サークル終わり、俺は沙映とふたりで別の運動系サークルに入っていいる綾香を待つため部室に残ってだべっていた。
俺ら三人は大学に入ってから知り合ったとはいえ仲がいい。三人で帰って飯をいったりもよくする。
最初この2人を見たときは本当に可愛いと思ったが、もう完全に慣れていまではただの友達としかみていない。
「よくこんな暑いのにテニスなんかするよな。綾香も。」
「ほんとだよー。普通に歩いてるだけで汗かくのに。」
ヒグラシが鳴いている。いつもこうやって綾香を待っているのだが今日はに何か楽しみなことがあるらしい。何があるのかは綾香が来るまで教えてくれないらしいががウキウキしているのは見てわかる。
「おまたせー!」
部室に綾香が息を切らせながら入ってきた。
「もー遅いってー。」
「ごめんごめん!」
「てか綾香汗だくじゃん。」
「だって沙映が急げって言うからー。」
サークルが終わってそのまま急いでこっちに来たらしい。スポーツウエアは汗だくでもうビショビショになっている。今もまだ汗をかいている。
綾香が俺の前を通る。ほのかに汗の香りがするが全然嫌な匂いじゃない。
「おい綾香汗臭いって」
茶化してみる。
「言ったなー!ほれほれ」
服をパタパタとさせこっちに生暖かい風を送ってくる。さっきよりも汗の匂いがはっきりとする。
「やめろってー。てか沙映、なんかやるんだろ?」
そう沙映問いかけると、佐江はニコニコしながらカバンを探り出した。
「ジャーン!」
ビデオかめらのようなごつごつした機械を出した。でもさすがに俺でもそれが何なのかは分かる。
「縮小機じゃん。どこで手に入れたんだ?」
「ちょっととある研究室のをこっそり借りてきた。」
「借りてきたって…。」
完全に勝手に持ち出してきたんだろう。見つかると絶対やばい。ただ俺も綾香も縮小機には興味津々だった。
「ヤバ―!初めて本物生で見たかも―!ねえそれで何するの?」
「わかんないけどなんか遊んでみない?」
「いいねー!」
「遊ぶってでもなにすんだよ」
沙映はしばらく考え込む。はっと顔を上げるとニヤニヤしながら俺をじっと見てきた。
「ねえ、脱出ゲームしてみない?」
「俺が?」
「そう!脱出できたらご飯おごる。できなかったら罰ゲーム。やる?」
「いいな!でも脱出ってどこに閉じ込めるんだ?」
クスッと笑ったかと思うと、あーんと言わんばかりに口を大きく開く。沙映の口の中が丸見えになる。
真っ白できれいな歯にピンクで柔らかそうな舌。
もしかして脱出って...。
「今からあたしの口の中に入ってもらいまーす!」
本気なのかこいつ。まあでも、ちょっと面白そうかもしれない。
俺は身体能力は高い方だ。いくら小さくなってもこんな女子一人の口から脱出なんて簡単だろう。
「いいよやってやるよ」
「じゃあさっそく!100分の1くらいでいい?」
「2センチくらい?余裕じゃん」
「えーじゃあ5ミリぐらいにしてやるー」
「ミリ!?まあいいかかってこいよ」
5ミリがどんなものなのかはわからない。ただ勝てば飯をおごってもらえる。乗るしかない。
「じゃあちいさくするよー。えいっ!」
俺に向けた縮小機から光が出る。急に視界がゆらゆら揺れ始め、まともに立っていられなくなる。揺れる視界のなか沙映と綾香を見ると、2人がだんだん大きくなっていく。距離は変わっていないはずなのに二人が遠くなっていくように見える。
ひどい頭痛がし、俺は顔を伏せてしゃがみこんだ。まだ小さくなっているみたいだ。
しばらくして、視界の揺れと頭痛がおさまった。
「えー!ちっちゃ!これがそうなの!」
綾香の驚いた声が上空から爆音で響く。
「ちょっと小さくしすぎたかも」
佐江の声も拡声器を使ったみたいに爆音だ。
上を見上げて、俺は腰を抜かしてしまった。
塔のように巨大な人間に見降ろされている。
そうか、俺の300倍か。こんなにも小さいなんて。
俺はなにもできずただただ見上げていた。
すると沙映の方が動く。ぐんぐんと俺の方に巨大な手が伸びてきたかと思うと上空が手のひらで覆われる。二本の太い柱が俺の方に迫ってきたかと思うと俺は挟み込まれてしまった。
分かっている。今のはただ沙映が俺を摘まんだだけなのだが、5ミリの人間からするとこんな風に見えるのか。
全身がものすごい勢いで急上昇する感覚に襲われたかと思うと俺は薄ピンク色をし柔らかい広大な空間に投げ出された。
五本の柱に分岐し、そしてこの感触。人の手のひらなのか。
「やっぱちっちゃー!」
生暖かい風とともに綾香の声が響く。そっちを向くと目の前に巨大な人の顏があった。
目や口、一つ一つがおれも何倍もあり、俺と同じ人間とはもはや思えないが、この巨大な人はやっぱり綾香だ。
「ねえ大丈夫?」
反対側から沙映の声が響く、振り向くと佐江も同じ巨人となっていた。
2人の巨人に見つめられ、俺はどうすればいいのか分からない。急にものすごい恐怖に襲われる。
「もうちっちゃすぎてゴミだよゴミ!」
綾香が茶化してきた。
いつもなら笑って言い返すが、このサイズ差では何も言えない。むしろ本当にゴミになった気分だ。
そうだ。もとに戻してもらおう。俺は大声で叫び、手を振って戻してくれと沙映に訴えかける。
「準備OKってこと?」
違う。そうじゃない。
するともう一つ巨大な手のひらが目の前に現れ、先と同じように俺を摘まもうとする。
俺は逃げようとするが簡単につかまってしまった。
二本の指に挟まれたままどうすることもできない。
沙映の顔がぐんぐん近づいてくる。今から食べられてしまうのか。嫌だ。
巨大な二つのピンク色で艶めくふくらみが前まで持ってこられた。これが沙映の唇なのか。
「じゃあいくよー」
ぐわっと唇が開いたかと思うと、目の前に大きな空間が広がる。
俺は必死に指をたたきやめてくれと訴えかけるがだんだんと口の中へと連れ込まれていく。
だいぶ奥に進んだところで、俺を挟みこんでいた二本の指が離れてゆき俺は落ちてしまう。
柔らかいクッション素材でケガはしていない。
これが沙映の舌なのか、広く遠くまで続いている。唾液でぬめっとしている。
かなりの湿度、暑さ、そして薄暗い。これが人の口の中なのか。
急に地面、いや舌が動いたかと思うと、ものすごい爆音が鳴り響く。
「制限時間は10分ね」
耳がキーンする中、何とか聞き取れた。声のボリュームを間違っている。
それもそうか、口の中にいる人に対して話しかけることもそうないだろう。
再び地面が揺れ、爆音が響く。
「じゃあ、スタート!」
始まった。
絶対に出ないといけない。
しかし急に真っ暗になる。
さっきまで口をわずかに開けていたおかげで明るかったが、沙映は口を閉じてしまった。
高温多湿な空間に完全に閉じ込められた。下手をすると俺はのどの奥に落っこちてしまう。
記憶をもとに少しづつ進む。柔らかい舌のせいで俺は何度もバランスを崩し倒れ、全身唾液でべとべとする。
こんなの脱出できるわけがない。
すると外からかすかに綾香の声がきこえる。
「ねえ口閉じちゃうと見えないじゃん」
急に光が差し込んできた。綾香のおかげで、口をわずかに開いたんだ。わずかといっても俺が出るには十二分に大きい。
よしこれなら。
俺は慎重にだが着実にしたの上をすすみ後三分の一くらいのところまできた。
このペースなら余裕だ。
しかし急に再び真っ暗になり、舌が持ち上がる。
「ぐっ...」
口内上部と舌にギュッと挟み込まれたかと思うと、今度は舌の上を何度も何度も転がされる。
唾液で溺れ息ができない。必死に空気を求めてもがいていると再び綾香の声がした。
「どんな味?」
また爆音が響き渡る。
「ちょっとしょっぱいかも。でも意外とおいしい」
そうか、沙映は飴玉のように俺を転がし味わっているのか。
ようやく舌の動きがおさまる。
俺はせき込みながらなんとか周りを見渡す。
最悪だスタート位置に戻っている。
そんな。またこんなところを必死に歩かないといけないのか。
もうすでに体力はない。
人の口の中で10分間は意外にも長すぎる。
でも諦めることはできない。ふらふらになりながら。再び歩き始める。
なんとかさっきと同じくらいまで来た。あともう少し頑張れば...。
しかし再び舌が持ち上がる。そして今度は全身を舌にくるまれ動けなくなる。
解放されたかと思えば唾液がたまった場所に落とされ、巨大な舌が上からのしかかってくる。
完全に沙映は口のの中で俺を弄んでいる。俺は必死に暴れるがされるがまま。
きっと沙映にとってはただ遊んでいるつもりなんだろう。ただ俺はそれで死にかけている。
小さくなるっていうのはそういうことなのか。
気付けばまた俺はスタート地点に戻されていた。
俺は何度も何度も外に出ようと進むが、舌先にたどりついたあたりで、沙映は俺の全身を舐め、弄び、またスタート地点に戻される。あとちょっとと思わせたところで、俺の心をくじく。
もうへとへとで這えずりながら前に進む、何とかまた舌先にたどり着いた。
俺はまた舌が持ち上がるのではと身構える。しかし今回は何も起こらない。
いけるかもしれない。見上げると遠くから綾香がこっちを見ているのが見えた。
俺は沙映の前歯に手をかけよじ登ろうとする。
内側から見る唇は外から見るよりもつやつやとし、柔らかそうだ。
あれなら登りさえすれば簡単に外にでられる。
俺は前歯の上にのっかかりそこから思い切りジャンプする。
唇の真ん中あたりに何とかしがみつけた。やっとだ。
「残り1分だよー」
綾香の声がした。いける。
しかしその時だった。上から巨大な柔らかいものに押さえつけられる。
しかし舌とは違う。
唇に挟みこまれたんだ。暴れて前に進もうとするが柔らかい唇は衝撃を吸収する。弾力のおかげで痛くはないが完全に挟み込まれ息もできない。
解放されたかと思えば体大きく揺れる。
なにが起きた?
顔を上げて周りを見渡す。スタート地点にもどされていた。もう絶望だ。
「しゅーりょー!」
また爆音が響く。
大きく口が開かれたと思うと、こんどははっきり綾香の二ヤついた顔をみえた。
「あれー?全然進んでないじゃん」
俺が必死だったことをずっと見ていたくせに。
綾香が続けて言う。
「沙映の口の中がそんなに気に入っちゃった?ずっとそこにいたい?じゃあずーっとそこにいてね」
いやだ。それだけは。やめてくれ。
だんだんと口が閉じられていく。助けてくれ。沙映。早くだしてくれ。
真っ暗になった。再び舌が大きく動き俺の全身をなめる。そして唾液に溺れる。
急に明るくなる。ここは?
手のひらだ。沙映が唾とともに俺を吐き出した。
「えーなんで出しちゃうの」
「だってもう味ないし」
助かった。やっと沙映の口から出れた。
ようやくもとにもどれる。
「じゃあ罰ゲームね」
最悪だ。忘れていた。
「じゃあ今度は綾香が決めていいよ」
そんな。俺はせき込みながら、巨大な綾香に助けてくれと目線を送る。
綾香、分かってくれ。
「さっき汗臭いって言われたしなー」
だめだ。伝わらない。
綾香はニヤニヤしている。まだ遊んでいるつもりなんだ。
俺は必死なのに。
綾香は下に手を伸ばし何かをしだした。ここからじゃ見えない。
「じゃあ今度はここで脱出ゲームしてもらおっかなー」
綾香は大きな布でできた袋をてにしていた。
このサイズ感だと最初は何か分からなかったが、全体をよく見まわして分かった。
靴下だ。しかも綾香がさっきまで履いていた。
絶対に嫌だ。俺は急いで逃げ出す。
「あっ逃げたー。でもそこ佐江の手のひらだから逃げられないよ。」
背後から綾香の指が迫ってくる。しかしすでに体力はない。
体をがっちり挟まれた。
綾香は相変わらずいつも俺を茶化してくるときの顔で俺を見ている。
真下には巨大な靴下の入り口が広がっている。
まずい。もうすでに汗臭い匂いが漂ってくる。
「さっきと同じ10分ね。出られたら戻してあげるー。出られなかったらそのまま履いちゃうよー」
無理だ。俺からしたらどんなに大きいと思っているんだ。
「えいっ」
体が落下していく。出口がだんだん遠ざかっていく。
着地したかと思うと。ころころと体はそのまま転がって一番奥まで落ちてしまった。
「うっ...。げほっげほっ。」
臭い。汗臭いなんてもんじゃない。息を吸ってもものすごくすっぱい臭いしか吸えずむせてしまう。
蒸していてものすごく暑い。さらに靴下は足汗でびしょびしょで全身がベタベタになる。
綾香の足はそんなに臭いのか?もしかしたら小さくなったことで匂いも何倍になっているのかもしれない。
俺はとにかく外に出たい。俺はもがくが恐らく綾香は靴下をくしゅくしゃにし、床においている。
もはや広大な迷路だ。
こんなところに10分もいたら狂ってしまう、ましてやそのまま靴下を履かれたりなんかしたら...。
体力のほとんどを佐江に持っていかれたせいで、上手く動けない。
疲れて息を吸えば、綾香の足の臭いを思い切り嗅がされる。


「10分終了ー!」
靴下が大きく揺れ、光が差してきた。
大きな出口から外が見える。
しかしそこから見えたのは綾香の巨大なつま先だった。
五本の丸い指、暑いせいで真っ赤になり、足汗でべとべとなのが分かる。
俺に襲い掛かってくるようにせまってくる。
俺は反対側に逃げるがここは靴下の中、すぐに逃げ場がなくなる。
振り向くと巨大な足の親指が俺を踏みつぶそうとしていた。
靴下と親指の間にピッチリ挟まってしまう。
最悪なのは、綾香の足指は未だに汗をかき続け、ものすごく猛烈に饐えた匂いを放ち続けている。
臭いの元凶を間近で嗅がされ続ける。
「靴下からすら出られないなんてださー。」
「じゃあ綾香そのまま靴履いて帰ろ」
待ってくれ。死にたくない。
どれだけ叫ぼうと届かない。300倍の人間とはどんなに頑張ってもコミュニケーションを取れない。
「あ、ちょっと待って」
急に締め付がなくなる。
「踏みつぶしちゃうからそこにいて」
足の指の裏が天井のようになっている。この空間はきっと指の付け根のあたり。
確かに空間には余裕があるが、一番匂いのきついところだ。
さっきよりも苦しい。
何かすれるような轟音が鳴り響いたかと思えば、だんだん暗くなってきた。
綾香が靴を履こうとしている。俺は指の付け根をたたき死にたくないと訴えかける。
しかしねちゃねちゃと汗がまとわりつくだけで何も状況は変わらない。
履きこんだスポーツシューズ、しかもさっきまでさんざん汗をかいていた。
比じゃない臭いにに目がいたくなる。
湿度も急に上がる。綾香はさらに汗をかき靴の中はさらに蒸れてくる。
もう足汗がをかなり飲んでしまった。もはや空気までしょっぱい。
こんな場所人間がいていい場所じゃない。
どれだけ俺は待てばいいんだろうか。

目が覚めると沙映の家だった。

「ごめんね。実はあの後、綾香がうちに泊まっていったんだけど完全に靴下の中にいること忘れてて。綾香疲れてすぐ寝ちゃってさ。朝綾香が靴下脱いだ時に足裏に何かくっついてると思ったら、やっぱりそうだった…。ほんとごめん!」
どうやら俺はあのまま綾香の靴下の中で一晩越したらしい。
今生きているのは奇跡に近い。
「今、綾香は?」
「ようやくシャワー浴びてる。」
その時、ちょうど綾香がシャワーからあがってきた。
「あ!おきたんだ!」
「起きたじゃねーよ!お前の足臭すぎ!死ぬところだったんだぞ!」
少し強く言う。するとムッとした顔になった。
怒らせてしまった。しかし本気で怒りたいのはこっちの方だ。
綾香は何も言わず。沙映のカバンを探りだしたかとおもうと、そこから縮小機を取り出した。
「おい!待て!」
縮小機の光を浴びてしまった。
気付くとまたさっきと同じくらいの大きさ、しかもすでに綾香に摘ままれていた。
「じゃあ今日は一日中靴下の中でいてもらうからね。しかもさっきまで履いてた靴下で」
また地獄に連れ戻された。