女神の暇つぶし

作:湯田

■注意とお願い
作中にサイズフェチ描写が出てきます。
そういった話に興味のない方は、読むのを控えたほうがよろしいかと思います。
またフィクションでありますので、作中の名前・地名・文化風俗等は、全て架空のものです。

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あ、女神です。こんにちは。
学生をやってます。
え、女神が学生?女神が通う学校?天界にあったりとか?
いえ、そんな大層なものじゃないです。そこらにある普通の高校です。
まあ女神も学校に通うんだってことで、よろしく。

ぶっちゃけますと、自分が女神だって気づいたの、つい最近なんです。
それまでは普通に人間やってて、この高校も人並みに勉強して入試に合格して入学したら、眼鏡かけてて真面目そうな顔をしてるって言われてクラスの委員長に選ばれて、ついでに幾つか学校の役職もつけられて、クラスメイトから委員長ってあだ名をつけられて、このまま委員長的高校生生活を送るのかなぁ、と思いながら委員長的高校生生活をそれなりに過ごしてたら、ある日「あ、自分は女神なんだ、限定付きじゃなくて万能の」って判ってしまったんですね、はい。
その後?特に何も変わりません。そのまま高校生として過ごしてます。
だって、やることありません。

まあ、女神と気づいた当初は、世界征服やら宇宙征服やら瞬間移動やら時空移動やら、あれもこれもと試しましたけど、一週間でやりつくして、みんな飽きました。
なんでもわかって、なんでもできて当然。
ということは、やる前から結果がみんなわかってしまうということです。

そう、今は数学の授業中ですが、答えは先生が問題を出す前から、とっくに判ってます。
そうですね、数学だったら数学上の未解決問題は全部解いちゃいましたから、なんなら新しい未解決問題を一兆個ほど数学界にプレゼントすることもできます。
でも、そんなことしてもどうにもならないというか、なんにもならないというか。
それは人類にとっては一個解けただけでも大進歩ですけど、女神ができるのはあったりまえです。
そんなものを解いて自慢するのは、人間で言うと大学教授が3×3を解いて大威張りするよりはるかに低レベルなことになっちゃいますので、とてもやる気になれません。
体育なら、オリンピックで金メダル独占することも、なんならオリンピックを毎日開催にして毎日メダルを独占することもできます。でもそれも、人間がやるなら凄いですけど、女神がやったんじゃ幼稚園のお遊戯大会で本気で園児を相手にするオリンピック選手より、もっと幼稚なことになってしまいます。
そもそも、光なんてのろまなものより遥かに速く走れる女神が、地球上でかけっこする意味がありません。
あとは、美人になるとか、美形になるとか。
どんな面相にもどんな体型にも、なろうと思えばすぐなれます。体の大きさも調節自在です。どんなものにも変えられるということは、どんなに変えても意味ないってことです。幸い顔も体型にもさほど不満はないので、そのままにしてます。あ、ニキビは取りましたけど。
あとは、美形の男子を侍らかせるとか。
美少年美男子美青年を数百兆人、全宇宙から選りすぐって集めると、その中心に身長15万光年になって立ってみました。みんなが私を見つめて崇めてる。そう思って最初はうきうきしたけど、直ぐにむなしくなりました。
だってこれ、全部私がやってるのとおなじ、というかやってるんですもの。
私に向ける熱いまなざしも、私がそうしてるから向けてるわけであって、いやそのまま放っておけば百年でも千年でもそうしてはいるでしょうけど、つまらないというか面白くもないというか。
そもそもその気になればいつでもできちゃいますしね。
美形はいい、次は量より質だ、ということで、宇宙の歴史で一番の英雄と言われる人を呼び寄せて、相手にしてもらいましたけど、うん。
相手が何をしてきたのか、何を考えてるのか、何をするのか判っちゃうのって、こんなにつまらないことでしたか。それに、その生命体の規模で言えば、本当に凄い人なんですが、女神の基準からするとちっちゃくてみみっちくてせせこましいんですよね。女神の基準では、銀河系を14578個征服したぐらいじゃ、砂粒一個を動かしたことにもなりません。
その他に政治家やら科学者やら哲学者やら宗教の教祖やら、その他偉人賢人の類をたくさん呼んではみたんですが、どれも同じです。
何をするつもりか、何を言うのか、何が出来て何ができないのか、潜在能力はどこで限界はどこか、みんな判っちゃってますし、教えてやっても彼ら自身変えようもありません。いえ、私が変えてやってもいいのですが、それは結局私がやったのと全く同じ、というか私がやったことです。
虚しい。
過去も未来もみんな判ってる身としては、正直何もやる気が起きないっていうか。
結局どんなことも、やったって無駄無駄、無駄の特売、無駄の初売り、無駄の大売り出し、無駄の開店セール&閉店セールの同時絶賛開催中です。
生まれながらの女神なら分かりきった結果でも、もっと使命感を持って取り組むのですけど、私の場合人間としての意識が邪魔するんですね。こんなことやってもどうせ結果は同じ、なら手を出してどうするの、って。
もちろん、人間としての意識を消すなんてこともできるんですけど、それはまあ自分の意識ですし、いじりたくないな、と。
まあ一応、私にも女神としての使命というか、役目はあります。
が、それはこれからしばらくたってのことですし、それまではどう過ごしても私の自由です。
なので、私は以前通りの委員長的高校生生活を続けることにしました。
生活は前と全くおんなじ、なんですが、ただ「委員長はなんでも出来て凄いね」なんて言われるたびに、ちょっと心が痛みます。だって女神なんですから、できて当然ですし。
ごめんなさいというか、女神なのにこんなことしててすみませんというか、そんなわけでクラスメイトや先生に迷惑かけないよう普通の委員長的高校生として、女神としての力は使わないように過ごしてて、授業も委員長的高校生として真面目に受ける、ふりをしてます。

でも、申し訳ないですけど、やっぱり退屈です。
あ、一応、先生の名誉のためにいっておきますけど、先生の教え方が悪いってわけじゃないですよ?
先生は熱心ですし、教え方もそれなりに上手です、と女神が保証してあげましょう。
でも、私にとっては解き方がわかりきった古臭いパズルを繰り返しやらされてるようなもので…
退屈です。

うーん。
何かやることないかな。
そうだ。
宇宙造ろう。
え、宇宙を造るだって?
はい、簡単にできます。女神ですし。
今まで何個作ったかな。あ、982341939655432140244508027042494155個でした。
さて、982341939655432140244508027042494156個めの宇宙はどうしましょう。
まあ別に、普通に作ってもいいんですが…というか、宇宙なんてどれもあまり代わりばえしないですし。
どうせなら、なにか面白い趣向など、ないものでしょうか?
…残念ながらないって判ってます。女神ですし。
ま、それでも暇つぶしにはなります。
それじゃ、どこに造ろうかな。
教室のど真ん中に置いたって、その気になれば気づかせないのも簡単なのですが、先生やクラスメイトに断りなしに宇宙なんぞ置いたりするのも気が引けますし、私一人で済む範囲にしましょう。
とすると、机の上?手のひらの上?髪の毛の中?耳の穴の中?靴下の中?口の中?胃の中?子宮の中とか?
うーん。ぴったり来ません。
女神なのに珍しい。
その時ぱっとアイディアが湧きました。
うん。じゃ、ここでいいか。
すこし座り直すふりをして、太腿を心持ち広げてからちょっと量子を弄ると、私の股間でビッグバンが起きました。
はい、宇宙の誕生です。
といってもいまはごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく小さな、点にも満たない存在ですが、それでもちゃんとした宇宙です。
というか、宇宙の最初はみんな、そんな大きさです。
まあ、最大でも私の股の間にゆうゆう収まる大きさに調整してますけどね。

私はできたての宇宙をさっと観察しました。
え、別の宇宙のことを判るのかって?
それはもちろん、女神ですから。
その気になれば素粒子一個一個の動きを実況中継することもできますが、やったら『委員長がなんだか凄い早口言葉をしゃべりだした!』と驚かれるでしょうし、授業の妨害ですからやりません。
ビッグバンの後、幾つかの力ができて、宇宙は急激に膨張して光ができ、ようやく元素ができ、物体が作られるようになりました。恒星ができ、銀河系や銀河団なども形成されていきます。
もうしばらく経って宇宙が大分冷えた頃、惑星が生まれて、やがてその中から、生命体が生まれました。
なにか面白そうな生き物でも出てこないものでしょうか。
私の太腿の圧迫にさらされてるので、ものすごい超重力に対応した生き物になるとか、
私の体から放出される水分で、大半が水棲生物になっているとか、
私の股間の匂いに刺激されて、みんなとってもエッチな淫猥生命体になるとか、
そんなことはありませんでした。
みんな、ごくごく普通です。ま、判ってましたけど。

さて、生まれた生命体は、これも決まりきった栄枯盛衰を繰り返してます。
大抵は生まれた星から出れずに終わってしまうのですが、中には頑張って宇宙に進出し、スペースコロニーを作ってそこに住んだり、別惑星に植民地を作ったり、進出したものと元の惑星で対立したり、銀河系を二分した宇宙戦争をしてみたり、あげくに双方とも共倒れになったり、まあそんなことの繰り返しです。
その中で、幾つかの銀河団にまたがる文明圏が形成されました。
これはなかなかの規模ですね。
幾つかの異なる文化圏が、珍しいことに協調して物事にあたってます。
彼らの間では結構な年月の平和が続き、その間、ある計画が推進されていました。
計画は何度も困難を乗り越えて数世代に渡って進められた結果、ついにある成果を得るに至りました。
その日、文化圏の中心星にたくさんの人が集まっていました。
一億人を収納可能の特設の会場に345674588人が詰めかける中、計画の代表格の生物が、割れるような拍手(に該当するふるまい)を浴びながら壇上にあがり、そして高らかな声で発表を始めました。

「この長い年月の間、我々が積み重ねてきた努力が実を結ぶ日がきました。
我々が住む世界はいかに形作られているのか?
それを知りたいというのは、全ての知性ある存在が抱く問いであります。
我々はついにその答え、少なくともその一端を知り得えました」
彼が一旦言葉を切ると、壁に図が描き出されました。
へえ、よくできてる。
彼は図を示しながら、また話を始めました。
「このように、我々の宇宙の周囲は囲まれているのです。
我々の宇宙のこちら側に、巨大な壁状の構造体が展開されています。
この構造体について検討した我々は、形状から「超グレートウォール」と名づけました。
超グレーウォールの両端は、このように円筒形に似た、二つの構造体に接続しており、我々の宇宙はこの構造体に挟まれるように存在しているのです。この二つの構造体は、「超グレートサイバックモール」と名付けられております。
さらに、超グレートウォールと超グレートサイバックモールにほぼ直角で交わっているのが、さらに別の構造体であります。この、平行している二つの構造体の構成については見解が分かれております。超グレートウォールとも、超グレートサイバックモールとも違う、おそらく双方が別の構成体でではないか、との意見が多数であります。現在時点では、こちらの構造物を「超グレートシート」、この構造体は「超グレートファブリック」と仮称しています。
このように、我々の宇宙は五つの方角を囲まれています。
では、その先はないのでしょうか?
ただ一箇所、超グレートサイバックモールのはるか遠方に、現時点では調査も推測も及ばない、深い空白が存在しておることを我々は突き止めました。我々はこれを、「超グレートギャップ」と名づけました。
皆さん!我々は、この調査結果を更に確かなものとすべく、更なる調査を続けることを提案するものであります。
超グレーウォール、超グレートサイバックモール、超グレートシート、超グレートファブリック、そのいずれかに到達すること。あるいは、超グレートギャップの先に我々の探査の手を及ばせること。それこそが我々を、更なる段階、更なる知性の高みに至らせるものであると、私は確信いたします」
ものすごい拍手(に該当するふるまい)が、発表者を包みました。

ええとこれは、彼らが自分たちの世界がどういう状態にあるか、つまり私の股間の中、パンティと両ふともも、スカートと椅子の座面に囲まれてるってことに、朧気ながらも気づいたってことです。
いやこれ、なかなかすごいことですよ。
ふつう生命体が観測できるのは伝達媒体、この宇宙だと光が到達できるところまでで、そこから先はもう判らない、観測不能として諦めてしまうのが大抵です。
ごく一部の文明が知恵と勇気と根性を出して自分たちの宇宙の先を知ろうとするのですが、その中で成功するのはさらにごく一部、それでも判るのはせいぜい隣の宇宙ぐらいまでです。
それなのに、この宇宙の規模からするとはるか彼方の、しかも宇宙よりずっと大きな存在を見出し、その上形もけっこう正確に導き出してます。
正直感動です。
他の宇宙が同じように超巨大な女神の股間にちんまりと収まっていたとして、さてどうやってそれを知り得るのでしょう?んなアホな、と思うなら、そんなことは絶対にない、って証明できますか?
もし彼らが本当に宇宙の外に出ることができて、私の体かスカートか、それとも椅子のどれかに到達できたのなら、彼らに正式に挨拶して、交流を持ってもいいでしょう。
女神からのご褒美です。
さてさて、果たして…


「次、委員長、じゃなくて井波」
「はい」
指名された私は起立して、私は少し考えるふりをしてから答えました。
「正解だ。流石だな、委員長、じゃなくて井波」
私は着席しました。


私が元通り座った時には、あの宇宙は消滅していました。
糸より頼りない宇宙ですから、立ち上がった時にスカートの動きに巻き込まれた時点で大崩壊していたのですが、とどめに私が着座した時にお尻の下敷きになってました。
あの宇宙からすれば、私のお尻はそれはもうとほうもない、想像することすら難しいほどの大きさで、その重さは表しようもない重量で、あらゆる理を超えた存在です。
そんなものに、ある日突然何の前触れもなく、観測も感知もできないうちにのしかかられたのです。
あわれ宇宙は私のパンティの染みにすらなれず、存在の欠片すら残さず消え去ってしまいました。
まあ、あんなにちっぽけな宇宙ですから仕方ないといえば仕方ないです。
中の生き物もみんな苦しまず、というか死んだことすら気づいてないでしょう。
そもそも私が作ったものですから、どうしようが私の自由です。
それに、あの後どうなるか、もう判ってますし。

でも、なんとなく気がとがめます。
一度作ったものは最後まで面倒をみなければ、というのは女神の心。
他の存在をむやみに弄ぶことへのためらいは、人間の心からでしょうか。

まあ、時間はありますし。いいでしょう、やり直しです。
私はささっと宇宙を再構成しました。
ええっ、宇宙の再構成だって?
はい、もちろんできます。女神ですから。
再生された宇宙は粒子の一個に至るまで、全ての面で前と同じです。
中の生命体は、何かあったことすら気づいてません。

ひょっとして、もしかして、私の考えと違う動きをする粒子が一個ぐらいはないか、そう思ってチェックしましたが、一個もありませんでした。
再構築された宇宙では、宇宙の外に出ようとする動きは進みませんでした。
お定まりの内輪もめ、勢力争い、論争、喧嘩、足の引っ張り合い、そんなものに時間は費やされてるうちに機運は立ち消え、せっかくの文化圏も衰退して滅亡してしまいました。
その後は大した文明も興らず、新しい生命の誕生も減り、惑星や恒星の活動も徐々に下火になり、そのままのろのろと時間が過ぎ、やがてお定まりの時を迎えました。
はい、おしまい。
宇宙の終焉です。
授業中に生まれて、授業中に終わった宇宙でした。
まあ、初めから終わりまで完走できたんですからよしとしましょう。

さて、暇つぶし、なくなっちゃいました。
どうしましょう?もう一個造る?
やめときます、もう時間もないし。
もっと短縮版も作れますが、どうせそんなに変わりませんから。
あとは授業が終わるまで、おとなしくしてたほうが良さそうです。

それにしても、退屈です。
あくびを噛み殺して真面目な顔をするのは大変…なんてことはありません。できて当然です。
私、女神ですし。