踏んでも壊れない

作:湯田

■注意とお願い
作中に巨大な女性がでてきますので、そういうものに興味のない方は
読むのをお控えいただくことをお勧めいたします。
また、フィクションでありますので、作中の名前・地名・文化風俗等は、全て架空のものです。

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それは地震がきっかけだった。
街の中心にある小高い山。そこには触れてはならないものがある。
言い伝えは由来も知られていない。ともかく、遙か昔から語り継がれてきた。
実際、その近くに寄ると、何か触れてはならないものを感じる者は多い。
だから人々はそこに街を創っても、その小山には小さな神社を造ったままそっとしておいたのだった。

この前の地震はそれほどの大きさではなかった。
だが、古びた神社の社殿が崩れ、その下から何か、黒いものが姿を見せたのだった。
そっとしておいたほうがいいのではないか、という意見も多かった。
しかし、神社を修理するためにもその物の正体を調べないわけにはいかない。
土を取り除ける作業が始まった。
工作機械を入れず人力だけで進めたため、作業はなかなかはかどらない。
そして土の中から姿を見せ始めたものに、人々は首を傾げた。
「これは…」
物体の大きさは、二階建ての家を四、五軒は集めたぐらいはあろうか。
一見すると黒い石のように見えた。
だが、これを石といっていいものか。
滑らかな肌は明らかに自然のものではない。
大きさは、掘り出されたところを見る限り長方形のようだった。
「なあ、やっぱり…」
作業員達は互いに顔を見合わせるようになった。
「止めたほうがいいんじゃないか?」
「ああ、でないと…」
段々と不安な雰囲気が漂い始める。
神社の神主と調査の指揮していた街の担当者は、石を前にして話し合った。
「止めよう。どうも、嫌な感じがする。でないと…」
「しかしここで止めては神社は壊れたままです」
「構わん。そんなことより、もしあれが来たら大変なことになる」
神主は強い口調で言った。
その時、上の方から声が聞こえた。
「この石、字が大きくて読めませんでしたけど、上に何か書いてあります」
「ん?読めるかね?」
「ええ」
「いかん!」
遮る前に、読み上げる声が響いてしまった。

「力を求める者、この石を踏み割れ。
 されば相応しき者に、大いなる力与えられん」

「大いなる、力じゃと…」
神主が呆然とした声を出した時だった。

ずーん
遠くから、地鳴りの音が響いた。
「う、埋め戻せ!早く!」
真っ青になった職員が唇を震えながら指示を下す。
だが、遅かった。

ずーーん
ずーーーん
ずしーーーーん!
ずしーーーーーん!!!

地響きはここめがけて近づいてきていた。
しかも二箇所から。


ずしーーーーーーん!
南から近づいてくるそれは、真っ白な、小山のような一歩を踏み出した。
進路にいた者たちは、必死になって逃げ惑う。。
だが、草を編んで造ったような履物がすっと上にあがると、その先にいた人間たちはまとめて跳ね飛ばされ、あっさり宙に投げ出された。
白と緋色の衣をまとったそれは、足元になど気を向ける気配すらなく、一歩一歩、建物を踏み砕きながら、小山目指して進んでいく。

「ひぃっ!」
作業員達は必死になって山の反対側を駆け下っていた。
「だから、やめろといったのに!」
誰かの叫ぶような声も、もう遅い。
ぶん、っと彼らの頭上に、巨大な、茶色の物体が振り下ろされた」
「ぎゃあ!」
瞬時の悲鳴を押しつぶして、大きな靴が小山の前にその姿を現した。

「来てしまったか…」
やはり、あれを呼び寄せてしまったのだ。しかも、二人も。
まだ小山の上に居た神主は、息を飲むと南の方のそれを見上げた。
小山の上に居ても、見上げなければならなかったのだ。
それは女の形をしていた。姿形は若い人間の女性、そのものだ。
だが、大きい。人間の何倍も、何十倍あるのだろうか?
正確な所は判らない。測ったものがないのだ。

止まっていると、長い裾に覆われて足元は見えない。
その裾で、何件の建物が跳ね飛ばされたことだろう。
辺りには悲鳴や叫びが響いている。
だが、それの耳には届かないようだった。
それは、正面を油断なく見据えていた。
しばらく視線を向け合う二人。
北の方からきたそれが、先に口を開いた。
「お久しぶりですわ、ミ・コーさん」
「ふん」
ミ・コーと呼ばれた女巨人は鼻を鳴らした。
「あら、挨拶の仕方もご存知ありませんの?」
「知ってるわよ。腹黒陰険女に挨拶なんぞしたくないだけよ、メイドゥ」
「まあ、それはそれは。せっかくお会いしたのに、随分なご挨拶ですわ」
ミ・コーと対照的な、白と黒の服装の彼女はくすりと笑った。
「ところで、こんなところで何をしてらっしゃるのです?」
ミ・コーはまた鼻を鳴らした。
「あんたと一緒よ。これだけの力、気づかないわけがない」
「…」
薄く笑ったままのメイドゥを無視して、ミ・コーは山の上にずっと身を屈めた。
大きなな口が吹く吐息に山の木々の枝が揺れる。
「『力を求める者、この石を踏み割れ。
 されば相応しき者に、大いなる力与えられん』…か」
「やはり…ですわね」
ミ・コーが身を起こした時、メイドゥの顔から笑みは消えていた。
「というわけ。この力は私がもらうわ」
「さて、それはどうでしょう?」
「やるの?」
身構えたミ・コーの両手には、いつの間にかその身の丈に相応しい大きさの箒が握られていた。
向かい側のメイドゥも、槍のように持ったモップの先を突き出している。
「…」
「…」
先に得物を引いたのはメイドゥだった。
「お先にどうぞ」
そういうと、掌を上に向けて促す。
「どういうつもり?」
「あなたには、無理でしょうから」
「なんですって?」
「書いてありましたでしょう?『相応しき者』って。
 そんなぞろっとした格好をしている貴方は、相応しき者とは思えませんわ」
そういうとメイドゥは首を振る。
今度はミ・コーが鼻で笑った。
「これはね、神の力の体現、神に等しい力を持つ私に、最も相応しい服装なのよ。そんな事も判らないとはね」
やれやれ、とばかりに溜息をついてみせる。
「あんたの方こそ、そんな使用人の格好して恥ずかしくないの?」
「貴方の方こそ、この服の意味が分からないとは。いいですか、この服は奉仕の印。
 この世界で最強の私がこの服装を身に纏うからこそ、意味があるのです。
 他の弱者は、至高の存在たる私の姿を見て、私の慈悲、すなわち奉仕によってのみ生かされているという事を、思い知らされるのです」
「…よく判らないけど、いかにもあんたらしいヒンねじまがった考えだわね。
ま、邪魔をしないってんならいいわ。そこで私が大いなる力を手にするのを、指を咥えて見てなさい」
そういうと、ミ・コーは箒を持ち直した。
「さて、まずは邪魔な土をどけなくちゃね」

神主は、巨大な睨み合いを小山の頂きから見上げていた。
もはや助かる見込みはない。だが、せめてこの顛末をできるだけ見届けたい。
石の影に身をひそめて見守る神主に、二人の一挙手一投足が伝わって身を震わせ、二人が上げる声がある時は高く、ある時は低く大気を満たした。
やがて話がついたのか、南の方の巨人が一歩踏み出した。
そして手に持った巨大な物体を小山に向ける。
ぶんっっっっ
無数に別れた枝先が襲いかかり、今まで何十人がかりで掘りあげてきたより遙かに多い土を宙に舞い上げた。
ぶんっっっっ
神主は、大木の幹に等しい太さの枝が恐るべき勢いで迫ってくるのを見て気を失った。
もう一掃きが、残った土と神社の残骸、そしてそこに居た人々を、街中に広く弾き飛ばした。

「これでよし。じゃ、いくわよ!」
人間にとっては見上げる山でも、女巨人たちにとっては膝より低い、せいぜい足台のようなもの。
ミ・コーは足を高く上げると、剥き出しになった黒く光る石の真上に振り下ろした。


「はぁ、はぁ、はぁ…」
「だから言ったでしょう、貴方には無理だって」
しばらくして、息を付くミ・コーに、メイドゥはむしろ同情したような声をかけた。
「なんにも考えずにやたらめったら踏んづけるだけ。だいたい、その草を編んで作ったゾーリとかいうもので、石を割ろうというところに無理がありますわ」
「ぅ、うるさいわね…そういうあんたは…」
「私ですか?」
メイドゥは自慢げにスカートの裾を捲ってみせる。
「こんなこともあろうかと、鋲付きのブーツを履いてきたのですわ。次の事を考えて身支度をする。当たり前のことですわ」
メイドゥは軽く足を持ち上げると、まだ無事だった商業ビルの上にすいと下ろす。
がしゃぁああああんん。
ビルは一瞬で、砂糖菓子のように粉々になった。
「このとおり。さて、それでは」
メイドゥはスカートの裾を広げると、高く右足を持ち上げた。
視線を石に据え、キラリと瞳を光らせる。
「真ん中に力を集中!そこが一番割れやすい!いきます、一点集中三連踏み!」
ズガーーーーーン!ドカーーーーーン!!ガガーーーーン!!!
石の真ん中にメイドゥの巨大なブーツが三度、振り下ろされた。
「ど、どうです?」
土埃が治まってから覗き込んだミ・コーが首を振った。
「割れてないわよ」
「ならば、かかとで!」
ズガーーーーーン!バキーーーーーーン!
「割れてないわよ」
「そ、それでは、つま先で!」
ガコーーーーーン!バキーーーーーーン!
「変化なしね」
「…中央が駄目なら、末端を狙います!角は、力をいれればかけやすい!」
「はいはい」
ガン!ゴゴーーーーーーン!
「傷一つついてないわね」
「ええっ?なら…」

しばらくすると、メイドゥは先程のミ・コーと同じように激しく息をしていた。
「いやはやご苦労さま」
「おかしい…ですわ…どうして…割れません…の?」
息の合間に、切れ切れに声を絞り出すメイドゥ。
「さあ?やっぱりあんたは、『相応しき者』じゃないってことでしょ」
「そ、そんなことは…」
「ま、あれこれやったんだから、あんたは暫くお休みしてなさい。その間に私がやってやるわ」
ミ・コーは腕まくりをしながらいった。
「こ、この…」
「ちょっと待ったーーーーー!」
二人がぎょっとして見上げた先に、もう一人の巨人が姿を見せていた。
ぴっちりとした服に、長く切りそろえた髪。
「ボ、ボーディコン…」
「生き残りが居たなんて…」
かつて、この世界を文字通り席巻した一族の末裔。
彼女たちの全盛期には、ミ・コーもメイドゥも、世界の片隅で息を潜めていることしかできなかった強者である。
「ふっ」
ボーディコンはしゃがみ込んでいる二人を見下ろすと薄笑いを浮かべた。
「どきなさい。あんたたちじゃ無理よ」
「な、なによ…」
ミ・コーは何とか立ち上がったが、それでもボーディコンの背は頭一つ分以上高い。
体格差は歴然だった。
「まったく、見てらんないわね。いい、上にあるものを下から踏もうってのが、そもそもの間違い」
そういうと、ボーディコンはひらりと小山の上に飛び乗った。
「それで、踏んづけたつもり?」
「…」
メイドゥはボーディコンの身のこなしに目を見張った。
あれほどの巨体が着地したというのに、ほとんど揺れすら起こさないなんて…やはり、只者ではない。
「見てなさい、オタチダイの上で鍛えた足さばきを!」
ボーディコンの足が、巨大なハイヒールとともに踊りだした。
小刻みに、まるで削岩機のように細かく石を叩き動かす。
「こ、これは…」
目にも止まらない動きとはまさにこのことだった。
溢れでた振動は下にいる二人の体を震わせた。
街の人間たちなど、もう自分では立っていることもできず、ボーディコンの脚の動きにつれて踊り跳ねまわる豆と化していた。
「フゥウウウウウウう!ヒュうううううううう!」
ボーディコンは時折手を突き出し、奇声を上げる。
その声に合わせるように、揺れはいよいよ激しく、振動はさらに細かくなっていく。
「フゥウウウウウウう!ヒュうううううううう!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン

「ふう」
小一時間は踊り続けたボーディコンは、またしなやかな着地を決めてみせた。
踏み続けられた小山はほとんどまっ平らに、高さも半分ほどに減じていた。
「さってと…あれ?」
だが、見下ろしたボーディコンは顔をしかめた。
石は、前と全く変わっていない。
「どういうこと…」

そんな馬鹿な。
全てを破壊しこの足元に跪かせてきた究極のステップ、バ・ブールが効かないなんて。

「手応え、いいえ、足ごたえはあったわ。息を整えて、もう一度よ!」
「何よ、今度は私よ!」
「いいえ、私ですわ!」
じりじりと間合いを詰める三巨人。
なんとしても、力を得なくては。その為にはこの二人には…

睨み合う三人に、急に影が差した。
ずどーーーーーーーーぉお~ーーーーーーーんんんんんんんんんんんんんんん
今までとは桁の違う轟音が、地方一帯に響き渡る。

はっとして見上げたボーディコンが呻いた。
「ジョ=シコウセイ…」
この世界最強にして最大の存在が、こちらを悠然と見下ろしていた。

「チビたちが何をやってるのかと思ったら」
嘲笑する声が遥か上空から響く。
「さっきね、何かの力を感じて暇つぶしに来たんだ。そしたら、あんたたちチビどもが
そんなちっこいものを相手に、ふうふうはあはあ、もう、ばっかみたい」
「見られて、いたのですか…」
メイドゥが呟いた。
「まったく、小さいって惨めよねえ。ま、あんたたちにはもっと小さい、虫けらの相手が相応しいってこと」
反論したくとも、音圧に圧倒されて三人は口を開く事すらままならない。
それでもボーディコンが、気を振り絞った。
「踏み潰せば何か力が手に入らしいじゃない。どうせ大したことないのに、必死になっちゃって
「そ、それなら…」
「どきなさい」
宣言は一方的だった。
黒い、人間の持ち物であるならパンプスと呼ばれる巨靴が、悠々と上空に進み始める。
踏みつける気だ!
三人は、慌ててその場をから走りだした。
上空を悠然と覆った靴の底、それがまだ見える。何とかしてここから逃げ出さないと!
もはや恥も外聞もない。
彼女たちの足元で、街と人々は跳ね飛ばされて蹴散らされていたが、もはやそれに気づくゆとりもない。
巨人の威厳も何もかも捨てて、三人は駆け続けた。

彼女たちの背後から、ごうっという音を立てて突風が吹く。
「きゃっ」
ミ・コーは半ば吹き飛ばされるようにして尻餅をついた。
その下に巻き込まれた人々のうち不幸な人は彼女の重みをまともに受けて一瞬でぺしゃんこになり、もう少し幸運な人は真っ赤な布地の中を出口を探してもがき回る。
ミ・コーは自らの下の惨状には気づくこともなく、地面に降臨しようとする巨大な足を見つめ続けた。

着地した。

暫くして、地面が猛烈な勢いで揺れ始めた。
「地面がバラバラになりそう…」
座り込んだまま、懸命に手で体を支えるメイドゥ

「くぅっ」
少し余裕のあるボーディコンは、巨足を見ながら唇を噛んでいた。
誇り高き一族がこのような目に遭うだけでも耐えららない屈辱。
だが、シコウセイがさらに大いなる力を得てしまったら、その差はもはや絶望的だ。
それこそ自分たちは、小人達と同じように、彼女の大いなる足の下で這いずりまわる虫のような存在になってしまう…

「やった、かな?」
上空からシコウセイの声が轟き渡る。
巨大パンプスが、またゆっくりと上がり始めた。

「ない!」
「無くなった…」
[見えませんわ…!」
三人は悲鳴ともうめき声とも言える声を出した。
黒い石はあったはずの位置に見えない。
流石の石も、あの大足の直撃には耐えられなかったのだろうか?


「あそこ!」
メイドゥが指を差した。
黒い石は、靴の底に食い込んでいた。
まるで靴の溝に挟まった小石のようだ。いや、シコウセイにとっては実際にそうなのだろう。
「変だなぁ。別に力も感じないし…」
シコウセイはつぶやくと、右足を持ち上げてパンプスの裏を見た。
「なにこれ、食い込んでる」
しばらく指先で引っ張ってとろうとするが、がっちりと食い込んでいる黒い石は動く気配がない。
「もう、なにこれ!」
靴を脱いだシコウセイは、靴底をバンバンと地面に叩きつけ始めた。

どぉーーーーん!ずぅーーーーーん!がーーーーん!
「ぎゃあああああ」
「うぁあああああ」
「たすけてえええ」
打ち振り下ろされる一撃一撃に、街はみるみるうちに崩壊していった。
三巨人による破壊など比べ物にならない。
巨大な少女が靴に食い込んだ石を取る、ただそれだけのために、街は滅び去ろうとしていた。

「うわあああ!」
「ひえええええ!」
「くぅううう!」
ミ・コー、メイドゥ、ボーディコンの三人も、逃げまわるのに必死だった。
瓦礫とはいえ、直撃を食らえば無事では居られない。
だが、シコウセイにとっては振り下ろした靴の跳ね飛ばすちりのようなものである。
「なんて屈辱なの…」

「もうっ、いい加減にしてっ」
シコウセイがひときわ力を込めてパンプスを叩きつけた。
「あっ」
四人の目にあの黒い石が靴底から離れて飛んだのが映った。
一瞬の光。
「!」
「!」
「!」
石はちょうど四人の中間辺りに落ちていく。
なんという力の波動!
絶対に、どうしても、何が何でも手に入れなければ。
もう甘いことなど言っていられない。
力がなければ、虫けらと同じ。先ほどまでのように、巨人の思うままに弄ばれ、惨めな様を晒すことになる。
でも、力を手に入れれば!あの力を手に入れれば、今度は自分が、シコウセイと同等になれる。
いいや、それ以上。あの力は間違いなく途方も無い。
ならば、シコウセイを遙かに上回る大巨人にだってなれる。
今度は自分があの大巨人を弄んでやれる。なんと心地のよいことだろう!
三人は我を忘れて駈けていく。

姿勢を崩して座り込んでいたシコウセイは、懸命に石に近づいてくる三つの小さな姿を見てシコウセイはクスリと笑った。
まったく、あんな石ころ相手に夢中になって!
せいぜい頑張んなさい。もっと近づいたら、指で弾き飛ばしてやってもいいし、息を吹きかけて吹き飛ばしてやってもいい。せいぜい弄んでやろう。
だが、シコウセイはふと顔色を変えた。
いや、あの力はただごとではない。他の誰かに取られたら、厄介だ。
ひょっとして…いや、だからこそ私が手に入れるのだ。
そうすればもう、私は絶対無敵、この世界に叶うものはもはやない。
いや、この世界ごと弄ぶことだってできるだろう。
それに飽きたら…
シコウセイが気を逸らしていた隙に、三人の姿は石の直ぐ側まで近づいていた。
いまはちょっと姿勢が悪い。いけない!早く石をとらないと。
シコウセイはねじれた格好のまま、手を伸ばす。


四人が黒い石に触れようとしたその時。
遥か上空から、世界を踏み抜いた肌色が出現し、遙か広大なこの地方一帯を柔らかく、足裏の形に平らに押しつぶし、地中深く埋め込んだ。




「えーーん」
「ちゃんとサンダル履きなさいっていったでしょ」
母親は素足を地面につけた娘を見て軽く叱った。
ちょっといつもと違う道を歩いていたら、喜んだのか娘が走りだしてこの様だ。
ねだられたから買ってみたのだが、どうもこのサンダルは娘の足には合わないらしく直ぐ脱げてしまう。
「何だか足についてるよ、気持ち悪い~」
半べその娘を軽く抱えると、母親は足の裏を軽く手で払った。
最後までこびり付いていた小さな四つのごみも、ふっと息を吹きかけてからハンカチでぐいとこすったあとは、綺麗に無くなった。
「さ、サンダル履きなおしなさい。買い物いかなきゃ」
「はーい」
『何かここにあったような気がしたんだけど…気のせいかしらね』
母と娘は手を繋ぐと、二人はまた歩き出した。