「靴の妖精さん その5」






「おはようフラくんっ!ごはん持ってきたよ~」
「ありがとう茜里ちゃんっ!」

巨大な茜里ちゃんの可愛らしい顔がこちらを覗きこむ。
いつものように朝ご飯を持ってきてくれる茜里ちゃん。
この日常にも少し慣れてきた。靴の中で悶々と欲情するのも少なくなってきたし…うん…。
でも変化した事が一つ…


「ふぁーあ…おい、早く食べろよ~」
大きなあくびの後に眠たそうな声がすると茜里ちゃんの横から違う少女の顔が覗き込む。
「あっ、うっ、うん…」
俺が慌ててそう答え、食べ物に手をつけると二人ともニッと笑った。

彼女はこの前の登校日に茜里ちゃんの柔道技にやられてから茜里ちゃんの事を気に入り友達となった。
それからと言うものこのように何でか時折凛ちゃんも姿を現すようになった。
茜里ちゃんもはじめは少し戸惑っていたようだがあれから数日経った今では自然に接するようになってきたようだ。
二人並んでいるとその身長差と凛ちゃんのキャップをかぶる程のボーイッシュな服装もあり、姉と弟のように見える。

「ねーえ!今回のごはん、凛ちゃんが用意してくれたんだよっ!」
茜里ちゃんが笑顔でこちらを覗きこむ。
「えっ!?そうなの!?…確かにいつもと違う感じ…」
「なっ、なんだよっ!?口に合わなかったなら食うなよなっ!?」
凛ちゃんが顔を真っ赤にながらそう言うとグイッと巨大な指先を近づけてきた。
「いっ、いやいや!おいしいからっ!おいしいから~!!」
俺は慌てて凛ちゃんの指先に摘み上げられたご飯を両手で引っ張り訴えかけた。
「そっ、そうなら黙って食えよなっ!」
手を引っ込めて更に顔を赤らめてそう言い放つ凛ちゃん。
何これ!?照れてんの…かな?
「ダメだよ凛ちゃん!フラくんのごはんの邪魔しちゃっ!」
茜里ちゃんが困った表情で凛ちゃんに言う。
「いや…だってコイツうるさいからさっ…」
キッとこちらを睨んで凛ちゃんが言う。も~…朝から何てとばっちりだ…。
でもご飯はお世辞抜きにおいしい。凛ちゃんの家は茜里ちゃんの家よりも生活水準が高いのかな…何か高級な味がする…。
「あーもう、何かシラけたから帰るわ~。茜里、またな~」
「えっ!?あっ、うん!バイバイ!」
茜里ちゃんはいきなり帰ってしまった凛ちゃんに手を振った。
学校には俺と茜里ちゃんだけが残された。


「ねえ、茜里ちゃんと凛ちゃんは普段仲良く遊んだりしてるの?」
俺はいつも気になっていた疑問を思い切ってぶつけてみることにした。
「えっ?うっ、うん…!フラくんに朝ごはんを届けた後に遊んだりするよ?」
「そっかそっか!遊ぶって…どんなことするの?」
「えっとね…うちのお父さんの道場が空いてたら凛ちゃんに柔道教えてあげたり…」
なるほど…やっぱり凛ちゃんは柔道のあの一撃で茜里ちゃんに惚れ込んだんだな…。
「あと、凛ちゃんの家に行ったこともあるよっ!部屋の中でお喋りしたりゲームしたりして遊ぶのっ!」
「へぇー!そうなんだ!凛ちゃんの家って…どんな家?」
「おっきくて真っ白いお家だよっ!凛ちゃんのお父さんもお母さんも偉い学者さんなんだって!
あとね、凛ちゃんの部屋にはね、難しそうな本と男の子が読む漫画と格闘ゲームばっかあったよ!」
「へぇ~…」
何か凛ちゃんらしすぎる…きっとヤンキー漫画とか読んでるんだろうな…『ク○ーズ』とか…。
「友達になってくれたのホントに嬉しくって…凛ちゃんと一緒に居ると楽しいんだっ!
フラくんに出会えたおかげだねっ!ふふふっ!」
茜里ちゃんの眩しい笑顔が目の前いっぱいに広がる。幸せな気持ちでいっぱいになる…。
凛ちゃんと友達になるきっかけとなれたっていう事で少しは恩返しができたっていうことなのかな…?
「いや、でも茜里ちゃんがいつも僕に接してるように明るく積極的にすればもっといっぱい友達できるはずだよ!」
「そっ、そうなのかな…?でも…私って周りの人よりも背が大きくって…何するのでも目立っちゃうし…何か恥ずかしいの…」
少し俯いて話す茜里ちゃん。やっぱり身長がコンプレックスなんだな…。

「でも…」
スッと茜里ちゃんが上履きの中の俺に手を伸ばし、手のひらに乗せると顔をグッと近づけた。
「ちっちゃなフラくんにとっては私よりちっちゃい子でも皆同じくらいおっきく見えるし…
なんていうか…フラくんからは私が特別大きく見えないって思うと自然に話せるんだっ!
お父さんやお母さん以外でこう楽しくお喋りできたのってフラくんがはじめてかも…!」
ニコッと笑って話す茜里ちゃん。
何か…嬉しすぎて可愛すぎてどうしよう…!心臓がバクバクいってる…!
けど…ん?

「くんくん…」

目の前の茜里ちゃんの鼻がヒクヒクと動いている。
生温かな風が時折吹き出してくる…。

「う~ん…」
少し考えるような表情の茜里ちゃん…。
どうしたんだろう?
「どっ、どうしたの…?茜里ちゃん…?」
「何か…フラくん臭いねっ!」
「なっ…!?」

屈託のない笑顔で言い放つその言葉に俺は大きなショックを受けた。100%悪気はないんだろうが…。
何か…持ち上げられるだけ持ち上げられて一気に奈落に落とされたような…。はは…。
「このまんまじゃ良くないよ!お風呂入らなきゃ…」
「確かにお風呂は入りたいなぁ…」
「でも…私の家は…」
困った表情で俺を見つめる茜里ちゃん。よっぽど家はNGなんだなあ…。
凛ちゃんも道場にしか呼んでないみたいだし…。
ん…?凛ちゃん…?そうだっ!
「あのさっ!凛ちゃんにお願いして凛ちゃんの家のお風呂に入れてもらえば良いんじゃないかな…?」
「あっ!そっか!フラくん頭良いねっ!凛ちゃんのお父さんとお母さんってあんまり家に居ないらしいからきっと大丈夫だよ!」
「じゃあ行ってみよう!」
「うんっ!じゃあフラくんはここに入って!」
そう言って茜里ちゃんは俺を胸ポケットにゆっくりと収めた。
今日の茜里ちゃんの服装はいつもより少しボーイッシュで白いポロシャツにチェック柄のホットパンツだった。
ホットパンツを穿いた茜里ちゃんはスッと伸びる長い脚が栄えてよりお姉さんっぽくみえる…。
とはいっても小学校6年生から中学1年生くらいといったところだが…。
しかし…最近の子は本当にスタイルが良いもんだな…。

「大丈夫?苦しくない?」
上を見上げると茜里ちゃんが心配そうにこちらをうかがってる。
同じく胸ポケットに俺を入れた凛ちゃんには決して見られる事のなかった心遣いだ…!何か感動する…!
「大丈夫だよっ!安心して!」
「良かった!凛ちゃんの家までは結構歩くの。途中で何かあったらすぐ教えてね?」
そう言うと茜里ちゃんは歩みはじめ、振動が伝わってきた。
少しでも振動を少なくしようと少し慎重になって足を踏み出しているのがわかる。
なんて安心・安全な移動だろう!ここまでの心配り、新幹線や飛行機でもこうはいくまい。



歩きだしてしばらく経つと妙な感情が自分の中に芽生え始めた。
茜里ちゃんが歩み俺の居る胸ポケット全体が揺れる…するとまだまだ未発達の胸が少し当たるのが感じられる。
なんとも言えないイヤラシイ気持ちが浮かび上がる…。ろくに膨らんでもいない胸だというのに…。
小さくなってしまった初日と二日目…茜里ちゃんの靴の匂いに欲情し自慰行為までに及んでしまった事を思い出す。
何とも浅はかで情けない事だ…。再び自己嫌悪に陥る。
このままではいけない…!

しかし、本能は正直で俺の股間部は膨らみ始めている…。

自分の股間へと手が伸びてしまう。ここまでくるとどうしようもない。
茜里ちゃんの心臓の鼓動をBGMにして自慰行為が始まってしまう…。
強い日差しに照りつけられほんのりと汗をかき始めた茜里ちゃんの匂いと熱気が漂っている。
心地の良い洋服を洗濯した洗剤の香り中にいつも感じる茜里ちゃんの持つ少女の匂い…そしてどこかミルクの匂いがする…。
それらがさらに俺を興奮させる。声はなんとか出さぬよう抑えるものの手は動きを止めないどころか激しさを増す。

俺は今20代前半。性的には最も盛んな時期といえるがこんな事で興奮するとは…。
いや、しかしこれは小さくなった自分にしか体験する事のできない世界…。
決して異常ではないのではないか…?皆、こんな状況になれば…。

そんな、今の自分を肯定するかのような考えまで巡ってくる。
自分はつくづくダメな人間だ…。
そう思いながら俺は茜里ちゃんのポケットの中で果てた…。

しかし、俺から飛び出たソレは茜里ちゃんのポロシャツに染みをつけるにも値しないほどの量。
日差しに照らされ茜里ちゃんが自然と噴き出した汗のほうがよっぽど存在感のあるものだった…。
純粋な小学生の女の子の服を様々な意味で汚してしまった…。
しかし、その俺の行為の存在感の無さ。自分という人間のちっぽけさを表すようだ。
自分の胸にここまで興奮している成人男性がまさにその胸ポケットに居ると言うのに小学生の彼女は気付きもしない。
何とも情けない…。人間として…。

「ねーえ?フラくん、もうちょっとだから我慢してね?」
突然、茜里ちゃんの俺を気遣う声がして俺はハッ!と上を見上げる。
茜理ちゃんは真っすぐ前を向いたまま話している。俺はそれを見て慌てて下半身の衣服を正した。

そして、俺はうなだれた。
茜里ちゃんには申し訳ない気持ちでいっぱいだ…。
自分はとんでもない変態でダメな奴だと正直に申し出ようかとも思うが…それはできない。
正直に告白して茜里ちゃんに見放されたら俺は確実にのたれ死んでしまう…。
茜里ちゃんがいくら素晴らしく優しい子だとしてもこんな事を知ったら俺を信用などしてくれないだろう…。
人間関係のうまくいっていない茜里ちゃんの力になれたら…!等と初日に誓ったが結局俺は自分中心で物事を考えているのだ。
情けないが…俺は死にたくない…こればかりは仕方がない…。



ピンポーン!

「凛ちゃんOKしてくれるかな~…」
のんびりと茜里ちゃんが呟く。
おそらくこれは「きっと凛ちゃんはOKしてくれる」という予測の上での呟きだろう。
俺はどんな家なのか気になってポケットから顔を出して覗きこむ。

「うおお…!」

その家を見た俺は思わず声を挙げてしまった。
白で統一され、多くの緑に囲まれた爽やかでスタイリッシュな一軒家…。
完全にお金持ちの家だ…。あっ、ちゃんとセ○ムにも入ってる…。
到底あのルーズな凛ちゃんが住んでいるようには思えない外観だ…。

「ハイ?」
「あっ!出てくれたっ!凛ちゃん!茜里だけど、お願いがあるんだけど…!」
「あっ、茜里か!ちょっと待ってて!」
インターホン越しに凛ちゃんにしては明るい声がした。仲良しだなあ…。

「おーい、どうしたん?」
ドアからひょっこりと現れた凛ちゃんがこちらに手招きしながら声をかけてきた。
「ふふふー!おじゃましまーすっ!」
元気よく茜里ちゃんが駆け出した。
それと同時に大きな揺れが来たが茜里ちゃんは「おっと!いけないいけない…」と呟き再び慎重な足の運びに戻した。
「ハハハ…!何だそれ、どうしたんだよー!」
凛ちゃんがそう言って茜里ちゃんの背中を叩いた。同時に俺にも衝撃が伝わった。
「あー!ダメなんだってばっ!」
茜里ちゃんが慌てて凛ちゃんにそう言う。
「んん…?」
凛ちゃんは不思議そうに首をかしげた。



「ふーん…そんで、こいつをうちで風呂に入れてあげろってわけか~」
凛ちゃんがリビングのテーブルの上に降ろされた俺をニヤニヤと笑いながら見つめて言う。
「うん…!ごめんね…私の家はちょっと無理だから凛ちゃんにお願いしたいの…!」
上目遣いで少しキョロキョロとしながら言う。
「おっ、お願いしますっ!」
俺もニヤニヤと笑った凛ちゃんに頭を下げる。
「ハハ…!いいよ?べつに」
静かに笑って凛ちゃんが答える。
「ホントにっ!?良かったー!!ねっ!?フラくんっ!」
「うっ、うん!良かった!ありがとう凛ちゃん!」
凛ちゃんはニッと笑って応えた。

OKをもらって安心したのか茜里ちゃんは凛ちゃんに出してもらったアイスクリームを口に頬張り始めた。
「うーん!やっぱり暑い中歩いた後のアイスは格別だねっ!ハイッ!フラくんも少し食べなよっ!」
スプーンにすくったアイスを口に含み恍惚の表情を浮かべた茜里ちゃんがそう言うと再びアイスをスプーンで掬い俺の目の前に突き出した。
その迫力は凄まじくスーパーのアイス売り場いっぱいにアイスクリームが詰め込まれたような迫力だ…。
俺は「う、うん」と返事をして目の前手のひらにアイスを掬った。

「あれ…?それだけで良いの…?それじゃ残りは私がもうらうよー!あ~ん…」
茜里ちゃんはキョトンとしてスプーン残ったアイスをパクッと一口でたいらげた。
あの凄まじい量のアイスを一口…。うん、この差はわかってたことだけど目の当たりにすると凄いショックを受ける。
「私がフラくんくらいの大きさだったらお腹いっぱいにアイス食べるのにな~…」
どこか羨ましそうに俺を見つめて茜里ちゃんがボソッと呟く。
「ハハハ…!茜里はアイス大好きだもんなー。うち来るといっつもいっぱい食べるし…」
「えへへ…!だって凛ちゃんいっつも美味しいの出してくれるからさ…」
「茜里の食べっぷり見てるの面白いからさ、ついつい出しちゃうんだよなー」
凛ちゃんが穏やかな笑顔で茜里ちゃんを見つめて言う。
外見だと明らかに茜里ちゃんがお姉さんで凛ちゃんが妹みたいな感じなんだけど精神的にはやっぱり凛ちゃんがお姉さんなのかな…。
思った以上に二人は相性が良い感じがする。

「あぐっ…ぅ!」

突然、茜里ちゃんがお腹を押さえる。
「どっ、どうしたの!?茜里ちゃん…!?」
「トッ、トイレ…!」
「あーあ、暑い中歩いてからすぐ急いで冷たい物食べるから…はやく行ってきな」
「うっ、うん!」

あっという間に茜里ちゃんがトイレに駆け込んで行き、リビングは俺と凛ちゃんのみになる。
「茜里ちゃん大丈夫かな…」
「よくあることだから大丈夫だろ」
「そっ、そっか…」
落ち着いた凛ちゃんの返答に俺はそのまま黙ってしまった。
この子の精神年齢いったいいくつなんだろ…。

「あの…さ」
凛ちゃんが目を逸らしてモジモジと話しかけてきた。
「ん?どうしたの?」
「あの…さっきのアレ…ごめんな。何か慣れないんだよああいうの…」
「ああ、全然いいよ!何か僕の言い方が良くなかったよね…」
「そっ…そんなことないっ!悪いのはあたしの方なんだっ!」
突然に凛ちゃんがバンっ!とテーブルを叩き語気を強めて言った。
まるで地震のような騒ぎだ…。
「あっ…ごめん…」
「いっ、いいよ…だいじょぶ…」
「あたしさ…今までこう人の為に何かして御礼言われたりとか…あんまりそういうの無かったから…
茜里と友達になってからあいつがあんたの為に色々と頑張ってるの見てて何かそーゆーのも良いねって思ってさ…」
ふと凛ちゃんの顔を見上げると優しく落ち着いた表情をしていた。
そうか、この子は不器用なだけで本当は素直になりたい子なんだな…。
別に悪い子って言うわけでもない。自分の感情を上手く出すのが苦手なんだ…。
「凛ちゃんがそう思えた事は素晴らしい事だと思うよ。
きっと茜里ちゃんとずっと一緒に居たらもっと色々人に感謝される事ってどういうことなのかって分かって行くと思う!」
俺はそう言って凛ちゃんに笑いかけた。
凛ちゃんはどこかポカンとしたような表情で俺を見つめてた。
どうしたんだろう…と思っていたら…

ドスウゥゥゥゥゥゥンンン…!!!

「あっ、あんたに言われなくてもわかってるしっ!!」
俺の間近に凛ちゃんの握りこぶしが振り下ろされた。
その衝撃でひっくり返った俺の視界には顔を真っ赤にした凛ちゃんの顔がこちらを見下ろしている。
「ご…ごめん~!」
俺は恐怖で涙目になって謝った。正直ちびるかとおもった…。

「フー…!お腹治ったよー…って、ちょっ!凛ちゃん!!フラくんのこといじめちゃダメーッ!」
トイレから帰ってきた茜里ちゃんがこちらに駆けよってテーブルの上でひっくり返っている俺を掴むとバッと抱え込み、俺をかばった。
「ちっ、ちがうっ!こいつがまたあたしにうっとーしいことを…!」


茜里ちゃんの体に包まれた暗闇の中ワーワーと二人で言い合いをしてるのが聞こえる。

うーん…凛ちゃんって難しい…。
で、いつお風呂入れんの?







 ~つづく~