなの?』
怪獣を巨大なブラ(なんだろうな)に包まれた胸の谷間に乗っけてアカネさんは指先でつついて遊んでいます。
「はい。あの・・・アカネさんはこんなに大きいんですか?」
『そだよ。おっぱいなんかこびとから見たら山だよね~、標高2000mくらいあるからね。』
はぁ~・・・凄い!本当に山だ。私の胸も小さくはないけど、もし、アカネさんと同じ身長になっても全く敵わないです。ぐっすん。。。
『そうそう、ユカちゃんにお願いがあるんだけどさ。聞いてくれる?』
え?お願い?何でしょう。ウルトラヒロインを変われというのなら、もう喜んで!なんですけど。
『実はさ~、ユカちゃんもちっちゃいんだけど、こびとはもっとちっちゃいじゃない?だから、こうやって話とかできる友達になってくれないかなぁって。』
あ、そんなことですか。だったら喜んで。
「あ、はい。こ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
『よかったぁ。怖がってたらどうしようって思ってたんだよねぇ。あっ・・・』
アカネさんが胸元を見下ろしたので、つられて視線を向けると、谷間に乗せられていた怪獣の姿はありません。どこに行ったのだろうと少し視線を下に降ろすと、
下乳の間から黄緑色の液体が流れ落ちていくのが見えます。ひょっとして、あれって・・・
『中に落ちて潰れちゃったみたい。あたしの胸って凶器だよねぇ。こびとの戦艦とかもすぐ潰れちゃうんだよ。』
アカネさんは笑いながら胸の谷間に指を突っ込むと、グシャグシャに潰れていた怪獣を摘まみだしてポイッと投げ捨ててしまいました。

何日か後、私はまたまた出現した怪獣と対峙していました。今度の怪獣は私とほぼ変わらない大きさなので、ひとりで何とかできそうです。でも、私も少し緊張していますし、
何より怪獣がとても怯えていました。だって、私と怪獣がまさに戦おうとしている場所は、街ごと乗せられているアカネさんの掌の上だったのですから。
『ふふっ、今日は助けてあげる必要は無さそうだね。頑張ってね、ユカちゃん!』
「あ・・・はい。」
改めて怪獣に向き直る私。ここは先手必勝です。住宅を蹴散らし車を踏み潰しながら怪獣に突進して、回し蹴りを一閃!ドガッ!という感触が伝わり、怪獣は横っ飛びに吹っ飛びます。
いつものパターンです。私は飛び上がってドロップキック!着地して怪獣を蹴り上げ、そのまま尻尾を掴んで投げ飛ばしました。怪獣はデパートに頭から突っ込んで、盛大に破壊してしまいます。
でも、こびとなんかいませんから私も気になどしていません。もういいかな。と思い、少し怪獣から距離を取りました。
だいたい200mくらい離れて、両手をクロスして必殺光線を浴びせます。ようやく立ち上がりかけた怪獣の頸部を直撃し、怪獣の上半身は爆発して吹っ飛びました。
『すごぉいっ!今のなに?光線技なの?』
上空からアカネさんが興味津々といった顔で見下ろしています。
「はい、だいたい止めを刺すときに使う技なんです。」
『そうなんだ~』
同時に私の頭上が暗くなりました。見上げると、そこにはアカネさんの人差し指、しかもまっすぐこちらに降りてきます。どっ・・・どういう・・・
テンパっている私の目の前に、残された怪獣の下半身も周りの街の建物も簡単に押し潰して指先が現れました。私でさえ見上げるような大きさです。
『ねえ、ユカちゃん。今の光線撃ってみてくれないかなぁ。』
「えっ?だっ、だめですっ!お友達にそんなこと・・・」
『そうなの?ユカちゃんって優しいんだね。でも、大丈夫だと思うからさ~、撃って欲しいなぁ。』
巨大な指先がズリズリと動き、すぐ横にあった車や建物を磨り潰していきます。あれが私に向かって来たら、たぶんミンチ・・・いや、アカネさんだってお友達にそんなことしないはずです。。。ところが・・・
『撃ってくれないんだったら、あたしの指と戦ってみてよ。』
アカネさんからそんな台詞が・・・と同時に巨大な指先が10階建てのマンションを簡単に磨り潰し、駐車場の車をまとめて轢き潰しながら近づいてくるではありませんか。
「ちょ・・・アカネさんっ!あ、あたし・・・潰されちゃいますよ~っ!」
『そうね、戦ってくれないと潰しちゃうかもね。』
私を見下ろすアカネさんは笑顔のままです。本気で私を潰す気なのでしょうか。わからないけど、あの指の圧迫感はもの凄いです。ハッキリ言って膝が震えています。
もう、こうなったらやけくそって感じで、両腕をクロスさせました。光線がドウッ!と発射されます。的があまりにも大きすぎるので外すことは無いはずです。
ドンッ!と指に光線が当たり、そのエネルギーで大爆発が起こります。そして・・・煙が晴れると相変わらず指が目の前に聳えていました。しかも全くの無傷。想像はしていましたが、
改めてアカネさんと比べた自分の非力さを痛感します。そして、アカネさんはというと、
『なんかくすぐったい感じ。でも、こびとの戦車の攻撃よりは当たった感覚があるかなぁ。』
指を上空まで上げて、私の光線が当たった場所を眺めていました。私はというと、目の前の完全にぺちゃんこにされた広大な場所をただただ無言で眺めていました。
怪獣の姿も、ビルも車も何もかもが綺麗に無くなっているのです。すべて地面にとんでもない圧力で押し付けられていました。
指先だけでこんな破壊力なんです。もし、私が光線を撃たなかったら・・・想像しただけで背中に冷たいものが流れていくのを感じてしまいました。

何日か経ったある日、私は1匹の怪獣を相手に戦っていました。体長は60mくらいでしょうか。私より少し大きいですが、その程度では怯みません。
怪獣もスタミナが切れてきて格闘戦も私が有利になっています。もう少しでいけそうかな?その時でした。
キーンッ!という空気を切り裂く音、何かが凄いスピードで近づいてきます。しかも間違いなく超音速です。そんなスピードで滑空できるなんて、私以外に・・・
「ハァッ!」
怪獣のどてっぱらに何かがぶつかりました。いや、人です。しかも私のような巨人が飛び蹴りを怪獣に食らわせ、勢い余って貫いたのです。
ズッズゥンッ!
立ったまま絶命した怪獣の向こうに地響きを立てて降り立ったその巨人が立ち上がりました。男の巨人、どうやら私と同族のようです。が、身長は80mはあるでしょうか。かなり大柄です。
その男が足元も気にせずに、建物や車を踏み潰しながら歩いてきます。ちょ、あなた・・・
「ちょっと、足元ちゃんと見なさいよっ!」
思わず叫んでしまいました。
男は、「あ?」と一瞬下を向きましたが、また私の方に歩き出します。
「んだよっ、せっかく助けてやったのに一言目がそれかよ。」
不機嫌そうにビルを蹴り上げる男、蹴られたビルは一瞬で半分以上が粉々に吹き飛んでしまいました。しかも、あのセリフ、ふざけんじゃないわよっ!
「あのねぇ、誰も頼んでなんかないでしょ。それより、あんたもヒーローだったら、この星の人のこと少しは気にしなさいよっ!」
「あ?ばっかじゃねぇの?こんなこびとのことなんかどうでもいいだろうが。それよりよ、この星征服して俺と楽しいこと、しねえ?」
「なっ・・・ふざけないでよっ!あたしはこの星を守ってるの!あんたも侵略者ねっ!覚悟しなさいっ!」
思わず身構える私です。でも、男はにやけた顔で近づいてくると、フッと足元に合ったものを拾い上げました。バス?しかもまだ人が乗っているのか悲鳴が聞こえてきます。
「ふ~ん、じゃあこれも守ってやんなきゃじゃない?」
少し力を入れたのか、バスの窓ガラスがすべて砕け、車体が軋む音がします。
「ちょ、なにすんのよっ!やめなさいっ!」
「なに、それが人にものを頼む言い方?」
そう言って男はバスを持った手を私の目の前に突き出してきました。車体がみるみる歪んでいくのがわかります。このままだと本当に握り潰されてしまいそうです。
「お・・・願い、します。やめて・・・くだ、さい。」
「や~だね。」
その言葉にハッとなって顔を上げた時でした。街全体を押し潰すような大音量が轟いたのです。
『あら、ユカちゃん。あれ?カレシかなぁ?』
アカネさんが、その男の遥か向こうからしゃがんでこちらを見下ろしていました。
「う・・・ああぁ・・・」
呻く男の手からバスがポロリと落ちるのを見逃しませんでした。男を突き飛ばすように突進してバスを両手で捕まえ、そのまま胸元に軽く抱きしめながら背中からスライディングします。
ゴツゴツという感触で何か硬いものを潰したようですが、幸い人間は潰していないようです。私はそのまま回転して男から少し距離を取って、バスを足元に降ろしました。
まだ動くようで、ノロノロと走り去っていくバスを見送り再び男の方に向き直ると、男の姿は既に無くアカネさんの極太の指が私に近づいてくるところでした。

『な~んだ、カレシじゃないんだ。でも、同じ巨人同士なんだから付き合っちゃえば?』
私と男はアカネさんに摘ままれて掌に乗せられていました。男は逃げたのかと思いましたが、どうやら腰を抜かして動けないところをあっさりと摘み上げられたようです。
でも、順応性は高いみたい。
「お、そ・・・そうだな、なあ、付き合おっか。」
さっきまでの態度はどこへやら、よくもそんなにコロコロと態度を変えられるものです。でも、それだけアカネさんが恐ろしいんでしょう。
「そ・・・そしたら、あんたとも、友達だもん・・・な。」
やっぱり、私をダシにしてアカネさんに取り入ろうって言う魂胆のようです。
「あのね、ふざけんじゃないわよ!なんで侵略者なんかとっ!」
男が青ざめた顔で人差し指を立てて口の前に当てていますがそんなこと知ったことじゃありません。それに私の捨て台詞、アカネさんにも届いているようで、上空でにんまりしています。
『ふ~ん、侵略者なんだ。ねえ、この星欲しいの?だったらあたしと付き合う?』
な・・・なんてことをっ!そりゃアカネさんはこの星の支配者みたいなものです。その気になれば丸ごと滅亡させることも出来るでしょう。でも、よりによってなんでこんな奴と・・・
男の方も命拾いしたと思ったのでしょうか。急に態度が変わりました。
「お、いいねぇ。じゃあ早速この邪魔な女、消しちまおうぜ!」
『いいけどね、でも、あたしと付き合うなら条件があるんだよね。あたし、弱い男嫌いなんだ。だから、最低でもあたしより強くないと嫌なんだよね~。』
アカネさん、ケラケラ笑ってとんでもないことを口にしました。どこをどう探せば、そんな強い男がいるというのか。でも、目の前の男は少し頭が足りないのか、意味が分からなさそうな顔をしています。
『あんたはちっちゃいからハンデあげるね。あたしの指と戦って痛くなったらあんたのオンナになってあ・げ・る。』
完全にからかっています。というより、この男の言うことなどハナからどうでもいいみたいな感じです。男もようやくそれに気づいたようでした。
「っざっけんなっ!お前、バカにしてんのか!?」
『ふぅん、だったらユカちゃんの敵ってことだよね。潰してあげるよ。』
相変わらず笑顔のままでしたが、アカネさんの目つきが変わりました。こうなったらこの男に出来ることはひとつしかありません。ほら、やっぱり逃げた。

私はマッハ3のスピードで飛ぶことが出来ます。1秒間で約1km進むことが出来るんです。でも、あの男のスピードはマッハ5くらいありそうです。でも・・・
アカネさんにとっては1秒かけても15cmしか進まないほどに遅いんです。彼の飛ぶスピードに合わせて広大な掌が移動していきます。普通なら建物も人も軽く吹っ飛んでしまうほどの風圧ですが、
私は何とか持ちこたえています。そして、上空を飛んでいるあの男も気が付いたようで、その場に止まってしまいました。
『どしたの?まだあたしの手の上からも逃げられてないよ。それとも降参?だったら握り潰してあげるよ。』
アカネさんが残酷な笑顔で見下ろしています。いやいや、握り潰すって私もいるんですけど。。。
「う・・・あぁぁぁぁっ!」
男が奇妙な叫び声を上げてまた飛び始めました。掌から中指の付け根、そしてさらにその先へと、でも突然巨大な龍の鎌首が現れたと思った瞬間、ペチッ!男は龍のように恐ろしい中指に叩き落されてしまったのです。
私の頭上を私たちの飛行速度なんかメじゃないスピードで男の身体が通り過ぎ、ソニックブームが発生します。
ベチャッ!
男はアカネさんの手首の近くまで飛ばされて、嫌な音を立てて貼りつきました。いや、指で軽くはたいただけであんな破壊力なんて、正直反則過ぎます。
『へぇ、まだ生きてるんだ。結構頑丈なのね。ねえ、ユカちゃん。』
「え?あ、はい。」
男の姿を見てちょっと呆けていました。だって、両脚は見事に折れ砕け、右脚なんか膝から下が千切れかかっています。上半身も右半身は完全に潰れて、右腕がめり込んでいるんです。
ちょっと見ただけで瀕死の状態であることは明白でした。
『ユカちゃんも嫌なことされてたでしょ?そいつに止め刺してくれるかなぁ。』
あ・・・たし、が?確かに今のこの男に止めを刺すのは簡単です。でも、なんで私なの?アカネさんが指先を軽く押し付ければそれで済むのに・・・
ところが、アカネさんが言った理由はちょっと驚くものでした。
『もうじき最終レベルアップでしょ?たぶん、これで出来ると思うんだよねぇ。』
なんでアカネさんがそんなこと知ってるの?確かに私たちは怪獣と戦ったりして経験を積むと徐々に新しい技を覚えたりとレベルアップしていきます。
でも、そんなこと巨人であってもこの星のアカネさんが知ってるはず・・・まさか、アカネさんも実はどこかのウルトラヒロインなのでしょうか?
「て・・・めぇ・・・俺に何か、してみろ。仲間が・・・黙っちゃいねえ・・・ぞ!」
はぁ?この期に及んでまだそんなことを、私の心は決まりました。
「やります。」
それだけ言うと、私は男から少し離れました。

息を整えて、両手をゆっくりとクロスさせます。たぶん、軽く蹴っただけで絶命するでしょうが、やはり木端微塵にしてやらないと気が済みません。なんか、仲間にこの星の座標を教えた的なことを言ってましたが、
そんなこと知ったこっちゃありません。それに、こんな奴の仲間が何百人来てもアカネさんに敵うはずないじゃないですか。
ドゴォォォォンッ!
渾身の光線技です。あの嫌な男は文字通り木端微塵にしてやりました。と、その時です。私の身体に異変が・・・本当にレベルアップしたみたいです。でも・・・いつもと、違う・・・
眩暈がして一瞬気を失っていたかもしれません。ふわっという感じで目を開けると、あれ?アカネさんがどこにもいない・・・っていうかいつの間に掌から地表に移動したのでしょう?
しかも私の身体・・・何と言うか、その・・・エロくなってる気がするんです。足元を見ようと思って気付いたのですが、胸が・・・自慢の美巨乳が、なんとっ!相対的にはアカネさんに匹敵するほどの
爆乳になっているんですっ!谷間なんかハッキリくっきりです。凄いです!この胸だけでこびとの男なんか完全ノックアウトできそうです。でも、それだけじゃないんです。
少しお尻回りがきつくなった気が・・・大人っぽくなったということでしょうか。その時でした。見えにくくて気付かなかったのですが、足元で何か動いた気が・・・
見ると、ひとりのこの星の人くらいのサイズの女の人が私を見上げて手を振ってみました。えっ?っていうか着地の場所が少しずれていたら・・・ちょっとホッとしてしまいました。
でも、何か変です。地上なら建物とかあるはずなのに見当たりません。それになんだか全体的にのっぺりして地平線までよく見えます。
う~ん、どこにいるんだろう?その時です。
「ユカちゃ~んっ!」
えっ?アカネさんの声、しかも下から・・・そういえばこの女の人、アカネさんによく似て・・・ってか、「あ・・・アカネさんっ!?」

「おっきくなったね~っ!」
そっと摘まんで左手に乗せた女の人を目の前まで上げてまじまじと見つめてしまいました。縮尺は小さくなっていますが間違いなくアカネさんです。でも、アカネさんが小さくなったわけでは無いとすると・・・
恐る恐るもう一度足元を見下ろしてみます。なんだかグレーや茶色や緑の模様が入り混じっています。右足は足指にも全く届かないほど浅い水たまりに浸かっていて、左足は模様の中にあります。
これってもしかして・・・
「はわ・・・はわわぁ・・・」
そしてアカネさんの止めのひと言。
「変身解除するとあたしと同じくらいなのかなぁ。」
つまり、身長2万mのアカネさんと同じくらいってことは、変身前はたぶん18000m。で、そのの30倍、ってことは・・・
「ご・・・ごひゃく・・・よんじゅっきろ!?」
思わず左脚を上げて水たまり、じゃない、海に移動させます。だって、脚のサイズだけで80kmもあるんです。街のひとつやふたつじゃすみません。恐らくとんでもない数の街や都市をペッチャンコにしてしまったのです。
その証拠に、私の馬鹿でかい足跡はそこだけを茶色く変色させてしまっていました。
どうしましょう。守ってあげなきゃいけない人たちを大勢踏み潰してしまいました。それも100人や200人じゃありません。数十万、いや、数百万人も・・・
「あ・・・アカネさん・・・知ってた、んです、か?」
「そうねぇ、話せば長くなるんだけど・・・それより、お客さんみたいよ。」
しゃがんで足元を見下ろして狼狽している私の掌の近く、アカネさんの近くに何かとても小さなものがワープアウトしてきたのです。

「アカネさん、これ、何でしょう?」
たぶん宇宙船だと思うのですが、今の私から見るとたくさんの豆粒がふよふよしているようにしか見えません。
「たぶん、さっきの男の仲間じゃないかしら。」
アカネさんはそのうちのひとつを捕まえて中を覗き込んでいるようでした。全長3000~5000mほどのそれはアカネさんでも簡単に破壊できそうです。船首を掴んで握り潰したり、船体を真っ二つにへし折ったりしています。
船からわらわらと出てきたさらに小さな粒は浮いているのか飛んでいるのかわからないほどゆっくり移動しているので、アカネさんはその粒々にしか見えないあの男の仲間を数十人単位で叩き潰したりしていました。
と、その時です。なんか胸元がムズムズするような・・・
「ちょ・・・いやらしいっ!」
女の子の胸を攻撃するなんて最低です。私はしゃがんでいたために太ももに押し付けられてムニュッと変形していたおっぱいに攻撃している集団の下に右手を差し入れて、そのまま目の前まで持ち上げてやりました。
沢山の豆粒が私の掌に叩きつけられて爆発四散していきます。それでも何とか持ちこたえた10隻にも満たない数の宇宙船からさらに小さな粒々が出てきます。
「フンッ!」
そのまま宇宙船もこびとも握り潰してやりました。今の私から見たら巨大ヒーローなんか塵みたいなもんです。たったの一握りで数十隻の宇宙船と数千匹の巨大ヒーローを全滅させてやりました。

「ふふっ、私も変身しちゃおっかな。」
アカネさんがそう言ったかと思うと、私の掌から消えてしまいました。
そして私の目の前には、足が・・・しかも、左足はちょっとした盛り土程度の山岳地帯を丸ごと踏み潰しています。ゆっくりと顔を上げると、そこにはグラマラスボディのアカネさんが色っぽいレオタード姿で聳え立っていました。
「ほら、ユカちゃんも立って。逃げられちゃうよ。」
アカネさんのお腹の辺りに、豆粒宇宙船のひとグループが必死に逃げようと上昇しているのが見えました。それを見て、『逃げられるわけないのに』と思わず笑みがこぼれてしまいました。
宇宙船団はゆっくりと立ち上がった私の胸のあたりまで上昇して止まっていました。たぶん、アカネさんの胸の下の死角でワープアウトする気だとすぐにわかりました。
「ユカちゃん、こびとの船ってどの辺にいる?」
「ちょうど私の胸の前です。アカネさんからだと見えないから、ワープアウトするみたいですね。」
「ふーん。」
アカネさんは少し屈んで胸の高さを私に合わせます。これで豆粒の集団はふたりの超ウルトラヒロインの巨大な胸の間に浮かぶ格好になりました。
「これ、どう・・・ひゃっ!」
アカネさんに急に抱き寄せられてしまいました。当然、ふたりの間にあった小さな宇宙船たちは標高6万m級の超巨大山脈の間に挟まれてあっさりと全滅してしまったようでした。
「おっぱいに潰されるんだから男として本望じゃない?」
笑いながらアカネさんが身体を少し離すと、胸元にこびり付いていた残骸がパラパラと零れ落ちていきました。

「う~ん、どこから話そっか。」
私とアカネさんは、さっきの場所から少し離れた大都市の近くの海に並んで寝そべっています。私がもう少しこの大きさで街を見てみたいと言って移動したのです。
たぶん街のこびとたちは大パニックでしょう。何しろこの星最大の山など遠く及ばないほど巨大な大山脈がよっつも並んでいるのですから。
でも、なぜかそんなこと気にならなくなってきていました。だって、あまりにも大きさが違いすぎるので、こびとのことなんかいちいち気に掛けていられないと思ったのです。
実際、さっきの戦い(というか一方的な虐殺)の時も、こびとへの被害なんかまったく考えていませんでした。

話は私のウルトラヒロインとしての適性検査まで遡ります。私に突然変異体であるG適正があったのが発端でした。
G適正とは類稀なる強靭な肉体に強化できる適正で、私が最終レベルアップで覚醒するまではアカネさんただひとりしか持っていなかったそうです。
当然評議会でも議論になり、私は抹殺されそうになったのですが、そこへアカネさんが説得(というより脅迫?)して、アカネさんを監視役にしてこの星に送り込まれたのです。
なるほど、だから適性検査から任地が決まるまで待たされたんですね。同じ時期に志願した人たちは次々に任地が決まっていったのに、なんで私は・・・って思ったのは
そういう事情からだったのだと今わかりました。
「でも、評議会の人・・・ひどいです。抹殺なんて・・・」
「まぁまぁ、そんなに怒んないで。もう、逆にいつでもあいつら消せるんだから。」
確かにそうです。評議会の持っている宇宙戦艦だって、さっきのあいつらの宇宙船と大して変わらないだろうし。だったら何も恐れるものはないじゃないですか。
「でも、この星の連中もひどいよねぇ。この星を守ってくれたウルトラユカちゃんに攻撃するんだもんね。」
私たちの胸元は近くから集まって来た軍隊のありったけの攻撃を受けていました。
「大きくなりすぎちゃったからパニックになってるのかな?」
私は右胸の近くにある港を人差し指でつついてみました。そこから大規模な地上部隊が攻撃をしていたからです。私としてはちょっと潰して見せて戦意を喪失させようと思ったのですが、
幅3kmもある私の人差し指は、たったの一突きで丸ごと全滅させてしまったようです。
「う~ん、弱すぎですね。」
「だって、私が変身しなくても弱っちいのよ。どんなに手加減しても全滅しちゃうわ。」
笑いながらアカネさんは何隻かの砂粒のような戦艦をまとめて摘まんで磨り潰していました。

そう言えばさっきの奴らはたぶん生き残りがいたはずです。またこの星に攻めてくるのでしょうか?それに関してはアカネさんから明快な答えが返ってきました。
「ああ、大丈夫よ。あいつらが逃げた先の座標はわかってるから。あとで全滅させちゃいましょうね。」
「はい。」
「それとね。最近分かったことなんだけど、ユカちゃん、あたしより全然強くなるから。」
「はい。。。へ?」
「実はねぇ、ユカちゃんの適性ってGGGなのよ。ちょっといままでに例が無いからどんだけ強くなるかわかんないんだって。楽しみねぇ。」
「へぇぇぇぇ???」
Gがいっこだけでこんなに大きくなるのに、3つもあったら一体・・・でも、今は想像しないようにします。なったらなった、そん時はそん時です。

「あ・・・」
私は人差し指を舐めて少し手を伸ばすと、潰さないようにそっと、本当にそっと指先をその場所に押し付けました。
やっぱりそうです。思わず顔がほころんでしまいます。指先に貼りついたたった1mm程度のそれを嬉しそうにアカネさんに見せてあげます。
「あら、怪獣。でも、けっこう大きいわね。ビルと比べると300mくらいかしら。」
「アカネさんとお友達になるきっかけを作ってくれた子と同じくらいですよね。」
私はそう言いながら、親指の爪でその小さな大怪獣を胸の上に落とすと、コロコロと谷間に転がり落ちるその怪獣を見下ろしてほほ笑んでいました。