「新米天使セシル ~冬の悩み~」

 




「あーホント参っちゃう…どうしようかな…」
悩ましげな表情で自分の足を観察する少女。

その足元の脇には脱ぎ捨てられたミドルブーツ。
十分に履かれて革が少しクタッとしている。

「くん…くんくん…!あー!やだもぉ~!!」
自分の足の匂いを恐る恐る嗅いで大きな声を上げる。
「いくら冬の制服とはいっても私にブーツはちょっと…」
頭をポリポリとかいて顔をしかめる。


この少女。髪は神秘的な輝きを放つウェーブがかった金色のショートヘア、肌は透き通るような白さ。
身に纏う衣服は純白の絹。そして背中には美しい羽を生やし、頭上には光り輝く輪が浮いている…。
そう。彼女は天使である。まだまだ天使になりたてで制服にも慣れていない。

冬の制服として茶革のブーツが天国本部から支給される。
「天使はイメージが大切であるッ!」との天国本部の考え方から天使の容姿にはうるさい。
この冬の制服の重要アイテムであるブーツは普段から履いて本物のビンテージの雰囲気を出すことを命じられている。
この少女も言いつけ通り秋からこのブーツを愛用して革をなじませていた。
靴下は身に着けず素足で履くことが強要される。
これも天国本部の「天使は靴下履かないッ!」という意味不明の固定概念からくるものだ。

この天国本部が勝手に決めた「天使は素足にブーツ」がこのまだまだあどけない天使の少女の可愛らしい顔を困らせた表情にさせていた。
彼女は天国学生女子サッカーの大会で活躍していた経歴を持つまさしく体育会系の少女であった。
その女子サッカー界の中でも垢抜けないその素朴な可愛さが注目を浴び天使としてスカウトされた。
天国において天使は女性みんなの憧れの職。
まだ未成年であったが突然のスカウトに彼女はすぐにオーケーを出した。

オシャレとは程遠い生活を送ってきた彼女。足元はスパイクやスニーカー、サンダルばかりでブーツなど履いたことがない。
さらに運動をしており非常に健康体で若い彼女は新陳代謝がとても高い。素足でブーツを履くとムレてムレて仕方がない。
慣れないブーツ、足のケアも特にしたことがないのであまりよくわからない。

何とか仕事を覚えて順調にやってきた彼女に「冬の悩み」が襲い掛かっていた。


「あら?どうしたの?セシル」
「あっ!ルーエル先輩っ…!」
セシルの前に現れたのはロングヘアのなめらかで綺麗な髪をしたルーエルという先輩天使。
長身の彼女はセシルとは全くタイプの違う美麗で大人の雰囲気を醸し出す天使である。
彼女はセシルのことを妹のように可愛がってくれるのでセシルはいつも彼女に甘えている。
天使としての実力は一流で特別に制服に縛られない服装を許されているまさしくセシルの憧れの先輩だ。

「あの…先輩…私…」
「うん?」
優しくセシルの話に耳を傾けるルーエル。
天使であるというのにその笑顔はまさしく聖母マリアの風格…。
セシルはその笑顔に心を奪われ顔を真っ赤にしてしまう。
そして、こんな美しい先輩に自分の汚い足の話なんてできない…と尻込みしてしまった。

「いや、あの…やっぱいいんです…!大丈夫です…!」
「ふふ…!いいから言ってみなさい」

長身で大人っぽいルーエルとまだまだあどけなく少し垢抜けない、まさしく少女といった風貌のセシル。
傍から見ればかなり年の離れた姉妹だ。しかし、実際に彼女たちの年齢差は人間でいう3歳ほどである。

ルーエルの何であろうと優しく受け止めてくれそうなその笑顔と口調にセシルはパカッ!と口を開く。
「あっ…あの…!私…足が臭くて…!!」
「えっ?」
顔を真っ赤にして突然大きな声で悩みを吐露するセシルに一瞬驚いた表情をするルーエル。
「あの…私今までブーツなんて履いたこともないし…汗っかきだし…!それで…!それで…!あううぅぅぅ~…!!」
思わず泣き出してしまうセシル。

「私ルーエル先輩に向かって何恥ずかしいこと言ってるんだろ…」という冷静な考えが頭の中を過り、
悩みを打ち明け興奮した自分と相まって混乱してしまっているのだ。

そんなセシルの様子を見てルーエルは「クスッ」と笑うと嗚咽交じりで泣くセシルの頭を優しく撫でた。
「なんだ、そんなこと…みんなはじめはセシルと同じように悩んでいたのよ?」
「えっ…!?ほっ、本当ですか…!?」

ルーエルの一言にセシルは驚いて顔をあげる。
するとルーエルはにっこりと優しく微笑むと手のひらを広げ、ポンッと大きな箱を出した。

「うわっ!?やっぱ先輩はすごいなぁ~…で、なんですそれ?」
「ふふふ…開けてみて?」
「…?はい…」
セシルはルーエルの意味ありげな笑顔に首を傾げながらも箱を受け取るとゆっくりと蓋を開いた…

「えっ…!?これは…!?」

そこはミニチュアの工場のような空間が広がっていた。
そして、作業着を着た無数の小人たちがうごめいている…。
その小人たちがセシルの視線に気づくと思い思いの動きをしていた一斉に整列をはじめた。

「御用でしょうか!?」

一斉に小人たちが声を発する。
セシルはその光景に「ひゃあああああぁぁぁぁ!!?」と叫び声をあげて箱を落としてしまった。
箱の中から小人たちの叫び声がしながら箱が落下するがサッ!とルーエルがキャッチして一大事は間逃れた。


「手を放しちゃダメじゃないのセシル!」
「だっ、だってそれ…!なっ、なんなんですっ!?」
まさしく混乱状態のセシル。それを余所にルーエルは箱の中の小人たちに「大丈夫?」と話しかけている。
「みんな無事だから良かったけれど…気をつけないとダメじゃない」
「だっ、だからそれ何なんですぅ~!?」
「あっ、ごめんね。これは『世界』なのよ」
「…え?『世界』…?」
ルーエルの発言にセシルは目をまん丸にして驚いた。
「そう。『世界』。」
「『世界』って…普通に私がお仕事で行ってる下界とかと同じ『世界』ですか…?」
「そう。私たち天使は神様のサポート役として主に下界を護り平和に保つことが使命なのは知ってるわよね?」
「ハッ、ハイ…」
「でも『世界』は下界だけじゃない。私たちの住んでいる天界もあればホラ…あなたが天使になった時に記念品としてもらったそのブレスレット…」
「え…?これが何か…」
「その中の飾り石を覗いてごらんなさい…」
「ん…なんかモヤモヤしてますケド…」
セシルは言われた通り手首に身に着けたブレスレットに飾り付けられた上品な飾り石を覗き込んだ。
「それ…『星』なのよ。地球と同じように人も動物も住んでるの…。」
「…!?えっ!?ちょ…それ…冗談ですよね…!?」
「それが冗談じゃないの。その石の中にも『世界』があって天使になると同時にみんなそうやって一つの『世界』を任されているのよ」
「うそ…こんなちっちゃいのに…星なの…?でも…ホント…綺麗…」
はじめは驚きのあまりに言葉を失っていたセシルであったがよくよく飾り石を観察してみてその美しさに見入っていた。


「わかった?天使は下界においては天使だけど下界以外の小さな『世界』では神としての役割を担っているの。
あなたはその石の中の星『パプルピパル星』の神なのよ」
「パプルピパル…なんかかわいい…!」
石の中で煌びやかな光を放つその星を覗き込んでセシルは笑顔になる。
「…って!私が神様ッ!?荷が重いなぁ~…というか急に話が壮大になり過ぎて私の悩みどっかにいってません!?」
「ふふふ…慌てないの。私は既に8つの世界の神を兼任しているの。でも難しいことは何もないわ。ただその世界の平和を願ってあげればいいの」
「そっ、そういうもんですか…」
「ちなみにこの箱の中の『世界』は私が初めて創り出したものなの。
『世界』にはそれぞれ存在理由があるわ。それぞれが存在して全てが均等を保っているとも言えるの。
もちろん、その箱の中の『世界』にも存在理由はちゃんとあるわ…」
「えっ…じゃあこの箱の『世界』の存在理由って何なんです…?」
キョトンとした表情でシエルが尋ねる。
「ふふ…それはね…『足のお手入れ』…」
にっこりと笑ってルーエルが答える。


(足のお手入れ…そうか~…ふ~ん…なるほどなぁ~…って、ん?足のお手入れ…?え~っと…)
「って!!ハアァァァッ!?それだけですかっ!?その為だけにあるんですかこの『世界』ッ!?」
セシルは今日一番の驚いたリアクションをして箱の『世界』を指差した。
その様子を見てルーエルはクスクスと笑っていた。
「セシル。今までの説明で十分わかったと思うけど『世界』と一口に言ってもそれは様々なのよ。
私は8つもの『世界』の神なの。私の足のお手入れの為だけに存在する『世界』があっても何もおかしいことないわ。
それにその『世界』は私が創り出して私が神となって管理しているの。万が一この『世界』が滅んでしまったとしても他の『世界』に影響はない。
それほどに小さな『世界』なのよ。これは。」
ルーエルが箱を持ち上げて笑顔で話した。その流暢な喋り方はいつも通りであるがなんとなくセシルは不安な気持ちになった。
「そんな…滅ぼすだなんて…小さくたってその者達は生きているんですよ…ね?」
「もちろん意図的に滅ぼす気なんてないし、この者達も立派に生きているわ。ただ、存在理由が私の足の手入れのみということだけ。
下界の者たちのようにそれぞれが自分の運命を持ち、様々な目的を芽生えさせ生きているといった複雑な世界ではないわ。
まだまだ私の力ではそこまで複雑な世界は創り出せないの…。」
「そっ、そうなんですか…」

セシルは大きなショックを受けていた。


天使なんて下界の人間の御用聞きくらいの仕事しかないと思ってたのに…。
上の人たちは容姿のことばっかり言ってくるし…。
それなのに…!こんな知らないうちに一つの『世界』の神になっていて、さらにルーエル先輩は8つも…!?
しかも自分の足の手入れの為だけに存在する『世界』を創りだしてしまうだなんて…。
そんな私利私欲のために存在するような『世界』を創りだしてしまってもいいの…?
聖なる存在である私たちが…。

「試してみる?」
「えっ…!?」
ルーエルの突然の申し出に戸惑うセシル。
「だって困ってるんでしょう?足の匂い…」
「ハッ、ハイ…でも…」
「いいから!ほらっ!この中に足を入れれば後はみんながやってくれるから!」
「えっ!?えっ!?えーっ!?」


足元に置かれた箱。
その中には無数の小人たちがせわしなく動いている。
壁際には何かの機械が隙間なく設置されており真中はポッカリと何もないスペースがある。ここに足を入れろということなのだろうか。
セシルは足元の無数の小人たちの視線がくすぐったくて仕方がなかった。
この純白の絹の制服は風に舞ってヒラヒラとしている。
確実にこの『世界』の男の小人たちはセシルのパンティを見ているはず。
スポーツ一筋で恋愛経験など皆無に等しいセシルはそのことを想像するだけで顔から火が出そうなほどに恥ずかしい思いをしている。

一方の箱の『世界』の小人たちも気が気ではない。
今までルーエル神以外の足を洗浄したことなどない。
ルーエル神と同等ほどの巨大さを持つこの少女は一体何者なのか…。
新たな神であるのか。それともこの世の終わりを告げる者なのか…。
小人たちはまさしく天まで伸びるような白く美しい少女の脚の塔を見上げながら思考を働かせる。

「恥ずかしがることないわ。彼らはプロなのだからセシルの足も綺麗にしてくれるはずよ」
ルーエルが優しくセシルに言う。
「うっ…じゃっ、じゃあ…みなしゃんっ!!おっ!お願いしまっしゅ!!」
腹を決めたのかセシルは恥ずかしさで爆発しそうなほどの気持ちだったが目をギュッと閉じて箱の中の『世界』へと足を振り下ろした。


ズドオオオオオオォォォォォォォンンンンッ!!!


とてつもない轟音と衝撃が箱の中の『世界』を襲った。
世界のほとんどを覆い尽くす程に巨大な少女の素足が天から落ちてきたのだ。
ルーエル神のようにゆっくりと慎重に優しく舞い降りるような落ち方ではない。
そのただひたすら暴力的な足裏の強襲に小人たちの大半は吹き飛ばされてしまうほどの衝撃を受けてしまった。

「ちょっ!ちょっとセシルッ!なんてことを…っ!」
さすがのルーエルも悲鳴をあげた。
確かにずっと危なっかしい子だったけどこれまでに不器用な子だったとは…。
「えっ!?はっ!?へっ!?どっ、どうです!?綺麗になりましたっ!?」
「綺麗にとかの問題じゃないわよ…!かっ、壊滅状態じゃないの…!」
箱の中の悲惨な状況を見てルーエルが頭を抱える。
「えっ…!?あっ…………」
セシルは自分の片足が差し込まれたその箱の中を覗き込んでやっと自分のしでかした大きな過ちを認識した。

「せっ、先輩!ごっ、ごめんなさいっ!!」
セシルはすぐさまその場に土下座をした。
ルーエルはそのセシルの様子を見て「ハァ…」とため息をつきながらもにっこりと笑った。
「まったくしょうがないわねセシルは…。でも大丈夫。奇跡を起こしてあげればいいの…」
そう言ってルーエルが目を閉じて念じると箱の中の世界は光に満ち次々と修復されていった。
倒れた小人たちも息を吹き返していた。

「せっ、先輩…!すごいっ!!」
「ふふっ…!とにかくもう次はやらかさないでよ?あまりその『世界』の者達が奇跡ばかりに頼ると『世界』は崩壊してしまうのだから…」
「ハッ、ハイ!そ~っとですねっ!そ~っと…」
セシルはそう呟きながら片足をあげ、つま先部から箱の中へと近づけていった…。



巨大なセシルのつま先が上空から迫る…。
ムワッ!と上がる周囲の温度。そして伝わる少女の汗の匂い…。
まだ足は遥か上空である。
この距離からであっても温度や匂いなどでこれほどの存在感を示すセシルの足はルーエルのものとは明らかに異彩を放っていた。
濃縮された汗の香り…。それはあまりにも攻撃的だ。
無論、箱の中の『世界』の者たちはマスクとゴーグルを装着しているのだがそれらを余裕で突き破ってくる彼女の匂いは実に凄まじい…。


ズ…ズズズズズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンン…………!


ゆっくりと着陸したセシルの片足。
彼女の足の存在により箱の中の『世界』の環境は非常に劣悪なものとなった。
高温多湿の不快感…。むせ返るほどの酸っぱい匂い…。全てがこの巨大な肌色の物体が原因であることは誰の目にも明らかだ。
しかし、これだけ近くから見ていても素晴らしい曲線を描き、透き通るような白さ。
視覚的にはとてもこのような匂いを発するとは到底思えない足。
特にルーエルの足よりも優れているのがその土踏まず。さすがは一流の女子サッカー選手。素晴らしい曲線である。
しかし、足指部分を見てそのケア不足が露呈する。足の爪にはもちろん、足指の股にも巨大な垢がこびり付いている。
無数の小人たちはその足指によじ登り、各々が(小人たちにとっては)巨大な電動ブラシを操作し巨大な垢を削り出してゆく。
さらに足指や足裏の指紋の間に挟まっている汚れも無数の小人たちが巨大電動ブラシを用いて取り除いてゆく。
まさしく全てが手作業。職人技のフットケアである。


一方のセシルはというと足元でちょこまかと必死に動き回る小人たちが可愛くて面白くてクスクスと笑ってその様子を眺めていた。
「先輩…なんかこの子たちかわいいですね…!」
「かわいいだけじゃないの。みんな一生懸命に自分の人生を全うしているのよ?」
「うっ…なんかそう言われると重いです…」
セシルの足指ひとつひとつに無数の小人たちが群がり作業を行っている。
「ほんとにちっちゃいな~…」
セシルは興味本位で足指をぴくんっと動かしてみる。


ゴゴゴゴォォォ…!!


「うわああぁぁぁぁ!!?」
その足指に上っていた作業員の小人たちが振り落とされ命を落とした。
しかし、彼らは仲間の死を気にも留めない。
彼らの『世界』の存在理由は「足のお手入れ」。つまり彼らの人生の目的は「足のお手入れ」しかないのだ。
その目的の上で多少の犠牲など当たり前。突然の足指の動きによって亡くなった仲間は致し方がない犠牲。
むしろ、人生を全うした最も素晴らしい「死」であるといっても過言ではないのだ。


セシルはというとその興味本位で動かした足指の周りで悲劇が起こっていることなど知る由もない。
「あははっ!何人か落ちちゃった!ホントにかわいいな~…」
「あんまり意地悪しないであげて…彼らは必死なんだから…」
「うあっ!ごっ、ごめんなさい…」
ルーエルはセシルの挙動によって数人の小人たちが亡くなったことがわかっていた。
しかし、セシルの性格などを考えてそのことは伏せておいた。


しばらくすると小人たちがこちらに向かってワーワーと騒ぎ始めた。
「終わったみたいね。セシル、足をどかしてあげて」
どうやら洗浄が終了したことを告げる合図のようだ。
「あ、ハイ…」


グワアアァァァ…!と轟音をあげてセシルの足が帰ってゆく。
彼女の片足を洗浄する上で失った仲間の数は数百名…。ルーエルの足の洗浄よりもずっと多くの犠牲者が出た。
しかしそれは必要な犠牲。こうやって多くの犠牲の上でこの『世界』は『存在理由』を保ち続けているのだ…。


「わーすごーいっ!綺麗になってますよ先輩ッ!」
自分の綺麗になった足を見て嬉しそうなセシルの顔。その表情を見て「よかったわね」とにっこり笑いかけるルーエル。
「あっ…そうだ…!」
ふと何かを思いついたセシルは箱の中の『世界』に人差し指を突っ込み数人の小人を捕まえた。
無論『世界』は大パニックになっていたがこの『世界』の実力に興奮状態のセシルはそんなことに気づく様子はない。
「ちょっと…!セシルなにするつもり…!?」
ルーエルが慌てて聞く。
「へへー…ブーツも綺麗にしてもらおうと思って…!」
「ダッ、ダメよセシル…!!」
「え…!?」


時すでに遅し。
セシルは自分のブーツの中に小人たちをそっと入れてしまった。

そこはセシルによく履かれたブーツの中…。箱の中の『世界』の小人たちにとっては暗黒の世界…。
外見からするとクラシックで過度な飾り気のない、まさにファンタジーの世界にふさわしいそのミドルブーツ。
しかし、その中はファンタジーとは縁遠い世界。立ち込める悪臭…。こびりつく垢や埃…汗湿ってしまい重量を持った糸くずが散乱している…。
セシルの素足から発せられた多量の汗を吸い、セシルの足に馴染んで皺となっている部分が内側からもよくわかる。
小人が乗ってもビクともしないその皺はしっかりとそのブーツに刻まれたものであるということがわかる。
マスクもゴーグルも身に着けず、さらに洗浄器具もない小人たちはその異臭と劣悪な環境にのた打ち回る。
そして、その少女とブーツの匂いが混じったその何とも言えぬ異臭でいっぱいになって次々と息絶えていった…。


「なっ、なんでダメなんです!?彼らはプロなんじゃ…」
「…もう入れてしまったのね…。残念ながら彼らはもう…」
「そっ、そんな…!?」
慌ててブーツを逆さまにして中の物をパラパラと手のひらに出すセシル。
その中には横たわったまま動かなくなってしまった小人の姿が…。
「な…なんで…」
「マスクもゴーグルも身に着けずに洗浄器具もない彼らにとってブーツの中でなんて生きていける訳がないし綺麗にできる訳がないの…!
セシル…彼らの凄い効果に興奮するのもわかるけどもっと冷静に考えてもみなさい…」
「うぅ…ごっ、ごめんなさいぃぃ!!」
セシルはその丸い瞳からボロボロと大粒の涙を流した。

天使の涙。

本来ならその涙にも奇跡を起こす力があるはずだが、まだ新米の彼女の涙にはそれがない。
小人は生き返らない。私利私欲のために失った彼らの命を心の底から悲しみ、次に彼らに与えられる生の幸福を願った。

ルーエルは涙を流して拝むセシルをただ抱きしめ慰めた。




次の日…



「うっ…!もう臭くなってる…やだぁ~!もぉ~!!」
仕事終わりの自分の足をチェックして頭を抱えるセシル。
「って足のニオイばかりに気を取られてる場合じゃなーい!
私もルーエル先輩みたいに立派な天使になって自分の『世界』をたくさん持てるようにならなきゃ…!」
セシルはガッツポーズをとって呟いた。


そのセシルの姿をこっそりと見つめる姿…
「あぁもうセシルってばかわいいわぁ~っ!あんなちっちゃな『世界』の小人が死んだくらいであんなにボロボロ泣くだなんて…!
それでいてもうケロッと忘れてるみたいだし…まあ悪気はないんだろうけど萌えるわぁ~っ!
ニコニコ笑ってあんなにいっぱい小人を殺しちゃって…あーっ!小人になりたかったわぁ~っ!また使わせてあげよ…私の『世界』…!」

…まあ良い先輩(?)を持った新米天使セシルは明日も明るくお仕事に励むのであった!







 ~おわり~




【あとがきっぽいの】
あー天使好きだわー!天使マジ天使だわー!ということで天使×足フェチで…。
とはいってもなんかどちらも微妙になってしまった感がありますが年末のポッカリ空いた時間で書いてみました…w
でも天使みたいな清潔感、透明感、清楚感なイメージが先行してる子が足のニオイ気にしてたり実際酷かったりって良いなって思うんですw
あ、あと最後に素を見せたルーエルですが決した他人にこの真の姿を知っている者はいませんw
さあ…セシルとルーエル…!一番怖いのはどっちだ!?